アンケートですが、本日をもって終了とさせて頂きます。
ご協力ありがとうございます。
落選してしまった機体ですが、少しは登場させるつもりです。
「うーーん」
小松基地のMS社に与えられた一角でバトラが項垂れていた。
彼の前には様々な角度で取られた数々の戦闘機達の写真が散らばっており、ゴミ箱にはそれ以上の数の戦闘機の写真が突っ込まれていた。
「まだ迷っているんですか?」
そう言って1枚の写真をベルクトが無造作に選んで掴む。
「Mig-21ですか」
ベルクトが意外そうであると同時に懐かしそうにその写真を見つめる。
ベルクトはMig-21bisを使用する凶鳥フッケバインの僚機を勤めた事があり、その経験があったからか発展途上だったベルクトの機動はこの1ヶ月で鋭さが増し、正式にアンタレス隊の2番機に着任している。
無論ながら2番機就任には片宮姉妹からの直談判が有ったがバーフォードとバトラ本人が1番機であるバトラの近くに置いておかなければまだ不安が残るレベルであるからだと説明すると片宮姉妹はベルクトを案ずる気持ち半分とベルクトよりも信頼されていると言う思い半分で素直に引き下がった。
「ベルクトか……」
項垂れていた顔を起こしてバトラがベルクトを見つめる。
それは何処か過去を思い出す様な目だったが、ベルクトとしては想い人に見つめられていると思ったのか、薄っすらと赤くして恥ずかしがる様に目を逸らして身体を左右に小刻みに揺らす。
バトラは肌が雪の様に白いので赤が異様に浮き上がって見えるベルクトの顔とその仕草を見て、かつての僚機だったサーシャの事を連想してしまう。
バトラがベルクトを2番機に指定したのは実力不足もあるが簡単に言うとサーシャに対する謝罪の気持ち、後ろめたい気持ちとでも言うべきだろう感情もあったからだった。
アンタレス隊の復活と1番機への着任はバトラなりの過去の清算や区切り、ケジメの様な物だが、何処かで自分の行いに対する自分に対する慰めの様な物でもあり、サーシャと外見的にも内面的にも似たベルクトを誰よりも側に置くと言う事はその自慰行為の1つでもあった。
「意外です」
「意外?」
ベルクトが写真をバトラに返しながら告げた言葉にバトラも意外な言葉に疑問と驚愕を混ぜた表情で聞き返すとベルクトが頷いてから言葉を紡いだ。
「てっきり新型機か特別機、特殊機や特注機ばかり買うのかと」
決してバトラが搭乗機を買う場合は他人から見ればゲテモノやヘンタイと言われ、良い言い方をすれば癖が強い機体ばかりだが、新人時代は至って普通の機体だった訳だが、偶然にも特殊な機体に乗った時にアンタレス隊最初の1番機である未来奈が特殊な機体の方がバトラの才能に会うと気付いた事で特殊な機体に改造した未来奈の後部座席に座らせ続けた経験からか、通常機よりも特殊機の方がバトラが乗りこなせる。
それがわかっている戦闘機ディーラー達は倉庫で埃を被っている癖のある機体を事あるごとに勧めてくる。
それが大抵の場合は不採用を喰らって開発費だけでも回収しようとPMCに流された新型機や検証や実験で作られた機体を解体する金がもったいないから売り出された特別機や特殊機。PMCエースの為に製造された機体のレプリカなどでベルクトが誤解するには充分な事実関係が出来ている。
「よく誤解されるんだよ」
と、バトラが頭を掻きながら愚痴る。
バトラは気に入った機体や好きな機体に乗るタイプだ。故に普通の機体も乗る時は乗る。
今はベルクトのSu-47の中に僅かに残るSu-33のパーツは中々外に出ない正規品パーツが贅沢に使われていたと言う点以外は至って普通のSu-33のAJZ戦闘機だった。
「まあ、その誤解も一部は当たっているが……な」
ベルクトの取ったMig-21も好きだから写真に資料を要求した訳だが、このMig-21bisの資料を見てクソ嵌められたと頭を抱えた記憶がバトラにあった。
