カメ子 レ級   作:灯火011

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コミケを終え、無事に鎮守府に帰還したレ級達サークル秋雲亭。
提督から、説教を受けるようです。




117 有明海域 エクストラステージ

 

コミックマーケットが無事終わった数日後。

サークル秋雲亭の面々は、横須賀の提督の執務室に呼びだされていた。

 

「コミックマーケットの件、・・・申し開きは何か、ありますか?」

 

提督は、仁王立ちのまま、正座している秋雲、夕張、レ級を見つめる。

 

「「「・・・・・・いえ、その何も」」」

 

「・・・・・はぁー。いいですか?この新聞を見てください。」

 

提督は一枚の新聞を、レ級たちの前に差し出していた。

 

「「「げっ・・・!」」」

 

レ級達は思わず声を上げていた。というのも、その新聞に、イ級を轟沈せしめたレ級の写真が

一面にでかでかと乗っかっていたからだ。

 

ちなみに、概要はこうである。

---深海棲艦が人々を救う!

  ○月○日、コミックマーケットにおいて、深海棲艦からの攻撃があった。

  幸いにして人的被害はなし。駐車場の一部が破壊されるに留まった。

  さて、実は今回の事件、一つ大きな事実があるのだ。

  それは、深海棲艦が、深海棲艦を没せしめたという事実だ。

  

  ▲(写真)深海棲艦を沈めた深海棲艦【戦艦レ級】の写真(一般人撮影)

  先日海軍から、深海棲艦についての情報公開があったことは記憶にあたらしい。

  倒された深海棲艦は、どうやら駆逐イ級という艦種だそうだ。

  状況としてはこうだ。

  急に駆逐イ級が駐車場に砲撃。それを見た戦艦レ級が急に群衆から飛び出し

  駆逐イ級に攻撃を加え、あろうことかその船体を真っ二つにした。

  そして、群衆の声援に答えながら、国際展示場を後にした。

 

  ~中略~

 

  深海棲艦は敵だ、と我々は常々軍から通達されてきたが

  今回の事柄から、一部の深海棲艦は、友好的であるようだ。

  どうやら我々は、深海棲艦との付き合い方を、軍部の言いなりではなく

  自分たちの目で見て、肌で感じて、判断する必要性があるのかもしれない。

  

「・・・別に私はコミックマーケットに出るな、とはいいませんが、

 ここまでバッチリ目立ってしまうと、火消する此方が大変なんですよ。」

 

提督は深くため息をついていた。

そう、今横須賀鎮守府、ひいては全ての鎮守府や大本営は

今回の事件についての対応を迫られていたのだ。

 

「曰く、あれは本物なのか。

 曰く、軍部は何を隠しているのか。

 曰く、軍部は深海棲艦を陸に上げているのか。

 曰く、軍部は一体何をしているのか。

 曰く、軍部はアレとどんな関係があるのか。曰く、曰く、曰く・・・・。」

 

提督の言葉がどんどん長くなっていく。そして、提督の顔も、どんどんと険しくなる。

そのたびに、レ級達の顔は、真っ青になっていった。

 

レ級も実のところは、どれだけのことを自分がしたのかは判っていた。

カメラを持って常に艦娘を追っかけているレ級であるが、

腐っても、飛行場姫直属の最強のレ級である。

普通では、艦娘や人間と交流など、もってのほかだ。

そんな自分が、深海棲艦として横須賀鎮守府に入り浸っているという事実。

自分の無茶を許してくれている横須賀の提督、艦娘。そして横須賀の人々。

彼らの顔が、走馬灯のように、レ級の頭のなかを駆け巡っていた。

 

「・・・ま、とはいえ、です。」

 

愚痴を続けていた提督であったが、表情を緩めると、気楽な声を出し始める。

 

「いずれはレ級、そして飛行場姫の事は、公表せねばならぬ事象でしたからね。

 他の鎮守府や大本営を動かす良い口実になりましたよ。

 今回の呼び出しは、形式的なものですから、安心してください。

 いずれやることだったとはいえ、公表前にやらかしたあなた達に

 何もしませんでした、では、横須賀鎮守府の体裁が保てませんから。」

 

提督は先程とは一転し、笑みを浮かべていた。

 

「何より、今回のサークル秋雲亭の作品、素晴らしいですね。

 あぁ、あとレ級とあなた達のコスプレ写真もしっかりと頂きました。

 良い目の保養ですよ。」

 

提督はそう言うと、サークル秋雲亭の新刊と

どこから入手したのか、レ級たちのコスプレ写真をしっかりと手に持っていた。

 

「あっ・・・それっ!私達のっ・・・提督、本気で怖かったですよぉー。

 何言われるのかと・・・・。」

 

夕張はそういいながら、正座を崩し、笑顔を浮かべていた。

 

「提督ぅ、人が悪いねー。全く、本気でびびったじゃないか!」

 

