fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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番外編 一話目 Newvegasを繋ぐ話となります。

ほぼ、NCR国内の話となります。


番外編
番外編 一話 双頭の大熊


 

大戦争から200年。

 

 

 

地球の大半を核の炎で焼き尽くした人類は残された先人の遺産を食いつぶしながら、その日の糧を得ていた。

 

嘗てのような栄華は残り香として漂い、廃墟に未だ垂れ下がる星条旗を見て思いを馳せる。大国であった頃の残骸が朽ちていく様は復興させようとする人々を追い立てた。

 

 

旧来の民主主義システムを復活させ、復興を成し遂げた新カリフォルニア共和国はその思いを具現化した存在と言える。西海岸のvaultにあったG.E.C.Kの天地創造モジュールを使用して、戦前のレベルにまで復興を為した。

 

NCRはマスターの指揮するスーパーミュータント軍やエンクレイヴ、B.O.S.との戦いにも勝利した。そしてアリゾナを収める部族、シーザーレギオンとの戦争を始めようとしていた。NCRはここ50年で大きな成長を遂げ、エンクレイヴがかつて使用するベルチバードや戦闘車両などを生産し、領土拡大を続けている。

 

 

 

モハビ戦線のNCR軍はロング15から核搭載トラックや輸送機型のベルチバードによって大規模な軍事物資を供給していた。老朽化した高速道路を日雇い労働者によってコンクリートで塗り固め、軍用トラックが行き来するようにした。ロング15は絶えず、トレーダーや武器商人、物資を守るために雇われたキャラバンガードや傭兵が居るかつてない市場規模となっていた。

 

 

第一次フーバーダムの戦い以降、コロラド川までの戦線は落ち着き、シーザーレギオンの敗退によって軍事物資の必要量の減少に伴って、ウェイストランドに商機を見出したキャラバンは東へと進路を取り、横切る軍用トラックを尻目に動いている。

 

ロング15の集積所の休憩場所には軍民問わず、多くの商人や傭兵、兵士でごった返していた。

 

 

 

「じゃ、再会を祝って!」

 

「第一偵察隊に!」

 

 

その一角の酒場にはNCR退役後に傭兵となった男二人が酒を交わしていた。彼らの装備はレザーアーマーに9mm弾を発射する、ジョン・ブローニングが設計したブローニング・ハイパワーがホルスターに収まっている。そこまでは巷の傭兵でも良く装備する物だ。だが、彼らの背には7.62×51mm弾を使用するハンティングライフルらしきものを背負っているが、そのライフルのフレームは強化プラスチックのマークスマンストックに変えられ、光学照準のスコープが装着されている。軍事訓練を受けた人間が見れば、狙撃のプロであることは人目で分かるだろう。

 

加えて彼らの頭には彼らのトレードマークである赤いベレー帽があり、それは現役のNCR兵が尊敬と畏怖の眼差しを向けられるほどである。NCRでは退役後も予備役として復員できるように彼らの籍を設けており、原隊の所属を顕す赤いベレー帽は彼らが精鋭であることを知らしめていた。。狙撃銃も一般の選抜射手の使用する官給品のマークスマンカービンではない、私物のボルトアクションライフルや限定生産された精度の高いライフルを使用するプロフェッショナルだ。

 

NCR軍の第一偵察隊はレンジャーなどの特殊部隊とは違い、狙撃を重視した部隊編成であり、スコープなどの補助照準器なしで700mの距離の標的を狙い撃てる、レンジャーでも稀な狙撃技術を持っている部隊だった。彼らはNCRで生産されるウィスキーを注いだショットグラスを傾け、一気に喉へ流し込んだ。喉と胃が熱くなり、ウィスキーの香りが鼻に通る。

 

 

「まさか会えるとは思ってなかったぞ。何年ぶりだ?」

 

「かれこれ3年じゃないか?」

 

男たちは退役後、別々の道を歩んだ。一人はロサンゼルスへ戻り、もう一人はサンフランシスコに住んだはずだった。だが二人は軍隊での生活と戦場が忘れられず、軍の請負も兼ねるキャラバンガードの道を進み始めた。NCR軍の請負傭兵として稼ぎ家族を養う彼らはそれこそ同じ業界であっても会うことは全くなかったが、丁度NCR請負キャラバンの護衛として雇われた時、一緒になったのである。

 

「・・・三年か。ついこの間まで古臭いフィールドジャケットに革製プレートの装備はどこ行ったんだろうな。軍の装備変わり過ぎやしないか?」

 

「だよな・・・・ここまで技術革新が進むとは思えないんだが」

 

2人の傭兵は口を揃えて言う。彼らの近くにはNCR軍の兵士が酒を飲んで楽しんでいたり、彼らの指揮官や輸送トラック運転手、ベルチバードのパイロットが居たが、どれも彼らが居た時のNCR軍とは殆ど違う装備になっていた。

 

 

彼らのかつての戦闘服(BDU)は荒廃した大地を想定して茶色の野戦服とバラモンの革を鞣して鉄製プレートを入れたプレートキャリアにて構成される。中には革でなく、布製であったり様々であり、頭部を守る昔の英陸軍を彷彿とさせるジャングルヘルメットに似たヘルメットや一部かつての米軍が使用するM1スチールヘルメットを使用していた。

 

核戦争前に製造されたコンバットアーマーやヘルメットの方が高性能ではあるものの、戦前のであれば劣化しており、一から製造するとNCRアーマー3着分のコストが掛かる。以前のNCRでも、全軍にケプラー繊維のアーマーを支給するのは難しく、レンジャーのアーマーのみ再設計されたパトロールアーマーが支給されていた。

 

「三年でこーまで変わるか?」

 

「・・・・奴らとの戦いでとうとうバラモン長者とvaultシティーの奴らが金をだしはじめたとか?」

 

