幻想RI!神主と化した先輩   作:桐竹一葉

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何で一話目の投稿にして評価がこんなついてるんですかね……?
こんなクッソ汚い作品を自分から読んでいくのか(困惑
ハーメルンはホモ(暴論


香霖堂、いこう!

燦然と照る太陽の下、田所は林道を軽い足取りかつ足早に歩く。浅黒い肌はこれ以上黒くなる事など無いだろうが、彼はくるくると子供のように回し、右手で青い番傘を差していた。直射日光を避けるのは、日焼けの対策以外に暑気を凌ぐ事も出来る。確かに彼の行動は正しい、幾ら見る限り強靭そうな身体を持っているとはいえ、長い間日光を浴びては体調を崩しかねないのだから。

 

「アアンアンアンアンアンアアン、アアンアンアンアアン」

 

しかし、妙な歌をその妙な高音で口遊み、番傘をくるくると回しつつ、スキップじみた歩法で歩みを進める様は、とても田所のようないい年をした人物が許される事では無い。常人であるならば、恐らくその光景は正視に耐え得るものではなく。少年少女であれば微笑ましい光景も、一度彼が同じ真似をすれば地獄絵図であった。

 

「アアンアンアンアンアンアアン、アアンアアンアンアン」

 

そんな禍々しい光景を披露しながら、田所は未だ整備のされていない荒れた砂利道にて歩き続ける。

幸い周囲に人一人いなかった為に、彼の禍々しい姿と声に当てられずに済んだ。だがもしもいたとすれば、今頃「ファッ!?ウーン……(臨死」と、少しの間は黄泉路を見学できる事だろう。尤も、戻って来られるかどうかは分からないが。

 

「アアンアンーーおっ、ありますねぇ!」

 

すると、耳障りな滅びの歌を中断した田所が、明るい声色で独り言ちた。その漆黒の双眸が捉えているのは、この先に有る森の入り口に設けられた、襤褸の家屋に似た形の店である。

店であると判断出来るのは、店先に鏤められた我楽多故だ。人一人分の大きさたる狸の置物、陽光を反射して鈍色に輝く古めかしい西洋の鎧、鞘に大量の札を貼り付けられた野太刀など。小さな物では、それこそ雑多も雑多、金物やら書物やらが渾然一体となっていた。

 

「相変わらず……汚ねぇ店だなぁ」

 

快活な満面の笑みに、若干の苦笑が混じる。今まで、それよりも汚い光景を見せつけていた田所が言えた事では無いが、確かに客観的に見れば彼の言う通りだ。簡素に言うなら、その店は『乱雑』と形容する他無かろう。あれは店と言うよりも、粗大ゴミ集配施設と言った方が、大多数の人間は納得出来る。しかし、其処は確かに店だった。

 

「香霖堂、最近多忙で行けなかったからウレシイ……ウレシイ……」

 

『香霖堂』。そう書かれた木製の看板が、店の入り口の上に取り付けられているからだ。

軽快なステップで店前に歩み寄り、田所はまじまじとその周辺を見回している。どうやら、文字通りの掘り出し物でも無いかと探しているらしい。この店とて、玉石混淆と言う諺には当て嵌まる。人によりけりではあるが、場合によっては素晴らしい代物が見つかる可能性もある。しかしながら、この店は石の比率が圧倒的に高いのだ。

 

「(良い物は見つから)ないです……しょうがねぇなぁ」

 

早々に掘り出し物を探り当てる事を諦めると、店のドアノブに手を掛ける。日光に当たり高音と化したそれに辟易しながら、ノブを回し徐にドアを引いた。

 

「おじゃましまーす」

 

開け放った先に田所の視界へと飛び込んだのは、店先並みかそれ以上に乱雑とした店内。

僅かに開け放っただけでも彼の鋭敏な嗅覚は、店内の黴や埃の匂いに過敏に反応してしまった。

商品と思わしき代物は、本来の店のように陳列などは一切されておらず、全てがご自由にお取り下さいと言わんばかりに放られている。

 

「ん?……あぁ、浩二か」

 

すると、そんな店内の奥の方から、一人の男が現れた。青を基調にした黒とコントラストの、和装と洋装を合わせたような衣服。目に掛かる程の長めな銀髪に、少々使い古された跡の残った丸眼鏡。

穏和そうで、けれども何処か気難しげな印象を受けるその男は、田所の姿を見て、溜息によってその来店を歓迎した。

 

「おいおいRINNSK(霖之助)、折角の来客にその態度はおかしいだろそれよぉ?」

「君は自分の行動を省みる事は出来ないのかい?忘れたとは言わせないよ」

 

