ぼっち in アインクラッド   作:稀代の凡人

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第12話

◆ ◆ ◆

 

 

 

全てが始まったあの日から、およそ4ヶ月が経った。

攻略は順調に進み、現在は第20層だ。

 

現在最前線で活躍する有名なギルドは三つ。

キバオウ率いる〔アインクラッド解放軍〕――通称軍――と、同じくディアベルの取り巻きだったリンドというプレイヤーが率いる〔聖龍連合〕。

そして、ハルさんが率いる超少数精鋭ギルドである〔雪解けの陽射し〕である。

 

〔雪解けの陽射し〕は5人にも満たない少数ギルドなのだが、まずギルドマスターの「陽光」ハルとサブマスターの「閃光」アスナはどちらも類稀なる美しい容姿である上に実力も攻略組トップクラスで、作戦立案も殆どがこの二人によるものというまさに才色兼備の完璧美少女。

そのためプレイヤー間ではファンクラブすらできるほどの人気っぷりである。

最前線以外のプレイヤーからの扱いはもうアイドルと変わらない。

 

さらにもう一人、「黒の剣士」キリトは攻略組きっての悪童(攻略をサボって昼寝とかしてたりするというだけで別に悪いことをしているわけではない)でありながら、その剣技はSAO最強の一角とすら言われるほどの実力者だ。

あと、こいつの場合は先の二人と同じギルドに所属する唯一の男としても知られており、SAO中の男達の怨念を受ける存在でもある。

 

まあご覧の通りSAO三強が全員所属するギルドなのだから、知名度も高くて当然である。

 

俺の知り合いでいくと、クラインはSAO以前からの知り合いと共に〔風林火山〕というギルドを結成し、そろそろ最前線に追い付くらしい。

 

俺はというと、プレイヤー達からのあからさまな悪意は時間と共に減ってきてはいるものの、未だ一部に根強く残っている。

そのため未だに根無し草――驚いたことにそういうわけではないが、相も変わらずソロである。

今日も今日とて攻略、と迷宮区を進んでいた。

 

今は迷宮区内に幾つかある、敵モンスターが近寄らない休憩所で休んでいる。

圏内ではないものの比較的安全に休めるので、プレイヤー達は重宝していた。

PKに襲われる可能性はあるので完全に気を抜いたり寝たりはできないが。

 

……ん、誰か来たな。

6人か。

この人数だと軍や〔聖龍連合〕ではないな。

誰だ?

 

「――おお、ハチマンじゃねえか!」

 

「……クラインか」

 

噂をすれば、ってやつだな。

 

「この層からだったのか」

 

「おう。やっとレベルも追いついたしな」

 

へえ。

後追い組が俺たちに追い付くのは中々大変だろうが、よくこんな短期間で追いついたもんだ。

 

クラインの後ろの仲間達が自己紹介をして、腰を下ろす。

 

「そうだ、せっかくだから今日は組まねえか?SAO最速の『絶影』の戦闘も見てみたいしよ」

 

「『絶影』?何だそのイタい名前は」

 

「ああ、知らねえか?オメーのことだよ。影すら留めぬその速さ、まさに『絶影』の如し、ってな」

 

おい、その名前を付けたのはどこの材木座だよ。

厨二病全開すぎるだろ。

 

「何だそれは。断固拒否する」

 

「いやあ、もう遅いと思うぜ。既に下層まで広まってるくらいだからな。良いじゃねえか『絶影』。カッコ良いぞ?」

 

ニヤニヤしながら肩を叩くクライン。

 

誰だよ広めた奴。

一体どこの鼠だ、あのヤロー……。

 

恥ずかしすぎて枕に顔をつけて悶えたい。

穴があったら入りたいぐらいだ。

寧ろ地面が破壊不能じゃなかったら自分で掘って入るまである。

 

……はぁ。

 

「お前ら絶対その名で呼ぶなよ?」

 

「まあ本人が嫌がってるなら仕方ねえな」

 

おい、揃ってニヤニヤすんじゃねえ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「いやぁ、噂通り強かったなぁ」

 

「強かったっつーか、速かったよな」

 

「さすがは『絶影』だわ」

 

「俺全然見えなかったし」

 

先ほどのハチマンとの迷宮探索。

その中で目にした彼の戦闘に、〔風林火山〕の面々は未だ興奮冷めやらぬ、といった様子だった。

 

しかし、その一方で静かに考え込んでいるのが一人。

 

「なあ、クライン」

 

「お?どうしたんだ、メビウス」

 

