fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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やっとこさ完成しました。


11月に投稿するとと言ったが・・あれは嘘だ(ノ`∀´)ノ=ヽ(゚ロ゚;)キェーッ!


ゲームに転生したオリ主とか、今更言うけど書きにくいっすね。ゲームのイベントを驚かないで対処しちゃうので。

寧ろ、ここで驚かねばダメだろ!ってなります。

なので、作者の執筆skillと話の都合上「記憶を忘却していた」という設定にしています。





三十七話 Vault87 中編

Vault82の内部を簡単に言い表せるなら「廃墟」。整備や清掃は全く行わず、血潮がベットリついた壁を掃除しないためか、壁は錆びて変色している。そして、ミュータントの弁当箱とも言えるゴアバックには人間の破片とおぼしきものが詰められ、直視するだけで胃のものを吐き出してしまいそうだった。

 

 

そんなごみ溜めに相応しいその場所に新たな臭いが追加される。戦前に生産された小口径ライフル弾の硝煙とスーパーミュータントが吹き出る血潮。

略取する者からされる者へと代わった彼らに抵抗するという行動は存在しない。彼らの人間だった頃の感情「恐怖」が発現し、レイダー。いやそれ以下の存在に転じていた。

 

 

ウェインの持つレーザーガトリングが最後の抵抗を試みようとするミュータントの身体を引き裂き、退却しようとするミュータントには俺が腰だめで撃った5.56×45mm徹甲弾が命中し、絶命させる。

そこにいたミュータント達は何も言わぬ亡骸となった。

 

 

「Clear!」

 

「生命反応は・・・ないな」

 

パワーアーマーを装備するウェインは軽々とレーザーガトリングを構える。その後ろから隙間を埋めるように、CIRASボディーアーマーを着た俺はMk.48mod0を構えつつ、ウェインの死角を埋める。

 

後ろからはコンバットアーマーを着たシャルと犬用ボディーアーマーを装着するドックミート。そして倉庫扱いのRL-3軍曹。

 

何故軍曹が倉庫扱いと言うと、先の戦闘で武装が全て破壊されてしまったからだ。ブービートラップが作動して、俺はパワーアーマーの重装甲のお陰で事なきを得たが、軍曹はトラッキングセンサーを爆発の破片で破壊されてしまった。更に射撃管制装置や火焔放射器まで。プラズマガンだけは撃てるものの、時間が経つにつれて銃身に亀裂が入っていたため使い物にならない。オーヴァーロードが来た時はガトリングレーザーを装着し、制圧射撃をしたものの。あれは運が良かっただけ。もし悪かったなら、奴と一緒にレーザーの蜂の巣になっていたに違いない。

 

修復不可能な物は全て捨てて完全な移動貨物車両として動いていた。軍曹の積載ブロックにはミュータントの使っていたライフルや手榴弾などの爆発物をのせている。量は一個分隊規模に登るだろう。全て解体してバラしているのでそこまでの量ではないが、帰ったら武器屋のスペアパーツとしよう。もっとも店があればだが・・・・。

 

 

「ここら辺が研究施設の区画か。敵の量も段々増えてきたな」

 

ウェインは空の充電パックを投げ捨てると、充電してあるパックを装填する。研究区画の扉を開けたらいきなりミュータントと遭遇した。損傷はなかったが、弾薬の消耗が激しかった。徹甲弾は皮膚の硬いスーパーミュータントを貫通できる。しかし、その弾薬はサルベージしてもそうそう出てくることはない。FMJ弾は見つかるものの、貫通力の高いものはそうそう無いのである。ミュータントが希に持っているが、Vault82のミュータントは一発も持っていなかった。高出力のレーザーなら硬い皮膚も貫通できるが、効き目は徹甲弾の半分ぐらいだ。

 

「ミュータントは奥へ後退したらしい。ゆっくり進んでいくぞ、ブービートラップに引っ掛かって死ぬのはごめんだ」

 

「もう引っ掛かってるからね。」

 

茶化すようにシャルは悪戯っぽく笑みを浮かべた。重症だと思っていた俺は叫んで暴れたものの、本当は軽く皮膚を削った程度だったのだから。馬鹿にされても仕方がないと言えば仕方がない。かなり恥ずかしいけど・・・

 

ウェインを戦闘に周囲に銃口を向けながら警戒をする。研究区画は他の区画以上にボロボロであるが、幾つもある内の一つの実験チャンバーには今まで見たことがないミュータントがいた。

 

「ユウキ・・・あれ」

 

シャルが指差したのは、封鎖されたチャンバーで生命反応の無いミュータントらしき物体だった。それは今まで見たミュータントではなく、ピンクっぽい色をしていて、肉の塊と表現すればいいかもしれない。それの下半身は青いレザースーツが確認できた。

 

「これってまさか・・・Vaultスーツか」

 

19年間着ていたのだから、それが何なのかはっきり分かる。全米のVaultで使用された住民の着るスーツ。下半身は筋肉が拡張したためパツパツであるが、肥大化した上半身は耐えきれずに破けている。pip-boyで確認するが、生命反応はない。

 

「頭に弾痕があるな。ミュータントが殺したのか?」

 

「同族で殺しあったのか?聞いたことあるけど、本当にやってたとはな」

 

変異した者の頭部らしき部分には確かに弾が貫通した部位があった。スーパーミュータントは部隊の頭を決めるため殺し合いをすることがあると聞く。ミュータントの成れ損ないかもしれない。

 

すると、奥で物音がして瞬時に皆その方向へ銃口を向ける。

 

「ウェインが先頭、あとは後ろに。ステルスで進む」

 

チャンバーに次弾が装填されていることを確認すると、弾倉のふたを開いてどの程度入っているか確認した。まだ、百発以上残っていることを確認し、腰を低くして銃口を音がしたその方向に向けつつゆっくりと前に歩き出す。

 

「ヤツラマタデキソコナイウッタ」

 

「ホッテオケ」

 

ウェインは左手でハンドサインを作る。拳を握ったそれは「待機」。そして左手で払うかのような動作は「散開」の意味を持つ。

 

「引き付けて撃て・・・・」

 

 

安全装置を外し、ミュータントの頭部が見える位置に銃口を保つ。アサルトライフルよりも重いそれは維持するのは難しい。地面に這いつくばって二脚を広げて銃口を来るであろう場所に向けた。

