カメ子 レ級   作:灯火011

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コミックマーケットでイ級を轟沈せしめるという大正義をやらかし、一般人に知られることとなった、カメラを持った戦わない深海棲艦「戦艦レ級フラッグシップ改」。

そんな噂を聞きつけた記者達が、横須賀鎮守府に集まるようです。


人類交流記
118 レ級 一般公開


横須賀鎮守府。

 

 関東地方の南部に位置する、海軍の最大拠点の一つである。

数多くの練度の高い艦娘が集まり、それに付随して、運営能力のある人間が多数所属している場所である。そして、横須賀鎮守府の臨時記者会見室の壇上には、提督と秘書艦娘である大和が立っており、会見室には、所狭しと多くの記者が詰め込まれていた。

 

「さて、本日記者の皆様にお集まりいただいたのは、他でもありません。先日ご連絡致しました通り、有明でイ級を轟沈せしめた、深海棲艦の情報を開示致します。なお、こちらの説明が終わるまでは、質問等は受け付けませんので、どうかひとつ、お静かにお願い致します。」

 

提督はそう言うと、記者たちを一瞥する。

そして、記者たちから何も異論がないことを確認すると、少し笑みを浮かべつつ口を開き始めていた。

 

「ご協力を感謝致します。それではまず最初に、有明という近場まで深海棲艦を侵入させてしまった事に対しましては、謝罪を申し上げます。」

 

提督と大和は、深くお辞儀を行う。記者達は、批判するわけでもなく、その姿を静かに見守っていた。そしてしばらくの沈黙の後、提督と大和は姿勢を正し、記者たちを見据えながら、口を開く。

 

「・・・さて、それでは改めまして、知らぬ方は居ないとは思われますが、改めて概要をお話させて頂きます。

 先日、有明にあります国際展示場に、深海棲艦の駆逐艦、イ級が現れ、国際展示場の駐車場に砲撃を加えた事象は、まだ皆様の記憶に新しいかと思います。」

 

記者たちは提督の言葉を聞いて、全員が頷いていた。

ここ数日は有明の国際展示場が深海棲艦からの攻撃を受けた、と、テレビで、ラジヲで、新聞で、報道が繰り返されているのだ。

 

「皆様御存知のようですね。

 ・・・さて、急に深海棲艦が現れ、そして人間を攻撃する。これは今まで通りの事象であります。ですが、今回の事象に置きましては、前例のない事態が起きたのであります。大和、スクリーンに写真を。」

 

提督の隣に控えていた大和は、スクリーンを天井から引き伸ばし、プロジェクターを起動させる。そして、プロジェクターに、一枚のネガフィルムを置いたのである。

 

『おおっ・・・!?』

 

スクリーンに映し出される写真を見た記者たちは、思わず驚愕の声を上げていた。

 

「皆様、スクリーンの写真が見えますでしょうか?後方の記者様も・・・大丈夫のようですね。それでは、説明を続けさせていただきます。」

 

提督はポケットから伸縮式の指示棒を取り出すと、写真に映るパーカー姿が特徴的な深海棲艦の顔を指していた。

 

「この深海棲艦が、驚く事に、国際展示場に砲撃を行った駆逐イ級を一瞬で轟沈せしめたのです。つまるところ、深海棲艦が人間を守る、という、前代未聞の事象が発生したのであります。」

 

提督がそこまで説明したところで、我慢できなくなったのか一人の記者が大声で叫び声を上げていた。

 

『提督殿!○○新聞ですが、その深海棲艦についての情報は・・・!』

 

提督は落ち着いた態度のままで、記者を静止する。

 

「最初に申し上げました通り、深海棲艦の情報を開示致しますので、今しばらく説明にお付き合い下さい。混乱を招きますので、質問は最後に受け付けます。」

 

『承知しました・・・。』

 

記者はそう呟きながら、提督を期待の眼差しで見つめていた。

 

「さて、今の記者様の質問でありましたが、これから人類を守った深海棲艦の情報を開示していきたいと思います。」

 