ベルクトもそんな資料を見て表情が凍り付いた。
「搭載エンジンがAL-31って空中分解起こしませんか?」
「機体強度は改良済み。それよりも搭載エンジンの備考を読んでみろ」
此処だよとバトラが資料の一部を叩くとまたもやベルクトの表情が凍り付いた。
そこには新型小型固形燃料使用型ロケットエンジン2基搭載の文字があり、嘘だと言って下さいと言わんばかりにバトラに目を向けると真後ろの写真をバトラは見せる。
その写真にはエンジンを挟む様に小さな穴が2つあった。
「Mig-21bisじゃなくて、Mig-21bis Ye-50bisですよね?」
「そう思った。レーダーも搭載武装も現行の物でその為に各種サイズや形状が変わっているからMig-22だな」
「Mig-21から23ですからね。確かにそうとも言えますけど……単発大型戦闘機のサイズですよ」
「3発複合機だがな」
乗りませんよね。とベルクトが心配そうな顔で告げるとバトラはベルクトのデコを叩きながらロケット戦闘機なんて言う危険な物は払い下げだと告げる。
「また新しい機体ですか」
そしてバトラの元に詩苑が現れると1枚の写真を見て懐かしそうでありながら嫌な事を思い出した様な表情を浮かべる。
「F-14ですか。懐かしいですね。詩鞍と乗ろうとしてあまりの機動性に目を回しましたね……あれから高機動機には乗りたく無いです」
「F-14は大型重戦闘機だからそこまで無い……ああ、2人ともキャパが少なかったな」
兄様にはわからないでしょうけどと言う台詞と共に詩鞍が現れるとバトラが何をしに来たと問えば、マイケルが機体選びでバトラが困っているから嘲笑いに行けと言われたと告げる詩鞍。
「携帯くれ」
バトラの言葉にベルクトがつい最近になって契約したスマートフォンを渡すとバトラは礼を言ってからマイケルに電話を掛ける。
<<ベルクトですか? なんですか?>>
<<オマエヲコロス>>
マイケルが小松市内でえ? みたいな顔をしているがバトラは電話を切ってベルクトに返すと詩鞍がある写真を見つける。
「Suの……なんでしょう?」
写真は現行のスホーイ社製の機体だった。スホーイ社の機体は形状で見極めるのは難しい。
「37だよ。強度以外は弄ってないらしい」
「そうですか……でも、今の戦況でSu-37は……」
大型戦闘機のSu-37は継戦能力や搭載力は大きい機体であると同時に最も扱い易い機体ではあるが、ザイとの空戦を考えると性能不足が否めない機体だった。
詩鞍がそれを言おうか言わないか迷っているとバトラは把握していると言って詩鞍から写真をつまみ取るとゴミ箱へと捨てる。
「? 見た事のない機体ですね。YF-23?」
のっぺりとした機体にデルタ翼を改造した様な翼に斜めに建てられた尾翼が垂直尾翼と水平尾翼を兼務する特殊な形状は一度見れば早々に忘れるものではない印象を与える。
「F-22の競合機だな。F-22は何処にも卸さなかった時期はこっちが出回ったよ。今は普通にエンジンやら何やらを変えた輸出モデルの改造品がPMCでザイを叩き落としまくってるよ」
F-22のロールアウト後に判明した高性能ぶりに大手PMCは自社のエースパイロット用に求めたが、性能が漏れる事を懸念した米国は売却を断ったが、ヴァラヒアやゴールデンアックス事件以降はPMCの戦力が正規軍の一部に食い込ませるを得なかったがそれだけの信用と規模を持つPMCは依頼を受けると足元を見たのかF-22の購入を打診し、米国も粘りに粘って輸出仕様のモンキーモデルで手を打って貰った経緯があるが、金と技術力のあるPMCにそんなモンキーモデルを送れば改造されるのは目に見えており、中には米国がF-22の強化の為に仕様の細かい所の提出を求める程の物が転がっている事もある。