今の彼らの装備はマルチカムと呼ばれるカーキ色とライムグリーンを基調とする新世代の迷彩を採用しており、布製のプレートキャリアに防弾プレートが入れられるようになっており、モハビ砂漠に適するようタンカラーのプレートキャリアを装備している。そして新たにMOLLEシステムを使用した弾倉ポーチをキャリアに装着できるような革新的なシステムが組み込まれている。以前のNCRアーマーより若干コスト高であるものの、製造工場が殆どロボットであるために、以前のアーマー以上に高品質なアーマーとなっている。そして彼らの被るヘルメットも耳まで覆うような第一次大戦時のドイツ帝国で使用され始めたフリッツヘルメットに似たケプラーを使用するヘルメットを採用していた。

 

 

これが違う世界でのアメリカ軍の装備を模したものであることは知る由もない。

 

 

「まだ、木製銃床とハンドガードのサービスライフルだけどよ。新しく新型ライフルのトライアルがあるらしい。ガンランナーや他の企業も参加しているらしいが、とある会社の近代化改修キットが採用されるらしいぞ」

 

「まさか・・・あの会社か?」

 

 

その話題を持ち出した瞬間、酒場に数名の傭兵らしき人物が入って来る。

 

「おい、マスター。ビール4つにイグアナ角切り頼む」

 

「あいよー」

 

入ってきた傭兵の腕には、鴉が翼を広げ、小銃を足で掴んだシルエットのパッチを装着しており、どこかの傭兵部隊の所属だと示していた。黒のBDUにタンカラーのプレートキャリア、ヘッドセットが装着できるよう、耳を覆う部分をくり抜いているヘルメットを被り覆面をする彼らは徴兵されたNCR兵から見れば、彼らの方が正規兵か身分を隠した特殊部隊に見えることだろう。

 

彼らは「Eagle Claw Security Company」イーグルクロウ警備保障という、最近になって現れた傭兵部隊の形である。戦線の縮小とシーザーレギオンの戦略転換によって、大軍と大軍の大規模戦闘は無くなった。しかし、レギオンは破壊工作やゲリラ戦に転じ、コロラド川以西の戦闘では物資輸送やパトロール部隊に被害が出ている。その穴埋めとして傭兵部隊の需要が増加し、治安維持や物資輸送、要人警護などの分野において市場が拡大しており、任務次第では高額報酬が見込まれる傭兵部隊に入った者が数多くいる。この会社以外にも戦争経済(グリーンカラー)に参入した民間軍事請負企業(PMC)が何社かあるものの、彼ら以上に装備が充実している傭兵派遣会社はいないだろう。

 

 

「払い卸で防弾ベストがあったが、かなり丈夫に出来ているぞ」

 

「レンジャーのバトルアーマーはどうだろう?やっぱり向こうが上か?」

 

NCRのベテランレンジャーは西海岸の軍や警察が使用するライオットアーマーを使用する。殆どは戦前のアーマーであるが、西海岸や州軍で使用されたコンバットアーマーと比べても耐久性や防弾能力など桁違いである。

 

男たちはウィスキーをショットグラスに注ぎ、二杯目を楽しみ、ツマミの角切りにされたバラモンステーキを頬張る。

 

「たぶんな、バトルアーマーはかなり高品質だと聞くぞ。軍のアーマーは次世代とはいえ、低コストなぶん、色々カバーしているからな。」

 

「それに最近じゃ、兵員輸送車や戦車がモハビにも送られてきているし、シーザーのクソ野郎共をひと泡吹かせられる」

 

ふと二人は酒場の窓の外にある駐機されたベルチバードや軍用トラックを見る。その傍らには装甲車や榴弾砲を搭載した自走砲らしきものも確認できた。ただ、これらは大軍にならない限り使用はできず、NCR軍情報部がもたらすシーザーレギオンの戦略転換、ゲリラ戦を用いた攻撃に対して、砲撃の効力はあまり期待できたものではない。ただ、ベルチバードの航空支援はこれらの攻撃の対処には非常に有効とされ、期待されている。

 

すると、そのうちの一人が思い出したかのように声を上げた。

 

 

「あ、そうそう思い出した。イーグルクロウ社の奴らにはいろいろと噂があるぞ」

 

相棒であった彼の噂好きを知っていた男は苦笑いを浮かべながら、顔を近づけ耳を傾ける。彼の言った話は殆どがデマや阿呆みたいな噂が殆どであった。赤黒い雲にそびえ立つカジノの話や巨大なクレーターを利用した謎の研究所、遥か彼方の東にある人造人間を製造する秘密結社。真実だと確認できない話は信じない達である男はかつての相棒の話を作戦中の暇つぶしとしてよく聞いていた。

 

 

「なんだ、酒の肴で聞いてやるよ」

 

男は得意げな笑顔で話し始め、その様子は近くのNCR兵やキャラバンが耳を傾ける。

 

「とある情報筋によるとイーグルクロウの拠点の一つにとある古い米軍基地がある。」

 

「ああ、聞いたことあるぞ。というか、ロスに居た頃新聞でイーグルクロウの拠点の一つがそうだったって書いてあった気が・・・」

 

 

「まあ、最後まで聞けって。・・・そこは州軍の施設なんだが、多くの資材や物資がまだたくさんあってな、特殊部隊出身の傭兵がそこを見つけて、それを資本に傭兵会社を成したってのは聞いたことあるだろうさ」

 

周囲はいつしか彼の話に耳を傾け、バーテンダーでさえ、グラスを磨くのを辞めて彼を見る。

 

「その資本と軍で培った伝を使って傭兵会社を設立して、軍の受注を受けるようになった。更に、事業を展開して旧軍の装備研究施設から試作の迷彩や装備を分析し、新たに軍需企業としても名を挙げた。ガンランナーや国営の兵器廠にも匹敵する。何故なら軍事施設にあったロボットを活用し、限りなく人件費を削って製造するからな」

 

キャラバンやNCR兵、果ては話中のイーグルクロウの傭兵までそれを聞き始めた。

 

「さて、ここで噂を伝えよう。多分何人かは聞いたことがあるだろう。イーグルクロウはもしかしてエンクレイヴとかかわりがあるんじゃないかっていう噂だ」

 

「聞いたことあるぜ」「ああ、大統領が人造人間だったっていうのもな」とヤジを飛ばすキャラバンやNCR兵、それに笑いが木霊する中、男は笑いながらも話をつづけた。

 

