カメ子 レ級   作:灯火011

38 / 55
コミックマーケットでイ級を轟沈せしめるという大正義をやらかし、一般人に知られることとなった、カメラを持った戦わない深海棲艦「戦艦レ級フラッグシップ改」。

そんな彼女のカメラですが、そろそろガタが来たようです。


120 レ級 カメラの更新①

横須賀鎮守府の会見から数日後。

件のレ級、レ級フラッグシップ改、カメラのレ級は、

いつものように、横須賀の自室でのんびりと

カメラの手入れを行っていた。

 

「んー、随分塗装が剥がれてきたなぁ。

 自分でメンテするのも、限界かなぁ?」

 

呟くレ級の手元には、確かに各所の塗装が剥がれ、

ところどころ、部品がかけ始めているカメラが握られていた。

 

というのも、装備品として認識するカメラではあるが

艤装が定期的に、オーバーホールを要する整備点検が必要なように

カメラについても、定期的なオーバーホールが必要なのだ。

 

「にしても・・・。我ながら随分使い込んだんだなぁ。」

 

レ級は6台のカメラを眺めながら、ぼそりと呟いていた。

 

特に、「70-200 F2.8ズームレンズ」をつけたカメラは

頻繁に撮影に利用しているためか、撮影には影響がないものの、

レンズそのものにも傷が入り、修復剤程度では直せない程度にまで、損傷を負っていた。

 

「んー、これは・・・出る絵には関係ないけど、カメラの耐久値的にもうぎりぎりかなぁ・・・。

 修理するっても、明石に頼んで出来ることなのかな。うーん・・・。

 でも、明石はカメラは専門外って言ってたし、どうしようかな?」

 

レ級はカメラを持ったまま考えていた。

すると、レ級の脳裏に、一人の人物が浮かび上がったのである。

 

「・・・・そうだ、提督殿に相談してみよう。もともとこのカメラ、海軍のだしなー。」

 

レ級はそう言うと、手早くカメラをホルスターに仕舞う。

そして、足早に、自室を後にするのであった。

 

 

「・・・カメラを直したい?」

 

執務室で書類整理を行っていた提督は、レ級の言葉に、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「そーなんだよ、提督殿。修復剤でも治らなくなってきてさー。

 提督のツテとかで、精機光学研究所でオーバーホールとかシてもらえないかなーってさ。」

 

レ級はそんな提督に、笑顔を向けながら口を開いていた。

もちろん、片手には、傷ついたカメラを掲げている。

 

「精機光学研究所ですか、確かにツテはありますがね。

 レ級、一度、カメラを見せてもらっていいですか? 

 損傷度合いだけでも、確認しておきたいので。」

 

「ん、いいぜ。実際見てもらえば、限界が近いってわかるだろうし。」

 

レ級はそう言うと、カメラを提督に渡していた。

カメラを受け取った提督は、カメラを上下左右、様々な方向から観察する。

 

(なるほど確かに。随分コレは使い込んでありますね。

 ダイヤルに一部欠け、液晶モニターも少々不良、ですか。

 あぁ、しかもレンズに大きなキズが入っていますね。

 これは・・・精機光学研究所でも治すのは少々辛いのでは・・・)

 

提督は一旦視線をカメラから外し、レ級を見ながら、口を開く。

 

「これはなかなかダメージが大きいですね。

 そういえば、明石には相談をしてみましたか?」

 

レ級は頭をかきながら、提督に対して、苦笑を浮かべながら、口を開く。

 

「いんや。でも、明石はカメラは専門外だし、持ち込んでも直せないっていってたからさ。

 ここに持ってきた、ってわけ。」

 

「なるほど、納得です。それにしても、ここまで損傷がひどかったとは。

 確か、昨日も撮影してましたよね。全く気が付きませんでしたよ。

 装備品だからといって、油断できぬものですね。」

 

提督はそう言いながら、カメラをレ級に返していた。

レ級はカメラを受け取りながら、苦笑を浮かべていた。

 