特にエースを抱える程の一部のPMC、特にメビウス隊の隊長と異能生命体以外のメビウス隊員の駆るF-22メビウス隊仕様機は再三に渡って要求される程であるが、送られて来るのはメビウス隊異能生命体仕様機である。
「それもいい機体なんだが、弾が載せられないんだ」
YF-23は試験機段階ではウェポンベイが設けられておらず、選考落ちしてからPMC向けに設計し直した急造品に近い機体で、F-22よりも高出力だが、ミサイルなどの搭載能力に難がある機体だった。そうなれば、もっと魅力的な機体も存在する。
「YFー23を選ぶならこっちを選ぶな」
そう言って見せたのはF-3B 震電Ⅱだった。
F-3BはSTOVL機能を持った艦載機だが、バトラは垂直離陸や対空機能は魅力に感じるが、最高速度や航続距離に不安と不満があった。
これは日本国政府のバトラの部隊を離したくないと言う思惑があるからこその話でA型は手に入るのかと資料を渡した政府高官が一瞬だけ気まずそうな雰囲気をした後に自分にはわからないと言った過去があってからバトラの中で失望感が渦巻いた。
と言うのもA型は航空自衛隊が運用予定の機体でF-3のモデルの中で最も空中性能が高い機体となっている。
日本としては万が一でも敵対して使われる事を考えると航空自衛隊が有利に働くB型に乗って欲しいと言う思惑を感じ取り、最悪はこれ程度の認識にバトラは留めている。
「バトラさん。少し宜しいでしょうか?」
「? なんだ?」
ファントムに呼ばれたバトラは3人に断りを入れてから席を立って廊下に立っていたファントムに近づく。
断りを入れられた3人はバトラとのコミュニケーションを取られた事に恨めしそうな目線をバトラの背中越しに送り付けるがファントムは真剣な眼差しでバトラに付いてきて欲しいと身振りで示すとバトラは心当たりがあるのかついて行く。
「突然に申し訳無いですね。新しい機体で迷っているのは重々承知ですが、どうしてもお尋ねしたい事がありまして」
人気のない場所に連れて来られたバトラだが、ファントムのいつにない真剣な言葉に無意識に地上のシナプスから空中のシナプスに切り替わる。
「カザフスタンの飛行機損失事故についてか?」
バトラの言葉にファントムは話が早いと満足げに頷く。
「クラッキングハッキングだな。最近は八代通が忙しそうと言うか落ち着きが無い、働き詰めだとバーフォードが言っていたが」
「カザフスタンの件で何か聞いていますか?」
ファントムの発言にバトラは首を振る。
「いや、俺は一兵曹だからこう言う問題の情報はそうそう貰えない。ただ、報道されない内容を少し教わる程だ」
バトラはMS社のエースであるが、情報面に関してはそこまで優遇されていない。
無論ながら隊長という人を率いる立場であるが故に余程の内容で無ければ得られるがこんな事があるから注意しろ程度だ。
「では、何処まで知っていますか」
「そこまでだ」
今回の事件はカザフスタンの一部空域を飛ぶ航空機が消息を絶っている事と墜落と断じるにはトラブル報告や緊急事態を伝える通信も無い状況に残骸すら無いからカザフスタン近辺を飛ぶ場合は充分に注意する事とカザフスタンに派遣された部隊は一時的だが、飛行を中止しろと言う上層部の命令がある程度だった。
「やはり、隠している様子は?」
「バーフォードなら何か知っているだろうが……通信を掛けた時は多分、情報部も掴み切れていないという雰囲気が感じられたな」
ファントムは思った様な収穫がなかった事に表情を暗くする。
「今回のコレは多分だが、ザイが関わっていると思う。出なきゃ、航空機が消えるなんてありえない」
「それはわかっています。ですが、グリペンはこんな事は無かったと」
