fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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本当は昨年中に投稿予定だったのに、これでもない・・・ああでもないとやっていたら年が変わっていました。

そして2話編成となっているので、続きは日曜日に投稿します。

ではどうぞ!


二十五話 浄化プロジェクト

キャピタル・ウェイストランドの中でもワシントンD.C.都市部はかなり危険なエリアである。多くのミュータントが生息し、掃討しようとするBOSと傭兵稼業を主とするタロン・カンパニーの三つ巴の戦いがある場所だ。そんな荒涼とした世界の中でも死に近いエリアはここ以外に考えられない。だが、そんなところでさえ商売できると考える者がいる。

 

何処の組織であろうとも、武器や弾薬がなくては戦うことが出来ない。また食糧がなければ、じり貧で戦えない。その為にはそれらが賄える設備などが必要だ。しかし、それが出来ない場合は商人に頼る場合がある。都市部でも比較的安全なエリアがあり、殆んどはそのエリアを通って都市部に入るのだ。地獄からリベットシティー至るルートはポトマック川沿いを行くのが楽であった。そのルートにはジェファーソン記念館も含まれている。

 

 

「ふぅ~・・・・ったく、タロンの連中は気前がいいよ」

 

キャップの入ったバラモンの財布を手の上で転がす商人は満面の笑みで道を歩く。周囲にはレザーアーマーを着た傭兵二人が護衛し、後ろから荷が軽くなったバラモンが後ろから付いていく。典型的な商人のキャラバンだった。バラモンの荷にはアメリカ軍の印がある木箱が幾つかあり、武器を先程まで満載していた。

 

「まあ、金払いは良いけど。戦闘狂が多いし、いつ襲われるかピリピリしていたんですよね」

 

片方の女の傭兵はアサルトライフルを持って呟く。

 

「奴等は略奪なんてよくやるからな。最近、タロン崩れのレイダーまで居る話だから注意しねぇと」

 

もう一人の傭兵はスナイパーライフルを両肩に乗せて歩く。あたかも、囚人のような体勢だが、目が良いため異変があれば直ぐに察知できる。

 

「リベットシティーに着いたら一杯やるか」

 

「フラックの所で弾薬の補充もしないとね~・・・」

 

傭兵二人はリベットシティーに着いてからの計画を話し合う。一応、何か異変がないかしっかりとチェックしているものの、無言で旅するのもつまらない。そんな感じでキャラバン一行はリベットシティーに向けて歩み続けていた。

 

「ん?記念館で何かやってんぞ」

 

リベットシティーに至るルートにはジェファーソン記念館が存在する。最近になって記念館のスーパーミュータントが一掃されたため、商人達はこのルートを通る事にしたのだが、行く道には何やら人が何人も居るようで、傭兵は警戒する。

 

「ん~・・・あれは、ジムとウェインじゃねえか?」

 

「え、嘘?」

 

傭兵は持っていたスナイパーライフルのスコープを外して、単眼鏡のようにして扱う。ジェファーソン記念館には見知った傭兵仲間がいてキャラバン一行は寄り道することにした。すると、見られていた傭兵、ジムとウェインが近づくキャラバン一行に気がついた。

 

「おい、あれってガルシアとミーナじゃないか?」

 

「あ、ほんとだ。お~い!」

 

タロン社の刻印を消したコンバットアーマーを着て、リベットシティーのセキュリティーに見間違える彼らは愛銃の手にそこの警備に当たっていた。

 

「久々だな、元気にしてたか?」

 

「まあ、ボチボチだ。タロンなんかやめて正解だったよ」

 

傭兵二人はウェインにタロン・カンパニーを辞めたことを聞いて、安堵の声を挙げる。

 

「それは何より。あんな所で傭兵やるなんてお前らの柄じゃねぇよ」

 

「だよな・・・。まあ、今は短期契約もやってるが、大部分はこれだな」

 

とウェインはジェファーソン記念館を指差した。

 

「ここで何をやるんだ?」

 

「俺はよく知らないけど、何でも凄いことらしいな」

 

「まあ、ここを見れば大概はそう予想できるよ」

 

商人は傭兵の話に口を挟む。

 

商人の目には以前のジェファーソン記念館とは違う印象を受けた。エントランスの所には機銃陣地と櫓が設置され、タレットが配置されている。他の傭兵は品質の良いコンバットアーマーを身に纏い、ミサイルランチャーや高品質なアサルトライフルを携行している。しかも幾つかの銃座には50口径の重機関銃まである始末。また商人が見ていない所には地雷がばら蒔かれ、ネズミ一匹入ることが出来ない要塞と化している。土嚢や塹壕が掘られ、独立記念碑近くの塹壕を思い起こさせる。

