幻想RI!神主と化した先輩   作:桐竹一葉

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更新遅すぎィ!(自重
その上、今回はTDN面白みのない繋ぎ回です……本当に申し訳御座いません……
あーつまんね、とおもわれるのもしょうがないね……
尚、今回は少し残酷な描写が入っております。気分を害されました場合は直ぐに改善致しますのでご報告をお願い致します。


デデドン!(ボスエンカウント

「全面真っ赤なんて、良い趣味してんねぇ!通りでねぇ!(皮肉」

 

見渡す限りの赤。赤い霧に覆われたあの空もまた、この世は初めからそうだったのかと錯覚を覚える程に、赤い世界というものを演出していた。然し乍らこの館内は、ほぼ完全に赤一色なのだ。360度、上下左右に四方八方、見渡す限りの鮮紅。天井も床も壁も、挙句にはドアでさえも赤だと言うのだから、これには侵入当時の浩二もぎこちない笑みを浮かべる事しか出来なかった。ドアがドアであると分かるのも、全ては僅かなスキマと金属製のドアノブがあったが故である。

外観からして赤一色ではあったが、流石に内部までもがそうだとは夢にも思わなかったらしい。

そんな館に住む紅魔館の主のセンスに辟易しつつも、浩二は周囲を警戒しつつ確かな足取りで歩みを進めていた。

 

「しかもそこら中に死体(大嘘)がばら撒かれてて、まるで地獄みたいだぁ……」

 

何より浩二の言う通り、其処彼処に倒れ伏す人影、それが尚一層この空間の異質さを際立たせていた。否、正確に言うならそれは人影と形容するのは間違いとなる。何故なら、倒れ伏すその少女達の背には、昆虫のような羽が生えているのだから。彼女達はこの幻想郷に於いて、人間と妖怪に次いで多数の種族『妖精』である。基本的に身体能力は低く、霊力などといったエネルギーは微量、何より優れているとは言い難い頭脳を持つ。しかしそれでも、こうも廊下を埋め尽くすだけの数がいれば、数の暴力で弾幕をばら撒けば、人間を撃退する程度はなんでもない。

この妖精達が着用するヴィクトリアンメイド服を鑑みるに、彼女達は恐らくこの紅魔館のメイドなのだろう。そしてこの惨状、更に少しばかり傷付いたメイド服、気絶している妖精達。

 

「RIMだいぶ先行ってんじゃんアゼルバイジャン」

 

即ちそれは、先程侵入した霊夢が妖精メイド達を薙ぎ倒し、異変首謀者の元へと突き進んだという事に他ならない。抑、浩二は既に霊夢の居場所を大まかにではあれど、特定なら出来ている。現在彼のいる紅魔館一階の一つ上の階、浩二の今いる場所よりも僅かに離れた場所に、霊夢の持つ莫大な霊力を感知していたのだ。

 

「それに、ついさっきMRSも来たみたいなんだよなぁ……」

 

浩二が紅魔館に侵入したほんの1分か2分後に、突如上の階から聞こえた派手に硝子の割れる音に、霊力などとは一際質の違う力『魔力』を持った何者かが外部から飛来して来たのも、彼は感知している。この幻想郷では魔力を使える人物自体が極少数であり、増してこんな異変などに自ら首を突っ込むのは魔理沙しかいない、という考えだ。現に、今も尚戦闘音が、上階から絶えず浩二の耳朶を打つ。常人の聴覚では、微かに爆発音などを聞き取れる程度の音量だが、浩二の聴覚もとい超覚を研ぎ澄ませば、直ぐ其処で戦闘が行われているかのように感じられた。

 

「何か喋ってるみたいだけど、会話が聞こえねぇんだよなぁ?爆音のせいでよぉなぁ?(八当たり」

 

一旦メイド達の隙間を縫って赤い廊下を踏み締めていた足を止め、そう独り言ちる。

弾幕勝負などと軽い表現をされてはいる、実際に殺生沙汰はそうそう無い。それでも弾幕一発一発の威力は、児戯じみたただのスポーツ擬き、などと侮れる程弱いわけでも無いのだ。死屍累々たるこの妖精メイド達も、霊夢という侵入者が来たからには、定則に則り弾幕で応戦したのだろう。

しかしこんな微弱な力しか持たない少女達の弾幕でさえ、常人に当てれば痣を作るくらいは出来る。

それは、上階の弾幕ごっこによる衝撃の余波が、浩二の立つ下階まで届いている事からも明白だろう。しかし彼の頭は今、そんな激戦を繰り広げているであろう霊夢と魔理沙の事は考えられていなかった。

 

 

 

「まぁ、二人の戦いに水を差すのも気が引けるし……俺は俺の方で仕事しなきゃ駄目みたいですね(嘆息」

 

 

 

溜息混じりの呟きと共に、浩二は顔を緩慢な動作で上げ、自らの直ぐ隣の壁に視線を向ける。

彼の言葉や行動からして、その壁に何かがあるのだろう。しかし一見してみれば、鮮紅であること以外何の変哲は無いただの壁。他の壁面と比較してみても、彼が視線を向けるその壁面との相違などは一切見受けられない。だと言うのに浩二は、足を止めたままその一面だけを凝視している。

