カメ子 レ級   作:灯火011

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無事、コミケの原稿を完成させたサークル秋雲亭のメンツ。
今日は衣装を決めるようです。


112 有明海域 E-1

 

入稿を終えたレ級と夕張は、のんびりと、間宮であんみつを食べていた。

 

「おいしいなぁ、夕張。」

 

「おいしいねー。レ級。秋雲も遠征じゃなければよかったんだけど。」

 

たっぷりとあんこが乗ったあんみつに、レ級と夕張は思わず笑みを浮かべる。

なお、サークル秋雲の代表、駆逐艦秋雲は、遠征に出てしまっているため

あんみつにありつけないでいた。

 

「まー仕方ねぇって。必要なことなんだろ?

 っと、それはそうとして、コミックマーケットについて詳しく教えてもらっていい?

 前は勢いで行くって言っちゃったけど、どんなところなの?」

 

レ級はもぐもぐと餡蜜を食べながらも、夕張に問いかけていた。

砂糖で煮付けられ、黒光りする黒豆がお気に入りのようである。

 

「そーねー。

 今月末に、有明のビックサイトで行われる同人誌の即売会よ。

 日本で一番大きな規模、かしらね。

 それでいて、他にもアニメとか漫画のキャラクターに仮装した人間がいっぱい来るのよ。

 写真を撮るっていうと、仮装がメインになるかしらね。」

 

「そうなんだ。同人誌っていうと・・・自費出版って考えていいのかな。」

 

レ級は首をかしげつつも、餡蜜を食べつつ夕張に問いかけていた。

 

「ええ、自費出版よ。漫画もあるし、小説もある。

 写真集もあるし、カタログもあるし、あとはグッズなんかもあるわね。」

 

夕張は、片手の指を立てながら、レ級に解説をしていた。

そう、コミックマーケットはほとんど何でもありの即売会である。

純文学から漫画、二次創作物、そして公式企業のグッズと見間違う

個人製作のグッズなどが配布される、とんでもないイベントなのだ。

 

「すっごいな。なんでもありの即売会なんだな。

 ・・・っていうか、写真は人間の仮装を撮る感じになるの?」

 

レ級は少し眉間にシワを寄せつつ、夕張に問いかけていた。

艦娘を撮影するのは好きだが、好んで人間を撮るわけではないのだ。

 

「えぇ、そうよ。

 ・・・でもレ級、人間を甘く見ないほうがいいわよ?

 怪獣とかロボットを100%再現する人もいるし、

 私達の艤装と服装を完全にコピーする人間も居るわ。」

 

「ほぉ?・・・あれ?艦娘の艤装って、情報開示してたっけ?」

 

レ級は首をかしげていた。

夕張はそんなレ級を見ながら、苦笑を浮かべつつ、口を開く。

 

「・・・してないのよねー。でも、彼らの艤装は毎回レベルアップしてきてるわ。

 まったく、どこから情報を仕入れてくるのかなぁ。

 ・・・っと、それはそうとして、それでいて、私達より美人だったり、可愛い人だったり

 私達艦娘から見ても、見惚れる人間がいるのよ。」

 

艦娘からみても美人

その言葉にレ級は反応し、にやりと笑みを浮かべていた。

 

「・・・ほっほぉ?そうなのか!

 それじゃあ気合入れていかなきゃなぁ・・・!」

 

「でしょう?去年ぐらいにいたんだけど

 金剛さんの仮装をしたハーフの人なんかは、本人と見間違うくらいの美しさだったわ。」

 

夕張はそう言うと、餡蜜を口に運ぶ。

こちらは餡蜜に乗っかっている、砂糖漬けのフルーツがお好みであるようだ。

 

「あっ、それはそうとして、レ級。

 私達も仮装するから、この後少し相談したいのだけれど、時間あるかしら?」

 

「お?・・・あるけど、私達も仮装するの?」

 

「えぇ。せっかくのイベントだからね!

 それに、私達の写真は普通に出回ってるから

 このままの格好で行くと、間違いなく混乱するのよ。」

 

夕張は苦笑を浮かべると、レ級に口を開いていた。

レ級は夕張を見つめると、ぼそりと口を開く。

 

「それなら、夕張は龍驤でいいんじゃないか?」

 

レ級の脳裏には、ぺったんの夕張が

ぺったんの龍驤の服を着ている光景が浮かんでいた。

 

「龍驤さんの仮装?確かにやったことないけど、どうしてかしら。」

 

「んー、体型的に?」

 

ふと、夕張は、自分の体型と、龍驤の体型を思い浮かべていた。

背こそ違えど、確かに、姿形は似ているかも、しれない。

 

「・・・あぁ、そういうこと?

