<<来たぞアンタレス隊、奴ら。まだこんなに戦力を持っていたのか>>
AWACSのカノープスに乗るバーフォードが呟く。
AWACSの前には赤いSu-37と赤いF-4、そして灰色のF-16が飛んでいる。
そんな5機にMig-29を中心とした部隊が襲い掛かる。
彼等はゴールデンアクス計画と言う計画の為に雇われたヴァラヒアと言うテロリストの残党と傭兵達だ。
目の前の敵を睨んでいると下から突き上げる様に機銃が放たれる。
<<回避!>>
バーフォードの指示で全機が散開して射線から逃れると何処の国にも無い形をした戦闘機が4機。編隊を維持したまま垂直に上昇する。
<<なんだ、あの機体は……!?>>
長い首にコクピットと一体化したカナードに細い胴体。そして竜の羽を思わせる後退翼に2基のエンジン。それはエンテ型と呼ばれる戦闘機に見られる特徴を持っていた。
<<はっ>>
何か狂気と歓喜を感じさせる笑い声が通信機から響く。
<<もう1度戦う事が出来るとはな、アンタレス!>>
<<スレイマニ……。なのか?>>
その言葉に赤い機体に乗る2人が目を見開く。
スレイマニ。
ヴァラヒアとの戦闘で赤い機体に乗る2人と当時の仲間2人を裏切って敵に部隊の部下共々裏切った男。だが、彼等は核ミサイルの発射を試みたヴァラヒアの企みを阻止する為に核ミサイルサイロの制空権争奪戦で全機撃墜された筈の部隊と人間達でもある。
そんな彼等が何処の戦闘機とも知れない機体に乗って再び現れた。
<<ヴィルコラク遊撃隊、最後の戦いだ。アンタレスを落とし、我々の最強の証明する>>
機体がゆっくりとバンクをして、赤いSu-37に向かう。
<<アンタレス1はヴィルコラク遊撃隊を迎撃! 残りはゴールデンアクス部隊と交戦しろ!>>
<<了解です>>
<<02コピー>>
<<03続きます>><<04コピー>>
4機が1機と3機に分かれる。
3機を連れた赤いF-4のパイロットは心配そうな表情で赤いSu-37を見送るが直ぐに前を向いて真剣な表情になると同時にヘルメットのバイザーを下す。
<<アンタレス02から04へ。今はサンフランシスコへの被害を食い止める事が最優先だ>>
耳を傾けながらアンタレス02と呼ばれた少年は索敵範囲を拡大させる。
<<既に敵艦隊はゴールデンゲートブリッジを超えて、湾内へと侵攻している>>
HUDに映るマップに赤い円が浮かぶ。
<<敵の予想侵攻ポイントをHUDに表示した。街が攻撃される前に他の部隊と共同して撃破してくれ>>
バーフォードの通信が入ると同時に背後からMig-25の12機編隊が通り過ぎ、ミサイルを放つと同時に急加速、ガンを放つが撃墜は出来ずにそのまま通り過ぎてしまう。
Mig-29は反転しようと機体を翻した瞬間に後から来たミサイルに撃破される。
ミサイルよりも速く飛べる機体性能を生かした戦いだった。
その後にF-14の部隊がアンタレス02の上を飛び越えて上昇するとフェニックスミサイルが1発だけ放たれる。
そのミサイルは真っ直ぐに飛び空中の1点で爆発すると赤い炎の花を咲かせる。
その花が咲いた場所には敵のB-2爆撃機が居たがアンタレス02には知る術は無い。
そしてゴールデンゲートブリッジに敵のイージス艦が近付きつつあったが、1隻のイージス艦に対して4発の対艦ミサイルが海面ギリギリの高度で迫る。
MS社に所属するF/A-18から放たれた対艦ミサイルだ。
<<此方で対応する。エアカバーを>>
F/A-18の言葉にアンタレス02が代表して答えると機首を上に向けて高度を取る事でエアカバーの姿勢を作る。装備も空襲を予定していた所為か対空ミサイルしか持って来ていない。
<<沖合に再び敵の艦船出現。都市部への侵攻を止めろ>>
最初に接近していた5隻のイージス艦が撃沈されるが撃沈に動いていたホーネットの部隊に永久的に埋まる事の無い欠員が生まれる。
<<聞こえたら応答してくれ>>
回線に突如として通信が入る。
<<聞こえるかね。マーティネズ社。此方はオーシア・ズ・ユーグ所属の空母。ケストレル艦長のニコラス・A・アンダーセンだ>>