ふと、気に掛けているであろうその壁面を叩いた。石材の硬質な壁面に、骨ばった厳しい彼の手の甲がぶつかり、こつこつと小気味良い音を立てる。

 

「うん、おかしい!」

 

廊下に響いたその何の変哲も無い音に、しかし浩二は首を傾げた。試しにと言わんばかりに、猜疑心をその目に宿したまま、他の壁面も叩く。案の定、当然と言うべきか、そこもまた同じくこつこつと小気味良い音を立てるだけだった。それでも、浩二の顔は疑念を露わにしたままである。と言うよりも、尚一層その念は強まっているようにも見えた。

 

「…………しょうがねぇなぁ(孫悟空)、いっちょ俺が試してみるか」

 

その言葉と共に、彼は突如として構えを取る。体勢を低くしたまま、右手の平を開いたまま身体の若干前から壁面に向け、左手は握ったまま脇腹へと持って行った。右足を前に出し、左足を後ろへ持って行き曲げている。それはつい先程の戦いで、手始めに美鈴が見せたあの型だった。

たった一度見ただけで、見様見真似でその構えを模倣する。簡単なようにも思えるその技術だが、その実実用可能な程の精度で模倣するというのは途轍もなく難しい。しかしそれを浩二は、現にやって見せんとしていた。

 

「確かぁ、発勁って書かな……言わなかった?(UDK

じゃけん俺なりにアレンジしましょうね〜」

 

鬼気迫る表現に力強いその構えとは裏腹に、彼の口から発せられる声はいつも通りの気の抜けた声色。その声が彼一人と何ら変わら無いこの空間では厭に響き、長大な廊下全域にまで届いた。

そして、その数秒後に訪れた寂静。上から聞こえる戦闘音を意に介する事無く浩二は、ふぅ、と小さく短い吐息を零し、瞠目する。そのまま徐に右手を壁面に当て、先程の無形の位宜しく、身体に込められていた力を抜き去り、完全な脱力状態を作り出した。

 

 

 

「迫真空手拳術『勁殺打(けいさつだ)』」

 

 

 

刹那、浩二は即座にして開眼する。極度の脱力状態にあった肉体を、その肥大化した多量の筋肉を瞬時に奮い起こし、一瞬にして極度の力んだ状態へと変化させた。だが、それだけでは終わらない。

一瞬にして身体中に漲らせた運動エネルギーたる『勁』を、瞬きにすら満たないその時間で、掌へと移す。最後に移した勁の全てを、壁面に接していた右手を押す事で叩き込めばーー

 

「成し遂げたぜ(ノムリッシュ」

 

ーー右掌から発せられた強力な掌打により、壁面は成す術もなく砕け散る。

フロア全域に届く程の大きな破砕音を伴い、赤い微塵が浩二の右手から始まり、彼の身体とその周囲を纏めて覆い尽くした。その余波は、地面に伏していた妖精メイド達にまで及び、只でさえ吹けば飛ぶような小柄な彼女達のその肉体は、一気に壁面の向かいたる窓側の壁面へと叩き付けられる。

ごつ、という壁面と頭蓋の衝突する鈍い音がして、妖精メイド達が高く短い悲鳴をあげた。

 

「ぐ……っヴォエッ!ヴォエッ!(咳嗽」

 

そんな中でも、浩二は撒き散らされた粉塵に顔を隠して咳き込んでいる。憖彼の嗅覚が優れているだけに、材質故か妙な臭いのする粉塵が撒かれている中では、如何に浩二といえど直ぐに次の行動へ移る事はできなかった。増して間近で破砕してしまったからには、開けた目にも多少なりとも粉塵は入ってしまっている。目に涙を滲ませながら、泣きじゃくる小学生のように目を擦るその様は、浩二という大の大人がやるには余りに見ていて辛いものがあった。

 

「な、何!?何が起きたの!?」

 

すると、頭を打ったせいか目を覚ました妖精メイドの一体が、その破砕音と巻き上がる微塵に喫驚して、悲鳴のような声色でそう叫ぶ。彼女達からすれば、突如妙な衣服に身を包んだ巫女が襲撃して来て、交戦した結果成す術もなく撃ち倒されて気絶し、剰え頭を打って覚醒したと思ったら目の前で爆発じみた事が起きているのだ。只でさえこういった荒事などの経験も無い彼女達では、錯乱し困惑するのも仕方無かろう。

 

「辛過ぎィ!あーもう涙出ちゃいそう!(事後」

 

漸く撒き散らされた微塵も晴れて来て、浩二も独り言ちるだけの余裕は出来たらしい。

晴れた粉塵の後に見えた彼の姿に、それを今更になって視認した妖精メイドは尚の事困惑した様子を見せている。

 

「ちょ、ちょっと!貴方は誰!?」

「ん?あぁ起こしちゃってセンセンシャル」

 

必死の形相で問いを投げかける赤い髪を持った妖精メイドの一体に対して、浩二は目に未だ滲んだままの涙を拭いつつ、いつも通りの口振りで答えた。「答えになってないってば!」と突っ込みを入れ、その幼い容姿に違わず、両手を胸の前でぶんぶんと上下に振る、幼気な動作を見せる妖精メイド達。そんな彼女達に、戦おうとはしないのだろうか、と思い苦笑を浮かべつつ、破砕された壁面へと浩二は向き直った。

