カメ子 レ級   作:灯火011

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北の海へ、キス島撤退のために向かう、戦艦レ級と艦娘達。

そして、鮭を捕るために北へ向かった戦艦レ級と港湾棲姫。

彼女たちが、遂に合流したようです。


125 レ級 北へ その3

戦艦金剛、戦艦武蔵、空母加賀、駆逐艦菊月。

そして、戦艦レ級と飛行場姫は、濃霧の中を

揚陸艇と護衛艦を従えながら、足早に進んでいた。

 

既に、キス島撤退作戦の阿武隈達とは別れ

今現在は、アツ島撤退・攻略作戦へと移行している。

 

(阿武隈のほうは・・・。今、我ら深海棲艦が、

 キス島から引いてるから撤退は問題ないでしょう。

 十分な霧も出ているし・・・ね。)

 

飛行場姫はあぶくまの甲板に立ちながら

現状をよくよく整理していく。

 

(だけれど、こちらのアツ島撤退作戦は微妙ね・・・。

 私の索敵能力をもってしても把握が難しい姫が1人。

 おつきの深海棲艦が2隻。おそらくこれは戦艦級。

 ・・・難しい戦いになりそうね。)

 

飛行場姫はそう考えながらも、自らの艤装から

次々と索敵機を上空に上げていった。

 

ちなみにではあるが、飛行場姫の戦闘機のモデルは

基本的に米軍の戦時中の戦闘機である。

その中には、八木アンテナを装備した索敵機もあるのである。

 

それ故に、飛行場姫の索敵機は、

この濃霧の中でも、余裕、とまでは言わないが

十分に、発艦、索敵、着陸が可能なのだ。

 

もちろん、艦娘である加賀としては面白く無い。

ときおり飛行場姫の装備を物欲しそうに見ていたり、

自らも発艦させようかと、弓を握る。

 

だがしかし、未だここは濃霧の中。

加賀が有する、レーダー技術のない艦載機では

発艦及び索敵は、難しいのだ。

 

「どうしたのかしら、加賀。

 そんな目でコチラを見て。」

 

加賀の視線に気づいた飛行場姫は

不思議そうに口を開いていた。

 

加賀は一瞬しまった、と目を見開くが

次の瞬間、いつもの無表情の顔で、口を開く。

 

「いえ、貴女の索敵機が羨ましいなと思いまして。

 この濃霧の中で発艦できるというのは、

 素晴らしいものです。」

 

「あぁ、ま、深海棲艦にはそういう機体もあるということよ。

 貴方達風に言えば、電探搭載機、と言ったところかしら?」

 

加賀は驚きのあまり目を見開いていた。

 

「深海棲艦は、電探を航空機に積んでいるのですね。」

 

「そうよ。電探で地形を把握し、敵を発見し、艦に戻る。

 それだけの話しよ。だから、目視できない今でも

 発艦、索敵、着艦が可能なのよね。」

 

「なるほど・・・あとで我々の艦載機にも電探が積めないか、

 提督に進言してみます。」

 

加賀の言葉に、飛行場姫は首を傾げる。

 

「うーん、どうかしらねぇ。

 横須賀の大本営ですら、未だに根性論がまかり通ってるし。

 電探なんかに頼るのは日本の恥だ!なんて言われそうじゃない?」

 

「・・・確かに。否定はできませんね。」

 

「ま、とはいえ、私の存在が、これから

 海軍の体制を変えていくとは思うわ。

 私自身、結構高性能な電探を積んでるし、

 他の姫も、同じような電探を積んでるしね。」

 

飛行場姫はそう言いながら、加賀を見つめなおす。

 

「それに対して、艦娘の電探の性能ったら・・・。お粗末よ。

 ま、だからこそ、貴方達の動きって、

 私達深海棲艦からしてみれば、安全にトレースしやすいのよね。」

 

「・・・確かに、海軍製電探の性能不足については、私も自覚があります。

 電探を積んでいても、島か船かわからないことがありますから。」

 

「でしょう?ま、そこら辺の技術は

 私が自ら協力して、これから発展していかせるわ。

 何より、電探とかの装備は私達深海棲艦が優っているけど

 熟練度では人間と艦娘のほうが優っているわ。

 今後、装備開発が勧めば、いずれはいい形に収まるんじゃないかしらね。」

 

「なるほど。それにしても、飛行場姫。

 いいのですか?先程から聞いていれば、艦娘に協力する、と

 言っているように思えるのですが。」

 

「あー。まぁ。間違いじゃないわよ。

 それに、協力じゃないわ。私はあくまで鹵獲されてるの。 

 ろ、か、く。無理やり技術を絞りととられるの。

 そこを間違ってもらっては困るわ。」

 

