私が電子小説で1万文字超えると長くて読むの疲れるタイプでして、キリが良い所で1万文字以内を心掛けているんです。
1万文字近いので読むの疲れると思いますが最後まで読んで下さると有難いです。
レンジローバーの後部座席の隅にベルクトは縮こまっていた。
冷静になってここに居る事の方がバトラの精神的にも身体的にも助けになると分かっているが、彼処にバトラ1人で置いてきた事にやはり納得が出来ていなかった。
そして頭の中でバトラを失うと言う恐怖が湧き上がってくると全身の細胞が悲鳴を上げてのたうち回る感覚を同時に感じ始める。
「(嫌です。嫌です、嫌です、嫌です)」
ベルクトの脳裏に撃たれた女性の映像が鮮明に蘇り、バトラも同じ様に悲鳴を上げてずに撃たれるか、グレネードの炎に苦しみながら死んで行く光景を連想する。
可能であるならば今直ぐにでもこの車を飛び降りて助けに行きたい。だが、今の自分の実力では助けるどころか足手纏いになる。それを理解しているからこそ動けず、自身の地上にいる間の非力さに恨み、絶望していた。
「大丈夫ですよ。彼ならこんな事で死にませんよ」
座席に座りながら首だけ動かしてベルクトに話し掛けるファントムの声にベルクトは首を上げる。
「あの人は敵の勢力圏から歩いて脱出した事が有るそうです。街1つ抜け出すくらいは大丈夫ですよ。だから、また会った時にそのプレゼントを彼から渡して貰いなさい」
「……そうですね」
ベルクトがファントムに笑ってみせる。そこには恨みや絶望の感情は無く、心配だが彼を信用も信頼もしていると言う感情しか無かった。
「それと彼を殴る準備をしておきましょう」
「どうしてですか?」
「こんな美少女を2人を心配させたんです。それ相応の応酬は有ってもいいんじゃ無いんですか?」
その言葉にベルクトは何処から突っ込めば良いのか分からず、苦笑いを浮かべるだけだった。
瓶が割れる音が闇に響けば、忽ち赤い炎が人を燃やしながら闇を照らす。
闇には反響する男達の悲鳴と銃声しか聞こえない。
銃声が鳴れば1人、また1人と倒れ、燃える仲間に駆け寄った奴から銃弾に倒れて行く。燃える人間は助けに来た仲間が目の前で死んで行くのを見て助からないと絶望し、燃える体の熱さと痛み、喉が焼かれて叫べ無くなった物から憎悪を持ちながら息絶えていく。
バトラは背中を柱に預けながら崩れた屋根に視線を巡らせる。
崩れた屋根の残骸から石と鉄がぶつかり合う音が聞こえる。恐らく後数回もすればこの壁は崩れ、挟撃を受ける事となる。それは同時に遮蔽物が無くなる状況になると言う事でもある。
バトラは敵の誘爆と火炎瓶のおかげでかなりの数の敵が死んで行ったが予断は許されない状況だ。
バトラは空の弾倉を外し最後の弾倉を入れる。
ここまで無駄弾無しで撃って来たが、2ウェーブを乗り切るにはかなり難しい状況だった。
バトラは一旦、遮蔽物を変える。
敵もバトラが移動した事に気付き、移動を開始するが染み付いた行動からか無意識に密集形態を作ってしまう。
バトラもそこを見過ごす程、甘くは無い。密集した場所に取り外し、幾つかの切れ込みを入れた車の燃料タンクを放り投げ。さらに火がついた布も投げ込む。
燃料タンクのガソリンに引火した炎は爆発的に燃焼し、兵士達を火炙りの刑に処して行く。だが、それと同時に崩れた屋根の壁をぶち破ってボロボロになったマイクロバスが現れる。
マイクロバスの後部ドアからは壁の向こう側に居た兵士達が次々に降りて行く。
「(クソ……ここは俺の死に場所かな?)」
降りてくる兵士達に鹵獲したAKで撃ち殺して行くが数が多すぎる故に対処しきれない雰囲気も出てきていた。
それでも必死の抵抗をみせるバトラを神は見捨てる事はしなかった。
八代通達が走り去ったスロープから車が走って来る音が聞こえ、その車はスロープの中に走りこんでくる。
