ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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やっと、終わった…… ベルクトの独白が難しかったよ。


作戦21 3回目の悪夢

私の名はベルクト。Su-47のアニマです。

ロシアには他に2機のアニマが居ますが、私の出自は彼女達とは随分異なっています。

 

どういうことか? と思いになったでしょう。

 

私は邀撃戦も護衛戦闘も侵攻戦も行わないドーター、戦闘機です。

 

意味がわかりませんよね? 少し順序立てて説明します。

 

ザイ戦が始まってから数ヶ月後、ロシアの科学者達はとあるシミュレーションを行いました。実戦の撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)をベースに、一体どれだけの戦力を用意すればザイを駆逐し、この戦争に勝利できるか。

 

結果は冗談じみたものでした。

 

ザイの戦力を最低限に見積もっても……仮に自衛隊と同数の300機としましょう。

その全滅には1万以上の作戦機、もしくは6000機以上のAZJ戦闘機か3000機以上のAZJ戦闘機と戦略級エースパイロットのペア、あるいは30機以上のドーターが必要です。

ロシアはこれに対して、1000機程度の戦闘機しか持っていないと言えばお判りでしょうか?

ロシアは戦力比だけで見れば、戦う前から既に敗れているのです。ですが、政治家や軍人は戦力の充足とは別の方法で戦争勝利への道を模索します。

 

そして辿り着いたのです。

 

彼らは旧ソ連時代に受け継いだ膨大な核戦力に目をつけました。政治的・倫理的にも使用不可能なこの兵器を対ザイ戦に使えないかと。

大量破壊兵器で空域ごと吹き飛ばしてしまえば、ザイの高機動性能もEPCMも関係無しに殲滅できるでしょう。

 

ですが、これにも問題があります。

ザイが核の危害半径に留まり続ける訳がありません。科学者達は危害半径にどうやってザイを留めるか。興味はそこに移りました。

 

研究の結果からザイのEPCMには複数の役割がありました。

1つは皆さんご存知の電子・感覚妨害です。もう1つはザイ同士の通信・信号です。

詳細まではわかりませんでしたが、このEPCMでザイは編隊の形成・散開・協調などを行います。

 

わかりましたか?

 

ザイのコアを使用したアニマとドーターならEPCMを発生させる事ができる。それを意図した形で発生させる事が出来れば、ザイを核の危害半径に収めるなど簡単な事なのです。

 

もう、お判りですよね。

 

私は敵を釣る為の餌、囮です。

ザイを核の危害半径まで誘い込み、私ごと破壊する計画。

科学者達はこの計画を【誘蛾灯】計画と呼びました。

 

では、何故に私は存在が隠されたのか。今までの話を聞けば1機のドーターでザイの戦力の大部分を破壊できる計画なのにです。

 

八代通さんとバーフォードさん。バトラさんも気付いた様ですね。

 

この【誘蛾灯】ですが使い方を変えれば、ザイに他国を襲わせる事も簡単なのです。

天災を自分達が思った時に思った場所で起こせるとも言える物です。

 

万が一、他国に【誘蛾灯】が漏れれば、同じ物を作った他国がやられる前にやれと言わんばかりに送り込む筈なのです。

そう、冷戦時代の核に焼かれる前に焼け。焼かれたら倍で焼けという様な核を核で洗う様な戦いが。

 

故に軍の装備リストからも削られて、いざ、使用すればザイ諸共核の炎の中です。

私というアニマは誰にも知られる事なく、研究終了を待っている筈でした。

 

ええ、その筈でした。ヤリックと呼ばれる科学者に会うまでは。

 

私が物心つく頃には彼は隣に居て、右も左もわからない私に色々な事を教えてくれました。

音楽・歴史・映画、海と空の間に存在する無数の出来事に着いて。

 

ヤリックは言いました。

『君は希望なんだ』

『君から得られた技術を発展させれば、いつか僕達はザイと対話できるかもしれない。そうすればこんな【誘蛾灯】なんていう野蛮な計画は必要無くなる。彼らの思いと僕達の思いの折り合いのつくところを探ればいいんだからね』

 

明るい未来を語りながら、彼は私を外に連れ出してくれました。ごく稀に、本当に短い時間だけでしたけど施設以外のところを歩かせてくれんたんです。

 

ですが、彼の立場が悪くなっていると気付いたのは随分後になってからでした。

計画の方針を変更しようとしたか、テストの遅延を試みたのか、上層部に異議を唱えたのか、あるいはその全てか。

 

真偽のしれない噂が増えると同時に彼との接触も減っていきました。

別のプロジェクトに移動してしまうかも、そんな事を思っていたある日の事です。

 

何の前触れも無く、ヤリックが私の前に現れました。

別の検査を控えていた私とヤリックが会う可能性はゼロ以下でした。それでも会った事に驚く私にヤリックはただ、一言だけ『ついてくるんだ』と言って、ドーターの格納庫まで連れ出しました。

 

言われるままにコクピットに乗り込んでダイレクトリンクを行った瞬間に何かの処置を受けました。

今ならわかります。記憶の封印措置とEPCMの無効化措置です。

 

警報と足音が響く中でヤリックは微笑みかけてきました。

 

『これで君はもう普通のアニマだ。【誘蛾灯】なんていう馬鹿な兵器はもう存在しない。Su-47-ANM ベルクトはただの戦闘機として生きていくんだ。そして、願わくば、いつか君の力を使ってザイと会話して欲しい。彼らは何を望んでいるのか聞き出して欲しい。いいね』

 

