ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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今回は少しエスコン色を出します。


作戦44 繰り返される悪夢

「ブリーフィングを開始する」

 

バーフォードの言葉で部屋に暗闇が支配し、プロジェクターにベンベキュラの画像が現れる。

 

ベンベキュラの上空に突如として現れたドラム缶にミサイルが飛び込み大爆発を起こし、上空に黒いキノコ雲を作り上げるとプロジェクターからの動画再生が止まる。

 

「核ですか?」

バトラの言葉にバーフォードは首を振る。

 

「放射能の反応は検出していない」

 

バーフォードの言葉に部屋の中が騒然とする。

画像に出て来た爆発となると核爆発以外に考えられない。だが、核兵器にある放射能が無い。バトラの脳内である出来事が思い浮かぶ。

 

「トリニィティか!」

 

トリニィティ。ヴァラヒア事変と呼応するように始まった反政府組織や新ロシア連邦と名乗るクーデター軍が使った通常爆弾の破壊力を遥かに越える爆弾だ。

 

「巡行ミサイルに載せれる量でもちょっとした核兵器にはなった爆弾だ。それを相当巨大なドラム缶に詰めれば……」

 

核爆弾に匹敵する破壊力になる。その言葉をバーフォードは首元で止めて、別の言葉を吐く。

 

「目標はロケット推進で高度100キロを水切りの様に飛び、この爆弾を落とす極超音速・高高度爆撃機だ」

 

バーフォードの言葉に隣に座っていたベルクトが小声で水切りについて聞くとバトラは簡単な解説を投げると八代通が言葉を引き継ぐ。

 

「ダイナミック・ソアリングと言う飛行法だな。ほとんどエネルギーを失わずに目標上空に到達して爆弾を投下出来る」

「ちょっと待って! 高度100キロ? 10キロじゃなくて?」

 

イーグルが目を剥いて立ち上がる。

今の所でも戦闘機の限界上昇は20キロだ。100キロとなると飛行を考えないロケットなどだ。突破は出来ても帰還や飛行を考えていない。

 

「100キロとなると成層圏のその上、熱圏の領域だな。飛行機が到達するのは当分先か不可能な領域だな」

「だからこそのアンチポードボマーです。まあ、ザイも手を変え品を変えて攻めて来るものです」

「あれかー。あの珍妙な爆撃機共か……」

 

バトラの脳裏にシルバーフォーゲルやダイナソアの画像が蘇る。

 

アンチポードボマー。簡単に言うと成層圏や対流圏に爆撃機を飛ばして遠くの敵を爆撃しようとしたら大変だよね。じゃあ、宇宙から落とそうと言う奴である。

計画の全てが何らかの理由で達成はしていないが机上の空論では出来る事になっている。

 

「弾道ミサイルに劣る物を何故に彼等が実装した?」

 

ザイが行っている爆撃は人間から言わせて貰えば効率が悪い。その為に弾道ミサイルにその座を持っていかれる。その理由は弾道ミサイルに比べ際の利点の無さだ。

 

まず、爆撃機なので帰路の装備がいるのでペイロードが減る。高高度の爆撃機なので精密爆撃など見込めず。進路変更をすれば速度が落ちるので迎撃ミサイルにとっては涎が出る程の的になる。

 

「ですが、EPCMがそこに加われば厄介極まりないですよ」

 

ファントムの琥珀色の瞳が鋭くなる。

 

「ドーターが到達出来ない高度から自由に接近し、念入りな観測で誘導能力の低さを補う」

「そして、今の人類に奴を捉える迎撃システムはおろか、観測システムは無い」

「結果的にですが、地球上のあらゆる場所にあの爆弾を落とせる。最悪の一言です。現実的な対処法が思いつきません」

 

ファントムとバトラの言葉に八代通は仏頂面をしながら告げる。

 

「9割方その通りだが、全ての可能性を検討した訳じゃない。そんな状況で両手を挙げて降参するのは流石に性急だろう」

 

八代通がPCを操作した事で画像が地球の立体図に切り替わり、日本周辺とその上空がアップされると彼我のユニットがプロットされる。

 

「根本対策は絶賛検討中だ。だが、時間も無いので出来る事を1つずつ片付ける。まずは早期警戒管制機(AWACS)海上配備型Xバンドレーダー(SBX)を前進配備して、ピケットを構築する」

 

バーフォードが説明を受け継ぐ。

 

「これで高度50キロから160キロ付近を集中的に走査する。無論、これで敵の位置が正確にわかる訳では無いが、異常は感知できる。先の爆撃では何も異常が無いままに爆撃されたからな」

 

そして、八代通の操作で各地から白い線が何本も伸びる。

 

