カメ子 レ級   作:灯火011

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戦時中、深海棲艦との戦いの中でも繰り広げられるコミックマーケット。
人間の情熱と希望を、レ級は肌で感じまくるようです。
そして、最後に一つ、波乱も起きるようです。


116 有明海域 E-4(後編)

 

「戦艦レ級」

 

深海棲艦と呼ばれる存在の中でも特に上位種に位置する艦種である。

 

数多くの艦娘を沈め、提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている敵である。

 

そんな彼女、今現在、信じられないことに

午前中は艦娘が運営するサークル「サークル秋雲亭」の売り子として、

午後になると、カメラ片手に、人間の仮装を取るカメコとして、

いつもと変わらぬパーカー姿で、コミックマーケットに参加していた。

 

そして、更に言えば、ついさっきまでコミケの空気に流され

レ級は写真を撮らず、逆に写真を撮られまくっていた。

何せ一般参加者からしてみれば、エライ完成度の高いレ級がそこに居るのだ。

 

だが、なんとかレ級は人間のカメコ達を振り払いつつ

自分の撮りたい写真を取ろうと、コスプレイヤー達に話しかける。

 

「すいませーん!そこの金剛さん、一枚良いですかー?」

 

「あ、はーい。いいですよ。

 ポーズの指定ってありますか?」

 

レ級は一瞬、視線を上に向けて考えるも

特にいいポーズが思いつかなったようで

 

「んー、金剛さんにお任せします!」

 

と、笑顔を金剛のコスプレイヤーに向けつつ、カメラを構えていた。

 

「はーい。」

 

そして、レ級はコスプレイヤーがポーズを取ると、

連射で確実に撮影を行っていく。

 

金剛のレイヤーが、右手を斜め上げ、笑顔でポーズをする瞬間、

腰に手を当て、堂々とカメラを見つめる表情などなど

レ級は、数種類のパターンの写真を撮影する。

 

(すっげーな・・・。本当に艦娘みてーだなぁ。)

 

レ級はそう思いながら、10枚程度撮影したところで撮影を止めていた。

というのも、先に自分が撮られていた時に、長く撮影するカメコは

他のカメコの迷惑になっていると、観察して気づいていたからだ。

 

「いやぁ、金剛のコスプレ見事ですねー。

 可愛くて本物みたいです!」

 

レ級はレイヤーに近づくと、挨拶をしながら、カメラの画面を見せていた。

 

「あははっ、金剛の写真を見て研究しましたから! 

 艤装もほっとんど完璧なはずですよ。」

 

レイヤーはそう言うと、レ級のカメラの画面を覗く。

 

「わぁ・・・!綺麗に撮影して頂いてありがとうございます!

 それにしても、あなたもすごい綺麗なコスプレですね。

 確か・・・最近情報公開された、深海棲艦でしたっけ?」

 

「ありがとうございます。そうなんです。深海棲艦のレ級です。

 知り合いのサークルの売り子ついでに、コスプレしてみたんです。」

 

(まー、嘘はいってないよな、嘘は。私レ級だし。)

 

レ級は若干、苦笑を浮かべながら、レイヤーを見つめていた。

レイヤーは笑顔になると、興奮気味でレ級に口を開く。

 

「へぇー!すっごいですね!かわいいですね!

 そういえば、その大きい尻尾はどうやって再現してるんですか?

 何か、さっきは自然に動いてましたよね。」

 

レイヤーはレ級の巨大な尻尾を指差していた。

レ級は一瞬目を泳がせるも、笑顔で口を開く。

 

「内緒です。でも、結構頑張りましたよ。

 あっ、ってか、後ろ詰まってるんでそろそろ失礼します!」

 

「あは、内緒ですかー。そのうち教えて下さいね?

