fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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九月に投稿すると言ったが、あれは嘘だ←

すいません、間に合いませんでした。

クーデターの雰囲気が分からず、いろいろと文献や映画に手を出して見ていました。上下で区切るつもりですが、最後の決戦もやるつもりですのでよろしくです。

サブタイトルの「coup d'État」ですが、フランス語でクーデターです。語源もフランス語のようですね


四十三話 coup d'État

 

 

 

 

 

 

 

「大統領が撃たれた!救急車を早く!」

 

 

 

「スナイパーだ!外周部の警戒部隊は何をやっていた!」

 

 

 

(皆様、慌てず落ち着いて行動してください!)

 

 

パーティーという、豪華絢爛な催しはたった一発の銃弾で混沌と恐怖に支配された。シークレットサービスが無線で応援を呼び、壁から無理やり取り外したと思われる救急箱から止血剤を取り出して、吹き出す白い血液を止めに掛かる。人間の血液の色ではないそれは、その場にいる人間すべてに見られていた。そして大統領は既に息絶えていることも。

 

「アリシア、どうする?」

 

「・・・作戦変更だ、会場から脱出する。私についてきてくれ。私が発砲するまで演技を続けて」

 

大統領を暗殺した後、変装した状態で脱出するつもりだったのだから他の人物が暗殺したとしてもやることは変わらない。

 

人垣をかき分けて、会場の出口へと移動する。しかし、既にシークレットサービスが出口を固めていた。そのため、アリシアは来賓の出入り口ではない料理搬出用の出入り口から出て行くことにした。会場から出る扉を出ると、案の定非常事態なため警備兵は一人もいない。民間人らしきウェイターも呆然と立ち尽くしていたり、近くの仲間と会話をしているようで、こちらに注意を向けていない。

 

アリシアはそのまま搬出口から出て行くと、ポンプ室らしき部屋に俺の手を引っ張り入る。若干蒸気が漏れ出ていて蒸し暑い部屋だったものの、扉を閉めるとアリシアはロッカーから白い衣服を渡してきた。それはさっき会場内で料理を運んでいたウェイターの制服だった。アリシアは変装を取れと言い、俺は耳の裏の突起を掴むと一気に剥がしに掛かった。薄く、ゴムの形状のそれは一気に剥がれていき、元の顔が露わになった。

 

佐官服を脱ぎさると、急いでウェイターの服に着替え直す。黒のズボンに白いシャツとネクタイ。黒のエプロンという姿で、女性用はタイトスカートだ。アリシアのスカート姿に慣れないだろうなとふと後ろを向くと士官服を脱ぎさるアリシアの姿があった。彼女は黒のブラジャーを付けているが、そこから見える双丘は綺麗な曲線美であr・・

 

「何見てるの!急がないと」

 

といつも以上に急がなければならないのに見てしまうのが男の性である。アリシアの真面目な一面だけでも見れたので良しとしよう。

 

「まったく、これだからもう・・・」

 

と呆れ顔で俺を見る。彼女はさっさと着替えを終え、俺はズボンを履き替えて22口径ピストルをズボンの中に隠す。

 

アリシアはゆっくりと外に出て誰もいないことを確認すると、俺を手招きして安全であることを知らせた。

 

通路には誰もいないため、アリシアに連れられて通路を曲がり厨房近くにあるエレベーターのスイッチを押す。

 

「エレベーターを降りると、迎えの装甲車が控えている。そこから司令部に向かう。多分、強行突破だから注意して」

 

そう言うと、アリシアはエプロンで隠していた9mmピストルを構えた。

 

「アリシア、無事に帰ったらもっと良い銃作ってやるよ」

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

22口径ピストルの安全装置を解除して、それを構えると、エレベーターが開かれた。下は食品を納入する駐車場として機能するらしく、軍用トラックのほかに民間に供与されたトラックや要人用の黒塗りキャデラックが見ることができた。しかし、迎えの装甲車らしき車両は待機していなかった。

 

仕方なく、アリシアは出口に近い場所で待機しようとエレベーターから出た。

 

「クリア。行くぞ・・・・」

 

「おい、そこで何やってる!」

 

安全だと確認し、エレベーターから降りたそのときだった。駐車場の向こう側にあった来賓用のエレベーターホールには現場封鎖のためにシークレットサービスが警戒に当たっていた。既にウェイターは業務を停止して、どこかに集められていたのかもしれない。俺たちを見た彼らは手に下げていたバックのようなものを振り、サブマシンガンのような銃が現れた。

 

 

「FMG―9かよ!?」

 