 

「俺は田所浩二、二十四歳楽聖です。お前らご存知であろう巫女の異変解決の手伝いに来たんだけどーーこの奥にとんでもない力を感じたから、野暮用もまぁ、多少はね?」

 

その言葉に、起きている妖精メイド達の間に小さなざわめきが起きる。やれ「また異変解決者か壊れるなぁ……」だの、やれ「巫女の仲間って事は、このおじさんも凄く強いんじゃ……」だの、やれ「君子危うきに近寄らずって言うし、無駄な血を流してはいけない(戒め」だの、やれ「何でこの場所に気が付いたんだろう……」だの、やれ「このナリで二十四歳は流石に草」などといった声がちらほらと耳に届く。最後の言葉に苛立ちを覚えながらも、霊夢の健闘により戦う手間が省けた事に感謝した。何よりそれらよりも、何よりも多く聞こえる言葉があった為に、今は妖精メイドに怒りをぶち撒けている場合ではないと、憤怒の炎を自制する。

 

「……その先に行くつもりなの?」

 

一応は敵対関係である筈の妖精メイドの一体が、何かを危ぶみ心配する様な声色で、そう問うた。

その問いが指すもの。それは浩二の気に掛けていた壁面ーーが崩れた先に有った、地下へと続いているであろう石造りの無骨な階段だった。浩二がその一部の壁面のみを気にかけていたのは、どうやらこの階段が隠されている事を察していたからだったらしい。しかし、それをどうやって悟ったのかと言えば、それは浩二が持つただの勘である。無論、霊力などのエネルギーを探知した結果でもあるのだが、壁を破砕する前は、まるで阻害されているかの様に、感じられる力は微弱だった。更に壁面を破砕した時、浩二はその一面に施されたある術ーー外部からの探知を無効化させるタイプの術の存在を感じ取っていたのだ。それは若しかすれば、この先にある強大なナニカを秘匿し、封じる為の仕掛けだったのではなかろうか。そう浩二は推測していた。

 

「そうだよ(肯定)。この先に何かあるんですかねぇ……?」

 

暗い、と言うよりも不安げな面持ちをする妖精メイド一同に、浩二は極力明るく気の抜けた声で、そう話しを投げかける。が、その反応は返ってこない。相変わらず不安を露わにしたまま、俯いたままである。

 

「ま、待って」

 

しかし、聞き出せはしないかと諦めて階段を下りようとした時、今度は青い髪の妖精メイドが、小さな声で浩二を引き止めた。てっきり教えては貰えないかと思っていただけに驚いたが、今は話を聞くべきだと考え、改めて青髪の妖精メイドの方へ向き直る。

 

「そ、その先には……この館の御主人様の妹様がいらっしゃるの」

「……ファッ?妹?」

 

この館の主というからには、恐らく人外の類だろうとは予測出来ていた。しかし、浩二がこの館へ来て探知をした際、この階段の奥底辺りから感じ取った気配と力は、大妖怪にさえ比肩し得る程のものにさえ感じられるものだったのだ。そんな存在が妹と言う事は、姉もきっとそれに並ぶ実力者であろう。その片割れならば、異変首謀者としては是が非でも自らの戦力として活用したい筈だ。だと言うのに、何故自分達という敵が侵入して来て尚、こうして地下の方に放って置いているのか。

 

「妹様の力は、余りに凶悪なの。それに、精神状態が不安定だから……」

 

そんな浩二の疑問を察したのか、青髪の妖精メイドはそう宣った。それを聞くや否や、浩二は小さく唸るように声を上げ、顎を摩る。その口振りなどから察するに、恐らくその妹様とやらは過ぎた力を持ち、正気を保ち切れないが為に地下に放置されているのだろう。だがそう考えてみると、その考えを追及すればする程に、段々と浩二の胸に秘めたある思いが膨らんでいった。

 

「じゃあ、危険だから放置してるんですかね……?」

「放置と言うより、幽閉、かな……生まれた時からずっとそうだったみたいで、それからずっと地下に……」

「…………生まれた時から幽閉されてるのか」

 

生まれた時から大きな力を持っているなど、人間とそう変わらない浩二からしてみれば、今一想像の及ばない事である。しかし、この妖精メイドの言を信じるとすれば、その妹様というのは生まれた時から、望んで得た訳でもない力を危惧されて閉じ込められている、という事になる。

 

 

 

「ーーじゃけん今行きましょうね〜」

「…………ぇ?」

 

 

 

そんな話を聞いて黙っていられる程彼は賢くもないし、そんな話を聞いただけで行動に移してしまう程彼は直情的だった。浩二が和やかかつ爽やかな笑みを浮かべつつそう言うと、青髪と赤髪さけでなく、起きている妖精メイド達が揃って驚き念を露わにする。この男は話を聞いていたのか、という感情も少なからずあるのだろう、眉を顰めている者も少なくない。その思いなら、浩二とて理解はしている。自分達にまで被害が及ぶのを、忌避しているのだ。侵入者の一人二人が殺されようとどうなるとう知った事ではない。しかしその余波が自分達にまで及ぶのは絶対に嫌だ、と。

だがそれを理解していて尚、浩二は足を止めようなどとは微塵も思ってはいなかった。

 

「ちょ、ちょっと、話聞いてた!?大袈裟でもなんでもなくて、本当に恐ろしくてとっても強いんだよ!?」

「そりゃこの先からとんでもない気配が感じられるし、そのくらいは分かるに決まってるだルルォ?

