これも全部、空戦描写の助けになる本が無いから何だ!!
空が夜の帳に支配される頃。俺は夜の格納庫の中で航空機雑誌を片手に毛布を羽織り、スクランブル待機を行っている。
つい最近になって契約が変更されシフト制でスクランブル待機が回ってくるようになった。出来高制の民間軍事会社会社員としては待機するだけでも給料になるのは有り難い。
そう思いながらページを捲ると雑誌に人型の影が映り込む。
「ん?今日のスクランブル待機はイーグルとだった気がするが?」
視線を上げると緑色のおかっぱ頭に清楚系の服装をした少女、ファントムがそこにいた。
「イーグルに変わって頂きました。貴方に折り入ってお話ししたい事が有ったので」
「なら、携帯でも良かっただろ?何故、直接」
「他人に聞かれたくないので、この距離なら小さな声でも聞こえますしね」
そう言って、隣に腕を組み、少し震えてから座るファントムに羽織っていた毛布を被せる。
「……ありがとうございます」
その後に雑誌を開いたままファントムと俺の間に持って行き、肩を寄せて、自然な形で耳打ち程度の声で話せる状況に持って行く。
「少し、協力して欲しい事があります」
その内容に俺は驚くしか無かった。
コックピットに据え付けのパソコンを開く。本社からのメールが来ると朝早くにバーフォード中佐から連絡があったからだ。
「お!来た」
MS社の個人ページを開く。
PASSWORD ●●●●●●●
Login
パスワードを打ち込み次に進む。
『Personne》』
『Weaponry》』
『Objective 》』
▶︎『Mission 》』
『Exit. 》』
ミッションのタブを選ぶ。
『MS社からの本社命令である。このメールを受け取ったものは明日の13:30までに下記の地点に集合せよ。
緯度⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎経度⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎
命令無視であると判断された場合はそれ相応のペナルティが課せられるので留意する事。尚、今作戦はアメリカ軍・他PMCとの協働攻略作戦である。最も高い戦果を出した隊及びパイロットには特典が用意されている。以上が連絡だ。諸君らが我々の期待を裏切らない事を切に願う。』
読み終わって、電源を切る。
(ファントムが言った通りの内容だとすると。本社幾らの金を積まれた?あんな糞みたいな作戦にあいつらは出せない。準備しといて良かった)
<<二人とも読み終わったか?訓練空域まで出るぞ>>
<<待って下さい。エンジン確認がまだなんです>>
<<私もです>>
<<さっさとしろ>>
<<兄様。今日の訓練は中止をお願いします>>
<<何故だ?>>
詩苑が通信を入れる。
<<エンジンに細工が施されていました。何が起きるかわかりませんが念の為確認します>>
<<私もです>>
「クッソ!!」
キャノピーに拳を着ける。
バレずらい場所で離陸には関係のない場所に細工を施したが二人して見つけてしまった。
(すまんな、ファントム。お前の情報を生かせなかった。正直に話すよ)
「機体から降りて、二人の元に赴く。
「何故、気付いた?」
その言葉に二人が信じられないと言うような顔をする。
「兄様は私たちの機体を見ていませんよね………」
「ああ」
「なら………まさか!!兄様!」
「詩苑の思っている通りだ。俺が細工した」
その言葉を聞くと同時に二人が一歩詰め込んで来る。
「何でですか!他人の機体に細工をしてでも勝とうとしないと言ったのは兄様の筈です!」
詩苑が興奮冷めやらぬようで声を荒げる。
「………………」
「黙りですか………貴方にとって自分の言った事はその程度の事と言う事ですか」
黙ったままの俺に詩鞍の冷たい言葉が入る。これでこいつらに見放された………いや、見放される事をしたと自覚している。
ただ、それが現実になっただけだ。
「これだけは聞け」
命令口調で言う。
たとえ、自分が嫌いな命令をしてでもこれだけは伝えなければいけない。
「聞きたくありません」「聞く気はありません」
