カメ子 レ級   作:灯火011

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前回、人類が行う「アツ島・キス島撤退作戦」に参加を決めたレ級と飛行場姫。
作戦立案をしつつ、彼女たちは艦娘とともに、
北の拠点、幌筵泊地へと足を運ぶようです。

(少しだけ別作「自由なエリレ」さんが噛んできます。)


123 レ級 北へ その1

朝4時。

日がまだ水辺線の下に沈んでいる早朝に

横須賀鎮守府の近くにある三笠公園に

2人の女性の姿があった。

 

いや、正確に言えば、1隻と、1人、

と言った方が正しいのかもしれない。

 

「・・・てなわけで、キス島とアツ島撤退作戦に

 参加することになってしまったんです。

 正直荷が重いと云いますか・・・・。」

 

「なるほどのぉ、敵であるお主が、人類の味方をのぉ?

 ま、別にお主が決めたのならば、私はなにも言わんよ。

 その行動は、我々が守護するべき人間に、有益であるわけだしの?」

 

一人は、古い軍服を着て、若干足元が透けている小柄な娘であり

今現在、なぜかレ級にだけ姿が見える「戦艦三笠」の艦娘のようなもの。

 

「そうは言うんですけどねぇ。

 三笠さんの言うとおり、腐っても私は敵なんですよね。

 カメラという点を差し引いても、なぜ私が人類の味方をしようとしたのか、

 未だに自分でもわからないんです。」

 

一隻は、蒼白い肌に、金色の眼をもち、巨大な尻尾を持つ少女。

深海棲艦とよばれる人類の敵の代表格、「戦艦レ級」である。

 

「敵と味方、どちらかの立場で揺れるとは、

 やはり今代の敵、深海棲艦は・・・いや、お主は、妙なものだ。

 明確な敵というわけでもない。

 かといって、明確な味方というわけでもない。

 うぅむ・・・・。」

 

三笠は少し考え込んでしまう。

何せ、このレ級は敵であるものの、妙に人間と艦娘に好意を抱いているのだ。

更に言えば、なぜか三笠の姿が見えるのは、艦娘でも、提督でもなく

この深海棲艦のレ級ただ1隻である。

更に言えば、なぜかその深海棲艦が、わざわざ早朝の三笠公園に出向いて、

三笠と話をしたいと持ちかけてきたのだ。

 

(なぜ相談するのが私なのだ・・?)

 

戦艦三笠が、頭を抱えてしまうのは仕方が無い事である。

 

「悩ませてしまって申し訳ありません。

 ですがその、我々の大先輩である三笠さんに

 何か助言をいただければ、吹っ切れるかな、などと思いまして・・・。」

 

レ級は申し訳無さそうな顔を、三笠に向けていた。

 

「ふーむ。そう言われれば助言せぬ訳にもいかぬわなぁ。

 時にレ級。お主、なぜ今回、作戦に参加しようと思ったんじゃ?

 カメラ抜きで、答えてみせよ。」

 

三笠はそう言うと、レ級の眼を、まっすぐと見つめていた。

レ級は三笠の眼を見返すと、ゆっくりと口を開く。

 

「・・・カメラ抜き、となればただひとつです。

 あの鎮守府の艦娘(馬鹿共)と、提督(馬鹿野郎)と一緒に海で戦いたくなったから、です。

 ですが、私は敵ですから、この気持が正しいのかなんなのか・・・・。」

 

レ級は言葉を切る。そして、目をつぶって下を向いた。

三笠はそんなレ級を見ながら、笑みを浮かべ、レ級に言葉をかける。

 

「なんじゃ、お主、答えは出ていたのじゃな。

 それならば私がかける言葉は一つ。

 「やるだけやってみろ」。以上だ!

