fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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最後の投稿が五月・・・・・本当に申し訳ないです!
六月に投稿と言いながら、七月も投稿出来ず、八月になるなんてほんとうにすみません。

活動報告にも書きましたが、スランプでした。(あと区切りが見つからなかったのもあります。

あと、去年もそうだったのですが長期休みになると筆が全く進まなくなります。もしかしたら次は九月の終わりに投稿するかも知れないです。







三十三話 アウトキャスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Brotherhood of steelは人類を再び大規模な大戦争を行わないため、戦前の軍事テクノロジーを保全、管理する戦闘集団である。それは、少数精鋭という特質のため古代ギリシャの一都市国家。ポリスにあるスパルタを連想させるかもしれない。三百人が十万人に立ち向かった話も聞くが、あれは空想である。軍事的にそれは無理に近い。

 

 

「ディフェンダー!前方より敵のAPC(兵員輸送車)!」

 

黒と赤の塗料を塗ったパワーアーマーを着る兵士は乱雑に置かれた木箱のこの中から、生産されたばかりの簡易ミサイルランチャーを取り出した。

 

チューブを伸ばして安全装置を解除する。近づく黒いパワーアーマーを着た兵士が此方に走ってくるのが見え、私は持っていたアサルトライフルの引き金を引いた。装填されていた徹甲弾は兵士の脇腹と腕に直撃する。追加装甲を施していたと言えど、装甲の比較的薄い箇所に当たったのか、兵士はその場で倒れる。後続の兵士はその兵士を助けるためにAPCの影へと引きずり込む。

 

「発射ぁ!」

 

仲間の兵士が叫び、ミサイルを発射する。それは燃料を燃やしながら直進し、装甲のない車窓に命中させる。APCの動きが止まり、中で何かが爆発する音が聞こえた。内部に保管していた弾薬に引火したに違いなかった。

 

「後退するぞ、エルロス!聞いてるのか?」

 

先程までアサルトライフルを撃っていたエルロスという仲間に近づき肩を掴んでみると、胸には大きな穴が空いていた。

 

「ディフェンダー!敵が西から!」

 

塹壕を走ってきた兵士は報告しようと、走ってくるが彼の頭に何かの銃弾が命中する。頭部が晒されていたため命中したのだろう。粘着性の何かが彼のヘルメットにくっついていた。俺はその粘着性の物を良く見てみると、赤く点滅する機械的な物があった。

 

 

「爆弾だ!伏せろ!」

 

そう叫ぶと同時に、兵士の頭が吹き飛ぶ。爆発は限定的だったが、もしかしたらエルロスの胸がああなっていたのも、コイツのお陰かもしれない。

 

「地下下水道に待避だ。ディモンド!三十秒だ!」

 

「了解」

 

下水道の入り口まで十秒ほどで行けるが、大いに越したことはない。アサルトライフルの弾倉を替えて、手榴弾を投げる。パワーアーマーを着ている兵士に手榴弾は効かないが、無いよりましだ。ここにレーザーガトリングがあれば言うことないのだが、初戦の爆撃で破壊されてしまった。フェアファクスの地下施設に移した戦力でどうにかできるとは思えなかった。

 

「ディフェンダー、爆破準備完了」

 

「よし、全員待避だ!後退するぞ!」

 

俺は塹壕にいた残り5名弱の隊員に命令する。目の前の光景は未だ信じられない。昨日までは八人、そして一昨日は十三人の部下が居たのだから。

 

塹壕の奥にいた三名はエンクレイヴに牽制射撃を加えるが、追加装甲を施してあるパワーアーマーで傷を付けることが出来ない。すると、破壊したAPCの後ろから85mm榴弾砲を装備したIFV(歩兵戦闘車)が現れる。牽制を加えていた兵士が近くの木箱からミサイルランチャーを出すが、榴弾砲が火を吹いた。発射された弾頭は弾頭が分散し、大きな釘のような物となり、突き刺さるフレシェット弾だった。大口径の機関銃を貫通しないようになっているパワーアーマーの装甲を貫通し、兵士を殺傷する。牽制していた兵士の身体には至るところにフレシェットの釘が刺さった。

 

「走れ!走れ!」

 

俺は部下に叫び、空になった弾薬箱を蹴飛ばし、下水道の入り口に走る。先頭を走っていた兵士がはしごを降りる。俺も直ぐに降りようとして梯子を掴んだ。端を掴んで一気に下りるが、上から響く爆発音に俺は起爆したのかと驚く。あと十秒弱は残っていた筈だ。

 

上を見上げると、俺の後ろからついてきていた部下の顔が下水道の出入り口から現れる。俺は早く降りてこいと言うが、部下は返事をしない。すると、頭から下水道へと降りようとする。それは誰が見ても危険で俺はその行動を見て驚く。しかし、部下は降りようとして降りたわけではなかった。

 

頭から下水道へと落ちた部下の下半身はなかった。虚ろな目が俺に向けられ息はしていなかった。俺は唖然としてその場に立ちすくむ。しかし、俺の腕を誰かが引っ張る。振り向くとそこには先行して下水道に入った部下だった。

 

我に帰った俺は急いで入り口から離れなければならないことを思い出す。

 

「先に行け!」

 

部下を先に行かせ、俺も急いでここから離れるよう部下の後ろに付いて行く。

 

ちょうど、地下の補給所にたどり着いたとき、下水道入り口の方から地響きと共に崩落の音が響き渡る。爆薬は陣地の周辺以外にも下水道に通じる場所を埋めるため、200年立ち続けていたビルの支柱を破壊した。それは戦前の発破工事で破壊するよりも容易く、廃墟であるそのビルは糸も容易く崩壊した。それによって侵入を試みようとしたエンクレイヴを道連れにしたに違いなかった。

 

「部下は一人か」

 

俺は独り言のように呟く。

 

その部下はヘルメットを脱いだ。髪は赤茶でショートカットに纏めたそれは異様である。BOSという組織は軍を継承しているため規律は厳しい。だが、周囲の意見を退ける技能は彼女にはあった。そして日焼けをしないのか真っ白な白い肌。顔立ちも良く、あと五年経てば熟すと言う感じのあどけない少女だ。父と共にアウトキャストになったが、当の父親はすでにエンクレイヴの攻撃で戦死した。あまり表情を表に出さない彼女でも、俺は何処か悲壮感漂っているように見えた。

 

手持ちの弾薬は底をついたので仮説の補給所に向かう。部下のさらさらとした髪を上からクシャクシャにして掻き回し、補給所へと歩く。

 

俺の名前はロココ・ロックフォウル。

 

分隊を全滅にしてしまった無能な指揮官だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ビルが崩れたな」

 

崩落に巻き込まれ、エンクレイヴの部隊は其処から後退していく。一度体勢を建て直すようだ。ウェインは俺が渡した双眼鏡を覗き、後退するIFVを見る。後ろには牽引された中破するAPCがあった。近くにはゆっくりと後退するパワーアーマーを着るエンクレイヴ兵の姿が見られた。

 

「それにしても、酷いな」

 

その様子を見るスターパラディン・クロスは自身が持つ双眼鏡でその市街地戦の惨状を見る。元々同志だった仲間が骸となるのはやはり忍びない。

 

後ろのバラモンには彼らに対する医療物資が山程載せてあるが、エンクレイヴの包囲を突破して彼らにそれを届けられるとは思っていない。

 

商人として偽っても、エンクレイヴが親切丁寧に誘導してくれるとは思えない。エンクレイヴには東と西の勢力が混ざりあった組織。そこに居るのは優しい東側か選民思想に染まった西側の可能性も否定できない。優しい兵士にあったとしても、指揮官が冷血漢では命はない。

 

 

「隠密に行っても、見つかったらアウトキャストとBOSが同じだと言うことで攻撃を受ける可能性もある。かと言って、堂々と行っても通してもらえるとは思わないしな」

 

俺はそう言って、バラモンの頭を撫でる。嬉しそうにバラモンは鳴く。

 

