カメ子 レ級   作:灯火011

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「戦艦レ級(カメコ)」

大火力をすべて捨て去り、その身体能力を艦娘撮影に全力で使う彼女。

今日はまた、艦娘と出会うようです。



12 第五回 海上撮影会(仮)

横須賀鎮守府の正面海域。通称「始まりの海域」。

全ての提督が初めて船を運用し、戦闘を経験した海域である。

誰しもが、海域に流れ着いた深海の駆逐艦を倒すことによって、戦闘経験を積み

そして新たな海域へと進軍していった。

 

そんな新人提督御用達の海域に、彼らでは絶対に太刀打ちできない

とんでもない深海棲艦が一人、カメラを持って立っていた。

 

御存じ、残念な深海棲艦、「戦艦レ級(カメ子)」である。

 

レ級は、最近飛行場姫にカメラを教えたり、他の深海棲艦の姫から撮影を依頼されたりと、

なかなかフルタイムで艦娘を撮影することができなくなっていた。

そんなさなか、今日は一日何も予定が入っていなかったため

昂る気持ちそのままに、日本最大の鎮守府である横須賀の正面海域まで進軍していた。

 

「久しぶリの横須賀ダー!今日ハ誰が撮れるかナァー!」

 

叫びながら海の上を滑っていく戦艦レ級。

その手には、70-200ミリ、F2.8の通しレンズが装着された

デジタル一眼レフがしっかりと握られていた。

 

「お!第一艦娘発見なリってナァ!あレはー・・・・。」

 

レ級はそう言いつつ、波間に隠れながら、カメラを構えていく。

ファインダーには、深海の駆逐級と砲撃戦を続けている菊月が映っていた。

 

「菊月か!横須賀じゃ見なかったから、最近移動してキタのかな?

 ・・・・おぉ、オぉ!善戦してるナぁ!」

 

ドォン、ドォンと響く音と共に、続けられる艦娘と深海の駆逐級との一進一退の砲雷撃戦。

レ級はその姿を撮影するために、カメラを構えたまま、近づきつつ人差し指でシャッターを切る。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

デジタル一眼レフの気持ちのよいシャッター音が周囲に響き

駆逐艦の艦娘、菊月の美しい姿が記録され行く。

 

深海棲艦の砲撃を紙一重でかわし、反撃を行う見事な姿。

砲撃を行った瞬間、綺麗な銀色の髪が舞い、なんとも言えない色気を醸し出す菊月の姿。

流れるように海面を移動する菊月、と同時に制服と髪が舞い、演武をしているような美しい姿。

 

そのどれもが際立った美しさを醸し出している。

 

「菊月はヤッパリいいナぁ。何か際立ツ美しさがアルなぁ。

 他の艦娘とはちょっと違うノかもしれないナぁ」

 

しみじみと呟きながら、撮影を続けるレ級。

そうしていると、深海の船が「ギャアアア」と叫び、真っ二つに折れ、深海へと沈んでいく。

それを見たレ級は、カメラを一旦仕舞い、胸の前で両手を合わせていた。

 

(決着カ。流石は艦娘だナ。このぐらいの我々でハ、全く歯が立たないンだなぁ。

 まぁ、憎しみも憤りも、後悔も全て忘れ、ゆっくり眠レ。駆逐級。)

 

レ級は、沈む深海の駆逐艦を見ながら少しだけ祈る。

両手を合わせる姿は、どことなく帝国海軍の軍人のようである。

 

(さて、それはそうとして。)

 

祈り終えたレ級は、カメラを構え、菊月にファインダーを合わせる。

ファインダーには。深海棲艦を撃破して、少し「ドヤ顔」をした菊月が映っていた。

 

「そのドヤ顔。いたダいた!」

 

レ級はそう叫び、カメラを構えたまま、菊月に突撃していく。

その顔は、楽しくて仕方が無いという、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

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鎮守府正面海域で、一人の艦娘が深海棲艦を一隻沈め、一息をついていた。

 

「また、強くなってしまった」

 

沈んでいく深海棲艦を見ながら、一人呟く菊月。

その姿は、戦闘のためか、少し汗ばみ、衣類は着崩れ

何とも言えない色気を放っていた。

 

「それにしても今日は、深海棲艦の数が少し多いな。

 主力艦隊、撃ち漏らし過ぎじゃないのか?」

 

菊月は額の汗を拭きつつ、一人ぼやいていた。

最近横須賀鎮守府に移動してきた菊月は

その経験を買われ、鎮守府の正面海域の哨戒任務についていたのであるが

何時もなら日に2隻から3隻の深海の船が

なぜか今日は午前中で既に5隻を超えていたのだ。

 

「戦闘経験にはなるから、別段問題はないがな。

 だが、一度基地に戻らねば。

 弾薬が心もとない。」

 

呟きながら、提督に連絡を取ろうと通信機を耳に当てる菊月。

ふと、目の端に何かが映った。

 

(ん?また深海の船か?

