受験勉強の息抜きに書いてるので亀更新ですが、ご了承下さい。
それを手に入れることが出来たのは、全く運が良かったとしか言いようがない。
今になってみると不運以外の何物でもないのだが、少なくとも当時の俺はそう思った。
何せ、全国から寄せられる応募の中から、抽選でたったの1000人なのだ。
しかもそれが世界初のVRMMORPGともなれば、全国の関心はそれに集まっていた。
基本的に、というかほとんどの場合において少数派(派閥自体に入らないこともある)なのだが、今回に限っては珍しく俺もその大多数に含まれていた。
とはいえ一部のコアなゲーマーほどの熱意はなかった。
ただ、その頃はちょうど修学旅行が終わった頃。
部室に行くのも中々気まずく、放課後特にすることもなくなったからその暇潰しに、当たったら儲け物程度の気持ちで応募したのだが。
幸か不幸か俺はその1000分の1に選ばれ、β版を体験し、その魅力に取り付かれて本サービスも参加することにしたのだった。
後に多くの人々を恐怖のどん底に陥れるその悪魔のゲームのタイトルを――ソードアート・オンラインという。
「――リンクスタート」
◆ ◆ ◆
「だからこう、ぐっと溜めてズバーン!って感じだよ」
「ズバーンって……。まあ、やるしかねえか。よし、もう一丁来い!」
片や文明の象徴たる言語を使わずオノマトペに頼る少年に、片やソードスキルのコツが掴めずに、某国民的RPGのスライム的な位置付けの雑魚相手にすら苦戦する男。
何で俺はこんな奴らと一緒にいるんだ……と思わず頭を抱えそうになる。
この鋼鉄の城に久方ぶりに降り立った俺は、まずは武器を手に入れようと武器屋に向かった。
この始まりの街では、正式サービス組にとってはたちの悪いことに、良い店は路地裏などにあることが多い。
そして当然その数もそう多くはなく、ベータ時代の知り合いに会うこともおかしくはないというわけだ。
俺の場合はその知り合いすら皆無に近いのだが、よりによってその数少ない知り合いを引き当ててしまったのだ。
かつてボス戦でラストアタックボーナス、通称LAボーナスを取りまくってプレイヤーたちを震撼させるとともに顰蹙も買った凄腕のプレイヤー、キリトである。
ちょうど新人に捕まってレクチャーを頼まれた所であり、手伝ってくれと言われて今に至る。
というかキリトよ、お前語彙力なさ過ぎだろ。
「おーい、ハチマンもなんかアドバイスしてくれよ〜。こいつの説明、よくわかんねえんだよ〜」
「安心しろ、そいつの説明じゃ俺も分からん」
視界の端で心外そうにしているキリトを横目に剣を構えてみせる。
俺の主武装も、キリトと同じ片手直剣である。
盾を持っていないのは、剣の取り回しをよくするためと、死角を極力無くすためだ。
あと、心外そうにしているキリトの様子が俺には心外である。
「良いか、えーっと……」
「クラインだよ!さっき自己紹介したばっかだろうが!」
「ああ、クラインな。オーケー覚えた。さて……まあ良いや、取り敢えず行くぞ」
「もう忘れてんじゃねえか!」
喚き立てるクライン。
というか、そもそも俺はここ何年か小町を除くと奉仕部のあいつらとぐらいしかまともにコミュニケーションを取っていないのだ。
いや、奉仕部でもただ単に地雷の発掘作業に勤しんでいた記憶しかないが。
とにかく俺から口を開くと大抵が昔語りか雪ノ下と傷を舐め合うか由比ヶ浜をからかうぐらいだったので、クラインをからかうところから入ったのも俺は悪くない。
適当に軽く自己弁護したところで、気を取り直して剣を構える。
ソードスキルとは、即ち戦闘の要であり、このソードアート・オンラインの最大の魅力でもある。
ソードスキルは通常攻撃と比べて高い攻撃力を誇り、更に剣を扱うことに慣れていない現代人をアシストする強力な武器でもある。
つまり、ソードスキルを使いこなせなければこの先はやっていけないということだ。
「ソードスキルの発動にはプレモーション、まあ予め設定された構えみたいなもんだな、それをシステムに認識させる必要がある。だから慣れないうちはプレモーションをとったら一瞬止まるぐらいでいいと思う。そしたら、あとは自動的にシステムが体を動かして攻撃してくれる。余計なところに力が入ってると途中で止まっちまったりするから、最初は力抜いてシステムアシスト任せでいいと思うぞ」
あえて大袈裟にプレモーションを取る。
剣が光に包まれ、身体が勝手に動き出す。