そして、アクセルを強めたのか急加速すると車はマイクロバスを後ろから前へと押し出そうとする。
マイクロバスを遮蔽物にしていた兵士達の半分は上手く横に飛び退く事で車を避けたが、残りの半分やマイクロバスから降りようとしていた兵士達は突っ込んで来た車とマイクロバスに挟まれて圧死。車内で生き残った兵士達は予想を超える馬力で押す車の速度に脱出速度が追い付かず、誰1人として脱出出来ずに壁と車に挟まれて死亡した。
車と壁に挟まれてホイールベース(前輪軸と後輪軸の間の距離)が1mも無い改造がされたマイクロバスからは夥しい量の赤い液体が溢れる。ここが明るければ死んでいった人間達の肉片も視界に入るだろうが火炎瓶やガソリンの燃える炎しか無く、炎の近く以外は薄暗いので確認出来ない。
だが、襲撃者達の不幸はこれで終わりでは無い。
スロープからはさらに3台のハーフトラックが入ってくると左右の2台からは12.5mm機関銃の弾丸が吐き出され、真ん中の1台からは2連装に改造された12.5mm機関銃が発射される。
12.5mmと言う対人に使うには大き過ぎる銃弾を浴びた兵士達は身体が無残な事になりながら即死して行く。その車から逃れようと奥に逃げた兵士達は最初に突っ込んで来た車の上部につけられた砲塔に搭載された物と車体側面に搭載された物を含めて5門の7.62mm機銃の掃射を受けて倒れて行く。
バトラは遮蔽物から身を乗り出す事は無かった為に無事だが足元にそれなりに大きさの穴が空いている事は見なかった事にした。
地下駐車場が残酷な光景に変わる切るとバトラは遮蔽物から出る。
入ってきた車にはMに雷が乗っているようなロゴが書かれている。
「良かった。無事だったんですね」
運転席からカルーレが顔を出し、防盾に覆われた機銃席からはアリシアが顔を出す。
「すいません。車両と武器を取りに行ってたら遅れました」
「来てくれたから良い。それより状況は?」
助手席に乗り込みながらバトラが叫ぶ様に聞く。
「ブラボーが残りの方々と合流。護衛をしながら外に向かってます。ただ、敵はこっちに来ると思います。貴方1人だと言う情報が向こうも持っているので貴方を消しに来るはずです」
「だろうな。武器は有るか?」
「後部座席をM249があります」
バトラが身を捻りM249が入っていそうな箱を開けて取り出すとそれをドアの固定具に固定して固定機銃を仮設する。カルーレはその間に車体を反転させて最短ルートでウランバートルから出るルートに車体を向ける。
スロープを出た車両達は機銃1基を載せたハーフトラックが左右を固め、カルーレの車が先頭を、その後ろを6輪型のピラーニャが走る。
このピラーニャはMS社の独自モデルで主武装を25mmから20mmに兵員輸送スペースを機銃席に改造した物だ。こう言った場所での戦闘に有利な改造となっている。
暫く走ると塞ぐ様にさっき潰したマイクロバスと同じ様な雰囲気を醸し出すマイクロバスが現れる。
ただ、さっきと違うのは帆船時代の戦艦の様にライフルの銃口が窓から飛び出している所だろう。
マイクロバスは並走する事でライフルの攻撃をモロに与えようとするがMS社の4両は同時にブレーキを踏み、マイクロバスの後ろと言う最大火力が出せる場所に陣取る。
「撃て」
カルーレがヘッドセットに短く指示を送ると12.5mm4門と20mm機関砲がマイクロバスの後部に殺到する。
特に20mm弾はオーバースペックなのか車体がえげつない壊れ方をして中に乗っていた人間は地面に落ちた銀杏めいた事になっているであろう事が容易に想像できた。
「やり過ぎじゃね?」
バトラがカルーレに口を出す。
「R.O.Eを満たさせた向こうが悪いんです」
「確かに護衛目標が襲われた場合は武器使用自由だがな……」
それでも非装甲の車両に20mmはやり過ぎだと言わざるを得ないという様な顔をするバトラだが、そんな顔もある物を見て、一瞬で凍り付いた。
