カメ子 レ級   作:灯火011

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「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

深海の異端児である彼女は、深海棲艦にとっては必要な情報源。

では、その戦闘力、本来だったらどの程度の物なのか。少々見てみましょう。


4 深海棲艦のレ級 2

「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

 

「戦艦レ級」

と呼ばれる彼女達、もとい、深海棲艦は人類側の艦娘と同じように

定期的に演習を行っている。

意外かもしれないが、深海棲艦も意識が無いわけではないし

この戦争に勝利したいと言う意識もあるのだ。

 

特に、3カ月に一回深海の大規模演習なんていうものもある

この演習は、お互いの情報共有を行ったり、お互いの不足な部分を補うため

戦闘に参加していない深海棲艦も含めて、ほとんどの艦隊が参加する。

 

 

件のレ級も、姫の命令で演習に参加するために

というのは建前で

良い艦娘の情報が無いか、探りに来ていた。

 

演習場に向かう通路をレ級が歩いていると

 

「オシサシブリ。レ級」

 

親しげに話しかけてきたのは、知り合いのヲ級である。

 

「おぉ!お久シぶり!ヲ級!どこニいってたんダ?」

 

「ドイツ。アッチニモ艦娘ガ出テキタカラ。偵察シテタ」

 

このヲ級はレ級に新造艦の話や、どこでどの艦娘を見たよ?と情報をくれる一人である。

ヲ級は格納庫からタブレットを取り出し、ドイツの艦娘の写真と動画をレ級に見せていく。

 

「コレ。ドイツノ艦娘。キンパツデスタイルイイ方ガ戦艦。

 コッチノフラットニ近イノガ重巡洋艦。

 小サイノハ駆逐艦。ニホンノ艦娘マデトハイカナイガ、錬度ハタカイ」

 

写真をめくりながら、動画を見せつつレ級に説明していくヲ級。

そこには駆逐イ級を撃破せしてめいるドイツ艦娘の姿もあった。

 

「おぉぉおおおおオオオ・・・・ドイツの艦娘いイなぁ・・・・

 なァ、ヲ級。次私モ連れて行かないカ?」

 

レ級はその写真を見て、ドイツに行きたくなったようだ。

何せ、日本にはいない金髪である。そして、そのスタイルの良さ。

どうしても自分で撮影しなければ気が済まなくなっていたのだ。

 

キラキラと目を輝かせながら返答を待つレ級に

ヲ級は一瞬考えたあと、呆れた顔でレ級に話しかける。

 

「オ前ハ連レテイケナイ。ドウセマタ、

 ニンムホッタラカシテ写真シカトラナインダロウ?」

 

「ソんなぁ・・・楽しミが」

 

がっくりと肩を落とすレ級。

そんなレ級と肩を並べながら、ヲ級は演習場に向かうのであった。

 

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「レ級、演習ノジュンビハ問題ナイカシラ」

 

「姫。問題なイよ。実弾演習とハ聞いてなかったけどモね」

 

演習の控室。

そこには深海棲艦の最上位種の飛行場姫とレ級が並んで座っていた。

人間の尺度に合わせれば上司と部下の関係である。

 

「ソウカ、ソレデハ説明ヲオコナウ

 ・・・コンカイノ相手ハ、私トオナジ姫ダ。」

 

レ級の目を見ながら、今日の演習の項目を説明していく。

 

「レ級、オマエタチノ運用データヲモトニツクラレタ

 水母棲姫ガ、今回ノ御相手ダ。

 オマエタチ、レ級ヲコエル力を持ッテイル。

 実弾デ演習ヲ行イ、性能試験ヲ行エトイウコトダガ・・・

 正直、レ級、オマエデハニガオモイ。」

 

その顔は、少しだけ、苦渋の表情をしていた。

今回の演習は、水母棲姫の性能を試すがために、レ級は捨て駒の立場なのだ。

 

深海棲艦とはいえ、感情が無いわけではない。

部下への愛情もしかりである。

この写真を撮りまくるレ級に、飛行場姫は少なからず愛着を覚えていた。

 

「オマエガ嫌ダトイウノナラ。ワタシガ出ルコトモデキル」

 

レ級は少し考えた後、タブレットを取り出し、飛行場姫に押し付ける。

 

「飛行場姫。まタ、タブレット預けておくカら感想よろしク」

 

