8月28日午前10時丁度に3機の航空機が降りてくる。
巨大な図体にレドームの4発機と同じ外見のかなり小型な機体。
否、小型の機体は一緒に飛ぶ機体が巨大過ぎる故の結果だった。
「デカイな……あんな空中管制機が有ったかな?」
目の前の滑走路に着陸する巨体。その直ぐ後を同種の戦闘機が2機、着陸する。
カノープスのパイロットが前日のベルクトの話の時に居なかったのは本社の工場からこの機体は受領する為だった。
何でも、EPCMをAZJシステムの応用で何とかする目処が着いたが装置が巨大化して既存のAWACSと言った電子戦機に載せられるず、改造品を新たに作ったらしい。
小型機はA-10の2機が遂に悲鳴を上げた為に急ピッチで名古屋空港から飛んで来た2機だ。
F-3 震電Ⅱの対抗機として2機作られた。F-2X バイパーゼロ。
F-2Bの発展強化型としてF-16E/Fを元に開発された。
震電Ⅱと同じエンジンに変更した事で航続距離などの基本性能の上昇とFーCKー1を参考に双発化を成功、推力も震電Ⅱに並んだ。
機体強度と推力の向上により、艦上戦闘機として運用を可能にし、陸上基地からなら対艦ミサイルを5発積んで出撃できるだけの推力と強度を持つ。
だが、発艦なら対艦ミサイル4発とF-3と同等で燃料タンクの巨大化によるガンファイトでの危険性増加。VTOL機能・ステルス性能無しで機動性にも劣る機体として、次期支援戦闘機に震電Ⅱが選ばれた。
機体生産額はこっちの報が安い。
今回、片宮達が載るのはそのレプリカだ。
性能はエンジン以外一緒か同等の物を積んでいる。エンジンは既存のエンジンの改造品で推力を同等に持って行っている。
「こんな巨体を扱える人が居るんですか?」
振り返れば、ファントムが新型の巨大空中警戒管制機を見ながら話しかける。
「旅客機の改造型かな? 旅客機は専門外だ」
「ダッシュ8ですよ。総二階建て旅客機の燃料消費率が改善された機体です」
「成る程、まあ素体は何だろうと関係ない。俺たちの要求に応えられるかどうかだ」
視線を着いた機体に向けるとMS社のオペレーター陣とカノープスパイロットが集まり、機体の中に入っていく。
Fー2Xでは持って来たパイロットから話を聞く片宮姉妹がいた。
カラーリングがF-16の純正カラーの灰色の為に適当に選んだのだろう。
「それはそうと今回の目標に着いて、考えなくて良いんですか? 情報がない無いなりに考えられる事があるんじゃないですか?」
「考えるというか、もう出来てる」
「お聞きしても?」
「ミサイルと機銃弾と爆弾を当てて撃墜する。それだけだ……弾を当てる。それだけだ……」
ファントムが空を仰ぐ。この世の不条理を全て抱え込んだような表情だった。
「何も考えて無いじゃ無いですか」
「柔軟な思考を維持しつつ、臨機応変に対応せよ」
「もう良いです。行き当たりバッタリでどうにかしろということでしょう」
だって、巨体航空機って、何の情報もなしに挑ませられたからね。正直、言うと今まで通りの対応しかできない。
「はあ……作戦空域の情報を確認してきます」
「謝ったり、了解を求めても火に油だろう?」
去ろうとするファントムの背中に投げかけるように問う。
「ええ、そうですね。勝手に外堀を埋められていましたからね」
可能性を示唆しただけでああなったんだ。ああなったのはバーフォードと八代通の責任だ。
俺は関係無いと思うんだ。と言ったら、何されるかわからない。
「不愉快だと思うが、協力してくれてありがとう」
巨大航空機の撃墜を1人でやった事があるが、あれはエンジンのみに集中攻撃したからだからな。
ファントムのようなエースが協力してくれるのはありがたい。
ファントムは呆れたような顔になり、言葉を紡いだ。
「ただ不愉快という訳ではありませんよ、私も白馬のナイトには憧れますからね。願わくば、私が姫君の配役を賜った時も同じように振る舞って頂けることを」
敵次第だろと言う前に手を振りながら去って行った。
というか、第二次海鳥島攻略戦で騎士は演じてやった筈だろうに……
俺も機体の整備と調子でも確認するか。
滑走路を見渡せる場所から機体を駐機してあるハンガーへと移動しする事にした。
ハンガーに移動したらベルクトが俺の機体のすぐそばに佇んでいた。
「どうした、ベルクト。俺の機体に何か用か?」
そう言うと小さい肩と白く綺麗な髪が跳ね上がった。
「驚かさないで下さい」
「悪い悪い。で、何かあったのか?」