提督がそう言うと、スクリーンに写っていた写真が入れかわる。そこには、カメラを抱えた深海棲艦が写っていた。

 

『・・・カメラ・・?』

 

記者の一人が呟く。それに合わせて、他の記者達もなんとも言えない表情を浮かべつつ、隣の記者達と話を始めていた。

 

『先日公開された深海棲艦とは随分違うな・・・これは、カメラをかかえているのか?』

『深海棲艦がカメラ・・・?』

『しかも船としての武装が一切無いぞ。海軍のいたずらか何か、か?』

 

ガヤガヤと記者達の雑音が大きくなっていく。

 

「少々お静かに願います。・・・それでは説明を続けさせていただきます。

 この写真については、駆逐イ級が砲撃をした同日に国際展示場で開催されていました「コミックマーケット」で撮影された一枚です。ご覧のとおり、武装はなく、カメラのみを所持しています。」

 

提督は一度言葉を切ると、水を口に含み、喉を潤す。

 

「この深海棲艦は、我が横須賀鎮守府所属の艦娘とコミックマーケットに出店、そしていわゆるコスプレイヤーとして、このイベントを楽しんでいました。・・・そして、事情聴取を海軍で行った所によりますと、『祭りを邪魔された。だから蹴り飛ばした』と、言う理由で、人間を守った、とのことです。」

 

提督から発せられた非常識な言葉に、記者達は何も言えず、驚愕の表情を浮かべたまま、完全に硬直していた。だが、記者の一人が、大声を上げ、提督に食って掛かっていった。

 

『ちょ、ちょっと待って下さい提督殿!人類を攻撃せしめ、シーレーンを破壊し、生活を壊す全人類の敵。そんな深海棲艦が、人類を守っただけではなく「コミックマーケット」に艦娘と一緒に参加していたという話なのですか!?その場合、海軍とこの深海棲艦は、以前より繋がりがあったということですか!?』

 

提督は冷静に記者を見つめ、口を開く。

 

「えぇ、その通りであります。穏健派、と言うべき深海棲艦とは、公開はしていませんでしたが、以前より交流があったことは確かです。・・・大和。」

 

提督がそう言うと、大和はプロジェクターの写真を入れ替える。そこには、提督室でくつろぐ飛行場姫と、バイト先で働く北方棲姫の姿が映し出されていた。

 

「こちらの写真は、深海棲艦の最大の敵と位置づけていた、姫級と呼ばれる艦達です。現在、横須賀鎮守府にて鹵獲という形をとっていますが、敵対する意志は全く見て取れません。」

 

『なっ・・・提督殿、それはつまり!海軍は以前より、深海棲艦を鹵獲していたということですか!?しかも、最上級の深海棲艦を!?さらに、その鹵獲した、横須賀にいる深海棲艦は、全く敵意がない、と申すのですか!?』

 

一人の記者が大声をあげていた。他の記者達は驚愕の表情を浮かべ、固まったままである。

 

「えぇ、その通りであります。そして、恐らくでは有りますが、今の話が全く信じられない、という記者様も数多く居ることでしょう。

 ・・・と、いうことで、今回の会見には、とあるゲストを呼んでおります。」

 

提督は記者達に向けて、にやり、と良い笑みを作っていた。その笑みを見て、記者達は「まさか」と顔をひきつらせる。

 

『提督殿・・・・まさか、とは思いますが。写真の深海棲艦がゲスト、という馬鹿げた話では、ないですよね?』

 

「流石記者様です。勘が鋭い。それでは、ゲストをお呼びいたします。『飛行場姫』、『北方棲姫』、そして有明の海を深海棲艦から守った深海棲艦、『戦艦レ級』の三隻です。」

 

提督がそう言うと、大和が会見室の扉を開く。

そして、扉が開いた先には、白い肌、赤い瞳を持つ、艦娘とよく似た艦が3隻、にやりと笑みを浮かべて佇んでいた。

 

 

提督たちが会見をする裏で、飛行場姫、北方棲姫、戦艦レ級は、緊張した面持ちで「お披露目」の準備を整えていた。

 