「そう、みんなも聞いての通りだ。だが、それを裏付けるのもある。彼らの軍事基地の装備や備品の多くにはエンクレイヴという文字や刻印、どこかの工場で作られたと思われる刻印があったらしい。」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。それはエンクレイヴの装備を接収したからであって、俺らがエンクレイヴだっていう証拠はないだろう?」

 

自分達をエンクレイヴだと訴える男に我慢できなかったのか、イーグルクロウ社の傭兵の一人である男が声を上げる。

 

「まあ、その通りだ。だが、彼らの運用するベルチバードはどうかな?あれを操縦するパイロットは?確か、今でもNCR軍の使用するベルチバードの操縦は元エンクレイヴのパイロットが教官だったって聞いたけど?」

 

 

「そ、それはだな・・・・・」

 

傭兵の男はそれを知らず、頭を抱える。彼は雇われの身であるため、そこまでの事は知らない。そもそも、傭兵の男も元NCR兵だったらしく、強襲部隊や輸送任務でなければベルチバードに乗ることはない。特殊な任務に就くことはない、至って平凡な輸送警護任務だけなのだから。

 

「まあ、あとはイーグルクロウ社の装備や武器は正規軍よりも上で尚且つ訓練も行き届いている。」

 

「装備はともかく、言っとくけど危険手当つくし、軍よりも給与はいいぞ」

 

傭兵は彼の話に意外と理解を示しているものの、自分自身も元NCR兵だったことからか周りの兵士に対して給与の話を持ち出す。その話をしたためか、周囲の兵士が何名か食いつく。何故なら、これからNCR領へ帰る者が大半を占めており、ベガスで給料の大半を費やし、財布が寂しくなっていた者達だからだった。

 

「まあ、ともあれイーグルクロウ社がエンクレイヴの可能性は高いかもな・・・・」

 

 

「ベルチバードを操縦している奴らはいわゆる一期生。イーグルクロウにあるベルチバードはやっぱりおかしいって思うだろう?・・・」

 

NCRが運用するベルチバードの稼働数は少なく、パイロットも少ない。戦前の遺物を扱うことのできる傭兵会社は珍しく、NCRのパイロットを高給で釣ってきたとも考えられなくもない。だが、男にはそういうたぐいの話は聞いてこなかった。

 

そもそも、NCRのベルチバードパイロットは脱走し、寝返ったエンクレイヴによって訓練された者達であり、NCRの重要部門には多くの元エンクレイヴが存在する。NCR政府はエンクレイヴの技術者を確保したいのに加え、戦争中の大量殺人に関わる兵士を逮捕すべく捜査をつづけており、イーグルクロウ社も捜査対象に入っているという噂があった。

 

「さて、みんなは信じるか?イーグルクロウ社がエンクレイヴの亡霊なのか・・」

 

男の問いに周りのキャラバンや兵士は答えらなかった。答えられそうなイーグルクロウ社の傭兵でさえ頭を掻き、「エンクレイヴの資材を使っていることは間違いないが、組織自体がとは言い切れないとは思う」と弱弱しく弁解するが、あまり力が入っていないことは明白だった。

 

 

NCRの急な装備の近代化。多くの資本を投入したNCR軍。正規軍より高性能な兵器を扱う「イーグルクロウ警備保障」、西海岸はある者の手によって正史から逸脱し始める。それはエンクレイヴでなく、「新アメリカ合衆国」ではない。あの男によるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アウターベガス

 

 

 

ストリップ地区の残りかす、肥溜め。廃墟。様々な呼び名があるが、Mr.ハウスが再開発をしようとしなかったエリアであり、そこではギャングや無法者がうろつく危険地帯である。キャピタル・ウェイストランドとは違って、そこそこ悪くない暮らしは出来るものの、それでもまだ底辺としか言えない生活である。そのアウターベガスの外れに位置する小さな医療施設があった。そこはベガスでも最古の建造物である「オールドモルモンフォート」と呼ばれ、呼び名の通りキリスト教を系譜とするモルモン教の建物だった。現在では建物こそ残っているが、その広い敷地にはアポカリプスの使徒と呼ばれる慈善団体がテントを何棟も建てて、市場価格に照らし合わせれば比較的安い価格で治療することができ、金のない者でもほぼ無償で出来るウェイストランドでは珍しい場所である。

 

「う~ん、やはりこれではだめか・・・・」

 

科学実験机の前の椅子に腰かけ、アポカリプスの使徒の白衣を着た男はフラスコの中の液体を揺らし、ため息を漏らす。戦前から普及している外傷万能薬「スティムパック」の代用品を見つけるため、日夜採取してきた植物などを分析し、似たような成分を作ろうとしていた。

 

戦前は大手のリー・ラピッド製薬会社が民生・軍事にスティムパックやヘルスディスペンサーなどの製造販売をしており、廃墟を探索すれば高確率で手に入る代物である。ただ、製薬会社や工場は破壊され、数も限りがあることからスティムパックに変わる新たな外傷薬の開発を急がねばならなかった。

 

スティムパックは複数種の興奮剤やナノマシンなどの高度な技術によって身体の代謝を促進させ、傷口を治す物である。モルヒネなど中毒作用のある薬品が混合された物も中には存在し、「スティムパック中毒」になる者もいる。ただ、文字が読めれば、それが医療従事者のみが使用できるタイプの製品である事やモルヒネが成分として含まれていることが判るので、俗説や都市伝説として戦前から言われていることであったりする。

 

そして、いかにもインテリで気難しそうなこの男はアルケイド・ギャノン。アポカリプスの使徒でも皮肉屋として名高き、知識人としてフォートでも一目置かれた存在であった。彼の目下の目標は低コストで最良の効果を出すスティムパックの製造だ。

 

「植物成分から抽出したのも効果はいまいちだったし・・・・軟膏としては使えるんだが・・・」

 

金髪の髪の毛を生やす頭皮をガシガシと掻き、分析結果が表示されたターミナルを凝視する。試作したザンダールートとブロックフラワーは外傷に塗ると傷口の保護と回復促進が見られたが、スティムパックほど回復は見られなかった。粉末状にした「回復パウダー」が既に市販薬として流通しており、アポカリプスの使徒の医療キャンプでも塗り薬として使用している。

