ファントムの扱いが大変だったんだ。話の流れが気に食わなくて何回も書き直した。
だが、話の流れよりも!ファントムの扱いや空戦よりも!
ロッテ戦術の空戦の資料がなさすぎる中でのロッテ空戦が一番難しかった!
「ん? あれは……」
買い物をした後日、機体を磨く為にハンガーの近くを通る俺につい先日まで、無かった機体がハンガーに駐機されていた。
彼奴は磨かないと拗ねた様になって咄嗟に動いてくれなくなる。
「これってFー4ですよね?」
後ろから慧に話し掛けられた。
振り向くと見慣れない、と言っても俺は見慣れている機体を指差ししていた。
「あれって、F-4ですよね。ベストセラー機の」
「まあ、F-4……では、あるな」
だが、機体が一部違うのを見るとあれは……
「ほう、知っているのか……とは、言わんぞ。ベストセラーって事は世界各国に認められて、有名でもあるからな。だが、残念だな、あれはF-4だが、F-4じゃない」
「じゃあ、なんなんだ?」
「俺のファントムと同じ改造機だよ。RF-4EJ改 ファントムⅡ。Rは偵察機を意味する。中身は他のF-4系列とは別物。全く違う機体と言って良い」
「なんか、目が輝いていないか?」
「当たり前だろう。ファントムが好きでファントムライダーやってるんだ」
好きな機体じゃなきゃ命を乗せられないだろう。
「ファントムライダーってなんだ?」
「F-4系列に乗るパイロットの事だ。他にも、F-15系列に乗るパイロットをイーグルドライバーと呼ぶ」
「成る程な。因みにグリペンのパイロットの事はなんて言うんだ?」
「さぁ、俺は知らんな」
慧が目に見えてがっかりしている。
「丁度良かった。おい! アルタイル01もこっち来い!」
八代通に呼ばれ第3格納庫に入る。
入ったと同時に薄緑色のファントムのキャノピーから蒸気が発生して、機械音を出しながらキャノピーが開く。
蒼空を背景にして、漏れ出た緑の光の中で小さいシルエットが浮かび上がる。
「あら」
聞き覚えがある柔らかい声がした。
「ごきげんよう。昨日は助かりました」
和人形を思わせる容貌に、令嬢を沸騰させる落ち着いた物腰、そしてきめの細かい白い肌に頭髪は何処かのリゾート地の海の色をしたエメラルドグリーンをしている。
「何処で会ったか?」
少なくとも向こうは俺に会った事がある様だが、俺は知らない。
「あら? 昨日、後ろに乗せて貰って、これも借りたのですが……覚えていませんか?」
そう言って、コックピットから取り出して差し出したのは俺の貸した予備のパイロット用ヘルメットだった。
「成る程、思い出したよ。しかし、そんなエメラルドグリーンの……」
ヘルメットから少女の方に顔を向けると髪の色が黒色になっていた。
「訂正する。黒の髪じゃなかったからわからなかったよ。」
「あら、そうですか? 薬で黒髪にしていましたの。外では目立ちたくなかったので。黒色の方がお好きですか?」
「いや、そうじゃ無いが……エメラルドグリーンも黒色も似合っているとは言っておこう」
「ふふ、女性を喜ばせるのが上手いんですね」
男であれば、誰でも惹かれる様な笑みを出しながら話す少女。
事実、慧が視線をずらしている。
「君は余り傭兵をわかっていないようだ。余り、傭兵の褒め言葉はそのまま受け取らない方が良いぞ。裏や底があるからな」
「忠告ありがとうございます。では、今度から注意させていただきます」
「なんだ、顔見知りか?」
八代通からの言葉を聞いて、少女は機体から軽い足音と共に降り立ち、姿勢を正す。
「ご挨拶が遅れました。RF-4EJ-ANMファントムⅡです。どうぞ、ファントムとお呼びください」