でもだからって、そんな危険性を孕んだ相手を野放しにしておくのは拙いですよ!」

「でも、もし解放されたらーー」

「それに子供の頃からずっと一人のままじゃ、人間でも妖怪でもなんでも、精神状態おかしいよ……ってなるのは当たり前だよなぁ?」

「だってそうしないと自分達がーー」

「それをどうにかして、例え過ぎた力だろうとその使い道を教えてやらなきゃいけない(戒め)。はっきり分かんだね」

「知らないけど、多分それが出来ないからーー」

「教育放棄は止めて差し上げろ(憤怒)。早々にお手上げとか、なんだってテメェらはそう妹に対して根性がねぇんだ?(ヒゲクマ」

 

妖精メイド達が必死に制止の為の言葉を投げかけようが、それを浩二はのらりくらりと巧みにかわしてみせる。一部の妖精メイドは既に、彼のロジックに対して反論する気力も無くなり、肩を落として項垂れていた。それからも妖精メイド達は浩二を止めようとしたが、彼はそれらを悉く受け流している。言葉で訴えかけられない以上、武力など以ての外たる妖精メイド達に打つ手は無かった。

彼女達はこれから起こり得る可能性の有る、妹様とやらによる惨劇を想起している。すると浩二はそんな中で、より一層深く明朗な笑みを浮かべて見せた。

 

「大丈夫だって安心しろよ〜。仮にも相手の実力をある程度分かった上で、こうして行こうとする訳だし。勝算があっての事だって、それ一番言われてるから」

「……なんか、あんまり信頼出来ない」

「オォン……(悲嘆)。まぁ少なくとも、俺以外に被害を出すつもりは無いから、ハイ、ヨロシクゥ!」

 

そう言うと同時に、浩二は早々に破砕した一面から覗く階段へと、一歩踏みしめた。

たった一歩、その妹様がいるという空間に繋がる場所へと踏み出しただけだ。ただそれだけの筈である。しかしそ瞬間、浩二の身体に言いようの無い悪寒が走った。

 

「ああ、すっげぇ雰囲気……」

「ほら、言わんこっちゃない。行かなきゃ何も起こりはしないし、止めた方が良いよ」

「止める訳無いだルルォ!?よしじゃあぶっこんでやるぜ(特攻の拓」

 

その底知れ無い悪寒を誤魔化すように、浩二は敢えて歩速を早める。一歩目で止まったのが嘘のように、次々と段数を重ねて行き、下層へと降りていく。背後から妖精メイド達の声が聞こえはしたものの、それに前を向いたまま手を振る事で応えた。

 

「しっかし、なっげぇ段だなぁ……どれだけ厳重なんですかね(呆れ」

 

早足で降り進めてみれば、既に光源は階段の両脇に掛けられた松明しか無い。しかし、すぐ身近に松明がありながら、浩二は体温が低下する感覚を味わっていた。今日は赤い霧のせいで、季節にそぐわぬ気温である事は分かっている。しかしこの肌寒さは、どうにもそういった低温下などといった要因ではないらしい、と浩二は考えていた。人一人が少々手狭にも感じるこの階段には、風が吹いている訳でもない。ならばこれは、この先から放たれる威圧感の所為なのだろう。イメージするなら、大鎌を持った白骨の身体を持つ死神が、顎骨を大きく開けて、けたけたと狂ったように笑っているかのような。凶兆さえも入り混じったこの雰囲気、妖精メイド達がああも恐れた様子でいるのも、理解は出来た。

 

「けど、俺は博麗の神主だ。世の中の不幸な輩を見逃す訳にはいかねぇんだ」

 

然れどそんな悪寒如きでは、彼の燃え滾る義心の炎は揺蕩うだけである。強力な人外であろう姉でさえ恐れる凶悪な能力がどうした。それを持つにそぐわぬ不安定な精神がどうした。そんなもので掻き消せる程、浩二の義心の炎は生温くはない。大恩人(・・・)がそうしたように、彼もまたそうして、手の届く限りその悉くに手を差し伸べるような、そんな生き方をする。そう心に刻み込んでいるのだから。

 

「ん?なんだこの扉……」

 

そんな思考を巡らせていると、いつの間にやら目の前には、巨大な門のように無骨な鉄扉が在った。

見れば既に階段は降り終わっていたようで、周囲は開けた空間になっている。この扉の先から放たれる雰囲気からして、恐らくこの扉一枚を隔てた先には、既にその妹様とやらがいるのだろう。

然し乍らその扉を目前にして、今も尚浩二は逡巡していた。決断を躊躇っていた。

扉の先へと踏み込まんとしていた足が、麻痺したようにぴたりと静止する。

 

「…………俺の勝手な正義感を振り翳すって、どうなんですかねぇ」

 

浩二のその義心に基づいた行動は、世間一般では何方かと言えば褒められた行為かもしれない。

しかしそれが俗に言う、余計なお世話だったとすればどうだろうか。それが若し、妹の望んでいない事だとすればどうだろうか。それが結局、結果を悪い方向に導いてしまったらどうだろうか。