 

これまで通り自然治癒に任せる他なく、アルケイドはヌカコーラを口に含む。

 

「NCRかBOS・・・・もしくは・・・・」

 

モハビの一大勢力となったNCRは戦前の製薬工場を復旧させ、スティムパックを製造している。現在は衰退し、モハビで見かけなくなったBOSも小規模ながらも製造設備があると聞く。そして、アルケイドの両親が所属し、今は亡きエンクレイヴ。

 

彼らであれば、これまで以上の医療品や物資を揃えられるだろう。しかし・・・・

 

 

 

「・・・・無い物ねだりはよくないか。」

 

 

 

スティムパックの他にも鎮静剤、抗生物質などの医療物資は不足しており、それを独自製造する目途は今のところ経っていない。目下、戦前の病院や倉庫から収集する他ないが、それも200年の歳月を経て無くなりつつある。独自製造によって供給をしなければならないだろう。

 

「アルケイド!お客さんだぞ」

 

同僚の一人である白衣を着た医師はテントのカーテンを開いて、彼を呼ぶ。思案に浸る彼を呼ぶことは滅多にないどころか、来客がくるのは本当に久々であった。

 

「おや、アル坊やも随分あの人に似てきたねー」

 

「デイジー!お久しぶりです」

 

デイジー・ホイットマン

 

子供のころからの付き合いがあり、オイルリグ破壊後にNCR軍がナヴァロに強襲して脱出した時も彼女が操縦桿を握ったベルチバードで脱出していた。子供の頃に見た凄腕のベルチバードパイロットはウェイストランドで長く生きる老婆となってアルケイドの前に現われた。アルケイドにとっては叔母も同然で、脱出した後も母替わりともいえるように多くのことを学んだのである。

 

「最近はどうだい?」

 

「まぁ、色々と大変ですが、楽しい仲間にも恵まれて忙しくやってます」

 

 

散らかっていたテント内を少し整えると、来客用に持っていた椅子とテーブルを出して、戦前のコーヒーマシンからコーヒーをマグカップに注いで、デイジーに渡す。

 

「悪いね~・・・・そういや、お前さんも結構良い歳なんだし女の一人ぐらい・・・・」

 

「・・・デイジー、僕があまりそういったの興味ないと言いませんでしたっけ?」

 

「あら、お前さん男に・・・・」

 

「いやいや、そうじゃないから。」

 

昔からこうやって人の事を弄る。叔母がいれば実際こんな会話なんだろうと思い出しながら、久々の会話を楽しむ。

 

ノバックの世話話やアウターベガスでのいざこざ等々。久々に会った二人の話は尽きなかった。

 

 

「そういえば、あの馬鹿オリオンから面白い話を聞いたよ」

 

「どんな話です?・・・・NCRが近々崩壊するとかですか?」

 

オリオン・モレノ。元エンクレイヴ降下強襲兵として、パワーアーマーを着こんで敵を吹き飛ばすのを生き甲斐とした愛国者だった。今はアウターベガスのさらに東にある廃屋でひっそりと暮らしていたが、アルケイドに会うついでなのか、彼にも会っていたらしい。アルケイドの冗談に鼻で笑いながらも、バラモンミルクで味を調えたコーヒーを飲むと、そっとホロテープを渡した。

 

 

「あの男、東へ行った奴らと交信したらしくてね。今じゃ『新アメリカ合衆国』と名乗ってるそうだよ」

 

「・・・・・まだ、あったんですね・・・・・」

 

アルケイドの声は沈み、苦悶の表情を浮かべた。

 

 

幼少期、アルケイドはエンクレイヴが全盛期だった頃はエンクレイヴの行動が正義であると思いこまされていた。アメリカ合衆国を再建し、再び栄光を取り戻す。プロパガンダにまみれたニュースや教育によって愛国心のある少年だったが、オイルリグの崩壊と故郷であったナヴァロを失い、今まで知らされていなかった事実を告げられる。

 

エンクレイヴによるVault居住者の人体実験。大量虐殺、強力な兵器での服従を強制。そしてFEV進化型ウィルスを改良し、偏西風によって人類を死滅させようとする悪魔の所業。アルケイドは自分の出身であるエンクレイヴに只ならぬ忌避を抱いていた。

 

 

だが、目の前にいるデイジーも含め、正しい倫理観を持った人たちも中にはいる。戦争中だったと割り切る者もいるが、多くはそのことを心の傷として抱いていた。それは年を経たアルケイドにも分る事で、彼らの望郷の気持ちは少なからず分かっていた。

 

「私も色々と話を聞いてみると向こうでも色々あったらしいが、それなりに良い国になっていると聞く。アル坊やも行ってみたらいいんじゃないかい?」

 

「向こうに合流するんですか?!・・・・でも・・・」

 

「分かってるさ、でもお前さんはまだ諦め切れていないじゃないかい?」

 

何をあきらめるのか。それはアメリカ合衆国の復興。

 

エンクレイヴの者であれば誰もが願うその思いは確かにアルケイドの中にもあった。だからこそ、エンクレイヴで学んだ知識を他へと伝えるためにアポカリプスの使徒へ入り、微力ながらもアメリカという存在を再び作ろうと思っていた。

 

「だけど・・・・エンクレイヴは・・・・」

 

 

「人道的でない・・・・悪逆非道なこともあったさ。私も今更許してほしいとは言わないよ。だけど、あのエンクレイヴ・・・いや新アメリカ合衆国はだいぶ様変わりしたようさね」

 

机に置いたホロテープの中身は知らされていなかったが、デイジーはお土産がまだあると言ってもう一つ、一枚の紙きれを置いた。

 

「もし、詳しい話を聞いてみたかったらキャンプマッカランに駐留するイーグルクロウ警備保障に話を通して。これを見せてね。多分なんとかなるはずだから」

 

「イーグルクロウ・・・・ってあの最新兵器をじゃらじゃらさせた例の傭兵部隊?」

 

噂に聞く練度が高く、そこらへんのNCR兵よりも規律や練度に勝るとも言われ、自前でそろえた兵器類はレンジャーでも苦戦すると言われるほどであったと聞く。アルケイドはその背後にエンクレイヴが居ることを知り、納得した。

