カメ子 レ級   作:灯火011

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カメラを持った変なレ級と
呉鎮守府所属、よっぱなレ級ともお知り合いの金剛。

二人は無事、演習を終えたようですが
早速ドックへと叩きこまれたようです。


107 レ級と金剛さん、ファイッ アフター

「どぉーしてくれんだーこれー!」

 

横須賀鎮守府の崩れ去った建物を前に

頭を抱えながら、横須賀の提督は叫んでいた。

 

「落ち着きなさい。まったく、みっともないわね

 ここで演習を許可したのは提督殿、貴方でしょう。」

 

その隣には、カメラを持った白い深海の姫、

飛行場姫が苦笑いを浮かべながら立っていた。

 

「いや、そうですけれどもね。

 まさか工廠が一つ潰れるなど想定外ですよ」

 

「本当にそうかしら?

 この程度の事、予測してたのではなくて?」

 

提督は、飛行場姫を一瞥すると苦笑を浮かべていた。

幸いにして横須賀には、艦娘を建造できる工廠は

4つ存在していた。今回はそのうちの1つが崩壊した形である。

 

「・・・まぁ、良いデータは取れましたよ。

 レ級の、深海の船の強さとか、新型主砲の威力データとか、ね」

 

提督は飛行場姫を横目に見ると、帽子を深くかぶり、

口角を少し上げながらゆっくりとした口調で一人呟く。

 

「それに、金剛程度の錬度があればレ級を、

 ひいては最上級の深海の船を打倒せしめる可能性があると判りましたので

 ・・・大本営の方々には、満足していただけたかな、と」

 

「あぁ、なるほどねぇ。

 前の演習では、レ級が大和を完封しちゃったから

 大本営の皆々様が危機感をおぼえちゃって、

 私たちのアイアンボトムサウンドの拠点が

 艦娘総力の攻撃で、潰されちゃったんですものね」

 

「えぇ。そういう上層部の行き過ぎた行動の防止策、ということでも

 今回、金剛とレ級は良い働きをしてくれましたよ。

 ・・・・・ま、本人達には関係ない事ですけどね」

 

飛行場姫と横須賀の提督は、ちらりと

目だけを脇に向ける。

 

そこには、艦娘に担がれながらも、

血を垂れ流しつつ、笑顔のまま気絶し

ドックへ運ばれるレ級と、金剛の姿があった。

 

「あらあら。レ級も金剛も、ひどい有様。

 でも、いい表情ね。うらやましいわ。

 それにしても・・・提督殿、御免なさいね。そちらの貴重な資源を

 レ級の修復に充てて頂けるなんて」

 

飛行場姫は、気絶したままま運ばれているレ級と金剛を見ながら

ぼそりと呟いていた。

提督は、そんな飛行場姫を見ると、口を開いていた。

 

「問題はありませんよ。

 何より今回は、我が帝国海軍の正式な演習です。

 弾薬の補充から、船体・艤装の修理は

 全てこちらでやらせていただくのが道理でしょう。 

 しっかりと高速修復材を使わせていただきますから、

 今日中には、艤装・体共に完治致します。ご安心下さいませ。姫様。」

 

飛行場姫は提督の言葉を受け、目を見開いて、

呆気にとられたような表情を浮かべる。

なぜなら、いくら公式な演習とは言え、

高速修復材まで使用して深海の船を修理するなどという

非常識な海軍の行動に、驚くのも無理は無い。

 

一瞬の沈黙ののち、飛行場姫は只一言、

 

「男前ね。」

 

と呟くと、提督に美しい笑みを向けていた。

提督は、より一層帽子を深くかぶると口角を上げ

 

「それほどでも。」

 

と、一言、飛行場姫に返していた。

 

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バシャン、バシャン。

 

横須賀鎮守府のドックに、2つの水音が響き渡っていた。

 

何の音かといえば、意識が飛んでいるレ級と金剛が

高速修復材が溶け込んでいる修復ドックに、乱暴に叩き込まれた音である。

 

「全く、この2隻は一体なにをしてるんだか。

 演習とは言え、ここまでやるとはな」

 

レ級をここまで運んできた艦娘の一人である「菊月」は

ドックに浮かぶ金剛とレ級を見ながら、思わず愚痴っていた。

 

実際、金剛とレ級の状況はかなり危ない。

良く言っても虫の息であり、特にレ級に限っては

片目が潰れ、頭はぱっくりと割れていた。

もう少し戦闘が長びけば、間違いなく轟沈してたであろうダメージだ。

 

「だけど、菊月。レ級と金剛は、あれだけの戦いをして、

 命を落とさないのは、流石というしかないわね。

 確実に、耐久力と精神力は、私達の様な普通の艦娘を凌駕しているわ。

 ・・・正直、私ではこの2隻に勝てないわね」

 