興奮するギルドメンバーをどこか嬉しそうに見ていたクラインに、メビウスと呼ばれた温厚そうな男は静かに切り出した。

 

「あれが噂の『絶影』だっていうなら、確かにお前の言う通り『絶影』は気のいい奴なのかもしれない。でも、あの噂も本当のことなんだろう?」

 

「それは……まあ、な」

 

クラインは苦い顔で頷く。

 

この鋼鉄の城に囚われた全プレイヤーが待ち望んだ第一層の突破。

その知らせと共に、密かに囁かれている噂がある。

 

「ハチマンというプレイヤーが、罠に嵌ってしまったボス討伐隊のリーダー格だったプレイヤーを見殺しにした上に、その愚かさを嘲笑った」

 

というものである。

 

この手の噂にしては不思議なことに一週間ほどで不自然なほどぱったりと聞かなくなったものの、それでもそれなりの人数に広まっていた。

 

その噂を耳にしたうちの一人だったクラインは、即座にキリトにメッセージを飛ばした。

 

ハチマンはVR初心者だった自分にソードスキルを教えてくれたプレイヤーだ。

こんな話は勘違いだ、嘘に決まっている、と。

 

しかし。

キリトから帰ってきた答えは、

 

『……大体合ってる』

 

という信じられないものだった。

 

レベルを上げて徐々に攻略最前線に出れるようになってからは攻略組のプレイヤーたちのこともよく見るようになったが、やはりハチマンはどこか恨みや負の感情をぶつけられていることが多かった。

 

傍目から見ても分かる悪意をあれだけ受けても全く動じていないように見えるのは、よほど鈍感なのか悪意に慣れているのか。

 

メビウスを除く他のギルメンはその噂自体を知らないようで、クラインの「いい奴だぜ」の言葉を疑わなかったようだった。

だが、〔風林火山〕の頭脳役であるメビウスだけは噂を知っていたらしい。

 

クラインが〔風林火山〕の仲間と共にデスゲームの中でここまでやってこれたのも、最初にキリトとハチマンの二人からソードスキルのレクチャーを受けられたからだ。

 

「一体、何がどうなっちまってるんだ……?」

 

クラインは、そう呟いた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

〔風林火山〕との邂逅から5日後。

第20層攻略会議が開かれていた。

 

会議を仕切るのは、ハルさんとアスナの二人。

この光景はもはや当たり前になりつつある。

 

「今回は第20層。5の倍数にあたる階層だから、これまでの傾向から考えて少し攻略難度が上がると思う」

「偵察の結果、今回のボスはどうやらパワーとタフネスに長けていることが分かりました。動きは鈍い代わりに一撃が重い。重装備の盾持ちでも、攻撃によっては受けきれないかもしれません」

「そこで、思いきってタンクを無くしちゃおうかなーって思うんだけど」

 

にっこりと笑顔のハルさんに。

 

――は!?

 

おそらく、同じことをここにいるほとんどのプレイヤーが思っただろう。

 

タンクはボスのヘイトを集め、タゲを取って攻撃を受けてアタッカーを支える重要な役割だ。

旨味は少ないが、タンクがいなければ攻略は回らない。

 

はずなんだが……ハルさんが考え無しにこんなことを言うはずない。

きっと勝算があるのだろうと、続くアスナの言葉に耳を傾ける。

 

「アタッカーのみで幾つかパーティを組み、交代でボスを攻撃します。ボスの攻撃は基本的に回避。おそらく動き回ることになるので、パーティは連携の取れる相手と組んでください。それから、長期戦になると思うので万一に備えて予備の武器を必ず持参すること。以上です」

 

何か質問は?と周りを見回すアスナに、リンドが手を挙げて立ち上がる。

 

「アタッカーは何人揃えるつもりだ?」

「最大で8パーティ集めるつもりです。ただ、人数で制限するのではなく一定以上の技量を持っているプレイヤーのみとします」

「その一定、というのは?」

「ボスの攻撃を回避しつつ余裕を持って攻撃できるか、です。ただ、攻略組に名を連ねていればクリアできる水準だと思うので、安心してください」

「なるほど」

 

リンドは納得したのか腰を下ろす。

 

「他に質問は?……無いなら、これで攻略会議を終了します」

「次は明後日の午前9時にここに集合で宜しく」

 

ハルさんが最後に連絡事項を告げて、会議は終了した。




お読みいただき、ありがとうございました。


少し時間が経過しました。
攻略組の現状と第1層ボス討伐隊に参加していないプレイヤーから見たハチマンの現状、そして攻略会議ですね。
次はボス戦……まで行くかなあ。

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