「司令官!ここは強行突破を!」

 

「軍曹、少し黙ろうか?」

 

RL-3軍曹は俺に進言するが、暑いセリフにうんざりしたシャルは軍曹に殺意を向ける。笑いながら殺意を向けるのもどうかと思うが、俺はドックミートにバラモンの干し肉を上げて頭を撫でる。

 

「ウェイン、なんでこんなの連れてきたのよ!」

 

「必要だろ?これから」

 

シャルは耐えきれず、隣のウェインに訴えるがさらりとウェインは体を避ける。

 

ウェインはメガトンを偵察するついでにメガトンへ行って私物を回収しに行ったのだ。エンクレイヴの支配下であったものの、そこに住んでいた証さえあれば入れるようだ。住人が彼の事を知っていれば中に入れるが、新参者は入ることは出来ない。

 

ウェインは荷物のあるモイラの雑貨店に赴いて、モイラとジムが無事だということを知り。そしてブライアンやRL-3軍曹をモイラが匿っていたのだと言う事実を知った。

 

エンクレイヴはメガトンを制圧すると、俺の家や店舗を接収した。ブライアンは家にあった武器弾薬をありったけRL-3軍曹やモイラの雑貨店に隠した。全てとはいかなかったが、ブライアンの粋な行動によって撤甲弾を補給することが出来た。なにより、RL-3軍曹は元々米陸軍の兵士の武器を運搬できるようになっていたため、数人の一般人が完全武装出来る武器弾薬を搭載可能だった。

 

「軍曹、久々の出番だもんな」

 

若干メタな発言だが、余り戦闘に出してないこともあったので軍曹は意気揚々と熱核ジェットで揚々と浮いていた。

 

「敵陣に乗り込んでいって玉砕する覚悟であります!」

 

「いやいや、勝手に行くなよ。軍曹」

 

若干暴走気味な軍曹だが、持ち主の俺と一緒に居なかったためなのかもしれない。すると、拗ねたのか愚痴を漏らし始める。

 

「しかし、司令官。自分は戦闘用のロボットであります。それだけに、新兵の訓練は辛かったのであります。プラズマガンは撃てないし、火焔放射機も・・・・」

 

好戦的なMr.ガッツィーは端から見れば、戦争中毒な兵士に見えるだろう。そもそも、戦争末期は兵士もアメリカ本土の治安も不安定で満足に戦えなかったと聞く。それならば、士気の低下した兵士にその好戦的なロボを見せることで戦わせるように仕向けた。平時ではかなり喧しいものになったに違いない。そして何故か、Mr.ハンディーのような愚痴も言うのは、似たようなソフトを使用しているからであろう。

 

「分かった。今度、お前に改造を施してやるからそうひねくれるな」

 

「本当でありますか!・・・司令官の為ならボルト一本惜しくもありません」

 

「もうあれ、壊そうよ。良いでしょウェイン?」

 

「ダメだ。落ち着けシャルロット。」

 

後ろでスレッジハンマーを持つシャルと止めにかかるウェイン。おれはそれを横目に見つつ、RL-3軍曹を見る。

 

RL-3軍曹等のMr.ガッツィー最大の特徴は頭の部分にある貨物スペースである。Mr.ハンディータイプはそこに日用雑貨を入れるようになっているが、ガッツィータイプはそこに弾薬や武器を入れる感じとなる。ハンディータイプより二回りほど大きいのは貨物スペースと追加装甲の為である。俺はその頭に布製の弾帯を取り付けて携行弾薬の数を増やしていた。兵装は何時もと同じプラズマガンと火焔放射機だが、以前の失敗を踏まえて兵装はアタッチメント式にしているため、戦場で軍曹の換装が可能となった。

 

「このままだと、ここまで来た意味がないな」

 

腕組をするクロスは後ろの喧騒した中でも指揮官として名案が浮かばないか模索する。

 

「いっそのこと、エンクレイヴに掛け合うしかないですかね?」

 

俺は軽い感じで言うと、まるでクロスの頭の上に電球が現れてパッと光るかのように、彼女は閃いた。

 

「ユウキ、良いことを思い付いた」

 

クロスはまるで悪戯を思い付いたような表情を見せる。それは俺にとっても、そして他の皆にとってもその内容はひどく子供じみたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「Delta1-1とDelta1-2は死傷者が三割を越えたため後退、Bleze2-1のAPCは大破したため、FLVで牽引しました。整備兵曰くスクラップ同然だそうです」

 

「Whisky4-0が明朝に空爆を行います。爆装はバンカーバスターを使用します。その後、Delta2-1を投入して制圧します。」

 

仮設された指揮テントでは、士官達が報告と今後の策を話す。全員、高度に訓練された兵士であり、全ての戦術を頭に叩き込んだエリートである。

 

「地下は敵の壕が張り巡らされている。軍用バンカーを破壊する為に作られたものならひとたまりも無いだろうな。」

 

テーブルに広げられた偵察衛星から撮影された衛星写真を見る。敵の地上に設置された陣地は赤く丸が書かれており、それがフェアファクス旧市街に幾つも点在している。だが、今日の戦いで殆んどの陣地は沈黙しているため、重ねて赤いバッテンが記されていた。

 

 

すると、此方が押している事を思ってか一人の士官が笑う。

 

「技術局から送られてきた最新の狙撃銃がかなりの効力を発揮しています。装填される特殊爆薬弾は簡単にパワーアーマーの装甲を破壊しますから」

 

 

大戦中に構想された対パワーアーマー兵器は指向性エネルギー兵器などがあるものの、エンクレイヴの技術局は指向性爆薬を使用する兵器を開発した。発射した弾頭は粘着性かまたは突き刺さるような構造となった爆薬を用いるものである。それは時限式や接触信管で出来ており、着弾後には何層にも渡る複合装甲に穴を開ける大口径狙撃銃だった。

 

今回はBOSの分派であるアウトキャストとの戦闘で試験評価を行う腹つもりらしく、実戦投入はウェイストランド最大の勢力であるエルダー・リオンズ傘下のBOSに対して使うつもりらしい。

 

「狙撃部隊を編成してみたが、案外使い勝手が良い。」

 

「Hawk1-1と1-2だろ?中々のスコアだ」

 

狙撃部隊は通常のパワーアーマー以外にも増設したセンサー機能とレーダーが備え付けられている。また超長距離射撃でも狙撃手が撃ちやすいよう演算も可能である。

 

しかし、部下の兵達が戦死しているにもかかわらず、指揮官である士官達は未だに演習気分である。彼らは今回の作戦では指揮センターで指揮を取る形であり、戦場には出ていない。指揮官の数が少ないという理由で参謀本部は士官以上の人間をあまり戦場には出したがらない。

 

兵士達もその様子を見て、反発している様子も見られる。早くその命令を解除しなければ不味い。兵士達が反乱を起こすことなど考えたくはない。

 

私は当直の伍長からコーヒーを受け取り、口を付けて香ばしい香りのコーヒーを飲む。すると、通信士が声を張り上げた。

 

「緊急入電!北よりパワーアーマーを着た武装集団!白旗を挙げて近づいている模様」

 

「何!?」

 

私は驚きの余りコーヒーを溢しそうになるが、こぼさないようにテーブルにマグカップを置いて通信士の元へ行く。

 

「敵の所属と規模は?」

 

「Hawk1-1、こちらHQ。武装集団の規模と所属は分かるか、over」

 

(こちらHawk1-1、武装集団はT49dを着たBrotherfoot of steelの偵察部隊・・・いや輸送部隊と思われる。規模は小規模。先頭の一名は白旗を挙げて此方に接近中。指示を求むOver)

 

「ヘクストン少佐、ご命令を」

 

通信士は真後ろで見守る私に聞く。私の判断は既に決まっているものの、近くにいる士官は声を挙げる。

 

「ウェイストランド人は何をするか分からない。これは陽動かもしれません」

 

「元々、アウトキャストはBOSの分派です。この隙に攻勢にでる可能性も!」

 

