カメ子 レ級   作:灯火011

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前回、ニコンのカメラをゲットした大和さん。

そして、フィルムカメラのペンFをゲットしたフラレさん。

2人が、横須賀の街を闊歩しながら、鎮守府へと帰還を目指していくようです。



104 我道を往く戦艦レ級+α その3

ガシャン、ガシャンガシャン。

 

カシャッ。カシャッ。

 

夜の横須賀の街、ドブ板通りに、2台のカメラの音が響いていた。

 

片方は、背の高い、美しい黒髪が特徴の

大和と呼ばれる艦娘が持つ

日本光學工業株式會社のデジタルカメラ「D4S」。

35ミリフィルムと同じ面積を持つ画像素子を持ち

同社の中ではフラッグシップに位置づけられるカメラだ。

 

そして片方は、パーカーを着こみ、尾っぽを頭に乗せている

戦艦レ級と呼ばれる小柄な色白な少女が持つ

「ペンF」である。

こちらは、35ミリファイルを半分に使うハーフサイズカメラでありながら、

フルサイズカメラにも匹敵するような写りをするフィルムカメラである。

 

「レ級さんのカメラとはまた違いますが、良いシャッター音です。」

 

D4Sを持つ大和は、ファインダーから目を離すと

再生ボタンを押し、撮った写真を確認していた。

 

「わぁ・・綺麗っ・・・」

 

すると、カメラのモニターに

夜の闇夜に光るネオンと、街灯が建物と地面を照らし

昼間の横須賀とは全く違う街の顔が映し出されていた。

 

レ級も、ペンFのファインダーから目を離し

大和が持つD4Sのモニターを覗きこんでいた。

 

「おぉ!すっごいなぁ。流石、日本光學工業株式會社。

 ふふふ、大和ぉ。これは腕をみがかないとなぁ・・・!」

 

にこにことしながらレ級は、大和に話しかけていた。

 

「えぇ、これだけいいカメラとレンズを入手できましたから

 レ級さんに負けないぐらいの、良い写真を撮って見せます!」

 

大和は片手をグッと握りながら、力強く言い放つ。

そして、改めてカメラを構え、ファインダーを覗くと

カメラをレ級に向け、シャッターを押していた。

 

「おおっ!?大和っ。私を撮っても面白くないぞ?」

 

大和の行動に、びっくりしてレ級は口を開いていた。

 

「レ級さん、そんなことないんですよ?

 夜景と相まって、レ級さん、すごくきれいです」

 

大和は笑顔でファインダーを切りながらも

優しい口調で、レ級に話しかけていた。

レ級は一瞬だけ呆然とするも、少し苦笑を浮かべながら

大和に対して、口を開く。

 

「あはっ、そうかそうか。まぁ、うん。

 恥ずかしいけど、そういわれると、嬉しいな」

 

大和のカメラに向けて、体を向き直し

笑顔を見せる戦艦レ級。

 

その美しさといえば、一瞬、大和はファインダー越しに見える

レ級の可憐な姿に見惚れて、シャッターを切ることを忘れてしまうほどであった。

 

 

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夜独特の怪しげな雰囲気とライトの明るさが相まって

昼間見る光景とはまた違う光景が広がっている。

 

大和は、そんな横須賀のどぶ板通りを歩きながら

次から次へとシャッターを切る。

 

ネオンが光るアメリカ風のバー、

軍事品を扱うミリタリーショップ

ジャケットに張り付けるワッペン専門の店

 

素晴らしい夜の街の風景を写真に収めながら

大和は更にシャッターを切っていく。

 

戦艦レ級がミリタリーショップにおいてある

ジャケットを羽織り、試着し笑顔になる姿や

ネオンの店をにこにこの顔で撮影するレ級の姿。

 

「大和、この通りおもしろいなー!」

 

「ふふっ。」

 

大和は、無邪気にはしゃぎながらどぶ板通りを闊歩するレ級を

笑顔になりながら、次々とファインダーに収めていた。

 

と、その時、大和は、ファインダーの端に

よく見知った人物の姿を捉えていた。

 

「あら・・・?あれは、大本営の将校、さん?」

 

その人物は、大本営に出入りできる将校の一人であり

SN作戦を立案した人物の一人である。

レ級と飛行場姫にとっては、拠点を潰した人物の一人であり

大和にとっては、信頼できる仲間の一人である。

 