「姫様方、ほんと、すいません、気づいたら姫様も巻き込んで会見することに・・・。」

 

戦艦レ級は、カメラを持ったいつもの姿で、飛行場姫と北方棲姫に声をかけていた。ただし、その表情は、自身のせいで姫まで人間の前に姿を表さなくてはいけないという落ち度からか、落ち込んだ表情である。

 

「別にいいっていったじゃない。私も人間が嫌いというわけじゃないし。それよりも、これから横須賀の街の外にも行ける、っていうのが魅力的じゃない?ねぇ、北方棲姫。」

 

「うん!カメラも買ったから、早く外で撮りたい!レ級、気にしちゃ駄目だよ!」

 

落ち込むレ級とは一転、飛行場姫と北方棲姫は、共に艤装は付けず、カメラを持ちながら談笑を続ける。

 

「それにしても飛行場姫。よかったの?この会見出ちゃったら、深海棲艦から裏切りと思われるかもしれないよ?」

 

「そうねぇ、そうかもしれないわねぇ。でも、それは北方棲姫、貴女も一緒じゃないの。貴女こそ良かったのかしら。あなたは全く私達と関係ないのよ?」

 

北方棲姫は飛行場姫の言葉を受けて、一瞬腕を組んで考えこむ、が、すぐに顔をあげると、レ級を見ながら笑顔で口を開いていた。

 

「北で艦娘を倒すよりは、今みんなで騒げるほうが楽しいから、私はいいの!」

 

「そ。ま、貴方がそれでいいなら私は何も言わないわよ。私も今の生活が楽しいから続けてるだけだもの。別に深海棲艦の敵になったわけでもないし、気が向いたら海に戻るだけだもの。だからほら、レ級、そんなに落ち込んじゃだめよ。」

 

飛行場姫は笑顔でレ級の背中を叩く。レ級は飛行場姫に背中を叩かれながら、少しづつ、姿勢を正していた。

 

「そうですかぁ。お二人がそう言うなら、気が楽なんですけどねー。そういえば飛行場姫様。提督から段取りって聞いてます?私はここで立ってろぐらいしか言われていないのですが。」

 

レ級はいつもの調子で、飛行場姫に問を投げていた。飛行場姫はうーん、と首をかしげながら、ゆっくりと口を開く。

 

「私も特に聞いてないわね。記者たちが会見場に入ったら、部屋の扉の前で3隻で待機しててくれ、としか言われてないわね。北方棲姫もそうでしょ?」

 

「うん。私も呼び出されてまっててくれーって言われただけだよ。」

 

3人は部屋の前で首をかしげていた。艦娘と深海棲艦側で全く打ち合わせが行われていなかったのだ。この状況にレ級は、呆れ顔を浮かべつつ、呟く。

 

「あらー。じゃあこれから何が起こるか知らずに、私達はここにいるってことですねー。」

 

「そうなるわね。ま、でも、私達はそのぐらいで良いんじゃないかしら。深海棲艦のくせして艦娘と人間と仲良くやれちゃう存在なんて、人間からしてみれば異端も異端でしょうからね。下手に段取りするよりも、行き当たりばったりで行動したほうが良い、とでも提督殿は思ったんじゃないかしら。」

 

「・・・そんなもんですかねぇ。まぁでも、私達のような深海棲艦はなかなか居ませんよね。他の鎮守府にでも誰かいないかなぁ・・・。」

 

レ級は手を顎に当てながら、ぼそぼそと呟いていた。そんなレ級を見ながら、飛行場姫は、笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「ふふ。秘匿してるだけで、私達みたいなのが案外他の鎮守府に居るかもしれないわよ?確か別のレ級で、酒を飲んでるレ級がいたでしょう。アレなんかはタイミング次第で交流始めるんじゃないかしら?」

 

「・・・あぁー!港湾棲姫様の所のよっぱかぁ!確かにあいつならやりそうですね。人間艦娘ところかまわず引っ掻き回して酒飲んでそうだなぁ。」

 

