カメ子 レ級   作:灯火011

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前回、レ級と飛行場姫に、まさかの協力を仰ぐことを決定した
日本帝国陸海軍。早速、その交渉のために、横須賀の提督がレ級の元へと出向くようです。


122 レ級 カメラの更新③

横須賀鎮守府の一室。

戦艦レ級フラッグシップ改が充てがわれた部屋には

部屋の主である戦艦レ級と、

レ級のカメラの弟子である飛行場姫が集っていた。

 

「いいわねぇ、レ級は。提督に気に入られて。

 私も新しいカメラ欲しいわね。」

 

レ級と青葉が作った草案を見ながら、

飛行場姫はぶつぶつと独り言を呟いていた。

 

何せ飛行場姫も、レ級の影響とはいいながらも

相当カメラを弄くり倒し、写真を撮影しているのだ。

 

ただし、そのカメラは飛行場姫の物ではなく

レ級のカメラを貸し出している形である。

 

そして、今日、なぜ飛行場姫がレ級の部屋に居るのかといえば

飛行場姫が、レ級からカメラとレンズを1セット、

借りようと思ったためである。

 

「まー、なんでしょう。あの提督はちょっと怖いですけれど、

 こういう時は仲良くなってよかったなーと思います。

 っていうか姫様。海軍から寸志出てるでしょうに。

 それで北方棲姫様と同じように、自分のカメラ購入したら如何です?」

 

レ級は、飛行場姫に対して、苦笑を浮かべつつ口を開いていた。

何せ北方棲姫は、あの会見の後、

自前の1DXの新型と、大三元F2.8レンズを携え

日本各地へと写真を撮りに、飛び回っているのだ。

 

曰く、

 

「せっかく上陸できたんだから、旅行して、遊んで、

 撮らないと損だよ、ねっ!」

 

だそうである。

 

そんな北方棲姫を思い出しながら、飛行場姫とレ級は

会話を続けていた。

 

「そうは言うけれどねぇ。あれはアグレッシブすぎよ。

 北方海域で引きこもっていた反動とは言え、

 私には真似できそうにないわよ。」

 

「あー確かに。そういえば、北方棲姫様が担当してた島って。

 アツ島とキス島でしたよねぇ。

 そういえば、今頃あの島どうなってるんですかねぇ?」

 

「大本営やら提督やらの話を聞いてると、

 北方棲姫があなたと一緒に世界を回ってた時に

 どうやら人類が確保したらしいわよ?

 まぁ、最近になって戦局が怪しくなってきたらしいけど、ね。」

 

飛行場姫はそう言いながら、レ級のカメラをいじくっていた。

カリカリと絞りとシャッター速度をいじる彼女の顔は

にこにこと笑みを湛えている。

 

「しっかし姫様も、カメラ好きになりましたよねー。」

 

レ級は自身のカメラを弄くり倒しながら、

笑みを浮かべる飛行場姫に思わず口を開いていた。

 

「・・・そうねぇ。私もここまでカメラに嵌る、とは思っていなかったわ。

 アノ時はまだ、レ級のカメラをかりればいいと思ったけど・・・。

 うーん、やっぱり自前でカメラ、揃えようかしら?」

 

そう言いながら、飛行場姫はカメラを構え、ドアへとレンズを向けていた。

すると、ちょうどそのタイミングで、レ級の私室のドアが開き

飛行場姫が覗くカメラのファインダーに、ドアを開けた人物の顔が

ドアップで映しだされていた。

 

「・・・あら、提督じゃない。急にドアをあけるなんて、

 無粋もいいところじゃない?」

 

飛行場姫は少し驚きながら、ドアを開けた提督に言葉を投げていた。

飛行場姫の言葉に、レ級はビクッと反応すると、ドアに視線を向けていた。

 

「・・・うおっ。提督じゃねーか!

 ノックぐらいはしてくれよー。」

 

レ級と飛行場姫の言葉に、提督は肩をすくめつつ、口を開く。

 

「はは、いきなりすいませんね。少々急を要していたもので。

 飛行場姫殿もいるとは丁度いい。---少々、お時間ありますか?」

 

提督はそう言うと、真剣な顔をレ級と飛行場姫に向けていた。

その雰囲気の変わりように、

レ級と飛行場姫は、姿勢を正しながら、口を開いていた。

 

「んお?別にいいぜ。どうしたんだよ。」

 

「時間は有り余ってるわよ。どうしたのかしら?」

 

提督は、姿勢を正した深海棲艦の2隻を見ながら

ゆっくりと、しかしはっきりとした発音で

大本営から命じられた言葉を、レ級と飛行場姫に伝えたのであった。

 

「・・・実は、お二人に、海軍と陸軍が合同で行う

 大規模撤退作戦に、参加いただきたいのです。」

 

「「・・・はい?」」

 

レ級と飛行場姫は、あまりの衝撃に、お互い見つめ合いながら

ようやく一言、発するのが精一杯であった。

 

 

ひとまず落ち着きを取り戻したレ級と飛行場姫は

提督から作戦書を手渡されていた。

 

「なるほどなるほどなるほど・・・。

 8000名を救うための大規模撤退作戦、ねぇ。」

 

「こりゃまた無茶な作戦を立てたなぁ・・・。

 しかもこれ、作戦書を見る限り

 なんか北方棲姫様以外の姫様っぽいのがいるっぽいし。」

 

作戦書を熟読しながらも、

感想をぽつりぽつりと述べていくレ級と飛行場姫である。

 

「・・・で、キス島撤退の旗艦は、阿武隈・・・阿武隈?