 まぁいい、まだ一戦ぐらいなら弾薬は持つ)

 

そう思って、何かの方向に首を向ける菊月であったが

目標を確認した瞬間、驚愕のあまり、体が硬直してしまう。

 

『そのドヤ顔。いたダイたァ!』

 

戦艦レ級が、叫びながらカメラを片手に突っ込んできていたのである。

その姿を完全に確認するも、全く反応ができない菊月。

 

カシャカシャカシャカシャ

 

ドヤ顔のまま固まっていた菊月に、レ級は容赦なくシャッターを切っていく。

その音にようやく自我を取り戻した菊月であったが

自身を撮影する深海棲艦を見ながら、呆気にとられていた。

 

(こいつは・・・例の命令書にあった「カメラを持ったレ級」じゃないか!)

 

菊月は単装砲のトリガーに指をかけるものの、

「先手の攻撃は禁止」という命令を思い出し

慌てて照準をずらし、戦艦レ級を睨んでいた。

 

(写真を撮るばかりで、本当に攻撃してこないじゃないか。

 やりにくくて仕方が無い)

 

菊月は、少し苦しげな表情を浮かべていた。

写真を撮りまくり、攻撃をしてこないレ級。

その対処に迷っていたのだ。

 

(むぅ・・・第一艦隊に通信か?

 いや、アクションを何か起こして攻撃される可能性も・・・。

 かといってこのまま撮影されるのも納得いかぬ)

 

カシャカシャカシャカシャ

 

戦艦レ級は、その間も延々と、菊月の姿を撮影しつづけていた。

その顔は、好きなことにのめり込んでいる艦娘

赤城や大和の食事の時の顔のようだと、菊月には思えていた。

 

カシャ・・・

 

シャッター音が止み、それに気付いた菊月は改めてレ級を見る。

すると、レ級は撮影をやめ、菊月を見ながら、口を開いていた。

 

『ソコノ艦娘、ナゼ攻撃シテコナイ?』

 

そのレ級を見ながら、菊月は完全に固まり

 

「なっ・・・しゃべっ・・た・・・だと・・・」

 

ただただ驚愕のまま、呟くことしかできなかった。

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(菊月本当ニ綺麗だワー。どれだけ撮っても飽きナいわー)

 

菊月の周りを延々動きながら、撮影を続けていたレ級。

だが、その姿に一つの違和感を覚えていた。

 

(あれ?そういえばナンで逃げたり、攻撃してこないんだろ?)

 

頭の中では、必死に砲撃を続けてくる菊月を撮影したいなぁと

考えていたレ級である。

その菊月は、こちらを睨みはするものの、一切砲撃を加えてこない。

 

(ンー?あれ、コレ。金剛ノ時もそうだった気ガ・・・?)

 

脳裏に浮かぶのは、金剛艦隊との接触の時だ。

あの時も確か、近づいていったけど、何もされず

逆に話しかけられたのではなかったか。

 

(もしかして、コの状況ハ・・・)

 

レ級はそう考え、一旦撮影をやめ、カメラを仕舞い菊月に向き合っていた。

すると、菊月もこちらを見つめ、制止していた。

もしかして、と

 

『ソコノ艦娘、ナゼ攻撃シテコナイ?』

 

レ級は首をかしげながら、菊月に話しかけていた。

以前は金剛から声をかけていたが、今回はレ級から声をかけると言う逆の構図である。

 

「なっ・・・しゃべっ・・た・・・だと・・・」

 

などという小さな呟きが聞こえ、顔は驚愕に染まり

菊月の体は、より硬くなっていた。その姿を見て、レ級は

 

『ソコマデ驚クナヨ。コッチハ敵意ハナイ。

 ソレヨリモ、少シ話サナイカ?』

 

笑顔で菊月に向けて言い放った。

その手には、いつのまにか取り出したのか

写真がたくさん入っているタブレットが握りしめられていた。

 

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鎮守府正面海域で、菊月と呼ばれる艦娘と、戦艦レ級と呼ばれる深海棲艦が対峙していた。

一見すれば、絶望的な状況であり、戦艦レ級に菊月が沈められる、そんな状況である。

 

だがその2人は、実のところレ級のタブレットを持ちながら、談笑しているだけであった。

 

「おぉ・・・!レ級、貴様、良い腕をしているな。

 礼を言おう・・・!」

 

レ級のタブレットの写真を見ながら、呟く菊月。

そこには、先程撮影された「戦闘中の菊月」の写真が映っていた。

 

『イイダロイイダロ?菊月、オマエハ他ノ艦娘ヨリモ撮リガイがアルンダ!

