幻想RI!神主と化した先輩   作:桐竹一葉

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沢山の評価に感想を頂き、お気に入りまでして頂けまして、感謝感激でございます。
拙い文章かつ酷いネタ作品ではありますが、何卒これからも拙作を宜しくお願い致します。


ほらこのままじゃ空が真っ赤になっちまうぞ(Jr

博麗神社の縁側。其処には揃って茶を啜るある三人の姿が在った。

内二人は勿論、霊夢と浩二である。穏やかな面持ちで湯呑みを両手で持ち、微かな音を立てて、九月という暑気の強い季節にはそぐわない、熱い出涸らしの緑茶を飲んでいた。

 

「おいRIMゥ、この茶味薄い……薄くない?」

「仕方ないじゃない、アンタがこの前茶葉買い忘れたんでしょ」

「予備が無いとは思わなかったからね、しょうがないね(言い訳」

 

しかし、そうして談話をする二人の間を挟んだ場所に座っている、一人の女性。彼女だけはその空間の中で、一際異質な存在に感じらた。その女性とは、長く煌びやかな金髪を持つ美女。毛先を幾つか束ねリボンで結んでおり、リボンの付いたナイトキャップのような帽子を被っている。フリルの付いたドレスは彼女に見合う見事な代物で、彼女の存在するその空間は、ただそれだけで絵になると思えてしまう程に美しい。その右隣に座る霊夢もまた美しいとは言えずとも、負けず劣らずの端正な容姿を持っている。そしてそんな二人が並び座っているだけに、左隣に座る浩二だけは異様だった。

金髪の美女からすれば、両手に花ーー片手に薔薇、片手にラフレシアとなるだろう。

 

「別に良いと思うわよ。私はお茶なら薄いのが好きだもの」

「それただ紫の好みってだけじゃない……」

 

さりげなくお茶は薄め派であると宣った、霊夢に『(ゆかり)』と呼ばれた金髪の美女。彼女もまた、そのしなやかかつ白くか細い腕でもって、両手で湯呑みを支えて茶を飲んだ。その所作一つ一つさえ、霊夢という美少女にも感じられない、気品と呼ぶべきものが感じられる。無論浩二では、どこまで顔を弄って身体を弄って精神を弄って魂魄を弄っても、気品など塵一つ程さえ感じられる筈も無い。

 

「YKRよぉ、お前が『スキマ』で人里に送ってくれれば手間も省けて、パパッと買って、終わり!なんだけどなぁ……」

 

暗黒色の妙に迫力のある半眼で紫を凝視するが、そんな視線などまるで意に介さず、紫は湯呑みを傍に置いて扇子を開いた。『スキマ』という妙な単語を口走った浩二だったが、紫と霊夢はそれに対して何ら反応は無い。どうやら二人とも、それが指し示すものが何であるかを理解しているようだ。

 

「確かに貴方の手間は減るけど、私の手間は増えるだけじゃない。この八雲紫(やくもゆかり)を使いっ走りにしようだなんて、随分大それた事を言うわ」

「浩二の場合は空が飛べないもの。別に大した頻度じゃないし減るもんでもなし、良いじゃないの」

「嫌よ。空間が汚れそうだし、正直浩二はスキマに入れたくないわ」

「ひっでぇなお前……俺の汚さは空間すら汚染するレベルなのか……(困惑」

 

肩を落とし沈痛な面持ちをする浩二に、霊夢も紫も容赦なく頭を縦に振る。たった二人ではあるが、

彼の汚さについての考えは満場一致らしい。浩二を助けるような言葉を掛けた霊夢ですら、浩二の汚さは否定しようがないのだろう。

 

「こんな薄ら寒い中でそんな薄着して、浅黒い肌を衆目に晒してるなんて……汚くない筈が無いわ」

 

一片の容赦も無く言葉の追撃を仕掛ける紫を横目で睨んだ後、浩二は彼女の言葉にふと、空へと視線を移した。その先にあったのは勿論、いつも通り憎々しい程に燦然と輝く蒼穹ーー

 

 

 

「まぁ、流石にこの涼しさだと浩二くらいの薄着はね……普通ならまだ暑い筈だって言うのに、何よあの妙な霧は」

 

 

 

などは影も形もなく。

霊夢の言う通り、空には霧がかかっていた。それもまた言葉通り、普通の霧ではなく妙な霧。空一面を覆う程の霧が掛かるという事態でさえ異常だと言うのに、その霧は赤いのだ。あれ程に濃い血色を呈した霧ならば、よもや霧などというよりも血煙と呼ぶべきだろう。そんな赤い霧が空一面に掛かり、本来照り付ける筈の陽光を悉く遮断していた。こんな季節でありながら紫と霊夢が寒いやら涼しいと宣ったのは、偏にあの赤い霧の所為である。