タブレットを押しつけられ、あっけにとられた顔で

レ級を見上げる飛行場姫に更にレ級は続ける。

 

「毎日艦娘ト遊んでいるンだ。ぽっと出てきた姫に負けるわけネーヨ」

 

そんな台詞を吐きながら、レ級は演習場へと消えていった。

 

闘技場に消える前に、飛行場姫が見たレ級の姿は

いつものカメラを持った艦娘ハスハスのレ級ではなく

目から蒼い光を滾らせ、全身からは金色のオーラを噴き出す完全武装のレ級の姿であった。

 

「戦艦レ級」 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている、深海棲艦の姿、そのものであった。

 

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演習場において、水母棲姫はレ級と対峙していた。

自分のプロトタイプ、ともいえるレ級に敬意を示しつつも

ひとひねりで勝てるものと思い込んでいた。

 

≪演習。カイシ≫

 

飛行場姫の合図とともに、お互いに水面を切っていく。

演習場はお世辞にも大きいとは言えないが

最大戦速で駆けまわっても支障が無い程度の大きさである。

 

(火力モ防御力モコチラガ上。レ級ナドトイウ旧戦艦トハチガウ

 私ノチカラ、アノレ級ヲヒネリツブシテ、他ノ姫ニミセツケルノダ)

 

内心で叫びながら、水母棲姫は艦載機の全てを頭上に放ちながら、

魚雷をレ級に向けて放っていく。

レ級も負けじと艦載機を頭上に放ちながら

魚雷を水母棲姫に向けて放っていた。

タイミングは互角、だが・・・

 

(わぁオ・・・新型の姫ってのは伊達じゃないんだナ。

 艦載機の数といい、魚雷の数トいい。負けてるじゃん)

 

レ級は内心、舌を撃ちながら対空防御を張っていく。

一機一機と確実に水母棲姫の艦載機を落としていくものの

とても防ぎきれたものではない。

数機の抜けてきた艦載機から、レ級に向けて爆弾が投下される。

 

「グフッ・・・・ヤるねぇ・・・!」

 

直撃弾。

頭部と左腕に損傷を受けたレ級は、苦悶の表情を浮かべながらも

水母棲姫をずっと見据えていた。

いつもの艦娘を撮影するときの様なニヤニヤして笑みではなく

凛とした、敵を見据えて攻略していくその姿は、宛ら艦娘のようである。

 

(こちラの艦載機と魚雷は全滅。空母棲姫ニ直撃弾なシ。厳しいナぁ。

 しかも攻撃は苛烈ナり。反撃もできなさそうダナァ)

 

水母棲姫の攻撃を避けながら、状況を冷静に見ていくレ級。

なにか対策ないかなぁと考えながらも、先の阿武隈撮影会の要領で

水母棲姫が放った弾丸を、直撃する前に素手で掴み、自身の腕力を乗せ投げ返す。

 

ガンッ!という音とともに、水母棲姫の顔面に直撃した弾丸は

そのまま水母棲姫の顔面で炸裂していく。

 

『ウッフッフ……イタイワ…レ級、ソノタチバ、ワカッテナイノネェ…!』

 

顔面から血を流しながら、壮絶な表情で叫ぶ水母棲姫。

 

「効いてルじゃないか!強がりハよくないよなァ」

 

レ級は叫びながら、次々と水母棲姫の弾丸を投げ返し、顔面に当て続けていく。

その間、レ級には砲撃によるのダメージは無い物の

水母棲姫の魚雷と航空爆雷によってダメージを確実に受けていくのであった。

 

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「スゴイデスネ。本気ノ、異端レ級ハ」

 

外から試合を見ていた、深海棲艦の誰かが呟く。

今この場には、姫級と、フラッグシップ以上の深海棲艦しかいない。

その彼女らが、あっけにとられるレベルの戦闘を、二人は続けていた。

 

「エェ。何セレ級ノ中デ唯一、<フラッグシップ改>ニ至ッタ個体デスカラ。

 ソノチカラヲ、艦娘撃破ノ為ニ、使ッテクレテイタラ

 今、コチラノ海域を闊歩スル艦娘ハ

 悉ク壊滅サセルコトガ出来テイタデショウ」

 

【異端レ級】の上司である、飛行場姫は少し誇らしげな笑みを浮かべながら

その声に答えていた。

何せ、スペック上は埋まらない差があるレ級と水母棲姫である。

誰もが、レ級がなぶり殺しにされると思っていた中

攻撃を食らいつつも、確実に水母棲姫にダメージを与える姿は、誰も想像もしていなかった。

 