自分からすれば善行であろうと、その相手からすれば悪行であるという事は有り得ぬ事ではない。

もし今回のケースがそうだとすれば、彼は歪んだ正義感に身を委ね、人助けの快楽に溺れた愚者でしかなくなる。相手が望んでもいない事を、態々やってしまうなど、それこそ悪行に他ならないのだから。

 

 

 

「ーーまぁ、小難しい事は後って事で、終わり!閉廷!(思考放棄」

 

 

 

だが、それは結局の所やってみなければ分からない。相手がそれを、誰かが手を差し伸べるのを望んでいたとすれば、そんな逡巡でそれ無碍にするのもまた悪だと彼は考える。なればこそ、先ずは行動するべきなのだ。やらずに後悔よりもやって後悔、そんな言葉を何処かで聞いた覚えが有ったが、正にその通り。取り返しがつくようなら、やって後悔する方が良いに決まっている。だからこそ、もう浩二は躊躇いも逡巡も無かった。

 

「よしじゃあこじ開けてやるぜ」

 

無骨な鉄扉の両端に諸手を押し付け、足に全力で力を込めると共に、鉄扉を力強く押し退ける。

超人的な身体能力を持つ彼の膂力でさえ、最初はぴくりとも動きはしなかった。だが、それもたった数秒の事。石造の地面とこすれ合う大音を立てながら、鉄扉は着々とその隙間を広げていく。

歯を食い縛って、野獣のように低く唸りながら押し退けると、巨大な鉄扉の隙間は既に人一人分は通れるだけの空間を開けていた。後少し、食い縛る歯に鋭い痛みを感じながらも、彼は鉄扉を押し込み続ける。

 

 

 

「貴方は、誰?」

 

 

 

その時、浩二の視線を向けている下方から、そんな高い声が聞こえてーー鉄扉は突如として、大きく開かれた。今し方浩二が必死に抉じ開けんとしていた鉄扉が、まるで造作もなく。

唐突な開門に呆気に取られながら、ふと目線の下から掛けられたその声に、浩二はゆっくりと視線を落とす。

 

 

 

「ねぇ。貴方は誰?」

 

 

 

門の両側に白く小さな手を掛けるその声の主は、濃い黄色の髪の間から覗かせる赤い双眸で、浩二をじっと見上げていた。

 

 

 

 

 

 

「所でこの壁って、パチュリー様の魔法じゃないと開かないんじゃなかった……?」

「うん……ぶつり的には壊せないって、言ってたと思う、けど、ね……」

 

 

ーーーーーー

 

 

紅魔館の内部は、ほぼ全面が赤かった。360度、何処を見渡しても其処には何かしらの形で赤があった。しかしこの部屋の中は、壁のみを見れば紅魔館の廊下以上に赤い。凡そ数十米にも及ぶであろう正方形の構造たるこの部屋、鉄扉以外に壁面には何一つ有りはしなかった。形容するならば、だだっ広い全面赤色の空き部屋。その中央に設けられた、浩二と少女の座す白い二つの椅子と間に在るテーブルを除けば、宛ら此処は監獄の様にも見えた事だろう。尤も、この少女を閉じ込めるという用途の部屋なのだとすれば、それは監獄と言って何ら差し支えはない。

 

「えっと、こういう時って、先ずはどうすれば良いの?」

「まぁ、先ずは自己紹介とかどうすか?」

 

少女の少々困った様な声色に、浩二はなるべく気の抜けた明朗な声色でそう答えた。

すると彼女は徐に頷いて見せると、躊躇いがちに、慣れない対話をどうにかしようとしているのか、数秒の間を置いてから開口する。

 

「私は、フランドール・スカーレット。一応、この館の主人の妹……です」

「こりゃ御丁寧にどうも。俺は田所浩二、24歳神主です」

 

辿々しい所作で軽く頭を下げたフランドールと名乗った少女に、浩二もまた45度丁度の時宜で返した。少女相手に頭を下げる男というのも普通なら可笑しな光景ではある、しかし容姿で考えれば奴隷と令嬢のようなーー美女と野獣ならぬ美少女と野獣なのだから、この二人の場合は違和感など一切働きはしない。

 

「浩二って言うんだ、宜しくね。でも、24歳って……?」

「ネタだから気にしないで、どうぞ。しかもそういう反応は一番傷付くから、やめようね!(悲嘆」

 

可愛らしく首を傾げて疑問げにそう呟くフランドールに、浩二は肩を落として苦笑を浮かべる。

何故傷付いているのか、それは人と関わった経験の非常に浅い彼女には分からなかったようだが、

それを聞いて御免なさいと頭を下げた。それをいいよいいよと笑い飛ばさんとする浩二。

だが彼は表面上普通にしながら、内心或る異常にその思考を費やしていた。

 

「浩二は、何で此処に来たの?」

 