銃器メーカーMAGPUL社が開発した折りたたみ短機関銃FMG-9は、折りたたむと工具箱などに偽装できる。銃の形は威圧するため、要人警護に用いられるよう設計された。この世界にはその会社は存在しないはずだったが、誰かが似たようなことを考えたのかもしれない。一瞬でサブマシンガンを組み立てたシークレットサービスは引き金を引き絞り俺たちに銃弾の雨を降らせた。

 

急いで左にあるロールスロイスの車に隠れ、銃弾に当たらないように22口径銃を発砲する。威嚇のためとはいえ、銃声すら聞こえない弾は威嚇とはほど遠い。アリシアは牽制で9mmを発砲すると、陰に隠れた小口径の弾丸が車体を弾痕で傷つけていく。

 

 

「pip-boyがあればな!」

 

「ないものねだりはするな!あきらめろ!」

 

と9mmピストル狙いをつけず、奴らのいる天井へ銃弾を撃ち込み、蛍光灯の破片を降らせた。

 

「迎えは?」

 

「もうすぐ来る!」

 

シークレットサービスは銃撃を加えつつ、じりじりとこちらに近づいてくる。22口径は牽制にはならないものの、反動の少ないそれは精密射撃に向いており、サブマシンガンを乱射するやつの頭に狙い引き金を引くと、狙い通りの場所に命中し、マシンガンの乱射は止まった。

 

「よし!・・・っと!」

 

命中したことを喜ぼうとしたが、車の陰から何かが飛びかかってきた。それはにじり寄ってきたシークレットサービスらしく、俺に飛びかかると馬乗りになり、持っていたコンバットナイフを振り下ろしてきた。

 

「ここで死んでたまるかぁ!!」

 

振り下ろしてきたコンバットナイフを自分の頭上にずらし、コンクリートにナイフがぶつかり、ナイフがはじかれる。持っていた二十二口径拳銃を襲ってきた男の顎に向けて引き金を引いた。極限まで銃声を押さえられた弾丸は顎から脳髄を突き抜け貫通する。ロールスロイスのフロントガラスに脳漿が飛び散り、男の命は潰えた。横に男を投げ捨て、腰に装着していたらしい10mmピストルを抜き取り、近づいてきていたシークレットサービスの伏兵に対して引き金を引く。こちらに銃口を向けられるとは思わなかった男たちは放たれる10mm弾に引き裂かれた。

 

 

警報装置が作動し、周囲に機械的な警告音が鳴り響いた。その状況がさらに悪化したことを告げ、空になった弾倉を交換し、死んだシークレットサービスの男から予備弾倉を抜き取って装填し、スライドを戻す。

 

 

「迎えはまだ!?」

 

「もう少し!もう少しで迎えがくる!」

 

重武装のシークレットサービスが駆けつけ、さらに弾幕が濃くなっていく。エレベーターから敵が来なかったことは幸いで、最初の敵の銃撃によって配電盤あたりを撃ち抜かれたそれは火を噴いて、この階に鎮座していた。だが、来賓用エレベーターホールは防護シールドを構えた警備兵まで来る有様で迎えが来なければ本当にジリ貧だ。

 

 

10mmの弾倉は残り数発で弾が切れるだろう。蜂の巣になりつつあるロールスロイスの車の隙間から銃撃を続ける警備兵に向けて撃とうと構えるが、緑色の閃光が車の後部ナンバーに命中し、異臭とともに溶け出した。

 

「パワーアーマー兵だ!」

 

「万事休すか・・・」

 

プラズマライフルでロールスロイスの車を溶かしていき、そのプラズマ弾は隠れているこちら側を溶かし尽くす勢いだ。

 

「銃弾よりもプラズマは勘弁してほしい!」

 

 

牽制で数発パワーアーマー兵に撃ち込むが、厚い装甲故に甲高い金属音とともに銃弾はどこかへ飛んでいく。やつが本気ならば一気に突入すればこちらを殺せるはずだ。前は特殊な徹甲弾を装備していたから、難なく奴らのパワーアーマーを装備する兵士に一撃を加えることができた。だが、今はそれがないため、彼らは文字通り人型戦車としての性能を発揮している。拳銃しかない俺たちにとってそれは死に神にも等しい存在だ。

 

ついに10mm弾が底をつき、9mmの弾丸も底をついたアリシアと俺は互いの顔を見合わせる。

 

 

「なあ、迎えは?」

 

「もしかしたら、やられたかも・・・・・」

 

「あの中間管理職め。仕事をしっかりしろよ!」

 

物腰が柔らかくなってしまったオータム大佐だが色々と忘れてしまったのではないだろうかと考えてしまうような不手際。俺たちがエレベーターから降りたらすぐに装甲車に乗れるようにすればいいのに。

 

(無駄な抵抗は止めておとなしく投降せよ!命は保証する!)

