カメ子 レ級   作:灯火011

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艦隊これくしょんの絵が綺麗で素敵


右手にカメラ 左手に戦闘機 心に酒 顔には笑みを

 ドン!ドン!

 

 演習場にレ級の、とはいっても艦娘のものであるが、50口径12.7cm連装砲の砲撃の音が響く。銃口から飛び出た砲弾は弧を描きながら目標を夾叉する。

 

「初弾夾叉か。やっぱり良い腕しているね」

 

 様子を隣で伺っていた響が、素直な賛辞を送っていた。

 

「まぁ、カメラばっかり弄ってるけどさ、これでも深海のエリートだぜ?砲弾の扱い方は朝飯前だって」

 

 レ級はそう言いながら連装砲の上部を弄る。すると砲塔の上部装甲が開く。そして、手慣れた手つきで砲弾を詰め直していた。

 

「レ級の連装砲はめんどくさいね。手動で弾丸を込めなおすなんてさ」

「ん?ああ、まぁ、艦娘の武装が使えるだけ御の字さ。それに、こういう動作ってさ、マグナムっぽくてかっこいいだろ?」

 

 ガチャリ、と上蓋を閉じてレ級は改めて目標に砲を向ける。そして、ひと呼吸の後に引き金を引く。今度の弾丸は夾叉ではなく、目標に直撃だ。

 

「ま、こんなもんよ」

 

 レ級はわざとらしく、リボルバーのそれのように砲口の煙を吹いた。もちろんドヤ顔の笑みを浮かべている。

 

「お見事」

 

 響は苦笑を返していた。その様子に満足したレ級は、改めて砲塔に弾丸を込め目標へと狙いを定める。

 

「そうやさ、例の新型っぽいイ級の情報は何かあったのか?」

「いや、残念ながら」

 

 ドンとレ級の砲塔が火を噴く。

 

「響の情報筋をフルに使っても何もでない、と」

「そうだよ。全く。上も横も何も知らないと来た。ただ、世界中で同じような報告は上がっているらしいよ」

 

 響の言葉にレ級は砲塔を置き、壁際の椅子へと腰掛ける。響も追いかけるようにしてレ級の隣へと腰を下ろした。

 

「同じような報告っていったか?」

「うん。しかも正面海域のような明らかに深海棲艦を駆逐した場所に、今のところ呉と大湊、佐世保にハワイは確定だよ。ほかは噂程度だけど、多分正式発表されると思う」

 

 レ級は天を仰ぐ。そしてため息を付きながら

 

「それは厄介だな」

 

 そうぼやいていた。響は苦笑を浮かべている。

 

「確かに厄介だね。ただまあ、艦娘が配備されていない軍港でも、対深海棲艦へのノウハウはあるからね。人的被害が出る前に迎撃しているようだし、今のところ問題ないみたいだよ」

 

 レ級は本当か?というように目を見開いていた。

 

「ノウハウったって…所詮護衛艦だろ?今までだったらそんなもんで私たちの装甲抜けないじゃん」

 

 響は天を仰ぐ。

 

「確かにね。でも、護衛艦の120ミリでぶち抜けたらしいよ」

「それはそれは…妙な話なこって」

 

 レ級はそういうと椅子から立ち上がり、体を翻していた。どうやら演習場を後にするようだ。

 

「どこに行くんだい?」

 

 響はそう言いながらレ級の後を追う。

 

「ま、こっちの情報筋。こういうのは元海域管理者に聞くのが早いだろ。響も来いって。色々共有しようぜ」

「ああ…姫様達ね」

「ついでに酒好きのレ級な。あいつの行動範囲は世界の海だからな」

 

 

「で、お前なんか知らない?」

 

 まずレ級が向かった先にいたのは、旧深海棲艦、現帝国海軍参謀の戦艦レ級である。

 

「んー?私はトクに何も知らないぞ。昔からの馴染の姫様達の場所なら()()()けどもねー」

「それはそれですごいぞ。ヨッパ」

「あっははは。カメコにいわれりゃ世話ないよ!でも、新型ねぇ?()()()()()()()()()()

「知らんわ」

 

 しかし、カメコのレ級と違い尻尾が残り、そして片手には赤霧島のビンを抱えている酒が大好きな変わったレ級である。常に酒を飲んでいるので通称は『ヨッパ』だ。気さくで人当たりが良く、お酒さえ持っていけば大体友達になれる珍しい船だ。

 

「あー、情報筋、情報筋、だね?」

 