二人は去ろうとするだが、逃がす訳には行かない。今、言わなければ絶対に言えなくなる。そうなる気がしてならない。
「聞け。これは命令だ」
その言葉に二人は歩を止めて、向き直る事はしなかったが構わず告げる。
「今度の米軍との作戦でお前達は墜ちる。俺はそう判断した。だが、お前らに言った所で納得しないという事くらいは分かる。機体に細工をしたのは機体が壊れればお前たちは参加出来なくなるからだ。こうなった以上はもう止めない。だが、俺の言った事は留意しろ。以上で終わりだ。行っていいぞ」
俺は返事を聞かずに去る。見放される事くらいは分かっていた。しかし、仲間をこれ以上失いたくないのだ。戦場に出る以上は死ぬ奴も生きる奴も出る。それは理解している。それはもう嫌と言う程に。
それでも自分の預かる部隊の隊員にだけは死んで欲しく無いのだ。
(自己満足……そんな事は判っている。だが、もう………)
目の前で墜ちて行く仲間を見たく無い。その為ならば、己の言った事さえも捩じ曲げる。たとえそれが味方を裏切る行為だとしても。
(あんな思いをするのはもうごめんだ。今回の作戦であいつらの護衛なんて出来る訳がないし、規模的に自衛も出来ないだろう。なら、作戦に出させなければ良い)
その目論見は失敗した。後は彼女達の判断に委ねよう。
「待って!!例の作戦ではアメリカ軍は対ザイの戦力としてアニマもドーターも一つしかありません。そんな中で戦力を減らしてどんなメリットがあるというんですか!」
珍しく詩苑の叫び声が聞こえる。
「俺の自己満足だ。それに今回の米軍には関わらない方が良い。今回のあの国は自分の利益しか見ていない」
その言葉に詩苑は怒りを燃やし、詩鞍は俯いたまま首を振る。
「ブロウラーと言う無人機を見せて貰いました。あの無人機を出してまでこの作戦に参加するアメリカ軍の何処が自己中心的だと言うんですか!」
「無人機か………益々、自己中だな。良いか。この作戦で日本は最悪の場合はアニマを全て失う。その替わりに今回の作戦で実戦に耐えれると証明された無人機を売り込み、軍事能力を完全に依存させるか掌握出来る」
「私たちはその生贄だと?」
「その側面もあるだろう。だが、今回の作戦はメールを見る限りかなりの大規模で尚且つ重要な作戦にPMCが参加出来ると言う時点でその側面が強い。米国はこの作戦は失敗しても良い。いや、失敗を前提としている」
「何故、そう言い切れるんですか!!」
「米国は三年前からPMC嫌いになっている。それに信頼出来る情報筋からはこの作戦はザイの反攻作戦の布石と言う情報を得ている。米国のこんな重要な作戦にPMCの参加が出来ている時点で参加側にこれだけ本気だと形だけを見せている。その道の人間が見ればハリボテの対応と言う事くらいは簡単に分かる」
「心からの対応だと「そんな物あると思っているのか?」良い加減にして下さい!あなたのアメリカ嫌いを聞きたい訳ではありません!」
「そうか。だが無人機がこの作戦を成功させたら、一月でどれだけの数が揃うだろうな?俺の予想だと4桁は行くだろうな。そして米国お得意の物量戦でザイとの戦争が終わる。米国にとって成功すれば御の字。失敗しても無人機が量産出来ればそれはそれで良し。どちらに転ぼうと旨味がある。そんな状況の米国は信用出来ない」
「そうですか、そうですか。見損ないました!」
「私もです!!」
そう吐き捨てて、去って行く。
何も遮る物に邪魔されていない強い風が吹き荒び、それに当たった何かの液体が耳に当たる。
手で触れなくてそれが何か位は分かる。判り切っていた事だ。なのだが………
「なぜ……涙が溢れる………」
その言葉は風に攫われ消えて行った。
夜のスクランブル待機はファントムと俺だった。
「「そちらは如何だった(如何でした)?」
「わかりません」
「失敗かな?」
「「ハァーー」」
格納庫の一角は葬式の空気だった。
「何やったんですか?」
「エンジンに機体が少し壊れる程度の細工してがミス。米国の暗黒面教えたら逆効果だった」
「向こうを信用している人にやることじゃないですね」
「PMCにいるなら遅かれ早かれ出逢うんだ。なら、早い方が良い」
「タイミング、考えましょう」
「はい」
