ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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長らくお待たせしました。空戦のお時間です。
初盤のスランプガ嘘みたいだね。


作戦30 突風救出完了と新参入、そして……

靴音を響かせて、無警戒に近づくアンタレス01。

日本人女性によく見られる丸い体型だが、決して太っている訳ではない何処か痩せている。だが、スレンダーな身体とは違った大人の女性の色気を醸し出す丸み帯びた体型に括れる所は括れ、出るべき場所はこれでもかと主張する程大きい身体の女性だ。

髪は長く、何処かを結んでいる訳でも、飾りをつけている訳ではないが、かえってそれが女性の艶やかな黒髪を引き立たたせ、瞳も黒曜石のように濃く綺麗な黒でなく、磨かれた黒雲母の様に淡くも美しい黒色の瞳。

肌は白い磁器の様に滑らかで白く、その顔に紅椿の様な赤い唇が浮世絵離れした美しさを醸し出す女性。

 

100人の男がすれ違えば100人は振り返る美女だ。

 

「もう、何処に行ってたの? 探したよ?」

 

アンタレス01は怒っていると言うよりかは心配したと言う様な声で話す。

「(この人はお洒落なんかする人じゃなかったな)」

 

上下灰色の迷彩服に足首まで覆う黒皮のブーツと身体や雰囲気から醸し出される美しさを損なう服装だが、バトラにはそれが彼女だと、安心できた。

 

バトラは格納庫を見渡す。

白や灰、黒と行った単色にワンポイントと戦闘機によく見かけるカラーリングを施された大小様々な戦闘機が並べられている中で一際存在感を放つ赤いF-4が有った。

それを見つけたバトラは我が目を疑った。

 

「(赤いF-4!? と言うことはヴァラヒア戦争初期……)」

 

己の記憶を元にもう一度だけアンタレス01を見直す。

アンタレス01は小首を傾げる。

 

「ここは……何処だ?」

「え? ここはMS社の戦闘機用第5格納庫よ? 何処か頭をぶつけた?」

 

その言葉にバトラはフラついた。

バトラが現在、使っている格納庫は第1格納庫で第5格納庫は入社直後でアンタレス隊が編成された直後からヴァラヒア戦争中盤まで使用していた格納庫だ。

「(俺は)フランスの空母に居た筈だ……」

「どうしたの? 本当に大丈夫?」

 

アンタレス01にとっては訳がわからない事を話すバトラを心配したのか、近くのベンチに落としたFA-MASを持って、横にさせ、アンタレス01はバトラに膝枕する。

 

「未来奈さん……自分は……」

 

その安心からかバトラの口は自然とアンタレス01の本名とつい最近有った事を話す。

 

「なぁに?」

 

未来奈は弟に話しかける姉の様に返事を返す。

 

「またさ……戦闘機パイロットととして、金を稼ぐ様になったんだ。敵を墜とし、殺して」

「ふぅん。凄いね」

 

未来奈の手がバトラの髪を撫でる様に動かす。

 

「でも、私個人では賛成できないかな?」

「何故?」

「だって、私の機動でレーダー誘導や意識を切らさない人が居なくなるんだもの」

 

その言葉にバトラは赤い目を細める。

 

「ありがとう。でも、大局がそれを許さなかった」

「まるで、今やっているみたいな言い方。機体は何?」

 

額に手を置く未来奈にバトラは目を合わせて告げる。

 

「RF-4TB ファントムⅡ」

「私の機体? どういう事?」

 

未来奈は今、乗っている愛機にバトラが乗っていると聞き、不思議に思った。

 

「サンフランシスコ最終決戦前に機体を無くして、あんたから譲り受けたんだ」

「サンフランシスコ? 最終決戦? え?」

「そこであんたは……スレイマニに撃墜されて、KIA(戦死)したんだ」

 

その言葉に未来奈はバトラの頭を両手で抱く様にする。

 

「貴方が何を言っているのかわからないけど……私は今、ここに存在する。貴方の側に居るわ」

 