 

そして曲がり角から中国軍バトルライフルを持つスーパーミュータント・マスターが現れた。

 

「FIRE!!」

 

そう叫んだ俺は重い引き金に指を掛けて思いっきり引いた。毎秒二十発もの弾丸がミュータントの身体を突き刺す。5.56mmの弾丸とウェインの放つ無数のレーザー光線がミュータントの身体を引き裂く。その音を聞き付けたミュータントは仲間の敵討ちとばかりにアサルトライフルを持って、射線上に身を乗り出すが、ミイラ取りがミイラになるように蜂の巣となった。

 

「撃ち方やめ!敵は死んでる」

 

生体反応を失ったミュータントを確認すると、俺とウェインは手持ちの武器でミュータントの頭部を完膚なきまでに叩き潰した。ライフル弾は至近距離で撃てば人間の内蔵などミートパテになる。頭を撃てば、こっぱ微塵になることは確実だ。そして、ウェインはパワーアシストされた足で頭部を踏み潰す。

 

ミュータントは生命力が高く、生命反応が無くなっても生きていることがまれにある。脳髄を破壊すれば如何なる生物も生存できないため、止めを刺さねばならない。

 

「ゆっくり移動する。慎重にな」

 

ミュータントが突貫することを予期しつつ、銃口は構えながら進む。曲がり角を曲がり、開閉ハッチがあったので内部に入ると、そこは研究施設の受付らしかった。

 

「シャル、情報収集だ。ドックミートとウェインは周辺警戒を頼む」

 

軽機関銃を下ろし、俺とシャルは周囲に散らばった書類や放置されているコンピューターを起動する。

 

「医療物資の配送に鎮静剤、拘束衣・・・・この量はどっかの精神病棟みたいだな」

 

「パソコンにはある薬品を投与して死亡した人を事故死として扱っているみたい。凄い量よ・・・・これ」

 

俺は散在する書類を見ており、シャルはパソコンに記録されているリストを見る。そこには、Vaultの内部で死んだ人達のリストがあった。その薬剤とは一体何なのか分からなかったが、この研究施設を探っている内に明らかになるだろう。

 

「ミュータントはやっぱりここから来ているのかもしれない。この薬剤もここにあるのかも」

 

シャルはスクリーンに映されたリストを見る。Vault-Tecが作ったVault核シェルターは人類を生存させるために作られたものではない。彼らは核戦争後に法的にも禁止された研究を行うために入居者を実験台にしたのだ。Vaultそのものが人間を検体とした大規模な実験場だった。ここのスーパーミュータントもこのVault82で研究された物の一部なのだろう。

 

「G.E.C.Kを回収次第、撤収しないといけないが。エルダーにここがミュータントの生まれた場所だと教えないとな。」

 

必要な情報をPip-boyに転送し、置いていたMk.46を拾い上げる。

 

「ウェイン、先頭に立ってくれ。前進しよう」

 

パワーアーマーを着るウェイン先頭に、ミュータントを掃討しながら進んでいく。研究区画に入って以降、何体かのミュータントに遭遇したが、レーザーや徹甲弾で蜂の巣にして進む。殺人通りでミュータントに恐怖を植え付けたことが原因か、これといって目立つ抵抗をすることなく前進し続けた。しかし、進む度に遭遇するミュータントはそこら辺のレイダーとは違って正確に攻撃を仕掛けてくるし、数が多かった。

 

 

「ここまで来ると、市街地のとは比べ物にならんな」

 

 

「だな、量が桁違いだ!」

 

 

大型の配電盤に隠れ、ミュータントの銃撃をやり過ごす。銃弾が命中し火花が散る音が聞こえ、貫通しないかひやひやするが、戦前の劣化した弾であるからか貫通はしない。徹甲弾だったら命はないが、無くて幸いだ。

 

手元にあった破片手榴弾のピンを抜いてミュータントの方向へ投げる。爆発はミュータントの手前で爆発し、銃撃が一旦止まる。

 

アサルトライフルの銃口だけを遮蔽物から出して引き金を引いてブラインドファイアで牽制を行い、ウェインは立ち上がりガトリングレーザーで蜂の巣にする。

 

「充電パックのセルが底をついた。こっちを使うぞ」

 

ガトリングレーザーを下ろして中国軍の使うバトルライフルを取り出す。308口径弾を使用するそれはアンカレッジでは中国軍兵士のマークスマンが使っていた銃だった。アメリカに上陸した中国軍もバトルライフルを使用していて、形状としては第二次大戦中にソ連が使用していた半自動小銃のトカレフSVT-40に酷似していた。

 

 

そろそろ弾薬も底が見え始めている。たくさんあった5.56mm徹甲弾も残り数百発。虎の子のレーザーガトリングも弾切れだった。

 

できれば敵に遭遇したくはないが、閉鎖空間であるので出会ってしまう。帰るまでに弾が持ってくれるよう祈りながら前進した。

 

 

通路の階段をゆっくりと下り、ふと階段の壁を見る。

 

『医療経過室→

 薬品貯蔵室→

 特別保管室→

 サーバールーム→

薬品貯蔵室→

 エントランス→』

 

と書かれた案内板が目に入り、どれかがG.E.C.Kがあることを知った。

 

「あともうすぐだ。ゆっくりと進むぞ」

 

順番で行くのは医療経過室とは名ばかりの実験で投与した検体を収容するための収容施設だ。生存者がいれば救出できるが、この過酷な環境で生きている保証はない。

 

階段を上りきり、バトルライフルを構えたウェインは後ろを振り返り突入する合図を待った。

 

「こっちはOKだ。行けるか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

看板には医療経過室と書いてある。弾の消費の激しいMk.46を片付けてCQB使用のアサルトライフルに徹甲弾の満たした弾倉を装填する。コッキングバーを引いて機構に次弾を装填した。

 

「行くぞ!」

 

俺はハッチ開閉スイッチをONにしてハッチを開く。素早くウェインは周囲にライフルを通路上に向けて警戒する。彼に続いて同じように銃を向けて警戒して敵がいないか確認する。通路にはミュータントは居らず、何かを引きずったとおぼしき後があった。

 

「Clear!」

 

「こっちもClearだ!」

 

通路には誰もいない。収容された部屋が幾つもあり、そこには超強化ガラスがはめ込まれている。

 