士官の懸念も否定は出来ない。私は彼らに振り返り口を開いた。

 

「部隊に警戒体制を敷け。スナイパーは周辺陣地に目を配っておけ。車輛部隊も動かせるように。接近する部隊には装甲車を向かわせろ。」

 

「殲滅するので?」

 

車輛部隊の指揮官はBOSに攻撃を加えないという参謀本部の命令に背くのかと、不安そうな表情を現した。

 

「いや、彼らの代表者をここに寄越せ。白旗を挙げていると言うことは戦闘する意思は無いだろう。交渉の余地がある。車輛の責任者には穏便に事を進めろと指示しろ」

 

士官達は私の命令に対して、何か言いたそうな表情を浮かべていた。

 

「向こうも我々と戦闘はしたくないだろう。それは我々も同じだ。腫れ物を扱うように接触してなかったのに、彼らの方から来た。これは良い兆候だろう」

 

私はそう士官に言うと、彼らは黙った。

 

「多分、アウトキャストの為に何かするだろう。スナイパー班と車輛強襲チームは彼らの攻撃に備えて待機しろ」

 

この期に乗じて、彼らの意図を理解していないアウトキャストが攻撃をするかもしれないし、逆に彼らもグルになっている場合もあった。

 

命令を下すと、部下達は直ぐに命令を出すべく動き回る。私は近くの当直下士官に白旗を挙げる人物を迎え入れる準備をするべく命令し、さらに追加のコーヒーを持ってくるよう指示した。

 

下士官は一度テントから出てゆき、数分後コーヒーのマグカップと砂糖を持っていた。下士官は手慣れた様子でそれに砂糖を入れて混ぜ私に手渡す。鼻腔に通る香ばしい珈琲豆の香りを堪能し、ゆっくりと飲む。

 

BOSの使者が来るまで、背もたれに掛かってリラックスしていようと息を吐き出して待った。

 

 

 

 

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静音性の高いエンジンと近くにいる兵士のパワーアーマーが擦れる音は装甲車の中に響いていた。足元の感触や周囲の構造。戦前の科学技術が使われていることが分かる。

 

パワーアーマーも漆黒に塗装された威圧感を与えるものであり、私の着るパワーアーマーと比べると、性能は断然向こうの方が上だ。

 

(Bleze1-1、状況を知らせよ。over)

 

「こちらBleze1-1、BOSの代表者を乗せて移動中。間もなく到着する。他のBOSの部隊は先程の場所で留まるようだover」

 

(了解した、穏便に事を進めるため、絶対に攻撃するな。HQ,out)

 

無線通信をするパワーアーマーを着る下士官はヘッドセットを外すと、装甲車輛のフックにヘッドセットを掛けて近くの椅子に腰かけた。

 

「ジョージ、周囲には警戒しておけ。いつ、敵が襲撃してくるか分からんからな」

 

「了解です、軍曹」

 

軍曹と呼ばれた男は目の前の椅子に座ると、溜め息をついた。

 

「自分はこの隊を指揮するヴィクター・ソコニスキー軍曹です。」

 

「BOSのスターパラディン・クロス。本名はジェニス・クロスよ」

 

「スターパラディンというと、軍の階級だとどの程度なので?」

 

ソコニスキー軍曹は私に訪ねる。私が聞いていたエンクレイヴと違い、かなり友好的だったため、驚きつつも表情に出さないよう答えた。

 

「士官に相当するわ」

 

「ってことは自分より上ですな。自分も歳ですので、これ以上昇進は望めないですよ。ハッハッハッハ」

 

 

私はソコニスキー軍曹の気さくな笑いでこういう人達と戦うことになるのかと、内心悪態をつきたくなった。エンクレイヴは穏健派と武力で支配しようとする一派の二つがあり、士官は後者が多いと聞く。高圧的な敵であるならば、引き金は引きやすい。だがソコニスキーのような人物であることを知ってしまえば、躊躇いを覚えるだろう。

 

 

そう、思慮をしているうちに装甲車は停車する。

 

 

「よし、到着した。スターパラディン・クロス殿、今から指揮官のヘクストン少佐と面会します。武器などは絶対使用しないように」

 

「大丈夫だ、戦いに来た訳じゃない」

 

話し合うためだ、私は最後にそう言って開いたハッチへソコニスキーの後に続く。

 

 

何輛ものAPCやIFV、仮設された前線基地には車輛が並べられ、二人一組で巡回する兵士が見られた。仮設されたテントや簡易ヘリポート。BOSよりも充実した装備と兵員。見ているだけで戦意を喪失してしまうほどのものだった。基地の中央には、他のテントより丈夫な大きい天幕が設置されていた。巨大なパラボラアンテナに繋がれたコードがテントに入っているのが分かり、そこが司令所なのだと分かる。

 

「第二機甲中隊のソコニスキー軍曹、BOSの代表を連れてきました。」

 

「良いぞ、入りたまえ」

 

軍曹が幕を開け、テントの中へと入る。そこには二名の士官らしき人物と佐官用のコートを来た男が一人、中央の突き当たりの椅子に座っていた。私が彼の前に立つと、椅子から立ち上がった。

 

「私はアウトキャスト殲滅を命令されたエンクレイヴの指揮官、第二特務大隊長のヘクストン少佐だ。」

 

「Brotherfoot of steelのスターパラディン・クロス。旧軍の階級では士官の大尉に相当します。」

 

ヘクストンは私と握手をして、向かい合うように椅子に腰かける。

 

 

「白旗を挙げて来た君達の要請を無線で聞いた。“我が軍とアウトキャストの一時停戦”で宜しかったかな?」

 

 

一時停戦。

 

これが、私が考えた策だ。可能性が一番低いがそれしかない。彼らの目を誤魔化して、アウトキャストに救援物資を運んできたことを見つかってしまえば、エンクレイヴとBOSの開戦は避けられない。しかし、エンクレイヴに一時停戦掛け合うのも難しいと思えるが、どちらを取るとすればやはり後者を取らざる負えない。ユウキの言うことが正しければ、成功する確率もある。一か八かの賭けに見えるかもしれない。だが、強行突破するよりはましである。

 

「はい、現在のアウトキャストは満身創痍。中には非戦闘員も居るので、彼らと重軽傷者だけでも救えさせて貰えないでしょうか?」

 

 

エルダー・リオンズの命令は「離反した隊員の懐柔」。つまり、こちらに率いれようとすることだ。これはBOSをエンクレイヴとの衝突を避けるため考えられた策であり、アウトキャストを支援しない。バラモンには必要以上の医療物資があるものの、それはシャルロットが必要だと言って携行しているに過ぎない。

 

負傷者はそこまで運ぶことは出来ないが、医療物資によって救うことが出来る。負傷者の救助と非戦闘員の保護を求めれば、エンクレイヴも嫌とは言えない。選民思想が組織を腐敗させても、曲がりなりにも正規軍を自称している軍隊。捕虜を虐殺することは表立ってやらないはずだ。

 

 

「そちらには十分メリットがあるだろうが、こちらにはまったくもってないに等しい。その状態ではそちらの要請を受け入れるのは無理だ。申し訳ないができない」

 

「メリットはあると思いますが?」

 

「何?」

 

ヘクストン少佐は私の言ったことに反応し、疑問の声を出す。近くにいる士官の格好をする男は不愉快そうな表情を浮かべていた。

 

「あなた方エンクレイヴは、最近になって出始めた組織。いわば新参者。いきなり無慈悲にアウトキャストを殲滅すれば、ウェイストランド人の心象は悪くなると思いますが?」

 

「う~ん・・・」

 

エンクレイヴの目標としてはこの地に入植することだろう。そのためには生きているウェイストランド人を労働資源として使わなければならない。その為に彼らを怖がらせることは当然、統治に問題が出てくることだろう。

 

「あんな野蛮人ども、こちらを恐るに越したことはない。恐怖で縛り付けたほうが従順だ」

 

