カメ子 レ級   作:灯火011

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レ級。(カメコ)

レ級の戦闘でも壊れず、海に出しても壊れず。

そのカメラは、一体、どこの誰が作ったものなのでしょう。



5 少し昔のお話

横須賀鎮守府、提督の職務室。

大淀、と呼ばれる艦娘が、手元にある資料を見ながら報告を行っていた。

 

≪各鎮守府近海に、戦艦レ級の遭遇報告あり

 幸いにも轟沈は一隻も出てはいないが

 先の会敵において、呉の阿武隈が大破された。

 今後、これ以上の損害を被る可能性もある。

 各鎮守府共に、警戒を厳とし、報告を密にせよ≫

 

 

「大本営からの通達は以上です。」

 

提督は椅子に腰かけながら、大淀に返答を返す。

 

「ふむ。レ級か。厄介な相手が近海に出現するようになったものだな。

 諒了解した。大本営にはそう伝えておいてくれ。」

 

それを聞いた大淀は、

 

「判りました。それではそのように。」

 

一礼を提督に行うと、そのまま提督室を後にしていった。

残されたのは、横須賀鎮守府の提督と秘書官である大和の2人。

少しの沈黙のあと、大和が口を開く。

 

「提督。やはり、レ級というのはあのレ級のことでしょうか・・・?」

 

「おそらくそうだろう。」

 

2人はため息を付きながら、当時のことを思い出していた。

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1年以上前のことである。

当時、そこそこの中堅となっていた提督は、

護衛対象であるタンカーに直接乗り込んで指揮を執っていた。

 

本来は陸路の運搬も考えられたが、時折本土に深海からの爆撃機が現れるため

それであればと、常に艦娘が護衛できる海での輸送を大本営は選んだ形だ。

 

護衛の艦隊と言えば、当時から秘書官であった、大和が旗艦を務め

隷下に武蔵、赤城、加賀、島風、雪風という深海棲艦の寝床を叩ける編成。

横須賀鎮守府の攻略部隊を護衛に着けるほど、重要な任務であった。

 

護衛対象であるタンカーには、パソコンやインターネット接続機器

無線設備等々の電子機器が満載に積まれている。

 

その中でも特に目立つのが、艦娘用の装備として開発された

「デジタル一眼レフ」と「タブレット」である。

これらは、艦娘の「装備」として扱われるため戦闘中でも壊れにくく

鋼材と燃料があれば、いくらでも修復できるすぐれものであった。

 

更に、デジタルカメラであるため、最前線の艦娘が撮影した状況などを

WiFIなどの無線技術を通して鎮守府や、他の艦娘と共有することが可能になる。

 

今回はその実地試験品を横須賀に運び運用することが主任務である。

 

内訳は、一眼レフ本体、ストロボ、レンズを各7台、動画撮影用のカメラを1台に

夜戦用の大型サーチライトを4台、それらをまとめる情報端末としてタブレットを2台。

 

これらの撮影装備を用いてより手広く、かつ迅速な情報共有システムを構築するのため

実際に物品を使用した戦術と作戦の立案を、提督は任されていた。

 

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呉から物資を受け取り、横須賀までの物資の運搬任務。

今のところは深海棲艦からの攻撃はなく、海そのものも静かなものだ。

護衛対象であるタンカーは精密部品を大量に搭載しているため、

ゆっくりゆっくりと横須賀へと歩みを進めていた。

 

そんなタンカーの司令室の椅子に座りながら、提督は大和達に通信を入れていた。

 

「あと2時間ほどで横須賀だ。

 今回のこの輸送任務が成功すれば、お前達艦娘達の負担を

 少しでも減らせるはずだ。あともう少し、気合入れてがんばってくれよ」

 

「「「「了解です!(けどタンカーおっそーい!)」」」

 

全員の士気を感じとれる返答を聞いた提督は、少し安堵の表情を浮かべていた。

自分の自慢の艦娘に守られているという安心感からだ。

そして、あともう2時間航行を続ければ自分の鎮守府である。

海域で言えば「南西諸島沖」から、「鎮守府正面海域」に入るところだ。

 

(いくら深海が出ても、この海域では軽巡洋艦がいいところだろう。

 それに今回は我が鎮守府きっての高錬度主力艦隊。

 まず、失敗はしないだろう)

 

この提督はそう考えつつも、慢心はしない。

その手元には、海図を開き、不意の敵襲に備えていた。

 

(深海棲艦は、鎮守府正面海域にある島影に隠れているかもしれないな。

 あぁ、あと対潜も厳としておかなければ)

 

そして、考えがまとまったところで、通信を再度入れる。

 

「そろそろ「鎮守府正面海域」に入る。

 各員、対潜、対水上戦闘に備えよ。

 鎮守府までの道中、最後の海域だ。より警戒を厳とせよ」

 