「MS社、M43飛行中隊アルタイル隊所属。コールサインはアルタイル01だ。TACネームはバトラだ。訳有りで本名は言えないんだ」
「お、おう」
何か慧が驚いているが多分だが、人間だと思っていたのだろう。
「へぇ」
底冷えするような声が聞こえたので、振り返ると。
「な、何だ。アルタイル03……そんな声出して……」
漆塗りの様な黒髪に、これまた、黒曜石の様な黒色の瞳を持った。日本人女性が立っていた。
その瞳は石の様に冷たく、無機質な視線を向けている。
「随分と親しい様ですが……どういったご関係ですか?」
「何って、昨日の昼くらいに愛車に乗せたくらいだが?」
「へぇ」
また、底冷えする声が掛けられて、右を向くと。
「アルタイル04か……どうしたよ?」
アルタイル03と同じ黒髪に黒色の瞳を持った少女が睨んでいた。
「いえ、そこの女性と仲良く話していたのでどんなご関係かなと」
「姉妹揃って、同じことを言うな」
「姉妹ですから。それよりも」
「「地上にいる時は名前呼びって言いましたよね?」」
「……すまんかった。職業病という事で一つ……」
「「名前で呼ぶまで許しません!」」
頬をぷくっと膨らまして文句を言うが、正直に言うと怖く無い。ましてや可愛い位だ。
「すまんかった。
「わかればいいんです。わかれば」
「お兄様ならわかって頂けると思っていました」
素晴らしい程、華麗で素早いテノヒラクルーだ。
「バーートーーラーー!」
「イーグル!後ろに飛びつくな!」
後ろからイーグルに飛びつかれた。
「「ダレデスカ?ソノヒト?」」
ギャー!!二人してグリーンベレーで抜いてるー!!ヤベー!
グリーンベレーって言うのは、そう言う名前のナイフだからね。決して、筋肉ムキムキマッチョメンの変態に殴り飛ばされてた人のことじゃ無いからね。その人達が使っているナイフだからね。
って、誰に言ってるんだ俺?
「おおお、落ち着きなさいいいい」
「「ワタシタチハオチツイテイマス」」
嘘だ! だったら、そのナイフは納めている筈だ!
「こいつは、自衛隊所属の僚機だ」
「「ジャア、ナンデヒッツイテルンデス」」
「スキンシップ好き」
そう言ったと同時に八代通に気づいたイーグルがそっちに行った。
「「まあ、いいでしょう」」
イーグルの行動のお陰で助かった。
「全員集まっているから丁度いい。傾聴」
八代通の言葉に全員が注意を向ける。
「突然だが我々、小松基地所属のアニマは空自の指揮系統から独立する事になった」
………あ、うん。そう言う事ね。何となく合点がいった。
でも、それは俺だけの様だ。そもそも俺も、本社から意味深な情報を貰っているので理解できたわけで、他の面々は全く、理解できていない。
「まさか、クーデt「おっと、勘違いするなよ。別に航空自衛隊離れるって訳じゃない」
慧の言葉を遮って、説明する八代通。
「所属はそのまま日本国自衛隊だが、技本や統幕と同じく防衛大臣の直轄になる。部隊名は【独立混成飛行実験隊】通称【独飛】だ」
アニマ・ドーターの驚異的な性能は一般的なパイロットでは連携など無理だ。出来たとしても、一部のエースパイロットのみ。そういった場合だとかえって精鋭部隊として1つにまとめた方が何かと都合が良い場面が多い。
「どんな部隊なんだ?」
おいおい、慧君やその質問はねーぜ。
「要はアニマ・ドーターの集中運用部隊だ」
「簡単に言うならエースだけの精鋭部隊と言った所でしょうか?」
詩苑。良い言い方だ。そう言われると直ぐに理解できるな。
「でも、なんで今更の集中運用ですか?」