 

商人はかなり財のある人物なのだろうと確信する。そして、そのお方と商売が出来ればいいと思ったのだ。

 

「雇い主は誰なんだい?」

 

「え、あんたと同じ武器商人ですよ」

 

「は?」

 

商人は唖然とする。幾つもの装備品は一級品で自分でも取り揃えられるかどうか分からない代物、しかも中には見たこともない物さえ存在する。それが同じ武器商人であるならば、足元を見られるであろう。

 

「ああ、彼処にいた。お~い、ユウキ。こっち来てくれ」

 

そんな商人の心情を他所に、モヒカン頭のジムは櫓の機関銃を整備していた兵士を呼ぶ。商人にはそれが自分と同じ武器商人には思えなかった。青いVaultスーツを着て、上から黒のベストを着たアジア系の若い青年だった。

 

「ん?どうした二人とも。えっと、ガルシアとミーナだっけ?」

 

「おぉ、覚えてくれてたか。早々、アサルトライフル改造出来たか?」

 

「ああ、出来たよ。一応、ここにあるけど見るかい?」

 

ガルシアと呼ばれた傭兵は歓喜とばかりに喜び、アジア系の青年は軍用のテントからアサルトライフルを持ってくる。しかし、それは商人のの知るアサルトライフルとは異なっていた。

 

R-91アーバン・オートマチック・アサルトライフルと言う名称のそのライフルは木製銃床部分を伸縮ストックに交換され、ハンドガードはでこぼことしたレールが取り付けられている。そのレールの下部には取っ手が付けられており、同様に照準の所にも同じようなレールが付けられている。そのレールにはスコープなどの装備を付けるに違いない。

 

「おお!すげぇ!さすが、ユウキスペシャル!」

 

「んな、オーバーな。・・・・とはいえ、お金はあるんだよね?」

 

そんな青年の一言にガルシアの表情が凍る。商人はガルシアの金の荒さを知っているため、彼が表情を凍らせた理由は分かっていた。後ろでミーナと呼ばれる傭兵は「あ~あ」と言って、青年から頼んでいた武器を貰い、金を払う。貰った品物はノーマルタイプの中国軍アサルトライフルだが、その品質は最高級そのものだった。

 

「俺に土下座までして後払いにしてあげたのにこれかよ・・・。予約が結構あるし、同じ要望のある傭兵にあげちゃおうかな?」

 

「そ、そんなぁ~・・・。だって、あの旦那が安い賃金で働かせるから」

 

「俺のせいか!?」

 

商人は十分な程支払っているにも関わらず、少ないと言うガルシアの台詞に突っ込みを入れる。

 

「折角作ったのにな~・・・。まあ、ここの記念館を守ってくれたら半額いや、もっと値下げを・・・」

 

「やる!!」

 

「やらんわ!ボケぇ!」

 

難波のオッサンの突っ込みのように、商人の突っ込み(拳)がガルシアの溝にクリティカルヒットを起こす。ガルシアは痛みのあまり地面に突っ伏すが、商人は困ったような顔をして青年に対峙する。

 

「従業員をたぶらかさないで貰いたいんだが?」

 

「すいません。何せ彼が払ってくれないもので・・・。もしよかったらと思って言ったんですがねぇ~・・・」

 

「ここの防衛体制はまだ不足しているのか?」

 

商人の目には過剰防衛なような気がしてならない陣地を見て聞いた。

 

「武器や弾薬、設備は全くと言って良いほどなんですが、人員が不足していましてね。あともう少しいれば良くなるんですが」

 

商人はもう一度、陣地を見る。すると、数えてもすべてをカバーできるような配置ではなく、あともう一個分隊近く必要になるだろう。それでも、彼に一個分隊規模の傭兵に報酬を支払うことが出来るのだろうか。

 

「な~に、報酬は銃を50%OFFにすれば、大概の傭兵は首を縦に振りますよ」

 

商人は見た目幼いアジア系の青年をまるで化物のような目で見つめていた。

 

コイツ、高品質武器で傭兵を釣る気か!?