濃い黄色の髪を側頭部で結びながら、少女はその深紅の双眸で以って、浩二の漆黒の双眸を捉え宣う。頭上には紫と似たナイトキャップを被っており、時宜とは違いそれを退かしもせず手慣れた所作で髪を結わいていた。その瞳は勿論、服までもが深紅に統一されており、半袖とラップアラウンドスカートを着用している。愛嬌のある丸い輪郭の顔立ちは、絵画の一枚であると錯覚を覚える程に端整。そして何より目を引くのが、一対の枝に宝石がぶら下がったような、奇妙なシルエットの翼。ルーミアやチルノや魔理沙もそうだが、この幻想郷の文明には些かそぐわないその様相である。

そんなフランドールの姿を見る目が、ついつい鋭くなってしまいそうになるのを抑えつつ、浩二は無難な会話を続ける事にした。

 

「俺は……なんだこの階段!?って感じで此処に続く道を見つけたんで、興味本位で来てみただけだゾ」

「そうなんだ。でも此処に来るには、パチュリーの魔法が必要だったと思うけど」

「なんのこったよ(素)。壁の事なら、俺が少し叩いてやったらこわれちゃっ……たぁ!」

 

フランドールが何気なく発したその言葉に、浩二は些か態とらしく首を傾げてみせる。見るからに壁面を破壊した事に関する何かを知っている貌ではあったが、フランドールは長きに渡り幽閉されていた為に、人を見る目というものが欠けているのか。その顔から彼が胡散臭いなどとは微塵も思えなかったようで、只々純粋な喫驚をその顔に浮かべた。

 

「え……?そんな事、本当に出来たの?」

「すげぇ楽だったゾー。パパッと()って、終わり!」

 

パパッと所か実際は、記憶に新しい美鈴の発勁の際の映像を鮮明に追憶し、その一挙一動を自らの身体に完全にインプットし、其処から更に中国武術独特の勁を扱う事となったのだから、凄まじい集中力を費やしたものだ。幾ら彼に他者の技術を模倣する技術があるにせよ、それが直様、尚且つ安易に可能な訳ではない。いつもへらへらと汚らわしい笑みを浮かべる彼でさえ、技を放つ直前は至極真剣な面持ちでいたと言うのだから、その集中力の多寡は察する事ができる。

 

「そっかぁ……よく分からないけど、浩二は凄いんだね」

「いや、そんな事……俺は脳筋だから、(ぶっ叩いてぶっ壊すくらいしか出来)ないです」

 

無邪気な微笑みを浮かべて、憧憬やら尊敬などといった念をその瞳に宿すフランドールに、浩二は若干恥ずかしげに後頭を掻く。抑この館の壁面には、全域に硬化の力を宿す魔法が仕込まれている事は、魔法には疎い浩二とて分かっていた。しかしその中で一際強力な硬化の魔法、その上に衝撃反射の魔法や霊・妖術の類を無力化する魔法などといった多種多様の魔法が掛けられていたのが、先程浩二の破壊した壁面である。その一部分のみがそれだけ厳重に防護されているというのだから、浩二ならばそれを悟るのは当然だろう。そんな、彼からしてみれば当然の事を少女から褒められるというのは、どうにも彼にとっては気恥ずかしいものだった。

 

 

 

 

「……私も、壊す事くらいしか出来ないの」

 

 

 

刹那、浩二の苦笑じみた笑う声の最中に、フランドールの放った一声が入り混じる。

浩二の声量に比べれば、彼女の声は余りにも小さいものだった。蚊の鳴くような、消え入るような、耳朶を打つ事はなく、染み入るような微弱な声。然れど、その声一つ。その言葉が耳に入った瞬間、浩二は無意識の内に笑う声を途切れさせていた。その一声は、その僅かな声量とは裏腹に、この広大な部屋の隅々までもに広がっていくような、浸透していくかのような感覚を、彼は味わっていたからだ。彼は思わず、半ば反射的とも言えるように、後頭に触れていた手を即座に机の上に置いていた。

しかし、浩二が味わった感覚は、それには留まらない。

 

「私、それ以外に出来る事が無いの」

 

その声が鼓膜を揺さ振る度に、浩二の身体に得も言われぬ悪寒を齎すのだ。体毛に毛髪、その一本一本が励起したかのように直立し、この生温い空気に包まれている筈の室内でさえ、氷室に佇んでいるかのような錯覚を覚える。巡る寒風が身体を吹き抜けて、撫で回すような悍ましいとさえ言える感覚。それと同時に浩二は逸早く、先程壁面を破壊した際に感じた気配に納得する。

 

「壊す事以外何も出来ない能無し。貴方も同じなの?」

 

彼女は俯きながら、その小さく、然れど悍ましい言葉を投げ掛けた。その声量だけで考えるなら、小さく弱々しい呟き。然し乍らその言葉は、声量こそ大きくはなくとも、宛ら地獄の底から響き渡る悪鬼の呪詛のようだった。

 

「……そうだよ(肯定)。俺も物ぶっ壊したりするくらいしか出来ないし、頭空っぽで能が無いんだよね。それ一番言われてるから」

 

それでも浩二の声色も、その様態にさえ、一切の変化は見られない。相も変わらず明朗な笑みを浮かべて、努めて温和な言葉を述べる。次には、深、と。耳の痛むような寂寞が不意に訪れた。返答を聞いたが故か、フランドールは下に向けていた顔を徐に浩二へ向ける。その顔は、隠しきれない暗鬱が滲み出ていた。深紅の双眼に影を落とし、今一度そんな不安げな面持ちのままに、浩二の澄み渡るように純粋な漆黒の双眼を見据える。しかしそのまま、一向に口を開こうとはしないのだ。口を開こうとしない、と言い表すには少々語弊もある。開きたくとも、それを躊躇っているかのような。