 ありがとうねー!」

 

「こちらこそ、美しい写真撮らせて頂いてありがとうございますー!」

 

レ級とレイヤーが手を振り合って別れようとした、その時である。

レ級の後ろに並んでいたカメコが、レ級と金剛のレイヤーに声をかけていた。

 

---すいません、金剛さんとレ級さん。2人で並んだところ撮影したいんですが---

 

「おっ・・?私と金剛さん?」

 

「あは、私は全然かまいませんよー。レ級のレイヤーさんが宜しければ、ですけれど。」

 

金剛のレイヤーさんとカメコは、レ級を見つめていた。

レ級は苦笑を浮かべると、カメラをホルスターに仕舞い込み、金剛のレイヤーの隣に並ぶ。

 

「いいですよ。せっかくです。さぁ、どんどん撮っちゃってください!」

 

----ありがとうございます!それじゃあ、ポーズはこんな感じで・・・・---

 

そう言いながら、カメラからフラッシュが焚かれる。

戦艦レ級フラッグシップ、なんだかんだで、コミックマーケットを楽しんでいるようであった。

 

 

一方その頃、サークル秋雲亭では、遂に、最後の一冊が配布されていた。

 

「最後の一冊なのです。1000円になります。」

 

「はい、1000円。完売おめでとうございます。

 毎年、流石ですね。また来年、買いに来ます。」

 

「ありがとうございます、またよろしくお願いいたします!」

 

秋雲が最後の一冊を袋に入れて手渡すと、

受け取った一般参加者は笑顔でサークル秋雲亭を後にする。

そして、次の瞬間、サークル秋雲亭の秋雲と夕張、そして

お手伝いをしていた人々から、歓声が上がっていた。

 

『8000部完売っ!お疲れ様でしたあっ!』

 

パチパチパチパチ、と近くのサークルからも拍手が上がる。

 

----おめでとうございますー!さすが秋雲亭さんです!----

----すっげぇ、朝にあったダンボールの山が一つもねぇ・・・----

 

次々と聞こえる言葉を流しながらも、夕張と秋雲は、笑顔でハイタッチをする。

 

「「いえーい!」」

 

そして、空になったサークル秋雲亭のブースを見ながら、安堵の溜息をついていた。

 

「いんやぁー、8000部、2時で配布完了!やったねぇ、夕張さん!」

 

「本当っ、不安だったけど、全部でてくれてよかったぁー!嬉しいなぁ・・・!」

 

夕張と秋雲はそう言うと、そそくさとフリップの準備をしていた。

「完売」を知らせるフリップを立てておかなくてはいけないのだ。

そして、それと平行して、コミックマーケットの運営会社に

完売報告をしなくてはならい。そしてその後、他のサークルに挨拶回りにいったりと

壁サークルは壁サークルで、大変なのである。

 

「っと、それじゃあ秋雲、私は完売報告してくるわ。

 後ついでに、西ホールに挨拶いってくるわね。」

 

「はーい。それじゃあ私は完売フリップ作った後に東に挨拶回りしてくるわー。

 それにしても8000部が2時で完売かぁ。次1万ぐらい作ったほうがいいのかねぇ・・・。」

 

「それはスタッフさんにも言われたわ。

 でも、ここから更に2000部増やすとなると、作業時間がたらないでしょ?

 何より、私たちは一般のサークルとはちょっと違うから、

 人を増やして対応するっていうこともできないし。次も8000部が限界じゃない?」

 

「だよなぁー。ま、それはまたおいおい考えよっかぁ。

 そういえば挨拶回り終わったらどうするの?」

 

「んー。コスプレ広場行きましょうか。 

 レ級は先に行ったんでしょう?合流してサークル秋雲亭の艦娘合わせと行きましょうよ。」

 

「おっけー、夕張さん。それじゃあまた後でー」

 

秋雲は人混みに消える夕張を見ながらも、フリップを作る。

「新刊、既刊、完売なのです。」と書かれた文字の横に、

電のようなキャラが黒い笑みを浮かべていた。

 

「よし、フリップはこれでいいかな。

 とりあえず見える位置に置いといてっ・・・と。」

 

秋雲はそう言うと、荷物を抱え、ブースから通路へと移動する。

そして、マップを片手に、知り合いのサークルへと足を向けていた。

 

「んーっと、ここから一番近いのは龍驤島の○○さんだなー。

 そのあと深海棲艦の島の○○さんとこいってくるかぁ。」

 

一人で呟きながら、人で溢れかえる通路を、

ゆっくりと、かつ素早く歩いて行く秋雲であった。

 

レ級は撮影する側でなく、珍しく撮影される側でコミケを楽しんでいた。

 

というのも、金剛のレイヤーさんと2人で写真に写り始めたのがきっかけで

他のレイヤーさんともどんどん交流が深まっていったのだ。

 

---次こっちにお願いしまーす!---

---ありがとうございました!---

---すいませーん!めせんくださーい!---

 