そんな人物が、ボマージャケットを羽織りジーパン姿の

完全プライベートな姿で、どぶ板通りの

アメリカ風のバーに入っていったのである。

 

「・・・レ級さん、ちょっとちょっと」

 

「んぁ?どうしたの、大和」

 

その時ちょうどレ級は、刃物屋で大きなナイフを手に取っていた。

店のおばちゃんが、刃物を持つレ級を見ながら

「あらぁ、小柄なのに力持ちねぇ」というと、

レ級は笑顔を見せ「そぉ?」などとのんびりと話している。

傍から見れば、ノンビリとした光景である。

 

「あは、レ級さん。刃物似合いますね・・・。」

 

カシャリ。大和はD4Sのシャッターを切り、

刃物を構えながらおばちゃんと話すレ級の姿をしっかりと残す。

 

「いただきました、っと。

 いえ、先ほど知合いの将校さんがそこのバーに入っていきましたので

 私たちも追いかけて、鎮守府までの道を聞こうかと思うのですが」

 

「おぉお!大和ぉやるなぁ!

 それならさっそく追いかけようぜ。あぁ、おばちゃん!

 この大きなナイフ頂戴ー。」

 

「はいよー。3万円になるよ。」

 

「はーい」

 

レ級は格納庫から財布を出すと、おばちゃんにお金を手渡していた。

そのままレ級は手慣れた手つきで、背中にナイフを背負う。

 

「いよっし。いいナイフゲットだぜ。」

 

大和は、にっこにこのレ級を見ながら、不思議そうな顔で問いかけていた。

 

「レ級さん、そのナイフ、何に使うんですか?

 レ級さんであれば、砲弾を投げ返せば戦闘には支障ないでしょうに」

 

「あぁー。いやいや、戦闘に使うんじゃないんだ。

 ほら、これ、かっこいいじゃん?ついつい」

 

「そういうものですか」

 

「うんうん。」

 

大和とレ級の2人は、会話を続けつつ、ゆっくりとバーの扉を開く。

カランカラン、と鈴の音が響くと同時に

店の中にいた人の視線が、レ級と大和の2人に集中していた。

 

「あっ。将校さん。こんばんは」

 

大和は、その視線の中から、カウンターに座る将校を見つけ

駆け寄りながら、笑顔で声をかけていた。

 

「これはこれは、大和さんではありませんか。

 どうされました?こんな時間にこんな場所にいらっしゃるなんて」

 

将校は、ビールを煽りながら

ソーセージをぽりぽりと食べていた。

 

「いえ、お恥ずかしながら、カメラを買いに来たら

 道に迷ってしまいまして。ご迷惑じゃなければ、

 横須賀鎮守府までの道をお教え願いたいのですが」

 

そういうと大和は、将校の隣に座り、店のマスターに向けてビールを頼む。

 

「バドワイザーでいいか?」

 

「かまいません。缶のままでいいですよ?」

 

「そうはいかねぇよ。美人さんにはちゃんとしたグラスで出さないと、ばちが当たる」

 

「あら、御上手ですね」

 

「おうよ。それじゃあ少し待っててな。後ろのつれも同じのでいいな?」

 

大和は慣れた口調で、マスターと会話を続けていた。

そんな大和の姿を見ながら、

将校は、ビールを煽りつつ、マスターと会話する大和に向けて、口を開く。

 

「鎮守府への道、ですか。

 えぇ、かまいませんよ。といいますか、軽く一杯飲んだら

 鎮守府に戻る予定でしたし。

 それにしても、カメラですか。」

 

大和は、手にするD4Sを将校が見ていることに気づき

カメラを少し持ち上げ、将校へと口を開く。

 

「ええ。これを買ったんです。

 日本光學工業株式會社っていう所のデジタルカメラです。」

 

将校はぐいっとビールを飲みほし、店員にもう一杯と注文を行う。

そして、ビールを待っている間、大和と会話を続けていた。

 

「ほほう。これはこれは・・・良いカメラですね。D4Sですか。

 日本光學工業株式會社のフラグシップカメラですね。」

 

「あれっ、将校さん。カメラ見ただけで判るんですか?」

 