哀愁を漂わしながらも悍ましさを綯い交ぜにしたような、不安定で歪曲した感覚の中。そんな印象を、彼は抱いていた。

 

「んにゃぴ……何か訳ありみたいですね(察し)。俺で良ければ相談に乗るけど、どう?乗れそう?(危惧」

 

だから、その言葉が出てしまったのは彼の意思にはそぐわない、無条件反射なのだろう。

言い終わったその数秒後、ぴたりと固まって額に脂汗を滲ませたのを鑑みるに、どうやら何も考えてもいないと言うのに、相談に乗るなどと言ってしまったらしい。能無しなどと自らを詰っていたのも、或いは真理だったのやもしれない。

 

「ほ、本当?」

 

だが、今更撤回などは出来よう筈がない。宛ら、昼夜が突如反転したかのように。今の今迄翳りを見せていたその顔が、即座にして晴れ渡ってしまったのだから。双眸にまで、期待や安堵の念を浮き彫りにさせているのでは、よもや浩二にとって避けるなど以ての外である。

彼の危惧する事。それは、自分では到底如何にか出来そうもない相談事が有った場合だ。

数百年単位で幽閉されていたこのフランドールという少女に、初めてか、少なくともそうそう有りはしない他者との邂逅を経験させておきながら、若しもその相談事に対して自分の出来る事が何一つ無いとすれば。それは即ち、彼の是とする義心を裏切り引き裂き無碍にした挙句、フランドールの抱く期待や希望までもを無惨にも打ち砕く事に他ならない。

 

「本当に、相談に乗ってくれる?」

 

上質な純白の円卓から身を乗り出し、迫るようにしてそう彼女は問い掛ける。やはり止そうかなどとは、よもや微塵も考えることさえ出来ず。そのある意味では迫力の有る顔に迫られて、浩二は口を開くこと無く首を縦に振った。彼の心は、葛藤の末に無茶を選んだのだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、遊びましょう」

 

 

 

 

そう。其れは無茶だった。幾ら前以て覚悟していた事とは言え、その相手は余りにも無茶苦茶で、規格外だった。相手の実力ならば悟った筈だったと言うのに、その覚悟と注意を消し去ったのは、紛れも無く彼の正義だった。それから束の間、瞬きさえ許されぬ涅槃寂静の瞬間。フランドールの身体がブレたその瞬間、今度は条件反射で浩二は、咄嗟に左腕を首の真横に立てる。

 

「ふふ」

 

ずるり、と。漏れ出したような声。それを覆い隠し消し尽くしたのは、重々しく、瑞々しく、生々しく、大きく、鈍く、乾いた音。左方から微かに聞こえた風切り音の直ぐ後に、この広大な部屋に響き渡ったその音。それは、骨肉の爆ぜ撒き散らされる旋律。その突飛な出来事に、身体の痛覚が機能をするのが遅れてしまったのは、無理もなかろう。それ程までに、凄まじい速度だったのだ。それ程までの、呆気ない豹変だったのだ。

 

 

 

「壊れちゃったね、左腕」

 

 

 

予期せぬ激痛が、左腕を源にして身体中へと駆け巡る感覚に陥る。脳がそれを、一切漏らす事も無く律儀に伝えていた。痛い、痛い、痛いと。一瞬遅れて働き出した痛覚は、けたたましく警鐘を鳴らして、そのダメージの多寡を知らせている。皮肉にもその激痛に、呆気に取られていたのを救い出され、正常な判断力と思考を取り戻した。同時に、行動を移す。いつの間にか血に濡れていたフランドールの右手を確認するや否や、先ずは距離を取る事に決めた。腰を下ろしていた白い椅子を蹴って、目にも留まらぬ速さに人間離れした体捌きを以て、一足にして彼女との距離を稼いで見せる。

 

 

 

「っ痛いですね……これは痛い……」

 

 

 

着地と同時に、嫌でも目に入った損傷箇所へと視線を向けた。そこに有ったのは、白骨の垣間見える赤い肉。浅黒い肌は掻き消えており、其処には今も尚絶え間無く暗紅色の液体を撒き散らす肉塊が有るのみ。そしてそれを見て、浩二は漸く理解した。自分は何をされてこうなったのか、フランドールが何をしたのかを。

 

「でも、やっぱり凄いよ。ついつい首を刮ぎ落とそうとしちゃったけど、まさかあんなに早く反応するなんて」

 

今までの暗く落ち着いた声色などは何処へ消えたか。今の彼女の声色を簡素に表すならば、狂気の狂喜。その高く幼いよく通る声を張り上げるようにして、口元を三日月が如く美しく悍ましく歪曲させ、深紅の双眸を星々が如く煌々と赤に輝かせて、嗤っていたのだ。それと同時に、フランドールは血塗れとなりつつ握り締めていた右手を、ゆっくりと開く。ある一定まで開いた時、ふと赤い空間の赤い地面に、赤い何かが落下して瑞々しい音を立てた。否、それは赤のみではない。赤の中に僅かな白も入り混じった、血塗れの何か。それは、消失した浩二の左腕の一部だった。