それを言われるとますます不安になるバトラと自分で言った言葉で自分が不安になるファントムだが、バトラがファントムの頭に手を置く。
「何があるか考えるのは上役の仕事。何があるかわかって対策を考えるのは俺やお前の居る中間職の仕事。中間職のやりたい事をやらせるのも上役の仕事。そしてやるべき事が定まったら成功させるのが俺たち現場職の仕事だ。深く考え過ぎるなよ」
ファントムはその言葉に軽率過ぎると漏らすが、訳がわからない状況であらろうとわからないならただあるがままに受け入れるバトラの考え方に少しだけ不安が紛れるのをファントムは感じ取った。
「(貴方が少し考えているようで考えていない、考えていないようで考えているからこそ私が考え過ぎるんですよ?)」
話は終わったなら後継機選定に戻ると言って歩き去るバトラの背にファントムはわかっているんですか? と説いたげな視線を送る。
相棒役は互いに同じであるのが良いと言う人物もいるが、互いにない場所や正反対な場所があった方が良いというのがファントムの考え方だ。
「御自分ではわかっていないと思いますが、貴方は私にとっても必要な存在なんですよ? わかっているんでしょうか?」
互いに互いを埋め合い、同じ所は2倍以上に発揮する。それがロッテであり、バディでもある。
ファントムはバトラと互いに翼を並べて飛び戦い、肩を並べて戦ったからこそ新たに芽生えた……否、強くなった感情。
無論ながら全人類を守ると言う存在意義を捨てた訳では無い。だが、守った人類の中にバトラと言う存在がいて欲しい。それも自分の隣で、出来る事なら自分の前で。
一月前に彼を自分の機体に乗せた時から強くなったこの感情をファントムはカザフスタンの一件の不安から遠ざける為に愛しく思う事にする。
ベルクトは誰が好きになるとそれ以外は考えられなくなって安心するとは言っていた事を思い出して1人でベルクトの言葉に納得する。
「出来る事なら……少し我儘を言えるなら……」
予備機なんて用意せずに自分に乗って欲しい。そんな事を思うが口には出さない。
バトラが予備機を用意すると言う事は自分達にとってもプラスになる。
詩苑や詩鞍、ベルクトよりもバトラ争奪戦でリードしたいと言う下心もあるが、自分以上に自分の機体を操れるパイロットが乗ってくれると言うのは戦闘機でもあるファントムからすれば心強いの一言だ。
彼の機体を混ぜた機体を使っているからこそわかった彼の腕の良さに頼もしさを覚え、同時にそんな機体を使っているからこそ思ってしまう。
彼を近くに感じる感覚と生声で話せない事と目に見えない場所に居られるというギャップによる違和感を……
「もう一度……私に乗って欲しい……」
「丁度良かった」
人差し指を唇に付けて無意識に紡いだ言葉の内容を理解したのは、いつの間にやら戻って来ていたバトラの声を聞いた直後だった。
ブリキ製の玩具の様に首を声をした方向に向けたファントムにバトラが忘れていたのを申し訳なさそうに頭を伏せながら二の句を紡いだ。
「ベトナムまで乗せてくれ。操縦はするから」
沈黙は肯定と受け取ったのかバトラは顔を伏せていた事でファントムの異常に気付かずにありがとうと言い残すとベトナムへ飛ぶ為の準備をしていないのか小走りで去って行く。
ファントムはまさかの本人に聞かれてしまった事に気付いて、顔を真っ赤にしながら口を酸欠の金魚の如くパクパクと開閉させていただけで、乗せてくれと言う言葉を聞いておらず、格納庫で自分の機体の前席にバトラが乗っていた事に気付くが時間がない為に何も言わずに逃げる様に後席に座る結果となってしまう。
恋する乙女特有の症状を発症させた少女を装甲キャノピーコクピットと言う密室に閉じ込めたファントムⅡはバトラに操縦桿を握られて小松基地から飛びたった。
次回はベトナム編です。
言っておきますが、朝一コーヒーとナパームは最高だぜはありません。