ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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裏表紙のジェラーヴリクが可愛い。

第6巻を読み直し度にジュラーヴリクを可愛いと思う感性が開発されて行く。

今話ではベルクトを生存させた上での変化と埋もれすぎているエスコン要素をお楽しみ下さい。


作戦34 動き出す最悪への歯車

先頭立つのは小柄な少女。袖無しブラウスにハイウエストのガウチョパンツ。

体勢は足を肩幅に開き、両手はポケットに入れている。

外見は卵形の顔には不釣り合いな程大きな大きな目が印象的で一種の可愛らしいさを醸し出すが、揶揄する様に歪められた小さな唇が可愛らしいさを損なっている。

 

だが、ここに居るメンバー全員は気付く。『この少女を含めて、全員が人外の存在』だという事に。

 

その証拠に先頭の少女の髪は内側からクロームオレンジの光を放出している。

その隣の少女2人もそれぞれがアクアマリンとフレンチベージュの光を髪に孕んでいる。

 

アクアマリンの髪の少女はファー付きのジャケットを着込んだミリタリールックの服装でクールビューティーを絵に描いたような少女だ。 その顔には眉毛がない事で何処か不気味な印象とミステリアスな雰囲気を醸し出し、美少女という文字通りの外見だが、気持ち悪さを感じる程の無表情が台無しにしている。

フレンチベージュの髪の少女は、エプロンドレスとメイドの様な格好に瞳を細くして微笑み、その表情と格好に可愛らしや愛おしさを人によっては与えるだろうが、その微笑みは不気味さや不信感を抱きかねない程に完璧だ。

 

3人の人影を前にして立ち上がり掛ける慧にクロームオレンジの少女が小さな首を傾げながら、手を挙げる。

 

「大人しく座ってな。こっちも丸腰で来てるわけじゃ無いんだ。やり合うつもりなら其方も大怪我する事になるぞ。ほら、そこの緑のも」

 

そう言われたファントムの琥珀色の瞳には激しい緊張に満たされている。

手にはフォークが握られ、腰を軽く浮かせているが、確実に立っている3人の少女とやり合うには体勢が不利にも程が有る。

 

バトラは3人の少女の正体に気付いた瞬間には左手でベルクトの太腿にばれない様に手を這わせる。

バトラの手に気付いたベルクトは羞恥心を感じる事は無く、その手の頼もしさと優しさから安堵と平静を受け取り、身体から意識しなければ分からない程の震えが治る。

 

「そんな顔をするなよ。同志の前で戦争をするつもりは無いんだ。これはただの挨拶だ。邪魔するぞ」

 

クロームオレンジの少女が隣の席を引き寄せると腰を掛けて、背中を背凭れに垂れかけて体勢のまま、足を組む。

クロームオレンジの少女を挟む様に立つ、同世代の2人の少女。

 

ファントムとバトラが警戒の色を強めた事で周りの空気が凍り付く様な感覚を周りに与えるがクロームオレンジの少女は興味深そうな顔をしながら視線を走らせる。

 

「髪の色を見る限りそっちがグリペン、そっちがファントムか。イーグルの姿が見えないな。まさかとは思うがそっちの兄さんの何方かがイーグルって訳じゃ無いだろう。だが、1番不可解なのは……」

 

クロームオレンジの少女の目がある一点で止まり、それを合図にしたかのように他の少女もその一点に視線を向ける。

向けられた場所に居た人物ーーベルクトは身を縮こませながら、太腿に置かれたバトラの手を強く握る。

 

ベルクトの握っているその手からは恐怖以上に救援とここに居たいと言う欲求がバトラに痛い程伝える。

 

「どうして、そこにベルクトが居るんだ?」

「余りに人の過去に踏み入るのは感心しないな。それに素性を訊ねる時は自分から名乗る。東西南北問わずの礼儀だと思うのだが?」

 

その言葉を聞いたファントムが冷ややかな目をクロームオレンジの少女に向けたまま口を開いた。

 

「名乗って貰わずとも分かります。クロームオレンジとアクアマリンの固有色。ジュラーヴリクにラーストチュカですね。ロシア航空宇宙軍、第972親衛航空戦隊、アニマ飛行部隊、通称……バーバチカ」

「ロシア軍!?」

仮想敵のロシア軍の登場。しかも、現在最高戦力とも言えるアニマが直接乗り込んできた。

その事に慧は驚き席を立ち上がるが、バトラが慧の爪先を踏むことでそれ以上の行動を止める。

 