「「「「了解!(おっそーいー!)」」」」

 

島風の余計なひと言が聞こえるが、無視して計器と海図を睨む。

 

(本当に、何も無ければ良いのだがな)

 

若干の不安を抱える提督と、大和を旗艦とした護衛船団は

タンカーと共に「鎮守府正面海域」へと入っていく。

 

そして、その異変に気がついたのは、武蔵であった。

 

「ん・・・?」

 

そんな呟きと共に、武蔵はタンカーの後方の空を見る。

見事な快晴。雲ひとつないその空の中に、高速で飛来する弾丸を発見したのだ。

 

「なっ・・・!?回避運動!砲撃だ!」

 

武蔵の怒号の様な叫びに、全員が反応し、回避行動をとっていく。

だが、それをあざ笑うかのように

 

「きゃぁっ!誘爆を防いで!!・・・飛行甲板がぁ・・・」

 

「飛行甲板に直撃。そんな……馬鹿な。」

 

「ぎっ・・・・この私がやられるなん・・て・・・」

 

赤城と加賀、そして島風に直撃弾。

その被害たるや、赤城と加賀は飛行甲板大破。

幸いにも主機に被害は無く、弾薬や燃料に誘爆はしていないものの、

これでは艦載機はもう飛ばせないであろう。

島風に関しては、大破である。

一撃のもとに魚雷発射管と主砲、そして主機が潰されている。

沈みはしていないが、早い処ドックに入らないとまずい損傷だ。

 

そして、その状況をタンカーから見ていた提督は命令を飛ばす。

 

「大和と武蔵は現状確認を最優先。敵の位置を把握しろ!

 発見次第46センチ砲を叩きこめ!

 同時に雪風は、対潜警戒準備!

 赤城と加賀は島風を曳航して海域を離脱。鎮守府に応援を要請しろ!」

 

「「「「了解!」」」

 

赤城と加賀は火災を鎮火させつつ、動けない島風を連れて

最大戦速で海域を離脱し、鎮守府に駆けていく。

提督はそれを見届けると同時に、砲撃が飛んできた方角を睨みながら

現状把握を続ける。

 

(大和と武蔵の電探にも、赤城と加賀の警戒機にも引っかからない敵か。

 あの砲撃の精度と威力。最低でもフラッグシップの戦艦か)

 

慢心せずに作戦を立てていたのに、相手はその上をいくのか、と。

ギリ、と唇を噛みながらも現状把握を続けていた。

そして直後、提督は信じられないものを目にし、絶句する。

 

「うそだろ・・・」

 

提督の目に映ったもの、それは

腹に爆弾を抱えた、大量の深海棲艦の艦載機である。

少なくともその数は100を超え、赤城と加賀の空母をを失った艦隊では

どうあがいても対処が出来ない数であった。

 

大和と武蔵、そして雪風も提督と同じものを見ていた。

 

「何、あの数・・・」

 

「敵ながら、なかなかにやる・・・」

 

「あの数は、無理ではないでしょうか・・・・」

 

三者三様にブツブツと呟きながら、固まっていた。

一瞬で赤城・加賀・島風の3隻が大破撤退、

残った大和・武蔵・雪風の3隻の頭上には、高速で飛来する艦載機。

この状況下で、固まらない方が無理である。

 

艦娘が固まる中、提督は自分の顔を殴り思考を無理やり再開させる。

そして、固まっていた艦娘達に、激を飛ばしていた。

 

「あきらめるな!護衛対象は未だ健在だぞ!

 大和、武蔵、雪風!!回避運動!対空砲火ァ!」

 

その声にハッとして、対空砲火を行いつつ回避運動を行う大和達

 

だが無情にも、その姿は艦載機の爆撃により見えなくなっていくのであった。

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『サァて、どうなったかなーと。』

 

レ級は艦載機を戻しながら、鎮守府正面海域を悠々と進軍していた。

 

今回の任務は、飛行場姫から命じられたタンカー奪取。

姫からは、「人間側がなにか面白いものを作っているから奪取しよう」という

突拍子もない話であったため、実のところレ級はほうっておくつもりだった。

だが、その話を裏付けるように横須賀の主力艦隊がタンカーを護衛していたため

最も艦隊が消耗し、気を抜くタイミングを見てレ級が攻撃を仕掛けたのだ。

 

つまり、重要任務のために艦娘を揃えたことが仇となり

レ級という化け物を鎮守府正面海域に呼び寄せてしまったのである。

 

艦載機を戻し終わったレ級は、目標であるタンカーを目指して速力を上げていく。

 

(飛ばした艦載機の180機中170機生存だったシなぁ。

 これ、艦娘ハ全員大破シテるんじゃないカ)

 

そんなことを思いながら、更に接近していくと

ボロボロになった艦娘達と、タンカーの上から銃を向けてくる人間達が見えてきた。

 