 

拡声器を使った警備兵は防護シールドに守られながらもこちらに声を送ってきた。

 

(諸君らは陸軍の所有物を破壊し、大統領の命を狙ったかもしれん。今投降すれば、弁護士はつけるようこちらからも願い出る。だから手を挙げて投降せよ)

 

「大統領親衛隊(シークレットサービス)が私たちを生かすとは思えないな?」

 

「たぶん、拷問に掛けた後に銃殺刑かな。オータム大佐が助けてくれることを願うよ」

 

シークレットサービスは親が任命されていたり、軍の高官である。大統領を守るエリートと見なされている。昔は、大統領警護は軍の出身者などであったが、現在では一種のエリートのステータスとしていることが多く、その大半は大統領に命を捧げてもよい連中だ。そんな連中が優しくしてくれるとは思えない。

 

(もう一度だけ言う!今すぐ手を・・・・おい!なんだあれは!!)

 

警備兵の絶叫でおれとアリシアはロールスロイスの残骸から頭を上げて彼らを見る。すると、コンクリートの壁が突き破られ、黒の装甲車が駐車場に飛び出してきた。そして、上部にある無人銃座が起動し、車載された20mm機関砲が火を噴く。

 

毎分200発を誇るエンクレイヴ軍需工場で製造された対空にも使用可能な20mm機関砲は来賓用エレベーターホールにいた警備兵やシークレットサービスに対し、弾丸の嵐を浴びせた。50口径の重機関銃よりも倍大きい弾は人体を一瞬で引き千切り、四肢をもぎ取ってミンチへと変えた。パワーアーマー兵も例外ではなく、装甲は大きく抉れ、一度発射が止まり徹甲弾に切り替わると数十発の徹甲弾がパワーアーマーに降り注いだ。装備していた兵士は即死し、挽肉のように引き裂かれてしまった。

 

銃身が暑くなる頃には、エレベーターホールは瓦礫の山と化し、動くものは一人も一人もいなかった。装甲車は俺たちがいるほうへバックで下がっていき、後部ハッチを開いた。

 

「臨時司令部より来ました。中尉、ご無事で?」

 

ハッチから出てきたのは、搭乗員用の軽量化されたコンバットアーマーを着た兵士だった。右腕には青い腕章が付けられていて、それは識別用のものだということがわかる。被っていたヘルメットは戦車兵が被るような耐ショック用のもので、ウェイストランドに現存する装備品よりも洗練された印象を受けた。

 

 

「無事だが、もう少し早く来てくれないか?」

 

「各区画を既にロックダウンがなされていますので時間がかかりました。ほかにも抵抗があるようです。急いで乗ってください!」

 

パワーアーマー兵を乗せることを前提に設計された装甲車はゆとりある装甲車であり、座先に座ると、ハッチが閉まっていき、装甲車の電灯が白から赤に変わっていく。急いでベルトを締め、先ほど出てきた兵士は近くの銃座に座ると、10インチサイズの画面を見ながら、機関砲の銃座を操作する操縦桿を握り周囲を警戒し始めた。

 

「これより臨時司令部に向かいます。シートベルトをお閉めください。チップは目の前にある弾薬箱に。エチケット袋は用意していませんので、催す兵は車外へ放出して下さい。」

 

運転手らしき男はそう言い、装甲車は移動を始める。ジョークを聞かせた通りに目の前にはチップ入れがおいてあり、いくつかの落書きが書いてあった。

 

「軍曹、これは誰が書いたんだ?」

 

銃手である男にアリシアが聞くと、彼は笑いながら答えた。

 

「それはですね、外の旧軍基地に行ったときに、拾ってきたんですよ。名前は何だったかなー」

 

弾薬箱には色々書いてある。誰が書いたかわからないが、色々と落書きされたそれはレイダーの落書きより芸術的に見えた

 

「封鎖線を突破します!衝撃に備えて!」

 

装甲に無数の弾丸が命中し、甲高い金属音が車内でも響く。怒号と車両の爆発音が立て続けにおき、車載の20mm機関砲が発射される。封鎖線のバリケードを破壊したのか、車内が大きく揺れ、動こうとする弾薬箱を足で受け止める。

 

「ユウキ、着いたらこれに着替えてくれ」

 

渡されたのは、先ほど着ていた軍の佐官服ではなく、ビニール袋のような袋に入った士官服だった。俺はかなりの疑問を覚えた。

 

「なあ、アリシア・・・」

 

「それ言わないで・・・。言わなくてもわかるから」

 

なんで、ウェイター服に着替えたの?