「慌てるな。ロシア軍が来る事は粗方の予想はしていた」

 

バトラがアニマ3人に、特にクロームオレンジのアニマ、ジュラーヴリクに視線を向ける。

視線を向けられたジュラーヴリクはフンと鼻を鳴らす。

 

「落ち着いているな。それとあたし達を知ってるなら話は早い。単刀直入に要件を言うぞ。あたし達はハンボグドの鉱山を確保する。邪魔するもはザイであろうと人間だろうと分け隔て無く排除するつもりだ。命が惜しければさっさと引き揚げるんだな。あたし達も極東でザイの処理をしてくれてる連中を叩き落とすのは忍びない」

 

傲岸不遜。そんな言葉を絵に描いたような態度と言葉・声に全員が黙っているとジュラーヴリクは笑みを更に大きくして、更に言葉を紡ぎだす。

 

「問答無用で撃ち落としてやっても良いが、こちらだけ相手の情報を持ってるのはフェアじゃないしな。だから、わざわざ警告して来てやったんだ。感謝しろよ。これはあたし達、偉大なるロシアの慈悲だ」

「慈悲と来ましたか」

「慈悲、そう来たか」

 

ファントムとバトラが鼻で笑い飛ばす。

ベルクトが心配そうに手を出そうとするがそれよりも早く、ファントムとバトラの口から言葉が出て来る。

 

「帝政も共産主義も民主制も何1つ物に出来なかった失敗国家が偉そうに」

「正規軍の1、2流部隊の殆どにクーデターされた国家が随分と偉く来たな」

「あぁ?」

 

ジュラーヴリクが上体を揺らし、片肘を膝に置きながら身を乗り出す。

 

「口の利き方に気を付けろよ。あたしは基本的に寛大だが許せない物は幾つか有る。祖国への侮辱がその最たる物だ。もう一度言ったらその口にAKぶち込んで前歯をかち割るぞ。大人しく座ってな」

ジュラーヴリクは椅子を蹴飛ばしながら立ち上がるとファントムとバトラの間に立ち、2人を見下ろす。

「生憎、頭ごなしに命令されると反発したくなる性質でして。そうですね。腹が立つと言う事は思い当たる節が有るんですね。まぁ、油の値段が下がっただけで国家経済が破綻する様な国ですから恥ずかしくなる気持ちはわかります」

「実際に起きた事実だ。クーデターで正規軍が使えず、国際社会への発言力低下、更にヴァラヒアと言ったテロリストの対処にPMCを頼り、PMCに救われ、忌み嫌うPMCが平和と秩序を取り戻した英雄になる。身から出た錆びだ」

 

その言葉に怒気が更に増すジュラーヴリク。

 

「アメリカに国中焼かれて去勢された腰巾着と薄汚い金でしか飯が食えない蛆虫が随分とご機嫌じゃないか。身の程が分からなくなったか?」

この言葉にファントムとバトラはまたも鼻で笑う。

 

「ご心配なく、貴方方よりは分を弁えていますよ。GDPの5パーセントを軍事予算に組み込む様な馬鹿な真似をしてませんから」

「ザイからの国防に高性能蛆虫(AZJ装備PMC部隊)に頼っている所か教官もその高性能蛆虫だ。身の程を弁えるのは何方だろうな?」

 

ファントムがバトラの言葉の最中に音を立てぬ様にゆっくりと立ち上がり、小柄なジュラーヴリクを見下ろす形を作る。

 

「国力とプライドが噛み合っていない国は悲惨ですね。新興国並みの予算で世界の盟主を気取らなければいけない。勢い、恫喝と闇討ちがお家芸になる。今回も似た様な手段でしょうか? まともにやり合う実力が無いから集団で脅しに掛けに来てる」

「脅しかどうか自分の身体で確かめて見るか?」

 

ファントムとジュラーヴリクの距離が大きく縮まる。空気がビリビリと震える様な感覚をこの場にいる全員が味わう中で、ジュラーヴリクの口から言葉が出される。

 

「そういえば、ベルクトの件であたしの妹であるSuー35を追いかけ回したのはお前らだな。エメラルドグリーンのドーターに藍色のAJZ戦闘機。今回の事が無くても借りを返すつもりだったが……丁度良いな。ここで一戦交えるか?」

 

その言葉に同調する様に金属音と靴音が響くと3人の少女の殺気が増す。ラーストチェカが1歩前に踏み出す。エプロンドレスの少女は笑顔のまま懐に手を伸ばす。

 