 

「と言うか、今日来たのはそれについての話じゃなかったんですかね……?(原点回帰」

「あ、そう言えばそうだわ。いつもの癖でついつい、ね」

 

紫が博麗神社に来てから、かれこれ三十分は経っていた。紫はこれでも『幻想郷の管理者』であり、多くの幻想郷住民からは『妖怪の賢者』などといった大層な名で呼ばれている、特に強い力を持った妖怪なのだ。そんな彼女が、よりにもよってこんな異変が起きた日に限って神社に来たのだから、霊夢も浩二も、この赤い霧絡みなのだろうと辟易したものである。

 

「だからって、本題の前の小話にこんだけ時間取る?」

「まぁまぁ、良いじゃない。火急の用って程の事ではないもの」

 

然し乍ら、紫は来て早々茶と菓子を要求した挙句、縁側に腰掛けて暢気に談話を始めたのだ。

浩二を貶す発言から始まった談話も、いつの間にやら三十分にまで及んでいたとは、皆思うべくもなかっただろう。若しかすれば、それは浩二の話術によるものだろうか。上手く行けばこのまま本題を言わせずに帰らせられる、と考えていた霊夢だが、浩二が本題を切り出してしまった以上は聞くしかなかろう。

 

「ただ、今日中の解決が望ましいわね。何せあの霧はーー」

「人体に悪影響があるんだルルォ?」

 

紫が言わんとした言葉を、浩二が当然のように言い放った其の言葉で遮った。

察しが良いわね、と言いつつも、驚いた様子がまるで見られない辺り、浩二が悪影響について理解しているのも承知の上なのだろう。霊夢も同じく気付いていたらしく、特に何も言わず、ただ話に耳を傾けながら茶を啜っている。

 

「あれだけ『妖力』を放ってる霧なんて、常人に毒なのは当たり前だよなぁ?」

「ご名答。あの霧を吸うと、通常の人間では身体に害が及ぶわ。致死レベルには程遠いけれど、熱が発症した程度の影響はあるから、常人の場合外出は無理ね」

「人里の方がやけに静かだと思ったら……面倒臭い事になってんねぇ、通りでねぇ」

 

そう言ってはいるが、今日一日の間浩二は一切人里へは赴いていない。朝起きて朝餉を作り、霊夢を起こしてそれを摂る。そして赤い霧のかかった空を只漠然と眺めながら過ごし、今に至るのだ。

普通ならば、此処から人里の音を聞き取ったとでも言うのか、と嘲笑われるのだろう。然し霊夢も紫も、そんな兆しは一切見せず、その不自然な発言を流した。

 

「しかも、日の光が霧に遮られて届かない事。これも可成りの被害になるわ」

「作物が育たないって訳ね。人里の機能停止、農作物の不作……この二つだけでも、結構な事だし」

 

人里と言うのは何も、人間だけが住まい人間だけが利用する場所ではない。

如何に人外の存在であろうと、人間に友好的、或いは無害な妖怪などといった存在ならば、何ら問題無く里人と同じように里を利用出来る。その中では人里に入り浸っている存在もいれば、よく世話になるという妖怪も少数ながらいるのだ。それに、人間がいなくては妖怪も存在出来なくなってしまう。

 

そして農作物の不作というのも、この幻想郷では死活問題となる。

この幻想郷は、山に囲まれた土地であるという性質上、海も無い為に、必然的に食材は農作物が主になった。しかし農作物を育むには、陽光は必要不可欠な要素の一つ。それが失せてしまえば、農作物は育たないーー即ち、食料が大幅に減少するという訳だ。

 

そんな二つの大問題が起きているとなれば、紫が来たのも納得出来る。猶予がないという訳ではないが、それもほんの数日が限度だろう。妖怪ならば兎も角、人間は食物が無ければ、いとも容易く死んでしまう脆弱な生き物なのだから。

 

 

 

「はぇ〜、すっごい被害……こんな問題起こしやがって、もう許せるぞオイ!(激憤」

 

 

 

見れば浩二の貌は、怒りに歪んでいた。眉を顰め、黒い目は細まり、ぎちりと歯の噛み締める音が聞こえる。湯呑みを持たない左の拳が、人体とは思えない程の大きな音を立てて、握り締められた。若しも湯呑みを持っていたならば、握った瞬間に砕け散っていたのでは無いか。そう錯覚させられる程に、浩二の握る手は強かった。