 

「っフゥー↑↑(吐息)……腕を引き千切るなんて、すっごい強い……(膂力」

 

即ちそれは、あの一瞬にしてフランドールが彼の腕を無造作に引き千切ったと言う事だ。

五感は勿論、反射神経や動体視力までもが人間離れした浩二でさえ、目で捉えきれなかったその尋常ならざる速度。いくら油断していたとは言え、その出来事一つでさえ、浩二はフランドールとの実力差を垣間見てしまった。出血を抑えまいと、シャツの裾を破り手慣れた所作で損傷部に巻き付けていると、佇んだままだったフランドールが、徐に口を開く。

 

「相談事って言っていいのかわからない。けど、どうしても悩んでしまうの。どうしても苦悩してしまうの」

 

一語一語に孕ませられた、その重圧と狂気。左腕の痛みさえ霞んでしまう程に、それは悍ましく、夥しく。気の抜けたような、しかしその中に荒れ狂う何かを内包したような、酷く曖昧で酷い有様の容態。ゆらゆらと、身体の内から溢れ出る何らかの衝動に身を窶すが如く、幽鬼宛らにその矮躯を自ら揺さ振る。行動には未だ出ない。だが、それは直ぐ其処まで迫っている。幽鬼が歩み始めるのは、もう直ぐである事は自明の理であった。

 

「私ね、生まれた時から破壊衝動と狂気を持ってたの。抗う事も出来ない、甘美な激情が絶えず身を焦がして身を抉って身を巡る。私が幽閉されて、誰も此処に来ないのはその所為」

「……俺は若しかして、来てはいけない所に来てしまった可能性が微レ存?(今更」

 

熱弁と言うよりは、独白に近い。相も変わらず不気味に微笑したまま、フランドールは深紅の瞳を煌びやかに輝かせて、それで浩二を捉えて離さなかった。冷汗と脂汗を流し、彼女とは対照的に引き攣った笑みを呈する浩二を嘲るように。或いは、愉しむように。

 

「本当はね、貴方が来た時から、こうしてしまいたいとは思ってたの。でも、久々に誰かに会えたのに直ぐ壊してしまうのは勿体無いとも思ったから、だから話でもしようと試みた」

 

この広大な赤い部屋の中に残響し、此処が宛ら本当の地獄であるかのように感じさせる。否、地獄というのが悪行を犯した者の落ちる場所という意味合いではなく、広義に辛く苦しい状況や場所であったとするなら、此処もまた立派な地獄であろう。何故なら、幽鬼は嗤っているのだから。

壊れゆく定めにある玩具を前に、破壊者たる彼女は狂気に身を委ね狂喜しているのだから。

 

「でも、もう我慢出来ない。だってここ数百年、何一つ壊せない退屈な日々だったもの。怠惰は嫌いではないけど、偶の愉しみ位は有って欲しいわ」

 

その言葉と共に、フランドールは浩二の方へと一歩踏み出した。忽、と彼女の履いた赤いストラップシューズが床とぶつかり合い、小気味好い音を響かせる。そのあどけない容姿通りの、軽い足音。

併し、いざその場に対面すれば、それは死神の迫り来る足音かと思ってしまう。人を死に誘う者を死神と得てして形容するが、フランドールは死に誘う事を目的としているのではない。壊す事を目的としているのだ。よもや死などというものさえ生易しい、本当の地獄を見せつけるのだろう。

一思いには殺して貰えそうにないという事は、彼女について些かの思惟を巡らせれば、浩二であろうと安易に思い至った。

 

 

 

「だから、相談。私の玩具になって欲しいのだけど、如何かしら?」

 

 

 

蹂躙する者は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「(正直こ↑こ↓まで強いとは思わなかったんだよなぁ……実力見誤っちゃったよヤバイヤバイ……)」

 

対峙する者は焦る。

 




正直方向性を間違えた気がしてならないんですが、それは大丈夫ですかね……?(読者様方への質問
ギャグを期待してた方々からしたら急にバトルに入ってるなんて、もう許せるぞオイ!って感じるに決まってるんだよなぁ……一応自分としては、ギャグとちょっと真面目を織り交ぜる感じで書きたいと常々思ってました。と言うか、真面目な要素も入れないと完結させられないという理由があってですね……偏に私の技量不足です(真理


それはそうと、戦闘に入るのがクッソ唐突なんだよね。それ一番言われてるから……
一応言い訳を述べさせて頂きますと……

・FLNちゃんは公式でも気が触れていて情緒不安定と言われているので、突如好戦的かつ破壊衝動に襲われそれに身を委ねてしまった

・そんな何かを壊したいという衝動を、恐らく数百年単位で抑えていたので、そんな中に入ってきた先輩は格好の玩具だった。正に飛んで火に入る夏の虫(ゴキブリ)。

・単純にクッソ汚いので目障りだった

・事前に不穏な空気は出していたので許して下さい!何でもしますから!(何でもするとは言ってない

などといった理由がありますあります(大嘘


中盤から終盤にかけては、睡魔と闘いながらの執筆でしたので、粗が目立ってしまうかと思われます。
おかしな点が御座いましたら、どうか御一報くださいませ。

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