 

その質問をしようと思ったが、アリシアの表情からしてその質問は彼女にとって酷だろう。もし、佐官服のままならば、特命でいそいで行かねばならないとでも言えるかもしれないからだ。まあ、アリシアの着替え姿見ただけでも良しとしよう。

 

「ユウキ、今回の失敗は私も想定できなかったの」

 

無論、俺でなく他の誰かが大統領を暗殺したためだろう。それによってすべてが狂ったに違いない。そもそも、外の警備が増強されたのは、パーティー会場の中ではなく外からの狙撃だったため、装甲車もここまで遅くなったのだ。エレベーターホールのシークレットサービスにしても、すぐに着いた装甲車が彼らを駆逐し、もっと早く司令部に向かうことができただろう。

 

だが、一体誰が大統領を暗殺しようと考えたのだろう?

 

東海岸派は勿論であるが、それは俺が協力する派閥であり、俺が暗殺するのだからありえない。もし、他の別働隊が動いているとしても、連絡も無しに暗殺する可能性は0にも等しい。そして、他の派閥が大統領を暗殺することはあり得ない。シークレットサービスなどの大統領派は論外であるし、西海岸派にとっても暗殺するメリットはない。寧ろ、デメリットが大きいはずだ。

 

では、一体誰がやったのか?

 

「分かってる・・・・・。でも、まあ~結果的には良かったかも知れない」

 

目の前で大統領が胸を撃ち抜かれている姿を見た。それも、50口径のような大口径の弾丸だ。身体を突き抜け、床に大きく弾痕があった。白い血液が流れ出て、骨や内臓も人の物ではない。それらを見た人々は大統領が人ではないことを理解したはずだ。小口径で撃たれたとしても大問題だが、大統領が人間ではなかったことも東海岸派としては都合が良い。

 

「そうだな・・・だが、私としては今回のことで問題が一個だけ」

 

アリシアは真面目そうな顔をして俺の顔を見る。

 

「ウェイター服着替えたのを眼福って考えるなら、シャルに言いつけるから」

 

「なんで!?」

 

問題とは一体何なのかと構えてみれば、実際は変なところで色目をつかった俺に対しての私的な問題だった。そんなこと気にする必要ないのではないかと考えるが、それを見越してアリシアは不機嫌そうな顔をして応える。

 

「お前はシャルロットもいるだろうに・・・。あまつさえ私もか?まったく・・・」

 

 

前の運転席と射撃管制装置のところにいる兵士はニヤニヤと笑みを浮かべており、呆れも含まれていた。

 

「おいおい、マジかよ。軍の高官には愛人を何人も抱えていると聞いているが、まさか未来のエリートも予約済みかよ~」

 

「仕方ないさ、伍長。俺ら一般兵には無理な相談だ。下町で女を捜すんだな」

 

会話はもろ筒抜けで俺は顔が熱くなるのを感じた。ウェイストランドにしても重婚している者やハーレムを築いた者は存在している。ただ、それは希な話である。自然界においては百獣の王には何匹もの雌のライオンがいて群れを形成するように、強い雄の遺伝子を残そうとする。荒廃したこの世界において強い遺伝子を残そうとすることは、百獣の王と同じように、女性が複数いたとしても不思議ではないのかも知れない。

 

 

ただ、200年前の価値観が未だにウェイストランドに浸透しているからか、そうした種を残そうとする本能を阻害しているようにも思える。もっとも、これは自分の気持ちを整理したり、正当化するためにしか見えるに違いない。

 

そんな葛藤を司令部に着くまで俺は苛まれることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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都市を丸ごと地中に作り上げたレイヴンロックは中央に基地管理センターが置かれている。モノレールや各輸送網。送電網や攻撃の際に各区画を防御壁で移動不可能にするものまである。また、各区画ごとに暴徒鎮圧用の催眠ガスを散布出来るように作られた換気口も存在するが、それらは厳重にロックが掛けられていた。

 

基地管理センターはレイブンロック中央にあるエンクレイヴ軍総司令部のビルの最上階に位置していた。巨大な自然洞を利用したレイブンロックだが、核攻撃時には耐ショック構造に不安があるため東西南北一本ずつの支柱が伸び、中央には半径3m程の鉄柱が200年もの間ここを支えている。それに肉付けするように総司令部ビルが建設され、まるで展望ルームのように最上階には基地管理センターが構えていた。