「そこまでのしておけよ。背後のお嬢様方?」

 

バトラの声が異様なまでに響く。

 

「「!?」」

 

ジュラーヴリクの背後に立って居た少女が驚愕の色を少ないが表に出す。

 

ラーストチュカは視線をズラすと首元にコンバットナイフが突き刺さる寸前で止められている。エプロンドレスの少女は視線の集点をズラすと自分に突きつけられたリボルバー拳銃の銃口が映る。

だが、2人の少女が驚いたのは武器が突き付けられた事では無く、警戒状態だったにも関わらず脅されるまで武器の存在が感じさせなかった事だった。

 

「アクアマリンのお嬢さんは腰から何も持たずに手を離して貰えるかな? エプロンドレスのお嬢さんには懐から何も出さずに手だけ出して貰えるかな?」

 

静かな空気が出来上がるが、そこにバトラの溜息が溢れる。

 

「別に地上でやり合うのは俺としてはやぶさかでは無いが……君達は生粋のパイロットだろう? 雌雄を決するなら空が良いはずだ。こんな場所で殺したくも殺されたくも無いだろう?」

「そうだぜ。そもそも、アニマの役目はザイと戦う事だろう。戦闘機が地上で肉弾戦始める所なんて見たく無いぜ」

「そうですよ! それにパイロットの本質は空に有り、傭兵は無益な殺生はしない。バトラさんの言葉ですよ!」

 

慧とベルクトの言葉にジュラーヴリクは何度か瞬きした後にぷっと噴き出して笑う。

 

「そうだな。わたし達の機体(からだ)と脳みそは全て空で戦う為に有る。こんな狭苦しい所で取っ組み合いをする為じゃない。兄さんとベルクトはわかってるじゃないか」

「そうだな。今、ここでこいつらを血祭りに上げても、何の直接的利益も見込めそうに無い。これ程までに無益な殺生は無い。それにパイロットなんだ。空で決するのが道義だな」

 

ラーストチュカがジュラーヴリクに耳打ちする。

 

「時間切れか。まぁ良い。今日はあんたらとベルクトの顔を見に来たんだ。墜としちまったら顔も見れないし声も聞けないからな」

 

嘆息しながら、倒した椅子を戻す。

 

「目的は果たした。引き上げるぞ、ラーストチェカ、ディー・オー」

 

ディー・オーと呼ばれたエプロンドレスの少女がドレスの裾を翻しながらラジュラーヴリクの後に続く。ラーストチュカも後ろを歩くが何かを思い出した様にバトラに能面の様な無表情のまま近付く。

バトラは出したままだった銃を構えようとした所でラーストチュカが止まる。

 

「ジュラに武器を向けていたら、この場でお前を殺していた」

「最初から殺すつもりだったら、こんな事になっていないな」

 

その言葉を聞くとラーストチュカはジュラーヴリクの横に戻り、目元を緩める。それは何処か王女を守る騎士の様な佇まいだった。

 

完全に店内から見えなくなるとバトラは銃をホルダーにしまうが、その撃鉄までは下ろさない。それは彼が地上んl戦場にいる事の証明だとカノープスのメンバーに教わっているベルクトは緊張した趣きでバトラの背後に近付き、バトラの背中に掌と胸を付ける。

 

「もう、大丈夫ですから」

「……安全圏は無くなった。どうなるか分からない。最悪を想定しておけ」

 

その後、朝倉が電話から戻るが微妙な雰囲気も相まって、誰も追加の注文はせずに店を出て行く。

これは動向が露見している状況下で同じ場所に長居する事を避けた為だ。

 

来た道を歩く途中で慧がバトラとファントムに話し掛ける。

 

「お前ら、ちょっと喧嘩っ早過ぎだろ。あのまま連中が襲い掛かってきたらどうするつもりだったんだ」

「どうにもなりませんよ」「どうにもならないよ」

 

ファントムとバトラが同時に答え、バトラはファントムに手を差し出し、発言権をファントムに譲る。

 

「騒ぎになる事を望んでいないのは彼女達の方です。此方から手出ささない限り暴力沙汰にはなりませんよ」

 

ファントムはバトラにアイコンタクトを送り、バトラが口を開いた。

 

「彼方さんも防衛力をPMCに頼っている間はPMCを敵に回したくないんだよ。特に俺たちみたいな所はな」

 

その言葉に慧は瞬きを繰り返す。

「え? 何でわかるんだよ」

 