暖かな感触にバトラの気持ちが崩れ、張り詰めた心が緩んで行く。

ぬるま湯に身体を沈めた様な気持ち良さにほどけた意識が安らぎと言う海に溶けて行く。

 

「(あれ? 俺って、こんな無茶や無理をしてったけ? 戦争で仲間も友人も、尊敬すらも失った。でも、違った。失っていないこの気持ちの良い時間がある)」

 

バトラが少年兵として従事する間、バトラの心は荒み、張り詰め、ボロボロになっていた。それを未来奈は優しさと愛情。そして、信頼を持ってバトラの心を癒した。

そんな自分に抱かれているその事実と暖かな雰囲気に当てられたバトラの瞼がゆっくりと降りて行く。

 

『違いますよ』

 

一瞬の白い閃光が薄れゆく意識を覚醒させる。脊髄の奥でガソリンが爆発した感覚と共に筋肉が戦慄(わなな)双眸(そうぼう)が見開く。

同時に目に映ったのは漆黒の影法師。目鼻もない不定形の塊がバトラの顔を覗き込む様にしながら頭頂部と顎を持っている。

バトラは驚きよりも先に表情1つ変えずに右足を地面に置かれたFAーMASを踏み、FAーMASを宙に浮かせるとトリガーのあるグリップを持たない方の手で握るグリップを右手で掴むと同時にハンマーの要領で影法師の頭ををぶん殴る。

 

影法師が吹き飛び、頭から影法師の手とでも呼ぶべき物がなくなると同時にベンチから立ち上がりながらジェグリングの様にFA-MASを空中で回し、落ちてくるFA-MASを右手でトリガーのあるグリップを握り、セミオートに切り替え、左手でコッキングレバーを動かして弾丸を装填し直す。

装填が終わると同時に右手1本だけでのセミオート射撃を倒れている影法師に放つ。

影法師は立ち上がろとする所を銃弾を受けるが何とか立ち上がる。

バトラは影法師が立ち上がる前に両手でFA-MASを保持し直し、立ち上がる瞬間にセミオートで射撃した弾丸が当たると同時にFA-MASの銃口の位置を影法師の頭に調整しフルオートに切り替え、影法師が完全に立ち上がると同時に銃口が輝き、鉛弾を発射する。

バトラは銃口を滑らせる様に射撃をしながら動かし、人間でいう頭から心臓に当たると場所に撃ち込む。

やがて、銃からは残弾を撃ち切った時に出す『カチンカチン』と言う独特な音を発する。

 

『よく見てください。しっかりと認識して下さい。貴方自身と貴方が居るべき世界を』

 

その言葉が聞こえると同時に周囲が音もなく、シャルル・ド・ゴールの船室に変わっていた。

そして、足元にはデフォルメされたベルクト。目の前にはFA-MASの銃弾と銃床で無残な姿になった壁に備え付けるタイプの無線機が有った。

 

「ベルクト……」

「ベルクトと言えば、ベルクトですが、シャスチと呼んでくれたほうが的確ですね」

「そうか……ありがとう」

 

シャスチを掌に乗せながら礼を言うバトラに「なんですか?」と聞くシャスチだが、バトラは「気にするな」と言う。

 

「貰える物は損しないなら貰っておけ。それとあの中尉は?」

「なら、貰っておきます。というか、人の事を心配できるんですか? 敵の罠にはまった様な状態でしたよ? うなされて、動いたと思ったら、大道芸みたいな動きして無線機を破壊するんですから」

 

痛いところを突かれて、言い淀むバトラにシャスチは何が有ったか聞き、バトラは未来奈の事を伏せて、何が有ったのか覚えている限りの事を話す。

シャスチも2、3質問すると口を開いた。

 

「パッチワークって言いましたよね? つまりは様々な空間に様々な空間が繋がっているんです。つまり、バトラさんが本社の格納庫で過去に飛んで行っても可笑しくないんです」

「成る程な。ブーランジェ中尉と合流するルートはわかるか?」

 