通路は二方向に別れていて、近くの案内板には片方の通路が目的地だと教えてくれた。

 

「こっちの方向だな。行くぞ」

 

俺は方向を確認し、壁際に寄って進む方向に銃口を向ける。突き当たりを左に曲がり階段を上がって進めば目的地。プレートキャリアのマガジンポーチに入った弾倉の数を確認し進もうとした時だった。

 

 

 

『そこにいるのは人間か?すまないが、そこのインターホンで会話できる。助けてもらいたい』

 

行こうとした矢先、近くにあったインターホンから野太い声が響き渡る。それはさっきまで戦っていたスーパーミュータントとそっくり同じだった。

 

全員の顔が強ばり、持っていた銃をしっかりと握り直す。俺はウェインと目配せし、周囲を警戒する。そうした行動を見ないで察したのか、若干落ち込んだような声でインターホン越しの「それ」は話し始める。

 

『この声を聞いて警戒するのも無理はない。私も彼らと同じだ。だが、彼らのような事はしない。私は理性があるからここに幽閉されたのだ』

 

「理性があっても、人を喰うのを正当化している人間はいるからな。流石にいきなり信用は出来ないよ」

 

アンデールという人食いの村を思いだした。彼らは自分達に近づいた者を友好な振りをして夕食のおかずにしてしまうのだ。レイダーよりも質が悪いそれは、今のように理性的に振る舞っていた。だが、それは彼らの仮の姿。ひとたび彼らに隙を見せれば殺されてしまう。そして、納屋か屋根裏部屋。もしくは地下室で精肉店の肉のように解体されてしまうのだ。

 

世界は荒廃しているのを知っているのか、「それ」はたいした驚きもなく話を続けた。

 

『そう思うのも無理はない。同族は君達に襲いかかっていることを知っている。そして、君達はG.E.C.Kを求めていることも』

 

「ど、どうしてそれを知っている?!」

 

ウェインは驚愕の表情で叫んだ。

 

当然だろう。幽閉された者がそれを知っているのは可笑しい。そして、その声を察するにそれは「スーパーミュータント」であることが理解できた。

 

『不毛の土地を豊かな緑溢れる地に還る。核戦争で荒廃してVaultもこの有り様だからな。誰かが取りに来ることは予期していた。だが、ここまで長いとは驚きだ。』

 

哀愁漂うその声に俺は彼が幽閉されたその苦しみに共感した。

 

そう言う言葉の響きには悲しみと怒りはなく、ただただ苦しいという感情が含んでいたことが分かった。

 

 

「そうか・・・長かったんだろうな」

 

『ああ、このVaultに人間が居るときからずっとな。かれこれ百年近い』

 

「よく気が狂わなかったな」

 

『人間が居た頃に制限付きだが、中央データベースにアクセスできるコンピューターが与えられた。知能がどれ程あるかテストだったらしいが、それで時間を潰した。歴史や社会、文学、多くの書籍があったから良かった。』

 

会話している内に人の状態など分かるものだ。

 

全てとはいかないが、胡散臭いのは話している内に分かるものであるし、声がどうであれ話している者は英語を流暢に話し、とても丁寧な言葉遣いをしている。そして、そのインターホンの横から窓を覗けば話している人物が分かるはずだ。

 

「そうか、あんたがどれだけ知的なのかは今の話で理解できたよ」

 

俺はそう言って、数歩踏み出して強化ガラスを通してその話していた人物を見た。

 

俺は彼をよく知っている。非常に高い体力と専用の武器を持ち、頼りになる人外ながらも相棒であった者。

 

『私の名前はフォークスだ。よろしく頼むよ』

 

聞く者に絶望と恐怖を与えるその野太い声は俺にとっては何十年も会っていない友のように思えた。

 

 

 

 

 

 

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「こちらLightning1-1、離陸準備完了した。管制塔、離陸指示を待つ。Over?」

 

(こちら、Raven Rock Tower。Lightning1-1了解した。離陸後は高度500まで垂直上昇。方位054に進んで管制空域離脱後に作戦空域に進入せよ。基地周辺はかなり混雑している、ニアミスに注意せよOver)

 

一機のベルチバードがレイブンロックの地下格納庫からエレベーター付きヘリポートで地上へと昇っていく。衛星からも岩場にしか見えない所にいきなり岩がぱっくりの割れ始め、ハッチが開かれる。エレベーターが完全に止まると、ヘリのメインローターが回転を始めた。

 

「IFF、GPS、AVSオンライン。燃料OK、油圧よし」

 

「火器管制システムALL GREAN。20mm機関砲よし、放射能除去剤も満タン。対戦車ミサイルも準備よし」

 

機長と副機長によるかくヘリのチェックが行われ、その間にヘリのティルトローターの回転数は上昇する。

 

(こちらRaven Rock Tower、風速は2m。天気は曇りだがいつも通り雨は降らない。作戦成功を祈る)

 

ティルトローターの回転数が徐々に上昇していき、機体が浮き上がった。

 

「了解した、Lightning1-1離陸する。」

 

空の上にローターを向けていたベルチバードは方向を管制塔の指示通りの方向に向けると、二基のティルトローターは機首に向く。ヘリと双発航空機の両面を併せ持つベルチバードは一見航空機のような形態となりウェイストランド上空を飛行し始めた。

 

「機長、あとどの位で到着できる?」

 

「はい、あと5分で作戦空域に。Vault87へは放射能除去剤を散布してからとなります」

 

HUD付きのフライトヘルメットを被る機長は手に持っているフライトスケジュールを見つつ答えた。先程まで整備不良によって離陸できなかったために、隣にいる副機長はフライトマニュアルと安全管理のチェックリストを見つつ、不具合がないか調べていた。

 

後ろのキャビンにいたアリシアはその光景を見つつ、自身の座る席以外の乗員を見る。

 

空中機動部隊の一翼を担うエンクレイヴの航空戦力を有する第一航空団。規模は大隊規模であり、ヘリは最大で10機を有する。彼らは、単に兵員や物資を運ぶ部隊とは違って、全員が戦場で戦える兵士として訓練された。ヘリからの爆撃による殲滅とそれの仕上げである兵士による掃討。その一連の事を成し遂げる部隊だった。物資の輸送は同じ部隊でしか行わず、完全な戦闘部隊として運用され、空からの強襲部隊。殴り込みをかける機動部隊としてエンクレイヴ内では一目おかれていた。40年前のNCRとの戦争では彼らのような強襲部隊がNCRの歩兵部隊に大きな影響を与えた。いまでもそれは武功として語り草として有名だ。もっとも、実験用の人間集めをしていたことや武器を持たない民間人を虐殺したことは伏せられているが。