すると、士官の一人が気味の悪い笑みを浮かべて言う。隣の士官も同様に嘲笑を交えて頷いた。

 

ヘクストン少佐は理解ある将校であるが、周囲の尉官は選民思想に染まった人物であることは明白。その口に10mmピストルの銃口を突き入れて引き金を引きたい衝動に駆られたが、それをすることは出来ない。

 

「辞めろ、中尉。君の言いたいことは分かるが、話し合いの場で話すことではない」

 

「失礼しました、少佐殿」

 

まるでそれを失敗と思っていないような言い方に苛立ちを覚える。中尉と呼ばれた男は叱咤を受けても尚、気味の悪い笑みを浮かべていた。目の前にいるヘクストン少佐は溜め息を吐くと、私に向き直る。

 

「そちらの要望を受け入れよう。猶予は14時間、明日の6時には攻撃を再開する」

 

「感謝します、ヘクストン少佐」

 

私は少佐に一礼すると、指揮テントから出る。そこに待っていたのはここまで案内してくれたソコニスキー軍曹だった。

 

「どうでした?上手くいきました?」

 

「少佐の隣にいた尉官が危なそうだが、何とかなった」

 

それを聞くと、はぁ~と溜め息をついて返す。

 

「あの連中はいつもそうです。気にしないで下さい。」

 

ソコニスキー軍曹は困ったような表情をして、ポリポリと頭を掻く。ソコニスキー軍曹はそこまでウェイストランド人を差別するような言動をしていない。あなたはどうなのだろうかと尋ねると、笑みを浮かべて話し出す。

 

「元々東海岸周辺の基地の兵士はそこまで差別はしませんよ。寧ろ、BOSのリオンズと呼ばれる将軍と同じで救済しようとまで考えていましたんで。でもまぁ・・・上層部の殆んどは西海岸出身の将校で人類浄化の為に皆殺しも視野に入れてるという話だからなんともね」

 

ユウキの言っていた事とはこの事だったのかと納得する。実際に直に彼らと接触し、話さない限りエンクレイヴの実情は分からないだろう。

 

ソコニスキーは彼らの場所へ案内すると、言って案内する。待たせていたユウキ達の元へ行くため、彼の指揮する装甲車へと急いだ。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ドックミート」

 

「クゥン?」

 

「お前さ、犬肉って呼ばれてて嬉しいのか?」

 

「ワン!」

 

「嬉しいのかよ!?」

 

「ワウワウ!」

 

「違うのか?」

 

「ワン!」

 

「じゃあ、何だよ。」

 

「クゥ~ン」

 

「自分で考えろとでも言うのかよ」

 

「ワン」

 

妙に俺の言葉が通じているようで恐ろしい。ドックミートの頭を撫でて、バラモン・ジャーキーをかじり、残りをドックミートに食わせる。すると、ドックミートの側に来て背中を撫でようとするシャルの姿があった。

 

「クロスさん、遅いね」

 

「ああ、直ぐ来るだろ?」

 

倒壊したビルのコンクリートに腰かけた俺は周囲を見る。集合場所とした瓦礫と化したビルで休憩していた。パックバラモンに水を飲ませ、俺はドックミートと会話(?)を楽しむ。エンクレイヴが近くにいるため、ヘルメットは脱がないため少し息苦しい。

 

インディペンデンス砦には一緒になって簡易ミサイルランチャーを作ったクロエがいる。元々光学兵器専門の彼女だが、護民官の命令でミサイルランチャーの再生産をしようとしていた。分野外の彼女にとってそれは難しいだろう。生産するにも物資が不足しているのに生産は難しい。その時、シャルとはまだ「幼なじみ」という関係で、彼女はもっと攻めろとアドバイスをくれた最初の一人だった。もし生きているのなら助けたい。

 

 

すると、角ばったデザインの兵員輸送車(APC)がひび割れたアスファルトの上を走行するのが見えた。車載の重機関銃が見え、一瞬体が強ばった。APCの上部ハッチが開かれ、車両部隊が使用するヘルメットを被る兵士が上半身を晒した。手を振っていることから敵対する意思は無いのだろう。

 

APCはビルの残骸の横に止まると、後部の兵員ハッチが開いて傷一つ無いクロスが現れた。後ろにはヘッドセットを付けているエンクレイヴ・パワーアーマーを装備する兵士が立っていた。

 

「隊長、交渉はどうでした?」

 

「明日の6時まで戦闘を停止するそうだ。停戦勧告はソコニスキー軍曹が率いるAPCで行う」

 

「第二機甲中隊のソコニスキー軍曹です。自分が停戦勧告を行います。我々はあなた方の後方からスピーカーにて放送します。」

 

40代位の厳つい顔立ちのソコニスキー軍曹は丁寧に伝える。彼の声はなかなかの美声であり、この声なら耳障りなく聞くことが出来るだろう。多少、エンクレイヴに関して、BOSの面子は良い顔をしない。嘗ては西海岸で一戦交えたのだから。しかし、それは4、50年も前の話。自分たちの世代は直接戦っては居ないため、敵対関係を持っているわけではない。幾ら自分達の父親の世代が戦ったと言っても、エンクレイヴに対して怒りを抱いているわけではない。もっと敵対していた勢力もあり、壊滅した組織が復活し、脅威になっている状態であったとしても、直接的な攻撃を受けない限り敵対関係になり得る訳ではない。例え、離反した元同僚が八つ裂きにされても、直接的な攻撃ではないからだ。

 

準備を終えると、偵察隊の隊長であるクロスの命令は素早かった。

 

「ユウキとウェインは先頭に立て。シャルと私はバラモンと中央、スティルは後ろを」

 

素早く一列縦隊を形成し、クロスの命令と共に歩き出す。RL-3軍曹に入れていた伸縮ストック仕様のMk.46軽機関銃パラカービンモデルを持ち、腰には再装填用の200連の弾帯を入れた弾薬箱をぶら下げている。

 

高出力のガトリングレーザーを持ちたいが、エナジーウエポンは相性が良くない。そのため、隣のウェインが幾つかの改造を施したガトリングレーザーを携えていた。

 

荒野をゆっくりと行進し、次第にフェアファクスの市街地周辺に到着した。以前来たときとは違い、幾つかの建造物は倒壊し、弾痕や爆発跡。土嚢が置かれた陣地に夥しい血痕の痕すらあった。

 

(エンクレイヴはBrotherfoot of steelのスターパラディン・クロス提案により、明日の6時まで停戦する。そちらへBOSの救助隊を向かわせる。撃たないで貰いたい!)

 

APCのスピーカーから、ソコニスキー軍曹の声が流れ、フェアファクスの廃墟に響き渡る。フェアファクスに入った俺たちはアウトキャストから撃たれませんようにと願いながら、フェアファクスの市街地へと侵入した。

 

「結構変わっているな・・・・」

 

アウトキャストは俺達が去った後、フェアファクスを掌握し、市街地に検問所と前線基地を設置した。要所には土嚢が積まれている場所もある。そこには戦いで死んだアウトキャストの兵士の死体があった。

 

「そうだね、あの時が懐かしい・・・」

 

ウェインを先行させて、俺だけ少し後ろを歩いていたが、後ろからシャルの声が聞こえた。彼女は濃緑色のコンバットアーマーを着ており、肩には赤十字のマークがあしらわれている。顔を隠すためにバンダナが鼻と口を覆い隠すようにしていて、BOSのマークをあしらったヘルメットを被っていた。

 

「側を離れるなよ、シャル」

 

「もう離れないから、大丈夫」

 

シャルはパワーアーマーを着る俺の右腕を触る。本当なら手を繋ぎたいのだろうけど、銃を持っているし、パワーアーマーを着ているため、彼女の温かさは感じられない。悔しいが、仕方がない。

 

ずっと、腕を組むことは出来ないため、直ぐにシャルは俺から離れた。名残惜しい表情をしていたが、先頭で警戒しなければならない手前、下手すればクロスに叱られるだろう。

 

 