自分でもある程度予想がついていたため混乱すること無く、シャスチの言う言葉を信じるバトラ。

 

「ヒドゥンクレバスだらけの氷河でできた迷宮を歩く様な物ですね。落ちれば摩訶不思議な領域に落ちて、脱出を諦めないといけないどころか、存在そのものが無くなりかねません」

「いい例えだな。となると船員は皆、クレバスに落ちて、救出困難だな。よし、救出や捜索は切り上げて、目的の物だけ貰ってトンズラするか」

 

それにはシャスチも同意し、いざ、フランス人メンバーと合流をと考えて、直ぐに足を止めた。

ヒドゥンクレバス、つまりは雪で隠れた氷河の深い隙間の事。そんな物が点在する場所で動き出す人間は居ない。

 

「何処にクレバスがあるかだな」

「現象が分かれば、対策は意外と簡単です。五感以外で場所を見れば良いのです。こんな感じに」

シャスチが無線機の切れた配線に触れる。

それを見てバトラは大体の事に察しがついた。

 

「レスポンスのズレで空間のズレを把握するのか」

「色々、端折ったらそうですね。こっちです。エスコートします」

 

3分の道のりの間に銃の受け渡しとシャスチの一件で交流を持ったフランス兵2人と運良く合流したバトラ達はブーランジェと別れた場所に着くが、ブーランジェも少女の姿も無かった。

 

「何処に?」

「格納庫に行こう。最終目的地はそこだし、早くついたならこのメンバーでできるとこまで回収の準備をしておいても良いはずだ」

「そうだな」

「ああ、行こうか」

 

4人はシャスチの指示の元に格納庫へと向かい、最後のハッチを開けると別のハッチから格納庫に入ったブーランジェ達と合流するが、他のフランス兵達の姿は無かった。

「再会の喜びは後だ。ドーター化されたラファールを探せ!」

 

バトラの言葉に全員が探し出すが案外早くにそれらしい物を見つけた。

雨避け用のカバーを被せ、それをワイヤーにフックを付けたもので床に固定されているラファールの様なシルエットの小山。

 

「これだな」

 

急いで全員がカバーを外しにかかるが最も外さなければならないフックが潰れ、外せない状況になっているのを慧が見つける。

 

「バトラ。フックが!」

「退いてろ!」

 

DA45Cリボルバーを構え、発砲する。

45ACP弾は歪んだフックを破壊してワイヤーを外せる様にする。

カバーが全て取られるとブーランジェがアニマ用のコクピットに調整を開始する。

5分後にはグリペンと慧が乗れる状況になるが、ダイレクトリンクが繋がらないのか、ラファールが動き出す素振りを見せない。

 

「や……やられました」

 

シャスチの震えた声がバトラの耳に届く。

 

「何?」

「多分ですけど、ザイ達はラファールが欲しかったんです。理由はわかりませんが、手に入らない新兵器が敵の手に渡り、確実な脅威になる。そんな時にどうしますか?」

「俺なら破壊する……おいおい、まさか……」

「そのまさかです。ザイが攻撃を始めした」

 

その言葉を聞いたバトラの行動は早かった。

 

「グリペン! 調整は甲板でやれ! 他の人間はその手伝い! シャスチは甲板の機体経由で甲板にいるフランス兵に俺とラファールの発艦準備をする様に教えろ、それが終わり次第は撤収の準備をする様にもだぞ!」

 

有無言わさない雰囲気にフランス兵達もブーランジェ達も動き出す。

バトラはシャスチのエスコートを受けて、一足先に甲板に上がろうとする。

 

「この道を真っ直ぐです。それと甲板に出たら、私を機体に戻して下さい」

「了解した」

 

甲板に上がると人形の様だったシャスチが花の胚の様なコア戻る。

そのコアを機首が花のように開いている白いザイに戻し、バトラはRF-4TP-AZJに飛び込むように乗り込む。

甲板のフランス兵達の手により、カタパルトに乗せられていたお陰で直ぐに発艦できるようになっていた。

 