 美シイ髪、ソシテ美シイ機動。ドレヲ撮ッテモ最高ダ!」

 

レ級はそう言いつつ、写真を次々とめくっていく。

そこには、海の上を滑るように進み、美しい銀髪をはためかせる菊月の姿や

赤く綺麗な目を輝かせながら、敵に砲撃を行う美しい横顔などなどが収められていた。

 

「ぐっ・・・・そこまで褒められると恥ずかしいな・・・。

 それにしても、だ。戦艦レ級、これだけの数を、いつのまに撮影していたんだ」

 

レ級のタブレットには、数十枚、数百枚に渡る菊月の写真が格納してある。

それを見た菊月が、疑問に思うのも仕方が無いことであった。

レ級はあごに手を当て、少し考えていたようであるが

 

『ンー。毎日毎日ウミデ撮影シテタラ、コンナニ撮影シテタ。

 スゴクタノシカッタヨ!今日モタノシカッタシ』

 

にこにこしながら菊月に答えたのである。

その笑顔に一瞬見惚れつつも、

深海棲艦がこれでいいのかと思う菊月であった。

 

「そういえば戦艦レ級。他の艦娘の写真もあるのか?」

 

菊月は呆れつつも、レ級の他の写真を見たくなっていた。

なにせ、レ級の写真は深海棲艦が撮ったとは思えないほど

美しく、引き込まれるものがあるのだ。

 

自分以外の艦娘の写真を見たくなるのも、当然である。

 

『アルヨ。エートネェ・・・・。

 コレコレ。一日一枚、私ガコレダッ!ッテ思ッタ写真ヲ集メタンダ』

 

レ級はタブレットを操作しながら、「今日のベスト」フォルダを開き

菊月にタブレットの画面を見せていく。

 

そこには、大和や武蔵をはじめとした、数多くの艦娘の写真がこれくしょんされていた。

 

進軍していく様、戦闘中の美しい姿、濡れスケ、

中破・大破し出血するも戦闘を続けている艦娘

そして、轟沈していく艦娘。

 

あますところなく「戦場の艦娘」が記録されいてた。

菊月はそれを見ると

 

「これはすごいな・・・・。」

 

ただ一言つぶやいて、レ級の撮影した写真に見入っていくのであった。

 

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菊月とレ級が写真談議に花を咲かせているその頃。

鎮守府近海を進軍していた大和艦隊が、電探に2つの反応を見つける。

 

『電探に感あり!解析の結果、片方は駆逐艦「菊月」

 片方は・・・大型の深海棲艦と思われます!

 場所はかなり近いです!』

 

大和の電探の妖精から、艦隊に向けて報が届く。

旗艦である大和と、武蔵は互いに目配せを行い

 

「艦隊に告ぎます。我が第一艦隊と青葉は

 これより大型の深海棲艦へと進路を向けます。

 近くには菊月の反応があるため、戦闘中の可能性あり!

 各自、戦闘態勢を整え、警戒を厳とせよ」

 

大和は鋭い声で、隷下の艦隊に指示を下すのであった。

それと同時に、大和以下武蔵、赤城、加賀、雪風、島風、青葉が

電探の反応がある方向に、舵を切っていく。

 

(菊月が大型の深海棲艦といる。もしその反応がレ級というのであれば、

 件のレ級が本当にカメラ好きであれば、写真撮影されているだけなのでしょうが・・・

 もし、命令書がでたらめだった場合は・・・最悪ですね)

 

大和は最悪の状況、菊月が沈められているのではないか、

という事を考えながら、速力全開で電探の反応が合った場所へと向かう。

 

「赤城、加賀は偵察機で現状を空から確認してください。

 同時に、島風!あなたの速力で先行偵察を」

 

「「「了解!」」」

 

大和の命令で、赤城と加賀は艦載機を飛ばし、

島風は速力を上げ、艦隊から突出し現状を確認していく。

すると、赤城と加賀の艦載機が、菊月と戦艦レ級の姿を捉えた。

 