 

自分より遥かに高品質な武器を売りさばき、何桁も違う収入を得ている青年。その交渉術と一流の商人の目、商人はトンでもない化物と出会ってしまったと唖然とした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「いやぁ、参ったね。俺のブランドがこうも人気を博していたなんて」

 

俺は軍用テントで傭兵達と語り合っていた。片手には冷えたヌカコーラと串で炙ったバラモンのカルビ肉の串焼きを持ち、傭兵の話を聞いていた。武器商人とガンスミスを兼業しているし、彼ら使用者の声はしっかり聞いとかなきゃならない。すると傭兵達は口々に俺のカスタマイズした武器を賛美し始めた。

 

「そりゃね。ライトやレーザーポインター、ハンドグリップに照準装置・・・普通の武器商人じゃまず扱ってないね」

 

「弾詰まりも無くなったし、以前よりも整備がしやすくなった。そういや、メガトンのあの坊主もかなり腕を上げたな。」

 

「まあ、高品質ゆえに其処らの武器商人じゃ取り扱ってないが、早々買えるもんじゃない」

 

「でも、コイツに出会ったら手放すことも出来ないよ」

 

アゴヒゲを生やしたこの中で一番の老兵のフランクは俺がスナイパー仕様に改造したアサルトライフルを撫でる。銃身が伸び、バイポットが装着してある。スコープはスナイパーライフルのスコープを使い、弾は高品質な狙撃用のハンドロード弾を使っていた。

 

今や、メガトンの「奇妙な武器店」はウェイストランド中に名前を轟かせている。高品質な武器を販売し、それなりに腕のいい傭兵なら必ず持つ武器になりつつある。立ち上げた店主は放浪癖があるが、弟子の少年とロボが売り捌くので有名に成りつつあった。

 

放浪癖はともかく、有名になり客も多いと聞いて俺は喜んだ。

 

「で、これだろ?そりゃ高品質な武器が半額で買えるならこの依頼を受けるさ。しかも、装備は貧弱じゃあ無くて、練度の高い傭兵を雇っている。この契約はお得だと思ったのさ」

 

俺はジムやウェインを筆頭に武器の格安を条件に契約書にサインをして貰う。他にも常連客やウェインの知り合いを通じて傭兵が集まったのだ。しかも、ウェインの知り合いには腕の良い傭兵が多く、彼らの殆んどが俺の顧客だったことが幸いだった。

 

「それにしても、こんだけの武器と弾薬、資材をどうやってあつめたのさ?」

 

先程、商人の護衛としてやって来たガルシアと恋仲のミーナはウィスキーを煽りながら聞いてきた。

 

「そうだな、武器弾薬は俺の調達している陸軍の武器庫から。資材は道路上に放置されていた工事用トラックのお陰かな」

 

勿論、嘘は大半を占めている。武器弾薬などタレットは家の貯蔵庫から持ってきた。コンバットアーマーもそこから持ってきて、借用金を払わせて使わせている。それでも欲しいと言えば、相場価格で買い取って貰う。そして櫓は市街地の道路に放置してあったトラックから鉄筋を拝借し、コンクリで固めたのだ。

 

「後はこれだよ、これ」

 

俺は脇腹のポーチから本を取り出す。そこには陸軍のマークがプリントされてある代物だ。

 

『陸軍士官戦術教書』

 

所謂、士官候補生の教科書である。図書館で必要なのをピックアップして気になったのを印刷した。Brotherfoot of steelにも似たような本があったらしく、彼らは戦前に学んだ士官が記した本を学んでいた。しかし、その原本が俺の手元にあるため、情報の精度は此方の方が高い。

 

「それは凄いな。・・・ってことはこの防御陣地の構成はそこからか?」

 

「まあね。後は土嚢でどれだけ防御陣地を作れるかだ。記念館の外周部も機銃陣地が欲しいね」

 

「まあ、施設内の臨時武器庫を見る限りだと、ここの敷地内にもう三つ陣地を作れるだろうな」

 

リベットシティーに着いた後、ジェームズはDr.リーと再会した。再会は最悪で先ずはリーの平手打ちから始まった。およそ二十年も音沙汰がなく、放棄していた浄化プロジェクトを始動させようとしたのだから当然であろう。他にも研究員がいたため、冷めた目で見つめていた。しかし、ジェームズはDr.リーを含めたメンバーを説得して浄化設備のあるジェファーソン記念館に移動した。

 

しかし、問題が発生する。何をするにも金が掛かる。施設を維持するにも改善するにも金が掛かるのだ。そして、近くにはミュータントのテリトリー。現にこの前までジェファーソン記念館はミュータントの巣窟だったのだ。更にポトマック川にはミレルークの巣もあり、施設の防衛費は膨大な金を必要とする。俺は少しばかりの援助をしようと思ったのだが、

 

「ユウキは武器商人なんだから大丈夫だよね?」

 