今、ここにいるのは金剛、榛名、霧島、比叡のレイヤーさん

そして、あろうことかレ級のレイヤーさんが1人、そして最後にレ級(本人)である。

 

今この5人+1隻は、金剛姉妹のレイヤーさんを中心に

左右にレ級とレ級のレイヤーさんを配置しているような形で撮影されていた。

 

---レ級さーん、こっち睨んでー!---

 

そんなカメコの言葉に、レ級はおもいっきり笑みを作りながらも

獰猛にカメラを睨みつける。

 

---ありがとうございまーす!---

 

にっこにこのカメコに、手を振ると、次のカメコさんに目線を合わせる。

それは他の5人も同じようであり、各々ポーズを取りつつ、目線を様々な方向に向けていた。

 

「そうしましたらすいませーん!レイヤーさんたち撮りっぱなしですので、

 カウント10でお願いしますー!」

 

一人のカメコがそう言うと、我先に一枚でも多く撮影しようと

より一層、フラッシュの嵐が巻き起こる。

 

「終了!一旦休憩ですー!」

 

カメコがそう言うと、今までの人だかりがウソのようにさぁっと引いていった。

そして、5人と1隻とカメコは、笑顔を浮かべながら、お互いに口を開きはじめる。

 

「いんやぁー・・・すごいですね。コミケって。

 こんなに人がいるなんて思ってもいませんでいた。」

 

最初に口を開いたのはレ級である。

完全にカメラを置き、腰に手を当てまっすぐに立つ姿は

かなりできの良い、戦艦レ級のコスプレイヤーと化していた。

 

そんなレ級に反応したのは、最初にレ級と肩を並べて撮影した金剛のレイヤーさんだ。

 

「あぁー、そういえばレ級さんはコミケが初めてなのでしたっけ。

 深海棲艦との戦いが始まって、少しだけ規模が小さくなりましたけど

 未だ日本最大のイベントですからねー。」

 

「ははぁー。皆様すごい情熱ですね・・・。

 そういえば実際、深海棲艦って敵って言われてますけど

 どんなイメージ持ってます?私はデザインはかっこいいなーと思うんですけど」

 

レ級はさりげなく、レイヤー5人へと質問を投げかけていた。

 

「んー、そうですねぇ。最近公開された姫とか、そういう人型のは

 私はかわいいと思います。ただ、人型以外のはちょっと・・・」

 

「私は嫌いです。なんで攻撃してくるかもわからないんですよね?

 ただ、人型は綺麗なんですよねー。コスプレはしたいです。」

 

「私も嫌いかなぁ・・・。気持ち悪いし。

 ただ、戦艦レ級とか、姫とかいうのは可愛いから好きかも。

 でも、艦娘を沈めたりするんでしょう?そう考えるとねぇ・・・。」

 

そういうのは、金剛、霧島、榛名のコスプレイヤーだ。

比叡のコスプレイヤーは意見さえ言わないものの、首を縦に振っていた。

 

(んー・・・ま、そりゃー人間からすればシーレーン破壊して

 タンカーとかも沈めてる化物だしなぁ・・・私達、深海棲艦が嫌いってのも仕方ねーかぁ)

 

レ級がそう考えていると、

レ級のコスプレレイヤーが、笑顔を浮かべながら口を開いていた。

 

「あ、でも私、横須賀鎮守府の艦娘さんが深海棲艦を鹵獲したって話聞いたことあるわ。

 確か・・・なんとか姫とかいってたような。

 すごく人懐っこいっていう話しもきいたことあるから、

 実はそんなに怖くないのかなーって思ってるの。」

 

レ級のレイヤーはそこで言葉を区切ると、レ級(本物)を見て、更に言葉を続けていた。

 

「だから私、最近公開された深海棲艦、戦艦レ級のコスプレをしてるんだ。

 かわいいし、なんか魅力的なのよね。

 貴女も、とはいわないけど、レ級ってかわいいよねー。

 っていうか、その尻尾ってどうやったの?かなり『本物』っぽいけど・・・」

 

そして、レ級のレイヤーはそう言いながら、自然にレ級の尻尾に触れていた。

レ級のレイヤーからすれば、材質やら何やらが気になるし

もし再現できるのであれば、同じような装備をして、次も挑みたいと考えるのが人間である。

 

「んー?あー、これねー。

 基本的にはゴムで作ってあって、中の部分はちょっと秘密。

 がんばって作ったから、まだ独り占めしたいなーっておもってるんだ。」

 

「えー、教えてよ~。

 あー、でもさわり心地いいなー、すべすべして、ひんやりしてて・・・。」

 

レ級のレイヤーがそう言うと、金剛姉妹のレイヤーも次々にレ級の尻尾に触り始めていた。

 

(うひひ、くすぐってぇ・・・!)

