ぼっち in アインクラッド   作:稀代の凡人

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遅くなりまして大変申し訳ありません。


第9話

そして二日後。

ついに、この日を迎えた。

 

――第一層ボス討伐戦。

 

ボス部屋前までの道中は、思っていたよりも和やかな雰囲気だった。

唯一、キバオウが俺たちとすれ違った時に

 

「残念やったな、今日はあんたの思い通りには行かへんで。ラストアタックボーナスはウチらのパーティが貰うてやるわ。精々足引っ張らんよう雑魚の相手でもしとれ」

 

などと言ったぐらいか。

 

因みにキリトはこの言葉にも柳に風といった感じで、むしろアスナの方が怒っていた。

 

「何なのよ、あいつ……!」

 

「まあまあ、気にしなくていいよ」

 

「でも……!」

 

憤りの収まらないアスナをハルさんが宥める。

 

「落ち着いて、アスナちゃん。確かに気持ちはよく分かる。私も圏内で心も身体もメッタ切りにして再起不能にさせたいぐらいだけど」

 

「いや、流石にそこまでは……」

 

アスナがドン引いていた。

 

何が怖いって、この人ならマジでやりかねない上にそれが出来るだけの力を持っているところである。

というか、メッタ切りにするのが圏内であるだけこの人にしては自重している。

 

しかし、結構腹に据えかねているらしいな。

表情は笑顔だったから一見すると冗談に思えるが、目がマジだった。

 

「まあ、キバオウなんかの話はやめましょう。時間の無駄ですし。ボス戦での動きの確認でもしますか?」

 

「そうだな。初めてのボス戦だし、用心してもしすぎることはない」

 

キリトの相槌と二人が頷くのを見て、話を続ける。

 

「俺たちが担当するのは、ルイン・コボルド・センチネルです。動きのパターンはいつも迷宮区で相手にしていたコボルドと似たようなものですね。基本は俺かキリトが隙を作るんで、スイッチしてソードスキルを叩き込んでくれればオッケーです」

 

行けるよな?とキリトに目で問うと、当然だと言わんばかりに頷く。

 

「うーん、暇になったらボスに攻撃してもいいかなあ」

 

「今回は自重してください」

 

すかさずそう言うと、ハルさんは分かってるよ、と手をひらひらと振る。

 

一応与えられた仕事は取り巻きの排除なのだから、集団行動でそれを乱すのはあまりよろしくない。

命がかかった戦闘なのだからなおさらだ。

 

「ハチマン。一応、ボスについての情報も確認しとくか?」

 

「ああ、そうだな。ボスの名前はイルファング・ザ・コボルド・ロードと言って――」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

第一層迷宮区最上階、ボス部屋前。

そこで、ディアベルからの最後の言葉があった。

 

「皆。俺から言うことは一つだけだ。勝とうぜ!!」

 

「「「――おぉっ!!」」」

 

一部例外を除く全員から雄叫びが上がり、そして――ボス部屋の扉が開く。

 

重い腰を上げるボス――イルファング・ザ・コボルド・ロードに、その周りに現れる取り巻きのルイン・コボルド・センチネル。

 

馬鹿みたいに上げた敏捷値に任せて真っ先に飛び出し、左右に三体ずつ現れたうちの左半分を斬りつけてタゲを取った。

そのまま左の端の壁に寄り、ボスの前の道を開ける。

 

「は、速い……!」

 

何人かが驚いている声が聞こえるが、そんなのはいいからとっとと仕事しろ。

 

なんてことを思考の端で考えつつ、迫るセンチネルを睨む。

他の三人は……センチネルの方がちょっと早いか。

三体をここで相手にするのはきついな。

後ろは壁だから下がれないし。

 

地面を蹴ってセンチネルへ突っ込み、俺の速度についていけていない二体の間を駆け抜けざまに斬りつけてからバク宙で元の場所へ戻る。

……こんな動き、ゲームでもなきゃ絶対無理だな。

 

意図通りに、斬りつけた二体は俺の動きが見えておらずに後ろを振り返っている。

お陰で向かってきているのは手を出さなかった一体だけだ。

 

壁のギリギリまで下がり、十分引き寄せてセンチネルが剣を振り上げたところで三角跳びの要領で躱す――と同時にアスナが飛び込んできて、背後からセンチネルを貫いた。

 

「ごめん、遅くなったわ」

 

「いや、こんなもんだろ。助かった」

 

ちらりと後ろを見ると、キリトとハルさんの二人がセンチネル二体を見事に翻弄していた。

察するに一番敏捷値の高いアスナが先にこっちの援護に来て、残る二人はあれの足止めか。

 

視線を前に戻すと、センチネルはようやく体勢を立て直したところだった。

HPゲージは残り6〜7割か。

 

「それじゃ、手筈通りに」

 

振り下ろしてくる剣を躱し、懐に飛び込んで剣を一閃する。

そしてそのまま下がらずに一瞬間を置く。

 

多分こうすれば……来た。

 

「スイッチ」

 

後ろへ飛びながら声を上げると、すれ違いにアスナが突っ込む。

そして、見事にソードスキルを空振りして硬直するセンチネルへ攻撃を叩き込んだ。

 

センチネルのHPゲージは急速に減少し……一割残る。

 

ソードスキルを撃ったばかりのアスナは技後硬直で動けない。

ニヤリと牙を剥いたように見えるセンチネルに――

 

「お疲れさん」

 

――抉るようにV字の軌跡が刻まれる。

〈片手直剣〉ソードスキル、[バーチカルアーク]。

 