兎に角、彼奴らの判断に委ねよう。トップダウンで決まった事であるがエンジントラブルが解決できなかったと言えば言い訳は聞く。MS社もそんな機体は作戦に出させない。
「生き残るぞ」「生き残りますよ」
二人同時に告げる。
スクランブル待機は珍しく何事も無く終わった。
それがかえってザイがこちらの動きに備えている気がした。
<<ANTARES02だな。そのまま着艦してくれ>>
<<ラジャー>>
指定されたポイントには一隻の正規空母と複数の護衛艦が艦隊を組み停泊していた。
問題の起きず、着艦に成功する。
<<ようこそ、空母ケストレルへ。貴官の乗艦を歓迎します>>
<<ありがとう>>
PMCオーシア・ズ・ユーク保有の正規空母。ケストレルへと着艦した。PMCオーシア・ズ・ユークは航空戦力の規模はMS社より少ないが各国の最新とは言えないものの現代戦が問題無く行える程度の設備を持った艦隊を保有・運用できるだけの資本を持っている。
彼らは場所を選ばずに動けるので中・小国に重宝されている。
「久し振りね。元気にしてた?」
「ええ、でなきゃここにいませんよ」
「それもそうね」
親しげに話しかけてきたのは長瀬 珪さん。三年前の始まりと日本防衛戦、ロンドン防衛戦にゴールデンアックス計画阻止と言った作戦で何かとお世話になった部隊の二番機を務める人だ。機体は単座仕様にされたF-14 トムキャットに近代化改修とAZJSを搭載したF-14D-AZJ トムキャットだ。
「よう!バトラ。久し振りだな」
チョッパーさんが気さくに話しかけてきた。
「お久しぶりですね。スタジアムに落ちた所を救助してから会ってませんでしたね。イジェクトシートの整備はバッチリですか?」
「言わないでくれよ!病院で15歳児に助けられた20代とか言われて散々弄られたんだから!」
「俺の教官が言ってましたよ?被弾してもイジェクトは出来るくらいにダメージコントロールはしろって」
「できるかーーーーーー!!」
チョッパーさんの叫び声に甲板中から笑い声が聞こえる。
『航空機が着艦する。各員、安全な場所まで移動せよ』
「ほら!早く!」
「「あーはいはい」」
チョッパーとバトラが安全な場所まで退避した時に五機の戦闘機が視界に現れる。
「あれは……F-35 ライトニングⅡか」
そのF-35は完璧とも言える着艦を見せる。
そして、そのFー35が甲板から退かされてパイロットが降りてくる。
そのパイロットにバトラが近づくと気が付き、体を縮こまらせる。
「………え………えっと………久し振り………でいいかな………?」
「ええ、お久しぶりです。メビウス1」
バトラが挨拶を仕返した途端に何も話さずに視線を彼方此方に這わすメビウス1にバトラはバイパー程では何にしろこの人も恥ずかしがり屋だなと思っている。
「相変わらずですか」
「これは治りませんよ。アンタレス04」
「メビウス2ですか、今はアンタレス02です」
「それを言ったら私も今はヘイロー1です」
旧友と会ったかの様な雰囲気に包まれる甲板の一角。
3年前の戦争で大型航空兵器が世界中の空を飛び回っていた際にその大型兵器を撃墜した部隊の一つであるメビウス中隊だが、臨時編成部隊であった為に現在は解散し原隊復帰している物が多い。
現在のメビウス中隊は五機編成である。
空を見上げるメビウス2の脇を通りある人物がバトラに声をかける。
「元気そうだな。バトラ」
「貴方はまだ、死んでなかったんですね。というか死にませんよね。寿命で以外は」
「………元教え子に散々な言われ様だな」
「貴方の経歴を見直して下さい。入る所を間違えてる気がします」
「その言葉はブーメランしてやる」
お互いに黒笑を浮かべる二人。
『パイロットの諸君はブリーフィングルームに集まってくれ。今作戦の説明を行う』
「行くぞ!二人とも」
「「はい」」
ブリーフィングルームに入ると名の知れたエースなどがそれなりの数が集まっていた。確かに報酬は良かった気がする。
「諸君。私は空母ケストレルの艦長を務めるアンダーセンだ。それでは今回の作戦を説明する」
そう言ってプロジェクターに映し出された作戦空域の写真を見せながら説明して行く。