「直ぐに出る! 離れろ!」

 

機体の後ろにジェットエンジンの熱波を防ぐパネルがせり上がり、蒸気カタパルトが作動する。

フランス兵の1人が発進の合図である手を艦首の方向に向け、膝を曲げる動作をすると別のフランス兵がカタパルトの発射スイッチを押して、RF-4TP-AZJを発艦させる。

それに続いて、シャスチがシャルル・ド・ゴールの左舷から右舷へ横腹を突っ切るように機体を動かし、右舷を過ぎると【零式艦上戦闘機】のように少し下に下がってから、高度を上げて行く。

 

バトラは旋回上昇で、高度を稼ぎながら機首をザイが飛んでくる方角に向ける。

 

<<海面ギリギリから自爆型ザイが多数接近。その護衛の制空型も確認できました>>

<<奴さんは相当、沈めたいらしいな>>

 

自爆型のザイにアクティブ・レーダー・ホーミングでミサイルを発射したバトラ。

ミサイルは真っ直ぐに飛ぶ自爆型のザイに寸分狂わずに命中し、付近の海水を押し退けるほどの爆発を生んだ。

 

<<うおっと!?>>

<<キャア!?>>

 

爆発の余波がかなり離れた場所を飛んでいたバトラとシャスチにも届き、機体を小刻みに揺らす。

そして、立て続けに爆雷や機雷が爆発したように巨大な水柱が立つ。

 

<<不味いな。さっきの爆発で自爆型を海中にボッシュートされて、爆発した訳だけど……>>

<<この距離で対潜爆雷と同じ大きさ……機銃の距離だと海面に落ちかねませんね>>

 

自爆型ザイの炸薬の量に本気で引き気味のバトラとシャスチ。だが、この事実は同時にミサイルでの撃墜は限界があり、機銃での撃墜が厳禁を意味していた。

 

<<どうしましょう……>>

<<後で考えろ! 制空型が来るぞ!>>

 

自爆型ザイのは全滅したが、護衛任務から制空任務に切り替わった、制空型ザイがシャスチを除いたスライス制御ザイに阻まれるが、その数を前にベルクトのスライスザイもファントムのスライスザイも抑えきれず、数機は甲板に出てきたラファールを狙う。

 

「させるか!」

 

機銃を制空型ザイに発射して撃墜する。

「(連射速度を落としてきて正解だったな)」

 

バトラはこの時の為に機銃の連射速度を落としてきていた。

連射速度を抑えれば、弾丸の消費速度も落ちるので結果的に継戦能力は高くなる。だが、良いことづくめではない。

航空機銃というのは命中力を連射で補っている所が強く連射速度低下は即座に命中率の低下に繋がる。

 

<<バトラさん!? 近すぎます!?>>

 

シャスチの警告がバトラ耳を叩く。

連射速度を落とした機銃をしっかりと当てる為にバトラはザイにギリギリまで接近し、性格にエンジンや主翼を捥いで行く。

その攻撃方法はさながら、戦闘機なるの居合斬りのような物だった。

 

<<グリペン! 早くしろ! こっちの武装が持たなくなる!>>

 

そう言って、10秒程たった後にラファールが黒く染まり、赤いハニカム模様が浮かび上がる。

 

<<ムッシュバトラ。飛び立つまで援護を頼めるか?>>

<<理由は陸上で聞くぞ。任せろ!>>

 

そう言った直後にザイがラファールの発艦コースに被さるような飛行をする。

発艦前にヘッドオンで破壊するのか、衝突覚悟の発艦阻止か。

 

<<やらせるかよ!>>

 

バトラが操縦桿を斜めに引き倒す。

機体は半分ロールして、急降下を始める。ザイとバトラのRF-4TP-AZJとの位置関係でミサイルもガンも届かないが、バトラは近接武器武器を持っていた。

 

<<折れろぉぉぉぉ!!>>

 