「本土に近付いて来たらありったけの迎撃ミサイルで弾幕を張って爆撃を妨害する」

BMD(弾道ミサイル防衛)の応用だ。適当な弾が無い以上は妨害程度に総額数千億を宙に飛ばす」

 

バーフォードの言葉に部屋が静まり返るがバーフォードが続ける。

 

「当面の対応は先ほど話した通りだ。だが、バービー隊とアルタイル隊に加えて、アンタレス隊はレーダー・ピケット前進に合わせて大陸のザイから圧力を受けるだろうから露払いをして貰いたい。無論ながら露払いに出るからと言ってスクランブル待機から離れないので了承しておく様にな」

 

話はもう終わりだとバーフォードが告げるとラファールが立ち上がり、眦に力を込めながら告げる。

 

「タフな状況だとは理解している。モンゴル遠征のインターバルも無く、ミッションに入って貰うのは本当に申し訳ない。ただ、今回の件は私も全力で対応するつもりだ。2機分、いや3機分の働きを」

 

期待して貰っていい。そう告げる前にバトラが手を翳してラファールのその先を止める。

 

「ラファール。俺たちはチームだ。誰か1人がより多くの負担を被る事があるがそれは本当にどうしようも無くなった時だ。それにベンベキュラには俺の教え子が4人も居たんだ。そいつらの無念も晴らしてやりたい」

 

ラファールの様子を見て、ベンベキュラでトライアルを受けていたタイフーンのドーターがどんな存在だったか察していた。バトラもそれなりの思い入れがある人物が今回のザイに苦汁を舐めさせられているのは知っており、今回のザイに対する思い入れは普通よりも多い。

 

バトラも一緒だと表情でラファールに語っているとイーグルも今回だって余裕だと能天気に告げ、ファントムが毒づくとイーグルを八代通が押し止める。

 

一見していつも通りの独飛だがいつもと今は決定的な差がある事をバトラとバーフォードは分かっていた。

 

「俺は乗りませんよ」

 

淡々と慧が告げる。

それを聞いた八代通とグリペンは表情を強張らせ、ファントムと片宮姉妹は凍りつく。ラファールとオペレーター達はどう言う事だと虚を突かれた顔をし、ベルクトはどうするべきか首をあちらこちらに向けている。バトラとバーフォードだけはやはりかと言う様な顔をする。

 

「ムッシュ鳴谷? すまないが、今のはどう言う意味だ?」

 

怒気を隠さない形相で慧にラファールが問い掛ける。

 

「言葉通りです。俺はもうグリペンには乗りません。そう決めたんです」

 

そうとだけ告げた慧が八代通に向き直る。

 

「流れでついてきましたけど、俺の考えは変わっていません。今後一切、技本のミッションには関わらないつもりです。最低限の調整には参加しますが、ドーターには近づきません。それを言いたくて今まで残っていました」

 

八代通が感情の無い目を慧に向ける。

 

「こうしている間にも日本の何処かにあの爆弾が落ちるかもしれないんだぞ」

「はい」

「それでも何もしない気か?」

「しません」

「結果、救えた筈の人命が大量に失われてもか」

「はい」

 

ラファールが歯嚙みをしながら慧に近付こうとするがファントムが手で遮ると慧に近付き、針の様な視線を突き刺す。

 

「貴方が人間を無価値と断じるならそれで構いません。貴方が何を言おうと反論はしません。今の我々では同じ目線で話せませんから。ですから、これだけは宣言します」

 

黙る慧にファントムが宣言する。

 

「私はあなた方に価値があると行動で示します。迫る厄災を打ち払い続けます。慧さんが希望を取り戻した時にちゃんと守るべきものが残されているように」

 

それだけですと告げながらコルセットスカートを翻すと無造作にイーグルの肩を押して、渋るイーグルを部屋から連れ出す。ラファールもバトラから顎で行くぞと示されて慧を一瞬だけ伺うと嘆息をしてから部屋を出て行き、片宮姉妹とベルクトはバトラに手でついて来いと指示されて後ろ髪を引かれる様に出て行く。

 

オペレーター達は行くぞと指示を投げながら引き上げ様とするバーフォードの後を追う様に去って行く。八代通も頭を掻きながら引き上げて行く。

 

「何も言わないんですか……」

 

詩苑がバトラに弱々しい声で投げる。

彼女の知るバトラはあんな仲間がいれば隣で寄り添い、励ますか説得をする人物だったからだ。

 

「空を飛ぶにも資格と権利がある。彼をそれを放棄した。そんな奴に掛ける言葉は無い」

 

話は終わりだと言わんばかりに前を向き、背中は何も語り掛けるなと雰囲気で語る。

バーフォードはそれを見て、サーシャを失った時のバトラと今のバトラを重ねていた。




空戦は次回で!

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