 

「そうさね、部隊長に話をしてみればわかると思うわ・・・・ほかのレムナントメンバーに話してみたけど、まぁ私ら老兵はこのまま朽ちる方がいいかもしれないがね」

 

「向こうには合流しないのか?」

 

「わたしらがしたところで老い先短い私らだよ?国のためには働けないのは目に見えてる。・・・・モレノは例外だけどね」

 

「あ~・・・・」

 

ふと、厳つい鬼軍曹の降下強襲装甲兵を思い出す。大のNCR嫌いであり、いかに残虐な命令でも従う冷血漢でもあったが、彼はナヴァロの一件で一番心に傷を負った人物の一人だ。己が人として失格なのは自身でもよくわかっている。それでもなお、国のために自身を犠牲にした愛国者だった。

 

 

 

デイジーはノバックへ向かうキャラバンと共にアウターベガスを去った。彼女はその他にも軍用規格の医療品を大量に寄付していったらしく、ジュリー・ファーカスは歓喜していた。見た感じ、製造されて間もないものであり、NCR領内の工場で作られた規格のものではなかった。

 

アルケイドは研究が暗礁に乗り上げたこともあり、自身のベットに横になり思案する。デイジーからもらったホロテープには新アメリカ合衆国の位置や状況などが記録されており、大規模な復興作業が今も続いているらしい。もし、彼等がこのベガスで起きている紛争に介入することになれば戦いは避けられない。

 

 

一晩経った後、アルケイドはプラズマキャニスターを準備してNCR軍の管轄であるキャンプマッカランへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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シェイディ・サンズ

 

今ではNCRと呼ばれる、新カリフォルニア共和国の首都として栄えている。ただ、多くのNCR国民はこの土地の繁栄を誇りとし、あえてシェイディ・サンズと呼ぶ者が多い。かつて、ここは寂れた農村と呼ぶに相応しく、悪く言えば紛争地帯から逃れた難民キャンプの様相だった。ただ、ウェイストランド基準でいえば、幾分かましな方である。元々はVault15に住む人々が人口増加に伴って出てきた居住地であり、一般的なウェイストランド人と比べて高度な教育を受けていたことで、拡大を続けたのである。

 

 

高度な教育を受けたvault居住者。その中でも創設者のアラディシュ。そしてその娘のタンディはそのカリスマ性や人間性、ウェイストランドへ貢献する姿勢により人々を感化させた。

 

加えて、カリフォルニアはキャピタル・ウェイストランドと比べて中国軍の核攻撃目標が少なく、逆にアメリカ政府が西海岸に上陸を想定して防衛計画を練っていた経緯があったため西海岸は東海岸と比べ荒廃せずに済んだのである。戦争直前にエンクレイヴは中国軍の米本土攻撃作戦を察知しており、政府首脳陣はワシントンに近いレイヴンロックではなく、未だ石油資源が多く残るポセイドンオイルリグに避難したとされる。

 

 

NCRの首都。嘗てのワシントンDC、ペンシルベニア通り1600番地(ホワイトハウス)を知っているならば、シェイディ・サンズの官庁街の中央に位置する大統領官邸は瓜二つだと言うはずだ。さらに後方に位置する建物は旧カリフォルニア州議事堂、若しくは合衆国議会議事堂そっくりのNCR議会堂が見える。新アメリカ合衆国の都市整備職員が見れば涎を垂らすに違いない。

 

そして、更には工場で生産された核動力の自動車がアスファルトで舗装された道を走る。東海岸を除けば、一番復興が進んだ地域であることは明白だ。

 

五つの州都も同様に戦前のような街並みが広がり、幹線道路が整備され、着々と豊かになっていく。ただし、大戦争の発端となった資源不足はNCRの悩みの種であり、それは鉱物資源に限らず、人的資源にも言及できる。NCRは有能な人材ならば例え元エンクレイヴや元BOS、果ては頭脳と機械を融合させた変態科学者の知識ですら欲している。戦争犯罪を犯したエンクレイヴの将兵は刑務所や矯正施設に入るか、銃殺刑に処せられる。ただし、共和国に貢献できる技術者は恩赦を与え、その技術力を活用していた。

 

 

だが、その急速な発展はNCRを歪にし、政治家と資本家の癒着と汚職が広がった。その歪みはマフィアやシーザーレギオンの諜報、そして新アメリカ合衆国に付け入る隙を与えた。

 

 

「部長、調査報告書を纏めました。また一人シンパが増えましたよ」

 

そこはシェイディ・サンズ市街地の一角にあるオフィスビルだ。NCR国内の企業が一挙に集まる其処はビジネス街とされ、首都に本社を置く企業は多い。NCR創設の際、首都に本社を置くことで法人税を低く設定したことにより、多くの大商人や手工業者が集まり、戦前の企業を模倣して多くの会社が設立された。国策として建設されたビジネス街には多くの中小企業が軒並み集まっており、NCRを支えていた

 

質素なオフィスの前には「サクラメント信託銀行本社」と看板があり、中堅銀行ながら多くの軍需企業などに出資する成長を続けている会社があった。その一部門の一つである「情報システム部」の一室、「マリア・アンブロス - 情報システム部長」と立て札がある一室に部下が報告書を纏め、やって来る。

 

 

「よくやった・・・・・ってこれ汚職していた証拠か。これじゃ、そこらのマフィアと変わらんな」

 

「ダウンタウンのヤクザよりマシですよ。こっちはwin-win、向こうは搾取って感じですから」

 

黒のスーツを着こなしたラテン系の若い女上司は調査報告書を受け取り、ファイルを見ていく。そこには大手商社「クリムゾン・キャラバン」の取締役が映っており、その横には調査報告の主役であるNCR上院議員がいた。そこはダウンタウンのストリップクラブと見られ、スーツケースを渡している姿があった。勿論、スーツケースの中身はキャップ・・・・・・・ではなく、NCRドルである。

 

 

