ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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最近はエスコンじゃなくて、WTに浮気を始めています。

ガンファイトが楽しくて仕方ない。


第45話 束草沖空戦

「Iℓー44は出せねーぞ」

 

格納庫へと赴いたバトラが機付員から告げられた言葉を聞いて固まる。

 

「モンゴル遠征でも無理がエンジンに来ている。特に発電系にな。正常に作動しているのが不思議な位だ」

 

Iℓー44はその武装に多くの電気を使う為に発電系統に多大な負荷を与える。しかも、中の電装系も賄うとなるとその負担は計り知れないものとなる。

 

「機付員としてこんな機体には乗せられない」

 

機付員はその機体を維持する大切なクルーだ。そしてこのクルーはパイロットの命を預かっている。PMCでは整備させて貰っている立場だが、パイロットは整備できない自分に変わって整備して貰い、己の命を預ける人間だ。そして、預けられた側も預かった者としての最低限度の事もある。

 

引き下がらないバトラに機付員はRFー4TBーAZJを親指で示す。

 

「あっちは万全だ。あっちを使ってくれ」

 

そう言って示されたのは胴体中央の増槽を除くと全てのハードポイントに対空ミサイルが装着されている。

今回のバトラの仕事は電子戦機としての活動を行うファントムの護衛だ。

拡大する戦線に手元にあるAJZ戦闘機とドーターを全機迎撃に回せないとして情報戦に長けたファントムを使ってEPCMを排除して通常戦力でもそれなりに戦える戦力とした上でドーターとAJZ戦闘機のどちらかは援護に回ることで戦力強化を図る。

 

「こんな気分で乗るのはいつぶりだ?」

 

自虐気味無い笑みを酸素マスクの中で浮かべながら発進のプロセスを1つづつ丁寧に片付けていると首筋を蜘蛛が這う様な感覚を感じて、うなじに手をやると心なしかエンジン音がいつもと違う様な感じを受け取る。

 

真剣さを戻した顔で念の為に自己診断プログラムを作動させるが異常は無い。他のパイロットからもエンジン音が可笑しいと言う報告は出ない。

 

 

「こんな無茶をやるんだ同然だ」

 

バトラはこの作戦の要となるファントムを護衛するたった1機の戦力だ。

グリペンが使用不可能になった事で護衛機が自分1機になってしまいナイーブになっているのかと自己完結すると装甲化キャノピーを下ろして格納庫から出ると滑走路に移動する。

 

自分の後ろにファントムが来ているのをバックミラーで確認すると機体を空へと飛び立たせる。

 

作戦のフェーズ1は敵迎撃の撃退を対空陣地の整備完了まで行う。フェーズ2は検知されたザイを対して救援・迎撃を行う。フェーズ3で目標の迎撃だ。

 

全ての行程がタフ過ぎる作戦だがやるしか無い。そう言い聞かせたバトラが日本海上空の束草沖を東100キロ地点に進入するとレーダーに巨大なIFF反応が示される。

 

バトラが左バンクをしながら海面に現れた反応を肉眼で確認する。

海面には差し渡し100メートルはある6本足の怪物が現れていた。背中には全高が数十メートルはある白い球体に小さな球体を複数個背負っている。

 

「あれがSBXか……いつ見ても船とは言い難い形状だ」

 

海上移動基地なのだから当然だと聞こえている人間が居れば突っ込むだろうが此処には誰もおず、通信も繋げていないので誰からの返信も来ない。

 

「やっぱり、予想はいてたが、船足は遅いか……」

 

SBXはそれ用に開発された船体では無く、石油採掘用のリグを原型にしている。軍艦並みの船足も装甲も望む物ではない。しかも、自衛用火器も搭載されていないので敵中に残されれば巨大な標的だ。

 

バトラが空中警戒に戻ると通信が入る。

 

<<|BARBIE&MScompany Apple car,bandits bearing zero one five strongly jammed《バービー隊、MS社、此方アップルカー、敵機接近中。方位015、距離45 高レベルのジャミングを検出》>>

 