ファントムからの情報通りにザイに対する反抗の為に中国に橋頭堡を築く。それに当たり、俺たちに航空支援並びに制空権の確保と維持が今回の仕事だった。
「ただし、バトラ君は自衛隊の部隊に編成されるのでそのつもりでいてくれ。何か質問はあるかね?」
一人のパイロットが手を挙げる。
「なんだね?」
「バトラの部隊員の姿が見えないのですがご存知ですか?」
「そのことならバトラ君の部隊員は自衛隊の指揮下でこの作戦に参加する」
「ありがとうございます」
「他は………無いようだな。では、作戦開始時刻まで自由にしてくれて構わない」
全員が立ち上がり敬礼をしながら見送る。
ファントムの通信だと向こうでは昨晩、歓迎会をしていた様だが此方ではそんな事は無く、今日の出撃の為の最終調整が行われていた。
《アンダーセンだ。わかっていると思うが君の任務は第三集団の援護だ。合流後は空中管制機カノープスの指示に従ってくれ》
《了解です》
エレベーターに載せられて格納庫から甲板に出るまでの短い間に通信のやり取りを終える。
上部甲板に出るとそのまま引っ張られ、カタパルトがノーズギアに接続される。
それを確認した俺は動翼テストを行い問題ない事を確認してエンジンを始動させる。
ある程度の回転数になった事をハンドサインで伝える。
それを見たカタパルトオフィサーが甲板に膝を着いて前に腕を出す射出の合図を行った。操縦桿から手を離し、計器に触らない様に腰の前で手を組み射出される体制を整えた途端にカタパルトで撃ち出された時の特有な感覚に襲われる。
艦首から少し離れた瞬間にギアを格納し、エンジンノズルを下にして上昇する。
高度1万フィートに入るとケストレルのオペレーターから通信が入った。
《米軍のUAV部隊が遅れ気味です。合流はもう少し後になると思います》
内心で舌打ちする。タイミングが一秒ずれるだけでどれだけの数が死ぬと思っているのかアメリカはわかっているのか心配になる。
《おはようございます、バトラさん》
《おはよう。機体の調子はどうだ?》
《バッチリに決まっているでしょう》
一際カラフルな編隊が見えてくるとファントムから通信が入った。
予定通りのポイントでデルタ編隊を組んで飛行していた。
編隊は先頭から青いホーネットに右にグリペン・イーグル・ファントム。左にサンダーボルトⅡが二機だ。
《こちらカノープスのバーフォードだ。バトラはファントムの僚機に付け》
《ANTARES02、了解です》
ファントムの後ろの位置に着き、レーダーを確認するとアメリカ海軍機のIFFが軒並みレーダー上から姿を消していく。
「米海軍も質が落ちたな」
度重なる世界紛争で正規軍は軒並みその質を下げてしまった。勿論、エースも生まれたがロシアのクーデターで米海軍だけで無く各国のエースも血祭りに上げられた。
その為に一つの部隊では無く、一人の兵士が高い練度を持ち、平均練度は減少傾向なのが正規軍だ。
それに対してPMCは元々、野良が集まって群れを作っていると言う形で助けを請われるか、必要だと思われた時に出来そうだったら助けると言う連携と言うよりも助け合いが混じったスタンドプレーを良くするので正規軍に比べると部隊単位での練度は低いが一人一人の練度は正規軍を引き剥がすには充分な練度を持っている。
その証拠はレーダーに映るIFFがPMCは殆ど減っていないが、米海軍だけは一瞬で最低一機、最高四機と言うスパンで消えている。
《いい加減にー《BRW ENGAGE》
慧が怒りを隠さずに聞こえた声がUAVの無機質なアナウンスに遮られた。
慧の事だ。米海軍がやられていくのを見て、UAVの動きが遅いと思って焦ったのだろう。
UAVは急加速して水蒸気の衣を纏いながらミサイルを発射。ザイを十機撃墜した事で編隊に穴が開きその場所にUAVが侵入すると掘削する様に奥へ奥へと進んで行くがザイもやられるだけで無くUAVの後ろに付く。
《FOX2》
グリペンの同時に発射された2発のミサイルを1発ずつ喰らい撃墜される。
《慧!編隊から離れている。囲まれて死にたいのか?》
そう通信を入れるバトラに機体が斜め上前方からの敵機接近を知らせる。
その方向に視線を向ければ、丁度、ザイがミサイルを発射した瞬間でもあった。
(数は4!)