その言葉にファントムとバトラは呆れながら話す。

 

「考えてみて下さい。アニマですよ? 軍の正式なアクションなら護衛に管理役含めてもっと大所帯で来ます。それが無いなら彼女達の独断、管理者の目を盗んでの行動と言う事です」

「ロシアの現状戦力はクーデターで低下している。主要都市の防衛に1流PMC。他は2、3軍の正規軍とそれ以上の数の2、3流PMC部隊だ。PMCとの敵対行動は己の身を滅ぼすだけ」

「何の為に来たんだ? それに正規軍が有るから別に……」

「さぁ? 顔が見たかっただけというのは、案外その通りかもしれませんね。ともかく、命令違反なら事を露見したく無いのは彼女達の方です。故に幾ら威嚇しようと実力行使には至らない。そう判断しました」

「雇い主が防衛に雇っているPMCが敵対したく無いPMCと敵対したら、契約を切る恐れがある。PMC同士の潰し合いは不毛で彼らも生活がある以上は潰されたく無い。そこがテロリストとPMCの違いなんだよ」

「殴れないとわかっていたから好き勝手言ってたのか」

「ええ、まあ」「まぁ、うん」

 

慧が何とも言えない表情をするとファントムが少し微笑みながら話し始める。

 

「そんな顔をしないで下さい。別に個人的な好き嫌いでああいう態度を取った訳ではありませんよ。ロシアと言う国は相手が弱腰と見れば直ぐに嵩に掛かって攻めてきますからね。好戦的な位が丁度良いんです。舐められたら終わり、下に見られたら詰みと思って下さい」

「ヤクザの喧嘩かよ」

 

慧の突っ込みにバトラが笑みを浮かべる。

 

「的を得ているな。ロシアは弱腰、中国は勝っていると、韓国は自分の物差しから外れると高慢な態度に攻めてくるからな。一緒に仕事は理由が無い限りしたく無い物だ。話は変わるが、さっきの3人の名前と顔は一致したかな?」

「ん」「あ」

 

グリペンとベルクトが揃って首を傾げる。

 

「えっと……ジュラーヴリクとラーストチュカは見た事が有りますから知ってますが、最後の1人は初めてです」

「Suー27とMigー29は分かった。でも、あと1人は不明。あんな固有色は見た事が無い」

「ですよね」

 

アニマにしか分からない事を話す3人にバトラと慧が揃って置き去りにされるが、慧が声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。Suー27とMigー29? あいつらが? だって全然別の名前を言ってたぞ。Suー27はフランカー、Migー29はファルクラムだろ?」

「そいつはNATOが付けた共通認識させやすくする為のコードネームだ。ジュラーヴリクはSu-27に現場が使っている愛称。ラーストチュカはMig-29の現場が付けた愛称だ。ロシア機に正式な愛称が付けられているケースは稀だ」

「……バトラさんが気になるのは、もう1人。エプロンドレスにフレンチベージュのアニマ……ディー・オーですね」

 

バトラがベルクトの言葉に頷く。

 

「ディー・オー何ていう愛称の機体はロシアに存在しません。キリル文字のДとOを繋げれば読みは同じですが……」

「意味はdeforeやuntilです。これは……」

「決して、愛称に使われる様な言葉じゃないな」

「何かのイニシャルってことは無いのか?」

「可能性はあります。ですが、既存機の名前をどう訳してもД・Oにはならないんです」

「ロシア機に愛称が無いのは多い。つまりは数字の部分をキリル文字にした際に出てきた文字と言うのはどうだ?」

 

バトラの言葉にファントムが花が咲いた様な笑顔を浮かべた。

 

「数字の読みをイニシャルにすれば思い当たる節が幾つかあります。Дはドヴァーッツァチ、Oはアジーンの頭文字。だとすれば……ベルクト」

「えぇ!?」

 

突然の問答に驚くベルクトだが、直ぐに口を開く。

 

「21です」

「正解です」

「それじゃあ、21の製造番号や開発番号が付いている機体を言えるだけ言って見よう!」

「ええぇ!?」

 

ベルクトの回答にファントムが首肯するとバトラの無茶振りがベルクトに襲い掛かり、ベルクトは驚きながらも記憶の中を検索する。

 

「Suー21とYakー21、Migー21がパッと浮かびましたね」

「戦闘爆撃機と第1世代ジェットをアニマ化する利点は無いな。となればMigー21だが、存在を隠す様な機体か?」

「確かにMigー21は旧東側陣営のベストセラー機生産機数は1万機を超えています。NATOコードネームフィッシュヘッド」

「フィッシュヘッド」

 