シャルの一言によって研究者一同が俺を羨望の眼差しで見つめ、俺は倉庫の武器を切り崩しに掛かったのだ。しかし、元からかなりの備蓄があるメガトンの自宅は記念館に20回配備しても余りある位の量だ。MODで増やしたお陰でまだまだストックがあるが、人員が足りない。幾ら武器があろうと、使う人員がいなければ話しにならない。だから、グレイディッチからの付き合いである傭兵のウェインとジムの兄弟に依頼し、高品質武器の割引案で依頼を引き受けさせた。他にもウェインの伝で多くの傭兵が揃い、BOSも真っ青の防御体制が出来上がった。「BOS時代よりも強固ね」とDr.リーが呟いたりしたが、それでもミュータントが度々攻撃を加えてくる。すると、傭兵の数人が負傷する。だが、ここも傭兵のケアに重きを置かれている。可愛い女医のシャルと格闘研究者兼医者のジェームズの親子タッグで怪我をした傭兵を診察する。シャルの笑顔に傭兵は心癒され、悪さを働こうとする輩はジェームズの鉄拳制裁が加えられる。この環境は誰しもがやりたがる理想の環境だった。

 

「それにしてもこれ美味しいな」

 

そう言ってきたのは、バラモンのカルビ肉の串刺しを頬張っているジムだった。彼はとうとう、モイラと恋仲になったようだ。アタックした甲斐があったものの、実験台という位置付けは変わらない。彼はモイラの元にたまに帰るので、図書館でダウンロードしたデータの写しを渡して置いた。多分、もう全ての章が終わっている筈なので何かしらの報酬が貰えるだろう。

 

「だな、これ誰が作ったんだ?」

 

ガルシアはポトマック川で仕留めたミレルークの腕を丁寧に食べている。

 

「まさか、シャルちゃん?ユウキは恵まれていていいね♪」

 

ミーナはモールラットの挽き肉パテを混ぜた即席ポテトを頬張っている。

 

「いや、俺の手料理だが?」

 

「「「何ぃ!?」」」

 

俺は自分が作ったことを言うと、全員が驚きの声を挙げる。

 

カルビ肉はレイダーに襲われたキャラバンのバラモンを解体しておいたものを焼いた。食べるところは少ないが、カルビの部分が残されていたので、ワインとマッドフルーツやニンジンを一晩煮たソースを浸して串焼きにした。ミレルークの肉はそのまま炙るのもつまらないので、海から塩水を回収して塩だけを抽出する。それだけじゃ、放射能まみれなのでrad-awayで浄化しておき、バラモンミルクで作り上げたバターを塗って炙っておく。モールラットはそのままだと、焼いても動き回るので挽き肉にして即席ポテトを混ぜた。ドイツの何処かの郷土料理もどきであるが、味は美味しい筈だ。

 

どういう風に作ったかを言ってみると、それを聞いていた傭兵一同は哀れみの目線を送る。

 

「え!なんで皆俺にそんな目を!?」

 

「普通は女の子に料理させるだろ。しかも、お前の料理って凝りすぎだよ」

 

「これじゃあ、シャルちゃん可哀想」

 

普通は料理と言えば女性の仕事・・・と言うわけでもないのだが、女の子の手料理と言うものはこの混沌としたご時世であっても良いものである。しかし、男女の中で一番料理をする人物は女性。だが、俺の場合は三ツ星シェフから指南を受けたゴブからレシピを貰い、それに沿って作っただけなのだ。

 

シャルだって作れば料理は美味しい筈!

 

俺は弁明の言葉を述べる。

 

「いやいや、シャルの料理は美味しいって」

 

「さ~てどうだろう?これってフラグ立ってるよね」

 

ミーナはウォッカをショットグラスに注いで飲んでしまう。だが、彼女の言っていることにあまり狂いはなかった。

 

 

 

 

その夜、俺が料理し終わった記念館の厨房でシャルは必死に何かを作っていた。

 

「ユウキは何であんな美味しいのを!!私だって!!」

 

決してシャルの料理が不味いわけではない。直接ゴブから指南を受けた料理はホテルでも通用するレベルに位置し、シャルはvaultでいつもジェームズの夕食を作っていた。経験値としてはシャルの方が上である。しかし、ジャンルというか畑が違うのだ。俺の料理はレストランに出しても良いような商業用商品をレシピ通りに作り、そして、シャルのは家庭的な暖かみのある料理。それはどれをとっても美味しいものでどちらが美味しいとか選ぶことは出来ない。しかし、そう言うレストランで出されるような食事を真似するべく主婦の方は勉強されるのも事実なのだ。

 

本当はゴブのくれたレシピをそのまま流用しているので、分量を正確にしていれば美味しくできる。シャルは持ち前の料理の腕とセンスを高めるために持ってきていた食材を使い、料理を作り始めた。

 

既にユウキが研究員分の食事を作ったため、作る必要はない。だが、先程味見したユウキの作った料理の味を噛み締めて料理の腕をあげようと決心した。

 