RF-4TP-AZJの主翼をザイの主翼に当てて、叩き折ったのだ。

その光景を見たブーランジェは声を出して驚き、グリペンと慧は久し振りに見たというような顔をみせる。

 

翼が折れたザイは錐揉み回転しながら艦首にぶつかり粉々にされる。

RF-4TP-AZJは粉々に砕け散るザイを背景に海水を押しのけながら低空飛行して離脱していく。

 

<<離陸後は直ぐに撤収しろ機銃くらいしか持ってないだろ?>>

<<そうしたいのは山々だが、回収部隊の撤収まで時間を稼がねばならない>>

<<敵も撤収しないしな。無理はするなよ>>

 

もう1度高度を上げて、位置エネルギーを得始めるバトラ。

ラファールは回転して、機体を逆さにすると機銃を放ち、敵編隊を足止めすると同時に左バンクで機体を傾けて180度旋回、ザイを振り切る。ザイの後で飛来したミサイルはコブラとチャフ・フレアで凌ぎ、コブラ機動からそのままループして、振り切ったザイがもう1度後ろに着こうとした所を逆に後ろ着き、機銃を放ち撃破した。

 

トゥエルブもラファールと合流するが、水平飛行した所をザイの攻撃が飛来して、トゥエルブが撃墜される。

バトラの前方からもトゥエルブを撃墜したザイと同じタイプのザイが突っ込んできていた。

バトラは慌てずにエルロンロールをしながら横移動をする機動で衝突を回避してから、左に機体を旋回させる。

ザイもバトラを追うように右に旋回させる。

 

Y字型で後ろに長くシャープで従来の制空型に比べて、翼の枚数が多い機体はバトラが初めて見るザイだった。

 

「新型か……旋回性能が強化されてる……」

 

だが、それだけで墜とされるようなバトラではない。

旋回半径の差で射撃の機会を与えてしまい、ザイは確実に仕留める気なのか、バトラに限界まで近づいてから機銃を発射するが、発射される一瞬前にバトラは機体を水平に戻すと同時に上昇。ザイが視界の端に移り始めた位でラダーをかけて、翼端を軸に90度ターンを行い、逃げる敵を視界に捉えると同時にミサイルを発射する。

 

ミサイルは逃げようと単純な旋回をし始めたばかりの敵機を貫き、バトラはミサイルを撃つと同時に上昇していたので破片の被害を受けずに済んだ。

 

ラファールも海面近くでザイを撃墜したのか少し離れた場所に円形の波が立っている。

<<第2波と第3波を補足、第2波はこちらでどうにかできる。FOX2>>

 

RF-4TP-AZJからミサイルが発射され、第2波の中央の自爆型ザイを撃破し、爆発の余波で第2波は2機にまで減った。

 

<<仕留め損ねた!? クッソ、どうする>>

<<バトラさん。提案が>>

 

通信機から慧の提案を聞いたバトラは笑みを浮かべた。

<<成る程、それなら火気はないから大丈夫そうだな。やるか>>

 

バトラが機体の高度を下げる。

自爆型ザイの後ろから接近する形で近き、並走すると翼の先で自爆型ザイの左右に長い直線翼を優しく掬い上げた。

姿勢が乱れたザイはフラフラと飛ぶが低空飛行していた所為か海面に翼が入り、頭から埋もれるように海面に入り、爆発した。

 

やったのは第2世界対戦時代にドイツの【V1ミサイル】を撃墜する際にイギリス空軍が使用した方法だ。

V1ミサイルの主翼に戦闘機の主翼を使って、体勢を乱れさせて墜落させるという原始的な方法だった。

 

だが、第3波の5機がシャルル・ド・ゴールに迫る。

スライス制御のザイもラファールもバトラも間に合わない位置。回収部隊のティルトローター機はプロペラが回り始めているが離陸にはもう少し時間がかかる。

自爆型ザイはポップアップをし、直上から襲いかかろうとする。

 

<<<<スラッシュ>>>>

刹那、上昇中の4つの弾体に青い筋が突き刺さり、遅れて最後の弾体が爆発する。

 

