ぼっち in アインクラッド   作:稀代の凡人

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なんか気に食わなかったので改稿しました。
勝手に申し訳ないです。

やっぱり八幡っぽくない気はしますが、さっきよりはマシなんじゃないかなぁ……。


第3話

第1層2番目の村である《ホルンカの村》。

その周辺の森に、俺はいた。

 

キリトとは、アニールブレード入手クエストを達成した時点で別れた。

クエストの時にひと騒動あったのだが、それはまあいい。

 

先ほどまでリトルネペントの花つきを出すまでひたすら狩り続けていたお陰で、俺のレベルは現在4。

しかも、あと少しで5に上がる程度に経験値を溜め込んでいた。

 

目標は、何よりもまず生き残る事。

 

それに必要なのは、どんな敵からも逃げきれるだけの素早さ。

そのために、俺のビルドは極端な素早さ特化にする。

 

そして退くか否かの判断を誤らないための判断力。

 

俺には卓越した判断力も、天才的な戦闘センスもない。

そもそも俺は人間関係を除くあらゆる面においてそこそこのハイスペックを持つが、逆に言うとあらゆる面において突き抜けたものがない。

せいぜい磨き上げたぼっち力ぐらいだ。

 

ならば、それを補うためには経験を積むしかない。

 

先ほどまでの狩りで、リトルネペントの大凡の動きは把握した。

あとは確認をしつつ精度を上げ、レベルを5まで上げ……あ、上がった。

即座にステータスを素早さに振る。

 

「……さて、やるか」

 

敢えて言葉に出す事で、意識を切り替える。

 

俺が今からやろうとしているのは、一対多の練習だ。

いくら気をつけていたところで、敵Mobに囲まれてしまう事だってあるだろう。

その時のために練習しておく事はマイナスにはなるまい。

 

レベルもそこそこ上げたので、集られても一瞬で死ぬ事はない。

その前に離脱するだけの素早さはある。

敵の攻撃手段は触手か酸を飛ばすだけで、武器や防具の耐久値を減らす事はあっても行動不能になる攻撃はない。

 

懸念事項である防具は店売りの量産品で、剣も買い込んだ初期装備の剣だ。

 

それでも一抹の不安は拭えないが、リトルネペントの行動パターンは完全に把握した。

所詮は決められた行動パターンに従って動くだけのMobなのだ。

それを読んで予測し誘導する事など、人間の心理を読み取る事に比べたら遥かに容易い。

 

「始めるか」

 

索敵スキルで周りを探って、人がいないことを確認する。

そして近くに寄ってきた実付きに――その実に、迷いなく剣を振り下ろした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

その日は、休憩を挟みつつ日暮れまで狩りを続けた。

夜になると出てくるMobのレベルが上がる。

おそらくレベル的には問題無いだろうが、精神的な疲労は溜まっているはずだ。

死なないためにも適度な休憩は必要だろう。

退き際を誤ってはいけない。

 

ホルンカの村に戻り、宿を取る。

手持ちの食料は1コルの美味しくも無い固いパンしかないが、仕方ない。

 

宿の自室で1人パンを齧っているとその音がやけに響き、それが嫌でも独りであることを意識させる。

 

そして――それに幾ばくかの寂しさを覚えたことに、俺は衝撃を覚える。

 

1人なんていつものことだろ、今更動揺したりするほどのことじゃない。

クラス全員が参加したお誕生日会に俺だけ呼ばれていないことなんてザラにあったし、勘違いして女子に告白して次の日には学校の笑い者になっていたことだってあった。

 

それらのことを全て、俺は1人で耐え抜いてきたんだ。

今更1人でいることなんて何でもないはずだ。

 

なのに何で。

 

――待たないで、こっちから行くの。

 

――今は、あなたを知っている。

 

脳裏に浮かんだのは、あの2人の顔だった。

 

……そうか。

認めざるを得ない。

奉仕部に入ってからの数ヶ月、俺は確かに独りではなかった。

今までと変わらず1人でいることは多かったが、それでも独りではなかった。

 

そして、それに心地よさすら感じていた。

俺を否定せず、忌避せず、排除しなかったのは、家族を除けば雪ノ下と由比ヶ浜だけだったから。

そして、あの関係を守りたいと思った。

俺の嫌いだった偽物を、欺瞞を許容してしまえるほどに。

だからこそ、葉山や海老名さんの「今のままの関係を壊したくない」という想いを理解してしまったんだ。

 

そして、解決策として嘘で塗り固められた現状維持という方法を選び。

 

――ああいうの、なんかやだ。

 

――あなたのやり方、嫌いだわ。

 

生まれて初めて心から求めたものを、これ以上ないほど強く欲したものを、俺は失った。

 