 

「首都警察機構のパーティーは2時間後に警戒解除がなされる。交代要員にはそのことをキツく言っとけよ」

 

「分かってますよ、大尉。任せてください」

 

基地管理は厳重な管理の元、行われ24時間体制で職員が詰めている。半ば自動化されているシステムであるが、全てのシステムが動いているか見ていなければならないため、士官が一名と他五名の下士官が詰めている形となる。この基地管理センターに入るにはカードキーと生体センサー、網膜パターンを通らなければならず、ここはレイヴンロックの心臓部と言えるだろう。

 

「そう言えば、さっき第6地区周辺で爆発騒ぎあったけどどうなったんだ?」

 

「あれか、単なるボヤだそうだ。首都警察設立パーティーの隣の地区だからな。過敏に反応しちまったんだろ?」

 

警報装置が響き、 何が起こったのかと身構えたが、単なるボヤという消防隊の報告に胸を撫で下ろしていた。大尉と呼ばれた士官は基地管理センターを一任された技術士官であり、6時間交代で任につく。まもなく、彼らは任を離れて、長く責任重大な任務から解放される。彼らの頭には家族や恋人、また家の冷蔵庫で眠る冷えたビールを思い浮かべていることだろう。

 

すると、管理センターのセキュリティーチェックの扉の起動音とロック解除の音が響く。伍長は交代要員の奴らを出迎えようとした。だが、彼に待っていたのは無数の銃口だった。

 

「全員動くな!」

 

エンクレイヴが使用する軽歩兵用のコンバットアーマーに身を包み、レーザーライフルを構える兵士は作業をしていた彼らに向ける。

 

「おい、あんたら一体!?」

 

「全員手を上げろ!動くなよ!」

 

レーザーライフルは技術兵達の頭を狙っており、動作は技術兵の比でない熟練されたものだ。戦うことは死を意味すると理解した彼らは手を上げて、降伏する。

 

 

兵士達は青い腕章をつけており、覆面で顔は分からない。手をあげていた彼らを結束バンドのようなもので両手を拘束すると、部屋の隅に追いやってガムテープで口を封じる。

 

一人の指揮官らしき男は腰に付いてある無線を手に取り、送信ボタンを押した。

 

「こちら Owl leader。樹の頂上に着いたover」

 

(了解した、Owl。作戦通り“森を閉ざせ”)

 

 

命令が伝えられると、先ほど技術兵達がいた場所に彼らは行き、指揮官が命令を伝える。

 

「各地区の防御壁を起動、交通信号を全て赤に。モノレールのコントロールを奪え」

 

「防護壁を起動します」

 

レイヴンロックの区画は地面から生えてくる厚さ30cmのコンクリートによって遮断される。民間人は何事かと驚き、軍属の者は驚きを隠せない。20もある区画が移動できないよう防護壁によって遮蔽され移動ができなくなった。

 

「交通網の遮断確認。各基地へのトンネルも全て遮断しました!」

 

レイヴンロックは核戦争後の政府要人用とされているが、基地ネットワークの中枢を担うようにも設計がなされている。各基地には連絡運搬用の地下トンネルがアメリカの地下に張り巡らされている。西海岸と東海岸を繋ぐルートも存在したが、NCR軍にネットワークを介して侵攻することを恐れ、西海岸や中西部の一部を除いてトンネルを爆破しているため、通行することが困難になっていた。

 

元々、 大陸弾道弾や中距離弾道弾を秘密裏に運搬するよう作られたトンネルだが、大戦争の10年前から核戦争後も生存する基地との連絡のために大幅に拡張され、エンクレイヴの生命線ともいえるものとなった。モノレールや軍用車両が行き来し、基地や核シェルター内にある工場で生産された物資を各基地へと送るなど、物流の肝である。それを閉鎖したのは、クーデターを鎮圧するために軍を送り込まないようにするためだ。もっとも、全ての基地においてクーデターの要員は配置されているのだが。

 

「運輸省が全モノレールのコントロールを議会へ提供するそうです」

 

「よし、モノレールが動かせることをオータム大佐に連絡しろ。緊急回線ではなく、一般回線でだ」

 

「了解!」

 

命令された兵士はセンターの指揮官デスクから電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

一方、基地管理センターから下へ地下8階の位置ある作戦指令室には、エンクレイヴ軍の統合参謀本部の高官達が顔を揃えていた。

 

 

彼らは既に大統領が暗殺されていることが耳に入っている。将軍達はかなり狼狽しているようで副大統領を大統領に就任させる段階になり揉め始めたのだ。

 