慧が何か懐かしく感じるかの様な声を漏らす。

 

「だが、Migー21は第二、改修型で第三世代だ。第三世代の強化型や第4世代以上が正規軍の主流だ。わざわざ、秘匿するか? 最近出来たにしてもMigー21なら公開するだろう?」

「もしかして、私みたいな……」

 

何処か悔やむ様に話すベルクトにバトラが優しく語り掛ける。

 

「それもあり得るだろうが、露見した相手は日本。恐らくアメリカに情報を渡っていると考えて直ぐに生産するとは思えんがな。もっと別の物……ベルクト。ロシアじゃないと分からない様な機体で21と言う数字を使っている物は?」

「え? えっと……Iー21くらいです」

「……なぁにそぉれー?」

 

バトラの間抜けた声にベルクトが噴きかけるがギリギリで堪え、ファントムは呆れながら答える。

 

「Iー21は戦術航空機先進航空複合体。Tー50 PAKFAの事です」

「頼む……アクーラは勘弁してくれ……あいつともPAKFAともやり合いたくねーよ」

 

何かを思い出した様に震えるバトラにベルクトが心配そうな表情を向ける。

 

「何か有ったんですね」

「ヴァラヒアとの最終決戦空域までの空域の制空権確保の帰路で単独飛行中に元正規軍エースパイロットが乗るステルス機というエンカウントバトルが発生したんだよ。それがPAKFAに機首転換訓練中のマルコフだったんだよ」

 

機種転換訓練中とは言え、屈指のエースパイロットと単独での交戦と言う悪夢じみた事態に全員が押し黙る。

 

「良く、生きてられましたね」

「逃げに徹したのと仲間達が来てくれてな。1機の損害も出さずに逃げられたのは奇跡だったかもしれん。今、思い出すと2度と無いとわかっていても震えが止まらない」

 

そう話すバトラの言葉に慧・ベルクトの2人は恐怖を覚えるがファントムの咳払いを聞き、現実に戻ってくる。

 

「兎に角、PAKFAだとすると戦略を立て直す必要がありますね。それにこちらの行動が筒抜けなら根本的に作戦も練り直さないと」

「なら早い所、八代通に連絡だな」

 

足を速めようとした一行に朝倉が話し掛ける。

 

「皆さん。合流場所を変更します。なんでも、大学に警察の手が入ったらしくて」

「はいはい。どうせありもしない事をでっち上げて、事情聴取からの逮捕だろう。割と良くある事さ。合流場所は?」

「ちょ!? 八代通さんの心配しなくて良いのか!?」

「どうせ、あのデブだ。何処からか逃げて、セーフティーハウスで飯食いながら俺らを待ってるんだよ。しかも、第一声が不遜な言葉付きでな。で、集合場所は?」

「中央街区のホテルです。我々はセーフハウス代わりに使っている所でしてモンゴル政府も存在を掴んでいない筈です」

「安全性なら大使館だが、少し距離があるし監視の目も多い。そこに行くぞ!」

 

走り出す一行の中でベルクトはバトラに視線を向ける。

 

「バトラさん」

 

丸く透き通る赤色の宝石を思わせる瞳が不安で震える。

それを安心させる様にバトラは微笑みを浮かべる。

 

「安心しろ……安心しろよ、ベルクト。あのインテリデブが早々捕まってたまるか。多分ホテルで飯食ってるだろうさ」

「そうですよね……そうに決まってます」

 

ベルクトが楽観的な態度と声を浮かべるが、掌に爪が食い込んでいる事と何かを抑える様に走るベルクトを見たバトラにはそれは装いの物だと直ぐに気付くが何も言わずに何かを抑える様に走るベルクトを気遣い、少し速度を上げて走る。

 

だが、バトラは八代通の事より、あのアニマ3人とベルクトの方が心配だったが、誰にも気付かれぬ様にポーカーフェイスのままホテルへと走った。




その……なんか……すまん。思ったよりも修羅場が出来んかった。この埋め合わせは可及的速やかにどうにかしますので。

ベルクトを生存させれば、これ位は出るでしょう的な感じですね。ただ、予想できる最悪のパターンの最悪度合いが増しただけですけどね。

因みにマルコフと遭遇した場所はX2の核ミサイルサイロに比較的近い場所です。訓練空域と核ミサイルサイロまでの道が被っていたと言う設定です。

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