 

 

 

「じゃあこの異変のかーー」

「おう、やだよ(即答」

「ファッ!?ちょっと、まだ何も言ってないじゃない!」

 

 

 

しかしその握る拳程に、彼の思いは強くなかったらしい。紫の言葉は紡がれている最中ではあったが、浩二とてその後に続く言葉など即座に分かる。どうせ解決しろとでも言うのだろう、と分かりきった顔をする彼に、しかし紫の動揺も直ぐに消えた。

 

「……まぁ、そうよね。確かに霊夢は兎も角、貴方は別に強制される存在ではないもの。損得勘定してみれば、その返答は頷けるわ」

「…………ん?ちょっと待って?何で私は行くのが確定してるかのように言ってんの?」

 

流れるように強制連行の旨を述べた紫に、霊夢は妙に迫力の有る面持ちで顔を近付ける。が、それを紫は物ともしない。浩二もその意見には何の反対も無いようで、無言でいる事で会話の続きを促した。霊夢もそんな二人の対応にーー否、抑自分はこの異変を解決しに行かねばならないという事は、彼女自身よく分かっていた。だからこそ無駄だと悟り、力無く項垂れて肩を落とす。

 

「だから此処は一つ、取引しましょう」

「取引ねぇ……まぁまぁええわ、いくら?(見返り」

「貴方が霊夢に助力して異変を解決するのに貢献してくれたなら、さっき言っていた要望ーー買い出しの度、スキマでの送迎をしてあげる」

 

紫の譲歩に、浩二の双眸が微かに見開かれた。二人は色々と訳があって、もうそれなりに関係も長い。そして浩二は、紫が誰かに使われる事を忌み嫌う事をよく分かっていた。それ故に、そんな彼女の提示した条件には驚いているのだろう。

 

「神社から徒歩で片道二時間の道程、しかも帰りは買い溜めした大荷物を抱えての帰宅……あぁ、とっても疲れるんでしょうねぇ」

「ウーン……(逡巡」

「悩むべくも無いじゃない。あんた自身面倒だって常々言うくらいだし、後々便利になるでしょ?」

 

確かに霊夢の言う通りである。幾ら常人よりも強靭な肉体を持つ浩二といえど、片道二時間の長路を毎度毎度行き来するというのは辛い。肉体的な意味ではなく、二時間という長い時間を只管歩くだけという、それに対しての精神的な辛さだ。だが浩二はそれでも尚、首を縦には振らない。悩ましげな顔をして、顎を摩り唸っているだけだった。

 

「でもなぁ……なんか(信用するのに)足んねぇよなぁ」

「あら、どういう事かしら?」

「そんな口約束、後からどうにだって出来るんですが、それは……」

 

しかし浩二が頷くとすれば、それは紫の取引が確実に有効とされる場合のみである。

所詮は口約束、いざとなれば紫が「なんのこったよ」とでも惚けてしまうことで、浩二の異変解決への貢献は水の泡と化してしまう。かと言ってその後にごねた所で、紫は絶対にシラを切るのは想像に難くない。

 

「中々疑り深いわねぇ。私が嘘をついて得がーーいや無くもないけど、だからと言って嘘なんてついたりしないわよ」

「ほんとぉ?(猜疑」

「本当よ。なんならーーもう一つ、報酬を追加してあげても良いわ」

 

ーーそう宣うと同時、紫の背後の虚空に突如として、紫色の空間が新たに拓かれた。

 

「うわっ……ちょっと紫、急にスキマ出して何するつもりよ」

「報酬よ報酬」

 

そう。この突然現れた紫の空間こそが、浩二の言っていた『スキマ』である。

虚空に切り込みを入れ、その中を切り開いたような状態、と言い表せば良いのか。

まるで世界という袋を切り、紫色の別空間を拓いたような。そしてそんな紫色の空間、スキマの中には、夥しい量の目が付いていた。その空間の両端には、何故だか不釣り合いなリボンが結ばれている。

 

「相変わらず、千眼の邪教神みたいなデザインしてんな(KONAMI感」

「いや訳が分からないのだけれど……」

 

軽口を叩き合いつつも、紫の腕は忙しなくスキマの中を探り回っていた。

抑このスキマというのは、彼女のみが操る事の出来る空間の裂け目の事である。この空間の裂け目は、ありとあらゆる場所と場所を繋ぎ、潜ればその両方の行き来を一瞬にして可能にするという、非常に利便性の高いものだ。更にその行き来の能う箇所は物理的空間に留まらず、絵の中であれ夢の中であれ物語の中であれ、『境界』の存在するものならばどんなものも影響する。