それから朝になって妙に量が多い朝食に傭兵達や研究員は胃を痛めるのだが、シャルの気持ちが分かる傭兵達は俺に料理を作らせないよう仕事を山積みするまでに至ったのだった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

浄化プロジェクトを再始動して三週間が経とうとしていた。放置されていた装置諸々は研究員とリベットシティーからやって来た技師などの奮闘によって回復した。更に、施設の防御力は昔以上に回復し、要塞もかくやと言われるまでになった。エントランス近くには土嚢などで銃座を作り、櫓も建てた。防御は完璧で攻撃が来ても防げる手筈だ。

 

「ニンゲンコロス!」

 

「ミナゴロシダ!」

 

今日も懲りずに、スーパーミュータント・プルートやマスター、ケンタウロスなどの集団が接近していた。

 

(敵襲!敵襲!橋にミュータントが接近中、戦闘員は直ちに配置に付け!)

 

施設の外に設置されたスピーカーから、サイレンが響き、雇われた兵士が持ち場についた。

 

「右の銃座はマスター、左はミニガンをやれ。他の部隊は残りを」

 

俺は指示を出し、持っていた中国軍アサルトライフルを構える。しかし、それは何時もの中国軍ライフルではない。二脚が取り付けられ、銃身が延びている。更に、マガジンは長くなり60連マガジンが取り付けられている。それは分隊支援火器のRPKをモデルに作ったもので、制圧射撃を考えて作ったものだ。

 

「各員、制圧射撃!」

 

5.56mm弾が撃鉄に叩かれ、雷針が中の炸薬を燃やし爆発する。その衝撃で弾が発射され、スーパーミュータントの胴体を切り裂いた。しかし、一発だけではない。何十発もの弾丸がミュータントの身体を突き抜ける。如何に頑丈であろうとも、徹甲弾を貫通しないミュータントはいない。

 

「ヒャッハー!喰らいやがれ!」

 

「皆殺しだぁ!」

 

「一匹残らず・・・・駆逐してやる!」

 

傭兵達は携えた武器を用いて近づいて来るミュータントに弾丸を食らわせる。

 

「イタイ!・・・ウォ!」

 

僅ながら知性を持つミュータントは櫓にいる兵士が持つ武器を見て驚く。それはウェイストランドでも数が少ない対戦車兵器であるミサイルランチャーだった。

 

「大統領によろしく言っとけ」

 

傭兵は呟き、発射ボタンを押す。電気信号が流れ、ミサイルの燃焼燃料が引火する。発射されたミサイルはミュータントの足元に命中し、TNT換算で300gの爆薬がミュータントを爆散させた。爆心地には生きているものなど居る筈もなく、戦闘は終了した。

 

「負傷者は?」

 

「ライアスが兆弾に当たったそうだ。それ以外は何も」

 

「は~、良かった。不足する弾薬を補給所に申請しておいて、シフト以外の兵士は兵舎に戻っていいよ」

 

死傷者が居ないことを確認し、警戒体制を解く。持っていたライフルを肩に掛けると、施設の中に入った。

 

「イラッシャイマセ、ゴ注文ヲ」

 

「補給所のソフトなんて無いんだろうけど、仕方ないか」

 

廊下を少し行くと、右手には展示フロアがあり、左手には元々、使われなくなったガラクタが置いてある。しかし、ガラクタを退かして、プロテクトロンで物資を取引できるようにした。テーブルを起き、盗みを働いた場合はプロテクトロンレーザーと近くのタレットが犯人を蜂の巣にする。しかし、ちゃんとした客なら打って変わって豊富な武器弾薬を提供している。一応、キャップはちゃんと取るものの、割引をしておいた。元々、プロテクトロンはロブコ社に行った時に持ってきたもので、物品販売ソフトも本社で見つけたものだ。

 

「今日の売り上げはどうだい?」

 

「今日ハ、ドノバン氏トラコック氏ガ5.56mm弾700発トショットシェル50発ヲ購入シマシタ」

 

「あいつら使いすぎ、支給しているのにな」

 

一応、弾薬の支給はしている。しかし、支給した弾薬を使いきったら自腹とした。弾薬を無駄遣いするような奴等ではないことは分かっているけど、一応制約を掛けておいて損はない。物品の保管所としても機能する補給所に中国軍アサルトライフルを改造したRPKをプロテクトロンに預けて中に入った。

 

「外はどうだった?また、ミュータントが来たっぽいが?」

 

「兆弾で負傷者が一人出ただけで、それ以外は誰も怪我してないよ」

 