「!? カルーレ! 背後から無反動砲搭載のワゴンだ! 数は3!」
「大盤振る舞いもいい所だな!」
カルーレがドリフト気味で右折、ピラーニャはそのまま真っ直ぐ進み車体の側面をみせる。その左側を走っていたハーフトラックはそのままカルーレを追い、右を走行していた車は一旦回転して後ろを向くと12.5mm機銃を発砲してから同じ道を走っていった。
ハーフトラックが退いて、射線が通った瞬間に20mm機関砲と2門の7.62mm機銃が弾丸を吐き出し、3台の内2台を破壊してから後を追う様に走って行く。
なんとか破壊を免れたワゴンも1台だけ存在したが搭乗員のみが天に召されてしまった為に追う事も連絡も入れられなかった。
「少し、遠回りになりますよ」
予期せぬタイミングで右折した為に最短ルートから逸れてしまったのと最短ルートはここが庭も当然な敵からしたら検問や待ち伏せなど容易であると判断しているカルーレは1番難しいが1番安全と言えるであろう策を取った。
それは行き当たりバッタリでルートを選び、外を抜けると言う方法だった。
道に迷う可能性があるこの方法だが、カルーレ達もどの道がどの道に繋がっているかはしっかりと把握している為に問題は無い。
だが、敵はバトラの行動をまじかで見ているかのように襲い掛かってくる。
「やっぱり監視システムが働いているか……」
「なんですか、それ?」
20mm機関銃に破壊された新手の車を通り過ぎながらカルーレが口を開く。
バトラはジュラーヴリクから貰った情報をカルーレに伝える。
「まずいですね。降りても追い掛けてくるんでしょう?」
<<隊長! 前の建物の屋根!>>
カルーレが対策を考えようとした瞬間に車に搭載された無線機から仲間の兵士の声が発せられる。
バトラとカルーレが言われた場所に目を向けるとそこにはRPGー7を持った兵士が陣取っていた。
「「RPG!!」」
バトラとカルーレが叫ぶと同時に全車が行動を開始する。
カルーレは車を加速させ、左右の車はそれぞれ前進と後退。ピラーニャは後退する事でRPGを避けようとする。
だがRPGは撃った兵士も練度が低かったのか回避行動を起こさなくても外れる場所に着弾する。
RPGが着弾すると同時に20mm機関砲がRPGを持った兵士を天へと送るが後方の家からも異様なカーブを描いたRPGが飛来し、右側のハーフトラックを吹き飛ばした。
「そこか!」
RPGは撃った瞬間の
曳光弾がスポットの代わりとなり、場所を把握した他の銃手達もその場所に弾丸を叩き込む。
窓から長い棒の様な物が落ちると銃手達は微笑みを浮かべる。
自分達の安全が一先ずだが、手に入った安堵からの微笑みだった。
<<行くぞ!>>
カルーレの叫びが通信機から聞こえるとやられた仲間の車輌の脇を通りに前進する。
脇を通る際に全員が残骸に向けて敬礼をしていた。
「このまま外まで突っ切ります!」
車は車の間を通り向けながら街の外まで走らせようとするが、ノゴン・ハスの追撃を浴びながらもこれ以上の人的損害を出す事はなく街の出入口が目に着くと同時に嬉しく無いものまで見つけた。
「ロードブロックか!」
「しかも、RPG付きだ!」
バトラが叫ぶと同時に火炎瓶を投合する。
作った土嚢を超えて飛来した火炎瓶に慌てたRPGを持つ兵士達は銃口を大きく逸らしながら弾を発射したが、発射された弾はカーブを描きながらバトラ達の車へと3発飛来する。
全員が避けられないと判断すると車を一斉に放棄して、路地裏や壁に隠れて遮蔽物を手に入れる。
遮蔽物に身を隠す間は燃える火炎に気を逸らしていたおかげで1発も撃たれる事無く全員が遮蔽物を手に入れる事が出来きた。
だが、問題が発生する。
「カルーレ! どうするよ!」
「困りましたね。貧弱過ぎます」
ロードブロックをしているのは土嚢とマイクロバスを組み合わせたものだ。携帯式対戦車装備でも有れば話は別だが、そんな物を今は持ち合わせていない。