 確かに私も胸ないし、そうえいば、龍驤さんはやったことないし・・・。

 うん、そうしようかな。じゃあ、早速龍驤さんの制服発注することにするわ。」

 

「おー、似合うと思うぜ。夕張明るいし。」

 

レ級はそういうと、ほうじ茶をすする。

 

「うん。っと、私の仮装は決まったわね。

 秋雲はまたあとで話すとして・・・・。

 レ級、貴女の衣装も決めなくちゃね。」

 

「私のもか?」

 

「えぇ。深海棲艦のまんま、っていうのも何かダメでしょう?

 艦娘のコスプレをしていけば、会場内も自由に動けるでしょうし。」

 

「あぁー、確かになー。

 私達の情報って、あんまり開示されてないんだったっけ。」

 

レ級と夕張は、お互いに考え込んでいた。

既に餡蜜は食べ終わり、お互いにほうじ茶をすすっている。

そして、思い立ったように夕張が声を発していた。

 

「そうだ、レ級。いつも横須賀の街を歩いている第六駆逐隊の服はどうかしら?」

 

レ級は夕張の言葉を受けて、少し考えるが

眉間にしわを寄せつつ、口を開いていた。

 

「確かにいいとは思うんだけど・・・ただ、さぁ。」

 

レ級はそこまで言うと、自身の尻尾を指差す。

 

「尻尾があるからなぁ。私。

 普通の艦娘の仮装ってきついんじゃない?」

 

「う・・・それ言っちゃうとほとんどの艦娘の仮装がだめじゃない・・・。

 ううん、どうしたらいいのかしら・・・。ねぇ、レ級、その尻尾取れたりしないの?」

 

夕張はダメ元でレ級に問いかけていた。

レ級は目を見開き、頬を引きつらせながら夕張に口を開く。

 

「い、いや、流石にこれは取れないって。

 尻尾の先まで神経繋がってるからね?」

 

「そっかー。どうしよう・・・・。」

 

「うーん・・・。深海棲艦の体が悩ましいぜ・・・。どうしよう?」

 

悩む夕張とレ級であったが、全く良い案が浮かばない。

尻尾を隠そうと思えば思うほど、良い仮装が思いつかないのだ。

 

 

「頭をすっきりさせるためにも、餡蜜でも食べましょうか。」

 

横須賀鎮守府の提督は、執務をあらかた片付け

独り言をつぶやきつつ、足取り軽やかに間宮へと足を運んでいた。

 

『レ級、それじゃあ空母になって尻尾を隠すのはどう?』

『いやぁー。甲板持ってる空母ってスタイルいいじゃん?厳しいって』

『あぁー・・・でも、ギャップもいいんじゃないかしら?』

 

間宮の前に来た所で、提督は足を止めていた。

というのも、レ級と夕張の会話する声が聞こえたからだ。

 

(おや、夕張とレ級とは。珍しいですね。

 せっかくですから、話にまじりに行きますか。)

 

提督はそう考えると、無遠慮に甘味処・間宮のドアを開くのであった。

 

 

「ギャップねぇ・・・。」

 

「そうそう、ギャップです。

 小さい赤城さんとか良くないですか?」

 

レ級と夕張は、未だにレ級の衣装について話し合っていた。

手元には、2杯めの餡蜜に加えて、ゼンザイまで置いてある。

そんな2隻の後ろから、提督がゆっくりと忍び寄っていた。

 

「レ級殿。夕張。なにの話をしているんですか?」

 

「おっ・・!提督殿。ちょっとコミックマーケットの話をしてるんだ。」

 

「あっ!提督!ちょうどアイデアに行き詰まってたんですよー。

 相談に乗ってもらえます?」

 

「かまいませんよ。夕張。

 それにしてもレ級殿、コミックマーケットですか。

 レ級殿もお出になるので?」

 

「んー、夕張と秋雲のお付き合いと、仮装の撮影にいこうかなーって。

 あれ?提督もコミックマーケット知ってるの?」

 

「えぇ、それはもう。

 私自身も、サークル秋雲の大ファンですから。

 ・・・夕張達が書いてる本、全て持っていますよ?」

 

「え”ッ!?・・・・・提督、もしかしなくても内容、読みました?」

 

「それはもう、隅々まで。」

 

一気に顔を青くする夕張。それはそうである。

何せサークル秋雲が出している本は、提督と艦娘の事情本だ。

そのうちの片割れ、本人が自分たちの本を全て読んでいたというのだ。

青くならないわけがない。

 

「ま、安心してください。そんなに私は気にしていませんよ。

 ご希望とあらば、私が直々にお話しましょうか?」

 

提督はにやりと夕張に笑いかけていた。

夕張は両手を前に出しながら、ぶんぶんと首を振る。

 

「い、いえいえっ、足りてます。じゃなくて!