NCRドルはBOSの金鉱攻撃によって、金本位制を敷くNCRは急激なインフレに襲われた。最低値5ドル=2キャップで取引されるに至るが、NCRの工業化により、NCRドルはインフレから脱却し、1ドル=1キャップにまでなった。ただ、急激な工業化はデフレを伴う恐れがあり、NCR経済産業省はドル紙幣の増刷など、金融政策にも取り組んでいる。

 

領土拡大に伴う軍事費の増大は戦前のアメリカと同じく、軍需産業の成長と政治家の癒着も発生しており、既に外交政策よりも銃火を交える大統領の支持率は軍需産業の意向もあって、高まっている。巨大化したNCRは建国から100年も満たぬうちに罅が入りつつある状況だ。

 

「サルヴァトーレの口封じは終わった?」

 

「はい、ジョンソンの掃除チームが他の抗争中のマフィアの犯行に思わせるようにしました。」

 

「よかったわ。奴らに無線を傍受されたら面倒なことになってた」

 

ニューリノを拠点にしたサルヴァトーレファミリー。一帯を牛耳るマフィアであり、オイルリグ崩壊前にエンクレイヴが秘密裏に武器の提供を行っていた。見返りに労働や実験用の奴隷、麻薬といったものを取引していたが、オイルリグ崩壊後、混乱に乗じて彼らはエンクレイヴ軍の補給所を強襲。高性能兵器を使用するハイテクレイダーと化していた。NCR高官と蜜月の間柄だったため、表だった当局による捜査が行われることがなく、強奪した物資の中には現在でも使用する軍用無線機や暗号解読に関わるホロディスクなどが存在する。存在の露見は勿論のこと、強請や集りといった行為に及ばれれば諜報活動に支障が出る。そのため、その証拠もろとも消えてもらうことにしたのだ。

 

 

「モハビの状況はどう?」

 

「現在、イーグルクロウの機械化歩兵一個大隊を展開中。及び、空中騎兵一個中隊がキャンプマッカランにて巡回警備任務に就いています。ただ、近隣がフィーンドなどの薬物集団に度々被害を受けているので、高官に圧力をかけて爆撃を行おうとモハビ支部は考えているようです」

 

「なるほど・・・・ただNCRの軍備がかなり増強されているわね。我々が思っていた以上に厄介になるかも」

 

「まだ海軍能力は皆無ですが、空軍能力は着々と成長していますから。」

 

NCRは廃墟からサルベージした設計図を基に飛躍した工業力を駆使し、既に数個の航空隊を組織。対地攻撃能力のある攻撃機を出し、シーザーレギオンの軍事拠点への空爆を計画中である。だが、航続距離や実戦配備にはまだ課題が残り、核パルスジェットエンジンの耐久性などがあった。

 

「新型ジェット機の開発に圧力をかけて政財界の圧力で中止に。その代り、後援している兵器工廠にレシプロ攻撃機をトライアルに出すように」

 

 

「レシプロ機をですか?」

 

戦闘機といえばジェット戦闘機と思うのは当然だろう。だが、文明が荒廃した戦場において制空権を確保し、上空援護を受けられること戦術的に有利に立てる。敵からしてみれば悪夢の始まりである。航空機がアメリカの空から消えて二百年。レシプロ戦闘機のような骨董品でも、NCRの技術力ならば可能であった。

 

「ああ、そうなればモハビの戦いも有利に進められるからな」

 

「分かりました。NCR技術局と政財界のタカ派政治家に当たってみます。航空機については我々のダミー会社が製作することが出来るでしょう。近日中に企画部へ提案を行い、近日中に計画段階までもっていかせます」

 

 

報告書を渡しに来た部下は新たな仕事を与えられてオフィスを後にする。サクラメント信託銀行の仕事は多い。名前通りの顧客の預金から投資、軍需企業への賄賂、NCR政府の裏工作に至るまで。

 

 

表向きの情報システムの仕事ではなく、本国の中央情報局長へのメール送信の内容を吟味し始める傍ら、目の前から消えゆく姿を横目に見ていたが重要案件を思い出し、その場で呼び止めた。

 

 

「あ!そうだった!」

 

 

「ど、どうしました!?」

 

 

あまり、その光景に見覚えのない女上司の声にまだ若い部下の青年は驚いた様子で彼女を見る。

 

「NCRとレギオンが補給路にしようとしていたデスバレー要塞はあのあとどうなってる?」

 

 

「あれですか・・・・・()()()()()はNCRもレギオンの野蛮人たちも手を出していないみたいですよ」

 

「ディバイド?」

 

部下の言葉に疑問を覚え、オウム返しに聞き返す。その単語(Divide)は二分や分割すると言った言葉であり、彼女には見覚えのない言葉だったからだ。

 

 

「・・・・・・ああ、すいません。モハビでは、ホープヴィルやデスバレーの近くを割れ目の廃墟ということでそんな呼び方をするらしいです」

 

「作戦名で教えてくれんとわからんよ。・・・で本当かそれは?」

 

部下はモハビ支部から転属した若い将校であるからか、流行り言葉や通称で伝えてしまう。向こうでもそれで伝えていたようだが、「Divide」と言われても「割れ目」や「分ける」と伝えられて分かるはずもなかった。

 

「はい。ダムの防衛戦以降、両軍はあの場所を輸送路としていないのは確実です。・・・・NCRとレギオンのスパイ曰く、我が軍が試作運用したラッドリザードと放射能の砂嵐が輸送網を阻んでいるとかで」

 

「地下から攻撃することを前提にトカゲとモグラを掛け合わせた生物か。技術局は何を考えているんだか」

 

 

 

呆れ果てて頭を抱える彼女に言葉を掛けられない男は苦笑いを浮かべつつも、エンクレイヴが実施していた作戦を挙げた。

 

「まあ、長距離弾道ミサイルや東海岸を標的にする長距離弾道ミサイルを残さなかったので、野蛮人共は本土に核を撃たないとは思いますけどね」

 

「はぁ・・・・・・そうだな」

 