 

エンクレイヴ軍は合衆国五軍を統合した。大戦争によって半数の部隊を消失した軍は連絡の取れる部隊を支配下にある核シェルターへと非難させた。既に私設部隊として機能していたエンクレイヴの部隊と合流した米軍部隊の確執があったものの、二百年の時を経て無くなった。しかし、地域によって独自性が芽生え、中央から見放された地方は政府や上層部に反感を抱いた。西海岸派と呼ばれる上層部の生き残りと反感を抱く東海岸出身の将校達。西海岸派を占める統合参謀本部の将軍達は暗殺を東海岸派残党だと決めつけていた。実際、計画していたのだが、実行できずに終わっているとはオータムも口が裂けても言えない。

 

すると、航空部隊などベルチバードを指揮しているネイサン・オルドリック陸軍少将は周囲の狼狽する将軍達を一喝するように机を強く叩いた。

 

「落ち着け!我々が落ち着かなければ更に混乱することになる!副大統領に連絡することも叶わない。ならば、我々が戒厳令を敷くしかないだろう!」

 

「しかし・・・、我々だけでやればクーデターと見なされるのでは?」

 

気弱そうな面持ちで疑問をぶつけたのは、苦労が垣間見え、周囲の将軍とは違う軍服を着るベルド・スティングレー海軍少将と呼ばれる男だった。その気弱そうな性格でありながらも、軍服にはいくつもの略章や勲章が付いている。実力はあるのか、それとも家柄でなったかわからない。苦労が多いためか照明で光る頭皮は同様に苦労の多いオータムにとって、頭皮の危機を予感させるものだった。

 

そんなことをオータムが考えていると、その台詞に激怒したオルドリック少将は我慢できなかったのか、スティングレー少将の襟を胸ぐらを掴んだ。流石に将官同士で殴り合いは不味いと判断したのか、近くの将軍も止めに入る。

 

「そもそも、大統領に現在の軍政を推し進めようとしたのはお前だろうが!だいたい!・・・ン!」

 

それ以上言うなとばかりに近くにいた将軍に口を押える。オータムはその行動が大統領暗殺を裏付けるとは言わないが、十分疑わしい。こちらが行動を移す動機としては不十分だが、彼らを拘束しておいて証拠を押さえることは出来るだろう。

 

だが、今はその時ではない。部下である会議室隅にいる将校にオータムは「まだだ」と目配せをする。

 

エンクレイヴの統治状態は大統領を君主とする専制政治であり、権力の中枢は軍部が独占している。例えるならば、太平洋戦争勃発時の大日本帝国の政治状態と似ているだろう。大統領が最終的に決定権を持つが、その行動や選択を与えるのは軍部であり、実質軍政と言われても不思議ではない。

 

 

軍には超法規的な権限が与えられているが、10万の国民が見ている前で強権的なことをすれば批判が待ち受けている。平時において、それを行う意味はない。無茶をすれば、免職する可能性すらある。下手をすれば銃殺刑も免れないだろう。

 

だが、現在。国家の指揮官たる大統領が死亡し、指揮権は副大統領へと移る。だが、副大統領はシカゴのエンクレイヴ軍の前線基地へ視察を行っている。シカゴ周辺の北西部は好戦的なBOSと戦闘が続いており、通信も断続的に遮断される。現在もBOSの通信妨害が続いている。現時点で彼に命令を仰ぐのは適切ではない。大統領の継承順位だと副大統領に次ぐのは財務省長官であるものの、暗殺現場に官僚のほとんどがいたため、統合参謀本部や国家軍事センターにいるのは将軍たちのみだった。

 

もともと、司法省の推進する首都警察の設立パーティーである。優先度の高い軍の治安維持の仕事を奪われた形であるエンクレイヴ軍にとって、あのパーティーに出席するのは役人のご機嫌取りだと批判する将軍達だった。本心、戒厳令を引いて軍政になるのも悪くはないが、国民お批判や官僚の反発も懸念すべき事項の一つだ。

 

 

「仕方ない。戒厳令は我々が敷こう。それと今回の暗殺犯の足取りは?」

 

「ああ、警護していたシークレットサービスによると、窓から対物ライフルで狙撃し即死したようだ。狙撃した犯人は現在調査中。それと、給仕の格好をした不審者が現場を封鎖したときに駐車場にいたようで、現在駐車場は銃撃戦をしているらしい」

 

ジョン・ケラード陸軍中将は白髪に染まった髪を撫で、焦った様子で若い憲兵がそのことを記載していた紙を渡していた。

 