 大丈夫です。問題無いです!」

 

「おや、そうですか・・・。

 それはもう生々しく隅々までお話しようかと思ったのですが。」

 

提督はにやりとした笑みを絶やさない。

そんな提督を見て、夕張は更に顔を青くしていた。

 

「て、提督?怒ってます?怒っちゃってます?よね?」

 

「あははは。怒ってはいませんよ。確かにモチーフは私なのでしょうが。

 漫画としては非常に面白いものです。この冬も期待していますよ?夕張。」

 

「あ・・あはは。わかりました・・・。」

 

提督はにやりとした笑みを浮かべたまま、夕張の顔を見つめていた。

夕張は苦笑を浮かべると、逃げるようにゼンザイを啜る。

 

「それはそうとして、夕張。

 私の事情のことではないとすると、相談とは何だったんですか?」

 

提督は夕張を見ながら、口を開く。

夕張はゼンザイを食べる手を止め、焦ったように口を開いていた。

 

「あっ、そうでした。」

 

夕張はゼンザイを置くと、提督へと顔を向けつつ、

ゼンザイを美味しそうにかっこむレ級を指差していた。

 

「レ級もコミケに連れて行きたいんですが、いまいち良い衣装がないんですよ。 

 どうしてもこの尻尾がジャマで・・・・。」

 

「あぁ、それならば、戦艦レ級として出ればよいのでは無いでしょうか?」

 

提督の何気ない一言に、レ級と夕張は動きを止めていた。

そして、全く同じタイミングで、叫び気味に言葉を提督に投げる。

 

「「えっ?でも、深海棲艦の情報って開示されてないんじゃ!?」」

 

2隻の言葉を受けた提督は、涼しい顔で返答を返す。

 

「あぁ、知らなかったのですか?

 最近写真と動画が開示されましてね。

 そこそこ深海棲艦の姿が広まりつつあるんですよ。」

 

「「そうだったの?」」

 

「えぇ、ですから、別にレ級がそのまま出て行っても

 『最近開示された深海棲艦のコスプレか』という具合で

 目立ちはしますが、混乱はしないと思いますよ。

 どうせ、夕張も他の艦娘の仮装をしていくのでしょう?」

 

提督は夕張を見つめていた。

見つめられた夕張は、提督を見返しながら、口を開く。

 

「えぇ、私は龍驤の予定ですが・・・・」

 

「それなら問題ないでしょう。

 深海棲艦と艦娘の仮装をしたサークル。

 それであれば問題無いと思いますよ。」

 

「なるほど・・・それならレ級。貴女はそのままでいきましょうか!」

 

「う、うーん。納得いくような、いかないような。

 でもまぁ、それでいいってんなら、このまま私は行くぜー。」

 

レ級は一瞬手をふると、笑みを浮かべ、言葉を返していた。

 

「決まったようですね・・・っと。すいません。

 私はそろそろ休憩時間が終わりますので、ここで失礼します。」

 

「提督、ありがとうございます。」

 

「提督殿、ありがとなー!っと、そういえば今日は誰と?」

 

レ級は何気なく提督に質問を投げていた。

提督は苦笑を浮かべると、頭を掻きながら、レ級へと返答を返していた。

 

「いえいえ、お気になさらず。同人誌と仮装、楽しみにしています。

 あぁ、今日は大和ですよ。最近放っておきすぎましたからね。」

 

提督はそう言うと、間宮を後にするのであった。

 

 

レ級と夕張は、提督が出て行った食堂で顔を見合わせ、大きく笑い声をあげていた。

 

「まさか提督がサークル秋雲亭のファンだったなんて・・・。あはは。」

 

と夕張、その顔は笑顔である。

 

「だなぁ。夕張と秋雲のサークルすげぇんだなぁ。

 そういえば、本って毎年どのぐらい配布するの?」

 

何気なしにレ級は夕張へ質問を投げかける。

夕張は首をかしげながら考えていたが、レ級の目を見据えてゆっくりと口を開いた。

 

「そうねぇ・・・。大体だけど、毎回8000部ぐらいは出るかしら。

 艦娘のリアルな事情を描くサークルって少ないしね。

 何より、本物の艦娘じゃないの?って噂になってるから、余計にね。」

 