「いえ、F-2Aとさっきまでお話ししてたんですけど……」
床を見下ろすベルクト。
さっきまでそこにいたのか……
「何か嫌われる様な事したかな? すまないな、楽しい時間を邪魔した様だ」
そう言って去ろうとした所をベルクトが慌てて止める。
「いえ、決して嫌っている訳では無いそうです。ただ、恥ずかしい様で……」
恥ずかしいってお前……十代女子みたいな反応を……
「F-2Aって10年と少し前の開発だったけ?」
「そうですね。10年そこそこだと言っていました。それとコレはお土産さそうです。全員分は買ってこれなかったので秘密にしていて欲しいと」
そう言って渡されたビニール袋を受け取って中を確認する。
中には大量のブルーハワイ味のちんすこうが入っていた。
「……」
う〜〜ん食欲減退色……
「機体カラーをイメージしてきたそうです……」
成る程ね。意図はわかった。でも……
これって口の水分持ってかれる奴だ。
貰った手前、食べないというのも失礼だろう。ブルーハワイ味は初めてだ。
「……パッサパッサしてるし、喉に残る甘さだな」
そう言った瞬間にベルクトが可愛らしくクスクスと笑い始めた。
「仲が良いんですね」
「そうかな? 食べる?」
『遠慮します』と手のひらを向けて振るベルクト。
コレは苦めのお茶と併用して食べよう。
「あの、前のお話で言っていない事があるんです。私とヤリックとの関係です」
「……公園で見たな……男女の関係だったのか?」
「そうですね。施設の外に出る度に距離を縮めていきました。あの施設でただ、1人の親しい男性。そうなるのも可笑しくありません」
わかるが気がするな……
たった、1人だけが良くしてくれれば特別な感情を抱いても仕方ないのだろう。
「去り際にいつも言うんです。眩しいくて幸せに満ちた未来を……でも、希望を持たせておいて自分は退場しちゃうんですよ。戦闘を怖がったのだって危険から逃げる様にプログラムされていたからですし」
『ひどくないですか?』と笑って話すベルクトに俺はおそらく、ヤリックであろう男の言葉を伝えた。
「私は……2人で生き残りたかったのに……」
伝えるとポロポロと涙を流す。
細い指で一滴ずつ拭うベルクトにハンカチを差し出す。
「ありがとうございます……」
ハンカチを受け取って、何かを聞こうとするベルクト。
「何かあるのか?」
「……どうして、私に気を遣ってくれたのですか?」
そう言う事か……話しても良いだろうか……
いや、語った方が良いだろう。
「そうだな。ヴァラヒア戦争であった事なんだがな……」
ヴァラヒア戦争で大型電磁投射砲【パラウール】の破壊作戦が実施されたんだ。
その時の俺の所属する部隊に4番機の補充として1人のパイロットが編入された。
俺の初めてのウイングマンだった。
俺よりも年下でお前と同じ、白い髪と皮膚に紅い瞳の少女。名前をサーシャ・V・ヴァクーニアと言った。
俺たちの仕事は敵電磁投射砲への攻撃だった。
俺がF-16XLにサーシャはSu-25だった。
制空権は押さえ気味だったから戦闘機はそんなに飛んでいなかったんだが、電磁投射砲の対空射撃を回避しながらの接近になった。
大口径の電磁投射砲はその弾の付近にも航空機なら簡単に撃破できるだけの衝撃を作る程だったから回避は大変だった。
そして、何回目かの回避の後にパラウールを姿を目視で捉えた瞬間だった。
おそらく、最後の砲撃を回避できれば攻撃できるという所に来て電波妨害が発生して、それを破壊する間に砲撃がくる時間になった。
俺はパラウールに比較的近かったからパラウールの横をすり抜けて射線から一旦、逃げたんだ。
サーシャは距離があったが高度が高かったから降下して逃げ様とした瞬間に対空機銃の攻撃を喰らって、バランスと推力を失った所にパラウールの砲撃が直撃した。
サーシャは呻き声すらあげる暇無く、機体と共に消滅した。
脳裏に浮かんだよ。
笑顔で呼びかけるサーシャんに拗ねたサーシャや訓練で負けてふくれっ面になるサーシャ。整備を手伝いがるサーシャに整備員からの頼まれごとを嫌な顔1つせずに請け負うサーシャ。
たった数週間の付き合いだったが色々なサーシャが脳裏に鮮明に浮かび上がったんだ。
わかっただろう。
お前にサーシャの影を重ねていたんだ。
お前をサーシャとして接した時もあったな。訓練や整備の時だけなんだが、サーシャが戻ってきた様な気がしたんだ。
死体が残らない死に方をしたのにな。
俺がサーシャをどう思っていたかだって?