そして、絶望は群れをなしてやって来るのが相場である。
「まずい! 後方からマイクロバス!」
「左右にも展開された!」
敵の増援とあっと言う間に包囲されようとしていた事に気付くが自分達の火力ではここを突破するのは難しいと誰もが判断していた。
そして、囲んだ兵士達が何かを叫ぶと引き金を引き、銃弾を発射して来る。
MS社の陸戦兵も応戦を開始するが圧倒的な火力差に押され、思う様な反撃が出来ず、1人、また1人とその凶弾に撃たれる。
バトラも直撃こそしていないが腕や足を擦り、切り傷の様な傷が出来ていたり、直撃でも擦りでも無い微妙な当たり具合をした弾丸に脇腹が撃たれたりとしていたが脇腹が少し痛む位に感じる程に興奮状態に陥っていた。
だが、絶望がバトラ達を襲う。
銃から爆発した音では無く、何かかが空振る気の抜けた音が発せられたのだ。
「弾切れ!? カルーレ! 予備弾薬はあるか!」
「こっちも自決用の1発だけだ!」
「ごめんなさい。私もです」
カルーレもアリシアも撃ち尽くし降り、他の兵士達は既に息絶えていた。
やられた兵士達から弾薬を貰うにしても距離が開き過ぎているのと弾幕が絶え間無く飛んで来ているので、とてもじゃないが取りには行ける距離では無い。
反撃が飛んで来なくなった事で弾切れを予期した武装兵達は徐々に包囲を狭めて行く。
そして遂に路地を挟む様に大通りで密集隊形を作りながら最後の接近を試みようとした瞬間にバトラがナイフを投合。
吸い込まれる様に眉間に突き刺さり倒れた仲間を唖然として眺める兵士達。
眉間にナイフが突き刺さった兵士が地面に倒れる音と空からの轟音を聞いたのはほぼ同時だった。
兵士達が上空を見上げると三角形の様な翼を持ち、翼と胴体下には気持ちが悪くなる程の爆弾をぶら下げた緑色の大型戦闘機が接近していた。
これが絶望の終わりを告げた。そして、絶望の後には希望があり、希望の後に絶望が来るのが相場だ。
流石の彼らもあれはやばいと本能で感じたのか逃げ出そうとするが蛇に睨まれたカエルの様に動けないでいた兵士達に躓き、邪魔され思う様に逃げられなかった兵士達に爆弾が投下される。
黒い殺意の塊は地面に着弾すると同時に爆ぜて、兵士達を天高く舞い上がらせるが爆心地に近かった者は五体満足とは行かず、爆発で捥げた者や遠心力や叩きつけられた衝撃で更に捥げたりと酷いと言う言葉では言い表せない様な事になっていた。
それを立て続けに何回も起きれば大量にいた筈の兵士達はその大部分を失い、バラバラに逃げ出して行く。
だが、絶望を1度味わったなら絶望は群れを成して襲いかかる物だ。
路地へと逃げ者は警察官に取り押さえられるだけで済んだが、大通りやマイクロバスで逃げた者は恐怖と絶望を味わう事となった。
近くの車やマイクロバスで逃亡した者達は戦闘機が去って行くのを見て安堵した瞬間に爆音を聞き、視界がメチャクチャに揺さぶられる。
そして、マイクロバスが飛んでいると理解した瞬間に地面に叩きつけられる衝撃と音を感じてから首をゆっくりと動かして周りを確認すると一瞬にしてその顔は恐怖と絶望に塗り尽くされた。
100mmクラスの砲塔に戦車と見間違える程の図体、そして6輪の車輪。
プレインレパード隊で10両しか持たない最高戦力。【チェンタウロ戦闘偵察車】だった。
そして、ウランバートルの各地で周りへの被害など度外視にした52口径105mmライフル砲の発射音が響くたびに爆発と何かが落ちる音、そして悲鳴がウランバートルを駆け巡った。
10両全ての狩りが行われている間にバトラ達はピラーニャの兵員輸送スペースを医療設備に変えた救急戦闘装甲車とも言える車内で処理を受けながら八代通達との合流を果たすべく移動を開始した。
バトラは車内で身体に刺さりかけていた銃弾を抜くために麻酔が投与されて眠りに付くのと半獣半人の化け物の狩りが終了するのは同時だった。