 阿武隈かぁ!久しぶりに撮れるなぁ。

 んで、アツ島撤退の旗艦は金剛・・金剛ぉ!?」

 

「撤退作戦なのに、快速である駆逐艦とか軽巡よりも

 高速戦艦である金剛を選ぶのね。なんでかしらね。」

 

「うーん、あ、姫様、ここの項目ですね。

 アツ島近くに姫級以下多数の深海棲艦を

 確認していると書いてありますね。」

 

「あぁ、本当ね。なるほど、深海棲艦が多数居て

 撤退が難しい、そのためのアツ島打撃艦隊、

 そのための旗艦金剛、というわけかしら。」

 

「そうみたいですね。で。私たちもどうやら

 アツ島撤退作戦の打撃部隊に編入されてるみたいですよ。」

 

「あら、本当ね。・・・了解もしていないのに、

 海軍と陸軍は、何を考えているのかしら、ね?」

 

「本当です、ね?」

 

飛行場姫と、レ級は、語尾に力を入れながら

提督へと、殺気を込めた視線を向ける。

 

するとそこには、顔からダラダラと冷や汗を流している

横須賀鎮守府を納める提督が、正座を持って鎮座していた。

 

「あら、どうしたのかしら提督。

 そんなに汗を流して。何か都合の悪いことでも?」

 

「本当ですねぇ。姫様。

 ねぇ、提督、何か都合の悪いことでもあったの?」

 

流石の提督でも、深海棲艦の上位艦種である姫君と

その部下であるレ級の殺気のこもった視線を受けては

冷や汗を流す他ないようである。

 

が、実はこの提督、この2隻の深海棲艦が

確実に動く文言を、隠し持っていたのだ。

 

「いえ、別に。それにしても残念です。

 その様子ですと、どうやら作戦には

 参加していただけないご様子ですね。」

 

「そりゃあ、そうでしょう。 

 これは深海棲艦に対しての裏切りに等しい行為よ?

 流石に首は縦にふれないわね。ねぇ?レ級。」

 

「そりゃそうでしょうね。

 流石に軍の進軍についていくとなると

 完全に人類の味方、ってことになっちゃいますし。」

 

「わかっています。

 ですので、今回の作戦においては、

 基本的には先導と警戒をお願いしたいのです。」

 

「なるほど、まぁ、それなら多少は、と言いたいけど

 それでも艦娘と人類を助けるということでしょう?

 しかも公の作戦で。流石に飛行場姫たる私でも

 その後の尻拭いは出来ないわよ。残念だけどね。」

 

飛行場姫はそう言うと、作戦書を手放し、

レ級のカメラへと手を伸ばしていた。

 

そんな姿に、提督は苦笑しながら、言葉を投げかける。

 

「・・・そうですか、残念ですね。

 今回の作戦が成功した暁には、

 陸軍から飛行場姫様へと、返礼の話があったのですが。

 新型のカメラとか。」

 

ピクリ、と飛行場姫の表情が動く。

 

「あぁ、それと、レ級殿も同様です。

 本来、カメラには多額の開発費がかかります。

 それを全て、貴女の思い通りの機材をそろえた上で、

 その資金全てを海軍で援助させていただく・・・

 手はずだったんですけどねぇ。」

 

今後はピクリ、とレ級の口元が動く。

 

「あぁ、残念ですね。

 既にカメラメーカー数社とも話をつけていたというのに。

 あぁ、全く、レ級殿と飛行場姫殿が作戦を拒否するのならば

 この話は、なかったことに・・・・。」

 

「「いや、早まらないで頂きたい提督殿。

  別に作戦に参加しないとは行っていない(わ)」」

 

残念そうに言葉を続けていた提督に、

レ級と飛行場姫は食って掛かっていた。

 

それもそうだ。先程までカメラ談義をしていたこの深海棲艦達は

お互いに、新しいカメラが欲しいのだ。

 

レ級は、カメラが壊れかけ、自分の望むレンズとカメラを。

飛行場姫は、あこがれの自分の、しかも専用品のカメラを。

 

それぞれが、本気で欲しているのである。

 

そんなさなか、まさかの軍からの支援の話。

対価としては海軍の作戦に参加するという、裏切り行為。

しかしながら、どうしたってカメラは欲しい。

 

作戦を断ろうとしていた2隻の深海棲艦の決意が揺らぐのも

しかたがないことであった。

 

「・・・ほう、それでは、参加して頂けますかな?」

 

提督は、にやりと笑みを浮かべ、レ級と飛行場姫に、問いかけていた。

レ級と飛行場姫は、お互いに顔を見合う。

そして、そのまま、小声で作戦会議を始めていた。

 

「・・・姫様、どーすんすかこれ。

 思わず声でちゃいましたけど。参加するんですか?」

 

「・・・どうしましょうか、レ級。

 流石に自由行動をしていいと命令を受けているとはいえ

 これは流石に厳しいと思うわ。でも、でもよ?

