カメ子 レ級   作:灯火011

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「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

その彼女、意外と誇り高きレ級なのかもしれません。


7 深海棲艦のレ級 3

「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準に纏まっている深海棲艦だ。

 

そんな最悪の敵「戦艦レ級」の中でも、特に異端と呼ばれるレ級が1隻存在している。

ご存知、体の両脇に6つのカメラを携え、大型のサーチライトを搭載し

艦載機のスペースにはカメラ用品ガン積みの、非武装であり、カメ子のレ級だ。

 

人間と艦娘からは、「鎮守府近海まで現れ、確実に被害を出していく最悪の敵」、

深海棲艦からは、「頭が(変な方向に)ぶっ飛んでる高性能で残念なレ級」と

彼女の評価は敵、味方からと見境なく高い。

 

 

だが、ここに1人、ちょっと違う評価を下す人間が一人存在していた。

その人間は、深海棲艦の攻撃により沈められたタンカーに

航海士として乗っていた人間で、つい先日救助された。

仮に「A」と呼ぶことにする。

 

「A」からのカメ子のレ級の評価は「仁義を守るレ級」。

なぜそのような評価に至ったか。

それは、つい先日、物資輸送任務においての出来事がきっかけである。

 

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「A」は、物資輸送任務のタンカーに乗っていた只の人間で

海外から国内へと重油を運ぶのが彼の日課である。

 

深海からの化け物が人類のシーレーンを潰してから

最も危険な仕事の一つとなっていた。

何せ、ヘタをすると、深海からの化け物に殺されるかもしれない。

だが、そんな仕事に「A」は、

「自分が人のために役立っている」

「自分の運ぶ物資が、国の明日のための糧となっている」

そんな気持ちから、誇りとやりがいを感じていた。

 

そして今日も、駆逐艦の艦娘4人の護衛をつけたタンカーは

駆逐級や軽巡級、偵察機や潜水艦といった

深海の化け物と遭遇しながらも、いつものように横須賀に到着する。

艦娘が護衛に付いていれば、タンカーが損傷することはあっても

轟沈することはない。

 

そのはずであった。

 

だが、その日に限って、襲ってきた敵の中に戦艦ル級と空母ヲ級がいたのだ。

艦娘はそれに気づき、援軍要請を打ちつつ、全力で戦闘をしたものの

やはり戦艦と駆逐艦では戦力差は歴然であった。

結果として護衛艦隊は全滅。そして、タンカーもヲ級の艦載機の爆撃を受け、轟沈。

 

「A」はそれを呆然と見ていることしか出来なかった。

 

すさまじい爆炎の中、タンカーの搭乗員はなんとか生き残ろうともがく。

救命ボートに乗り込む者、浮き輪を落とし、自らも海面に飛び込む者。

だが、追い打ちを掛けるように、深海の化け物の砲弾が、

艦載機からの爆撃が続いていく。

そして気づけば、タンカーの残骸にしがみつき、ただ一人

深海棲艦が闊歩する大海原に取り残されていたのである。

 

(これは絶望だな・・・)

 

残骸にしがみつきながら、「A」はただ一人大海原を漂っていた。

なにせ、着の身着のまま必死に生きようともがいていたのだ。

通信機器も、発煙筒も、何も持っては居ない。

 

目の前に映るのは、燃え盛るタンカーの残骸と艦娘の艤装の残骸。

そして、静かに近寄る深海棲艦達のみであった。

 

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戦艦ル級は、この護衛船団を徹底的に潰すつもりであった。

自分の隷下の駆逐艦隊が、艦娘に何度も避けられていたのである。

そして、目論見は見事に成功。艦娘は全て沈み、タンカーも轟沈である。

 

ジャブジャブ、と深海棲艦がタンカーの残骸の中を闊歩していく。

戦艦ル級エリートを筆頭に、空母ヲ級が2隻追従する形だ。

 

燃え盛る火の中を往く深海棲艦は、さながら地獄の業火の中を往く怨念のようである。

 