 

レ級はコスプレイヤーに怪我をさせないように気を使いながら、ゆっくりと尻尾を動かしていく。

そんな尻尾を追いかけるように、キャイキャイ騒ぎながら、

レイヤー達は笑顔で、レ級の尻尾を触りまくるのであった。

 

そして、レイヤーたちとの交流を楽しんだレ級は、

休憩が終わった後、また同じように金剛達のレイヤーや、深海棲艦たちのレイヤー

そして合流してきたサークル秋雲亭の夕張と秋雲たちと一緒に、コスプレスペースで

思う存分、ポーズを取り、写真に納められつつ、自らもカメラを持ち、写真を収めるのであった。

 

「レ級ぅ!次寝転んでー!

 そそっ、私に倒された、みたいな感じでさぁ」

 

「おっけー秋雲、あ、そしたらみんなで私の尻尾ふみつけてよ。

 こう、レ級とったりー!みたいな感じで!」

 

「いいこと思いつきますねー、レ級のレイヤーさん。

 それじゃあみんなでやっちゃいましょう!」

 

金剛姉妹、第六駆逐隊、空母軍団、全員がレ級の尻尾を踏みながら

思い思いのポーズを撮影する。撮影する側も、撮影される側も

もちろん戦艦レ級(本物)も、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

・・・そして、楽しい祭りは、遂に、終焉を迎える。

 

『「只今の時間を持ちまして、コミックマーケット○○、閉会と致します!」』

 

 

アナウンスが流れるとともに、国際展示場の各場所から大きな拍手が巻き起こる。

 

「おつかれさまー!」

「たのしかったぁー!」

「いんやぁー、最高だったなぁ!」

 

そんな国際展示場の正面には、すでに私服姿となった夕張、秋雲、

そして、いつものパーカー姿のレ級が3隻で並んで歩いていた。

 

「ふふ、どうだった?レ級。」

 

夕張がカートを引きながら、笑顔でレ級に話しかけていた。

レ級は夕張と秋雲の顔を交互に見ると、満面の笑みで、口を開いていた。

 

「・・・最ッ高だったわー!

 正直人間舐めてた。もうちょっとしょっぼいかとおもってたけど

 こりゃー予想以上だ!コスプレも最高だったしなー!」

 

「そりゃあよかったよ、レ級!

 連れてきたかいがあったってもんだ!」

 

秋雲はそんなレ級を見ながら、満足気につぶやいていた。

 

「本当ありがとうな、秋雲、夕張ぃ!」

 

レ級はそう言うと、秋雲と夕張の少し前に出る。

そしてクルリと回転し、秋雲と夕張のに体を向けると

大きく両手を上に掲げた。

 

「秋雲、夕張、また今度あったら絶対声かけてくれ。

 また手伝わせてもらうぜ!」

 

夕張と秋雲は、レ級を見ながら、お互いに片手をあげていた。

 

「あはは、わかったわよ。」

「もちろんだぜ!レ級!」

 

夕張、秋雲、レ級達はそういうと、ハイタッチを行う。

パチン、パチン。

艦娘と深海棲艦の手が触れ、気持ちの良い音が周囲に響き渡っていた。

 

「あ、そうだレ級。この後って何か予定ある?」

 

「んぉ?なんだ夕張、藪から棒に。ま、別に何もねーぜ。どうかした?」

 

「んー、手伝ってもらったお礼も兼ねて、打ち上げをしようかなって。」

 

レ級はにんまりと笑みを浮かべると、迷いない瞳を夕張に向け、口を開く。

 

「いいぜ!行こうぜ打ち上げっ!

