カメ子 レ級   作:灯火011

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個人的にですが、M4 SOPMOD II‎(ドルフロ)がレ級と被ります。多分尻尾無くなって少し成長したらアレですよ。多分陸戦装備。いやマジで。

それはさておきましてカメコさん導入回です。今回はこんな方向でございます。


反旗、はたまた怨敵

 レ級は響から渡されたペンタックスのKs-2で写真を撮影しながら哨戒を続ける。―カシャン、カシャン、カシャンと少し軽いシャッター音と共に、蒼い美しい海がモニターに写り、同時に波の白さと、響の白い船体が映える。

 

「いいねぇ、響は絵になるわ」

 

 そのつぶやきに響はちらりとレ級を見る。

 

「褒めても何も出ないよ」

 

 そういいながらも少しうれしそうな笑みを浮かべていた。何にしろこのレ級の撮影する写真は間違いない。綺麗であるし、対象にしっかりピントはあっているし、言いたいことが一言で判る写真だからだ。

 

 だからこそ海軍は無断ながらもレ級のデータを利用し、戦後の各国へのけん制として使用している。それこそ他国の艦娘の扱いから深海棲艦の扱いに始まり潜水艦などの不法入国といったところまで余すところなく、だ。

 そのお陰か、戦後すぐは多数の艦娘を所持する日本を危惧してか、各国が日本海軍に偵察をだしていたが、今ではほぼその姿を見ることはない。

 

「まぁ、そういいなさんな。そーれにしても何もない平和な海って奴だーなー」

「全くだね。早く戻って一杯やりたいところだよ」

「ははは、そういや他の第六駆逐の連中は元気にしてるんか?」

「ん、ま、ぼちぼちだね。暁は相変わらずだし、雷は秘書艦をしてるとか、電はまぁ…レ級の影響を受けたのかしらないけれど、カメラ始めたぐらいかな?」

「ほー、電とは特に関わり無かったけれどどうしてまた」

「写真に惚れたのです。だってさ」

 

 レ級はぽりぽりと頬を掻く。その顔は少しにやけていた。

 

「そりゃ嬉しい事で。ま、ただ平和になってからはこう…ビビッと来る写真撮れてないんだよなぁ」

「そうなのかい?」

「おうよ。やっぱり戦場だからこそ出る雰囲気とかってあるだろ?ま、そういう写真が無い事に越したことは無いんだぜ?ただまぁ、寂しいっつーか、なんつーか」

 

 レ級は複雑な表情を浮かべる。そう、確かに今の現状に不満はないのだが、やはり戦場の空気というのはまた違うのだ。

 

「まぁ、私もその気持ちは判るかな。結局私たちは戦のための船だから、戦わずして何の存在意義か、という気持ちはあるよ。ま、そういうことを考えられるのは平和だから、なんだろうけどさ」

 

 響の言葉に、レ級はぽかんとした表情を浮かべる。

 

「響がまじめなこと言ってる」

「レ級がまじめな事を言うからじゃないか」

 

 と、お互いに少し笑いあったところで、レ級が巨大なイ級に海面ごと食われたのであった。

 

 

 目の前でレ級が食われた響であるが、慌てない。

 

「いきなりのご挨拶だね。ま、でも、先に喰らう方を間違えたと見えるよ」

 

 響はレ級を食ったイ級を見つめながらそう呟いた。すると

 

「甘ぇんだよ!」

 

 閉じたはずのイ級の口が、レ級の馬鹿力で中からこじ開けられる。と、同時にイ級の横っ腹に海軍自慢の酸素魚雷が突き刺さり爆音を奏でる。

 

「ギャアアアアァカアアアア!」

「デカいけれどイ級はイ級だね」

「酸素魚雷程度であの苦しみ方なら、砲撃でイケるな」

 

 その一瞬でレ級はイ級の口の中から抜け出し、砲塔をイ級に向けていた。同時に響も射撃体勢に入る。

 

「おいそこのイ級、敵対行動をやめてすぐに機関を停止しろ。そして所属を名乗れ」

「アアアアアアアァァアアアアア!」

 

 レ級の警告を無視して、砲身を口から露出させ砲撃を開始するイ級。だが響とレ級は慣れたもので、当たり前のようにそれを回避する。

 

「おーおー…言葉が通じないっていうのは厄介だなぁ響さん」

「ふふ、レ級もやっとわかってくれたかい?これが私たちにとっての深海棲艦さ」

「ああ、厄介だ。つーか私の言葉はイ級程度の艦にとっちゃ上位命令のはずなんだがな。まぁいいや。警告はした。響、やるぞ」

「合点承知」

 

 レ級と響は、イ級の砲撃を避けつつ砲撃体制へと入る。レ級は右手に持っている砲身を掲げて左手を添え、響は腰を落とす。そしてお互いに目配せを行うと

 

「「一斉射撃!撃ェ!」」

 

 レ級と響は、同時に砲撃を行う。砲弾はイ級の眼へと吸い込まれ、けたたましい爆音がイ級を襲うのであった。

 

 

「…で、平和平和と言っていたわけだけどよ」

「…なんだい、この深海棲艦は?」

 

 響とレ級の目の前には、目を潰され腸をえぐられた、妙にリアルな、巨大なイ級が海面に浮かんでいた。

 

「イ級だけれど、なんつーか…」

「うん、なんていうか」

「「すんごいグロい」」

「血の出方とか血管とか、皮膚の凹凸とか、前よりかなりこう…生物的になっていないかい?」

「ああ、それに砲塔もやたらにゴツイ。なんというか、そう、出来の良くなったイ級?」

 

 そう、強いて言えば『やたらとリアリティがある』のだ。今までが無機物だとすれば、これはそれこそ無機物と有機物がごちゃ混ぜになった存在のように。

 

「…それになにより、このイ級は私が知らない奴だ」

 

 レ級は苦い顔をしながら響に言葉を投げる。

 

「そうなのかい?」

「ああ。見たことが無い。というかデカい。つーか私らは既に終戦を迎えて余生を過ごす身だ。いくらなんでも反旗は翻さんよ。それに艦娘の装備をしているとはいえ、私は深海棲艦のそこそこ上位の船だぜ?私の警告を無視して発砲するとなると、これは深海棲艦に似た何か、ってことだ」

 

 レ級の言葉に、響は首を上下に動かしていた。

 

「ごもっともだね。…実際、反旗を翻しそうな飛行場や実質の司令塔の南方なんか酒飲んで管をまいてるだけだしね」

「…姫様も地に落ちたよなぁ…まぁそれは帰ってから愚痴らせてもらうとして、だ」

 

 レ級はまじめな顔になると、響へと言葉を投げる。

 

「響、もしかしてとは思うけれど…新手の可能性は?」

 

 響はいつもの無表情で、レ級に言葉を返す。

 

「…そんな情報は私には一切回ってないね。でも、大本営なら何か掴んでるかもしれない」

「ふーむ…OK。響、とりあえずだ、こいつを横須賀に持って帰ろう。回航は私がするから、露払いを頼むぜ」

「判ったよ。それにしてもまぁ…厄介な香りしかしないね」

「全くだ」

 

 2人はそういうと、早速艤装からワイヤーを伸ばし、レ級にイ級の船体を固定し、回航を始めていた。

 

 -ここは過去、『鎮守府海域』と言われた、追い詰められた人類に残された最後の海であった。今は全ての深海棲艦が駆逐され、平和な海そのものである。


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