同時に、パァンという音と共に、レ級の顔面に弾丸が突き刺さる。

その衝撃でバランスを崩すものの、意に介さずレ級は歩を進めていく。

「効いてないぞ!」「化け物か」「もっと強力な武器を!」

などという声と共に、マシンガンやらRPGをどんどん放ってくる人間。

 

最初のうちは気にしていなかったレ級であるが

人間からの貰う弾丸が増えるに従って、徐々にレ級の顔が曇っていく。

通常の弾丸や火薬ではレ級にはダメージは無いが、

パシパシやられると非常にうざいのである。

 

『うルさいな。・・・・副砲。徹甲弾。装填ヨろし。 て!』

 

無造作にレ級は副砲でタンカーを狙い打つ。

ドゴォ!という音と共に、タンカーの艦橋は大破、炎上していた。

 

『イツでも沈メられるんダ。静かに、してイろ』

 

レ級がそう叫ぶと、先程までの銃撃が嘘のように止まったのであった。

そして、タンカーの直下まで来たところで、レ級は艦娘の状態を確認していく。

巨大な砲塔を背負った2人は、主砲、副砲、対空砲座大破。

小さな砲を持った1人は、主砲、副砲、対空砲座、魚雷発射管大破。そして気絶。

護衛船団は壊滅状態である。

 

(我ながラ。見事ダなぁ・・・

 どれ、邪魔者もいないし、タンカーを持って帰るとするかナぁ)

 

甲板上の人間と、艦隊娘をぐるり、と見渡すと

レ級は主砲をタンカーに向けこう言い放った。

 

『おぉ。人間の諸君!弾丸デノお出迎エ。御苦労!さぁさっさト脱出したまえよ!

 タンカーくれれば、人間も、艦娘も、命まではとらないカラさぁ!』

 

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その後、提督とタンカーの乗務員は脱出艇に乗せられ無事に生還。

大和、武蔵、雪風も、鎮守府からの増援により無事救出されていた。

 

だが、レ級により護衛対象であるタンカーが奪取された。

何より、積み荷の最新鋭の戦術システムがまるっと奪取されるという

人類と艦娘に大打撃を与えた一件である。

 

「我が艦隊の、主力艦隊が大破せしめられたあのレ級・・・

 他の鎮守府にも被害を与えていたとはな」

 

改めて当時を思い出しながら、レ級の存在を思い出していた。

 

「ええ、あの時の、爆撃の痛みは未だに忘れられません・・・・

 あのレ級がまだ近海に居るなんて・・・」

 

伏し目がちに言う大和。何せ大和単体で、80機ほどの艦載機から爆撃を受け、大破したのだ。

普通だったらトラウマになるところを持ちこたえたのは、流石戦艦大和というところか。

そんな大和を見ながら、

 

「ま、言っても仕方ない。俺達のやることは変わらないさ。

 何より、当時より錬度も装備も充実している。

 最新鋭の戦術システムもなんとか構築も出来た。

 気を抜かずに、何時でも対処できるようにしていれば、勝機はあるさ。

 ・・・・ただ、装備品として認識されるカメラ。

 あれだけは特注品だったらしく、同じものがない。

 カメラはあるが、装備品として認識されるカメラは、盗られた物だけだ。それだけが悔やまれる。」

 

「えぇ、最深部の深海棲艦の鮮明な画像を共有できれば、もっと戦術的にも楽になるのですけど。

 普通のカメラだと、最深部突入の頃にはどうしても壊れてしまいますからね・・・。

 ですが、そのレ級にやられっぱなしというのは大和として、横須賀の艦娘として納得いきません」

 

「それは私も同じだよ。大和。横須賀鎮守府を預かる提督として、やられっぱなしは癪に障る。

 次に出会ったときは、やり返すぞ」

 

提督と大和はため息をつきつつも、レ級に対してリベンジを誓うのであった。

 

 

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「ウェックシ!・・・・・ドックの水、冷タい」

 

くしゃみをしつつ、演習場のドックでタブレットをいじるレ級。

もちろん、艦娘の写真を見るためである。

 

「そうイえば、姫の命令デ、タンカー持って帰ってきテからダっけ、

 写真撮り始めタの」

 

忘れもしないあの日。

タンカーを奪取して中身を少しみてみたところ

「装備」として認識されるカメラがあったのだ。

珍しいもんもあるんだなぁ。と思ったレ級は早速装備をして、

タンカーを動かす前に、甲板上から艦娘写真を撮っていたのだ。

 

「手に伝わル、シャッターの感触にホレたんだッケなぁ。

 撮ることヲ意識シテなカったシ・・・今と比べチャうと、構図とか全然ダメだナぁ」

 

 

最初の一枚「大破した大和と武蔵」を見ながら、

苦笑を浮かべ、一人呟くレ級であった。




妄想捗りました。レ級さんは昔は真面目だったんです。多分。

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