「大和さん。私と加賀さんの艦載機が菊月と「戦艦レ級」の姿を捉えました。

 ・・・特に戦闘は起こっていない模様です。

 ・・・え?なか良く話し合っているように見える・・・ですか?」

 

困惑の表情を浮かべながら、大和に状況を説明していく赤城と加賀。

大和もその報告を聞きながら、微妙な表情を浮かべていく。

 

そして、追い打ちをかけるかのように、島風からの通信が入った。

 

『大和聞こえますか。こちら島風でーす!駆逐艦菊月と、

 大型の深海棲艦を発見。艦種類は戦艦レ級です!』

 

「御苦労さま、島風。詳細の報告をお願いします。」

 

 『えーとですねー・・・・。あれっ、特に戦闘はしていません。

 もう少し近づいてかくにんしてみまーす!』

 

「気をつけて。相手は戦艦レ級です。戦闘が行われていないとはいえ警戒を厳としてください」

 

『了解でーす!」

 

島風と大和は通信を続けながら、現状を把握していく。

大和は更に微妙な顔になりつつ、武蔵に話しかけた。

 

「航空隊に続いて、島風からも報告です。

 特に戦闘はしていない、ということです。

 武蔵、貴女なら、どう見ます?」

 

話しかけられた武蔵は、手を組みながら思案し

 

「なんとも言えんな。

 状況からして、カメラを持ったレ級の可能性は大きいが

 正直情報が少なすぎるぞ。

 島風からの報を待たねば、なんとも言えぬ」

 

大和と同じような微妙な顔で、武蔵は大和にこたえていた。

すると島風から新たに通信が入ってきた。

 

『大和以下、みんな、聞こえますか?島風です・・・。」

 

若干疲れたような声を届けている島風。

そして、今回は大和だけでなく、隷下の艦隊全員に届くように通信を放っていた。

 

「視認距離まで来ました。その、えーとですね、驚かないでくださいね。

 現状は、菊月がポーズを取って、それを戦艦レ級が撮影しています・・・。』

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

島風から報告を受けた6隻は、驚きのあまりに叫んでしまうのであった。

 

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先程まで、写真を見ていたレ級と菊月ではあったが

 

菊月が「せっかくだからもう何枚か撮影してもらえないか?」

とレ級に頼み込んだ結果・・・・

 

 

「イイヨ!イイヨ!ソウソウ!単装砲ヲカメラニ向けテ、ソウ!

 モット鋭クニランデ、ソウ!」

「こうでいいのか・・・?」

 

カシャカシャカシャ

 

『次ハ海面ニ座ッテ、ソウソウ、アッ、女ノ子座リッテヤツデ、ソウソウ

 上目ニシテ、単装砲ハ股ノ間デ。イイヨイイヨー!』

「くぅ・・・恥ずかしい・・・」

 

赤くなる菊月。そして、それを延々撮りまくるレ級。

海上での1VS1の撮影会という、混沌とした空間が出来上がっていた。

 

鋭くカメラを睨みつけ、単装砲を向ける美しい顔。

女の子座りで上目づかいをする菊月。

赤い顔で見返り美人な菊月。

グラビアのように、4つんばいになり、女豹のポーズをとる菊月。

 

普段の戦闘では絶対にあり得ない写真が、タブレットに記憶されていた。

 

『フゥー。撮ッタ撮ッタァ!イイヨイイヨ!菊月ィ!』

 

レ級はあらかた思い通りの写真を撮ったのか、カメラを仕舞い、菊月へと近寄っていく。

その手には、今撮影したデータが入っているタブレットが握られていた。

そして菊月の前に立つと、おもむろにタブレットを差し出し

 

『コレ、コノ上目使イノ菊月ナンテ最高ダヨ!今日ノ一枚ニ決定ダ!

 アト、セッカクダカラ金剛トカニモミセテオクネ!』

 

レ級は笑顔で菊月に話しかけつつ、一枚の写真を見せていた。

その写真には「海面に女の子座りで座り、顔を赤くしながら上目づかいで笑顔を見せる菊月」

の姿が写っていた。

 

それを見た菊月は、

 

「ぐぬううう・・・なんなのさ・・・いったい・・・・!

 それと、頼む、頼むから、その写真は他の艦娘に見せるな・・・

 かわいい、とは思うのだが・・・・それよりも、恥ずかしい・・・!」

 

その瞳よりも顔を赤くさせて俯いたまま、呟やいていた

 




はかどりました。艦娘は誰しもがかわゆい。

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