 敵とか味方とか、立場に縛られるのではなく、

 貴様の気持ちの赴くままに動いてみろ。

 さすれば、そこに道がある。」

 

三笠はそこで言葉を区切ると、レ級の頭に手を載せ

ぐしゃぐしゃと、レ級の頭を撫でていた。

 

「なに、気負いをするな。深海棲艦のレ級。

 私も海の上にあるころに、提督とともに道を歩んでいたら

 こんな場所で人類の営みを見守るという大役を仰せつかったのだ。

 貴殿の前にも、いずれ良い道ができようぞ。」

 

レ級は三笠をちらりと見ると、顔を上げる。

そして、三笠の腕をはねのけると、にやりと笑みを浮かべた。

 

「ガキ扱いすんじゃねーよ。

 ま、そっか、うん、やるだけやってみる。

 ありがとうございます。三笠殿。」

 

レ級はそう言うと、三笠へと礼をする。

 

「はは。なに、気にするな。

 誰かと話せるだけでも、私は楽しいのだ。

 また何かに迷ったら、気軽に来ると良いぞ。若いの。」

 

三笠はそう言うと、その姿を、闇夜に溶かしていた。

レ級はその姿を見送ると、自身も体を翻し、横須賀鎮守府へと足を向けていた。

 

 

朝7時。天に日が昇った頃である。

横須賀鎮守府の桟橋には、

加賀、武蔵、菊月、レ級、飛行場姫の5隻が集められていた。

 

「ご苦労様です。さて、事前に命令書が届いているとは思いますが

 我々はこれから、幌筵泊地へと足を向けます。」

 

そして、それらの船の前には、横須賀鎮守府の提督が

命令書を片手に持ちながら、作戦の説明を改めて行っていた。

 

「幌筵泊地にて、呉鎮守府の精鋭である金剛、

 そして、キスカ島撤退作戦の主力である阿武隈、第六駆逐隊と合流します。

 なお、幌筵泊地には既に横須賀から雪風が着任し、陣頭指揮を取っていますので

 呉鎮守府、横須賀鎮守府、そして幌筵泊地の駆逐艦5隻を以って、

 キスカ島周辺に霧が出次第、アツ島、キスカ島へと突入。

 両島合計8000名の撤退を貫徹するものとします。」

 

「提督よ、一つ訪ねても良いか?」

 

片手を上げ、口を挟んだのは武蔵だ。

 

「なんでしょう?」

 

「レ級と飛行場姫が参加するのは良い。

 だが、飛行場姫の移動手段はどうするのだ?

 こいつは確か、陸上型の姫だったはずだ。」

 

「あぁ、それについてはご心配なく。

 飛行場姫殿、ご解説願えますか?」

 

「えぇ、勿論。武蔵の心配はごもっともでしょう。

 でも、大丈夫なのよ。今回、アツ島撤退作戦を指揮する護衛艦

 「あぶくま」っていう船がいるんだけれどね。

 ええと、あれね。」

 

飛行場姫は一隻の護衛艦を指差していた。

艦種には「232」と番号が銘打ってある船。

護衛艦「あぶくま」である。

 

「私がアレを基地として棲むわけ。そうすれば、あれが移動すればいいわけでしょ?

 陸上に棲むよりは性能が落ちるけれど、ま、それでも他の姫には負けはしないわよ?」

 

確かに阿武隈の甲板を見れば、飛行場姫の艤装が据え付けられていた。

 

「ということです。武蔵。心配はいりませんよ。

 何より海上はレ級がいるのですからね。

 加賀を温存するために飛行場姫には常に警戒機を飛ばして頂き、

 更には、足りない航空戦力の援護をしていただくわけです。」

 

「なるほどな・・・。あれならば確かに、最高の戦力だな。納得した。

 それならば問題ないな。加賀はどうだ?」

 

「問題ないわ。飛行場姫の航空戦力は確かですから。

 ・・・それよりも、一つ気になる点があるのだけれど。」

 

加賀はレ級を指差しながら、口を開く。

 

「レ級がカメラを持っていないのだけれど。」

 

確かにレ級を見れば、普段のカメラを一切持ってきていなかった。

外見はごくごく普通の「武装をしたレ級」である。

 

「あぁ、そりゃーなー?。

 私だって真面目と真面目じゃない時ぐらいの区別は出来るっての!