 響は微妙な顔を浮かべていた。確かに、情報筋ではあるのだが、基本的に「姫様の弱点はあそこ」とか、「深海棲艦は実は卵から生まれる」だとか、「艦娘と深海棲艦の百合カップル誕生!?」だとか、正直居酒屋のおじさんレベルの情報である。本職の響からすれば眉唾レベルの情報しかない。

 

「疑問形なのはナンデダヨー。お前だってウォッカのむじゃんかー浴びる程ー!」

「いや、私は仕事中は飲まないから。というか気になってるのはそこじゃないし」

「エー。ナンダヨヒビキー。あ、ソレハソウト、ボウモア25年が手に入ったから後で呑みに来イヨ」

「それはいいものだね。今夜にでも行かせていただくよ。摘みは何か持っていくかい?」

「いやいや、ソコハこのレ級にオマカセアレ。ホヤとカキを用意サセルヨ」

「判ってるじゃないかヨッパ。どっかのカメコとは大違いだよ」

「あいつは根っからの軍人でカメラ好きだからメンドクサイヨナ」

「仕事とプライベートが混同しないもんね」

 

 そして酒が絡めばこの有様である。カメラのレ級はそんな2人をじとりを見つめていた。

 

「お前ら…まぁ、いいや。ありがとうなヨッパ。後でカミュのVSOP贈るから呑んでくれ。何か思い出したら頼む」

「それじゃあ今晩の酒盛りを期待しているよ。ヨッパ。有難うね」

「アイヨ!カメコに響、マタコイヨー!…それにしても新型ネェ?港湾の姫様が何かシランカナ?」

 

 

「…あら。二人でここに来るなんて珍しいじゃない」

「ちょっと野暮用で。姫様に聞きたいことがありまして」

 

 次にカメコが訪れたのは、元深海棲艦鉄底海峡指令、現帝国海軍戦術局長(仮)の飛行場姫である。レ級などと違って固有名詞があり、それを『リコリス』という。レ級は自然体であるが、組織人である響は帽子を脱ぎ、敬礼の形を取ってから口を開いた。

 

「リコリス局長、情報局の響としてお聞きするのですが、新型の深海棲艦の噂はお聞きになられたことは?」

「…ある程度の話は聞いているわ。世界各国から対応策についての問い合わせが多いのよ」

 

 響とレ級は目を見開いていた。なにせ、情報欲しくて突っ込んだ先が見事当たりだったからである。響は興奮気味に言葉を続けていた。

 

「詳しく伺っても?」

 

 リコリスは苦笑を浮かべつつも、自らの懐に手を差し込んでいた。

 

「かまわないわ。レ級もいることだし、ちょうどよいタイミングね。レ級にはいつでも動けるように耳に通しておきたかったのよ」

「私にですか。姫様」

「そ。尻尾が消えたとはいえ戦力としては特級品だもの。じゃあ、情報を出すわね」

 

 そういってリコリスは懐から数枚の紙を取り出していた。『特級』『極秘』というハンコが押され、並大抵の書類ではないことが判る。そしてそれらをレ級と響に手渡していた。

 

「『各地に散見される深海棲艦(仮)についての考察』…ですか?」

「そ」

 

 リコリス曰く

 

「新型は旧式、つまりは私やレ級達と違って、比較的大きい割に装甲が薄いわ。それと旧深海棲艦と新深海棲艦の意思疎通は不可能。伝令のイ級が攻撃されたという話もあるわ」

 

―――『頭突きで沈めたのです』――――

 

「現状で確認できているのは、旧型でいうところのイロハニホヘト。軽巡までね。ただ、現状の護衛艦の主力である120ミリ砲で対応できる装甲、速力だから今のところ問題は表面化していないわ」

 

―――『殴ったら沈んだデース』――――

 

「ただ致命的なのは圧倒的に情報が無い点ね。青写真すらないわ。あるのは似顔絵程度のイラストと数枚の写真のみ」

 

 写真のみ――そうリコリスが言葉を紡いだ瞬間、レ級の目に光が灯る。

 

「あぁ、なるほど。姫様、そういうことですね」

「そ、レ級に期待している事。つまり、自由に動いて新型の深海棲艦の写真を収めてほしいのよ」

 

 リコリスは更に言葉を続ける。

 

「更にもう一つ。…どうやら艦娘側も一部が妙な変化を遂げているらしいのよ」

「艦娘の連中が?」

「そうなのよ。現状報告を受けている事実は2点。まず、旧型深海棲艦には見向きもしない。私とも普通に話すし、駆逐級とも仲良くしているわ」

 

 その言葉に響が目を見開いていた。

 

「それは、妙ですね。私ですらレ級を見るときは身構えるというのに」

「でしょう?いくら和解したとはいえもともと敵同士。なかなか慣れたものではないわ。でも、それがない」

「妙ではある、けれど姫様、個体差かなんかでは?」

 