飛行場姫はそう言うと、正面を向き、索敵に集中する。

 

「了解しました。」

 

加賀もその姿を確認すると、飛行場姫から視線を外すのであった。

 

 

索敵に集中する飛行場姫に、声をかける一人の人間がいた。

 

「どうでしょうか。飛行場姫殿。首尾は。」

 

管内巡検を終え、飛行場姫の元へやってきた

今回の作戦を指揮する、横須賀鎮守府の提督である。

 

「今のところは特に問題は無いわね。

 ただ、この先にちょーっと大きな姫の反応はあるわね。

 今、そこに向けて索敵機を向かわせているところよ。」

 

飛行場姫はそう言いながら、体を提督へと向ける。

 

「承知しました。それにしても本当助かります。

 この濃霧では、我らの艦載機では索敵がままなりませんからね。」

 

提督はそういいながら、飛行場姫へと笑みを向けていた。

飛行場姫はそんな提督を見ながら、大きな溜息をつき、口を開く。

 

「そういうのであれば、もう少し貴方達人間は

 艦娘の装備をしっかり開発しなさい。

 いつまでも精神論では、この戦は戦えないわよ?」

 

「はは・・・耳が痛いです。」

 

提督はバツがわるそうに苦笑を浮かべていた。

と、その時だ。飛行場姫の偵察機が、

姫級の深海棲艦の反応の上空へと到着したのだ。

 

だが、飛行場姫はそこで信じられないものを見たのだ。

そこには、自身の部下ではないレ級と、港湾棲姫の姿があったのだ。

しかも、その行動は、なぜか爆雷を投下しつつ、

移動を繰り返していたのである。

 

「・・・妙ねぇ?」

 

飛行場姫は疑問を浮かべながら、自身の艦載機へと意識を集中させる。

 

「・・・艦娘の潜水艦なんていないわよねぇ・・?

 何をしているのかしら。・・・本当、妙ねぇ・・?」

 

飛行場姫が首をかしげていると、提督から声がかかる。

 

「どうされたのですか?」

 

「いえ、ね。姫級の反応がいたのだけれど

 どうも、行動が怪しいのよねぇ・・・?」

 

「怪しい、と申されますと?」

 

「そうねぇ、艦種はレ級と港湾棲姫なのよね。

 まぁ、北方海域に潜む深海棲艦としては、十分な戦力よ。

 ただ・・・・。」

 

飛行場姫は言葉を区切り、口をつむぐ。

 

「ただ・・・?何かあるのですか?」

 

提督は飛行場姫の様子に、怪訝な顔をしながら、質問を投げていた。

飛行場姫は一瞬、言い淀んでいるようであったが、

提督の質問に、おずおずと、静かに語り始める。

 

「それがね・・・こちらの艦載機に気づく様子が一向に無いのよ。

 姫級であれば、まずそれは絶対にあり得ないわ。

 相当何かに集中しているか、大破していない限りは、

 こちらの偵察機に気づくはずなのだけどねぇ・・・?。

 更に言えば、時折海中に爆雷を投げ込んでいるのよねぇ・・・。」

 

そう、相手が港湾棲姫なら、既に気づかれていてもおかしくはない、

というか、距離で言えば気づかれていなければ行けないのだ。

 

基地型の深海棲艦であれば、その索敵の広さも、艦の比ではないのである。

 

だが、そんな基地型の深海棲艦である港湾棲姫が、近寄る艦娘に一切目をやらず

自分の頭上を飛ぶ艦載機にも気づかない。これは異常なことである。

 

「こちらに気づかない?更に爆雷を?

 確かこの海域、我が海軍の潜水艦はいないはずですが・・・。

 なんでしょうね?また妙な行動をとってますね。

 飛行場姫殿、その港湾棲姫とレ級について、何かご存知ですか?」

 

「おそらく、ね。

 レ級を連れているし、もしかすると、

 知り合いの港湾棲姫かも知れないわね。

 ・・・ま、私と同じでかなり異端な姫よ。

 基本的には人間と艦娘を襲うわけでもなし、

 かといって深海棲艦と敵対しているわけでもなし。

 ・・・そんな感じかしらね。」

 

「ほほう、ということは、もしかすると

 貴方達のように、友好的な深海棲艦の可能性もある、と?」

 

「もしかしたら、ね?

