ぼっち in アインクラッド   作:稀代の凡人

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第14話

◇ ◇ ◇

 

 

 

次の日。

攻略組のプレイヤー達は、最前線の街に集まっていた。

 

その中にハチマンの姿を確認し、アスナはホッと息を吐く。

昨日の最後が最後だっただけに、少し心配だったのだが……問題なく来たみたいだ。

 

――昨夜、ハチマンが帰った後。

 

重苦しい空気を打ち破ったのは、ハチマンが去った後も考え込んでいたハルだった。

 

「――まさか。……いや、そういうことか」

 

信じられない、というようにボソッと呟かれた言葉は、他に客もおらず静まった店内に響く。

 

「何がそういうことなんですか?」

「うーん……これは、流石に言えないかなあ……。自分で気がつかなきゃ意味が無いから」

 

ハルにしては珍しく躊躇いがちにそう言われては、アスナもキリトも聞くことはできなかった。

 

「まあ、今夜のことも、これまでのことも、あまり気にしないで普通にハチマンと接してあげて。その方が助かると思うよ」

 

最後のハルの言葉を思い出し、申し訳ないと思う気持ちを抑える。

 

顔を上げた時には、最近「攻略の鬼」の名で呼ばれ出した攻略組の司令塔の一角、それに相応しい顔だった。

 

「――では、ボス部屋へ向かいます」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「――では、最後にもう一度手順を確認します」

 

前に立って話すアスナの声を聞きながら、自分でも情報を反芻する。

 

相手の名前はザ・ストーン・コロッサス。

石の巨人だか巨像だか、そんな感じの意味だ。

形状は某国民的RPGに出てくるゴーレムと変わらない。

 

動きは鈍いが一撃は重く、偵察隊に参加したプレイヤーの一人が掠っただけでゲージの4分の3近く持っていかれたらしい。

いくら機動力を重視した軽装だったとはいえ、流石にエグい。

 

ただ、まあ……当たらなければどうということはない。

 

あと懸念事項といえば、武器か。

俺が今使っている片手剣のフェザーライトは第10層のLAボーナスなのだが、攻撃力はそこそこ高いのに要求筋力値が恐ろしく低いという正に俺の為に誂えたような武器だ。

 

ギリギリまで強化すれば暫くは使ってられそうな逸品なのだが、逆に予備はそれと比べるとかなり落ちる。

だから、なるべく壊さないように行きたい。

どうせこいつで斬ったところで対して食らわんのだし。

 

ボスの情報の確認が終わったところで、パーティごとに集まる。

 

「あの、ちょっといいですか」

「うん、何?」

「俺、今回はあまり攻撃しない方向でいきます。代わりにタゲ取り中心でやるんで」

「良いけど……ああ、武器か」

「はい。耐久値がちょっと。予備はこいつから大分落ちるんで、正直ボス戦で硬い相手に使うのは心許ないです」

「分かった。二人も良いよね?」

 

キリトとアスナが頷く。

それを確認して、俺は剣を予備のものに代える。

 

準備が整うと、全員が一人の女性を見つめる。

ボス戦突入の合図は、この人が出すのが習慣となっているのだ。

 

全員の視線を一身に受けたその女性――ハルは、不敵に笑った。

 

「――よし。じゃあ、行こうか」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「10カウントでスイッチします!10、9――」

 

アスナの声が響く。

 

前情報にはあったが、それでも予想以上にボスがタフだ。

もうかなり時間が経っていると思うが、漸くHPゲージも四段目が半分を切ろうかというところである。

 

っと、次は俺たちか。

 

「――3、2、1、スイッチ!」

 

アスナの声を合図に、地面を蹴る。

 

飛び退く俺たちの前のパーティの隙間を縫ってボスの前に飛び出す。

ちょうど後退していくパーティの一人に腕を跳ね上げられたところで、胴体がガラ空きだ。

 

……ここはアレか。

 

軽く溜めるように剣を構え、4連続の縦斬りを放つ。

 

――〈片手直剣〉垂直4連撃技、[バーチカルスクエア]。

 

俺の手札の中でも上位に位置する威力のこの技もこのゴーレムには何の痛痒も与えることはなかったようで、跳ね上げられた腕を目の前の獲物――俺に叩きつけてくる。

狙われている俺は、ソードスキル後で動けない。

 

――だが、これも読み通りだ。

腕に潰される寸前に技後硬直が解け、有り余る敏捷値に任せて即座に後ろへ回避する。

すれ違うようにアスナが飛び出し、軽やかに三段突きを放って退がった。

 

相変わらずとんでもない剣速だな……と呆れ混じりの感嘆を漏らしつつ、再び入れ替わるように飛び込む。

 

次に発動したソードスキルは、突進技の[ソニック・リープ]。

光を纏った剣を、振り下ろされる拳にかち上げるようにぶち当てる。

 

先ほどよりも大きな隙に、今度は3人全員が飛び込む。

各々が大技を決め、ついに――。

 

「――ッ!!!」

 

ゴーレムの咆哮が響き渡る。

HPゲージが赤に突入していた。

 

「……あと少し。最初は慎重に行きます」

 

指揮官のアスナ殿は少し退いて様子を伺うことにしたようだ。

 

……このまま固まってると却って動きにくい。

 

「ちょっと見てくる」

「ちょっ、ハチマン君――!?」

 

念の為ポーションを一本飲み干し、地面を蹴る。

俺を迎撃しようと繰り出される右拳を躱し、牽制がてら一撃――っ!?

 

「くっ……!」

 

チッ、切り返しがさっきまでより断然速い。

すぐさま跳んでどうにか逃れたが――今度は左か!

空中にいるから躱すのは不可能。

とすると、この体勢からなら――。

 

「――っ!」

 

突進系のソードスキルを発動してゴーレムの攻撃範囲から脱し、どうにか難を逃れる。

 

……あぁビビった、マジでビビった。

このクソみたいなゲームのクリアの為じゃなかったら二度とやってやるか。

 

「……取り敢えずこんな感じみたいだ」

「こんなって……君、ちょっと――」

 

凄い剣幕で迫ってきたアスナをハルさんが止める。

 

「――ストップ、アスナちゃん。その話はまた後でね。取り敢えずあの石ころを倒そうか」

「……はい」

 

アスナは不服そうにこっちをキッと睨むも、口を閉じた。

よく見るとキリトも不満そうな顔をしているし、ハルさんもイイ笑顔だ。

 

ゴーレムは……こっちに近づいてきてるか。

思ったより遅いな。

攻撃速度が速い代わりに移動速度は遅くなっているのか。

戦闘が終わった後ハルさんたちから逃げる算段を立てつつ、思ったことを提案する。

 

「攻撃を弾く役、ハルさんとキリトに代わってもらえますか?威力も上がってるかもしれないので」

「了解だよ」

「分かった」

 

二人が頷いて前に出て行くのを確認してから、アスナを横目に見る。

 

「……何よ」

「いや、何でもない。……行くぞ」

 

敏捷値がダメージ計算に絡むためにそれなりのダメージを叩き出せる突進系のソードスキルから軽いソードスキルに繋げ、離脱しては隙を見てまた攻撃する。

 

俺に使える手段を全て使って全力で攻撃しているものの、稼ぎ出せるダメージ量はアスナに遠く及ばない。

こうもはっきり劣ってると、自分で選んだスタイルとはいえ、イラつくな……。

 

俺の苛立ちをよそにボスはゲージを減らしていき、ついに――。

 

「「ハァッ!!」」

 

俺とアスナの同時に決まった攻撃で、ゴーレムはその身を散らせた。




お読みいただき、ありがとうございました。

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