Mk.46のマウントレイルに取り付けたドットサイトがちゃんと機能しているか確かめ、パワーアーマーのセンサーを起動させて、周囲に生態反応がないか探る。

 

「パワーアーマーで阻害されているかもしれないぞ」

 

「だとしても、スピーカーで停戦勧告を出しているのに何も来ないなんておかしいだろ」

 

破壊された陣地やビルの残骸など、隠れられそうなところには人の気配すらしない。もしかしたら、撤退したのか?だが、彼らが逃げられる場所などあるのだろうか。

 

警戒しつつ進んでいくと、遠くで銃声が響き渡る。発砲音からして308口径弾だった。

 

ビシッ!と足元のアスファルトに命中し、軽機関銃を咄嗟に構える。すると、どこに隠れていたのかT49dパワーアーマーを装備したアウトキャストの一個分隊近い兵士が至るところに現れ、携えていたライフルや重火器を此方に向けていた。

 

「そこのキャラバン、動くな!」

 

勇ましく周囲に威圧を与える声が響き渡る。正面に現れたのはヘルメットを被らないアウトキャストの兵士だ。見る限り、パワーアーマーは所々、被弾して傷付いている。片肩のショルダーガードは無くなっており、応急処置の鉄板が溶接してある。声の主は中国軍アサルトライフルを腰だめで構えながら、近づいた。

 

「リオンズの腰巾着が一体何のようだ」

 

開口一番に言われた言葉がそれである。俺は咄嗟に言い返そうとしたが、クロスの言葉によって遮られる。

 

「エルダーの命令でアウトキャスト指揮官のキャスディン護民官にお伝えしなければならないことがある。面会を求める」

 

「キャスディン護民官は戦死なされた。現在、アウトキャストは・デイフェンダー・ロックフォウルが指揮を取っている」

 

「何!」

 

驚きの声を上げたのは他でもないクロスだった。キャスディンは西海岸のマクソンバンカーから東海岸までくる道程をリオンズと共に来た精鋭中の精鋭である。誰が死ぬか分からない戦場であったとしても、元上司でもあったキャスディンの死はクロスに驚きを与え、エンクレイヴの恐ろしさが身に染みたに違いなかった。

 

「BOSのコーデックスに従わない異端者には用はない。立ち去れ!」

 

冷淡に言い放つアウトキャストの目を俺は見た。何か決心を付けたような目だった。例えるなら、死に場所を見つけたかのような。

 

それを見た瞬間、俺は決心を決めてヘルメットを脱ごうと首に手を当てる。無論、エンクレイヴに見つかるかもしれない。だが、俺の顔を晒してしまえば、アウトキャストに有益な事をした人間としてロックフォウルと面会する可能性は高まる。俺はヘルメットを脱ごうとするが、その手を隣にいたウェインに止められた。

 

「ユウキ、バカな真似をするのはやめろ」

 

「だけど、このままじゃ」

 

「バカ、エンクレイヴに露見したらシャルはどうすんだ」

 

エンクレイヴはシャルの身元をどうするのか分からない。良いとは言えないのは確かだ。損得勘定は武器商人だから直ぐにできる。頭の中で天秤が揺れ動き、決定を下す。アウトキャストの友人や人を救いたいという気持ち。そして対するのはエンクレイヴに露見する危険とシャルの存在。後者のひとつは俺にとって余りにも重い存在だ。

 

悔しい思いもあり、ゆっくりと手を首から離す。

 

クロスは悔しい表情でこちらを向き、後退の合図を出す。その表情は苦虫を噛み潰したような表情で、俺たちの足取りは何処と無く重い。

 

三歩進んだところで、誰かが来る足音がする。アウトキャストが此方に照準を合わせているにも関わらず、アウトキャストの方から此方に近づいているのだ。俺はその音が誰のか振り向く。そこには傷だらけのパワーアーマーを装備したアフリカ系の男が立っていた。

 

「待ってくれ、スターパラディン・クロス。用件を聞きたい」

 

「・・・・エルダーはアウトキャストに対して援助をしろと。それと叶うのなら、ペンタゴンへ戻って欲しいと言っていたわ」

 

 

クロスは諦めた様子で話す。

 

しかし、そのアフリカ系の兵士は驚いたような顔をし、少し考え込む。そして、俺の姿を確認した。

 

「おい、貴様。名を何と言う?」

 

「特務偵察隊所属、ナイト・ユウキです」

 

陸軍式の敬礼をする俺にその男はおれの装備をジロジロと見る。

 

「BOSではあまりお目に掛けないような改修方法だな」

 

「エンクレイヴ対策の一環で、スクライヴによる研究から製作したと聞きます。あとは、指揮官の許可を貰って自分自身で取り付けました。」

 

リオンズ率いるBOSはウェイストランド人の志願者を募っている。アウトキャストは元来の閉鎖的な組織のままだが、聞き慣れない名前と声で俺の事を志願した兵士だろうと思ったにちがいない。アウトキャストと取引したとしても、全員とではない。彼らも俺の声は覚えていないか、知らないこともあるだろう。

 

「まあ、これでエンクレイヴと対峙できるのならいいのだが。俺には見る機会はないだろうな・・・」

 

小声でそう言うと、アフリカ系の男は振り返り警戒するアウトキャストの兵士達に命令する。

 

「彼らを地下に通せ。彼らを受け入れる。」

 

「しかし、ディフェンダー!彼らは・・・」

 

「四の五の言っている場合か!モールラットの手も借りたいようなこの状況から脱するのに、どこの所属かは関係ない。モルロフ!基地のやつらに客が来ると伝えろ!」

 

「りょ、了解!」

 

一人のアウトキャストの言葉を黙らせ、矢継ぎ早に指示を飛ばす。命令に不服な兵士も居るだろうが、仕方がない。

 

アウトキャストの兵士の先導で町の外れへと誘導される。そこは瓦礫と化したインディペンデンス砦の目と鼻の先だった。

 

元々、レイダーが仕掛けた排水溝を改造して落とし穴にしていたのを、更に隠し通路に改造し直したそれはアウトキャストの貨物搬入路だった。バラモンの装備を全て外し、Pip-boyにも入れる。だが、入りきらないので、幾つかをパワーアーマーのバックパックへと移した。

 

バラモンは逃がして、離れるように命令する。と言っても人間の言葉を理解することは無いので、叩いて走るよう命じた。

 

バラモンはまるで名残惜しいかのような目で俺を見つめると、さっさと荒野へと走っていく。このまま、ラッドスコーピオンやレイダーに喰われるかもしれないが仕方がない。それにどっかのスカベンジャーにまた飼われるかもしれない。

 

アウトキャストはバラモンを食用として買おうとしたらしいが、調理場を考えて辞めた。俺達もバラモンを食おうと一瞬考えたのだが、それを調理する時間と資源はなかった。

 

排水溝へと進み、アウトキャストの兵士の後に続く。元々レイダーのアジトであったため、落書きは消えていない。しかし。要らないものを捨てて、基地から色々なものを運んできたのか、濃緑色の木箱や赤十字の箱が通路の至るところに置かれている。

 

フェアファクス廃墟の地下にアウトキャストの司令部を移したようで、待機兵士の休憩室が見られ、武器庫や食品庫もこちらに作られていた。そしてアウトキャストの兵士は「地下鉄通路」とかかれた扉を開ける。

 

そこは駅の改札口で土嚢が積まれており、重機関銃が設置されていて歩哨が数人見張っていた。そして改札を通り過ぎ二車線のホームを見る。踊り場から下へエスカレーターがあり、そこに設置された蛍光灯が煌々と駅構内を照らす。そこには横たわる負傷兵や治療を行う兵士達の姿があった。また、半分のスペースにはスクライヴの数名が銃火器のメンテナンスを行っており、その中にクロエの姿はない。

 

「クロエを知りませんか?」

 

近くのアウトキャストの兵士に聞いたが、その表情はウェイストランド人に向ける表情のそれではなかった。聞いた人物に悲しみを抱いているかのような表情。

 