「……本当に弱くなったな、俺は」

 

そう呟く声すら震えている。

 

何が「負けることに関しては俺が最強」だ。

 

それは本当に負けるということを、本当に大切なものを失うということを知らなかっただけだったのだ。

 

今の俺は、慣れ親しんだはずの孤独にすら耐えられない、弱い男に過ぎなかった。

 

独りではなくなり、失うことを知り、仮想世界に閉じ込められたことで心の拠り所だった家族すら失い――そして俺は今、この鋼鉄の城の片隅にある宿屋の一室で。

 

かつてないほどに独りきりだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

次の日も、その次の日も、俺は攻略を続けていた。

特に何か理由や目的があったわけではない。

ただ何となく、惰性だけで進んでいた。

 

後から振り返ってみるとなぜ死ななかったのか不思議なほどに無警戒で、ただ出てくる敵を無造作に斬るだけだったような気がする。

 

その時期は、何を食べたか、どこに泊まったか、そもそも休憩をとったかも覚えていない。

 

別に生きたいと思っていたわけじゃない。

ただ死ななかったから生きていただけのこと。

 

もし死地に陥ったらあっさりと死ぬんだろうなと思いつつ、それでもその場に立ったらなりふり構わず生にしがみつくような気もしていた。

 

そして俺は、あいつと再会した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「――ん?おい、ハチマン!」

 

「……ん?あぁ、キリトか」

 

すれ違ったプレイヤーに声を掛けられて振り返ると、ホルンカの村で別れて以来の再会となる、キリトがいた。

 

「生きてたのか、ハチマン。良かった」

 

「あぁ」

 

「……ハチマン。どうかしたのか?」

 

「何が?」

 

「ほら、普段だったら照れ隠しの言葉も一緒に飛んでくるのに何も言わなかったから。それに、なんか元気無いぞ?」

 

「大丈夫だ。そんじゃあな」

 

「――ちょっと待ってくれよ!」

 

身を翻してその場を後にしようとすると、キリトに肩を掴まれる。

 

「……まだ何かあるのか」

 

「ハチマン、本当にどうしたんだよ。なんでそんな自暴自棄みたいに――」

 

「――自暴自棄、な。それの何が悪いんだ?俺の命なんだ、どう使おうが俺の勝手だろ?」

 

「……ハチマン、本気で言ってるのか?」

 

「本気も何も、そもそもぼっちの俺が死んでどうこう思う奴はいねえだ――」

 

「――俺は!!」

 

言葉の途中で叫んだキリトに思わず顔を向ける。

と、キリトは泣きそうな顔で笑っていた。

 

「ハチマンが死んだら、悲しいよ。多分、泣くと思う。短い付き合いの俺でもそう思うんだ。きっと他にも、ハチマンが死んだら悲しむ人はいると思う」

 

キリトのその言葉に、俺の脳裏に多くの顔が浮かぶ。

 

その殆どがこの半年と少しで出会った人達だが、今まで出会った奴らとは違う人達だった。

誰も、俺を無条件に拒絶したり、排除したりすることなく……否定したりしなかった。

 

「……あ、雨だ」

 

雨の降りしきる中、俺はその場に立ち尽くし、溢れ出る思いを噛み締めていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

しばらくして、落ち着いた俺は。

頭を抱えて地面にうずくまっていた。

何やってんだ俺、超恥ずかしい……。

どっかに穴は無いものか。

地面が破壊不能オブジェクトじゃなければ自分で掘っているまである。

 

「キリトにはでっかい借りを作っちまったし……」

 

「貸しなんて別に思わないよ。だって、友達……だろ?」

 

こちらを見るキリトの不安げな目に思わず吹き出す。

 

「ちょっ、ひどい!笑うことないだろ!?」

 

「悪い悪い。……そうだな、フレンドではあるな」

 

「え?……それってシステム的なフレンドだよな!?そうじゃなくてさ!」

 

「あぁ、はいはい。俺は疲れたから寝る」

 

「ちょ、ハチマン!!」

 

友達。

それがどういうものなのか、友達がいたことのない俺には分からない。

 

友達という言葉にはっきりとした定義はないし、リア充界隈なんかではちょっと話したことがあるだけで友達と言うこともある。

 

はっきりとした定義がないということはそれだけ友達という関係の曖昧さを意味しているように思えるし、「私たちズッ友だよね〜」とか言う奴らのせいでひどく薄っぺらいもののように感じる。

 

だから、俺は友達という言葉が嫌いだ。

 

でも、少なくともこいつならば、俺は背中を預けて戦うことができる。

それぐらい、信頼できる。

そう、思った。




お読みいただき、ありがとうございました。

なお、キリト×八幡ルートはありませんので悪しからず。

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