リベットシティーから来た顔見知りの雇われ技師が訊いてきたので、撃退したことを話すと直ぐに自分の持ち場に戻っていった。メガトンならもっと心配をしても良いぐらいなのだが、リベットシティーでの生活が長いのか、あまり警戒はしていない。長年に渡る安全な船の中で生活しているため、危機的意識が薄れているのだろう。他の科学者も没頭しているため全くこっちを見ようともしない。

 

「なんだかな~・・・・」

 

もしも、陣地が突破されたらどうするつもりなんだろうか。一応、避難用経路は確保しているが、経路にはグールも居るため、避難にはかなりの重装備で行くしかない。ならば、早めに片付けた方が良いだろう。

 

「シャルは撃たれたライアスの治療しているだろうし・・・・、リハビリでアイツを連れていこうか」

 

ジェームズの研究を手伝おうとしていた足を止めて、地下一階のエリアに向けて歩き出す。俺は理系ではないため、ジェームズの研究は手伝えない。そもそも、防御陣地での仕事をやっているのだから、これ以上他の仕事をする必要はない。兵士は兵士の領分をこなすだけで良いのだ。もっとも、兵士ではなく武器商人なのだが。

 

階段を下り、医療区画を通りすぎて研究員や技師が寝泊まりする場所へ到着した。二段ベットに休憩していた技師のグループはトランプで遊んでいる。非番な彼らはウィスキーを傾けてキャップを賭けていた。その中に一人、技師ではない人物が一人いた。傭兵が着るような濃紺のカーゴパンツにタンクトップを着ていた。タンクトップを着ている上半身は女性の特徴的な大きな脹らみがあり、女性であることを現し、男なら凝視してしまうかもしれない。ヒスパニック系の褐色の健康的な肌に目を縁取るような長いまつ毛、ウェイストランド人では無いのではと考えるような美貌を持っていた。

 

「これでどう?」

 

アリシアは持っていた手札を見せる。手の内はスペードのKINGがペアにダイヤのエースがスリーカード。所謂、フルハウスという奴だ。

 

「あ~・・・負けた~!」

 

「もっていかれた~!!」

 

「俺の今日の飯が・・・うぅ!」

 

対戦していた技師達は思い思いの嘆きを露にし、項垂れる。テーブルに置かれたキャップをアリシアは鼻唄を詠いながら数えて、バラモンの財布に納めていく。その数は100キャップに及ぶ。

 

アリシアはここに来た後、二三日寝たきりの状態だった。ミサイルに直撃はしなかったものの、彼女の身体に無数の傷を作り、骨を砕いた。そんな重症を何とかシャルはありったけのスティムパックと輸血パックで命を繋ぎ合わせたのだ。そう考えれば、二三日寝たきりなんてまだ良い方だ。しかし、二三日何もしなければ身体は鈍る。しかも、シャルは+一週間戦闘行為の禁止を言い渡した。傭兵稼業の人間にとっては死刑に等しい。しかし、アリシアは仕方ないと言ってベットで本を読んだり、こうやって技師とポーカーをやっている。先日、禁止解除され、ウィスキーやタバコを許可されても、ウィスキーやタバコを吹かして本を読むだけになってしまったのだ。

 

怠惰を貪るアリシアは事故の影響なのか、それとも思い至る事があるのか分からない。聞いてみても「余り休んでいなかったから、休ませてくれ」と言ってのんびりしていた。休むのも構わないし、ウィスキーを飲もうがタバコを吸おうが構わない。だけど、アリシアは何かが壊れたのではないかと思うようになった。

 

「アリシア、どうだ。調子は?」

 

「・・ああ、そりゃこんなにコイツらから根こそぎ奪ったんだ。絶好調に決まっているだろ。」

 

と、返すがアリシアは俺を見た途端に声のトーンを落とす。俺はヤーリングが言っていたことを鵜呑みにはしていないけど、この返事は好きと言う感情からでは無いだろう。

 

日に日に傭兵としての彼女が死んでいっている、そんな気がしてならない。

 

「避難経路にいるフェラルを掃討するんだけど、一緒に来てくれない?」

 

「一人で出来るだろ。腐った肉袋ぐらい何とかならないのか?」

 

アリシアがそう言うものの、技師達は彼女の言葉に待ったを掛ける。

 

「アリシア、それは無いだろ。技師の俺達だってフェラルの凶暴性は知っている。彼だけじゃ危険じゃないか?」

 

「BOSの兵士が一人でパワーアーマー着て掃討しに行ったら、リーヴァーになって帰ってきたって噂だ。彼が強いのは知っているが、自殺行為だろ」

 

BOSの兵士がグールになって帰ってきた噂話は良くある。だが、それは噂に過ぎない。しかし、アリシアの気持ちを変えるには十分だった。

 

「分かった、行こう。キース、私の財布を盗むなよ」

 