女上司は部下の面倒な感想にため息を漏らす。未だ、ウェイストランド人への差別はエンクレイヴに存在し、未だに根強く庶民の奥底に存在する。東海岸派と呼ばれた排他的絶滅主義の輩は廃絶されたが、それは表面上に過ぎない。エンクレイヴが長年やっていた差別排他的教育は隅々まで行き渡っており、そうそう覆すことは出来ないのだ。民主主義を復活させた新アメリカ合衆国の首脳陣でさえ、それを表立って報道することが出来ないため情報統制を行っている。

 

 

FEVや放射能に晒されていても、純粋な汚染されていないエンクレイヴ国民と比べても何ら違いはないウェイストランド人。エンクレイヴ、NCR、Vault、ウェイストランド出身。生まれがどうあろうと、大差ない人類。そのことを経験上よくわかっている女上司はため息を漏らしつつも頷く。

 

「そういえば、あの核ミサイルの火薬庫はどうなったんだ?デスバレーは戦前に弾道ミサイル発射基地となっていたはずだよな?前任者はどうやってあの場所を処理したんだろうな」

 

まだ拝命から日が浅い若きシェイディ・サンズ支部長だが、前任者は前エデン大統領時代に任命された人物。多くは前任者が築いた基盤を元にNCRへ根を広げているに過ぎない。

 

 

「それは三年前のクロスロード作戦ですか?」

 

支部長の秘書として任命された青年はその記憶力が特徴の生きるデータベースだった。女上司は現状の問題について解決する傍ら、秘書に任命した彼に前任者が残した負の遺産を清算するために彼に覚えさせ、それを解決する能力を付けるために解決策を事前に提示するよう宿題を出したのだ。

 

前支部長は東海岸派のタカ派の元軍人であったため、モハビではNCRやレギオン問わずに肩を入れして混乱を生み出し、彼女の頭を抱えていた。エンクレイヴの封印する軍倉庫を原住民に解放してザイオン国立公園を戦場にしてしまい、ビックマウンテン極秘研究所から漏れ出す危険虫類生物をウェイストランド人撲滅のため遺伝子操作を行い、繁殖できるよう工作するなど様々な爪痕を残した。

 

 

そして、クロスロード作戦という前任者が残した戦後最大の負の遺産。これが大戦争のない平和な時代であれば、歴史の教科書に載るであろう放射能汚染。モハビ・ウェイストランドで語り継がれる二人の運び屋の死闘に至るキッカケを作った人物であったとは誰も知る由もない。

 

 

 

「ああ」

 

「過去にNCR軍に所属していた運び屋が核の発射コードを持ち込み、基地を吹き飛ばしました。ただ、あの基地は巨大ですので、大陸弾道弾以外の核ミサイルなら生き残っているかもしれませんね」

 

旧カリフォルニア州デスバレー。二十世紀初頭にゴールドラッシュが起き、金鉱目当てに労働者が集まったが、第二次世界大戦前には廃坑となり、荒地の谷として放置された。二十一世紀には国立公園として整備されたが、思わぬことでこの地は注目された。

 

枯れた金鉱の奥には高濃度の軍事転用可能なウランが多くあり、資源枯渇が叫ばれていた当時、再び多くの労働者がくるキッカケとなった。暫くしてその鉱脈も枯れると、その鉱脈跡地に米軍が目を付けた。その枯れたウラン鉱脈跡地は核攻撃にも耐えられる岩盤を削ったものであり、対中国対策として大陸弾道ミサイル発射基地を建設した。2070年代には、カリフォルニアを中心とする西海岸に中国軍の上陸部隊が来ると予測した統合参謀本部は核搭載中距離弾道ミサイルを配備する本土をも焦土とする作戦計画を建てた。だが、その頃には中国の潜入工作員が潜んでおり、侵攻部隊に被害が出ると踏んだ中国軍は米本土中枢である東海岸への攻撃計画を建てた。結局本土にミサイルを発射することなく、エンクレイヴがそれを維持管理していたのだ。

 

オイルリグ崩壊後、東へ移動したエンクレイヴはNCRに利用されやすいホープヴィルミサイルサイロ基地を含めた、デスバレー秘密都市は弾道ミサイルの核の自爆によって崩壊した。

 

いつしか彼はファイルキャビネットからその時の資料を取り出し、彼女へ渡していた。「極秘」と印が押されたそれは担当者の名前と大統領と統合参謀本部の承認が得られたことが記されており、彼女はファイルをめくり、作戦の状況を見ていく。

 

 

「元NCRレンジャーの運び屋?・・・・・モハビ・エクスプレス?」

 

「ネバダ州で秘匿性の高い荷物や重要性の高い荷物を運ぶ運送業者らしいですよ。

今ではMr.ハウスが投資してNCR製の車両を使って大規模な輸送を行っているようです。前まではイーグルクロウに警備依頼が来ていましたが、自前の部隊を使用しているっぽいですね」

 

工業化を果たしたNCRを投資の好機と見たMr.ハウスはモハビ・エキスプレスを買い取り、NCR製の車輌を購入。ニューベガスの物流を一手に引き受けていた。それに伴い、市場の独占によって大手のクリムゾン・キャラバンやガンランナーの三強のみがモハビに生き残るようになった。ごく一部の中小キャラバンが居るものの、殆どはハッピートレイルキャラバンのように他の強豪企業の手の及んでいない地域へ足を運ぶしかない。だが、其れは分の悪い賭けでしかなく、NCRの支配の及んでいない地域は人食いレイダーや野蛮な部族、最悪の場合にはシーザーレギオンのプロフリゲート狩りに遭って生首を晒す羽目になる。

 

 

「Mr.ハウスは要注意人物だ。そのうち、カリフォルニアへ手をのばしかねん。・・・・それか、こちらの事を教えるべきか?」

 

「我々の存在をですか?・・・かなり危険な賭けだと思いますけど」

 

「Mr.ハウスは自分の砦に閉じこもっているが、奴の技術力や兵力はかなり未知数だ。それにシーザーレギオンの前線基地の下にはハウスの秘匿Vaultがある。それはVault-tec本社のメインサーバーでさえ情報がなかった。もしかすると、国防総省の地下にあった“あれ”があるかもな」

 

「え!まさかあれが!?」

 