鰾膠の無い態度で応対する、霖之助(りんのすけ)と呼ばれた銀髪の男。しかし、田所ーー浩二は、そんな霖之助にも困ったような微笑みを返すだけだった。

 

「なんのこったよ(すっとぼけ」

「アイスティーに睡眠薬入れたり緑茶に睡眠薬入れたり団子に睡眠薬入れたりしてたろ!いい加減にしろ!」

「全部覚えてるのか(困惑」

 

一息で幾つもの浩二の罪状を列挙した霖之助は、肩で息をしながら恨みがましい顔つきをしている。

余程浩二からの被害を被ったのだろう彼は、気難しい印象など微塵も無く、如何にも苦労人といった風であった。

 

「…………はぁ。君とは長い付き合いだし、多少のおふざけなら目を瞑ろう。だが、君は僕を眠らせて何をするつもりだった?」

「そりゃお前、昏睡レーー」

「いや、いい。もういい。皆まで言うな、耳が腐る。そのステロイドボイスを止めてくれないと嘔吐しそうになる」

「酷すぎィ!冗談だって分かってんだルルォ!?」

 

流れるような言葉の応酬を繰り広げるその様は、確かに傍目から見ても、浅くない付き合いである事は容易に分かる。しかし、どうもその仲は旧知の盟友というような美しい物ではなく、腐れ縁の悪友

というように見えた。

 

「それで、久々に来た所悪いが、早めにお帰り願いたいんでね。何の用だい?」

「お前に会ーー」

「あーあー、聞こえないな」

「ひっでぇなお前……わかったわかったわかったよ、もう」

 

取り付く島もない霖之助との会話に、さしもの浩二もお手上げのようだ。無愛想な彼の対応に溜息を漏らしながら、浩二は店内の物色を始める。霖之助も、口では拒絶の色を濃く出してはいるが、店内を彷徨く浩二に対して、特に言う事もなかった。その事からも、以前から交流があったのだと伺える。

 

「実はもう札が切れちまったからよ、お前に会う序でに買いに来たんだよなぁ」

「あぁ……そうか、最近は人里で引っ張り凧らしいね。通りで最近は来なくなってくれたかと」

「おっ、寂しかったか?大丈夫か?」

 

阿呆らしい、と酷く冷徹な声色で、いつの間にか持っていた本に目を落としたまま、霖之助が返した。それも慣れっこのようで、何ら気にする事も無く、浩二は札を探す。この店の山積みになった物は、掘れば掘る程に出て来る物は様々だ。外にあったような雑多に加え、フラスコやビーカーに入った妙な液体や、可笑しな形状をした刀剣、三面鏡や古めかしい手鏡、埃を存分に被った白磁の人形。骨董屋とも呼べないこの店ではあるが、浩二はこの店が好きだった。

 

こんな鼻腔の奥を刺すような黴臭さも、顔を顰めたくもなるような埃の匂いも、鏤められた多種多様の我楽多も、この空間には無くてはならない物である気がするのだ。この空間であるからこそ、それらが見事に調和しているのだと。尤も浩二にとっては、霖之助がいるという事が何より重要な事なのだが。

 

「ウーン……これもう(商品が何処にあるか)分かんねぇな」

「札なら確か、其処の棚の中に有る」

「ありがとナス!じゃけん邪魔な物はどかしましょうね~」

 

霖之助が指差した方向には、これまた巨大な達磨の置物が立ち塞がっている。それを隻腕で軽く押し退けると、漸く棚の全貌が明らかになった。黒檀のような黒く艶のある棚を開けると、確かに其処には札が有る。木箱の中に敷き詰められたその札を、浩二は箱ごと取り出した。

 

「あぁ、今日はまだ強力な札は入ってないんでね。ご期待通りの代物があるかは分からないよ」

「あ、良いっすよ。最近は強い妖怪は鳴り潜めてるし、最低限使用に耐え得るなら大丈夫だってヘーキヘーキ」

「(目当ての物が無い、と帰って欲しかったんだが……今度から札は扱うのは止めた方が良いかな)」

 

そう考えもしたが、直ぐに霖之助は首を振る。何も札を求めているのは、浩二だけではない。

浩二が宮司を務める博麗神社の巫女、博麗霊夢。時折人里の自警団や、稀有ではあるが長い白髪のもんぺを着用した少女も買いに来る。

 

「(ウチの中では、珍しくツケ(・・)にされる事の少ない商品だし……)」

 