大和は意外そうな顔で将校を見る。

将校は、照れくさそうに頭をかくと

大和を横目に見ながら、言葉を続けていた。

 

「えぇ、例のレ級の演習騒動以来、大本営の中にも

 カメラ好きが広まってしまって。

 かくいう私も、日本光學工業株式會社のD810を購入して使っているんです。」

 

「あはっ。カメラを始めた動機、私と一緒ですね。

 私もレ級さんの写真を見てから、カメラにはまっちゃったんです」

 

「あはは、艦娘に人間にと、写真とカメラで魅力するレ級ですか。

 あのレ級フラッグシップ改は不思議な存在です。

 戦争せずとも、深海の船と分かり合えるような気がしてしまいます。

 ・・・正直、レ級と飛行場姫を潰すために

 SN作戦を発案した身としては、

 良いやら、悪いやら、複雑なんですが・・・・」

 

将校は少しカウンターに目を落とし、暗い顔で呟いていた。

大和はそんな将校に、少し笑顔で声をかける。

 

「んー、戦争ですから仕方ないと思いますよ。

 レ級さんも姫様も、別にSN作戦で被害を受けたことを気にしていませんし。」

 

将校は、大和の言葉に、意外そうな表情を浮かべ、顔を上げ大和を見ていた。

 

「そうなのですか。そこらへんの情報がなかなか詳しく入って来ませんでしたので

 正直不安もあったんですが、そういうことなら少し安心できますね」

 

将校がそこまで発言したところで、

将校から少し隠れて様子を見ていたレ級が、

「人間と艦娘」には片言で聞こえる

少し昔のしゃべり方で、将校へ話しかけていた。

 

「マァ。一発グライハ、拠点ツブサレタオ返し、トシテ

 殴ッテモ、イイカナートハ思ッテルケド」

 

将校は、その言葉にびっくりしたのか

勢いよく声のした方向に体ごと顔を向けていた。

そして、声の主がレ級とわかった瞬間、

 

「ブハッ、なんだとっ!?レ級!?」

 

吹き出しながら、思いっきり叫んでいた。

レ級は、そんな将校の姿が面白いのか腹を抱え、笑う。

 

「あはははは!びびりすぎっ!

 なんだよ。私達こんなびびりに拠点つぶされたのかよ!」

 

びびり、という言葉に反応し、将校は眉間にしわを寄せ

レ級に食って掛かって行った。

 

「びびりとはなんだびびりとは!」

 

レ級ももちろん負けてはいない。

にやにやとした笑顔を浮かべながら、将校へ言葉を返す。

 

「びびりじゃねーか!

 ただの戦艦レ級に声を掛けられてびっくりするんじゃねーよ」

 

大和は、2人のやり取りをおとなしく見ていたが

思わず、口を開いていた。

 

「いえ、レ級さん、戦艦レ級を見てびびるなと。

 それは無茶があるのでは・・・・」

 

将校とレ級は、大和の言葉に、一瞬動きを止める。

そして、じとっとした目で大和を見ると、同時に口を開いていた。

 

「えぇー。大和ぉ。そこは「将校さん、びびりですね」って

 乗るところじゃないかー」

 

「大和さん。判っていませんね・・・」

 

「えぇっ・・・!?」

 

大和は、レ級と将校のまさかの反応に

困惑の表情を浮かべ、思わず呻いていた。

 

「はいよ、ビール3つ。美人さんに免じてソーセージタダだ。

 将校さん、あとそこのガキ、美人さんを困らすなよ?」

 

その光景を見かねたのか、バーのマスターが

3人分のビールを持ち、3人の前に立っていた。

片手に3人のビール、片手に茹で上がって美味しそうな香りを出す

ソーセージのスタイルである。

 

「おぉ!マスターイケメン!ありがとねー」

 

「申し訳ありません。煩くした上におつまみまでいただきまして・・・」

 

「ありがとうございますマスター。

 じゃれあいみたいなものですよ。いつものことです。」

 

レ級、大和、将校は、思い思いの言葉をマスターにかけながら

ビールを各々受け取り、ソーセージを受け取っていた。

 

「それならいいがな。ほどほどにしておけよー。」

 

ひらひらと手を振りながら、別の客の注文をこなすマスター。

その姿を横目に見ながら、レ級は将校へと口を開く。

 

「ま、それはそうとして、将校殿、鎮守府までの道は教えてくれるんだろ?」

 

「えぇ、大和さんからのお願いですからね。

 レ級殿一人であれば放置の案件です。」

 

レ級は、将校の言葉に思わず顔を顰め

将校へと顔を向け、口を開く。

 

「うぇ、ひっどいなぁ。」

 

将校は全くレ級を見ずに、正面を見据えたまま言葉を続ける。

 

「ひどくないでしょう。我々をさんざ苦しめていた敵なんですから」

 

「そーだけどさー。私は直接やってなぁいでしょー?