バトラが目を覚まして最初に見たのはゼラニウム・アイビー・ライラックの造花で作られたフラワーアレンジメントとミモザアカシアの造花が入った花瓶だった。
「(なんで、ミモザアカシアだけ?)」
視線を走らせれば白色と若草色がツートンに塗られた清潔感を感じさせる壁だった。
他に視線を動かせば調度品の類が無い簡素な部屋に自分は横たわり、毛布が掛けられている事を確認すると慌てた様子も無く、病室と言う事と病室に叩き込んだ原因人物の心当たりの多さに溜息を吐いた。
「あ。起きたんですね。おはようございます」
アリシアが溜息を吐いた音に気が付いて見下ろす様な形でバトラを見ながら声をかける。
バトラは上半身をゆっくりと起こそうとするとアリシアは慌てた様子でバトラの肩に手を付けて、母親が病気の子供をベットに寝かしつける様に優しくベットに戻す。
「まだ、寝ていて下さい。致命傷こそ有りませんでしたが、致命傷数歩手前の傷は幾つかあったんですから」
「あ、ああ……アリシア伍長の言う通りにするさ」
流石のバトラも優しく扱われれば反抗もしずらく、大人しくベットに戻る事にする。
だが、アリシアは別の点で驚いた様な顔をする。
「私の事がわかるんですね。でも、どうして私の名前を? 普通はこの時に名前を呼ぶ人は少ないんですが」
「病院送りで目を覚まし度に知り合いがわかりますかって聞かれたからな。知り合いが近くにいた時はその人間の名前を呼ぶ様にしているんだ」
「そうですか。集点は定まってますし、瞳孔も正常。応答が出来るレベルで意識レベルも有りと」
「衛生兵の心当たりが?」
「はい。元は看護師になりたかったので」
「ちゃんとした看護の勉強をしたらナイチンゲールだな」
照れ笑いを浮かべるアリシアにバトラは軽口を叩く。
アリシアはナイチンゲール程の人間では無いと否定しながらも目に見えて安堵の表情を浮かべる。
「2日間と半分寝てたので心配だったのですが問題無さそうですね」
その言葉を聞いたバトラが自身の傷と身体の状態を客観的に考えると3日間近くも寝るのは可笑しいと判断してアリシアに訳を問う。
問われたアリシアは何と言えば良いのか目を彼方此方に動かしす。
「えっと……その……」
バトラはアリシアが落ち着くまで待つかと考えて、フラワーアレンジメントに目を向ける。
スタンダードに丸く盛られた花達を見て花言葉を思い出した。
ゼラニウムは『真の友情』『尊敬』『信頼』など、アイビーは『友情』『永遠の愛』『不滅』『結婚』『誠実』など、ライラックは『友情』『思い出』『謙虚』『誇り』などだ。
どれもこれも生死の境を彷徨う人間に送る花言葉とは少し言い難い。またアイビーの5分の3は関係が無い。
「どれもこれも、生きて帰って来い的な意味じゃ無いな」
つまりは死ぬ様な事では無いが心配しないと行けない事案があった事と言い淀むアリシアからある結論に至ったバトラは壁に向けていた顔を未だに右往左往するアリシアに笑顔を浮かべながら向き直る。
「まさかと思うが……麻酔の濃度か量を間違えたか?」
「……」
アリシアから頬を伝い、床に落ちるレベルで冷や汗を流し始めたのを見て、確信に変わったバトラだがこのまま放置していたら鉛中毒になってもおかしく無いのも把握していた。
バトラは怒っては居ないと前置きをしてから、処置した衛生兵に『今度から気を付ける様に伝えてくれ』と話すとアリシアは笑顔でそれを了承した。
アリシアは連絡と伝言を伝えると言って部屋から出ると入れ替わる様に八代通が入って来る。
「八代通か。此処は何処だ? 今後の方針は?」
「まず、聞くのはそこか。普通ならどうなったかだろう?」
「俺は助かった。それまでの経緯は今回は気にしない。聞きたくも無い外交話が飛ぶんだろう?」
皮肉な笑みを浮かべながら話すバトラに八代通はお見通しかと笑居ながら近くの丸椅子に座り、MS社のロゴが入った封筒を1枚、バトラに手渡す。