ああ、詩鞍。お前はまだ、上の汚さを知らないんだな。
「まあ、集中運用は特殊な保守・点検・整備を纏めて行えると同時にバラバラだった戦力を集める事でザイに対する対処能力を高められます。そう言った観点から一つに纏めていった方が運用しやすい訳です」
「運用……しやすい」
「ドーターの維持管理の部局は現在、お父様の特別技術研究室しかありません。今まではそこの技術者が各地に分散して見ていましたが、それでは保守部材も冗長ですしノウハウの共有も困難です」
「更に言うならば、アニマ・ドーターはその性能の高さから通常戦闘機部隊とでは連携が取りずらい。だが、それも一極端に集約する事で解決するだ。ドゥーユーアンダースタンド?」
「はぁ……わかりました」
「じゃあ、なんで最初からそうしなかったんだ?話を聞く限り最初から一つに纏めておいた方が良いんだろ?」
「政治家が馬鹿で遅いから」
「……………」
「実際、その通りですね。先の小松空襲が上に効いたんですよ」
「分けられていた理由は二つ」
ファントムがそのパイロットらしからぬ細い指を二本立てた。
「一つは私達の素体です」
この言葉で一つの事が頭を過ぎった。
「まさか……八代通……お前、現役の機体を使ったんじゃなかろうな?」
「……………」
無言は肯定と受け取ろう。
「お前は馬鹿か!? 現役の機体を使ったら、当該飛行隊の装備だとか言って! ドーター化されても所属が肯定されるに決まってるだろ!グリペンみたいに外部で用意しろよ!」
「仕方ないだろう! 上の指示で自衛隊の機材を使えと言われたんだ! 4機目のグリペンは元々、自衛隊の機材が時間かかるから別の機材を用意されたのがグリペンなんだよ!」
「だとしても! F-15の初期の物とか! F-4に至っては邀撃仕様機が退役済みだろ!それ使えよ!」
「F-4の邀撃仕様機とRF-4は同時着手だ! それでも、RF-4の方が早く出来たんだよ!」
「F-4の邀撃仕様機をR化させれば良いだろうが!なんでそうしなかった! そうすれば、小松防衛も一機増えただろうが!」
「金が無いんだよ!」
「政治家の給料減らせ!」
「出来たら苦労せんわ!」
「「「「「「煩い(((ですよ)))」」」」」」
「「はい」」
八代通との痴話喧嘩は他の六人に止められた。
「まあ、さっき言ってた通りです。当該飛行隊の装備と言う事で固定されてしまったんです」
中指を折る、ファントム。
「二つ目に私達は対ザイの切り札的存在である事。AJZ戦闘機が海上自衛隊にしか確保されていない中では、アニマを、私達をなかなか手放そうとしなかった。防空の要として手元に置いておきたがった。まあ、高いお守り・ご神体と言った所でしょうか?」
「兵器は使わないに越した事は無いが、使う時には躊躇せず使わないと意味が無い」
誰に話すとも無く喋った。
「それと、政治家共も小松空襲で気づいた。アニマを分散させていてはザイが大規模侵攻した時にまずい。戦力の分散が愚策・下策だと遅過ぎる位に気づいたな。だから、八代通のこの提案に乗った。何か有っても、八代通の提案だと言えば言い逃れが出来るしな」
「言い逃れって、なんで?」
「政治家が嫌いな物の一つに責任を払うって奴が有るんだよ。政治家が簡単に動く時は切羽詰まった状態で、尚且つ自分の責任を擦り付けられる奴がいる時だ」
「汚すぎます……」
「そう言う世界なんだよ。俺みたいな高級傭兵になるならこう言った世界も知っておけ」
「「……はい」」
人が好きで戦う事を選んだ二人からしては酷な話だったかもしれんな。
「貴方達、誰」