 ま、他の船の可能性もあるから、油断はできないけれどねぇ。」

 

飛行場姫はそう言うと、レ級へと無線で指示を飛ばすのであった。

 

・・・そして、その無線から数十分後。

レ級達、アツ島攻略作戦の面々は、

なぜか、港湾棲姫と、レ級を引き連れて

旗艦である護衛艦「あぶくま」に乗艦していたのである。

 

あぶくまの提督の部屋では、非常に珍しい光景が広がっていた。

なにせ、横須賀鎮守府の提督と、戦艦レ級2隻が

同じ部屋に存在していたのだ。

 

「・・・・レ級殿、こちらの、レ級は、お知り合い、ですか?」

 

あぶくまに同乗している、横須賀鎮守府の提督は

その顔を引きつらせながら、目の前に並ぶ2隻のレ級を

交互に見つめていた。

 

「おう。酒が好きなレ級だぜ。港湾棲姫様の部下のレ級なんだ。」

 

カメラのレ級が、酒好きのレ級を紹介する。

 

「オウヨ。私ハ酒好ガスキナンダゼ。

 テイウカ提督カァ。呉ノ提督トハチガッテ、男ナンダナー?

 マ、トリアエズ挨拶ダ。ホイ。」

 

酒好きのレ級は、笑顔を見せながらも、右手を差し出していた。

どうやら、握手をしよう、という意思表示であるらしい。

 

「・・・あぁ。はい。どうぞよろしくお願いします。」

 

提督は、ぎこちないながらも、酒好のレ級の手を握り返していた。

 

「おっし、それじゃあ紹介も終わったことだし。

 私は哨戒任務に戻るわー。じゃーなーよっぱ。提督殿。」

 

レ級はそういうと、勢い良く司令室を後にするのであった。

そして、残った提督と酒好きレ級は、どうしたものかと

お互いに目線を逸したり、頭をかいたり、顔をかいたりと

気まずい時間が、少しだけ、流れていた。

 

「そういえば酒好きのレ級・・・と呼ぶのも変ですね。

 何か個体名はあるんでしょうか?」

 

「ンォー?ネーナー。マ、アイツハフラッグシップノレ級デ。

 私ハエリートノレ級ダカラ。「エリレ」トデモヨブトイイゼ?」

 

「なるほど。それならば改めて。

 敵意がないのは判りましたが、

 エリレさんは、何故に北の海に?」

 

「アレ、アイツ説明シテナカッタノカ。

 マ、イイゼ。ワタシハカメコ・・・アァ、フラッグシップノレ級ナ?

 カメコガ言ッタトオリ、酒ガ好キナンダ。

 デ、鮭、食ベタクナッテナァ。

 鮭ッテイッタラ北海道ジャン?モシクハソレヨリモ北ノウミダロ?

 ダカラ、コノ北ノ海マデ、出撃シテキタワケ。」

 

「・・・つまり、なんですか。

 鮭を食べたくて、ここまで、きたと?」

 

「オウヨ!装備ミテミルカ?

 鮭漁トオモッテ、潜水艦用ノ爆雷モッテキタンダ。」

 

エリレ級はそう言うと、自らの装備をすべて曝け出していた。

確かに格納庫には、艦載機無し。その代わりに、爆雷が

所狭しと並んでいた。

 

「・・・本気ですね。爆雷しかないとは・・・。

 エリレさん。この装備で、艦娘と出会ったら、

 本来、どうするおつもりだったのですか?」

 

「ンン?アァ、酒ト鮭ナゲテ逃ゲル。」

 

エリレ級は当然のことのように、すらりと答えていた。

流石に提督も、エリレ級の態度と言葉に、驚きを隠せないでいた。

 

(・・・レ級という艦種は、なんでこうも自由なんでしょうか・・・。

 カメコのレ級に、自由なエリレ。全く・・・。)

 

提督はそう思いながらも、少しだけ、笑みを浮かべていた。

 

そして、エリレ級は、困惑する提督を尻目に、

更に言葉を続けるのであった。

 

「ソウイエバ提督。コノ「あぶくま」ッテサ。

 結構イイ調理場、アルノカナ?」

 

「え、えぇ。ありますが。それがどうかしました?」

 

「ン、ソレナラ、チョット貸シテ。鮭焼ク。後、しもつかれ作ル。

 新鮮ナ鮭ミテタラ、酒呑ミタクナッチャッテサー!

 作戦ノ邪魔ハシナイカラ、ネ?」

 

このレ級は、こう言っているのだ。

【鮭で酒呑たいから、調理場貸して。】と。

 

「・・・あぁ、はい。」

 

あまりの非常識さに、提督が思わず許可を出してしまったのは

誰も責められることではないであろう。




妄想捗りました。

人間、正常な判断力は、
非常識を叩きつけられ続けると、なくなるものです。

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