「だよなぁ。私も気づいたのは今日だよ。

 いっつも修復剤で直してたけど、今日に限っては、損傷がそのままでさ。」

 

レ級はそういうと、一旦言葉を区切り、そして、改めて提督を見る。

 

「つーかさ。本当だったら、カメラなんて私の趣味だからさ。

 わざわざ提督とかの世話になりたくはないんだけどね。

 でも、写真を撮れなくなる方が私にとっては我慢ならないし。」

 

レ級は恥ずかしそうに、顔をぽりぽりとかいていた。

提督はそんなレ級を見ると、笑顔で口を開いていた。

 

「はは、お気になさらずに。

 それに、今は非常に良いタイミングですよ。

 修理のためにはどうしても外に出向かねばならない。

 でも、カメラに詳しくないものが行っても、問題しかないですし。

 ほら、カメラに一番詳しいレ級殿は一般公開され、

 大手を振って外に出れるわけですからね。」

 

提督は一旦言葉を区切ると、レ級を見ながら、人差し指を立てていた。

 

「で、レ級殿。一つ、提督としての、私からの意見です。

 レ級殿のカメラについてですが、正直、治すのは難しいと思います。」

 

「えっ、そうなの?海軍の特注品じゃないの?これ。」

 

「えぇ、特注品です。だからこそ、ですよ。

 民生品と違って、特注の部品を使ったカメラなんです。

 だから、修理といっても、部品がない可能性が大きいのです。」

 

更に、と提督はレ級を見ながら言葉を続ける。

 

「レ級殿が会見でカメラを見せてから、

 民生機の同型機である1DXが品切れが続いている、と精機光学研究所が発表していましてね。

 民生品から部品を流用しようにも、

 今現在、軍部向けの1DXですら発注できない状態なんですよ。」

 

そう、カメラを持ったレ級の影響は、殊の外大きかったのだ。

人間を守った深海棲艦が持っていたカメラ。

海軍の特注品だが、元となったのは精機光学研究所のカメラである。

会見後、民生品のカメラが、飛ぶように売れていたのである。

今も昔も、有名人と同じものを持ちたいという人間の心理は、変わらないようだ。

 

レ級は苦笑を浮かべると、提督を見ながら、ゆっくりと口を開いていた。

 

「そっかぁ。修理難しいかぁ。それなら仕方ないかなぁ。

 壊れるまで使って、どうしてもダメならニコイチにして使っていくことにするよ。」

 

レ級はそう言うと、提督室をあとにしようと、体の向きを変えていた。

だが、提督は、そんなレ級に、笑顔で言葉を投げていた。

 

「いえいえ、レ級殿。修理はできませんが、一つ、ご提案があるんです。」

 

提督の言葉に、レ級は不思議そうな表情を浮かべつつ、提督に視線を向けていた。

 

「提案?」

 

提督はレ級を見つつ、身振り手振りを加えながら、口を開く。

 

「えぇ、修理は確かに難しい。ですが、精機光学研究所に依頼して

 海軍の特注品のカメラを改めて仕立てることは、可能です。」

 

「えっ。・・・本当!?」

 

レ級はそう叫ぶと、提督を見たまま、固まっていた。

提督は苦笑を浮かべつつ、レ級に口を開く。

 

「本当です。まぁ、本来は青葉用となるはずだったんですが

 青葉本人が途中から『フィルムこそ写真なんです!』と言って、

 頓挫していたデジタルカメラの計画があったんですよ。

 ある程度ペーパープランは出来上がっていますので

 あとはレ級殿のお好きに手を加えてもらって構いませんよ。」 

 

レ級は提督の言葉に、満面の笑みを浮かべていた。

 

「お、おぉ!そうかっ。ありがとう、提督殿!