硬い棘を含んだ声と視線がファントムに注ぐイーグル。
「これは失礼しました。三沢基地から参りました。RF-4EJ-ANMファントムⅡです。今回の独立飛行実験隊のチームメンバーです」
ファントムが柔らかな笑みを浮かべながら、答える。
「私はM43飛行中隊アルタイル隊所属の三番機。片宮 詩苑です」
「私もM43飛行中隊アルタイル隊所属の四番機。片宮 詩鞍です」
片宮姉妹もファントムと同じく柔らかな笑みで答える。
「F-4ぅ?」
イーグルが鼻を鳴らした。
「まだ飛んでたんだ。てっきり全部退役済みだと思ってたけど」
「それ以上はいけません!」
詩苑がイーグル止めに入る。にしても、こいつ………
「しかも、偵察機改修型? 世代落ちの廃物利用品がイーグルウエェエッ!」
どうも、死にたいらしい。
イーグルが世代落ちの廃物利用品と言った頃には俺は蹴り飛ばす準備をしていた。そして、言い切る前に飛ばしていた。ファントムも片手を上げて、何か言おうと思っていたのだろうがお構い無しだ。
「ほぉ、イーグル。ファントム好きのファントムライダーの前でそんな事を言うとわ。恐れ知らずなのか、馬鹿なのか分からんな」
「ファントムが馬鹿にされた様な気がして」=(゚ω゚)ノ
何処からか司令が来た。
「こいつが馬鹿にしました」(´・Д・)
「宜しい。ならば、粛清だ」
取り敢えず、イーグルを無理矢理立たせて羽交締めにしておく。
「五十発交代で良いな」
「良いですよ」
この後無茶苦茶腹パンした。
数分後にはイーグルは突っ伏していた。
司令とバトラは片足をイーグルに乗せて、ガッツポーズをしていた。
「皆さんもご注意して下さい。お兄様の前でファントムを馬鹿にするとああなります」
「お……おう…」
「まあ、見ただけで相手の強さを測れないのでは、実力は知れてますね。先の小松防衛戦では大恥かいたのかしら」
「実力! 今、実力って言った!」
「ええ、私が居れば味方への損害も抑えられたかと思いますが?」
完全な挑発と宣戦布告だ。しかし、ファントムの言い分も正しいんだよな。
俺はまだ、そのレベルまで行って無いからわからんが後ろにつかれた時や交差した時に相手の強さを感じる事が出来る。
「でも、小松防衛戦でファントムさんが居てくれれば、損害も抑えられたかと」
「詩鞍の言いたい事はわかるがな。過ぎた事と戦場で、れば・ならの話は要らない。まあ、実際の話を言うと頭数が増える。それがエースなら損害も減ったのは間違い無いだろうな」
「丁度いいから、ファントムの飛行試験も兼ねてDACTでもするか」
「「「だ……くと……?」」」
慧と詩鞍・詩苑が口を揃える。
「お前ら……」
呆れて、溜息を吐く。
「DACTって言うのは日本語で言うと異機種間戦闘訓練の事だ。DACTは性能や形状も違う戦闘機同士での戦闘の癖やコツを掴む為の物だ」
逆の訓練もあるんだが、それはその時に教えよう。
「ていうか、慧も片宮姉妹もパイロットを目指す、パイロットならこの位は知っておけ」
「……わかった」
「本社での訓練ってDACTだったんですね」
「本社での訓練にそんな名前があったなんて」
「まあ、本社で同じ機種の機体を探すのが大変だからな。基本的にDACTだ」
「良し、決まりで良いな。全員準備しろ」
「わかった」
「はーい」
「わかりました」
「ファイターしか居ないですが…」
「ロッテ組みましょう詩苑」
ヤル気満々の女性陣の後ろで慧が。
「え、俺も!?」
「まあ、そうなるな」
グリペンがやる以上はお前も出席だ。
「許可が出るんですか?ここに司令が居るのに」
「ん? 私の許可か? 良いぞ。好きにやりたまえ」