その隣では、秋雲も同じように正座を崩し、笑顔で言葉を紡ぐ。

更にその隣では、正座のまま真剣な顔で、レ級が提督に口を開いていた。

 

「提督殿っ・・・・いいのかそれで。

 っていうか、私の事公表するつもりだったの?」

 

「いいんですよ。貴女は人類と、艦娘と、深海棲艦の新たな可能性なんですから。

 大本営も、他の鎮守府も、更に言えば、飛行場姫もそのことを十分に理解しているからこそ

 今、情報公開に向けて動いているのです。」

 

「飛行場姫様も、か。

 そっか。うん、そっか。ま、それなら、私は何も言わないよ。提督殿。」

 

レ級はようやく正座を崩すと、提督に笑顔を向ける。

 

「それじゃー提督殿。今後私は何をすればいいんだ?

 私の情報を公開するからには、何もしなくていい、ってわけじゃないだろ?」

 

「はは、相変わらず頭の回転は速いですね。レ級殿。

 えぇ、貴女にはこれから、多くの仕事が待っています。

 まず小手始めには写真に写っていただきます。

 広報誌と、一般向けの公開写真です。

 それに加えて、テレビ、ラジヲ出演。いろいろ待っていますよ。」

 

提督は笑顔を向けながら、レ級に説明を続ける。

レ級は若干眉間にしわを寄せながら、提督に口を開いていた。

 

「うっへぇ・・・なんかめんどくさそうだなぁ。

 ま、でも、楽しそうだからいいかぁー。」

 

レ級はそういうと、勢いをつけて立ち上がる。

そして、埃をはたくと、にやりと笑みを提督に向けていた。

 

「よかったじゃない、レ級。これからは大手を振って外を歩けるわね。」

「よかったじゃねーか。レ級。これで次のコミケも出られるな!」

 

そんなレ級を見ながら、秋雲と夕張は笑顔で声をかける。

 

「んぁー。そうだなー・・・。っていうか、提督殿。

 本当に私達、何もお咎め無し、でいいのか?」

 

「えぇ、先程も言ったとおり、今回の呼び出しは形式的なものです。

 書類上、執務室に呼び出して注意喚起を行った。というね。

 それとも、3隻とも、何か処罰がお望みですか?解体されたいとか。そういう。」

 

「「「いえ、提督殿の寛大なお心に感謝いたします。」」」

 

「よろしい。無駄な詮索はしないように。」

 

提督はそう言うと、レ級、夕張、秋雲を見ながら、にやりと笑みを浮かべるのであった。

 

 

◆ 

 

一方その頃、飛行場姫の私室では、飛行場姫が呆れ顔で一人の艦と話し合っていた。

 

「・・・いやもうその、レ級のことだから、別に何があっても驚かないのだけれど。

 なんで、あなたがレ級と一緒に鎮守府に来ることになってるのかしら・・・ねぇ?」

 

「わたしからすれば、なんで貴女が大人しく横須賀鎮守府に鹵獲されているかがわからないわ・・・。

 ねぇ?飛行場姫。確かに、ソロモン海域の拠点が壊されてから随分見ないと思ってたけれどねぇ。」

 

飛行場姫と対峠する艦は、長い黒髪そして、明るい色の着物を着込んでいた。

一見すると艦娘のようであったが、どうやら、深海棲艦のようだ。

 

「んー、私は艤装も何もかもを破壊されたのよ。しかも迎えに来たのが大和だったからね。

 深海棲艦として死ぬならば、中途半端に生きようかなと思っただけよ。

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、と言うじゃない?」

 

「それを言うなら生きてこそ浮かぶ瀬もあれ、じゃないのぉ?

 まっ、それはそうとして、無事で何よりよ。飛行場姫。」

 

「ふふ、そちらも。水母棲姫。改めて、横須賀鎮守府へようこそ。

 艤装が無いものどうし、仲良くしましょう?」

 

飛行場姫はそう言うと、水母棲姫へと手を伸ばす。

水母棲姫も同じように手を伸ばすと、固く握手を交わしていた。

 

「それにしたって、本当になんで貴女が陸に揚がっているのかしら?

 しかも瑞穂の仮装までして・・・。深海棲艦は方針でも変えたのかしら?」

 

飛行場姫は水母棲姫を訝しげに見つめていた。

水母棲姫は自分の格好を見ながらも、少し顔を赤くして、口を開く。

 

「瑞穂に見えるかしら・・・?

 ええとねぇ、別に深海棲艦の方針は変化ないわよぉ?