「スバラシイナ、君ノ部下ハ。

 ダガ、コノママデハ殺サレルゾ」

 

その声にこたえて、他の姫が呟く。

まさにその通りである。

水母棲姫は、レ級による弾丸投げ返しが顔面に直撃しまくっているため

顔からは大量に出血しているものの、その本体や艤装には一切被害が無い。

 

対して、レ級の左腕は既に潰れ、主砲・魚雷発射管・艦載機はほぼ大破である。

残った右腕と、僅かな対空砲火で攻撃をしのいでいるだけだ。

 

「レ級ハ、コロサレルカモ、シレマセン。デスガ・・・」

 

飛行場姫は少し間を置いて

 

「意外性ト、ソノ錬度ハ改二ノ艦娘ヲモ超エマス。 

 ナンダカンダ、カッテシマウト、思イマスヨ」

 

その場の全員に対して、笑顔で言い放った。

 

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水母棲姫は焦っていた。

 

演習開始から1時間。未だレ級は沈まない。

艤装は大破、全身からは血が流れ、左腕ももう動いていない。

何時沈んでもおかしくないレ級が水母棲姫の目には映っていた。

 

(マダ・・マダ沈マナイノカ)

 

それどころか、満身創痍の状態であるにも関わらず、

完全にこちらの爆撃、雷撃、砲撃を避けている。

逆に水母棲姫は、弾丸を確実に投げ返され、顔面は血だらけで

右目が潰されつつあった。

 

『チョコマカト・・・沈ンデシマエ・・・ホォーラ!』

 

その焦りからか、水母棲姫はレ級に向けて一斉射撃を行っていた。

全ての主砲から、魚雷発射管から、戦闘機から、レ級を殺すために

殺意が吐き出された。

 

その威力は凄まじく、レ級の立っていた場所が余すところなく爆風に巻き込まれ

衝撃波が演習場の外野にまで届くほどである。

 

誰もがレ級の敗北、死亡を確信する程度の爆発。

もちろん、それは水母棲姫も同じであった。

 

『フフ・・・カッタワネ・・・』

 

ついに獲物を捉えた。その喜びから、勝利を確信して気を抜く水母棲姫。

これで自分の性能が証明された。水母棲姫がそう思った次の瞬間。

 

ドゴンッ

 

という、船と船がぶつかった様な音と共に、視界が暗転し

気付けば、演習場の壁に艤装と体がめり込んでいた。

 

『ナ・・・ナニガ・・・・』

 

水母棲姫は訳も分からす、壁にめり込んだまま周囲を見渡していく。

すると、元々自分が立っていた位置に、レ級が佇んでいた。

そして、レ級は、一歩一歩。水母棲姫の方に歩みを進める。

 

「ぽっと出ノ姫サマ。甘イ甘ァイ」

 

ジャブ、ジャブと、一歩一歩確実に水母棲姫の方に向かっていく

全身を自身の血で染め、左腕が捥げかけ、武装を全て潰されているはずのレ級。

だが、その全身からは金色のオーラが揺らめき、目には蒼い火が灯っている。

 

(アレ・・ハ・・・マズイ・・・)

 

レ級を迎撃しようと、体を動かそうとする水母棲姫であったが、

何をされたのか、体は一切動かない。

 

(ナニガ・・・・オキテイル・・)

 

体と艤装の状態を確認しようとしていた時

ジャブ、とレ級の足音が不意に止まる。

水母棲姫がそれに気付き、意識を眼前に向けると

目の前にオーラをはためかせたレ級が立っていた。

そして、水母棲姫に顔を近づけ、囁くように喋り始めた。

 

「甘い、甘い。艦娘はあの砲撃を食らってモ。水母棲姫様。貴方に楯突く。

 これが演習でハなく、実戦だったら、水母棲姫様は、死んデいます。」

 

『ナ・・ニ・・・ヲ」

 

「今回ハ、私で性能を試す、ということデスネ。

 ソレデアレバ。覚えておいテ下さい」

 

そして、レ級は一歩下がり、拳を握りしめて、右腕を天高く上げ

 

「慢心と油断を捨て、目を覚まして艦娘と戦え水母棲姫様ァ!」

 