 

騎兵隊のエンブレムが肩にプリントされたエンクレイヴパワーアーマーの背中には、指揮官用の中距離無線機が取り付けられ、左手にはPip-boyのような戦術情報ネットワークにリンクされた小型端末を装備している。その隣には、火炎放射器のナパームタンクを背中に載せたヘルファイアパワーアーマーの兵士がいる。

 

彼等は徹甲弾の被弾も考慮に入れて追加装甲を施している。装甲なしでは綺麗な曲線を描いた胸部の装甲は、追加装甲によって不格好を呈している。

 

そしてそれに向かい合わせに座っている御仁。アリシアよりも階級が高い情報局の上司であるヴェルスキー少佐は付いてきていた数名の部下と共に何かを話していた。

 

「中尉、情報局の連中は何を話しているんですかね?」

 

アリシアに声を掛けてきたのは、降下部隊を指揮するアフリカ系の将校である、リノック少尉だった。髪はモヒカンのように切り込んでおり、その髪型がそうであるように彼は猛者であることを伺わせる。

 

彼は情報局の奴等に聞かれないよう、部隊内通信を使用している。

 

「さぁな、ろくでもない話なのは違いないな」

 

ヴェルスキー少佐と護衛の兵士二人と技術局からきたらしい白の防護スーツを着た技術兵。身体のシルエットから女性だと言うことが理解できるが、彼女の手には手錠で繋がれたアタッシュケースが確認できた。

 

「Vault87はスーパーミュータントの巣窟だと聞きましたが、サンプルの採取でしょうか」

 

「恐らくはな。まあ、大佐の言っていることが正しければ・・・・」

 

「大佐の・・・?どういうことです」

 

アリシアはうっかり口を滑らせたことに憤りを覚えたが、リノック少尉のような人物にそれを教えるわけにはいかない。アリシアはため息をつきつつ答えた。

 

「今のは言わなかったことに。軍事機密だ」

 

「了解です、ですが彼らが良くないことをするのは確かなんでしょう?」

 

軍事機密と言われても全く動じない限り、彼はなかなかの剛の者であった。アリシアはそんな彼に微笑を溢しながら口を開く。

 

「ああ、そうだ。私も詳しくは知らないが。彼ら独自で動くそうだ」

 

「なら、彼らの為に一機貸し出すよう考えとかねばなりませんね」

 

もし、ミュータントの数が部隊よりも多く対処しきれない場合は撤退を考えなければならない。別に行動するのであれば、一機彼らのために割くのは致し方ない。

 

「中尉、そう言えば貴女は情報局の人間でしたよね?」

 

「ああ、だからどうしたんだ?上司はでき損ないが多いのは当たり前だろうに」

 

「ブホッ!」

 

リノックは普通に上司を批判する彼女に対し笑いを堪えきれない。彼のイメージとして情報局は差別主義者や狂信的な愛国者の集団だと思っていた節があったからだ。

 

「そんなに笑わんでも、私は情報局に在籍しているが居ないようなものだからな」

 

彼女は知らないが、情報局の上層部からしてみれば捨て駒に等しい存在であった。今彼女が居るのは、彼女に価値があるからであるからだろう。反逆した将軍の娘など、後々反旗を翻しかねない懸念もあるが、人物鑑定の結果としてそうした反抗はしないという結果が出ている。薄々、そのことに気が付いている彼女にとってエンクレイヴや情報局の存在は邪魔にしか思えなかった。

 

「いえ、まあ一枚岩だと思っていたので。・・・そう言えば、中尉はジェファーソン記念館に潜入していたと聞いていますが、今度のVault87にも彼らが居るらしいですね?」

 

Vault87に赴く理由はユウキ達の拘束とG.E.C.Kの確保である。衛星による追跡によってユウキ達の位置が特定し、Vault87に通じるリトルランプライト周辺には機械化部隊の車輛がバックアップとして控えている。また、オータム大佐の指示により、エンクレイヴ保安部隊による子供の保護もしているらしいが難航している。元より大人に対する警戒心の強く、そう簡単に和解できるわけではなかった。

 

リノックが言うと、アリシアは渋い表情をしながら答える。

 

「ああ、彼等はかなりのやり手だからな。生きたまま捕らえろと指示が出ている。閃光手榴弾で自由を奪って拘束するのが良いだろう」

 

「了解です。部下に伝えときます」

 

「まもなく、Vault87上空です!降下準備を」

 

会話が終わるときに、パイロットから降下準備の指示が出される。

 

 

ベルチバードはVault87に到着すると、機体の下部に吊るされた爆倉のハッチを開いた。

 

「投下!投下!」

 

「LUNCTH」と赤いボタンが押され、幾つかの薬剤が投下される。

 

それはエンクレイヴが局地的な放射能汚染に使用する除去剤である。放射能マークにスラッシュが描かれたそれは高濃度の放射能に汚染されたVault87に投下され、周囲のミュータントを掃討した時に落とされた放射能測定マーカーが機長のウェアラブルコンピューターに表示された。

 

「放射能マーカーの数値、劇的に低下中」

 

「Lightning全機、降下準備。2と3は歩兵部隊の降下を」

 

ベルチバードは数値の芳しくない場所に残った薬剤を投下する。エントランスは未だに数値が高く、再度薬剤が投下された。

 

「弾着地点か・・・・地獄へご招待」

 

歩兵部隊の指揮を取るリノック少尉は皆に聞こえないようそう呟く。最終戦争当時に中国の核弾頭が直撃したエリアであるため、かなりの放射能が残留していた。Vault87は窪地であったためなのか、vaultというものがあるからなのか、そこには放射能が200年経ったイまでも残留していた。他のヘリは放射能が低下したことを確認し、ハッチを開いて降下ロープを垂らして兵員が降下する。地面へと降りた兵士は周囲へ銃を向けて警戒しながら着陸地点を確保した。

 

 

「これより着陸する。中尉、こちらから緊急で無線を送るかもしれません。回線は常にオープンにお願いします」

 

「了解した、最善を尽くそう」

 

