ぼっち in アインクラッド   作:稀代の凡人

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お待たせしました。


第8話

「うん、今のは結構良い感じだったんじゃない?」

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、アスナがスイッチも知らないとはねぇ」

 

「し、仕方ないでしょ?パーティ組んだの初めてなんだから」

 

アスナを加えた俺たち4人は、迷宮区にて連携を確認していた。

元々全員がソロでもここで戦えるレベルなので、危うくなる場面はそんなになかった。

アスナがパーティ未経験者であり、一から教えなければならないのは大変と言えば大変だったが。

 

「あとは、武器だな」

 

「武器……?」

 

首を傾げるアスナに、キリトが頷く。

 

「ああ。君のそのレイピアはアイアンレイピア、店売りのものだろ?少しトールバーナから戻るが、それよりもずっと性能の良いものがモンスタードロップで手に入る」

 

「別に、武器の性能なんて大して変わらな――」

 

「――何を言ってるんだ!」

 

大声を上げるキリトにビクッと震えるアスナ。

 

「たとえ武器を変えることで生まれる変化はほんの少しだとしても、その僅かな差が君の生死を分けるかもしれないんだぞ!」

 

そこまで言ってから怒鳴ってしまったことに気付いたのか、ごめん、と謝る。

 

「でも、少しでも死ぬ可能性を減らすために努力をするのは忘れてほしくない。アスナには死んでほしくないから、さ」

 

「……分かったわよ」

 

恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言うキリトに、アスナが顔を逸らしながらボソッと答える。

 

なんというか、青春してるなあ。

おかしいな、俺も一応思春期のはずなんだけど。

 

しかし、キリトって熱いっていうか主人公っぽいっていうか、なんかそういうところがあるな。

俺にはああいう説教みたいなのはとてもできん。

 

まあ、何はともあれ。

 

「次の目的地は決まったな」

 

「そうだね」

 

頷く俺たちに、戸惑うアスナ。

 

「え……いや、皆はついてこなくても、場所を教えてくれれば私一人で……」

 

「何言ってるんだよ、アスナ。俺たちはもう、仲間だろ?」

 

「アスナちゃんは大事な妹分だからね〜」

 

キリトとハルさんがそう言って俺の方を見る。

 

え、俺もなんか言わなきゃいけないの?

これそういう空気?

めっちゃ読みたくないんだけど。

 

でもアスナがああやって不安そうに見ているから、何か言ってやんなきゃいけないんだろうな。

何度か咳払いをする。

 

「……まあ、その、なんだ。もう他人ではないから、な」

 

表情はあまり変わらないが、心なしか嬉しそうに頷くアスナ。

本人は納得しているみたいだし、これで良いでしょう?

キリトもハルさんも、そんな「え〜、ないわ〜」っていう目で見てもやり直しはしませんから!

 

「と、とにかく。行くなら早く行きましょう。あとどれだけ時間があるかも分かりませんし」

 

「……まあ、仕方ないか」

 

「そうですね、ハチマンですし」

 

ハルさんとキリトが溜息を吐き、ふっと笑う。

 

「それじゃ、行こうかアスナ」

 

「うん、行こう」

 

「……はい!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

やはり性能の良い武器というのは簡単にはドロップしない(落ちない)ようで、4人で狩り続けて2時間かかった。

 

そして、その武器を手に入れたアスナの感想は。

 

「わ……凄い、羽みたいに軽い」

 

だった。

 

そして、胸にギュッと抱き締めていた。

 

いや、あの武器を大事にしてくれるのは構わないんですよ。

それは良いんだけど、そのポーズはちょっと……ほら、あなた年の割に立派なものをお持ちだから……。

 

顔を赤くしながらも目を離せなくなっているキリトを他所にどうにか視線を引き剥がして横に逸らすと、そこには花が咲いたような笑みを浮かべるハルさんがいた。

 

ヤバい、目が笑ってない。

 

「ハチマン」

 

「……はい」

 

「私も、同じことやってあげよう――」

 

「――すいませんでしたもう勘弁してください」

 

真摯に頭を下げる。

男のプライド?

そんなものより命の方が惜しい。

 

ここで頷くのはただのアホだし、軽蔑されて終わるだけ。

かといって首を振るのはこの人のプライドを傷つけることになるだろう。

 

選べる選択肢は「速攻で全力で謝る」だけ。

それでも少しはプライドを傷つけるかもしれないが、他よりはマシだろう。

 

「……全くもう。ハチマンも男の子だから仕方ないのは分かるけど、駄目だからね?」

 

どうやらギリでお許しが出たようだ。

心なしか少し不満そうな気がするのは気のせいだと思いたい。

 

「あとキリトくん、見過ぎだよ」

 

「え?……あっ、はい!すいません!」

 

直立不動になるキリトと、ようやく状況を把握したようで赤面してキリトを睨むアスナ。

正直頬を赤らめながらだと迫力なんて全然無くて、むしろただ可愛い「――ハチマン?」なんでもないです。

 

そんなこんなでその日の夜。

アルゴから、遂にボス部屋が発見されたという連絡が入った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

次の日の正午。

俺たち最前線のプレイヤーたちは、再び先日と同じ広場に集まっていた。

 