その紙を見て、ケラード中将は驚愕し、声を荒げた。

 

「おい!基地管理センターが防御壁を起動させたらしい」

 

 

「そんな!我々はそんな命令出してないぞ!」

 

「誰が動かしている!止めさせろ!」

 

「いや、このままでいいだろ!戒厳令を敷いてしまえばそのままでいい!」

 

混乱が混乱を生み、彼らから冷静を奪っていく。元々、二万にも満たない軍隊で戦前と同じように将軍の数が多ければ、指揮中枢としては問題だった。自らの保身を第一に考えた戦前のエンクレイヴ首脳陣は降格などをせず、半合議体制で事を成していた。老害は更に老害を生み、エンクレイヴという組織は中心から腐っていた。

 

一度、破壊して創り直した方がいい。オータムは頭を失いあわてふためく将軍達を今すぐ抹殺しなければならないだろうと思う。

 

 

オータムは溜め息を付き、そのことすら見ていない将軍達に内心呆れながらも、隅にいた将校に合図を出した。

 

 

将校は頷くと、その場に似合わない軍用の携帯無線を手にとり交信する。すると、自動ドアである扉が全て開くと完全武装の兵士達が銃を構えて入ってきた。

 

「なんだ貴様らは!」

 

将軍の秘書官らしき男は銃を構えようとするが、兵士の構えたライフルのプリズムレンズからレーザーが男の額に命中する。

 

他の将軍達も腰にある銃を抜きたかったが、感情の見えないフェイスマスクとゴーグルを着けた兵士達の向けるライフルはいつレーザー光線が飛ぶか分からず、その恐怖ゆえに銃を抜けなかった。

 

兵士達は将軍達から銃を取り上げる。一緒にいた秘書官の銃も取り上げられ、将軍達の腕には手錠が掛けられた。

 

「国家反逆罪及び大統領暗殺の罪で逮捕します」

 

「な!?ふざけるなぁ!」

 

「何を根拠に!」

 

大尉の階級章を付け、覆面と青布にMPの字が書かれた腕章を腕に巻いた男は叫び憤る将軍達を尻目に、目の前で拘束されつつある将軍たちの目の前でゆったりと椅子に座りコーヒーを飲むオータムへ敬礼をする。

 

「大佐、司令部の制圧は全て完了しました。」

 

「副大統領は?」

 

「スコット空軍基地にて身柄を拘束しました」

 

「この!反逆者め!」

 

オルドリック少将は怒鳴り、近くにいた兵士に体当たりするものの、兵士たちはすぐに彼の肩を押さえつけてしまう。周囲の将軍も小声で「反逆者」や「国賊」など喚き散らす。そんな彼らを前にオータムはコーヒーを飲み終えると、椅子から立ち上がった。

 

 

「反逆者か・・・・。ならば問うが、私が反逆者であるなら貴様らは一体なんだ?アメリカの民主主義を自身の保身と利益のために捨て去った少将は民主主義の敵。アメリカの敵でしょう?」

 

「何をいう!?国家の非常時に議論をする余裕などあるものか!」

 

「開かれた議会と文民統制。軍が戒厳令を敷くなどクーデターですな」

 

実際、大統領を暗殺して、政府を掌握しようとしていたオータム大佐であるが、表向きは西海岸派の軍のクーデターをオータムら議会のメンバーが阻止するという筋書きだ。この際、どちらが大統領を暗殺したかは問題ではない。オータムに指摘されたオルドリック少将は苦虫を噛み潰したような顔をする。表向きは大統領を支持するとは言っても、彼にもエンクレイヴのトップに君臨したいという欲は存在するし、今回の事件をチャンスと思っていたに違いない。それに、軍が勝手に戒厳令を敷くことはクーデターと思われても仕方がないのだ。

 

「私や他の将校たちは軍のクーデターを見過ごすわけにはいきません。これまでの非常事態宣言下の政府運営は限界。大統領も凶弾で死に、軍が実権を握るわけにはなりませんからな」

 

「お父上が嘆きますぞ!大佐!」

 

この作戦指令室でも最も年老いた将軍であり、シニア・オータム中将と同年代であるユーリ・ゾルニスキー空軍中将はオータムに対し、説教をするような口調で言う。しかし、オータムは先ほどまでの侮蔑の目ではなく、悲哀の目で彼を見る。

 

「あなたは何も知らないからそんなことが言えるのだ。あの人が死んだ理由など癌ではありません。・・・・・・自殺です」

 

 

「なんだと!?彼は胃癌だと聞いていたが・・・」

 

 