最初のミサイルを高度を維持したままロールしながら右にずれる事で回避し、続く3・4発目はロールしながら上昇して回避。最後の1発は右に急旋回して回避する
ザイも急加速をした後にバトラの後ろに回り込むがクルピットにより後ろに付かれた瞬間に左の機体のエンジン部が爆発し機首を上にしたまま横に回転して落ちて行く。
左の機体も離脱に移ろうと翼を翻した時に機関砲の弾丸がミサイルに命中し爆発、揚力を失いバラバラになった機体は慣性の法則に従って乱雑な回転をしながら海面に叩きつけられる。
《ブロウラー隊が突っ込む。ALTAIR隊とANTARES隊は援護!》
サンダーボルトから中距離ミサイルが16発、バトラから4発発射される。
発射された中距離ミサイルは穴を塞ごうとしていたザイに命中し穴の維持に成功する。
続いてファントムとイーグルも中距離ミサイルを発射し穴を大きくしていく。
ミサイルを撃つには近すぎると発射速度を遅くした30mm機関砲でM型ザイの背中中央にある盛り上がった部分を撃ち撃墜する。それが二機、三機と重なり、十数発を使った頃に敵の出現が無くなった。
「良し!抜けた!」
敵防空網を突破して中国領土の空を飛んでいる。しかし、あくまでもこれは第一段階であり、俺たちの仕事は上陸作戦で最も大切な物である制空権の確保だ。
俺は機体を反転させようと操縦桿を傾けようとした。
《前方に反応!これは……爆撃機?》
何故に戦場の奥に爆撃機がいるのか?ミッドウェーの様に艦隊を爆撃するには二機と少な過ぎる。
「あ、あれは!?」
バトラの視界の先で翼下の爆弾を投下するとその爆撃から翼が生えて周りを飛び始める。
「ぱ、パラサイトファイターか!!」
パラサイトファイターとは爆撃機などの大型機を母機として戦場で発進し護衛や戦闘を行う戦闘機のことである。
《各機!逃げろ!数の差が多過ぎる!囲まれて撃墜されるぞ!」》
そう通信機に叫んだ瞬間に脳味噌がシェイクされる様な錯覚が襲いかかった。
何度も受けた事があるからわかるがこれは高出力のEPCMに晒された時、特有の感覚だ。
AZJシステムが直ぐに打ち消したので治ったが頭の不快感を吹き飛ばす為に首を振った。そして、同時に背後に汗が流れた。
三年前にも何回もあったこの現象を信じた機体を数メートル上昇させてクルピットを行う。
「IN GUN RANGE!!」
HUDの機関砲のレティクルに背後にいたアメリカのUAVを捉える。
「FIRE!!」
機首の横に装備された30mm機関砲から鉛弾が発射され薄い黒の物体をズタズタに引き裂いた。
《ファントム!UAVが操られてる!!》
《わかってます。第2集団も全滅してますし、逃げましょう。作戦は失敗です》
《で、でも》
慧が撤退に難色を示す。中国奪還は慧の今作戦参加の目的であるために撤退には否定的な思考だった。
《残りたければ残っていい。死んでも葬式も何もしないがな》
冷酷に言い放つバトラに慧がようやく撤退ルートに乗り始めた。
バトラのSuー33は片宮姉妹のAー10の上に移動し後ろを追いかけるブロウラーのうち1機はエンジンを破壊し、2機目は中央から縦に真っ二つにされた。小型のパラサイトファイターには機体の腹から回るクルピットで機首に機関砲を向け、発射し撃墜した。
《早く逃げろ。時間は俺が稼ぐ》
鈍足のA-10を守る為にこの空域に残る事を選択したバトラの横に青いF/A-18が並ぶ。
《ボクも付き合うよ》
《俺もな》
《ライノはわかる。何で教官がここに?》
《迷った》
この返答に何も言い返せない二人を放ってオメガ11が動き出す。
《オメガ11エンゲージ!》
《バトラ、エンゲージ!》
《ライノもエンゲージ!》
三機がザイの編隊に食いつく。
ライノは一撃離脱で、オメガ11は数々のマニューバで撃墜し、バトラはカウンターマニューバで撃墜して行く。
《FOX2!こっちだよお二人さん!》
充分に時間を稼いだ頃にライノから編隊に穴を開けた事が知らされその穴に飛び込むオメガ11とバトラ。
その後は何とか振り切り落ち着いて会話が出来る場所まで飛んだ。
《まずいな。ケストレルからも離れ過ぎてる》
《自衛隊の基地も然りです》
《台湾に飛ぶにしても燃料が心配だね。主に僕の》
《強化するのは航続距離だろ。何してんだよアメリカ》
《まあまあ、どうする?イジェクトする?》
《俺は何回もイジェクトしたから言えるけど、ライノが海の上でのイジェクトに耐えられるか心配だな》
《海の上でのイジェクトは悲惨ですからね》
《中国の空港は近いか?》
《なんて読むんだ?浦に東の国際空港》
《ごめんなさい。中国語はからっきしで》
《それ、プードンだね》
《敵中の空港に強行着陸。敵地中枢でイジェクトするよりはマシですね》
《だろ?ここから100キロだ》
《着陸できなかったら潔く海水浴だね》
《バタフライで日本海横断しようぜぇ〜》
《おう、そうだな》
《何でバタフライ限定!というか泳いで渡るの!渡れるの!》
敵地でやる会話じゃないが一行は一路浦東国際空港に向かう。
苦戦した癖にこのレベル。皆さん好きな機体で好きな武装を撃ち込んで下さっても構いません。まあ、抵抗はしますが………
次回はどうなるのか!作者にもわからん!
楽しみに気長に待って下さい。