中心には、先日と同じく青髪が特徴のディアベル。

意外だったのは、前回場を荒らして生まれかけていた連帯感を粉々に打ち砕き、士気を見事に下げてくれたあのキバオウがどうやらディアベルの下についたらしいことだ。

 

ディアベルも心の器が大きいな。

俺だったら、いや俺でなくてもあんなのと一緒に行動するなんて絶対嫌だろう。

あんな素で空気をぶち壊すような奴、上手く扱えるとは思えないんだが。

使い道としても精々が焚きつけて敵に当て、囮にするぐらいか。

確かに、あれを上手く御せるのならば、リーダーとしての格を示せるとは思うが、このデスゲームでそこまで危ない橋を渡らんでも良いんじゃないか?

 

そんなことを考えていると、ディアベルが手を叩いて注目を集める。

 

「はい、じゃあ会議を始めようか」

 

全員の注目が自分に集まったのを確認して、ディアベルは口を開く。

 

「ここに集まってくれた皆はもう聞いていると思うが、昨日俺たちのパーティは遂にボス部屋の扉を発見した。今日のこのボス攻略会議を経て、明後日。ボスの討伐を決行しようと思う。異論がある者は手を挙げてくれ」

 

誰の手も挙がらない。

それを確認し、ディアベルは一つ頷く。

 

「じゃあ、まずは6人パーティを組んでみてくれ」

 

○人組を組め。

生まれてからこの方、この言葉を最も苦手なものの一つとしてカウントしていた俺だが、今回に限ってはその心配はいらない。

ここにいる人数は46人で、どうしても一つは4人組が出来る。

そして俺たちの人数もちょうど4人。

俺以外の全員が実はこっそり他の人と組んでいたとかそういうことがない限り、俺があぶれることは無いだろう。

無いよね?

 

しばらくして。

幸い俺の心配は杞憂だったようで、無事4人で組むことができた。

 

それらを見て、ディアベルが再び前に出る。

 

「そろそろ決まったかな?それじゃあ、次に行こうか。肝心のボスの情報だ。本来なら、これから何度も偵察を繰り返してボスの情報を調べ上げ、それから討伐に挑むべきなんだろうけど……」

 

そこでディアベルは一つの小さな――見覚えのある冊子を掲げる。

 

「先日も話題になった攻略本だ。さっき、道具屋で最新版が配られた。これに、ボスの情報が詳しく載っている」

 

配布されたそれを見ると、確かにボスや取り巻きの名前から武器、行動パターンまで全てが載っていた。

そして、最後に書かれた「この情報はβテスト時のものなので、正式版と違っている可能性があります」の文字。

 

アルゴ、随分と無茶をしたな……。

βテスターが嫌われ、憎まれている今の状況でβテストのことに言及するとは。

 

しかし、不正確かもしれない情報を断り書きなしに載せることは、あの女の情報屋としての矜持に引っかかるんだろう。

 

他の奴らも「βテスト時」の文字に反応したのか、複雑な顔をしている。

 

「皆、色々思うところはあるかもしれないが……俺は、すっごくありがたいと思う。これのおかげで、誰かが死ぬかもしれない偵察をしないでボスに挑めるんだから。今はこの情報に感謝して、先へ進もう」

 

……流石はリーダーを名乗り出るだけのことはあるな。

今の言葉で、内心はどうあれ全員の方向性は固まった。

 

「――とうとう、この第1層を突破する時が来たんだ。この討伐を成功させて、始まりの街で待っている皆に『クリアは不可能じゃない』ってことを伝えなきゃならない。それが、ここにいる者の義務だ。そうだろう?」

 

ディアベルの言葉に、多くのプレイヤーが奮い立つ。

 

「明後日だ。皆、全力を尽くそう!」

 

オォーー!!

 

興奮して声を上げるプレイヤーたちを、俺は遠くから見ていた。

 

「なんというか、すっかりリーダーが板についてきましたね」

 

隣に来たハルさんに声を掛ける。

 

「そうだね。話の流れの持っていき方なんかはまだまだだけど、士気を鼓舞するのは随分と上手くなったね。……これなら、私が出る必要はないかな?」

 

それはどうか。

ディアベルは確かに優秀なリーダーだと思うが、それは皆が今この空気に乗っているからだ。

士気を鼓舞してその勢いを纏めるのは確かに上手いが、おそらく一度瓦解した集団を立ち直らせるほどの力は無い。

 

それぐらいのことは、ハルさんにも分かっているのだろう。

人の上に立つことなど一度もなかった俺と違い、この人はずっと昔から人の上に立ち続けてきたのだ。

 

「何事もなく、無事に倒せると良いけどねぇ……」

 

そう呟くハルさんの声音はゾッとするほど冷たい。

まるで、そうなるとは欠片も思っていないようだった。




お読みいただき、ありがとうございました。



遅くなった言い訳をすると、この先の展開を決めあぐねていました。
それに合わせて、はるのんがどう動くかも変わってくるので。
ほんとこの人書くのが難しい。

次も気長にお待ちください。

あ、あと感想も大募集中です。

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