 お腹へってたんだ。いっこうぜー!」

 

「ふふふ、おっけー。秋雲、どこか行きたいお店あるかしら?」

 

「あー、それじゃあ焼き肉にでもいこうかぁ、夕張さんっ!」

 

「焼肉かぁ。いいね、そこにしましょ!」

 

『いっえーい!』

 

と、再度レ級と夕張と秋雲が、ハイタッチをしようとした、次の瞬間である。

急に巨大な爆音と、大きな火柱が、国際展示場の駐車場から立ち上ったのである。

 

思わずその光景に、ハイタッチも忘れ固まる夕張と秋雲とレ級。

そして、次の瞬間、思わぬアナウンスが流れ始めるのであった。

 

【深海棲艦からの襲撃がありました。

 国際展示場から、すみやかに避難をお願いします。】

 

アナウンスを聞いたレ級が、勢い良く首をひねり、海を見ると

確かに駆逐イ級が1隻、海上に鎮座していた。

どうやら、その砲撃が、駐車場に直撃したようである。

 

---うわああ!深海棲艦だ!逃げろおおお!---

---なんでこんな近海に!艦娘はいないのかぁああ!?---

 

人間たちは叫びながら、右往左往と走り回りながら、

なんとか国際展示場を後にしようとしていた。

 

そんな光景を見ながら、サークル秋雲亭の面々は、大きく、ため息をついていた。

 

「・・・はぁー・・・。祭りが終わった途端にこれかぁ・・。」

 

「うわぁー・・・。駐車場に直撃弾じゃん・・。

 これ、次回ちゃんと開催されるかなぁ・・・。

 どうする?夕張さん、レ級。いま、私達艤装ないし・・・」

 

「そうねぇ・・・とりあえず、避難誘導、手伝いましょうか。」

 

夕張と秋雲は、今完全にオフのため、艤装は横須賀鎮守府のドックである。

海の上にもたてず、砲雷撃もできない。であれば、避難誘導をするのが吉と

判断した形だ。

 

だが、ここに一人、オフでありながらも、艤装を完璧に持ってきてる船がいた。

 

「・・・・水ヲサシヤガッテ・・・・。」

 

そう、今日、本人ながらも、コスプレイヤーとして参加していた

戦艦レ級(本物)である。流石に砲塔は置いてきているが

コスプレのために、実際の艤装を持ち込んできていたのだ。

そんなレ級は、気づけば言葉はカタコトに戻り、

顔は真っ赤で、体をプルプルと震わせていた。

 

「・・・レ級?大丈夫?」

 

夕張がレ級を心配して声をかけると、

レ級は顔を上げ、大きく口を開いていた。

 

「駆逐イ級!テッメェ、ブッ殺シテヤァァァル!!!」

 

レ級はそう叫ぶと、勢い良く走り始めようとする。

が、それをみた夕張と秋雲は、レ級を羽交い締めにする。

 

「「レ級!?落ち着いて!

  深海棲艦のあなたが行くのはまずいって!」」

 

「離セ夕張ッ!秋雲ッ!

 ・・・駆逐イ級ー!テメー誰ノ姫ノ部下ダー!

 一般人ニ手ヲダスタァ!深海棲艦ノ風上ニモオケネーゾ!

 姫ゴトブットバシテヤアアアアアアル!」

 

レ級はそう言うと、全身から金色のオーラをたぎらせ、

夕張と秋雲の拘束を振りほどき、そのまま海へ飛び出ていた。

 

「ファアアアアアック!空気ヲヨメ!コノ馬鹿ヤロウドモォオオ!」

 

勢いはそのまま、国際展示場を襲撃した駆逐艦に一気に接近する。

レ級は怒りのあまり、周りを一切気にせずに、

般若のごとく眉間に皺を浮かべ、両目からは蒼いオーラを滾らせていた。

 

そして・・・

 

「死サラセヤ!ドアホウ!」

 

レ級はそう叫ぶとともに、見事な飛び蹴りを、駆逐イ級に繰り出していた。

すると、なんということでしょう。駆逐イ級は、戦艦レ級の飛び蹴りで

胴体から真っ二つになり、そのまま海底へと沈んでいくではないか。

 

「ケッ、姫ニツタエトケ。

 一般人に手をだすな、ってな。

 私達、深海棲艦は艦娘と戦争をしてるんだ。

 ルール無用の殺戮をしてるわけじゃーねぇんだからな!」

 

そしてレ級は、海底に沈んでいくイ級に聞こえるように、大声で叫んでいた。

・・・そう、叫んでしまっていた。

 

---すげぇ・・・深海棲艦をぶっ潰しやがった、あの女の子・・・!---

---艦娘ってすげぇ・・・!・・・あれ、でも今、私達深海棲艦って・・・?---

---げっ・・・じゃああれって、艦娘じゃなくて深海棲艦!?---

 

(・・・あっちゃー・・・熱くなりすぎた・・・。

 やっべー・・・やっべー・・・!)