『艦娘ハ全テ轟沈ヲ確認。』

 

ル級は一人つぶやき、艦娘であった残骸を踏みつける。

 

『他愛モナイ。コノヨウナ雑魚ニ、我々ノ駆逐隊ハ撤退ヲ余儀ナクサレテイタノカ』

 

グシャ、と踏みつけていた足に力を込め、完全に艦娘を破壊する。

満足気な笑みを浮かべたル級は、更に周囲を見渡していく。

 

『ツイデ、ダ。人間ノ生存者ヲ探セ』

 

ヲ級に命令を下し、偵察機を飛ばさせるル級。

ル級自身も周囲を見渡し、生存者を探していく。

 

『・・・・見ツケタ』

 

ヲ級の一人が、ぼそりとつぶやく。

 

『北西ニ100メートル。残骸ニツカマッテイル人間ヲ発見』

 

ヲ級はル級に、詳しく場所を伝えていく。

それを聞き、にやりと口角を上げるル級。

 

『了解シタ。ヲ級、オ前達ハ攻撃ハ加エルナ。私ガ直々ニ殺ス』

 

ル級はヲ級に言い放ち、生存している人間の元に向かっていった。

そう、ル級は艦娘に何度も部下を蹴散らされた

「憂さ晴らし」のために生存者を探していたのである

 

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「A」は、近づいてくる深海棲艦を、呆然と見ていることしか出来なかった。

 

その姿は、タンカーの残骸に燃え盛る炎と相まって

「A」を迎えに、地獄から来た死神としか見えない。

 

そして、その姿が近づいてくるにつて、深海棲艦の表情も顕となってくる。

「ひっ・・・・・」

表情が見えた瞬間、思わず「A」は小さく悲鳴を上げる。

口角を上げ、獰猛な獣を思わせる表情。

そして、その目は一直線にこちらを射抜いていた。

 

(あぁ、俺は今日、死ぬのか)

 

「A」にそう思わせるほどの壮絶な笑み。

そして、「A」の目の前にたったル級は、おもむろに腕を上げ

「A」の頭をつかみ、持ち上げていく。

 

『人間風情ガ、海ヲ往クナド傲慢モヨイトコロダ

 ソノ思イ上ガリ、ソノ身ヲモッテ、後悔サセテヤロウ』

 

ル級はそう囁き、「A」の頭を持っている手に、力を込めていく。

ギリギリ、と、戦艦の馬力で頭を圧迫され

「あがああ・・・」と言葉にならない叫びを上げていく。

 

『フハハ、脆弱スギルゾ人間。ソノ程度ノチカラデ我等ニ楯突コウナド・・・!

 コノ海ノ藻屑トナルガイイ』

 

この程度の弱い生物と艦娘に、自分の艦隊が良いように掻き回されていたことに

怒りを覚えていくル級。そして、止めをさそうと、手に一層力を入れていく。

 

メキメキメキ、と「A」の頭が嫌な音を立て、

痛みで意識が暗転しそうになった時である。

 

「フザケたこと、シてるんじゃネーヨ。深海棲艦の面汚シが」

 

そんな叫びとともに、ドゴンと音が響き男は海面に投げ出された。

何事かと、男は痛む頭を抑えつつ周囲を見渡すと、吹き飛ばされ海面に倒れるル級と

この海域ではあまり見ない、パーカー姿と巨大な尾が特徴的な深海棲艦、「戦艦レ級」

が右手を前に出した形で静止していた。

 

 

何が起きたかといえば、レ級が人間を殺そうとしていたル級を、ぶん殴って

ふっ飛ばしたのである。

 

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戦艦レ級は、いつものように艦娘の艦隊に突撃し、美しい艦娘を撮影していた。

迫力のある写真や、美しい艦娘の表情、艦隊の美しい一斉射の写真を

ひとしきり収めたレ級は、燃料補給と写真の整理を兼ねて帰路へとついていた。

 