 で、早速なんだけど、そのペーパープランって、見せてもらっていい!?」

 

「えぇ、もちろんですよ。

 ・・・・とと、ありました、これです。

 草案は青葉ですので、おそらくレ級殿のご期待に添えるかと」

 

提督はそういうと、机の引き出しから、

数枚の紙束を取り出し、レ級に手渡していた。

レ級は紙束を一枚一枚めくりながら、ゆっくりと目を通していく。

 

『発 横須賀鎮守府  宛 精機光学研究所

 

 以前作成された、艦娘用デジタルカメラの後続機を依頼したい。

 おおまかな仕様は以下とする。

 

 以前のカメラよりも高画素、高レスポンス。

 現在の使用状況を鑑みるに、強度を増されたし。

 レンズは以前ものと同等で可能。ただし、強度を増されたし。

 ストロボも以前と同様で可能。同様に、強度を増されたし。

 

 各種詳細は次ページ。

 

 

 ◆1 カメラ本体について。

 マウントは精機光学研究所マウント。民生品と形状は同様で可能。

 ただし、強度と信号伝達速度は強化すること。

 更に、夜戦時でも撮影可能なように、高ISO時のノイズ低減を求む。

 その他にも、防水性や防塵性を持たせた一眼レフタイプを望む。

 なお、ローパスフィルターは、ONとOFFを選択可能に・・・・・・略』 

 

 

一通り目を通したレ級は、満面の笑みで、提督に口を開いていた。

 

「・・・いいねぇ!これっ!流石青葉!わかってるなぁ。

 ノイズ低減はいいなぁ。夜戦でもストロボ使わずに撮りやすくなるし!

 何より、月明かりで砲撃を行う艦娘って最高じゃん!

 ・・・ただ、まだちょっと足りないなぁ。」

 

レ級は仕様書を見ながら、首を傾げていた。

提督はそんなレ級を見ると、不思議そうな表情を浮かべる。

 

「ほう、足りない、ですか?」

 

そして、レ級は提督に人差し指を立てつつ、口を開く。

 

「うん。っていうのもさ、6つのカメラに6つのレンズっていうのがおかしいと思うんだ。

 せっかくのレンズ交換式カメラなんだから、カメラの個数以上にレンズを作って欲しいなぁって。」

 

提督は納得したように、手を合わせていた。そして、レ級に視線を向ける。

 

「あぁ、確かに。であれば、レ級殿が望むレンズを追加してみてください。

 予算との兼ね合いがありますが、可能な限り、レンズも作らせますから。」

 

「おっ、いいのかい、提督殿。」

 

レ級は意外そうな表情を、提督に向ける。

提督はにやりと笑みを作ると、ゆっくりと口を開いていた。

 

「えぇ、いつも良い写真を撮ってくれているお礼ですよ。

 ま、決まったら書類を持ってきください。

 今のところ会見の予定とかはありませんから、

 どうぞごゆっくり考えてください。」

 

「おうよー。っていうか、最初の会見以来、私表に出てないけど、本当にいいのかな?」

 

「えぇ、いいんですよ。オファーは多数ありますが、その殆どがキナ臭いですからね。

 もうしばらく様子を見て、大本営で許可が出たオファーに、レ級殿は出ていただきますから。」

 

「ん、そういうことならいいかなー。っと、それじゃあ私は自室に戻るね。

 提督殿!ありがとなー!」

 

「いえいえ、お気になさらずに。また後ほど。」

 

レ級は提督に手をふると、足早に、提督室を後にするのであった。

 

 

早速自室に戻ってきたレ級は、机に向き合いながら、

自分の理想のカメラと、レンズを考えていた。

 

「そうだなぁ・・・別に、今のカメラでも満足なんだよなぁ。

 少し物足りなかったカメラの強度と、

 ISO感度のノイズ低減については、草案でも書いてあるし・・・。」

 

レ級は自身の鼻にペンを器用に乗せながら、真剣にカメラの仕様を考えていた。

 

「基本的な構成としちゃあ、本体6台に、レンズ6台だろぉ?