韓国空軍のAWACSからの通信にバトラはラジャーとだけ告げて敵機襲来に備えてファントムの側を飛ぶ。

普通なら此処で一言か二言おちゃらけた言葉を投げる所だがファントムにそれを聞く余裕もバトラにもそれを言う余裕は無い。

 

ファントムとバトラが編隊を見下ろせる位置に移動するとファントムは編隊のデータリンクに介入してEPCM処理を行う。

この間はファントム自身は火器管制はおろか機体制御すらもままならない。

事実、敵の増援が来た瞬間に不規則に震えている。

 

今のファントムに自衛用機関砲すらも錘にしかなっていない。

 

そんなファントムにザイが2機も迫る。

 

<<ANTARES02エンゲージ!>>

 

ヘッドオンで機関砲を放って1機を撃墜。もう1機はバトラを無視してファントムに迫る。

動けない・弱い奴から潰すのは戦いの常套手段。バトラもそれがわかっているのか後部レーダーでロックしたザイに短距離高機動ミサイルを放つ。

 

ミサイルは放たれて直ぐに後方に頭を向けてファントムにロックオンしようとしていたザイを食い破り、撃墜する。

 

<<2機撃墜!>>

 

護衛戦闘機が敵機を撃墜した所でファントムの負担が軽くならない。バトラの頬に汗が流れる。

その後も迫るザイの迎撃機達。

 

5機のザイは4機がバトラの足止め、1機がファントムの撃墜に移る。

 

「行かせるか!」

 

カウンターマニューバで抜け様とするザイをミサイルで撃墜すると同時にエンジン動力をカットして自由落下を行う。

ザイから放たれたミサイルは熱源を失った事であらぬ方向に飛んで行き、急な自由落下でザイはバトラをオーバーシュートして前に出てしまう。

 

バトラは前に出た瞬間にエンジンを発動させて垂直を得ると同時に発射後ロックオンでミサイルを4発発射。肉眼の動きで別々の機体に別々のミサイルを追尾させる。

 

3機はHiMATで回避しようと試みるがそれよりも早くミサイルが突き刺さり撃墜されるが残りの1機が回避に成功する。だが、回避した先には垂直を回復したバトラが待ち構えており、機銃で撃墜される。

 

1日だけで6機撃墜。エースパイロットと呼ばれるパイロットとしての実力を遺憾無く発揮してファントムを守るバトラを警戒したのかザイがバトラに標的を変えて挑んで来る。

 

最初の1機はヘッドオンの機銃の撃ち合いで撃破すると迫る2機目はバレルロールでヘッドオンを回避してから背後へのミサイル発射で撃破する。

横合いから殴り付ける様に迫るザイの砲撃をエルロンロールで回避してから左バンクをしながらの旋回で追い掛けながらロックし高機動ミサイルで撃墜する。下方から上がってくる敵機にはコブラ機動で射線から逃れると垂直に飛んで終われる形を作るがその隙を突いたつもりでファントムに迫るべく垂直上昇するザイに機首を向ける。

 

横から放たれた機銃にガラス細工の各所から炎を噴き出しながら空中に破片をばら撒く鈍間なザイの背中をバトラは追われながらすれ違うと撃たれたザイが推力を失い、背中向きに倒れた際にバトラを追うのに夢中になっていたザイの上に乗っかり、尾翼を奪う。

 

尾翼を失ったザイは駒の様に回転をしながら落下して行くのをバックミラーで確認したバトラがファントムに意識を向けるとファントムがエンジン出力を上げながらパワーダイブを敢行している所だった。

 

「どう言う事だ!」

 

此処でバトラがレーダーに視線を移すと防御陣形が乱れており、その隙を突いたザイが1機。SBXに迫ろうとしていた。味方機で迎撃できる位置に居たのは自分だが、自分はザイに追われており行けないと判断したファントムが自分で迎撃しようとしたのだろう。

 

バトラもパワーダイブをしながら通信を繋げるが通信機から最近は聞いて居なかったEPCMに妨害された時の不協和音が大音量で聞こえて来る。

ファントムも時を同じくしてEPCMの影響で脳に焼けた鉄串を突っ込まれた様な感覚を味わっていた。それはコンマ数秒だったが空戦はこのコンマ数秒が運命を分かつ戦いだ。

 