いくら攻撃力の低い俺といえど、つい最近覚えたばかりの高威力ソードスキルならば残った一割ぐらい削り切れる。

 

ルイン・コボルド・センチネルはその身を散らした。

 

「ふぅ。取り敢えず一体か。……何だよ」

 

何でそんな変な目で見る。

ちゃんと仕事しただろ、今のは。

 

と思ったが、アスナの意図は違うところにあったらしい。

 

「あいかわらずすごい度胸ね」

 

「何が?」

 

「さっきの、ソードスキルを誘発した時よ。一瞬でも遅れたら斬られていたでしょう?」

 

「ああ、あの時か」

 

そんなことを言われても、いつものことだしなあ。

コボルド系の動きのパターンは頭に叩き込んである。

それにこれでも一応、万が一モーションに変化があった時のために余裕は残してある。

 

「ま、何でもいいが文句は後だ。合流するぞ」

 

残りのセンチネルは……どちらも残り5割を切っていた。

流石だな。

 

まあ合流すりゃもっと楽になるだろうし、ボスも見たところ順調だ。

 

……このまま何もなければいいが。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「――スイッチ!」

 

「やぁッ!!」

 

アスナの高速の突きにより、センチネルが砕け散る。

 

「ふう。そろそろかな?」

 

「そうですね。ようやくレッドゲージって感じですか」

 

ボスの方を見やると、三段目――最後のHPゲージも残り僅かとなっていた。

 

「武器が変わるんだっけ?」

 

「そうですね。ベータテストではタルワールという〈曲刀〉カテゴリの武器に変わりました」

 

ここまではベータテストと同じように推移している。

だが、だからといってこれからもベータテスト通りとは限らない。

 

「武器の変更なんて結構狙い目だよね」

 

「そうですね」

 

だからこそ注視したいが……ボスのHPゲージが赤くなったタイミングでセンチネルが湧くのでそういうわけにもいかない。

 

まあそれぐらいのことが分かる奴はボス攻撃組の中にもいるだろう。

 

「――ボスのHPゲージが赤くなった!」

 

誰かの叫びを聞き、センチネルに備える。

 

「あんまり考えても仕方ないんで、とっととこっちを片付けましょう。流石に相当油断してなければすぐ死んだりはしないはずです」

 

「そうだね。アスナちゃん、キリトくん、準備は良い?」

 

「はい!」

 

「大丈夫です」

 

勢いよく頷くキリトと、静かに同意するアスナ。

 

「それじゃ――「全員退がれ!俺が出る!」――え?」

 

ディアベルから発された指示に、思わずハルさんが動きを止める。

 

俺もキリトも慌ててそちらを見る。

 

そこには、本当に指示通り退がるプレイヤー達と、そこに入れ替わるように出て行くディアベルの図があった。

 

「は?あいつ、一体何を……!」

 

「こういう時は全員で取り囲むのが定石じゃないのか!?」

 

キリトの言う通りだ。

こいつ、何を考えてこんな指示を……。

 

俺たちよりも後ろから指揮していたディアベルは、俺たちとすれ違う時にちらりとこちら――キリトを見て、フッと笑う。

 

それで、全てを理解した。

そういうことかよ。

いや、それにしてもリスクが高すぎる……!

 

と、その時キリトの呟きが耳に入る。

 

「――タルワールじゃない、野太刀!?」

 

「なっ……!?」

 

やはりボスの武器が変更されてたか!

 

ディアベルは分かってんのか?

……ダメだ、見えてない!

普通にソードスキルを使おうとしてやがる。

それは悪手だ!

 

「駄目だッ!全力で、後ろに飛べ――!!」

 

キリトが叫んで飛び出す。

 

「ちッ――アスナ、キリトのフォロー頼む!」

 

「分かったわ!……スイッチ!」

 

アスナが置き土産に作ってくれた隙を生かすべく、普通に数回斬ってからソードスキルを撃つ。

最後に、僅かに残ったHPをハルさんが削り切った。

 

少し余裕が出来たので、次のセンチネルに向かいながらハルさんに声を掛ける。

 

「ボーッとしててすいません」

 

「良いよ良いよ。それで、向こうはどんな感じかな?」

 

「そうですね……最悪、ですかね」

 

ディアベルは死んだようだ。

前衛は吹き飛ばされ、他のプレイヤーも茫然自失といった感じで棒立ちになっている。

そして彼らを守るべく、キリトとアスナが二人でボスを相手取っていた。

 

俺としても早く援護へ向かいたいのだが、センチネルを放っておくと挟み討ちを食らう。

 

どうする……この状況を打開するには、どうしたら……。

 

「……ハルさん」

 

「私が抜けても大丈夫?」

 

声を掛けると、俺の意図は伝わったらしい。

というか、多分とっくに思いついていたんだろう。

俺のことが気掛かりだっただけで。

 

「ここは大丈夫です。任せて下さい」

 

「……分かった。じゃあ、こっちは任せてね」

 

「はい。お願いします」

 

最後に一太刀入れて離脱していく。

 

残るセンチネルは5体か。

釘付けにする方向で動いていたから、HPゲージはまだ結構残っている。

 

俺もここまで被弾はゼロだからHPは満タンだが、敏捷値を生かす為に装備は極力減らしている。

ちょっと食らうと簡単に半分を割りかねない。

 

――さて。

ハルさんが恐慌状態に陥ったプレイヤー達を掌握して立ち直らせるのが先か、俺が倒れるのが先か。

 

勝負と行こうぜ、怪物共。




お読みいただき、ありがとうございました。


およそ半年ぶりの投稿でした。
取り敢えず3月中に第一層は終わると思います。

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