 今回は命がかかってるわけだし、遊び気分入れちゃ駄目、だろ?」

 

レ級は自身の艤装を動かしながら、加賀をみつつ口を開いていた。

 

「・・・確かにそうですね。判りました。

 あなたもそこまで本気なのですね。」

 

「あったりめーよ。」

 

「それならば、私も特には。・・・菊月はどう?」

 

加賀はいつもの無表情のまま、目線だけを菊月に向ける。

 

「別に問題はない。むしろだ、レ級と肩を並べて戦えるのが少し楽しみだ。

 私がどこまで、強くなれたかが判るからな。」

 

菊月はちらりとレ級を見ながら、口を開いていた。

レ級は菊月を見返しながら、にやりと笑みを作りながら、口を開く。

 

「ほぉー?「肩を並べる」ってか?いいぜ。

 私は並大抵の艦娘じゃついてこれねーんだぜ?」

 

「判ってるさ。艦娘の中でついて行けるのは

 限られた一握りだ。金剛型しかり、大和型然り、な。

 だが、駆逐艦である身でそれに食いついてこそ、意味がある。」

 

菊月はレ級にまけじと、笑みを返しながらレ級に拳を差し出していた。

 

「はっ、そこまで言ったんなら、ついてこいよ?」

 

レ級はそう言うと、拳を作る。

 

「なんだ菊月。水臭い。」

 

「私も混ぜてもらおうかしら。」

 

レ級と菊月のやりとりと見ていた加賀と武蔵も拳を作ると、

レ級と共に、自身の拳を、菊月の拳へとこつんとぶつけるのであった。

 

「提督殿。士気は高いわね。」

 

「えぇ、頼もしい限りですよ。」

 

飛行場姫と横須賀の提督も、お互いに拳を作り、コツンとぶつける。

アツ島攻略部隊の士気は、相当に、高い。

 

「それでは皆様、いざ北へ向かいましょう。

 ひとまずは、呉鎮守府からの派遣隊と、幌筵泊地の部隊と合流して

 改めて作戦を確認し合いましょう。」

 

「「「了解!」」」

 

「あいよー。」

 

「判ったわ。提督殿。」

 

「それでは飛行場姫殿は私と共にあぶくまへ。

 武蔵以下攻略部隊は、抜錨してあぶくまの後方を追従するように。」

 

提督はそう言うと、飛行場姫と共に、桟橋を後にするのであった。 

 

 

一方そのころ、キスカ島撤退作戦を担う旗艦、軽巡阿武隈は

呉鎮守府にて、朝食を摂っていた。

 

「・・・美味しいんだけどなぁ・・・。」

 

阿武隈が食べるのはカキフライ定食。

朝食から重いご飯ではあるが、これから幌筵泊地まで出向くのだ。

それなりのものを食べなければ、腹が持たないのである。

 

「・・・美味しいなぁ。でも、納得いかないなぁ・・・・。」

 

何が納得いかないのか。

それは、今阿武隈が朝食を食べている

「居酒屋 鳳翔」のメニュー表を見れば、その原因が窺い知れる。

 

「どうされました?カキフライ、お口に会いませんでしたか?」

 

鳳翔が、微妙な顔をしている阿武隈を見ながら、口を開いていた。

 

「ううん、そういうわけじゃないんです。

 ・・・その、この美味しい牡蠣が、深海棲艦が運んできたって考えると・・・。」

 

「あぁ、港湾棲姫さんとレ級さんの特選品ですから。

 美味しいのは間違いないことです。ですが、確かに少し、悩んでしまいますよね。」

 

鳳翔は苦笑を浮かべていた。

そう、阿武隈が食べているカキフライ定食。

その食材提供者が、最近呉鎮守府に現れ始めた

酒を呑む深海棲艦「港湾棲姫」と「戦艦レ級(よっぱ)」なのだ。

 

つまり、深海棲艦の差し入れを朝食として食べているのだ。

なお、毒があるわけではなく、栄養満点であり、食事としては最高の逸品である。

 

「そういえば、鳳翔さん、この食材提供したレ級達、まだ来てるんですか?」

 

阿武隈はサクリサクリとカキフライを食べながら、鳳翔へと口を開いていた。

 

「そういえば・・・最近は差し入れがあるだけで

 お酒を呑みに来ていませんね。何かあったんでしょうか?」

 

鳳翔は皿を拭きながら、牡蠣の入っていた発泡スチロールを見ながら

ぼそりと呟いていた。

 

「・・・鳳翔さん、港湾棲姫とレ級がお店に来るの、楽しみにしちゃってます?」

 

阿武隈は、苦笑を鳳翔に向けつつ、口を開く。

 

「えぇ、もちろんです。あれだけ美味しそうにお酒を呑む方、提督以外に知りませんからね。」

 

鳳翔は笑顔で、阿武隈の問いに答えるのであった。

広島、呉鎮守府。こちらもこちらで、そこそこ、士気は高いようである。




妄想捗りました。

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