ヘリは着陸の衝撃で少し揺れる。リノックがヘリのハッチを開いて先に出て、アリシアも後ろから彼に続いてヘリから降りる。

 

「中尉、周囲の安全を確認。オートタレットと歩哨を配置。」

 

「第二小隊、侵入準備完了。工兵がテルミットでハッチを部分破壊します。命令次第爆破します」

 

「了解した。ヴェルスキー少佐は如何なされる?」

 

アリシアは報告する兵士から話を聞き、後ろで待つヴェルスキー少佐に訪ねた。

 

彼は佐官服を身に纏っているが、彼の雰囲気は科学者のそれである。技術佐官であろうことが分かるものの、彼が出しているものは狂気だった。眼鏡の奥にある目からは、ドブのような腐った目をしている。人とは思えないような様子だった彼にアリシアは一瞬後退りしそうになる。

 

「我々は別行動をさせて貰う。なに、情報では既に大部分のミュータントが掃討されたと聞いている。護衛二人なら大丈夫だろう」

 

「了解しました・・・工兵、ハッチを破壊しろ!」

 

 

 

「Yes, Ma'am.・・・・爆破用意!」

 

アリシアから命令を受けた工兵はハッチにテルミットと高性能の指向性爆薬を設置し、有線で爆発すべく点火装置に手を付ける。

 

 

「爆破します・・・・3・・・・2・・・1・・・点火!」

 

 

閃光がハッチから放たれ、数千度もの炎が至近距離でハッチを焼き尽くす。そして指向性爆薬が爆発し、複合装甲で核の直撃でも耐えられるハッチに大穴があく。核の直撃を耐えられると豪語していた当時のVault-tecの技術者だが、二度目に核と同程度の高熱に当てられ、更に爆薬によって破壊されるとは思っても見なかっただろう。

 

 

200年封印されていたVault87の扉が今開かれた瞬間だった。

 

 

しかし、アリシアは疑問を覚えた。ハッチのことではない。

 

 

 

『我々は別行動をさせて貰う。なに、情報では既に大部分のミュータントが掃討されたと聞いている。護衛二人なら大丈夫だろう』

 

 

 

 

 

「どこからの情報だ・・・・?」

 

 

彼らにはエンクレイヴの内通者がいない。アリシアというスパイがいたからこそジェファーソン記念館は陥ちたようなもの。しかし、現在の様子やvaultの内部まで分かるのはどう見ても不自然だった。

 

 

アリシアは一抹の不安を抱きながら、vault87という地獄の扉をくくり抜けて中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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嘗て、イギリスの自然学者、チャールズ・ロバート・ダーウィンは人類の進化論を唱えた。人は類人猿より進化し、ホモ・サピエンスとなると。

 

 

それは宗教でいう神の子供という一般的な解釈から、大きく逸れたものであった。当然、多くの人々がそれに反発した。しかし、いくら意義を唱えて異端扱いしようとも、真実であることに代わりはない。それは時代を経ていく内に人の常識へと浸透した。

 

 

そして科学者は思う。

 

『人の進化を促進することは出来ないだろうか』と。

 

 

人と言う生物は様々な文化、歴史を紡ぎ出した。そして科学技術が発展して今の世の中がある。それも人間が進化していく過程として見受けることが出来るだろう。しかし、人間の身体自体さほど変わっていない。寧ろ、その科学技術の発展によって、古きよき時代にいた人達と比べると身体能力の衰えすらあった。

 

環境に適応しているといえば響きが良い。しかし、昔と比べて衰えているという事実は変わらない。

 

科学者は人を次の段階に進めるための研究を始めることになった。しかし、それは可能性を探るためであり、進化を推進するものではない。進化は自然に任せ、人類の次なる可能性を見い出すものとして研究を重ねた。

 

 

しかし、人間は文化を織り成す過程で作り上げた「信条」「主義」によって。または「人種」によってその進化を促す目的は変容した。学術的なものではなく、国家を守るための剣とするため。

 

「スーパーソルジャー計画」

 

共産勢力は資本主義国家より強力な軍を保持していた。テクノロジーには劣るものの、兵士の練度は米軍兵の二倍に匹敵する。忠誠心も高く、過酷な環境でも士気が高い。劣勢になれば脱走を図る米兵とは偉い違いであった。

 

アメリカ政府はテクノロジーの塊であるパワーアーマーを装備させた機甲兵を用いて対抗したが、兵士の単価が上昇してしまった。そこで政府は兵士の基礎能力の向上を低コストで成してしまうことを実現するために、科学者が研究する人類の進化を司るプロジェクトに介入し始めた。

 

学術的な研究から国家を守るための殺戮兵器として。

 

それは巨大企業と陸軍の研究施設にて研究が行われた。「浄化プリオン計画」と名づけられたこの研究は新人類を創造する研究ではなく、人と人との闘争に勝利するための強化兵士の研究に成り変わった。

 

最終戦争による核の応酬によって、アメリカ全土は核の炎に焼かれた。先の研究施設も例外ではない。例外的なVault-tec社の秘匿研究施設のあるVault87を除き、マリポーサ軍事基地やウェストテックなどの軍需企業の研究施設は破壊され、強制進化ウィルス「FEV」が大気にばら蒔かれた。放射能の影響によって変異したFEVは核の炎に包まれた世界に拡散した。

 

最終戦争でも戦える兵士の創造を目指していたFEVは投与された検体を強靭な肉体に変え、放射能に耐性を持つ生物に変異させる。しかしFEVは直接放射能浴びるなどした影響でそれらの能力は大きく変容を遂げた。一説には中国軍の生物兵器による影響と言われたが定かではない。

 

FEVウィルスは大気中に拡散し、核の炎で生き残った生物に感染した。感染した生物はそのウィルスに耐えきれずに絶滅したものもいる。そして姿をそのままに変異を遂げずに放射能に耐えることが出来るものもいれば、放射能とそれらの環境に適応するために大きくなったものもいた。

 

ウェイストランドに住む野犬や人。これらは戦前と余り変わらず、戦前と比べて簡単に病気に掛かったり、放射能にある程度耐えられるようになった。

 

そして、放射能と環境に適応したモールラットやラッドローチ。堅い甲羅を持つミレルーク。ハエが巨大化したブロードフライやヤオ・グアイ、ジャイアントアント、スコルピオン。そして、フェラル・グール。

 