金剛を運んできたもう一人の艦娘、「加賀」は

愚痴る菊月の顔を見ながら、口を開いていた。

 

「あぁ、それは私も痛感している。

 だが、金剛やレ級の異常さに甘んじてはいけないぞ、加賀。

 このままでは、金剛に常に重圧を背負わせ続けてしまう

 ・・・我々も、金剛以上の錬度を持たなければな。

 日々精進、あるのみだ」

 

「ええ。そうね、菊月。」

 

菊月と加賀はお互いにうなづくと、

レ級と金剛の演習風景を思い出しながら

いつか、この最高練度の金剛に追いつくことを夢見ていた。

 

隣のドックに

気持ちよさそうな寝顔を浮かべて横たわる

戦艦レ級を、若干睨みながら、ではあるが。

 

そして、少しの間の後、

菊月は加賀の顔を見ながら、口を開く。

 

「ふぅ、と、それはそうとしてだ、加賀」

 

加賀も、菊月の顔を見ながら、返答を返していた。

 

「なにかしら、菊月」

 

すると、菊月は自身の体と加賀の体を指さし

眉間にしわを寄せながら、口を開いていた。

 

「服を着替えたい。

 金剛とレ級の血液まみれでは、生臭いし、落ち着かぬ」

 

加賀も、そういえば、と

自身の体と、菊月の体を見直していた。

 

「そうね、別に金剛とレ級が治るまで監視していろ、

 という命令を受けているわけでもないわ。

 一旦部屋に戻って、着替えてきましょうか」

 

加賀と菊月はお互いに、レ級と金剛を担いできていたため

その体は金剛とレ級の真っ赤な血で染まっていたのである。

 

「それじゃあ、早速。加賀、またあとでな。」

 

「えぇ。それじゃあ。菊月も。またあとで」

 

菊月と加賀は、そういうと

軽く手をお互いに上げ、自室へと歩みを進め始めていた。

 

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「んんんぉー?」

 

加賀と菊月が去り、静まり返ったドックで

戦艦レ級の声が響いていた。

 

「やっと起きマーシたか。レ級」

 

「おぉ?おぉ。金剛。おはよう?」

 

「ふふ、おはようございマース」

 

金剛とレ級は、お互いにドックの縁に顔を預けると

ぽつぽつ、と会話を続けていた。

 

「それにしても、レ級。やっぱり強かったんデースねぇ。

 いつも写真ばかり撮っているから、想像できなかったデース」

 

「あはは。そりゃあ私も、伊達にフラッグシップになってないよ。

 でも、金剛も強かった。

 艦娘なのに、深海棲艦の姫ぐらいのパワーあるじゃん。」

 

「まぁ、一応は改装を2回受けてマースからね!

 それにしても深海棲艦の姫と同じぐらいのパワーですか。

 私もコツコツ鍛えたかいがありマーシタ!」

 

金剛とレ級は、笑顔のままでお互いに褒め合うと

照れくさそうに、2隻とも、顔を朱に染めていた。

 

「ふふふ、褒められると照れくさいデース。」

 

「あはは。私もだ。深海だと滅多にほめらんないからなぁ。」

 

「オオゥ。そうなのですネー」

 

笑い合いながら、ドックでじゃれあう2隻であったが

金剛がふと、疑問を口にしていた。

 

「そういえばレ級。今回は完全にカメラ置いてマーシたね。

 一個ぐらい持ってくるものかと思ってました」

 

「んん?あぁー。確かに一眼レフはおいてったよー」

 

レ級は金剛の言葉に手をひらひらさせながら答える。

そして、自身の尾っぽをドックの水面から出すと

砲塔の一つを指差しながら、口を開いていた。

 

「でもね。最近は便利なカメラがあってさぁ。

 ほら、これ。砲塔にくっつけてあるの。」

 

「確かに、小さいレンズがついてマスね。

 ですが、一眼レフの大きな本体が無いじゃないデスか。」

 

レ級が指を指した砲塔には、確かにレンズが見えるが

レ級がいつも手に持っている一眼レフ本体はついていなかった。

 

「ふふふ。そこは帝国海軍の技術力の提供を受けてね。

 この、レンズの根本にちっちゃいの付いてるの、判る?」

 

金剛は、レ級の言葉に注意深く砲塔を観察する。

すると、砲塔とレンズの間に、見たこともない

小さな筒が取り付けてあった。

 

「・・・んー?