警備兵が銃を構えるのも構う事なく、強引にキャノピーを閉めます。

 

『さぁ行け! 飛行ルートとナイトは用意してある。君は自由だ』

 

その言葉が最後の言葉でした。機体搬送用のエレベーターに運ばれながらエンジンが点火。全ての動翼がはためきます。

 

最後に見たのはネクタイをはためかせて笑いながら此方を仰ぐヤリックでした。

全てをやり遂げた様な満足しきった顔で。後ろから駆け寄る警備兵の事を気にした様子も無く。

そして、私は意識を失いました。

 

気がつくと雲海の上をただひたすらに月明かりに照らされて、夜闇を排気炎で切り裂きながら飛んでいました。

以前の記憶は無く、唯一亡命だけが私の目的になっていました。東に進み、ロシアの領空から逃れる事。

その為に追ってを振り切る最中にバトラさんと会い、その後に独飛の皆さんと出逢ったのです。

 

私の話は以上です。

 

 

 

 

 

 

長い話が終えると男達の嗚咽が響いた。

 

「いい……はなじ……でずね……最後なんか……」

 

「マイケル軍曹。涙拭いて下さい」

「グレアム軍曹が必要じゃないのか……そのナプキン……」

 

「バーフォード中佐……いい歳した大人が泣かないで下さいよ……」

 

マイケル、グレアム、バーフォード、バトラが涙を流していた。

誘蛾灯計画までは怒りに震えていた4人だが、ヤリックの話を聞いている間に涙腺が緩み、ラストの亡命を決行した覚悟と行動に同じ戦う男としてかなりの共感を持ってしまった様だ。

 

特に愛する物を多く持つバーフォードが1番酷い泣き方をしている。

 

「ちょっと、泣かないで下さいよ。私達が耐えられなくなります」

 

「私だって、同じです……ヤリックさんの想いがわからない人間じゃありません」

 

「男がこの程度で泣かないで下さいよ……こっちだって、泣きたくなるじゃないですか……」

 

「本当に馬鹿ばっかりね。この中隊……私が言えないか……」

 

詩苑・詩鞍・京香・サラの順で男達に抗議するが、自分たちも涙を流しているので説得力など存在しない。

 

「室長! 緊急事態です!なんだこの状況!?」

 

「気にすんな! 何があった!」

 

「此方です!」

 

大急ぎと言わんばかりに1枚の書類を手渡す。

八代通は奪うように受け取る。

 

「……馬鹿な……こんなのがいるのか……」

 

八代通の顔に絶望とも取れる表情が浮かぶ。

 

「曇天の為に光学衛星は使えず、レーダー衛星のレーダーを突破する程のステルス性能に加えて、早期警戒衛星さえも狂わせるEPCM出力を発生しながら接近しています。今回の報告は近海を警備中だった海上保安庁の船からの目視発見によるものです!」

 

「何があった?」

 

バーフォードが仕事モードに即座に切り替える。

八代通は震える手でバーフォードに書類を渡す。

 

書かれた文章は少ない。

詳細よりも伝える事が目的の書類だった。

「な!?」

 

内容にバーフォードも驚きを隠せない。

 

「詳しい情報がなくても、これは不味い……」

 

オペレーター陣も書類に目を通して行くが、その表情は驚愕と絶望に染まっていく。

 

片宮姉妹にもその種類が受け渡され同様な表情に染まっていく。

 

そして、バトラが手を出す前に自衛隊アニマの手に書類が渡る。

 

そのままファントムの手元に来るとファントムが書類を握り潰し様に握り、早口で『ベルクトを動かすか、処分するべき』と叫び、慧がそれに反抗する。

 

「そんな事を言ってられないんです! このままのペースだとこのザイは3日で日本に上陸します。更に強力過ぎるEPCMで一般の戦闘機など使い物になりません! どうするつもりですか!」

 

「ベルクトを廃棄したからって止められる訳じゃないだろう。もう動き出した以上は信号を止めても目的地は変えられないかもしれないだろう」

 

慧の言葉にファントムが視線を泳がせる。

 

「ですが、撃墜しないと日本が滅びますよ!」

 

詩苑が叫ぶ。

 

「無茶です! こんな物を墜とせる筈がありません!」

 

「だったら、私が移動すればいいだけの話です。武装無しでフェリー飛行なら数千キロは飛べます。中国大陸に行って、そこで撃墜されて全部終わりです。何も難しい話じゃありません」

 

「俺がお前らに着いて行けないんだよ! どんな状況なんだよクソッタレ!」

手が緩んだファントムの隙をついて書類を奪い、読むバトラ。

 

「……」

 

無言のまま、無表情で書類を元の握られた状態に戻す。

 

「バーフォード。意見具申良いか?」

「……何だ?」

 

「ここにヴァラヒア戦争とゴールデンアクス事件で巨大航空機の撃墜記録保持者が居るんだけど、忘れてないか?」

 

軽く凄い事を言うバトラだが、バトラの表情は何でこんなのに慌てているのか不思議で仕方無いという表情だった。

 

「「「「「あ」」」」」

 

MS社のオペレーター陣が何かを思い出した様に口を開いた。

 

 

「今日以外にお前達が居て良かったと思う日が来ない事を祈りたいものだな」

 

八代通が腕を組んで話を始めた。

 

「巨大航空機撃墜のエースに頼ろうじゃないか」

 

日本の領域で3回目となる巨大航空機迎撃作戦が行われようとしていた。




巨大航空機に切り替えはエスコン脳をお持ちの方々なら直ぐにわかるやり方だな……

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