どうなんだろうな?
俺は初めてのウイングマンとして色々と接し方を考えていた時期でそれ以外の見方や接し方をしていなかったかもな。
でも、サーシャはそうじゃなかった。
なんで、わかるかって?
簡単だよ。戦死してから部屋の整理をしていたら俺宛の手紙が出てきたんだ。
その手紙は今でも保管してある。
あいつは俺を長機のパイロットとしてと同時に1人の男として見てくれていた。
もう少し、接し方を考えていれば、長く生きていれば気付いたかもしれないがな。
所詮はれば・にら・ならのifの話だ。
後悔はしているし、無茶でも爆撃していたら助けられたかもしれないと考えた時もあったが、起きた事実として受け止めた。
もう、悲観はしていない。ただ、初めてのウイングマンであり、初めて男として好いてくれた女として忘れられない人にはなっている。
話はここまでだ。聞いてくれてありがとう。
2人の間に長い沈黙が降りる。
「……片宮さん達の事はどう思っているんですか?」
「仲間。それ以上でもそれ以下でもない」
ベルクトの瞳を見て話すバトラにベルクトは何かを言おうとしたが、口を寸前で閉じる。
「では、貴方はこの戦争を生き残りたいですか?」
「当たり前だ。死にたがりでも、英雄願望がある訳でもない。生き残りたいから訓練するんだ」
バトラが何を言っているんだと不思議な感覚に囚われる。
「仲間と生き残りたいですか?」
「俺はそう思っているが、そうなるかは俺と仲間達の行動の結果次第だな。俺は運命というのを信じない主義だ。この世の事柄は全て結果でできながっていると考えているからだ」
立ち上がりながら話した内容にベルクトが悲しげな表情を浮かべる。
ベルクトにはバトラがさっきの話以上の悲しみを背負っているのだと思う事ができた。
「ベルクト。今回の相手は墜とす事と自衛で手一杯になる筈だ。自分の身は自分で守れよ」
歩き出したバトラが立ち止まり、言葉を紡いだ。
「ああ、それと最後の生者の思いだ。死者の事を思うのも美しいが生きている内の最後の願いや思い位は果たしてやりな」
それが最大の手向けになると、残して機体の方へ近づいていくバトラを、ベルクトは黙って見送る事しかできなかった。
(どう見ているか……か)
整備と火器管制を見直し終えたバトラがコクピットに座ったまま腕を頭の後ろで組み、考えていた。
(大切に思うだけで、仲間が救われる訳じゃない……逆に無くしてしまうものだ……)
大切な思った仲間から二度と会えない世界へ旅立って行ったバトラには難しい問題だった。
「詩苑に詩鞍……」
「「呼びましたか?」」
機首の下から聞こえた2人の声に慌てるバトラに両サイドにタラップが取り付けられた。
「どうかしましたか?」
「考えごとですか?」
相変わらず、鋭いと吐息を吐く。
「お前達は俺もどう見ている?」
「どう見てる……ですか?」
「どういう意味ですか?」
「直感で答えてくれ」
そう言うと詩苑も詩鞍も顔を赤くして俯く。
「……頼りで優しくて、でも厳しい所の兄の様な人です……」
「……ノリが良く、危なかしい事をする兄の様な人です……」
「ありがとうな。明日の作戦に備えてもう寝ろ」
そう言うと2人は降りて行き、自室へと戻って行くルートに着いた。
バトラはそれをコクピットの中から見送り、また、プログラムの確認を行った。
確認が終わるとコンソールの全ての電源を切り、コクピットから降りて、自室へと帰らずに開け放たれたままの機体が出て行く出入り口からそれを出る。
格納庫の外に出ると旅客機のエンジン音が一段と大きく感じつつ、バトラが旅客機が飛んでいく方向とは真逆の方向の空を見る。
見上げた先には薄い雲から月明かりが漏れ、月だけで見る月光とは違った幻想的な月光が視界に映る。
バトラは己の両腕を見ると、本人でも気付かない程の小さな震えが確認できた。
「畜生……怖がってる……」
巨大航空機、巨大兵器に自分の所属部隊員を多くやられたバトラにとって、無意識な恐怖があった。
バトラがへその部分で両手を打ち合わせる。
巨大ザイとの戦闘場所は日本海 大和堆上空
作戦開始日時は8月29日 明朝8時
戦闘開始予定時刻 10時
作戦名【亡霊成仏】
次回はいよいよ、エスコンの代名詞的な存在、巨大エネミー戦です。
難産の予想です!