外見上変化していない人間だが、戦前よりも放射能に耐える能力が向上している他、グールになるのもウィルスの影響だろう。放射能を浴びすぎてグールになり、さらに浴びて凶暴化して肉を求めるフェラル・グールとなるのが通説であるが、それが真実であるのか未だに分かっていない。放射能を浴びて死ぬウェイストランド人もいれば、戦前生まれのグールも存在する。そして、D.C.の地下に張り巡らされたメトロには多くのフェラル・グールがおり、かれらの姿から戦前にいた者達ではないかと推測される。

 

そして、vault87で開発されたFEVとそこから生まれたスーパーミュータント。西海岸で確認されたマリポーサ軍事基地から生まれたスーパーミュータントとは違うが、肌の色を除けば、殆ど同じである彼ら。数十年前から姿を現した彼らミュータントは何かを引き寄せるのかD.C.近辺に集まっている。スーパーミュータントは放射能汚染されてないFEVを感染させて変異した人間の成れの果てだった。

 

結論として言えることは・・・・。Vault87のFEVの貯蔵施設はまだ生きていて、ウェイストランド人を検体にスーパーミュータントを製造しているということだ。

 

 

「どうだ?理解できたか?」

 

FEV変異体、スーパーミュータント本人であるフォークスを講師に招き入れたFEVウイルスについての成り立ちの講義を聞き、俺達はその古人が作り上げたとんでもない発明の説明に付いて行けなかった。ロボットはそうした教育方面の頭脳は組み込まれていないし、ドックミートは伏せの体勢で目を瞑って寝息を立てている。ウェインはそう言った歴史や科学に関する知識が皆無だったために、頭の上にクエスチョンマークを浮かばせているのではないかと思う。俺とシャルは戦前のアメリカと中国の対立や世界情勢は知っている。国防総省にあったデータも見れば、いかにアメリカと中国が死闘を繰り広げていたか理解できた。

 

「放射能を浴びたFEVがそこまで変異させるような毒素を出ないことは分かったわ。でも感染した貴方やミュータントと接触した私達は変異するの?」

 

「いや、我々の体液を大量に摂取すれば、変異する可能性もある。しかし、体内に注射されたFEVと変異体の体液とでは含まれるウィルスの数が少なすぎる。皮膚から浸透圧による方法がかなり変異しやすいと聞く。だが、我々のようなミュータントになるとは限らない」

 

つまり、彼らと相対しても彼らの血を集めた風呂に入らなければ大丈夫と言う話。さすがの気がおかしくなったウェイストランド人でもしないだろう。

 

「まだFEVは残っているのか?」

 

「この施設の地下五階に位置する施設AIに隣接された製造施設がある。Vault-tecはFEVを実用化して配備する予定だった。当然、生産設備も完備してある」

 

「え、は?AI?製造施設?」

 

フォークスの口から出てきた単語はこの世界を知っている俺にとって全く知りもしないものだった。

 

そもそもこのVault87に人工知能があることは言及されていない。どうFEVに感染してスーパーミュータントになるのかすら明らかにされていない。そもそもVault87は本社のコンピューターにすら記載されていない超極秘施設であった。何せ、人道的ではない人体実験を行っていたのだ。万が一情報が漏れないようにする必要がある。

 

「この施設は西海岸と通信をしていたらしい。何を交信していたか不明だが、高度な軍事暗号アルゴリズムだった。君達が言ったようにワシントンD.C.にスーパーミュータントが居るのもその人工知能によるものだろう。つい最近は北西にある極秘軍事施設とコンタクトを取っていたようだ。内容が分かるかと思ったのだが、私がパソコンを弄っていたことがばれてメインフレームとの接続が切れた。恐らくAIの仕業だろう」

 

「つまりはAIがスーパーミュータントに指令を送ってD.C.に駐屯するよう命じたのか。それなら、奴等の行動パターンも読めなくはない」

 

西海岸では、マスターと呼ばれる男がスーパーミュータントを従えてウェイストランドを掌握しようと動き出したことがある。そもそも、スーパーソルジャーを造り出す筈だったFEVは遺伝子の中に絶対的な指揮官を決めるように刷り込みをかけてあったという一説もあり、東海岸でも同じことが言えるだろう。しかし、スーパーミュータントを指揮しているのは人ならざる者に変化したマスターではなく、鉄の塊であろうAIなのだが。

 

「それで、君達はどうするつもりだ?G.E.C.Kの在処は分かるが、我が同胞は際限なく君たちを襲うし、AIの無効化は君たちにとっても利益があるのではないか?」

 

「このまま見過ごすわけにもいかない。だが、弾の残りも僅かだ。さっきも話したようにエンクレイヴという組織がいつ来るか分からない。速めにG.E.C.Kを持って行きたいのだが・・・どうするか」

 

AIの暴走によって引き起こされたスーパーミュータントの侵略。そんな話を知らなかったので持っている装備で対処できるか不安だ。一度、エルダーにこの事を連絡する事が必要だろう。だが、通信機器を持っていないため一度要塞に帰らなければならない。

 

「一度、G.E.C.Kを回収してからで良いだろう。それから、装備が不安だったら行かなければいい」

 

ウェインはバトルライフルに弾倉を入れてボルトを下ろす。ウェインは乱暴にドックミートの頭を撫でて起こした。起きたてで不機嫌なドックミートであったが、ウェインはどっから出したのかバラモンジャーキーをドックミートの口の中に投げ込む。瞬く間に完食したドックミートはウェインを先頭に先ほどまでいたフォークスの独房から出た。

 

「よし、ウェインとドックミートは前衛。後衛は俺と・・・」

 

「いや、私が前衛をやろう」

 

ふと、肩をフォークスのドでかい手で掴まれる。彼の手には何処から持ってきたのか分からないスーパースレッジと呼ばれる戦闘用ハンマーが握られていた。

 

先ほどまでのインテリ系ミュータントであった彼の目は闘志に燃えた熱い男になっていた。

 

「ハハッ、血湧き肉踊るとはまさにこのこと!」

 

いや、言っていることややっていることは普通のスーパーミュータントと同じか?