 レンズはズーム3本に、単焦点3本。ここまでは基本形として・・・。」

 

トントン、と机にある草案を、ペンの後ろで叩きつつ、思案を続ける。

 

「ズームレンズはもちろん、広角、標準、望遠の2,8通しレンズで・・・。

 単焦点に関しては、F1.4かF1.2通しの24,50,85だろぉ?

 あ、でも・・・24を35にしてもいいか。悩むな・・・。」

 

ノートには、24or35、と走り書きがされている。

実際、レンズを選ぶときに、迷う焦点距離だ。

 

「で、レンズの設計は完全に新設計にしてもらって・・と。

 あとストロボは今よりも光量を増してもらって、チャージ時間を短くしてもらって、だ。

 ・・・追加レンズはどうしようかな?」

 

レ級は動きを止め、考え込んでいた。

というのも、レンズは非常に千差万別である。

近距離を撮影できる「マクロレンズ」

広角を更に広角に撮す「魚眼レンズ」

高層ビルなどを撮影する際、歪みを軽減させる「TS-Eレンズ」

比較的人間の目よりも広く撮影することが出来る「広角レンズ」

比較的人間の目に近い撮影が行える「標準レンズ」

人間の目よりも遠くのものが大きく写る「望遠レンズ」

そして、地上から月の表面を撮影することも可能な「超望遠レンズ」

 

などなど、一口にレンズといっても多数の種類があるのだ。

 

更に、その中にはグレードが有り、最上位グレードになればなるほど

ピントの速度、正確さ、そして移り方が上がっていくのである。

 

人、これをレンズ沼、という。

 

「そうだなあ・・・あ、そっか、これで単焦点をまずは・・・

 1,2通しで24,35,50、85、100、180って作ってもらえばいいか。

 で、100ミリと180ミリのレンズはマクロ仕様にしてもらって・・・。」

 

レ級の妄想は止まらない。人間の価値で言えば、間違いなく、

レンズ一本で数十万はくだらない代物である。下手をすれば一本100万超えだ。

そんなこととは露知らず、レ級は引続き、脳内の妄想を、紙に書き出していた。

 

「と、なると、あとはズームレンズか。

 まー、順当に11-24,24-70,70-200でF2.8通しがあればいうこと無いよなぁ。

 ・・・出来れば200-400のもほしいけれど、F2.8通しって作れるのかな・・・?」

 

レ級は次々にノートに、「ほしいレンズ規格」を書いていく。

その中には、カメラマンの憧れである300ミリF2.8、通称サンニッパ、

そして、400ミリF2.8のヨンニッパレンズも、入っていた。

 

「・・・まー、こんなもんかな?

 あとは、うーん。あ、そうだ。青葉が遠征から戻ってきたら相談するかぁ。

 一人で考えてても、どっか見落としがあるだろうし。」

 

レ級はそう言うと、机から離れ、そのままの姿で、部屋で横になる。

 

「うーん、それにしても、新しいカメラかぁ。わくわくするなぁ・・・!

 あ、でも待てよ、レンズ増えるってことは、レンズポーチも必要だよなぁ。

 ・・・おっ!そっか、これも依頼しておけばいいのか!」

 

満面の笑みで、呟くレ級。

自分が深海棲艦であることなど、全くもって、気にしていない様子であった。

 

 

 

一方その頃。水母棲姫と加賀、そして菊月はというと。

 

『・・・・・くふふふふ』

 

『ね?面白いでしょぉ?』

 

『あぁ、面白い・・・これは、面白いぞ・・・!

 ・・・そうか、皐月か、悪くない。』

 

『・・・菊月も本の良さが判るようになったのですね。

 なるほど、そうきましたか。気分が高揚します。』

 

事実だけを述べるとすれば、会見から数日たった今日、

加賀と菊月は自分の意志で、連日、水母棲姫の部屋に入り浸っている。




妄想捗りました。新たな武器を手に入ることが確定し、より一掃気合の入るレ級さん。
そして、腐海に轟沈させられた菊月(武勲艦)。なんぞこれ。

誤字修正致しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。