 カメラ、私にもくれるっていうじゃない!?

 何か、何かいい作戦を・・・。」

 

「確かにスゴク魅力的なんですよ。

 開発費まで出してくれるってことは、今までなかったレンズも

 私のために作ってくれるということで・・・。うひひ。

 そうですよ、姫。何か作戦を考えましょう。

 そう、深海棲艦に裏切りととられず、

 軍をうまいこと支援する方法。」

 

うーん、うーんと唸りながらも、

レ級と飛行場姫は頭をフル回転させる。

 

(水母の姫を出汁に使う?いやいやいやいや、だめよ。

 そんなことをシてしまっては、結局のところ

 横須賀鎮守府を悪者にしてしまうわけだし、それはだめよ。) 

 

(私だけならまだ「またレ級」の暴走かー!

 で済むんだけどなぁ?でも姫様もかぁ。 

 さー・・・どうしようか?)

 

その思考の速さといえば、

艦娘と戦う時よりも、しいて言えば

ソロモン海の戦いのときよりも、

さらに輪をかけて高速で考えを巡らせているのだ。

 

(・・・そうだわ、レ級を出汁に使えばいいんだわ。 

 ほかの姫達から何か聞かれたら・・・・

 いつもの「レ級が暴走した」で、そのあと

 武装した私が後ろからついていった。OK。

 少し苦しいけど、OK、OKよね。)

 

(・・・あれ?でも「またレ級」の暴走っていえば

 ほかの姫様達なんか納得しそうじゃね?

 っていうか、新しいカメラでこんな写真撮りました!

 って送り付ければ案外なんとかなるんじゃあ・・・?)

 

レ級と飛行場姫は考えがまとまったのか

同時ににやりと笑みを浮かべると、提督に向かって口を開いた。

 

「「・・・提督、カメラは確約で間違いないですか?」」

 

「えぇ、もちろんです。

 そのほかにも必要なものがあれば、

 最高の逸品を用意しましょう。」

 

提督の言葉に、飛行場姫とレ級は満面の笑みを浮かべる。

 

「・・・それなら問題ないわ。

 仕方ないわね。それなら、そう。

 善意で、善意で、作戦につき合わさせてもらうわ。」

 

「いいねぇ。私はもちろん参加だぜ。提督。

 カメラ、思う存分高いのを頼むから覚悟しとけよー?」

 

「えぇ、もちろんですとも。」

 

提督はいったん言葉を区切ると、

表情を真剣なものに切り替え、レ級と飛行場姫に口を開く。

 

「その代わり、お二人とも、確実に作戦の遂行を願います。

 我々海軍と陸軍があなた方に望むのは、

 ひとつ、深海棲艦の最も少ないルートの選定。

 ひとつ、深海棲艦がもっとも少ない日の選定。

 ひとつ、艦隊の護衛、及び偵察。

 ・・・そして最後に、有事の際は、艦娘と撤退する人員を

 一人残らず護衛し、無事に帰還せしめること。

 

 ・・・以上の事柄を完遂していただければ、我々はあなた方の望むまま

 返礼を致す次第であります。全ては、あなた方にかかっておるのです。

 

 改めて、ご協力、感謝、申し上げます。」

 

提督は深く礼をする。

 

「それにしても・・・本当によろしいのですか?

 裏切りととられると、先ほど申されてましたが。」

 

提督は体を直しながらも、神妙な顔を

飛行場姫とレ級に向けながら、口を開いていた。

その姿を見たレ級と飛行場姫は、苦笑を浮かべていた。

 

「別にいいわよ。私たちもカメラが貰えるなら善意で動くわよ。

 ま、いざとなれば、レ級が暴走したって言えばいいのよ。

 そうすれば、たいていのことはなんとかなるわよ。」

 

「なんだ、姫様も同じこと考えてましたか。

 私が暴走したっていえば、大体のことはなんとかなりますからね。

 ま、だから提督は気にすんなって。

 レ級たる私がついてんだぜ?大船に乗った気でいろって!」

 

レ級はそういうと、提督の背中をばんばんと叩いていた。

 

 

そう、つまりは、キス島、そして、

史実では全滅と相成った島であるアツ島。

この2島からの撤退作戦に、今、

深海棲艦が参加することが決定したのである。




妄想はかどりました。

レ級さん、飛行場姫様、カメラのために裏切り容認。
仕方ないですよね、趣味ですから。

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