「え、ええ〜……」
案外軽く出たな。ていうかここの司令は基本的に訓練なら寛容的だ。
「よっしゃ、イーグルは叩き墜としてやる」
右手の拳を左手の掌にぶつけてから愛機の元へと向かう。
キイイイイイィィィィン
(良いアイドリングだ)
近くに自分と同じ魔改造ファントムが居て、嬉しいのだろう。
<<アルタイル隊各機へ。
今回はかなりの対ザイ戦力が出るので実弾を装備する事になった。
万が一、ザイが現れたら即座に対抗できるようにだ。
(武装は
いつも使っている中射程のミサイルがXAAMじゃないのは今回の戦闘では対地目標がいないからだ。
RAAMは純粋な空対空ミサイルでXAAMは空対両用ミサイルと言うべきだろう。
(マスターアームはOFFだ)
マスターアームを確認してから、管制塔に連絡する。
<<小松タワー、ALTAIR01、レディフォー・ディ・パーチャー>>
<<……ALTAIR01、ランウェイ24、クリアード・フォー・テイクオフ・ウェン・レディ>>
<<ラジャー・ALTAIR01、ランウェイ24、クリアードフォー・テイクオフ>>
後ろから響く轟音。ブレーキを放して、エンジンに押し出せれる瞬間の一瞬の沈み込みの後、滑走を開始する。
<<小松タワー、BARBIE03、レディ・フォー・ディパーチャー>>
(如何やら、後発はファントムの様だ。仕方ない少し早く上がるか、後が詰まっているしな)
俺は機体のランディングギアが浮かんで直ぐに偏向ノズルを上に動かして、機首を無理矢理に上に向けて直ぐにスロットルを開けて大空に滑走路とほぼ垂直に近い角度で飛び立つ。
航空ショーなんかで偏向ノズル持ちの機体が行う離陸の方法だ。
その後、エメラルドグリーンの機体が飛び立った。
<<大丈夫ですか?あんな離陸して>>
ファントムから連絡が入った。
<<大丈夫だよ。ザラだったから、如何って事無いぞ。というか、何故に貴機がこっちの心配を?>>
<<貴方とは真剣にやりたいので>>
<<そうか。しかし、さっきの管制官の間が空き過ぎて無かったか?>>
<<通信に癖語はやめた方が宜しいかと思いますが?>>
<<そうか、気をつけるよ>>
そんな話を並びながらしていると目標のポイントに全機が着いた様だった。
<<やり方はブリーフィングで話したが、もう一度言うぞ。集合ポイントに六方向から接近して、交錯した後に火器の使用を許可する。交錯時の行動・体位は自由だ。実弾を載せているが訓練の為に火器はセンサーとプログラムに同期した上で行う。武装は実戦形式で短距離・中距離・高機動ミサイルの三種が使用可能だ。では、訓練状況を開始する。タイム・アット・ワンエイト」
司令の言葉でスタート三分前を知らせる。
俺は徐々に高度を上げて行き、誰よりも高い高度に着く。
(駆け引きはもう始まっている)
それを知っている。ALTAIR03と04は03が先に交錯する様に飛んでいる。
(先にロッテを組むつもりか)
戦術を考え出した俺の耳にファントムの午後の紅茶を進める様な、上品な口調の通信が入る。
<<なんだったら五対一でも構いませんよ。その方が早く整備に戻れますから>>
<<キーーーッ!>>
まるで俺たちに興味無いと言わんばかりの内容にイーグルが我慢の限界を超えたのか叫びだした。鼻息の荒さが無線越しでも伝わる。
<<いいーーー!! ほんっとうにムカつくロートル! いいよ。望み通り貴方から墜として上げる!>>
(おいおい、冷静さを欠くなと何回教えたっけ? あ、加速した)
イーグルが他の機体など考えない様な機動を始めた。