シニア・オータム技術中将。

彼は西海岸に散らばる軍や民間人を救助し、東海岸へ連れて行った功労者の一人である。技術者であるにもかかわらず、その行動力と統率力は東海岸出身の将校からは英雄視された人物だ。事実上、すべての政府高官を失ったエンクレイヴは組織分裂の危機にあったものの、エデン大統領を擁立することで軍部と行政を纏め、国民を結束させることができた。彼は東海岸特有の選民思想や純血主義などの偏った思想の持主ではなかった。国民による民主主義のアメリカを復活するよう、レイヴンロックに議会堂を築き上げた。だが、思わぬ事態によってそれはとん挫する。

 

東海岸将校と大統領率いる一派によって推し進めていた民主主義政策が廃案。そして、それの礎として組織していた議会と呼ばれる研究グループの粛清。彼らは派閥としての性格よりも、政策研究のグループとして発足したものだ。シニア・オータム技術中将が資金援助を行い、ウィリアム・スタウベルグ中将が組織を運営し、今後の民主主義政治に必要なことを研究する。

 

彼らが大統領の命令によって粛清されたとき、オータム中将は自身の選択に後悔した。人という存在が過ちを繰り返すのならば、その過ちを全て記憶する機械によって人の世を統治しようと考えた。簡単に人の過ちを忘れてしまうのであれば、過ちを決して忘れることのない存在に決定権を委ねてしまおうと。だが、委ねた存在は過ちそのものであることに気が付かず、気が付いたときには既に手遅れだった。阻止しようにも、大統領の権力集中はゆるぎないものとなった。機械によってエンクレイヴ中枢が掌握され、血の通わない心のない機械が政策を行い、人を殺す。自身の責任の重さに耐えきれなくなった中将は自分のこめかみに45口径の銃口を向けて引き金を引いた。流石のエンクレイヴの英雄が機械の大統領を推薦したことを後悔して自殺したとは報道できなかった。この事実を知っているのは大統領とオータム大佐。一部の身辺警護をしていた部下のみ。

 

オータムは事実を伝えても信じてはもらえないだろうと思い、MPに彼らを独房に連れていくよう命じた。

 

「地獄に堕ちるがいい!この反逆者共!」

 

「合衆国を破滅に導くのは貴様らだ!覚えておけ!」

 

作戦司令室のオペレーターや情報将校、警備兵まで青い色の腕章を付けていた。ここにいるのは議会の命を受けた者達だ。彼らの目には先ほどまで上官であった人物が拘束されて去っていく姿。それを見て、動揺しない人間はいなかった。

 

本当に自分たちは国を再興できるだろうか?アメリカ合衆国の英雄になりたいが、一歩間違えば反逆者の汚名を着せられるかもしれない。もしかすれば、これが原因で破滅にみちびくのでは?

 

動揺が動揺を呼び、焦りや不安がその場を支配した時、大きく手を叩く音が聞こえ、皆の意識がそれに集中する。手を叩いたのは、他ならぬオータム大佐だった。

 

 

「合衆国というが、既にアメリカ合衆国という国家は存在しない。200年前のあの日に消滅した。今の私たちは亡国の兵士だ。国民は10万を切り、そのうちにアメリカという名前も消滅する。君たちの使命は合衆国を救うことでも、エンクレイヴに仕えることでもない。君たちの子供たち。そして次の子供たちへよりよい世界を作るために自分を信じてほしい。今ならば、その青い腕章を外して家族の元に帰っても良い。だが、帰ったあと待ち受けて居るのは緩やかな破滅だ。アメリカという存在を地球から消し去り、家族にその光景を見せつけ死なせたいのであれば今すぐ帰れ」

 

オータムがそう言う。指令室から出ていくのは誰もいない。彼らが今ここにいるのはエンクレイヴを後世まで残すことではない。子供や次の世代により良い世界を創るためにいる。彼らの目には戸惑いや不安はない。決心して強い意志が目に現われていた。

 

「いいだろう。これより、作戦を開始する。まずはレイヴンロックの完全掌握だ。西海岸派の将校を拘束。大統領官邸(ホワイトハウス)に部隊を派遣しろ。各基地への連絡も密にせよ」

 

指令室はすぐに喧噪の多い仕事場へと変わる。オペレーターや情報将校が動き回り、計画された攻撃対象に議会の擁する特殊部隊によって東海岸派が多くいる地域に攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 

周到な計画なもと、始まったクーデターはここに始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 




捏造設定のオンパレードです。

原作とここが違うという指摘ございましたらおねがいします。たまに設定弄りすぎてもとの原作設定すら変えてしまう事があるのでw

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