 写真撮りまくってただけなのに、拠点潰したのそっちじゃーん」

 

レ級は、将校の言葉に間髪入れず反論していた。

実際、レ級からしてみれば、誘われて演習に出てみれば

その数日後にいきなり大群で拠点を襲われたのだ。

だが、実際のところ、その理由はレ級の演習の結果のせいでもある。

 

「仕方ないではありませんか。大和と武蔵を軽く手玉に取られては。

 レ級殿が強すぎたんです」

 

「えぇー・・・・写真撮るにはあの位アグレッシブじゃないと・・・」

 

レ級と将校はぶつぶつと言い合い、まだまだ続きそうな勢いであった。

そんな2人を見かねた大和が、一言、音頭を取る。

 

「まぁまぁ、今はとりあえず、ビールがぬるくなってしまいますから。

 乾杯しましょう?」

 

「おっ、そうだなー。」

 

「ええ、そうしましょうか。

 レ級殿、せっかくですし、音頭をお願いします。」

 

「おっ・・・おおっ!?おぅ。わかった。

 んんっ。

 ・・・それでは、何の縁か、

 深海、艦娘、人間がそろった記念としまして」

 

「「「かんぱーい」」」

 

そして、将校はビールを飲みながら、

一つ、気になることを大和とレ級に尋ねていた。

 

「そういえば、ここ数日、深海の船が横須賀の近海に現れませんが

 レ級殿、大和さん。何かご存知で?」

 

大和はビールを少し飲むと、頭をかしげながら口を開く。

 

「さぁ、私は特に何も。レ級さんは何か知ってます?」

 

話を振られたレ級は、ポリポリとソーセージを食べていた。

そして、ソーセージを食べ終わり、ビールをグイッと飲んだ後

大和と将校を見ながら、ゆっくりと口を開く。

 

「あぁ。知ってる知ってる。

 姫が最近『我飛行場姫。横須賀への進軍は暫く停止せよ』って

 横須賀鎮守府の近場に偵察に来てた駆逐艦に命令してたよ」

 

「「へ?」」

 

「ええとね、なんでそんなことするんですか?って聞いたんだ。

 そしたら、『実戦が多いと演習少なくなるじゃない。

 写真を撮りたいのに、実戦が多くなっちゃ仕方ないでしょ?』

 って言ってたよ。」

 

「「あっ、そうですか」」

 

レ級の言葉に、大和と将校は呆気にとられながら

反射的に言葉を発していた。

 

「大和さん。私、このカメラ好きのレ級が、なんでこんなに自由なのか

 今わかった気がします」

 

「将校さんもですか。私もわかった気がします」

 

そして、大和と将校は、いい笑顔を浮かべながら、同時に口を開く。

 

「「レ級の上が元々自由でやんちゃだったからですね!」」

 

レ級は、大和と将校の言葉に、少し眉を顰めつつ反論する。

 

「・・・いや、大和、将校殿。

 飛行場姫様は私と違って真面目だよ?」

 

間髪入れず、大和と将校も、言葉を発していた。

 

「「レ級さんが言っても、全く説得力がありません。」」

 

「むー、そんなことないんだけどなぁ。

 あっ、ビールもう一杯お願いします。」

 

「レ級さん、早いですね。っと、私も同じものをお願いします。」

 

「大和さんもレ級殿も早いですね。あぁ、私は次はハイボールで。」

 

横須賀の夜に集う、SN作戦の立案者、実行者、被害者の3名(隻)。

ビールを飲み交わしながら軽口を叩き合うその姿は、

昔からの中の良い馴染みのような姿であった。




妄想捗りました。レ級さんが横須賀になじみ過ぎて可愛い。

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