「これは?」
「本社から今回の事の顛末や経緯が書かれて居るそうだ……ああ、同様の内容だと言う書類を見させて貰った」
蝋印で閉じられた封筒の中身を話す八代通にバトラが疑いの目線を送ると慌てて理由を話す八代通に安堵の息を吐きつつ、八代通に話を催促する。
「取り敢えず、今後の方針だったな。単刀直入に言うと俺達はハンボクドに行き、此処を抑える」
それを聞くとバトラは上半身を起こして、八代通の目を見る。
「何故、ハンボクドを抑える必要がある? あんたが抑えろと言い、報酬を出すなら抑えるが今回ばかりは話は別だ。ロシアのアニマが来たんだ。たかが、少し変わったFー15の残骸だ。捨て置いても問題は無い筈。なのに何故、そうなったのか。俺がわかる様に筈、完結に言ってくれ無いか?」
MS社の部隊は報酬さえ貰えるなら何でも請け負う民間軍事会社では無い。その依頼を出す理由を説明出来なければその依頼を請けけ負う事はしない民間軍事会社だ。
今回は何故、千年前のFー15の残骸を回収する為の制空権確保と護衛が依頼として来たが、ロシアのアニマ部隊と正面切ってやり合い、獲得する程の価値がある物なのかバトラには理解出来ずにいた。
「もし、これが正体不明の戦闘機ならばまだ、納得出来る」
「そうだな……少し長くなるぞ」
八代通は理由を語り始める。
「ベルクトのデータを解析している時に見つけた物があったんだ。そうだな……簡単に言うと神の行動を解析すると言う奴だったな」
その言葉にバトラが鼻で笑う。
「神がこの世界の全てをコントロールしていると?」
「知らんよ。だが、ロシア人達はこの世界は大いなる者の意思で出来上がっていると。まあ、俺は真には受けて無いがな、そう言う考えもあるのか程度だ。だが、ロシア人のこの考え方が重要になる」
バトラは何度か頷き、口を開いた。
「その神とやらは時空を捻じ曲げる位はやれる筈。千年前にFー15を持って行く位は余裕と? そして、神とやらの手掛かりにFー15の残骸が欲しい? くだらん。あくまでも手に入るのは残骸だ。神の技術なんかがわかるとは思えん」
「まあ、俺たちはそうだが、神を信じてこんな事をする国だ。千年前のイーグル何ていうオーパーツが来たらそれは欲しがるだろう。それこそ最高戦力とも言えるアニマ部隊を導入してでもな」
「お前は神を信じているのか? そうじゃ無いだろう。なら、何故に欲しがる?」
「俺だって、時代錯誤なだけの残骸ならくれてもやっても良かったんだがな。此処からが1番の理由だがあの残骸は俺たち【技本】の設計で出来ている。いや、しようとしている物だ」
八代通の言葉にバトラが呆れた様な表情を浮かべる。
「つまりは自分達が作ろうとしていた奴の完成品が千年前の遺産で出てきた。その理由を知ら無いと今後のアクションが取れないとでも言いたいのか?」
「その通りだ。自分達の所行が希望か絶望に繋がっているのかわからんと俺たちは次にどう動くべきかわからないだろう? だからこそ、俺たちはハンボクドに行き、残りの残骸を回収しなければならない」
決意に満ちた八代通の声を聞いて、バトラは笑いは始める。笑い始めたバトラに八代通は目を丸くする。
「いや、神は存在するが一部の神以外の意思や行動はこの世界に介入しないと考えている俺に神の意思や行動はこの世界に介入しているからそれを確かめに行くと言う話は笑い話みたいに思ってしまうだけなんだ。いいぜ、付き合ってやる。ただし、報酬はそれなりに貰うのとこれだけは理解して置いてくれ」
バトラはそれを見上げてから、八代通に向き直る。
「この世界は俺たちの行動で全てが決まる。希望か絶望か存続か破滅かは、やった後の結果と時代が決める」
次回は甘々な回を目指すぞ!
しかも、2セットだ! 俺のSAN値と勝負だぜ!
全くの余談ですが、今頃になってガルパンの劇場版とバトルシップ見ました。