叫ぶと共に、水母棲姫の顔面に拳をたたき込むのであった

 

 

≪演習終了・・・・勝者、レ級!≫

 

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その後、レ級は緊急でドックに担ぎ込まれた。

何せ、大破判定、轟沈寸前である。

 

そして、その隣には飛行場姫が寄り添っていた。

 

「姫。勝てタよ。」

 

「御苦労、レ級。ヨクイキテ帰ッテキタナ」

 

ニヤニヤと声をかけてきたレ級に、あきれ顔で返す飛行場姫。

 

「ソレニシテモ、良クカテタナ。特ニ最後ダ。

 水母棲姫ノ一斉射撃ヲドウカワシタンダ?」

 

そう、飛行場姫ですら見抜けなかった、レ級の最後の動き。

水母棲姫の一斉射撃からの流れるような逆転劇。

飛行場姫だったら防御してやり過ごすことができるが、

レ級ではそれが出来ない。出来る装甲が無いのだ。

 

レ級はニコニコしながら、飛行場姫の質問に答える。

 

「あイツの右目を潰したんですヨ」

 

ほぅ、と飛行場姫は相槌を打つ

 

「こちらの主砲を何発カ当てたんデスが、今一つ効果がナカったんで

 水母棲姫の弾丸を右目にアテ続けて、視力を奪ってミタんダ。

 そうしたら、水母棲姫が一斉射撃してきたから、水面下に一瞬潜って

 攻撃かわしながら、水母棲姫の死角の右目の視認範囲カラ様子をうかがってタ。

 そしたら、何か油断してる用だっタから、

 最大戦速でツッコンデ、全力で殴っタだけですヨ。うまくいってよかったよかった」

 

ニコニコと、レ級は自慢するように喋っていた。

反面、飛行場姫は驚愕する。

基本的に深海棲艦は、己の力を過信して戦闘に挑む。

それ故に、自分の武装しか使わないし、叶わない相手でも正面から挑んでいく。

作戦はあれど、戦略などあったものではないし、ましてや逃げの一手なども打たない。

 

それがこのレ級はどうだ、自分の武装が効かないと判るや否や

相手の武装を利用、そして、一斉砲撃で自分が危ないと見るや

逃げの一手を打ち、そして反撃に転じると言う戦略を使って見せたのだ。

 

このレ級は、私の遥か上位の存在ではないか、という考えが飛行場姫の中に浮かんでくる。

 

「運ガヨカッタナ。マァ、貴様ハヨクヤッタ。コノ演習ノ結果ニヨリ

 ヨリ強力トナッタ水母棲姫ガ戦場ニ出ル。今ハ休メ」

 

・・・とはいえ、この馬鹿な部下は、生き残ってくれたのだ。

ひとまずは、ねぎらいの言葉でもかけておこうか。

そう納得し、飛行場姫はこの場を後にするのであった。

 

なお、余談ではあるが、飛行場姫のお気に入りの写真は、先の夜戦で撮影した、

阿武隈濡れスケ写真だったようだ。

 

 

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「無茶シたなぁ。

 姫ももうちょっト早く実弾演習って言ってクれてればよかったのニ・・・・」

 

レ級は飛行場姫が去ったあと、自身の動かない左腕を見ながら一人ぼやいていた。

何せ、暫くは艦娘の写真撮影に、支障が出るのである。

いくらレ級とはいえ、片手で一眼レフを構えて「ブレ」ない写真を撮るのは難しい。

 

「うーん・・・仕方ナい、暫くハ・・・っと・・・」

 

ごそごそと、格納庫からあるものを取り出すレ級

 

「コノ、ミラーレスの一眼レフで我慢するカァ・・・手ぶれ補正強力ダシ」

 

ハァ、とため息を出すレ級の手元では

『一切ブレのない、右目を潰され、

 血を流しながらも一斉砲撃する水母棲姫の写真』が

ミラーレス一眼カメラのディスプレイに表示されていた。

 

そう、このレ級、あの実弾演習の中でも撮影してたのである。

その数たるや、数枚というレベルではない。

撮影した水母棲姫の写真を次々と眺めながら、

 

「ソレニシテモ・・・水母棲姫も良イ顔してるなァ。

 そういえば、姫様達の戦闘風景って、撮影したコト、ナイナァ」

 

ニヤニヤと笑いながら、一人、ドックで呟くレ級であった。




妄想、滾りました。

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