 力と数で押しつぶす。でしょぉ?貴女がいなくなってからもそのままよ。」

 

「・・・んん?それならば余計に判らないわね。

 私のレ級は例外としても、他の船が人間と交流するなんて、考えられないわ。」

 

飛行場姫の言葉に、水母棲姫は更に顔を赤くすると、

コミックマーケットの手提げ袋から、

あるものを一冊、取り出し、飛行場姫へと差し出していた。

 

「・・・水母棲姫、これは、なに?」

 

「コミックマーケットで人間達が作った本よぉ。

 いいから、一回、見てくれないかしらぁ・・・。」

 

飛行場姫は水母棲姫に差し出された本を受け取っていた。

表紙には「サークル秋雲亭」と銘打たれている、薄い本だ。

 

「『サークル秋雲亭』・・・?ふぅん。」

 

飛行場姫はそういいながら、薄い本をぺらり、ぺらりと一枚ずつ捲る。

 

「・・・・」

 

水母棲姫は、何をするわけでもなく、飛行場姫を無言で見つめていた。

 

「・・・・・・・・・なにこれ、面白いじゃない。」

 

そして、飛行場姫は薄い本を読み終えると、水母棲姫に本を返しながら、一言、呟いていた。

すると水母棲姫が、飛行場姫の肩を掴みながら、猛烈な勢いで叫び始めていた。

 

「面白いでしょぉ!面白いのよぉ!

 こんな本がイッパイあるのぉ!だから、だからね!飛行場姫、わかるでしょぉ!?」

 

「何がよっ!?」

 

「こんな本がいっぱいあるのよ!?上陸して、自分の手で手に入れたいじゃない!

 ただ、普通に上陸するとダメでしょぉ?だから私に似てる瑞穂の格好したのよぉ!

 でも、でもね!帰りの足のイ級がレ級に撃沈させられちゃったのぉ!

 ・・・・それでね、その・・・。だから今、仕方なく、ここにきたのよぉ・・・!」

 

 水母棲姫は途中から涙声になりながら、必死に飛行場姫に訴えていた。

内容は、間違いではない。楽しみにしていたコミックマーケットで

目的の本を手に入れた水母棲姫はさぞ、うっきうきであったであろう。

ただ、帰りの足を失い、それらを楽しむ事ができなくなったのだ。

その悲しみは、筆舌に尽くしがたい。

 

「・・・姫とあろうものが、情けないわね・・・。

 あぁもう・・・、私の周りって、なんでこんな変な艦ばっかり・・・。」

 

 飛行場姫は頭を抱えつつ、ため息をついていた。

それもそうである。よくよく考えれば、飛行場姫自体はまだ常識人だ。

だが、その周りに集まる人や艦が、非常識なのだ。

 自慢の部下であるレ級は、気づけばカメラ一筋で人間と艦娘と交流し、

世話になっている提督は、深海の姫君とエースを自身の鎮守府に入り浸らせ

終いにはレ級に好意を寄せている。

 そして更に、目の前には、同じ深海の姫君である水母棲姫が、コミケのために上陸し

帰りの足をなくした挙句、横須賀鎮守府へ乗り込んできたのだ。

 

「そんなこと言わないでよぉ。飛行場姫ぇ。

 なんとか、駆逐級でもいいから、足をちょうだあぁーい!」

 

水母棲姫はそう言うと、涙目に鳴りながら飛行場姫に抱きついていた。

飛行場姫は迷惑そうな顔で、水母棲姫を引き剥がしにかかる。

 

「あぁもう、うざったい!離しなさい!」

 

「いーやよぉ!足を用意してくれるまで離さなぁい!」

 

「あーもー!わかった、わかったわよ!

 提督殿に相談してみるわよ。姫を返していいかって、ね。

 ただ、私も鹵獲されている身よ?そこまで自由が効くかどうかは判らないわ。」

 

「それでいいわぁ!流石飛行場姫よぉ。

 帰れなくても、それまで部屋があればいいわぁ・・・。戦利品、楽しみたいのよぉ。」

 

水母棲姫はそう言うと、なんとも言えない、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 

「ひっ・・・。水母棲姫、なんて笑みを浮かべるのよ。気持ち悪いわよ、それ。」

 

「あっ、いけなぁい。つい、気がゆるんじゃったわぁ。

 それはそうとして、交渉、お願いねぇ?

 最悪、帰れなかったら、貴女と一緒の部屋でいいわ。飛行場姫。」

 

「わかったわよ。それじゃあ、ちょっと提督に伺い立ててくるわね。

 ・・・おとなしくしてなさいよ?」

 

「だいじょうぶよぉ。大人しく本、読んでるわぁ。」

 

飛行場姫は、座りながら本を読み始めた水母棲姫を見ながら、大きくため息を一つつく。

 

(何か、厄介なことになったわねぇ・・・。

 しかもまた、提督殿に借り、作っちゃうじゃないの・・・。)

 

そして、頭を抱えながらも、飛行場姫は部屋を後にするのであった。




妄想捗りました。テレビデビュー。レ級&飛行場姫。ワンモア水母棲姫&ホッポちゃん。

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