BOSが修復させ、ジェファーソン記念館に立てこもる反乱軍を壊滅させた鋼鉄の巨人。戦術核と高出力レーザーを用いるアンカレッジ奪還のため極秘裏に建造したロボット。今は新合衆国政府の調査も終わり、BOS唯一の強力な戦力として保持しているが、新アメリカ合衆国に組み込まれることのない準軍事組織として依然として勢力を保っていた。軍内部ではリバティープライムを恐怖の対象として見ており、以前BOSを仮想敵として見てしまう所以があった。

 

もし、シーザーレギオンがあのロボットを発見すれば膨大な電力を生み出すダムは破壊され、モハビはシーザーレギオンによって砂に還ることだろう。

 

「資料によるとマスコミに騒がれていた巨大ロボットだ。使い勝手も悪いし、多分一個師団に相当する軍事ロボットが眠ってるだろうな」

 

「・・・・モハビ支部の報告によりますと、大戦争前にネリス空軍基地がかなりの数の軍事用ロボを発注していたようですが、当時の史料を掘り返しても管理記録や部隊に所属された記録も一切ありませんでした。」

 

「・・・・・となるとMr.ハウスはかなりの私兵部隊を揃えているみたいだな」

 

既にニューベガスストリップ地区ではMr.ハウスのRobco社製PDQ-88bセキュリトロンが多く配備されており、その多くが治安維持のために動いている。総数はおよそ一個大隊規模であり、ニューベガス全体をカバーしているとみられる。そしてフォートにはその三倍、一個師団規模のセキュリトロンがMr.ハウスの命令を待っている。

 

 

改めてMr.ハウスの脅威が理解できた彼女は残りの目の前の書類に目を通す。

 

「モハビ支部が応援を要請したら、すぐバックアップできるよう人員にもたしておけ」

 

「了解です・・・・あ、そうでした」

 

「ん?どうした?」

 

「さっきのデスヴァレー要塞ですが、放射能汚染の砂嵐がひどく監視衛星も基地を確認できなくなっています。」

 

「・・・・ん?ちょっと待て。さっきNCRやレギオンの奴らが手を出していないってどうしてわかる?」

 

さっきの秘書の話では、さも見て来たかのような言い方であった。確認できないのであれば、どうして奴らが基地を制圧していないと言えるのだろう。

 

「NCRとレギオンの兵站情報は随時、諜報員から送られていますが、作戦実施以降は兵力の投入は無駄と判断したようで、双方ともに部隊を派遣してはいないようです。・・・ただ・・・」

 

「ただ・・・どうした?」

 

 

秘書官の言いよどむのを怪訝に思った彼女は問うものの、秘書官は苦い顔を浮かべつつその問いに答えた。

 

 

「砂嵐で生き残ったNCR兵やレギオン兵がフェラル化したとの報告が上がっていました。武器は使うものの、技術者は軒並み死亡しているのでミサイルの使用はできないと考えられます。ただ、何者かが軍事ネットワークのリンクを遮断して、アイボットや監視ドローンの使用、遠隔操作が出来なくなりました。核爆発によるEMPの可能性もありますが、誘爆による物理的な破損の場合も考えられるかと」

 

「・・・・・何やってるの!それじゃあデスバレーの状況が分からないじゃない。今すぐモハビ支部に連絡して、あの場所の状況確認を!」

 

「りょ、了解しました!スタウベルグ少佐!」

 

「・・・・私はマリア・アンブロスよ。次、間違えたらピッツバーグ刑務所で看守やらせるから」

 

マリア・アンブロス改め、アリシア・スタウベルグは秘書の青年に対して、青筋を立てながら新アメリカ合衆国の中でも、凶悪犯を収容して鉄溶鉱炉で働かせている刑務所に左遷するぞと脅す。その看守の仕事は非常に危険な仕事であり、ピッツバーグ市街は未だにその土地特有の伝染病に侵されたミュータントが発生しており、頑丈なビルを要塞化していた。

 

 

「マジっすか!・・・・支部長それだけは勘弁してください!」

 

「ならちゃんと働きなさい。しっかり働けばご褒美あげるわ」

 

 

「ご、御褒美?!」

 

美人で有能な女上司からご褒美を頂けると言われる。部下の男にとってそれはいろいろな考えが巡り、思慕を募らせる秘書官にとっては驚きと興奮があった。

 

ただ、運命は残酷なもので、秘書官が勘違いしたことを察し、小悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「残念だけど、私には付き合っている人が居るから。あなたに良さそうな子紹介してあげるわ」

 

「・・・・・あっ・・・・そうですよね・・・・ははっ・・・」

 

 

漫画・アニメ調に表現するならば、青い縦線が彼の頭から背中にかけて引かれ、どんよりとした雰囲気が彼の周りを包み込む。報告の終わった秘書官は恋破れ、敗残兵の如くゆっくりとした歩調で帰っていく。

 

アリシアは「まだ若いな」と呟き、先ほど渡された資料の中にあったモハビ・エキスプレスと“例の運び屋”の身元を確認する。

 

 

「次はモハビが戦場ね・・・・誰が勝ち、誰が負けるのか。チップを多くベットした者が勝つとは限らないわ」

 

 

オフィスの窓から見えるNCR官庁街を眺めつつ、遠くから見える靡くNCR国旗を眺める。広場の隅にあるフラッグポールのてっぺんに付けられた国旗は双頭の熊ではなく、嘗て大陸に君臨していた星条旗が翻る。

 

だが、その星条旗は逆さに掲げられ、薄汚れて綻んでいる。白の生地は黒く汚れ、200年の歳月を経た旗。今にも消えてなくなりそうなそれは、今のアメリカを象徴していた。

 

 

 

 

逆さの星条旗。

 

 

 

それはかつてのアメリカで決められた救難信号。生命や財産が奪われる危機的状況に助けを求めるそれは、NCRが建国したすぐに掲げられた。

 

 

 

 

大戦争から200年。星条旗(アメリカ)は未だ逆さのまま、荒涼とした土地で少ない資源を求め争い合う。

 

 

 

人は……過ちを繰り返す……

 

 

 




批評・感想大歓迎です


Newvegas編はもうちょい先になるかと。


仕事で色々ありまして落ち着いてから書き始めたいと思います。


DLC編は後々アップ予定です。

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