 

レ級はイ級を蹴り飛ばした場所から、一切動けなくなっていた。

というのも、怒りに身を任せ、自分が深海棲艦と大声で暴露してしまったからである。

どうやらそれは人間たちも同じようで、

海上に立つレ級を見たまま、誰ひとりとして動けないでいた。

 

---あれっ、あの子って確かコスプレでレ級をしてた・・・・  

  えっ、あれっ!?あのこ本物だったの!?----

 

レ級はその言葉に、思わず反応していた。

そして、声のした方向を見ると、そこには

金剛のコスプレをしていた女性がいたのである。

 

(・・・あ。詰んだ。これ次回のコミケ詰んだ。)

 

見当違いな思考をしながら、視線を横に動かすと、夕張と秋雲が

真っ青な顔をしたまま、立ち尽くしていた。

 

(そーなるよねー。目立ちたくないって言ってたもんねー。

 いや、そうじゃなくって。

 サークル秋雲亭、ひいては人間が深海棲艦と交流あるって

 一般に知れたらエライことになるものなぁ・・・。

 っていうか、本当に、どうしよう・・・?)

 

レ級は自慢の頭脳を使い、高速で打開案を考えるも、何も思い浮かばない。

本来であれば、このまま立ち去ればいいところであるが

一部のレイヤーには、自身をサークル秋雲亭の売り子と説明しているため

下手に海に向かっては、夕張と秋雲に迷惑がかかる。

かといって、このまま陸上に戻れば、間違いなく深海棲艦ということで

地上に大混乱が起きるであろう。

 

(まっじで・・・どうし・・・ようか・・?)

 

秋雲と夕張にアイコンタクトを送り、助けを求るも、

秋雲と夕張も困っているようで「さっ」と目をそらされてしまった。

 

(・・・でっすよねー、そりゃー、目を逸しますよね・・・)

 

レ級、完全なる孤立である。

そして仕方なく、頭にかぶっていたパーカーを取り

改めて、人間達を見つめていた。

 

---・・・・----

「・・・・」

 

(むむぅ・・・とーっりあえず、今は逃げよう。

 んで、あとで横須賀に戻れば問題ない・・・かなぁ?)

 

お互いに無言のまま約1分。

レ級は意を決し、すぅっと息を吸い込む。

 

「・・・とりあえず攻撃してきた深海棲艦はぶっとばしといた!

 もう安全だぜ!悪いな!水挿しちまって!」

 

レ級はそう言って、海面下に沈降しようとしていた。

その時である。

 

---やっべーかっけー!---

---深海棲艦が私達を守ってくれた!?すごいわっ!

 あの深海棲艦かっこよすぎぃ!----

---私、私あのこと写真とったの!すっごいいい子だったわよ!

  あぁっ、ほらっ、私さっきいったでしょ!?

  やっぱり深海棲艦にも良い奴居るんじゃん!---

 

国際展示場が、歓声とともに、レ級を賛辞する声に満ち溢れたのだ。

レ級は目を丸くしていたが、とりあえず手を降ることにした。

 

---わぁ!手を降ってくれてる!かっわいいー!---

---すっごい、深海棲艦を生で見れるなんて!---

---えっ、でも襲ってきたのも深海棲艦なんじゃ・・・---

 

---何をいってるの、あの深海棲艦は私達を守ってくれたのよ!?

 それに、あんな可愛い子が敵なわけないじゃない!----

 

(・・・予想外の反応だーこれー!

 ・・・ええっと、とりあえず、沈降して逃げるのはナシかなぁ。

 うーん・・・このまま夕張と秋雲たちと、普通に帰ろうか、なぁ?)

 

レ級は歓声を聞きながらも、夕張と秋雲に目配せをする。

すると夕張と秋雲は、呆れたような顔を浮かべるも

次の瞬間、大声で叫び声をあげていた。

 

「レ級ー!ほらー!さっさと戻ってきなさい!

 コミケの打ち上げ、行くわよー!」

 

「レ級ぅ、ナイス飛び蹴りだったぜぇ!