俺はその表情を見て悟った。

 

その兵士に聞く必要がないと思い、聞くのをやめた。軽く会釈をして医療エリアへと移動する。

 

「ユウキ、パワーアーマーを脱いでこっちに来て手伝って」

 

「あ、ああ」

 

隣のフロアで治療準備をするシャルは俺を呼ぶ。俺は急いでパワーアーマーを脱いで、Tシャツのカーゴパンツという出で立ちになる。

 

パワーアーマーの背中のバックパックから医療キットを持っていき、シャルの元へ急いだ。

 

「ユウキ、この人に小型バイタルサインを装着して。それから局部麻酔を掛けて、胸にある銃創を切開して弾を取り出すから。輸血パックも用意して」

 

矢継ぎ早に言われ、若干焦りながら医療キットから使い古した軍用バイタルサインを取り出して治療を行う兵士に装着する。輸血用の管も用意して、シャルにモルパインを渡す。

 

シャルは負傷兵に麻酔をして、傷口近くをアルコールで消毒し、持っていたメスで傷口を切開する。

 

「肺は傷ついていない。様子からしてパワーアーマーで衝撃が吸収して、破片が浅く食い込んだみたいね。鉗子を」

 

鉗子を渡し、傷を押さえて更に進んでいく。銃弾を見つけピンセットで弾を摘まんでアルミの皿に投げ入れる。生体糸で縫合し、元あったように戻していく。スティムパックも併用して投与し、傷口を治癒させる。傷を塞いだのを確認して次の患者へと移る。

 

それから二時間、重傷な兵士をシャルが治癒し、それをサポートする。

 

シャルは何処ぞの医者免許の持たない天才外科医のようにすら思える。

 

「いま、ユウキ私のこと考えてた?」

 

「ああ、どんなこと考えてたと思う?」

 

「フランケンシュタインのような継ぎ接ぎの天才外科医」

 

「シャル、VaultのESP(超能力)研究所で改造されたか?」

 

久々にシャルの超能力発言。その言葉は前よりも能力が開花しているのではなかろうか。読心能力や念動力、発火能力とかも持っているのでは?

 

「いいえ、これはただの勘」

 

「むしろ、その勘の良さが超能力的」

 

ちょっとばかし、軽口を叩きつつ重篤から軽傷の順に治療していく。応急処置のまま横たわっていた負傷兵も相当数いて、治療の甲斐もなく死ぬ者もいた。スティムパックも万能ではないし、物資にも限りがあった。アウトキャストの医者は死んでいるため、負傷兵は放置されていたという。また、仲間内で安楽死させたこともあるらしく、もし来なければ負傷兵は命を絶っていただろう。

 

順々に重傷な者は減っていく。アウトキャストのずさんな救急体制にシャルは怒り浸透であったようで、休憩中も何かと不機嫌だった。

 

すると、顔を負傷した女の兵士が運ばれてきた。ほっそりとした体つきで、悪くいえば幼児体型、まな板とも言える。前向きに言えばスレンダーな身体と言えるけれども、そんな考えは隣にいたシャルの“勘”にピリリと感じたらしい。

 

「ユウキ、スレンダーが好み?」

 

「んな分けないだろ。大人の女性がやっぱりね」

 

すると、シャルは大人の女性に反応したのかジトメで俺を見据えた。

 

「だから、ユウキはアリシアの事を色眼鏡で見てたから騙されたのね」

 

「いやいや、シャルだって」

 

とシャルも騙されたと言おうとしたが、ふと横たわる女兵士を見る。何処かで見たことあるその彼女は顔が包帯で覆われている。シャルのカルテを見てみると、エンクレイヴの爆撃で左顔に火傷を負うと記されている。エンクレイヴは最近になって対パワーアーマー対策として、対物ライフルに指向性の爆薬を取り付けており、パワーアーマーを装着する兵士を一撃で殺せる能力を持っている。それは遅延型の信管であったらしく、弾頭自体粘着性のものであった。

 

「どうしたの?」

 

シャルは俺の顔を覗き見るが、カルテに書いてあった女兵士の名前を見て俺は唖然としていた。

 

 

「彼女は元スクライヴのクロエだ」

 

 

 

 

 

 

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「抗生物質の投与は出来た?」

 

「ああ、麻酔も指示通りに」

 

クロエは麻酔の影響で意識を失っている。顔の手術は意識があると非常にやりにくい。その為、今回は寝て貰い、火傷の治療を行おうとする。

 

ゆっくりと包帯を外していくと、膿んだような酷い匂いが鼻腔を刺激する。鼻が曲がりそうなその匂いにシャルは不機嫌な顔を作った。

 

「これは酷いわ。アウトキャストの救護兵は全員クビだわ」

 

明らかに怒るシャルは何時もとは違う雰囲気でメスを持ち、クロエの皮膚組織を剃り取っていく。神のメスとはこの事を指すのか、壊死した細胞や爛れた肌を迷いもせずに削いでいき、生きた正常な細胞はそのままにしている。俺はスティムパックを渡し、切除し終わった皮膚に注入していく。

 

切断した筋繊維は復元し、皮膚はゆっくりとではあるが、修復される。スティムパック一本だけでは治癒しきれない。救急セットから追加のスティムパックを取り出して、シャルへと渡す。スティムパックは皮膚繊維に対してナノマシンで細胞分裂を活発化させる。細胞を分裂し結合を繰り返す皮膚組織は拡大し、元々あった皮膚のように広がる。肌の色は若干ピンクに近いものの、殆んど治癒していた。昔ならば化粧で色を大人しく出来るだろうが、今は無理だろう。

 

「よし、これで良いわ。肌はまだ敏感だから軟膏を塗って包帯を巻いちゃって」

 

シャルから軟膏を渡され、出来立てホヤホヤの皮膚へと塗布していく。上から大判のガーゼを当てて、包帯で固定する。一番最初に見たときのミイラのような容貌よりは若干マシな様子になった。

 

「そろそろ麻酔が取れるわ。ユウキも少し休んだら?」

 

「ああ、ウェイン。足の方を持ってくれ。」

 

近くにいたウェインを呼び、手術台となっている台から病院のストレッチャー代わりに使っている担架の上にクロエが寝るシーツを掴んで担架へと移す。

 

手術が終わった患者は順々に部屋を移動する。

 

「1、2の、3っ!」

 

両端の二つの掴みを掴んで、彼女ベッドへと運ぶ。マットレスを敷いただけの、ウェイストランドの標準的なものだが、贅沢を言えるだけの物資はない。シーツがあるなら包帯を。木材があるなら薪を、枯渇しかけたアウトキャスト最後の砦には負傷者に構う余力はない。

 

クロエの担架を運んで壁際のベッドに移すと、疲れがどっと込み上げる。壁へ持たれ掛けると、それを見たウェインは笑みを浮かべた。

 

「疲れただろう、交代してやる。少し寝とけ」

 

 

目元は重く、それを眠気と理解するまでに数秒掛かった。pip-boyをみると既に日は替わっていて、時計は3時を回っていた。標準的なウェイストランド人の体内時計であるため、生前のような夜型ではない。何時もならば、この時間は直ぐに寝ていた。

 

「分かった。シャルの手伝いをしてくれ。クロスは交渉に成功したか?」

 

「負傷者と技術者の殆んどがここから離れることを望んでいる。アウトキャストの数名が離隊希望だ。他は・・・・ここを死に場所にするようだ」

 

クロスともう一人のナイトは現在のアウトキャスト暫定司令官であるロックフォウルと話している。彼と彼らの部下は既にここを死に場所とするようで、勝利は無いが士気は高い。だが、その玉砕的な考えに批判的な者や戦闘が不可能なものもいるので、ロックフォウルの行動に反対的な者もいる。

 

そんな戦況で負傷者や死にそうな人間に物資を分けることは無理だった。当然、重軽傷者は治療を受けられず、死んだことにされる。顔に大火傷を負ったクロエは表面上死んだことになり、半ば放置されていた。