オーシア・ズ・ユーグからの通信が届く間にも跳ね上げる様な機動で機首を起こしたアンタレス02の機銃により、ゴールデンアクス計画部隊のB-2が被弾。
エンジンが2基とも止まった事で徐々に高度を落として海へと水没する。
<<此方マーティネズ・セキュリティ社。M42飛行中隊の指揮官、バーフォードだ>>
<<我が艦はこれより貴隊らと共同でゴールデンアクス計画軍との交戦を開始する。それと遅れてしまって申し訳無いな。そして、更新が出来て光栄だよ、バーフォード中佐>>
<<いや、私は旧友に『手紙』を書いただけだ。貴隊の救援に感謝する>>
お互いに大がつく程のベテラン同士。言葉は短いがお互いに伝えたい事は誤解なく伝わっている。
<<アンタレス。ケストレルが支援してくれる。ケストレルの迎撃を掻い潜った目標の撃破に集中しろ。敵爆撃機の増援を確認。接近している>>
そんな通信が入ると同時に艦船の反応がアンタレス02にカノープスに爆撃機の反応が出る。
艦船には補給を済ませたばかりのF/A-18の部隊が対艦ミサイルを叩き込むべく低空で接近。
アンタレス02はアンタレス03と04に爆撃機の迎撃に向かわせて、自分は別方向から接近していた戦闘機部隊に向き直る。
最初に接敵したのは隊長機なのだろう。F-35だ。
アンタレス03と04の迎撃の為か背中を向けている状態で飛行しておりアンタレス02はチャンスとばかりにQAAMを発射する。
QAAMは普通のミサイルでは出来ない機動を描きながら飛翔し、F-35のエンジンを食い破る。
これに僚機のMig-29の部隊、4機が慌てた様に翼を翻すが数々の作戦を生き抜いたアンタレス02にとっては撃墜してくれと言っているのと同義。
近場の1機に近付くと必ず命中弾が出ると言う距離で機関砲を発射。主翼をへし折ると別の機体に即座に向き直り、SAAMを発射。撃墜を確認するよりも速くにヘッドオンをした機体に機銃を放って撃墜すると同時にミサイルが爆発し、爆炎からはMig-29だった破片はこぼれ落ちる。
残った2機の内1機が逃げる仲間を援護する為か旋回するとアンタレス02はわざと機銃の距離で背後につかせると同時にミサイルをリリースしながらコブラ機動でオーバーシュートさせると腹にリリースしたミサイルが誘導されて、腹から破壊される。
残った1機は逃亡を図っていたが、偏差射撃で放たれた弾丸が命中。コクピットのある機首の部分が胴体から折れる様に離れて行く。
付近に敵影が無い事を確認してから索敵範囲を広げる為にレーダーを操作するとアンタレス01が立て続けにヴィルコラク遊撃隊の3機を撃墜。最後の1機とドックファイトに入っていた。
援護に入ろうとするもあまりにも高度な戦いに邪魔するだけだと即座に飛び込める高度と位置を周回する。
何時でも飛び込めるぞと精神的攻撃で少しでも援護をしようとした結果だが、残った機体のパイロット。スレイマニには効果が無いのかその動きのキレが鈍る事は無い。
スレイマニが最後のミサイルを放つがアンタレス01は急旋回で回避すると同時にスレイマニの背後に回り最後のミサイルを放つが変態的な機動でミサイルを躱す。
そこからさらに木の葉が風に煽られる様な動きでアンタレス01を翻弄しながら戦うがアンタレス01も食いついており、何方が勝っても可笑しくない。
スイレマニが加速して一旦距離を取るがアンタレス01が高度を上げる。
そしてお互いに近づくが向こうが速く攻撃すると判断して回避行動をお互いにとってしまい、巴戦に発展する。
まるで衛生機動を描く様に長い空戦が行われるがスイレマニが距離をとった事でカバーが遅れたアンタレス01が至近距離にまで食い付かれる。
その後はアンタレス01が不利な状況で空戦が繰り広げられるが徐々にアンタレス01が追い返して行くとついにヘッドオンの状況に戻る。
<<お前の価値を食ってやる!>>