「今日のフソウは良かったナぁ。いつモと格好変わってたシ。」

 

タブレットを指でいじくりながら、今日のベスト写真である「扶桑改二」の写真を見ていた。

そんな時、遠くで砲撃音と爆撃音が響き、思わずレ級は足を止めた。

記憶の中で、通常通るはずの艦娘の種類と航路、そして深海側の作戦を思い出していく。

 

(お?戦闘ノ音カ?デモ、あの音ハ、戦艦級の砲撃音ダヨな・・・。

 オカシイナ。今日は私達も艦娘モ駆逐級ぐらいしかデテないハズナンだけどナぁ)

 

首をかしげながら悩むレ級。

レ級が写真を撮るために覚えた知識は、本物である。

なにせ、その記憶が間違っていれば、写真が一枚も取れないのだ。

死活問題にあたるため、日々、最新の情報を仕入れ、研究しているのである。

 

そのレ級を持ってしても、一切記憶に引っかからない戦艦の砲撃音。

んー?と悩んでいたレ級であるが、

 

(もしかして、新たな艦娘がこっちに出てキた・・!?)

 

ハッとした顔で、砲撃音のした方を向くレ級。

 

(これは行くシかない。燃料は・・・モツな!

 いよぉし!新しい艦隊の写真が待っているのダ。速力全開!)

 

レ級は、最大戦で砲撃音と爆撃音が聞こえてきた海域に向かいながら

流れるような動作で、一眼レフを手元に引っ張り出していく。

その顔は、新しいシャッターチャンスを見つけてか、ニッコニコである。

 

(誰かなァ。見たことのアる艦娘かなぁ・・・・?)

 

ワクワクとしながら進むレ級、だが、その目に写ったものは、

壊滅した艦娘達の残骸と、大破、轟沈したタンカーの残骸。

そして、負傷した人間の頭を掴み、持ち上げている戦艦ル級と、

後方に控える二隻のヲ級の姿であった。

 

(・・・・何だこりゃ、もう戦闘おわってたのカ。)

 

周囲を見れば、タンカーと思わしき物の残骸に火がともり

宛ら地獄のようである。

 

(艦娘も轟沈しているシ・・・こりゃあいても仕方ナいなぁ)

 

せっかく良い写真でもとれるかと思ったのに、と

そう思いつつ、レ級が海域を後にしようとしたときである。

 

『フハハ、脆弱スギルゾ人間。ソノ程度ノチカラデ我等ニ楯突コウナド・・・!

 コノ海ノ藻屑トナルガイイ』

 

ル級が、人間の頭を潰そうと力を込め始めたのだ。

 

それを見たレ級は、変貌する。

表情は、般若の如き怒りの顔に。

全身からは金色のオーラが吹き出し、目からは蒼い炎を滾らせる。

そしてカメラをホルスターに仕舞い、速度を最大まで上げながらル級に突っ込んでいった。

 

「フザケたこと、シてるんじゃネーヨ。深海棲艦の面汚シが」

 

叫ぶとともに、人間を殺そうとしたル級を拳でぶっ飛ばす。

ル級はレ級の拳をまともに食らい、顔面から血を吹き出しながら

ボロ雑巾の様に海面を勢いよく転がっていく。

タンカーの残骸に当たり、なんとか勢いが殺され止まったル級であるが

その体はピクリとも動かない。

その意識は、レ級の一撃で刈り取られていたのである。

 

あっけにとられる人間を尻眼に、レ級は更に叫ぶ。

 

「お前らさァ。船を失った者ハ、敵でも味方でモ助けルのが海で戦うモノの

 誇りってモンだロうが」

 

倒れ伏したル級と、立ち尽くすヲ級を見渡しながら、レ級は叫ぶ。

 

レ級にとって敵とは、あくまでも戦意のある者

そして、船を失っていないものだけなのだ。

 

---船を失った者については、敵味方関係なく、救助を行う---

 