夕張は苦笑を浮かべていた。

そう、何を隠そう、サークル秋雲亭は知る人ぞ知るサークルなのだ。

提督との情事をリアルに描く作品を毎度毎度常連のごとく配布し

それでいて、美人の作家2人が売り子であり、毎度毎度艦娘のコスプレをするのだ。

そして何よりも、実はこのサークル秋雲亭は

「艦娘」本人ではないかという噂も立っているのである。

 

「ほー、そうなのか。

 じゃあ今回からは、艦娘と深海棲艦が作っているサークルって噂立つかもなぁ。

 そうしたら、もっと配布数伸びるんじゃないのか?」

 

レ級は苦笑を浮かべる夕張を見ながら、笑顔で口を開いていた。

 

「うーん、私と秋雲からすると、そこで人気を高めたくはないのよ。

 艦娘じゃなくて、人間の作家として見てほしいの。

 作品が面白いって言ってほしいのよ。

 レ級だって、写真を褒められたいのに、

 レ級がとった写真だからすごい、って言われるの嫌でしょう?」

 

「あぁー、確かになぁ。

 褒められるなら色眼鏡なしでほめてほしい。

 まぁ、今の艦娘と深海棲艦の関係じゃ無理だろうけどねぇ。」

 

「それと同じようなものよ。

 私達サークル秋雲亭は、そんな艦娘のためのサークルなの。

 あぁ、だから、レ級。もしよかったらなんだけどさ。」

 

夕張は一旦言葉を区切り、レ級の目を見据えて口を開いた。

 

「今度、夏のイベント、レ級も本出してみない?」

 

「・・・私はイラストかけないぜ?」

 

「ふふ、そう言うと思ったわ。

 でも、さっきも言ったとおり、コミケって絵だけじゃないの。

 グッズもあるし、写真集もあるのよ。

 だからさ、レ級の撮った艦娘の写真を出すってのはどうかなって思ってさ。」

 

夕張の言葉に、レ級は目を見開いていた。

そう、レ級は初めて、深海棲艦の撮った写真というレッテルをはらずに

平等に写真を評価してくれる場を、見つけたのである。

 

「・・・ふふふ。いいなそれ!夕張ぃ!

 わかった、来年、私も本を出すぜ!」

 

「やった!レ級さん、期待してますよ!

 もし、製本するときにわからないこととかあったら、すぐに聞いてね。

 あぁ、それと、私達のサークルは18禁っていう扱いだから、

 過激すぎなければ、写真はほぼなんでもいけるわ。」

 

「へぇー。じゃあ、これは?」

 

レ級はそう言うと、タブレットを取り出し、

阿武隈の濡れ透け中破写真を夕張に見せていた。

夕張は一瞬顔を赤くさせるものの、まじまじと写真を観察する。

 

「んー・・・そうね、かなり肌蹴てはいるけど、具は出ていないから・・・

 問題ないと思うわ。ただ、これ以上の露出となると厳しいかなぁ。

 というかレ級さん、結構セクシーな写真持ってるんですねー。」

 

「ん、おぉ。砲弾投げ返し始めてから結構撮ってるぜ。

 他に金剛姉妹とか、第六駆逐隊とか・・・・。」

 

レ級はそう言いながら、タブレットを操作し、夕張に次々を写真を見せつけていた。

 

「わ、すごい。金剛さんもこんな・・・て、第六駆逐隊は完全に犯罪の匂いが・・・

 ってぇ!レ級さん、この写真はっ・・・!」

 

夕張は顔を真赤にさせ、一枚の写真に釘付けになっていた。

 

「あぁ、これか?この前の演習だぜー。

 模擬弾の至近弾食らって、夕張の上半身の服がふっとんだ奴。」

 

タブレットには、上半身が露わになり、

下半身のスカートも肌蹴ている夕張の姿が映し出されていた。

もちろん、濡れ透けどころか、ほぼ直球のヌード写真である。

 

「わー!わー!ここ食堂っ!写真隠してよ、レ級。早くっ。」

 

「あ、そうだった。ごめんごめん。」

 

レ級はそう言うと、タブレットの電源を落とし、格納庫へとタブレットを仕舞い込んだ。

夕張は真っ赤な顔のまま、レ級へと口を開いていた。

 

「まったく!いつの間にあんな写真を・・・確かにこの前の演習でああなったけど!

 ・・・って、もしかしてレ級さん、まさか写真集に

私のこの、半裸の写真を載っけるつもりじゃぁ・・・」

 

「あったりまえだろ?・・・今回、お前らは、私の情事本出すんだ。

 まさか嫌とは言わねぇよなー?」

 

レ級は夕張の言葉に、にやりと口角を上げながら、小さくつぶやく。

夕張は反論できずに、口をぱくぱくとさせるだけであった。




妄想捗りました。なんぞこれぇ。

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