 

俺はそうしたアウトキャストの行動に最初は怒りを覚えたものの、こうした戦況の中で最初に捨て置くのは負傷者だ。それを考えると、怒りは鎮まって憐れみの感情で一杯になった。

 

ウェインに後を任せて、俺はクロエの近くの壁にもたれ掛かる。抗生物質を投与して、幾らか顔色は良くなってきているが、全身に回った毒を消すために身体は熱を帯びていた。濡らしたタオルで額から滴る汗を拭き取る。眠気とギリギリまで戦い、一通りし終わると、壁にもたれ掛かり、目を瞑った。何時もより強い眠気は直ぐに意識を夢へと誘い、意識から手を放した。

 

 

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何時もは大昔に建設された地下室の一室でレーザー兵器の設計図を見直したり、整備していた。私もそれを天職だと感じていたし、変える気もなかった。

 

「エイムズ、そこのカットレンズを取って」

 

「はいよ、俺にもそのヌカコーラを」

 

勝手に手を伸ばそうとするエイムズの手を私は叩いた。

 

「痛って!」

 

「私がスカベンジャーから買って、頑張って直した冷蔵庫で冷やしたんだから、それ相応の対価を払ってよね」

 

そう言う私の事をエイムズは怒ることなく、笑顔になる。私は何時もそんな彼に対して暴言を吐く。

 

「何笑っているの、気持ち悪いわね」

 

普通なら私のような女は男に嫌われる。それなのにこの男は笑顔でいる。本当は嬉しい筈なのに何でこんな言い方しか出来ないのか、自分を恨む。だけど、エイムズはライフルの整備を辞めて私に近づいた。

 

「対価が欲しいって・・・そうだな~。俺と付き合ってくれない?」

 

ふと、彼の口から紡がれる言葉を聞いて私は一瞬頭が真っ白になった。私とエイムズが・・・付き合う?

 

「ぬ、ヌカコーラの対価が付き合うって・・・私は安く思われているみたいね」

 

疑問と何時ものトゲトゲとした言動も相まって酷いことになっている私の口調はエイムズを怒らせることなく静かに首を振らせた。

 

「安く思っていない。寧ろ、俺が悪いのかもな。タイミングが掴めなかった。」

 

聞いてみれば、タイミングを何時にしようか悩みに悩んでいたらしい。まったく、彼らしいと言えば彼らしい。だが、何時も彼と一緒にいる私にとってそれは驚きだった。私が思うに、それは女友達という感覚だと思っていたのだから。

 

少し考えていると、不審に思った彼が私の顔を覗き込むようにして顔を見て、私は仰け反って避ける。

 

「ば、バカ!不必要に顔を近づけるな!」

 

「すまん、どうしたのかと思って・・・・。それで答えは?」

 

 

彼は返事が欲しいようで、私に真剣な眼差しを向ける。

 

スクライヴ・エイムズはカルフォルニアで幼少期を過ごした時から一緒に過ごしていた幼馴染み。何時も一緒に過ごしていて、スクライヴとなってからも一緒にいた。彼と離ればなれに成りそうになったのは、アウトキャスト結成の時に彼も一緒に来て欲しいと私に言った時だ。私は迷ったが、彼以外の人と一緒にいるのも嫌だった私は彼と共にアウトキャストとなった。

 

その後も彼と共にずっと一緒にいた。彼を男として認識したことも多々ある。でも、最近ではメガトンの武器商人に出会ったときかもしれない。あのVault101のカップル。あれを見て私もああなりたいと憧れ、幼馴染みと添い遂げる私の姿を考えた。でも、私は彼と一緒にいても良いのだろうか?何時も誰にでも悪態をつく私に怒らず笑った人はそういない。でも彼は私に微笑んでくれる。私はいつしか彼の笑みを見ていたいと思っていた。

 

 

悩んでいると、私達の部屋にあるスピーカーが鳴り響いた。

 

 

 

(ヴゥゥゥゥゥ!!!・・・・緊急事態発生!CODE:666!繰り返すCODE:666!地下にいる兵士は直ちに避難を開始!物資を規定通り避難壕へ移動させよ)

 

 

「答えは今度でいい。良い答えを期待してるよ」

 

「え、ちょ・・・」

 

私が言おうと思ったときには既に遅く、彼は急いで物資をかき集めてコンテナに積み込んでいた。私も発令されたものを思いだし、急いでそれに着手する。

 

CODE:666。

 

それはアウトキャスト司令部が何者かの組織的攻撃を受けたときに発令される命令コード。それを一旦発令されれば、スクライヴからも戦闘員を出さなければいけなくなり、過酷な戦闘をすることになるものだ。この場合の敵はエンクレイヴしか有り得なかった。警戒巡回中の部隊が彼らと交戦して装備を根刮ぎ奪い取り、それを我々スクライヴに分析させていた。どうみても、報復攻撃として間違いない。

 

フェアファクス地下はレイダーの根城だったが、度重なる戦闘と基地で発見した神経ガスによって殲滅していた。今は厳重に守りを固めていて、若しもの時は基地設備を移すつもりだった。エンクレイヴが出現してからは、攻撃を受けたら物資を全て移動させる手筈だった。

 

それが幸を奏したのか、エンクレイヴの空爆によってインディペンデンス砦は瓦礫の山と化したのだが、物資はフェアファクスに通じる下水道を通って全て無事だった。しかし、戦闘員の減少によって、スクライヴまで駆り出されることになった。

 

戦闘慣れしていないスクライヴなどすぐに死んでいった。私の番が来るのは最後かと思ったが、戦闘が二日目に差し掛かる頃にはナイトから予備のパワーアーマーを受け取り、手には出力を最大に上げた改造レーザーライフルがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目の昼。街北西の防御陣地で隠れている塹壕の周囲をレーザーが溶かしてガラスの破片を形成していた。プラズマ弾はコンクリートを溶かして、コンクリートは粘液になって地面に落ちていく。

 

「今日は敵が多いわね」

 

私は呟いて、銃撃が止むのを待つ。レーザーライフルにマイクロフュージョンセルを装填し、内部機関にチャージする独特の音が耳に伝わった。出力を最大にすると、通常なら24発。しかし、最大だと5発しか発射できない。スコープも付ければ狙撃銃に早変わりだが、それが出来れば良かったと思う。

 

「クロエ、大丈夫だったか?」

 

エイムズは在庫のないパワーアーマーの代わりに埃を被っていたコンバットアーマーを身に付けていた。手にはエンクレイヴから拝借したプラズマライフルがある。塹壕を這いつくばりながら、彼は私の元にくる。パワーアーマーのヘルメットで私の表情は分からないけど、彼は笑顔でこちらにやって来た。

 

「大丈夫じゃないわ。向こうからずっとこの調子よ」

 

周囲を指差してガラス化する土や溶けるコンクリートを見せる。

 

「大丈夫さ、お前の事は俺が守るから」

 

「な、何歯が浮くようなこと言って!」

 

「だって、あの答えをまだもらっていない」

 

「あ・・・・・」

 

私はその一言に戦場と言う空間に居るにもかかわらず、目の前の彼に何て答えれば良いか詰まってしまう。答えが決まっているにも関わらず、私は口で言い表せないでいた。

 

「わ、私は・・・」

 

 

「敵の大攻勢だ!南東から敵装甲車両!」

 

答えを言おうとする最中、無線を携えた通信員が叫び、正面から歩兵を随伴する装甲車両が現れた。咄嗟に銃を構えた私は引き金を引き絞り、装甲車に随伴する兵士に撃つ。通常のレーザーライフルの五倍の威力を持つそれは、エンクレイヴ兵の胸に命中し、大きな穴を開けた。倒れた兵士を助けるべく、エンクレイヴの兵士は駆け寄るが、その兵士の頭に照準を合わせて引き金を引いた。特徴あるエンクレイヴのヘルメットは一瞬にして溶け、頭部の殆んどが蒸発する。