 こうなったらいっちばんうまい焼き肉に連れてってやらぁ!」

 

「っしゃー!焼き肉だぜー!」

 

レ級はそう言うと、体を一気に加速させ、海面から飛び上がると

空中に弧を描きながら、一般人のど真ん中に着地する。

 

---わっ、目の前で見るとすっごいちっちゃい!かわいい!----

---すっげー、本物だ・・・!艤装えっぐいなぁ----

---わぁ、すっげ、尻尾すっげ・・・---

 

「ありがとう、深海棲艦!」

「レ級、ありがとう!」

 

急に飛び込んできたレ級に驚きの声を上げる人々であったが

みんな笑顔で、レ級にお礼を伝えていた。

 

レ級は顔をポリポリとかくと、ニイッと笑みを浮かべる。

そして、その笑みのまま、大声で叫んでいた。

 

「別に礼なんかいらねーって。私は気に入らないやつをぶっ飛ばしただけだからな!

 っと、それはそうとして、今日のコミックマーケット、楽しかったぜ!

 また次も絶対クルからな!それじゃあ、またなぁ!」

 

レ級はそう言うと、人混みをかき分けかき分け、夕張達と合流していた。

そして、歓声を背中に受けながら、サークル秋雲亭の面々は、ゆっくりと

国際展示場を背に、歩き出す。

 

「レ級、やるねぇ。かっこよかったぜ?」

 

「レ級。やるわねー。でも、これで私達のサークル、

 完全に軍関係者だってバレちゃったじゃない・・・」

 

夕張はレ級を見ながら、ぼそりと呟く。

レ級は夕張を見ながら、申し訳無さそうに口を開いていた。

 

「悪い悪い、一般人を狙うとか、深海棲艦の風上にもおけねー奴だったからさ。

 ま・・・そうはいっても、来年も出るんだろ?」

 

「あったりまえじゃない。こうなったら艦娘の知名度を利用して

 もっともっと配布してやるわ。だからレ級、必ず、次も手伝ってね。」

 

「おうよ。今回の件は私が悪いからな。

 4徹でも5徹でもしてやるよ。必要なら姫も引っ張りだすぜ!」

 

「「姫は流石に怖いので結構です。」」

 

「むっ、姫様怖くないのに・・・・。

 っとそれはそうとして、焼き肉どこいくんだー?」

 

「いやぁ、私達からしたら、姫ってだけで怖いってぇ・・・。

 っと、焼き肉は和牛の希少部位を出してくれる店だぜ!」

 

「ほっほぉ・・・いいねぇ。それじゃあ、タラフク食うぞー!」

 

レ級はそう言うと、笑顔を浮かべたまま、右手を高々と掲げていた。

そんなレ級を見ながら、夕張と秋雲も、笑顔を浮かべるのであった。

 

 

「フフフフアハハハハ!レ級、レ級ガココニイタノカ!

 オモシロイジャナイ・・・・オモシロイワネェ!」

 

国際展示場にイ級を送り込んだ姫は、高らかに笑う。

 

「アナタニ負ケッパナシッテイウノハキニクワナイノヨ・・・レ級!

 旧型ハ旧型ラシク、オトナシク、沈ムガイイワ・・・!」

 

水母棲姫、過去にレ級に演習で負を喫した姫である。

その瞳には、赤々と、復讐の炎が滾っていた。

 

ただし、その姿は普段の水母棲姫ではない。

黒一色の服装、ではなく、明るい色を基本とした着物を着こみ

下半身からは艤装を完全に外した上に、人間の足のパーツが取り付けられていた。

そう、この水母棲姫、まさかの瑞穂のコスプレをしていたのである。

 

「マ、でも、今回はいいかしらね・・・。」

 

そして、両手には大きな紙袋が2つ、

コミックマーケットの戦利品が、多数。

 

「レ級とガチでやると戦利品燃え尽きそうだし・・・。

 っていうかぁ、イ級め。勝手に発砲して・・・勝手にレ級に倒されて・・・。

 これじゃあ、深海棲艦に襲撃されたって事で、次回の開催危うくなっちゃうじゃないの!

 まったく、まったく、しかも、イ級が帰るための足だったのに・・・

 どうやって深海に帰れっていうのよ。・・・レ級の後、ついていこうかなぁ?」

 

水母棲姫は途方に暮れたまま、国際展示場の正面で、

レ級たちの背中を見ながら、立ち尽くすのであった。




駆逐イ級「姫の周りに一杯人間がいる!やばい!助けなきゃ!」

妄想、捗りました。好意から来る行動が、裏目に出ただけなんです。


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