此処香霖堂は、この世界の住人が特殊な気性である事もあって、大半の客は支払いをツケで済まそうとするのだ。その上、死ぬまで払わぬツケと来た。

しかしこういった札は、非力な存在でもある程度妖怪に対抗する事が出来る、心強い道具である。

そしてそんな札を求めるのは、大多数がそれに頼らねばならない非力な存在だ。そういった者達は、

自分の力を弁えているからこそ、ツケなどといった傍若無人な行為はしない。故に、浩二一人の為だけに札を扱わなくなっては、貴重な収入源が減ってしまうという事だ。抑浩二とて、如何に迷惑な存在であれ、金はしっかり払う歴とした客である。それを無下にするのは、霖之助の無駄な商人根性が許さない。

 

「じゃ、この札20枚オナシャス」

「はいはい……」

 

浩二はそんな霖之助の苦悩など知りもせず、木箱の中から札の束を取り出し、カウンターに置いた。

同時に、いつも通りの黒い半ズボンのポケットから、一握りの硬貨も。金額が如何程なのかは、既に買い慣れているのか、把握しているらしい。右手に握った五枚の硬貨の中から指で、三枚の硬貨を弾き出し、それら悉くを見事な左の手捌きで掴み取った。

 

「今のいる?」

「格好付けたかっただけなんだよなぁ……そういうのは言わないで、どうぞ」

「そりゃ失礼」

 

差し出された硬貨を即座に奪い取る霖之助。そのまま、この空間の中では一際異彩を放つ、所謂レジスターの中にそれを入れる。見た限りはコンビニエンスストア等に置かれた物と変わりないが、こんな古道具屋じみた店内では、たった一箇所に設けられた文明の利器は余りに異質だった。

が、そこもやはり慣れっこ。浩二は特に反応も見せず、金の代わりに差し出された札の束を受け取る。

 

「これで妖怪退治も捗りますね……これは捗る」

「君にはそれがあるじゃないか。札なんて必要かい?」

 

札を確かめる浩二へ霖之助が呆れた風に、傍に立て掛けた番傘を指差しそう言った。

あぁ、とその発言の真意を理解し、浩二は何気無い所作で木の番傘の柄の手を掛ける。

 

 

 

「これはいざという時の最終手段だからね、しょうがないね」

 

 

 

その言葉と共に、しゅるりと、金属質の何かが滑らかな面に擦れるような音がした。

ほんの一瞬それが狭い室内に響き、次に起きたのは光の反射。

 

「……相変わらず、その尖り互の目の刃紋は綺麗な物だ」

 

霖之助の視線が注がれる先は、番傘の柄ーーを抜き取った先に付けられた、凡そ91糎程の直刀である。即ち、浩二の持っていた番傘は、俗に言う仕込み傘であったという事だ。

照明という照明も無く、外からの光だけが燈となっているこの薄暗い室内でも、その真っ直ぐに伸びた白刃は煌々と輝いている。寧ろ、窓から射す陽光に輝き、この暗い室内を照らし出す様は、普通に見るよりも余程美しく思えた。

 

「俺の自慢の一本だゾ、ほら見ろよ見ろよ」

「そうだな。君とは違って、とても美しいよ。浩二もその刃を見習ったらどうだい?」

「俺が美しい?(難聴)やめてくれよ……(はにかみ」

 

が、そんな幽玄の美すらも容易くぶち破る光景が、ここにはある。浅黒い蜚蠊肌の顔を、浩二は羞恥故か若干赤らめていた。吐き気を催す邪悪とは言い得て妙、正にその姿こそが、邪悪の体現であると言えるだろう。事実、付き合いの長いという霖之助でさえ、口元を押さえて露骨に眉を潜めているのだから。

 

「酷過ぎる聞き違いだね、五感が鋭すぎてイカれてしまったかな?それとも自分の余りの体臭に耐え切れず身体が自壊してしまったのかな?それともーー」

「冗談だって言ってるんだよぉ!」

 

ずけずけと鋭い、かつ惨い言葉を砲煙弾雨が如く放たれ、浩二は憤怒の形相を浮かべた。

それでも、そうかい、といとも容易く便器の水を流すかのように、至極どうでもよさそうに流した辺り、流石に慣れているのだろう。

 

「ま、兎にも角にも。目的の物が買えたというのなら、さっさと帰ってくれないかな」

「やだよ、おう。折角太陽も出てる事だし、外で焼いてかない?」

「もうその手口は通用しないよ。どうせその後睡眠薬入りのアイスティーでも持って来るんだろ?」

 

過去何度か施行された、睡眠薬を投与し霖之助を眠らせる作戦。何故か常に持ち歩いているティーバッグで、香霖堂の奥に設けられた霖之助の居住空間にてアールグレイを淹れる。そんな事を何度か繰り返していたのだが、一向に彼は眠らなかった。それも当然、霖之助は『半人半妖』なのだから。