「しないよ」

 

キースと呼ばれた技師は言い、アリシアは俺と共に避難経路へと歩き始めた。

 

「これでいいか。アリシアは?」

 

「私はこれにしよう」

 

俺はさっきのRPKではなく、銃身を切り詰めたCQB仕様のアサルトライフルをプロテクトロンから受け取る。アリシアは手作りのドットサイトを取り付けたコンバットショットガンだ。アサルトライフル用のマガジンをマガジンポーチに収め、予備の10mmピストルの点検を行う。中に入っていた弾倉を抜き取り、スライドを引いて動作確認を行う。

 

「準備は?」

 

「大丈夫だ。行こう」

 

一度、展示室を通り、使われなくなった機械の近くに“非常用トンネル”と書かれたマンホールを見つけた。Dr.リーから借りた非常用の鍵を使ってマンホールを開けた。ライトをアサルトライフルに縛り付け、慎重に下へ降りる。ライトを点灯させて、周囲の安全を確認しておく。

 

「Clear!」

 

アリシアが梯子から降りて、彼女と共にクリアリングを行う。薄汚れたトンネルは何時、フェラルグールが襲い掛かってきてもおかしくない。慎重に進み、二つのエアロックのハッチを見つけた。

 

「整備トンネルの配電図によると、こっちがペンタゴンに行く通路。こっちがジェファーソン記念館の地下のパイプラインか。」

 

「パイプラインはこの前、ライアンが巡回中に確認したからペンタゴンまでの避難通路が良いだろうな」

 

広げた配線図の写しを指差し、道を決める。扉のスイッチが壊れていたため、ポーチに引っ掻けてあったペンチとドライバーを片手にスイッチの配電盤を開いた。

 

「どのくらい掛かる?」

 

「ざっと、5分って所かな」

 

大半が半永久的な核分裂バッテリーによる開閉装置だが、たまにネズミに配線を食われていることがあったり、経年劣化もある。手持ちの使える配線を組み合わせたり、破損した核分裂バッテリーを取り替える必要があった。

 

「なあ、アリシア」

 

「なんだ、ユウキ?恋煩いか?」

 

「大丈夫だ。もう解決しているし、順風満帆だよ」

 

本当か?と聞いてくるアリシアであったが、俺はあえてそれを無視してアリシアに尋ねた。

 

「何か悩み事ってある?」

 

「なんだ、いきなり」

 

アリシアは面食らったように驚いた顔をする。

 

「いや、だって図書館の一件で元気なかっただろ?それに傭兵稼業がうまくできる仕事場も出来たと言うのに、技師達とポーカーしているだけじゃん。そりゃ、心配もするよ」

 

俺はそう言って腐りかけていたコードをラジオペンチで切った。

 

「一応、雇い主ではあるけどさ。友達以上だと思ってる。ちょっと恥ずかしいけど・・・・アリシアの事を好きだし、姉のようにすら思うことだってある。何かあるなら相談に乗るよ?」

 

それは告白であるのかもしれない。でも、俺の気持ちは変わらないし、愛していると言うもの少しおかしい。だが、友人以上の存在だと言うのは自分でも分かった。修理がもう少しで終わりそうであったが、アリシアの反応が分からなかったため、身体を動かそうとする。

 

「アリシアはさ・・!」

 

後ろに身体を向けると、すぐ後ろにいたアリシアの身体が近づき、俺に抱きついてきたのだ。

 

「ちょ、え?」

 

俺は驚き、持っていたラジオペンチを落としてしまう。若干俺よりも背が高いアリシアは手を頭まで伸ばし、強く抱き締めてきた。

 

「ユウキ、ありがとう・・・・。ちょっと一人で抱え込みすぎたようだ。心配掛けてしまってすまない・・・」

 

アリシアの髪の毛から漂う女性の甘い香りが鼻腔を刺激する。不埒な事を考えそうになるが、震える肩と肩に感じる湿っぽい感覚でその考えは吹き飛んだ。

 

震える肩をそっと手のひらで抑え、もう片方の手で背中をさする。見た目は凄腕の女傭兵で弱点がないようにも見える。だが、彼女の何処かにはか弱い女性の部分だってある。落ち着かせるように、子供をあやすように励ます。それはアリシアが落ち着くまでずっと続けた。

 

「・・・・・すまん・・・、変なところを見せてしまったな」

 

目は赤く、涙で濡れた頬を手で払う。どの程度彼女が落ち着くまで掛かったのか分からない。準備が出来たと彼女は告げ、俺はハッチの配電盤を閉めてスイッチを押す。油が差されていないため、甲高い金属と金属が擦れるような音が響き、湿った風が顔を拭う。湿気っていたそこは昼間の高い気温に相まって、汗が首筋に流れた。