要するに、あらゆる場所であろうと行き来の可能な、かつ紫の意思一つで出し消し可能なワームホールと言えるだろう。

 

この博麗神社から紫の腕が何処に現れているのかは定かではないが、そんなスキマの中で動かしていた手がふと止まった。見れば彼女のその美貌は、美しいとは言い難い卑しい笑みを浮かべている。

何を笑っているのか、と浩二が問わんとした時、スキマに突っ込んでいたその手を紫は抜き出しーー

 

 

 

「これも込みで、どうかしら?」

 

 

 

ーーある一枚の新聞を取り出すと同時、彼にそれを手渡した。

 

「なんだこのーー」

 

その刹那、言い掛けていた浩二の言葉が静止する。

比較的真新しい状態の新聞紙。幾ら幻想郷と雖も、新聞紙の一枚や二枚は何も特殊なものではない。

しかし浩二はその新聞に視線を奪われていた。と言うよりも、その新聞のある一角に。

穴が開く程とは正にこの事で、傍観しつつただ茶を飲み煎餅を齧っていた霊夢までもが、浩二の様態が変わった事を察する。

 

 

 

「貴方がこの異変を解決してくれるならーー『香霖堂店主の日常風景!?360度から無防備な姿を激写しまくりかしこまり!』のコーナーが掲載された、その某天狗の新聞をあげる」

 

 

 

その新聞を覗き込んだ霊夢の眼に飛び込んで来たのは、新聞の一面を飾る霖之助の盗撮写真の数々であった。

 

「う、わ……ちょ、何よこれ……うわぁ……これは、うわぁ、もう、さ……」

 

右上には、霖之助が一人黙々と本を読んでいる最中の写真。左上には、霖之助が香霖堂の中を掃除する為に三角巾を被っている写真。右下には、霖之助が魔理沙との会話の最中に見せた微笑みの写真。

左下には、霖之助が道具に足を引っ掛けて勢い良く転んでいる写真。その他も小さい写真が鏤められているが、中でも目を引くのはその記事の中心に載せられた写真だろう。

 

「霖之助さんの寝顔って……あ、悪趣味ね……」

 

安らかに眠る、霖之助の顔を写した写真。それが記事の中央に、でかでかと載せられているのだ。

霊夢はそれなりに深い付き合いであるが故か、悪趣味であると言った。しかし一切の主観を除いて客観的に見ても、霖之助の顔は中々整っていると言える。男性にしては可也長い睫毛、外に出ない為かやけに白い肌色、産毛の一本も見当たらず面皰など一つも無いきめ細やかで滑らかな肌。声は至って普通の成人男性でありながら、その容姿は背丈さえ縮めれば如何にか少年として通じるだろう。

そしてそんな霖之助の寝顔を、浩二はその野獣の眼光を存分に発揮しながら凝視していた。

 

「い、いや……まだ確実に貰える保証は無いって、それ一番言われーー」

「じゃあその新聞は前払いでも良いけど」

「じゃけん行きましょうね〜(異変解決」

 

「ん……え、はい!?いやいやいや!早過ぎでしょ!」

 

流れるような交渉成立に、さしもの霊夢も一瞬反応が遅れ、ツッコミが間に合わなかったらしい。

困惑ぶりを露わにする霊夢を他所に、紫と浩二は、無言で手を固く握り合った。

 

 

 

「って、うわ……触っちゃったわ……」

「酷すぎィ!(悲嘆」




今回は、説明と異変解決の動機付けの為の回です。
特筆すべき点のない、物語の進行もほぼ無い、面白みの無い繋ぎ回でしたね……流石にこれに加えて異変突入後まで書きますと、文字数が嵩張りすぎてしまうと思いましたので、区切らせて頂きました。ですが、なるべくこういった回は減らしたほうが良さそうですね。

東方は知らん、という方に至極分かり易く妖力やら霊力やらについて説明するとすれば……
ドラゴンボールの気だとか、NARUTOのチャクラだとか、そういった使い勝手の良いスーパーパワーのようなもの、とお考え頂ければ。いえ、原作では明言されていないんですけども……
ホモ特有のガバガバ捏造設定という事で、どうかお許しを……。

千眼の邪教神というのは、某有名カードゲームのカードです。検索すればきっと分かりますよ、ええ。

因みに妖力やら霊力という各名称はあっても、実際原作での力の種類毎の差異は余り明かされていないようです(そんな記憶が朧げにある程度ですが……)。その為この作品内では、酷似したほぼ同質の力ではあるが使い手(人間や妖怪)によって名称が変わるような力、とさせて頂きます。

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