 あっ、もしかして、この小さな筒デースか?」

 

「そうそう、この小さな筒が、あの大きなカメラの代わりなんだ。

 まぁ、性能は低いけどね。手ブレ補正とかの機能は無いし。」

 

「なるほどデースねぇ。・・・でもこれ、ファインダーも無ければ

 モニターもないデスけれど。どうやって狙いをつけてるんデス?」

 

金剛は、首を傾げながら、レ級へと質問していた。

 

「あぁ、それはねぇ。

 このカメラ、私の砲塔の測量儀と連動してるんだ。

 砲塔が、金剛の姿を捉えている間は、ばっちり

 金剛の姿が撮れてるって寸法なんだ。

 なにより、測量儀と連動してるおかげで

 正確にピントも合わせられるしなー。」

 

レ級は、金剛に砲塔を向けながら、解説をする。

確かに、測量儀が動くと、レンズのピントが動いていた。

 

「なーるほどデースねぇ。

 でもですよ?一眼レフみたいに

 撮った写真、確認できませんよネ?」

 

「あぁ、うん。出来ない。

 でもまあ、どんな写真が取れたかって

 楽しみにするのもまた一興かなぁって思ってさ」

 

レ級はそう言うと、格納庫から

お馴染みのタブレットを取り出していた。

 

「ふふふ、一応このカメラ、WiFi積んでるんだ。

 体と艤装が治る間に、一緒に確認しようぜ。金剛。」

 

レ級は笑顔でそう言うと、流れるように

「オリンパス」と書かれたフォルダをタップしていた。

そして、金剛も、笑顔でレ級に言葉を返す。

 

「あは。いいですねー。

 私がどんな姿で写っているのか、楽しみデース!」

 

「あはははん。まー、期待されても困るけどね。

 何せ初めて使ったし。」

 

レ級はそう言うと、早速写真を画面いっぱいに表示させる。

すると、そこにはただの海面が写っていた。

 

「あっりゃ。一枚目は失敗かぁ。」

 

レ級は苦笑しながら呟くと

次から次へと画像をめくって行くが、見事にピンぼけや

流れる風景しか写っていない。

 

「ムゥゥ。レ級ぅ。このカメラ駄目駄目デースよ?」

 

「ううん、だなぁ。やっぱり一眼レフが一番いいなぁ」

 

レ級と金剛は、ぼやきながらも、次から次へと画像をめくっていく。

そして、その数が50を越えようとした時である。

 

「おっ!」「あはっ!」

 

2隻は、タブレットのスクロールを止め

一枚の写真に釘付けとなっていた。

 

その写真は、

「金剛が、拳を振り上げながら、服をはためかせつつ突撃する姿」

であった。そう、殴り合いのさなか、レ級はしっかりと

金剛の姿を、捉えていたのである。

 

「やったぜ。しかもこれ、かなりの迫力だなぁ」

 

「デースね!画質も綺麗ですし、ピントもバッチリ。

 ふふふ、レ級、ナイスデースよ!」

 

金剛は笑顔でタブレットを見続け、レ級へと声をかけていた。

レ級も、初めて使う機材で、ココマデ良い写真が撮れるとは

思っていなかったのか、笑顔でタブレットの写真を見続ける。

 

そして、自身の尾っぽについているレンズとカメラを撫でると

にやりと、口角を上げていた。

 

「・・・このカメラ、改良が進めば、

 もっとアグレッシブに写真撮れるジャン?

 ふふふ、撮影の幅、広がるぜ・・・!」

 

レ級は、金剛に聞こえないように呟く。

既にレ級の思考は、次の段階へと向かっているようである。

 

「ふふー、レ級、いい写真とってくれて有難うございマース。

 ・・・そういえば、そのカメラ、私の砲塔でも使えるんデースかね?」

 

「横須賀の提督が言うには、艦娘用の装備の試作品、らしいぜ?

 ただ、このカメラは、私用に調節されてるから無理って話だけど、

 提督とかに言えば、金剛も使えるようになるんじゃないかなぁ。」

 

レ級の言葉に、金剛は笑顔を浮かべ、口を開く。

 

「ワァオ!それは素晴しいデース。

 レ級、もしもカメラの申請が通ったら、

 写真教えてくだサーイね!」

 

レ級は、金剛からの申し出に

驚きながらも、笑顔で言葉を返していた。

 

「おおっ・・・!?

 金剛もかっ。いいぜー。そんときゃ声かけてくれれば

 いつでも教えるぜ」

 

「レ級っ。ありがとうデースよー!

 ふふふ、俄然やる気がでてきましたヨー!」

 

金剛の元気な叫び声が、横須賀鎮守府のドックに響き渡る。

レ級はそんな金剛を見ながら、新たなカメコ誕生の予感に、

にやにやと笑顔を浮かべるのであった。




妄想捗りました。しっかりとカメラを持ち込むカメコさん。
案外、本気は出していないのかもしれません。

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