(ほぉ、グリペンはイーグルに乗っかるのか。片宮姉妹はいつも通りと)
前者ははイーグルの実力を知っているからで後者は慣れない者同士の
[シュヴァルムはドイツ空軍が確率した編隊戦術。ロッテの二機編隊よりも相互の戦術に幅を持たせて、お互いの死角を更に小さくする戦術]
<<状況開始一分前>>
七…六…五…四…三…二…
<<<<エンゲージ>>>>
ファントムとイーグルが同時に集合ポイントで交錯すると同時に交戦を宣言した。それを追う様にグリペンが飛行する。
二本の航跡雲が急なカーブを描き、絡み合った糸の様な軌跡を残す。
俺はポイントの座標の縦のラインに沿う様に上昇して高度を稼ぐ。
ALTAIR03と04は集合ポイントで降下、低空で合流して、空戦している機体から離れる様に移動する。
<<FOX2ー!>>
戦術マップに映されたイーグルのマーカーから白いラインが数本出てきた。
この白いラインはイーグルがミサイルを発射した事を意味するものだ。
<<BARBIE02、ミス>>
ミサイルが外れた。ファントムがフレアとチャフを放出したからだろう。
<<甘い、甘い!>>
嬉々として速度を上げて追いかけるイーグルの後ろにエメラルドグリーンのRF-4EJが飛んでいた。
<<BARBIE02、ロスト>>
「は?」
二重の意味で訳がわからなくなった。
イーグルがミサイルを撃った時は戦術マップではファントムが前にいた筈だ。では、何故にファントムが後ろにいるのかがわからない。
コンバットマニューバを使った訳では無いだろう。イーグルの動きは前にファントムを捉えている動きだった。
<<BARBIE01、ロスト>>
そんな事を思っている内にグリペンも墜とされた。
何が起きているのかわからなかった。イーグルを墜としてた位置とグリペンを墜とした位置が離れすぎている。
(何をやった?兎に角、訳がわからない)
ファントムのマーカーはALTAIR03と04のロッテに向かっていた。
<<詩鞍!ブレイク!>>
<<ブレイク>>
ファントムの接近に気づいた二人が左右に散開する。
ファントムは後ろを飛んでいた詩鞍の黒いAー10を追う。
<<フォック……! ブレイク!>>
後ろから白いAー10が迫っているのに気づいたファントムが右に旋回しながら上昇して逃げる。
<<イン・ガン・レンジ! ファイア!>>
ヴァアアアアアアア
機首を上に向けた詩苑のA-10の30mmガトリングガン【
「くっ……」
ファントムも背中から倒れる様に機体を降下させて回避させるが、回避先には旋回を終えた詩鞍の黒い
<<ファイア>>
涼やかに言い渡された報復の合図。陸上部隊を地獄の底に叩き落とす悪魔の咆哮が海に再び、
が、ファントムも負けておらずスロットルを絞らずのエアブレーキ全開で、
<<FOX2>>
そこに追撃で詩苑の白いA-10が短距離ミサイルを発射する。
下が海である以上は上昇するしか無い。ファントムは上昇して直ぐにスロットルを全開にして速度を上げる。
二機のA-10もその後を追う。
ある程度の高度に達するとファントムがコブラ機動で機首を上に跳ね上げて静止した様になってからバク転の動きで後ろに回った。
二機のA-10を追いかけようとした頃にはファントムが詩鞍の黒いA-10の後ろに付いていた。
「まだです!」
振り切られたファントムの後ろを詩苑の白いA-10が追いかける。
<<ALTAIR04、ALTAIR03、ロスト>>
二機に撃墜判定が下された。
<<ALTAIR04、ALTAIR03、ロスト>>
一体、何が起きた? 二対一で二機を即座に撃墜しただと?