読んで字の如く、半分人間で半分妖怪という、あやふやな存在。本人曰く妖怪とのハーフだという事だが、それ故か通常の睡眠薬ではまるで効果が現れなかったのだ。

しかし、些か微睡む程度の効果はあったらしく、寧ろそれが切っ掛けで浩二の狙いは悟られてしまった、というのが過去の出来事である。

 

「大丈夫だって、安心しろよ〜。単純にオイル塗り塗りしあったりするだけだからさ」

「そうか。本当の塗り塗りするだけで済むのか?」

「ちょっと○って来ちゃうかもしれないけど、まぁ多少はね?」

「へー、それだけか」

「正直、性欲を抑えらーーん?」

 

浩二の言葉が中断されるのと、霖之助の表情が凍てついたのは、ほぼ同時だった。

ふと二人は、ある事に気が付いたのだ。今浩二とやり取りをしていたのは、霖之助の声ではない。

それよりもずっと高い、少女の声。けれどもそんな可愛らしい声質に似合わない、ドスの効いた声と男勝りな口調。その人物には、嫌という程心当たりがあった。霖之助の目が捉えている方、即ち背後へと浩二は振り返る。

 

 

 

「おっ、MRS(魔理沙)オッスオッス」

 

 

 

そこにいたのは、二人からしてみれば案の定というべき人物であった。

流暢どころか、自然極まりない日本語を話しながら、その実日本人離れした金色の美しい髪。この暑い中、白いシャツと黒いベストにハット。幼気の微かに残った、整った顔立ち。魔女のような姿をした魔理沙と呼ばれたその少女は、浩二の背後で笑顔を浮かべて佇んでいる。

 

「ま、魔理沙……いらっしゃい、はは……」

 

霖之助はぎこちない笑みでもって、その金髪の少女を迎えた。

彼女の名は、『霧雨魔理沙』。その風貌から察する事も出来るが、魔理沙は『魔法使い』と呼ばれる存在である。右手に持った身の丈程もある長い竹箒は、それの象徴と言っても過言ではない。

そんな彼女はいつの間にか、店内へと入って来ていたようだ。

 

「おい浩二。お前、香霖に何しようとしてたんだ?」

 

香霖、それは魔理沙のみが霖之助を呼ぶ際に言う渾名である。それからも、彼女が霖之助と深い中である事はよく分かる。どうやら笑顔と言っても、少々ーー否、大いに通常のそれとは違ったものだったらしい。

顔は笑っていても、その背後には濃密な死の気配が漂っている。返答を誤れば、死ぬ。大人と子供程容姿の差が有る霖之助でさえ、そう錯覚させられる程の威圧感。この世のありとあらゆる凶兆を孕んでいるかのような、魔理沙の恐ろしい問い掛け。宛ら今の彼女は、揺蕩う炎である。

 

 

 

「そりゃお前、昏睡レーー」

 

 

 

そんなただでさえ強い火力を見せつけていた炎に、あろう事か浩二は油をぶち撒けてしまった。

魔理沙の細腕により握られた箒の柄が、みしり、と嫌な音を立てる。しかし、そこからの浩二の行動は早かった。

 

「このホモ野郎!」

 

浩二へと放たれた、到底見た目通りの少女が放ったとは思えない、竹箒の石突きによる刺突。

豪、と風を受ける大きな音を立てて迫る箒。その風圧で、周囲の埃が一斉に宙へと舞い散ってしまう程の高速。全てが人間離れしたその一撃を、しかしながら浩二は余裕の表情で、紙一重の所で回避する事叶った。

 

 

 

「そんな直線的な攻撃が届くと思ったの?そんなんじゃ甘いよ(煽り」

 

 

 

未だ昼にさえ達していないこの時、香霖堂にて。霖之助に懸想し、その最悪の障害と浩二を目の敵にする少女霧雨魔理沙は、その障害の煽動に耐え切れず、室内でありながら得意の魔法を解き放つ。

しかし、それはいつもの事。幻想郷随一の苦労人『森近霖之助』は、今日もそんな二人からの被害に、頭を悩ませるのだった。




ちなみに冒頭の野獣先輩のステップは、ひでの「今日も学校楽しかったな〜」のアレです。
その移動法に傘くるくる回して『ヌッ!シューズ』の例の曲を笑顔で口遊む野獣先輩。
ヴォエッ!(想像からの吐瀉

ちなみに冒頭の口遊んでいた曲は、『I Can't W◯it』です。イントロが世界の遠野に似ていると騒がれたアレです。

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