スイレマニの狂気に満ちた声と共に機銃が放たれる。アンタレス01も機銃を放つが直ぐに機銃の弾が尽きたのか放てなくなり、エアインテークに弾丸が飛び込んだ事でエンジンが爆発してアンタレス01が撃墜される。
<<そんな……アンタレスが……>>
マイケルの悲痛な叫びが聞こえると同時にスイレマニは狂気を孕んだ声で最強になった事と勝利の余韻に浸っているとスイレマニの左腿が文字通り弾け飛ぶ。
アンタレス02がバイザーを上げて、涙を流しながらパワーダイブをしながら機銃を放ち、その弾丸の数発がコクピットのガラスを突き破り、スレイマニに直撃。
20mm以上の弾丸を生身で食らったスレイマニはコクピットの中で弾け飛んでコクピットを赤色に染める。
それを見たアンタレス02の視界は暗転した。
「俺はどうしたいんだ?」
小松にある自室で避難用の荷物を纏めながら慧が1人零す。
民間人扱いとなっている慧はザイの襲撃を自然災害と偽っての避難で小松を離れる為に荷物を纏めているがその頭の中では学校の物資を屋上に運んだ時に明華から言われた言葉がフラッシュバックする。
『何気なく繰り返している日常の中にも新しい発見があるんだなぁって。そう思ったらちょっと感慨深くなっちゃって。新鮮な気分になったと言うか』
「俺は……俺はどうしたい……」
古びた自室で静かに誰にも聞こえないだろう声量で呟く慧。
「(行動次第で未来は変わる……今の俺の選択が、行動はどうなる……)
頭で仮定を立てながら進めれば現代文明の終焉しか無いだろう。じゃあ、グリペンと飛べば無限ループが継続する。
慧の頭で未だに残っている前のループの記憶を辿っていく。いつの時代のいつの世界の自分がどんな選択と行動をしたかを、そしてその結果を思い出して行く。
「(選択肢は無限にある。ただ、それを選べない、気付かないだけなんだ……)」
思い出す度にそんな感情が強くなっていく慧だがやはり暗礁に乗り上げる。
「落ち着け……」
慧はまず、何をするべきかでは無く、何をしたいかに思考回路をシフトする。
「グリペンと一緒に居たい…あいつと次の時代を歩んでいきたい。勿論だがザイとの共存など真っ平だ。あのガラス細工の害虫には綺麗さっぱり消え失せて貰う。過去への放逐じゃなくて、存在自体の抹消」
やりたい事は止めなく口から漏れ出る。
そしてそれは完全無欠にして最強無敵のハッピーエンド。しかし、それは見方を変えただけ。現実的な物を認識した瞬間に結果は変わらないのだと思い知らされる。
0だった可能性が1に変わっただけでその1が何によって生まれるのかわかっていない。
うなだれながら慧は避難の準備を進める。
「そうだよ……自分如きが……」
自分よりもあらゆる面で優れた人物達が導き出した答え以上の物を出せる筈がない。黙々と避難の準備を進める慧の耳に何かが落ちた音が響く。
それは工具のドライバーだと認識した瞬間に押し入れの荷物が雪崩の様にぶちまけられ何の技術も構えもしていなかった慧には止められず、半数が部屋に溢れる。
「ああ、クソ!」
イラつきながら声を漏らして荷物を拾っているとアルファベットに漢字交じりのタイトル。そして大文字で刻まれたCHNの国籍表示。
それは中国自家用操縦士の学科試験問題集。しかし、それは今の慧には文字以上の存在であり、複雑な存在になっている。
呑気に読んでいる状況では無いが慧の手はゆっくりとページを捲り、付箋と書き込み、そして嫌になるくらいのバツマーク。中にはトルクの反作用の問題すら間違えているのを見て、過去の自分にコツも含めて教えてやりたいと思っているとふと母の言葉達が蘇る。
その中の言葉が強く蘇る。
『何回でも、何十回でも、何百回でも。諦めさえしなければ、いつか必ず目的地にたどり着けるんだから』
慧の息が止まりかけて、冊子が手から落ちて荷物に混ざると同時に弾みで指を打ち付けるが慧はそれが気にならない位にとある事実を見つけた衝撃が身体を満たしていた。
「そうだよ……俺は10回、20回と失敗を重ねたガキだ……」
絶望に抗う勇気を見つけたのか慧は小松基地に消え掛けていた情熱を燃やしながら走り出していた。