「でしょう?港湾棲姫もあれで艦娘にそんなに執着してないしね。気づけば私達みたいに、どこかの鎮守府にお世話になっているかもしれないわよ。」

 

飛行場姫はそう言うと、頭の中で、常に艦娘に「来るな」と、めんどくさそうにつぶやいている白い深海棲艦の姫を思い浮かべていた。そんな姫が、人間と酒を酌み交わす光景。

 

(おもしろそうね。)

 

飛行場費は、そう考えると、穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ま、この記者会見は全国放送だって言う話だし、もしかしたら、私達と同じような深海棲艦が横須賀に集まるかもしれないわよ。だからね、レ級。」

 

飛行場姫はレ級を見据えると、ゆっくりと口を開く。

 

「この会見しっかりやりなさいね。私達も出るけれど、主役は貴方なのだから。ね?」

 

「うっへぇ・・・。すさまじいプレッシャーですよそれー。っていうか、本当にヨッパが見てたとしたら・・・。下手に失敗したら、間違いなくヨッパの酒の肴だな・・・。」

 

レ級は一つ大きくため息をつく。そんなレ級を見て、北方棲姫と飛行場姫はクスクスと笑っていた。丁度その時である。

 

『流石記者様です。勘が鋭い。それでは、ゲストをお呼びいたします。『飛行場姫』、『北方棲姫』、そして有明の海を深海棲艦から守った深海棲艦、『戦艦レ級』の三隻です。』

 

どうやら、レ級達のお披露目のタイミングが来たらしい。扉が少し開く。その隙間から、大和が視線を送っていた。

 

「皆様、いけますか?」

 

北方棲姫と飛行場姫、そして戦艦レ級フラッグシップは、お互いに顔を見る。そして、お互いにアイコンタクトをすると、ニヤリと不敵に笑みを作る。

 

「あぁ、いけるぜー。」

 

「私も大丈夫!」

 

「ふふ、私も大丈夫よ。大和。ま、私達はいつも通り行かせていただくわね。」

 

大和は深海棲艦3隻の言葉を聞くと、扉をゆっくりと開放していく。そしてそのさなか、飛行場姫が密かに、レ級に声をかけていた。

 

「レ級、ここからまた、新しい一歩よ。今回の会見で、深海棲艦と人間がどうなるかは判らないけれど、レ級。貴女は貴女のやりたい事をしなさい。前にもいったけど、全責任は私が持つわ。」

 

「・・・了解。感謝します。それにしても、他の姫や深海棲艦がコレを知ったら、私達裏切り者になりますかねー。」

 

「あぁ、他の深海棲艦の事は気にしないでいいからね。北方には伝えてないけれど、これは他の姫も納得の上よ。」

 

レ級は驚きのあまり、飛行場姫の顔を見つめていた。

 

「な、なんで他の姫が納得してるんですか?」

 

「貴女が撮影したコスプレ写真、偵察のイ級に渡してたのだけど、南方棲戦姫を始めとした姫たちが気に入ってたわよ。もっと撮影してこい、ってね。」

 

「・・・えー!?ってことは、もしかして前の艦娘撮影がバレた時みたいに、何か条件、ついてます?」

 

「ご名答。ちゃんと表向きの命令も来てるから安心なさい。『飛行場姫及び北方棲姫、そしてレ級は人類の生態の解明をスベシ』ってね。」

 

飛行場姫はニヤリと笑みを作る。レ級は少し呆けた顔をするも、次の瞬間、同じように笑みを浮かべていた。

 

「ははぁーん。そうですか、そうですか。それなら遠慮無く、活動できますね。それなら今日の会見も、思う存分、やらかしますかねぇ・・・!」

 

そして、会見場の扉が開かれる。レ級達は、にやりと笑みを浮かべて佇み、それを見た記者達は皆驚き、驚愕のまま固まった。

 

『御覧ください!彼女たちが私達人類と深海棲艦の新たな可能性です!さぁ、ここからは質問を解禁いたします。好きなだけ、質問をお投げください。』

 

そして、したり顔の提督は、固まっている記者達に対して、大声を上げるのであった。

 




妄想捗りました。

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