 

ウェインやドックミートを追い抜いて、階段を掛け上がると目の前にいたミュータントに間髪入れずにスーパースレッジを振り下ろした。

 

「ひとーつ!!」

 

横殴りでスレッジを顔面に当てられたミュータントは歯を砕き、脳奬と共に血潮が天井に飛び散った。もう一体のミュータントは同じミュータントがミュータントをいきなり殺すことに驚き、一瞬引き金を引くことが出来なかった。直ぐに正気に戻り、持っていたアサルトライフルを連射する。

 

「当たらぬわ!」

 

肩を反らし、弾を避けてスレッジハンマーを構え直す。そして落ちていたコンバットナイフをミュータントの顎に突き刺すと、そのナイフの柄の部分にハンマーを振り落とした。ナイフは衝撃でミュータントの頭蓋骨を突き破り頭からナイフの刃が付きだし絶命する。

 

ミュータントがミュータントを蹂躙する光景はまさに異様であった。

 

「バケモノ!」

 

「同じ同胞に対して言う言葉か!万死に値す!」

 

スーパースレッジをミュータントの頭部目掛けて振り下ろし、頭蓋骨が割れるような音が響き渡る。あらかた掃討したかに思われたが、奥から咆哮と共に響く足音によって何者かが近づいてくるのが分かった。

 

「来たか・・・」

 

そこには、スーパーミュータントオーヴァーロードが立ち、フォークスと同じスーパースレッジを携えていた。

 

「オ前、俺達ト違ウ!殺ス!」

 

「私と貴様とでは種族は同じでも力量が違う。貴様では私を殺せぬよ」

 

「!!」

 

オーヴァーロードは馬鹿にされたと感じたのか、憤慨したようにスーパースレッジを振り回す。

 

「殺ス殺スコロスコロス!!」

 

「見せてもらおうか、貴様のようなミュータントの力とやらを」

 

 

フォークスのセリフがゴングとなって、オーヴァーロードはスレッジをフォークスへと振り下ろす。フォークスは避けずに、スレッジを盾に打撃を防いだ。

 

「ふん、力だけはあるようだな。だが!」

 

フォークスはオーヴァーロードを突き放すと、柄の部分で肋骨を突き刺す。更に軽いフットワークで蹴りを繰り出し、オーヴァーロードを翻弄する。それを辞めさせるかのようにスーパースレッジを振り回すが、フォークスも素早くそれを避けきった。

 

「当たらなければどうということはない!」

 

オーヴァーロードは横殴りでフォークスを牽制するが、フォークスは隙を見てスーパースレッジを当てて、振り被るのを阻止する。そして、スレッジを捨てるとオーヴァーロードの腕を掴んだ。

 

「ふんぬぅ!!!」

 

それは柔道の背負い投げであった。2m近い巨体であるオーヴァーロードが宙を舞い、Vaultの壁に激突する。

 

「・・・・・グハッ・・・・」

 

口から血を吐き、所々怪我をするオーヴァーロードは通路で倒れ伏す。しかし、フォークスはトドメとばかりにスーパースレッジを振り下ろす。強固な皮膚と筋肉、そして頭蓋骨を持つスーパーミュータントであってもその打撃に耐えられない。血潮と共にミュータントの脳奬が飛散し、辺りに血の池を形成した。

 

 

「ふふ、この風、この緊迫感。これぞ戦争!」

 

 

 

「フォークス・・・・あんた厨二病や」

 

 

数百年の封印から解かれた邪神とか自分のことを言いそうで怖い。実際、数百年もの間、Vaultのデータベースに保存された本を読んで時間を潰していたと言うし、そうした本を読んで感化されたとしてもおかしくない。

 

厨二病紛いのセリフを言うフォークスは残りのミュータントを掃討することが出来た。全く銃弾を使わずにだ。

 

 

 

 

「これが大地を肥沃の土地にし、放射能と言う邪神を追い払うVaultの科学者が作り上げた天地創造の神器」

 

「フォークスの厨二病発言は置いといて・・・これがG.E.C.Kか」

 

「私は厨二病ではない。本で学んだ台詞を言うぐらい良いじゃないか!カッコいいだろ!」

 

「いや、まあ良いんだけどさ・・・・」

 

カッコは良い。だが、それを言ってかっこいいと思えるのは中学生までだ。俺達よりも年老いた者が言っても羞恥心が増大されるだけである。

 

保管室に至るまでの通路には総勢で20前後のミュータントが守っていた。当然、激戦になるわけなのだが、俺たちは一発も発射していない。全ては日頃・・・いや年単位の鬱憤がたまったフォークスは鬼神もかくやの行動でスーパーミュータントを蹴散らし、制圧した。台詞はもう、赤い彗星か青い巨星の台詞。または、元カリフォルニア都知事の台詞か。どちらにしても、フォークスの心は中学二年生の心に引けをとらないということであろう。

 

制圧後、パワーアーマーでもカバーしきれない放射能汚染によって、保管室に入ることが不可能であった。一応、保管庫から改良型の放射能防護服を手に入れたが、それでも高い放射線が検出していたために入ることが出来なかった。

 

フォークスは「私に任せろ」と言い、「普通の人間なら耐えられないが、私のような超人類なら・・・うぉぉぉぉ!」と、俺らから見ればいい年した(推定数百歳)大人が何を言っているのかと思う。

 

 

 

 

 

「もっとこう・・・なんというか・・・」

 

「もっと機械じみた感じだろ。例えば核弾頭みたいな」

 

シャルの疑問ももっともだ。G.E.C.Kと呼ばれたそれはアタッシュケースに収まるほどの小さいものだからだ。アタッシュケースを開いてみると、幾つもの機械の他にそれを取り扱う冊子も入っていた。

 

「えーと、どれどれ・・・・“このVault-tec社製、G.E.C.K〔エデンの園創造機〕は核戦争後の荒廃した大地に命をもたらします。このケースの中には小型核融合炉と放射性物質分解装置、各種植物の種子などがあります。しかし、機械にも稼働範囲があり、最大で半径5kmの地しか肥沃にすることが出来ません。一番壊れやすい放射性物質分解装置は土の分解の場合、負荷がかかりやすく他の装置より長持ちはしません。専門の技術スタッフか電子工学と量子力学の博士が居る場合は監督官に配られる行動要領の8項目に沿って行動してください。”・・・なるほどね。あとはこの分厚い資料を通して理解する訳だ。」

 

ウェインは取り扱い説明書らしき冊子を読む。それは辞典並みに分厚いため専門の科学者に調べさせる必要があるだろう。

 