首を動かすと、右斜め横から黒い点が上がってきた。
俺は直ぐに降下してヘッドオンに持ち込む。
<<エンゲージ>>
機銃を撃ってから尾翼の操作で横に動く。
操縦桿を操作しながら位置を確認する為に振り返る。
ロックオンアラート。エメラルドグリーンの機体が後ろにいた。
(ならば、好都合。予定していた機動にフレアとチャフを足してやる。)
フレアとチャフを巻いてから機首を上に向けて180度の宙返り、ファントムが下を通り過ぎる直後に横方向にスピンして水平飛行に戻す。
有名なインメルマンターンと言う技だ。
水平飛行に戻した瞬間に
左に90度バンクしてから左に急旋回するファントムを追って旋回する。
照準が合った。
トリガーを引こうとした途端にディスプレイが赤く染まり撃墜された。
<<ALTAIR01、ロスト>>
「……………」
ファントムの機動には不可解な所が多い、まるでワープをしたかの様な動きで四機を撃墜した。そして俺もだ。
DACTは不可解な物を残して終了した。
小松基地に戻る頃には他の機体は帰ってきていた。
旅客機の問題で俺が最後に着陸する事になったからだ。
機体を指定された場所に止めると整備員達が取り付く。
「ふぅーー」
一息付いてからキャノピーを開ける。
プシューと蒸気が抜ける音の後に装甲キャノピーが開いた後、通常のガラスキャノピーが開けられる。
「お疲れ様です」
下から柔らかな声がかけられた。
「ファントムか。何か用か?」
「いえ、先程の後ろに回った機動はインメルマンターンですよね? 何故、後ろに回る為にその技を使ったのか気になりまして」
インメルマンターンはすれ違った敵機の後ろに回る機動で決して後ろの敵機の後ろに回る機動ではないのは確かだ。
「高度を失いたく無かっただけだよ。そう考えるとあれが最善手だと思ったんだが、失敗だったな。事実、墜とされてる」
「そうですか。では、ご機嫌よう」
そう言って去ろうとするファントムに俺が声をかける。
「待てよ、俺はお前の疑問に答えたんだ。俺の疑問にも答えてもらうぞ」
「何ですか?」
「さっきの訓練で俺をどうやって墜とした?いや、どうやって、最適なポイントに移動した?」
その質問にファントムは妖艶な笑みを浮かべて答える。
「どうやった。と、申されましても私は普通に動いただけですが?」
「そうか、地力の差か。ありがとな」
そう言ってバトラは後ろに振り返り、背中をファントムに見せて、手を振りながら離れた。
「ファントムと何を話してたの?」
「グリペンに慧君か?どうした?」
「いや、何を話してたのか気になったのと、ファントムの事で話があるんだ」
「ん? ファントムの事で?」
「ああ、グリペンの話だとズルしてたらしんだ」
「どんなズルだ?」
「ああーー」
「う〜〜ん……」
慧の話を思い出す。
話を要約するとドーターのデータ・リンクに嘘の情報を流してらしい。
(どうりで、すれ違った時に何も感じなかったのか?)
AJZ戦闘機はドーターと同じ方法でアニマと他のAJZ戦闘機とデータ・リンクを行っている。
アニマであるファントムが俺たちに偽の情報を送るなどは造作も無い事なのだろう。
訓練で後ろにつかれた時のファントムが偽の画像で合ったならば、何も感じなかったのにも納得がいく。
俺は感覚を馬鹿にしない。俺自身が感覚で如何にかしてきた部分もあるからだ。そして、その感覚がーー
ーー機械に出せない。人の操縦する機械の可能性なのだーー
(取り敢えず、どうしたものかな?)
もう一度、模擬戦をしても負けるのはわかっている。まずはあいつのハッキングを如何にかしないといけない。
「あ! あいつの情報持ってない!」
ファントムの情報は、八代通から貰った資料以上の情報が無い。情報がなければ何も対策が立てられない。
「八代通。ファントムの情報をくれ」
「何なんですか、あいつは」
八代通を探していたら、慧君も探しているという事で一緒に探して、見つけたので一緒に追求している所だ。
「どうしたんだ、二人とも」
慧が訓練であった事を話す。
「何というかわからないんですよ」
「俺は如何しても、信用も信頼もできん。悪いがそんな奴とは飛べんぞ」
煙草の紫煙を天井に吐いてから、話し出す。