 レ級は素朴な疑問をリコリスへと投げていた。すると、リコリスはため息を付き、それだけじゃないのよ、と言葉を続けていた。

 

「最初は私たちも個体差、と思っていたわ。でも、…2枚目の紙を見て頂戴」

「…『新型深海棲艦と艦娘の交戦記録』?こりゃ…響、知ってた?」

「いや…」

 

 レ級と響は目を見開いていた。つまりこの資料は「深海棲艦と艦娘の戦いは続いている」という資料なのだ。

 

「驚くのも無理はないわね。しかも撃ったのは艦娘が先。『新型艦娘』とでも名付けておきましょう。彼女ら曰く『深海棲艦は人を襲うもの。駆逐しなきゃだめ』だそうだ。佐世保で発現が確認されているわ。他に米国ね」

 

―――戦闘記録:8月15日 1155より新型艦娘側が新型深海棲艦へと砲撃。直撃弾はなし。同行していた旧艦娘及び旧深海棲艦は戦闘の停止を試みるも、新型艦娘及び新型深海棲艦は砲雷撃戦へと移行。一進一退の攻防を続けるも、8月17日 2100前後に新型艦娘の雷撃により新型深海棲艦が轟沈―――-

 

「戦闘記録…といっても簡単なものだけれど、資料の通りよ。ちなみに…ではあるけれど、その戦闘が終了してから呉の鎮守府で電気設備の故障が起きたらしいわ。何か関係があるかは不明よ」

 

 リコリスはそう言いながら更に一枚の紙を懐から取り出していた。

 

「それと、今までは私たちが拠点にしていなかった海域にも新型深海棲艦が現れているらしいわ。暫定的に『近海航路』を追加して対応しているわ。あと、『東部オリョール海』についても不穏な動きあり、ね」

 

 リコリスはそういうと顔をレ級と響に向けていた。その顔にはやわらかな笑みが張り付いている。対して、レ級と響の顔は、判りやすく言えば10歳は老けていた。

 

「…かなり突っ込んだ情報、有難うございます、姫様」

「レ級と私の仲よ?このぐらい朝飯前よ。後で私の写真の評価お願いね」

「そりゃ勿論させて頂きますよ。…それにしても両陣営に新型、ですか」

 

 レ級は途方に暮れる。とてもとてもレ級だけでは背負えない話である。響はそれも同じだったようで、顔面が蒼白になっている。

 

「リコリス局長。この情報はどこまで共有されているのでしょう?」

「大将以下大本営の将の一部。こちらは姫級までね」

 

 その言葉に響の顔は更に白くなる。

 

「…判りました。この場だけの話と、させて頂きます」

「ん。ま、でもそのうち出る情報よ。しっかりと心の準備はしておきなさい」

「承知いたしました」

 

 響はそういうと、レ級を残したままリコリスの元を後にする。足取りがおぼつかないのは気のせいではない。

 

「あー、響のキャパ超えてる情報渡すから…姫様も人が悪いですねぇ」

「あの子が知りたいって言ったんだもの。レ級もそうでしょう?」

「まー、新型の深海棲艦に丸呑みされましたからネ。ただ、確かに無傷でしたね」

「でしょう?私たちに比べて圧倒的に()()()()()()。何か、()()のよね」

 

 レ級とリコリスはため息を付いていた。

 

「せっかく平和にのんびりできていたのに。ままならないですね、姫様」

「ええ、ま、それでも私たちのやることは変らないわ」

 

 リコリスはそういうと、ため息から表情が一転しニヤリと笑っていた。レ級はその顔を見て、苦笑する。

 

「うっわ…姫様、なんか()()()()()()こと考えてるでしょう?」

「気のせいよ。ただ、これから世界は、面白くなるわよ。それに、久しぶりのレ級のフル装備から撮影される写真が見れるじゃない。それが楽しみなのよ」

 

 心底楽しそうな笑みを浮かべるリコリス。レ級はニヤリと口角を上げていた。

 

「ああ、そう言えば最近は艦娘の装備でしたからねぇ…なじまない弾薬はそろそろ捨てましょう。―承知しましたよ姫様。カメコのレ級。名前の通り。久方ぶりに本気の出撃をいたしましょう。…タノシミダナー!新型!艦娘ノヌレスケモソウダケド真剣ナスガタモステガタイ!」




ヨッパさんは多分姫君に情報聞いて飲める船がフエタヒャッハーサケダアアアアアア!と飛び出し、カメコさんはヌレスケエエエエエエエエエとカメラ片手に飛び出していくわけでございます。

これが私の、艦隊これくしょん

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