進路に割り込んだ形で躍り出たファントムはヘッドオンの形で向き合っており、あのコンマ数秒でザイは相対的に食われた距離により目と鼻の先にまで迫っていた。

 

ザイとファントムが同時に機銃を放つと一歩遅れてバトラもザイに機銃を放つ。

 

2機から放たれた弾丸の1発が命中してからは傷付いた獲物に群がるピラニアの様に弾丸がザイに飛び込んでガラス細工の機影がバラバラに刻まれる。だが、ザイの弾丸もファントムのエアインテークに飛び込んでいたのか左のエンジンが爆発音を発すると同時に機体がグワリと嫌な揺れ方をする。

 

ファントムが必死に機体制御をしようとしている間にファントムの遠い背後でザイが爆発音に消える。ファントムも機体を制御下に置けたのかどっと肩から力を抜けるのを感じる。

 

危機的状況はギリギリで潜り抜けられた。命綱が千切れそうな所で何とか繋ぎとめられた。

データリンクを掌握して状況を把握・認識して、防御陣形をの再構築をしなければと脳内で素早く判断したファントムに隣を並走するかの様に飛ぶバトラが通信を入れる。

 

<<片肺でそんな武装をしているんだ。飛べるはずが無い! 撤退しろ!>>

<<ですが!>>

 

自分がやらずして誰がやるのかと言おうとしたファントムだが、グレアムからバーフォードが撤退しろと言っていると告げるとファントムは渋々と言った様子で基地の方向に機首をゆっくりと向ける。

 

<<バトラさんはBARBIE03をエスコートしろだそうです>>

 

そう告げるとグレアムは別の指揮をしているのかそれ以上は構わないと言う様に慌しく早口で別の部隊に指示を送っている。

どうやらZJAEシステムが作動する範囲内に戦力を集めて此処の判断で動ける様にするつもりなのだろう。

 

間違った行動をした時に指揮官が指示をすれば良い。代わりに抜かれればリカバーできない諸刃の剣だが、AJZ戦闘機とドーターが子守の必要が無くなったからか生き生きと動き始める。

イーグルに至っては前進してザイの迎撃に行こうとしてはマイケルから離れすぎだと注意が飛ばされる。

 

片宮姉妹のFー3Xも動きに鋭さが増して撃墜数を積み上げて行く。ベルクトもラファールと共同して穴が空いた場所に対して、誰よりも率先して穴埋めに奔走している。

 

2機が基地の方向へ撤退しているとベルクトから慌て気味の通信が入る。

 

<<嘘! バトラさん! そっちに3機抜けました!>>

<<わかっている!>>

 

バトラがファントムのエスコートから外れて迎撃に出る為に反転するとザイが胴体と翼の付け根に持っていたジェットエンジンを作動させて急加速を始める。

 

バトラの耳にパルスジェットエンジンの様な恐怖を煽る音が聞こえるが冷静に兵装士官としての経験からミサイルは背中を通り過ぎると判断すると手動自爆で破片とワイヤーを舞い散らせる。

飛び散った破片は通り過ぎようとした機体に突き刺さり、ワイヤーは機体を切断する。それでも少し遅れて作動させた機体はバトラの脇を通ってファントムに迫る。

 

「FOX2!」

 

だが、後部のレーダーが取らえた情報をもとにミサイルを放とうとするがミサイルの噴射装置に異常があったのかハードポイントからリリースされて直ぐに噴射装置から爆炎が止まり、水中へと没してしまう。

 

「クッソ!」

 

バトラが宙返りで機首を向けると同時にファントムを巻き込みかねない事を承知の上で機関砲を放つ。

機関砲はファントムのすぐギリギリに小さな水柱を作ると同時にザイを海へと沈める。

 

バトラは翼端で海を切りながらバレルロールで高度を生むとファントムに背中合わせで被さる様に飛行する。

 

<<危ないですね>>

 

ファントムが背中合わせに飛ぶバトラに微笑みながら通信を入れた直後にバトラの鉄翼を貫いた爆炎の光がファントムの琥珀色の瞳をも貫いた。

 




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