 

「エイムズ!あとで言うから」

 

「ああ、それなりの答えを期待してるよ」

 

彼は腰のポケットからプラズマグレネードを起動させ、装甲車両付近に目掛けて投げる。それを見た兵士は叫ぶが、強力なプラズマ照射によって装甲は溶け落ち皮膚を焼く。

 

「増援を呼んだ、すぐに・・・」

 

そう無線兵が立ち上がり、叫ぶ。私は伏せろと叫ぼうとするが、彼の胸に何かが命中した。

 

「な、なんだこれ?」

 

粘着性のある粘液が無線兵の胸にくっついており、光っている針が装甲に刺さっている。彼の体に別状はない。ねっとりと装甲にまとわりつくものを無線兵は手で触り、それを見せる。

 

「クロエ、これは・・・!」

 

無線兵が私の名前を呼ぼうとした瞬間、粘液が突如爆発して彼の胸に大穴を開けた。飛散する彼の一部が周囲に散らばり、ヘルメットの画面にへばりつく。

 

「小型爆弾だ!射出式の爆裂弾頭!射手を捜し出せ!」

 

近くにいたディフェンダーが叫ぶが、彼の頭にプラズマが命中して絶命する。私は反撃しようと少し体を出して撃とうとするが、ヘルメットの全面に何かがへばりつく。

 

「クロエ!ヘルメットを脱げ!!」

 

私はエイムズの叫び通りにヘルメットを脱ぐと、エンクレイヴの方へと投げる。放物線を描くようにして投げたヘルメットは空中で爆発した。

 

硝煙と飛び散る土が顔を覆い、私は顔をしかめた。エイムズは私の所へ駆け寄り無事を確認した。

 

「クロエ、大丈夫か」

 

「大丈夫。ただ顔を守れなくなって手入れしずらいなと思っただけよ」

 

私は無事だと分かるように冗談を口にし、エイムズは苦笑を交えた笑みを浮かべる。

 

「それだけ言えたら無事だな。・・・ここの陣地はもう駄目だ。撤収しよう」

 

 

「ええ、エイムズ。ここに爆薬を設置して・・・」

 

私が言い掛けようとしたとき、エイムズの胸に何かが突き刺さった。私は目を疑ったが、コンバットアーマーの装甲に刺さった針と粘着性の粘液が付着していたのは紛れもない事実だった。

 

「エイムズ!」

 

私は叫び、彼に駆け寄る。パワーアーマーと比べると装甲が薄いコンバットアーマーは貫通し、彼の体に針が刺さっていた。針と言うよりも釘だろう。釘の先端がピカピカと光り、まるで爆発するとでも言っていた。

 

私は彼のついた粘液が高性能爆薬である事に気付いて手で拭おうとするが、手を伸ばすと彼に止められた。

 

「無理だ。付着したら君も爆発して死ぬ。君は一刻も早く逃げるんだ。もうすぐ爆発する。」

 

エイムズは血を吐いて、コンバットアーマーは赤く染まる。

 

「まって、この爆弾の信管を解除すれば爆発は!」

 

「時限信管で、あと数秒するかしないかで爆発するかもしれないんだ!頼むから!」

 

エイムズは叫び、胸に刺さった釘のような信管は点滅する光の間隔が短くなっている。爆発するのはすぐだ。

 

彼は最後の力を振り絞って立ち上がると、落ちていた私のレーザーライフルを拾い上げる。

 

「行け!援護する!」

 

交差するレーザー光線と舞い上がる土埃。私はエイムズの行った言葉に従い、陣地から離れようと後ろ向きで後退するが、エイムズの方向を見ていた。

 

レーザーが追撃するエンクレイヴ兵士に命中し、倒れエイムズは果敢に引き金を引いていく。彼が爆発することを見るのは耐えられず目を背けた。破裂するような音が響き渡り、彼が死んだことを認識すると、彼と一緒にいた日々を走馬灯のように思いだし、目から出る涙を止めることもせず、その場に呆然としていた。

 

装甲車に装備された対戦車ミサイルが陣地に向けて発射された。陣地にミサイルが着弾し、音速に近いスピードで陣地を破壊し、爆薬が放つ爆炎に肌を焦がす。私はその衝撃で意識を途絶えさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開いて、最初に見たのは薄らぼんやりと光る裸電球だった。エンクレイヴの機甲部隊に攻撃されていた陣地ではなく、フェアファクスの地下に設置された野戦病院。

 

鼻につく消毒液や血の臭いでここがどこなのか思い出させた。今見ていたのは夢だったに違いない。ふと、鼻に入る臭いがいつもと違うことが分かる。腐りかけた自身の顔の臭いで何時も気分を悪くしていたが、膿んでいた皮膚と染み付いた包帯は消え去り、洗剤の香りが残る清潔な包帯に取り替えられていた。鏡で自分を見たいと身体を起こして周囲を見渡すと、これまでいた病室とは違っていた。

 

汚い包帯で止血された負傷兵や痛みで泣き叫ぶ兵士に猿ぐつわを嵌めて放置する衛生兵。それらはすべてなくなり、清潔感のある病室へと早変わりしていた。奥では戦前のビニールで作った即席手術室で手術を行っているらしく、医者のその声に聞き覚えがあった。

 

「すー・・・・すー・・・」

 

そして横には寝息を立てるアウトキャストに協力してくれた武器商人のゴメスの姿があった。衛生兵の服と手術衣を掛け合わせたような服には誰かの血が付着していた。

 

彼はVaultの幼馴染みと共にここに来たようで、私はゴメスを戦死した親友に重ね合わせる。顔も人種も違う二人だが、二人とも私に対して笑顔で接してくれた。いつも嫌なことばかり言う私は仲間内でも嫌われているのに。

 

エイムズに対する答えは「YES」だった。もっと早く言えば良かったと後悔した。この病室に来てから顔を覆う包帯を何度涙で濡らしたことか。

 

私は身体を傾け、ゴメスの顔を見ながらもう一度眠りにつこうとする。何時もなら寝るのに時間が掛かるが、彼がいれば良く眠れるかもしれない。私はうとうとと意識を薄らいでいき、躊躇することなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Threeeeeeeeeeeeeeeedっ、ゴホッゴホッ!

 

 

 

ちょっと新記録に挑戦しようとしたんだが、さすがに伸ばしすぎたようだ。遊びは終わりにして本日のニュースに入ろう。

 

 

 

情報によると、アウトキャスト司令部のインディペンデンス砦とその周囲のアウトキャストは壊滅。エンクレイヴの殲滅作戦によってアウトキャストの戦力の9割強が喪失した。フェアファクスとその周囲はエンクレイヴの航空部隊によって完全に更地になった。BOSから離反した裏切り者だったが、彼らの戦いには敬意を示す。そして今後の冥福を祈る。生き残ったものはBOSの偵察部隊が救助している。エルダー・リオンズは寛容的な姿勢なようだ。これを聞いているアウトキャストのリスナーに言っておきたい。死ぬにはまだ早すぎる。BOSは君達が帰ってくるのを心待ちにしている。

 

さて、辛気臭いニュースはこれまでにして、リスナーのみんなの生活に関わるニュースを一つ。エンクレイヴというか、アメリカ合衆国政府(仮)は通商の自由化を計るべく許可証を発行したらしい。それを購入するには多額の賄賂・・・・・じゃない税金を支払わないといけないようだ。特典か?あるぞ。その許可証のスイッチをONにすると、エンクレイヴの強襲部隊が来るらしい。本当かどうか俺にも分からんが。

 

この放送はGNR、ギャラクシーニュースレディオからお送りするよ。

 

さて、曲を掛けようか。

 

これはとある飛行士と亡国の姫君の物語の主題歌だったらしい。らしいと言うのは、ユウキ・ゴメス提供の曲だから何処からなのか分からない。まあ、さっき聞いたが良い曲だと思うぞ。

 

いとうかなこ「とある竜の恋の歌」

 

 

 

 

 

 


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