それが、このレ級の一番の根っこである。

実は、他の深海棲艦にも通じる部分で、それ故に、大破撤退した艦娘は追わないし

船を失った人間も殺さない。

 

「そシてヲ級。お前らラも、船乗りトシテの誇りを汚シた責任。取ってもラウぞ」

 

レ級は叫びながら、呆然としていたヲ級に殴りかかっていく。

ヲ級はそんなレ級のオーラと眼光に魅入られ動くことができない。

 

「沈メ、面汚シ!」

 

ドゴン、ドゴンと、2隻のヲ級の顔面をレ級の拳が捉えていく。

ル級を一発で行動不能に持ち込んだ拳を、ヲ級が耐えきれるわけもなく

ヲ級は顔面から血を吹き出しながら海面を転がっていった。

 

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「A」は、ル級とヲ級を軽くひねるレ級の姿にあっけにとられていた。

なにせ、深海棲艦に殺されると思った矢先に、別の深海棲艦に助けられたのだ。

 

(何がおこったんだ・・・?)

 

タンカーの残骸につかまりながら現状を把握していく。

目の前には、血塗れの拳を携え、立ち尽くすパーカー姿のレ級。

そして、遠くには、そのレ級に殴られ、大破している戦艦ル級と空母ヲ級。

 

(助かった・・・?のか・・・?)

 

そう考える「A」だったが、レ級がこちらを向くと同時に

全身から脂汗が吹き出し、歯はガチガチと音を立て、表情は恐怖に染まる。

 

(なんだあれは)

 

そのレ級は、蒼色の炎を目に滾らせ、全身から金色のオーラをはためかせ

般若のような表情で、こちらを射抜くように見つめていた。

その姿はタンカーの残骸の、燃える炎と相まって

死神、いや、「魔王」とも言えるような威圧感を放っていた。

 

そんなレ級が、一歩一歩「A」の元に近づいてくる。

ジャブ、ジャブと近づく様は、死刑執行人のようにも思えてくる。

そして「A」の前で静止し、手を伸ばしていくレ級

 

「あぁ、今日でやっぱり死ぬのかぁ・・・」

 

近づくレ級の手を見ながら、完全に死を覚悟し呆然とつぶやく「A」。

だが、レ級は「A」の目の前でその手を止め

 

「何をイッてるんだ?さっさ手ニ捕まレよ。

 今回ハ、救助スべき相手を殺そウとした、こちらノ船ニ落チ度がアる。

 詫びというわけじゃねーガ。

 鎮守府まデはいけないケど、艦隊が通る近クの島まではつれていってヤル」

 

般若の様な怒りの表情から一転、金色のオーラも、滾る蒼色のオーラも消え失せ

艦娘のようなにやけた顔で「A」に話しかけたのであった。

 

その後、「A」はレ級に背負われながら、鎮守府近海の孤島に到着する。

レ級から、発煙筒と少しの食料を渡され、助けられるという妙な体験をした「A」は

翌日、無事艦娘に救助されることとなる。

 

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レ級は「A」と別れた後、燃料補給と写真整理のために拠点に戻ってきていた。

 

「フソウと時雨のツーショット。これが今日のベスト写真だなァ」

 

ニヤニヤとタブレットをいじくりながら、「今日のベスト写真」を決めていくレ級。

ふと、ペラペラと写真をめくっていた手が止まる。

 

「あノ人間、大丈夫かナ。」

 

その手元には、人間である「A」とレ級のツーショット写真が写っていた。

レ級がセルフで取った写真である。

ニヤリとするレ級に、困惑の表情の人間という、普通ではありえない写真であった。

 

「確か記憶だと、明日の昼ニ、別のタンカーの護衛船団が島の近くを通るはズだから

 大丈夫だトは思うんだけどナぁ」

 

呟きながらながら、「A」が救助されることを願う、カメ子 レ級であった。




妄想たぎりました。ちょっと毛色が違うかも。

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