バトラが視線を青い筋が飛んできた方向に向けると一際目立つガンポットを搭載したAー10が2機飛んで来ていた。

 

<<BARBIE02、参上!>>

<<お待たせしました。只今より復帰します>>

<<やっぱりF-2Xを持ってくるべきでしたね>>

<<初めての海外基地という事もあり、少し手こずりました>>

 

サンライトイエローのF-15JにブリリアントブラックとクリスタルホワイトのA-10AにエメラルドグリーンのRF-4EJが飛行していた。

 

<<バトラさん! 後ろ!>>

 

その通信と共にスノーホワイトのSu-47がバトラの後ろを飛んでいたザイを30mm弾で破壊する。

その後は勢い付いたスライス達も加わり、制空権を確保した所でティルトローター機は水平飛行に移行して、撤退し、戦闘機達も手持ちのミサイルを斉射した後に撤退する。

 

安全圏に入った辺りでベルクトがバトラの横を、ファントムがラファールの横を飛び始める。

 

<<お疲れ様です、バトラさん。具合は大丈夫ですか?>>

<<ああ、問題無い。そっちはスライスはシャスチ以外墜ちてるだろう?>>

 

実際、回りを飛んでいるザイの殆どはエメラルドグリーンのザイであり、スノーホワイトのザイは1機しかいない。

 

<<もう少し、鍛えないといけませんね。問題はありません。撃墜されたスライスは全部シャスチに集まっているので>>

<<お前の技量に依存なのか。そういえば、、スライスを解いたザイはどうする?>>

<<逆方向に飛ばすプログラムを入れてから、正気に戻させます>>

<<なんなら撃墜しようか? お前の標的機をさせてもいいだろう?>>

 

その発言にファントムも乗っかる。

 

<<そうですね。スライスを全部戻せば、唯のザイですからね。標的機になって練度になって貰いましょう>>

 

その言葉の通りザイはベルクトの標的機となり、全機撃墜された。

ベルクトはまだ、バトラと話したいのか秘匿回線を開く。

 

<<へえ。同行したのはシャスチなんですね。生き残ったのもバトラさんの近くを飛んでいたから……み、見たんですか? バトラさん>>

<<ん? ああーーパウダーピンクのレース付きな。似合ってたぞ>>

 

ラッキースケベを隠すことなく話しバトラ。心情は隠しても意味が無いという開き直りの為にいっその事褒めて羞恥心を刺激させ、威圧感の排除が目的と言ったものである。後はバトラが見た物を見ていないという不誠実な人間では無いことからだ。

 

<<あれー? なんでファントムもベルクトも顔赤いの? EGGも凄いことになってるよ? 何処か被弾した?>>

<<してません! 勝手にモニターしないで下さい!>>

<<それは、ファントムさんも同じですよ!!>>

<<ムッシュ鳴谷もムッシュバトラも男性だからな。興味があるのは仕方ない。至極正常な反応だ>>

<<初実戦で一皮剥けましたねブーランジェ中尉>>

<<詩鞍の言う通りね。声に棘や冷たさがなくなりました>>

<<ファントムもやられてたのか? 因みにどんな?>>

<<ギンガナムチェックのレース付き。可愛かった>>

<<本人が聞いてる所で話題に出すな鬼畜か!? いない所でもダメだけど!>>

 

軋るような音がした後にバトラと慧に直接通信が届く。内容は奇しくも同じ内容だった。

 

<<<<責任取って下さいね>>>>

 

 

 

 

 

 

4日後。

八代通の招集にMS社の戦闘機パイロットとアニマ、慧が集められ、八代通は書類を片手に口を開いた。

 

「悪い知らせだ。中国沿岸にまたザイが集結しているようだ。連中がすぐに海を越えることは無いと思うが、何かあるかもしれんが、今までの事を考えると厳重な警戒が必要だ」

 

部屋の空気が強張る。

 