そのシステムの強制力に脱力して逆らわず、俺の身体はシステムに規定された速度で片手直剣単発技[スラント]を放った。
その直撃を受け、砕け散るフレンジーボア。
少しの技後硬直の後、剣を払って鞘に納める。
「っとまあ、こんな感じだ。やってみろ」
「お、おう」
と俺の実演を思い出しながら剣を構えるクラインを他所に、キリトの下に戻る。
そして、俺たちの見守る中。
ようやくクラインは初のソードスキル発動を成功させるのだった。
◆ ◆ ◆
それから数時間、俺たちは適当にその辺のMobを狩りまくった。
「クラインもだいぶ慣れてきたな」
「おぉ、やっぱりか?なんか段々動きがスムーズになってる気がするぜ」
「まあ最初のアレに比べればな」
ソードスキルを発動出来るようになったのは良いのだが、それと戦闘で使えるというのは全く違う。
クラインも最初の方は一々動きを確認してからでないとソードスキルを出せないもんだから、全然当てられなかった。
それでもようやく最低限戦えるようにはなった、といったところか。
「……お。んじゃ俺そろそろ落ちるわ。5時に熱々のピザを頼んでるからな」
「へえ、準備万端だな」
「おうよ」
もっと準備することがあるだろ、他に……と思わんでもないが。
「あ、二人ともフレンド登録しねえか?」
何気ないクラインの一言に俺は固まる。
いや、ほらぼっちの身としてはフレンドとかそういう類の言葉に無意識に拒否反応が出るというか……。
というか、なんでこういうのってフレンドって銘打ってるんだろうな。
ボタン一つで友達になれるこのシステムがそもそも友達という言葉の軽さを物語ってるだろ。
それともあれか、簡単に登録したり消したりできるあたりが人間関係の無情さを表しているのか。
怖っ。
「ん……まあ、クラインなら良いよ」
少し悩んで頷くキリト。
おい、お前簡単に頷くな。
ぼっちだっていうのは嘘だったのかよ。
冗談はさておき、キリトが頷くのも分からんでもない。
短い時間共に行動しただけだが、こいつは確かに信用出来るように思える。
「……俺も構わん。ほら」
俺もクラインと、ついでにキリトともフレンド登録する。
β時代のフレンドリストはリセットされているので、情報屋として膨大な人脈を構築していた鼠あたりは大変だろう。
少数精鋭を信条とする俺は当然フレンドなど片手の指も余るほどの数でしかなく、精々キリトと鼠ぐらいなものだったので楽だが。
「よし、じゃあまたそのうち一緒に狩りしようぜ。今度は前のネトゲで同じギルドだった奴らも紹介するからよ」
「あ、ああ」
「まあ、そのうちな」
クラインの言葉に適当に返事をして時計を見る。
デフォルトのアナログ時計の文字盤を見ると、短針は5の少し手前を指していた。
もうちょっとレベルを上げたら俺も一旦落ちるか。
小町の夕食が待ってるし。
今日の天使の晩餐に想いを馳せていると、ウィンドウを操作していたクラインが声を上げる。
「……あれ?おい、ログアウトってどうやってやるんだっけか」
「は?そんなのメニューの一番下から……」
「だから、そこに無ェんだよ!」
は?
幾ら何でもそんなわけ……確かに、ログアウトのメニューが無い。
様子を見るにキリトも同じだったようで、顔を顰めている。
「おい、これの他にログアウトの方法って……」
「無い」
「え?」
「だから無いんだよ。メニューからログアウトする以外の方法は……!」
「……あ、じゃあGMコールは――」
「無駄だ、繋がらん」
キリトとクラインが話している間に試してみたが、反応が無い。
「もしかして他のプレイヤーにも同じバグが発生してるのかもな」
「それだったら待ってるしかねえか。――あっ!俺のピザとジンジャーエール……」
「諦めるんだな」
がっくりと肩を落とすクラインを他所に、俺はキリトのある言葉に引っ掛かりを覚えていた。
これは、バグなのか?
確かにソードアート・オンラインは世界初のVRMMORPGとして注目されてはいるが、それでもこんなログアウト不可能なんて重大なバグは大きなダメージを受けるはずだ。
というか本来ログアウトの機能なんて一番不具合が発生したらマズイ機能だ。
それが、こんな初日からバグったりするのか?
もしかしたら、何かとんでもない事態が起きてるんじゃないか……?
――その時。
アインクラッドに、鐘の音が響き渡った。
お読みいただき、ありがとうございました。
なお、八幡一人称の地の文の面白みの無さは(作者の力量不足から来る)仕様です。
原作者も他の俺ガイル二次の作者も何であんなの書けるんだ……。