「そう言うな。お前達が居ても、こっちのお抱えの部隊が二機だけでは編隊が組めないだろう」
「数合わせって事ですか?」
「まあ、半分な」
八代通がそんな事を言うが間違いだ。
「八代通。この世には二機編隊と言う言葉があってだな。二機では、編隊が組めないとか言ってるが組めない訳じゃないだろう?」
「小松防衛で三機では足りないとわかっただろう?」
「だとしても、人間性に問題がある! 仲間との訓練であんな事をする奴を信用も信頼もできんぞ! いつ、後ろから撃たれるかわからない奴が部隊内にいるなんてごめんだ!」
「確かに、怖いですね」
俺の言い分に慧君は賛同してくれた。
「あいつは悪人だと思うか?」
それを聞いた八代通が煙草を灰皿に捨てながら訊く。
「悪人」
「悪人だね! 仲間を陥れる様な奴は悪人以外の何者でもないね!」
「だが、実力で黙らせろと言っていただろう?」
「あれは陥れるじゃなくて、試す、証明させるだ! 第一! あんな方法が実力なんて認めない!」
空戦。それもドックファイトは魂と魂のぶつけ合いだ。
仲間・経験・技術・機体そして何よりも誇りを魂に変えてぶつけ合う、ぶつけ合って初めて実力が現れる。
偽情報を掴ませて、自分に調子良くなんて方法で勝って自分の実力なんていう奴は絶対に認められない。
「成る程な。じゃあ、その誤解だけは正しておくか」
何が誤解だ。空戦を汚した時点で悪人なのは変わらん。
「あいつの価値観・行動理念は『人類の救済』だ」
「「……は?」」
「人間ではなく、人類をだ。それも一人でな」
「無理だろ。物量作戦で来られたらどうしようもないぞ」
一機では、持っていける弾薬に限りがある。一機相手に百機で挑めば勝ち確だ。
実際、アメリカのドクトリンは敵の三倍の火力で戦うだ。それだけで、物量作戦がどれだけ強いかわかるだろう。
「でも、それって……「無理だろうな。そう思ってしまったし、そう思っているからこそだろう。だから、今日みたいな行動に出る」
慧君の言葉を遮って八代通が話す。
「何でまた、そんな事を……自衛隊の教育か?」
皮肉を込めて言ってやる。
「教育か……」
八代通は煙草を天井に吐いて、天井じゃない何処か遠くを見ているように目を細めた。
「ある意味では、そうかもしれんな。自衛隊初のアニマだ。次のアニマがいつ生まれるかわからなかったのもあるし、俺にとっても処女作だったからな……色々と妙な期待を掛けすぎたのかもしれんな」
「で、単機で全てを抱え込もうとした……か」
「だろうな……」
沈黙が三人の間に降りる。
「あいつ、三沢基地に配属されていたと言っただろう」
「ええ」
「ああ」
「三沢基地ではアニマ関係でのトラブルは発生していなかった。小松ではあんなにもグリペン絡みで発生していたにも関わらずだ」
「土地柄か周りの人が良かったですか?」
「慧君……それはないと思うぞ。多分だが、個人情報でも手に入れて、それを計算しつくしたタイミングと方法で流して、対立関係でも作ったんだろう?」
「正解だ。典型的な分割統治だ」
「何でそんな奴を?」
俺もそう思う。こうしている間にも情報が取られていそうだ。
(俺なんかは、見られたくない情報がある訳だしな)
「なんでと言われても、あいつの戦闘技術・戦闘経験が圧倒的だからだ。それに三沢の報告書も奴を肯定するものばかりだったからな」
「釘は刺したのか?」
「刺したが、するだろうな。その様子だとな。グリペンと君、お前ならあるいはと思ったが」
「……すみません、もう決裂済みです」
「どうでしょう? ワンチャンのワンチャンはあるかな?」
「お前に期待するよ」
「了解。何かあったら直接、報告する」
「頼むぞ」
バトラは八代通と別れた。そして、ある方角を向くとうなじの部分を虫が這うような感覚に襲われた。
「何か、あるのか?」
俺は、その方角にバトラは鋭い視線を向けていた。
セル「空戦描写が幼稚だな、すまねー。だが、これがセルユニゾンの限界なんだ」
バトラ「限界とか言って逃げるな」
セル「おっしゃる通りですが、こればかりは時間と経験、何よりも空戦描写の参考になりそうなものが無いんや」
バトラ「探せ!それは書店に置いてある!」
セル「金が無い!!」
バトラ「………」