「さて、どうするのだ?私が居れば、ここのAIを破壊して製造施設も破壊できるだろう」

 

「ユウキ、まだミニ・ニュークある?」

 

「まだかなりある。施設を破壊するなら一発で十分だ」

 

超小型核弾頭一発在ればコンクリート製の建物は簡単に消し飛ぶ。それが、Vault内部であったなら多大な損害を与えることが出来るだろう。

 

「たしか、厳重に封鎖された二重扉の奥だよな。貯蔵施設とAI管理室は」

 

フォークスが軟禁してあった部屋から、G.E.C.Kに至るまで。放射能で汚染されたエントランスとAIやFEVが貯蔵、製造される施設に繋がる通路がある。通路と言うよりも各エリアに行くための分岐点であり、そこにはこの研究施設で重要度の高いAIの管理室やFEV製造施設に通じるハッチがあり、二重の防護扉が敷いてあった。開けようかと思ったが、何か嫌な予感がしたために開けることはなかった。事を起こすのはシナリオ通りでいいのであり、下手に手を突っ込む必要はあるまい。

 

よくあるウィルスを研究する地下施設が閉鎖され、調査のため扉を開けたら有害なウィルスがばら蒔かれ、地上の都市にアウトブレイクしたのが良い例だ。

 

それはフィクションなのだが、「触らぬ神に祟りなし」と言うように。要は触らなければいい。ただ、それだけなのだ。

 

だが、どのみちスーパーミュータントはここから生まれてくるのだから開けねばならない。

 

「嫌だぞ、おれがウェイストランドを壊滅させたなんてことになったら・・・」

 

俺はそう呟くが、フォークスの手が俺の肩に乗る。

 

「安心しろ、私の戦い振りを見ただろう。この拳に勝るものなどないのだ。」

 

まあ、彼なら死の爪を持つ怪物でも殴り倒し、そしてグレイ型宇宙人も肉片と化すまで殴りつけそうだ。

 

 

「じゃあ、そのAIの元へ急ごう。ウェインとドックミート先頭だ。」

 

「いや待て。私が刈り残した同族達が襲ってきたらどうする?君たちの武器や装備で対処できるか?」

 

フォークスは先ほどの自分の雄志を見ていないのかと言うかのように胸を張ってニコリと微笑む。確かに彼は一騎当千の力を持つ。もしかしたら彼一人で全てを為せるに違いないだろう。だが・・・

 

「フォークス。G.E.C.Kまでの道のりを安全にしてくれただけでなく、俺たちは放射能に汚染されることなく君のお陰でこれを手に入れることが出来た。少し休んでいてくれ。必要になったら声を掛けるから」

 

「そうか、なら私は後ろで待っていることにしよう。必要ならすぐに呼んでくれ」

 

スーパースレッジを肩に掛けて重低音の足音を響かせながら、フォークスは最後尾に付いていく。

 

「慎重にな。まあ、さっき通ったところだろうけど」

 

「大丈夫だって。何も出てきやしないさ」

 

ウェインは軽口を叩きながら、バトルライフルを左右へ向けて警戒は緩めなかった。

 

「そこが分岐路だ。注意しろよ・・・・」

 

 

 

そう言い終わろうとした瞬間、頭に鈍痛が襲う。刺した痛みと言うよりも、抓られたような。感覚のない脳をつままれたような痛みが走り、その場にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

「痛っつ!」

 

「ユウキ、大丈夫?」

 

頭の中にちらつく映像。最初は何なのか分からなかったが、すぐに思い出すことが出来た。それは、ウェイストランドでは見えない蒼い空。澄んだ空気。行き交う人。平和な街。そして、学校や自分の部屋と思わしき空間。

 

そこにあったのはウェイストランドのパソコンとはまた違う高性能なデスクトップPC。画面に映っていたのは今生きている世界そのもの。断片的な記憶が再統合され、今から起こる出来事が思い起こされた。

 

 

「・・・・クソ・・・やばい!・・・ウェイン!そこから離れろ!」

 

 

「え?どうした?」

 

 

「エントランスの入り口から奴らが・・・!」

 

 

 

既に換算すれば20年弱の記憶。生前の年齢を合わせてみると36歳であろうか。その時の記憶はとうの昔に薄れ、必要ではない記憶は忘れてしまっている。それも住み慣れない文化や言葉、そしてvault101の洗脳プログラムなどの影響によってそれ以前の記憶は殆ど消えていると行っても過言ではない。

 

 

ゲームの内容もまた然り。

 

 

ゲームでは大きなターニングポイントであったから思い出すことが出来たのだろう。だが、それは既に遅かった。

 

 

 

エントランスに通ずるハッチの隙間から金属製の物体が投げられた。

 

「EM45 SHOCK GRENADE」

 

 

とプリントされたものは壁にぶつかり、ウェインの足下で停止した。

 

 

 

 

「グレネード!!」

 

ウェインが叫ぶと同時に強烈な閃光と音が耳と目を塞ぐ。すぐに手足の力が無くなり後ろに倒れ伏す。ゆっくりと感覚の失せる手足に恐怖を覚えながら、目の前にある光景にゾッとした。

 

その光景は多少の差さえあるものの、一度見た光景であるからだ。液晶画面から見たそれを。

 

 

 

エントランスに通ずるハッチが開いたかと思うと、漆黒の塗装を施したパワーアーマーを着た兵士がガトリングレーザーを構えながら近づいてくる。彼らのアーマーは至る所に改修された形跡があり、重火器兵の横を歩く指揮官らしきアフリカ系の兵士は後ろから来る人物に報告した。

 

「中尉、対象を無力化しました」

 

「殺してないだろうな?」

 

「それはもちろん」

 

後ろから歩いてくるのは、エンクレイヴの士官服に身を包み、濃紺のベレーを被った女性士官だった。しかし、その顔には見覚えがあった。

 

「アリシア・・・」

 

「久しぶりだな、ユウキ」

 

何とか声を出すものの、それは掠れたような声だった。意識が朦朧とし全身の感覚が消えていく。何とか意識を保とうとするものの、眠気にも似たものによって意識を手放した。

 




「ハハッ!執筆タイムだ!」

さて、土日はサンタの格好してサバゲーしようと思います。

「リア充共は爆発だ!」

と白い袋からC4投げながらね・・・・・・(; ̄д ̄)ハァwww


誤字脱字感想等お待ちしております

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