「これを受けて、独飛の警戒ソフト・エリアを拡大見直させてもらった。具体的にはーー」

「同時多方面攻撃を想定して、アラート待機体勢の増強とソフトを高密度化、それに伴うバックアップ体制の整備か?」

「バトラの言った通りだ」

「非現実的です」

 

ファントムは八代通とバトラの言葉に否定的だった。

「今の状態でも我々はギリギリの体制です。正直言えば、1機欠けたらかなり危険な状況になります」

「そんな状況で体制強化は土台無理だ。グリペンに至ってはアラーム待機をフルタイムでは入れられないぞ」

「やれと言われればやる。でもできないことをやると言うのは無責任や思考停止」

「航続距離の問題もある。長距離を飛べるのは俺やベルクト、片宮姉妹のA-10位だ。武装を減らすのか? 空中給油機を護衛すれば良いのか?」

「えー! イーグル、ミサイル積めないのは嫌だよー! 給油機とか守ってたらまともに戦えないし!」

「皆さん静かにして下さい。八代通さんが困っています」

 

騒がしくなる。会議室を詩苑が一声で制する。

 

「八代通さんは何も無計画にそんな事を言うとは思えません。戦力追加の目処が立ったからこそ、こんな事を言うのでは?」

「察しが良いな。今から、独飛に新しく合流するメンバーを紹介する。入ってくれ」

 

扉が開き、硬い靴音響かせて細身のシルエットが入ってくる。目を丸くする独飛メンバーの前で八代通は首を向けた。

 

「改めて紹介しよう。フランス海軍、ダッソー・アビアシオン、アビオン・ミュルティローレ、Rafale-ANMだ。本日より独飛のメンバーとして防空任務に就く。暫くなれない所も多いが皆、サポートしてやってくれ。頼んだぞ」

「え? ええええ?」

 

理解が追いつかない慧にラファール(ブーランジェ)は笑いを含んだ声で話しかける。

ビスクドールのような顔は優しく綻んでいる。

 

「え? だって、中尉はフランスに帰るって」

「調整が終わり次第、と言っただろう?私はまだ1度しかドーターと同期を成功させていない、暫くは技本のサポートを受けつつ本国のスタッフ共々、運用ノウハウを蓄積させて貰うつもりだ。勿論、ただとは言わない。きっちり労働で対価を支払わせて貰う」

「対価」

「空を征き人類の脅威を倒す。我々、アニマの本分だ。言うまでもない」

 

ラファールは悪戯っぽい笑みを浮かべて、慧に数歩近寄る。

 

「という訳でムッシュ鳴谷、君には約束を果たして貰おう。次に会ったら人間らしい事を教えてくれると言ったな? 手始めに基地での生活を手ほどきしてくれないか。人生の先輩、人類社会の先達として」

 

その言葉で周囲に視線を突き刺される慧は茹で上がったエビのように顔を赤くして、慌てふためき、その様子を全員から一歩引いた位置でバトラは一昔前のアンタレス隊のようだと思いながら、クスクスと笑っていた。

 

「(アンタレス01……いえ、未来奈さん。俺はまだ、そっちに行けません。だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女みたいにこいつらを置いて行けませんし、貴方への土産がまだ足りないですから)」

 

部下を置いていかない隊長。それが彼の思う最高の隊長。隊長として、貴女を超えると笑顔の裏で故人に話しかけるバトラが居る小松基地は平和を謳歌している。




第5巻終了です。
ラファールが新メンバーとして独飛に合流。慧君の胃は持つのか!?

そしてバトラの最後の言葉。
バトラの機番が02なのも気付いてた人が居るでしょう。

最後にこの小説の更新は第6巻出版までない予定です。
オリジナル話として日常もあるでしょうが構図というか何を書こうか出てきません。
ほのぼの日常書ける人って尊敬します。

何か感想・ご意見がありましたら感想やメッセージをお願いします。

次回の更新までに自機を整備・修理・補給を済ませたものからアラート待機だ。

追記
後々に活動報告にアンケートを行います。詳しい事は活動報告を見て下さい。

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