 

アサルトライフルを構え、しゃがんでいる人影に狙いを付ける。それはぼろ衣のような物を着た異形の存在。その頭部に狙いを付けて引き金を引いた。高速で放たれた弾丸は異形の頭を貫き、脳奬をばら蒔いた。

 

「シャアアアアァァァァ!!」

 

人間では出せないような、声帯を焼かれ、人ではない化け物が群れになって押し寄せる。

 

「ちょっと量が多いだろ!」

 

「大丈夫だ。この程度なら!」

 

セレクターをフルオートにするが、弾は景気よくばら蒔かない。軽く引き金を引いて接近してくるグールの頭に銃弾を撃ち込んでいく。隣にいたアリシアは新しくつけられたドットサイトの点をグールの頭部へと狙い、散弾を叩き込んだ。射撃の腕と場数を踏めば、グールなど驚異にはならない。的確に頭を狙い、装填する時間を無くして隙を見せなければいいのだから。

 

「ち、弾切れ!」

 

アサルトライフルのマガジンを抜き取り、脇にあるポーチからドラムマガジンを取りだし、アサルトライフルに装填する。ボルトを引いて次弾を装填して引き金を引く。フルオートで放たれた5.56mmライフル弾はグールの頭部を破壊し尽くす。奥から走ってきたグールですら、貫通して飛んできた弾丸の餌食となる。

 

「ハハッ!いいぞ、ユウキ!」

 

こんな良い笑顔を見たのは久々だった。ジェームズを助けに行く前に皆で飲んだときの笑み位だった。アリシアは気持ちの良い笑みを浮かべてショットガンで近づいてくるグールをミンチへと変えていく。

 

持ってきていた弾薬が無くなりそうになる頃には、大半のグールは肉片か頭部だけ無くなった死体となって下水道に横たわった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「は~・・・・良い湯だな」

 

その言葉は日本人なら誰しも聞くフレーズ。地震大国日本であると同時に活火山の多い国の一つでもある。そんな地域では地熱で暖められた湯が多くあり、温泉となるのだ。日本人の魂とも言える温泉は遥か昔から日本人は温泉をこよなく愛している。風呂などを作り、清潔好きな民族と言えるだろう。なぜ、こんなことを言っているかというと、現に俺が使っているからである。

 

手頃な大きさの石を使い、隙間にセメントを流し込む。少々荒削りなところもあるが銭湯として機能する。

 

なぜこんな物がウェイストランドにあるのか、それは俺とアリシアがトンネルに住むグールを掃討する二週間前に遡る。

 

 

 

 

「お風呂に入りたい・・・・」

 

そんな一言が切っ掛けだった。ジャファーソン像を囲む浄化槽と様々な精密機器が置かれたその場所で手伝っているシャルの口から女性ならば普通ならでるであろうセリフが飛び出す。そこにいたジェームズを含む研究員は笑った。

 

「まあ、リベットシティーから出て来たから入る機会は無いからね」

 

「もう入ってから結構経つよな・・・・。シャワー浴びたいぜ」

 

ウェイストランドの常識では、水は貴重な存在である。飲み水は殺し合いをしてでも欲しいものだ。しかし、水がなければ身体を綺麗にする事は出来ない。精々、タオルで身体を拭く程度。風呂に入るなど富豪のやることだ。綺麗な水を生成するのは放射能や汚れを除去するフィルターや放射能を分解する機械が必要となる。ウェイストランドにその機械の数は限られている。リベットシティーには空母に搭載された大型の除去装置があるため、シャワーなどが使える。しかし、浄化プロジェクトに使えるような物ではない。量が少なすぎるのだ。

 

「シャルちゃんはリベットシティーでお風呂に入ったのかしら?」

 

「ウェイストランドじゃあ放射能汚染の風呂しか入れないからな。病みつきになったんじゃない?」

 

「え?家にお風呂あるよ」

 

誰しもがここで驚くことだろう。先程も言ったように、富豪しか風呂に入ることが許されない。皆はそこで思う。放射能汚染風呂かどっかから湯船を持ってきたんだろうと。

 

「浄化プロジェクトで沢山水が出るなら風呂屋でも作るか?」

 

それを言ったのは、何故か入っていたアリシアである。

 

「浄化プロジェクトは無限に無償で水が飲めるようにと考えたんだ。放射能汚染のない水でお風呂を少しのキャップで入れる。この施設の維持費もあるだろうし、なにより皆風呂に入りたいんじゃないのか?」

 

アリシアがそう言うと、皆は顔を見合わせる。白衣や作業着に着替えているとはいえ、ウェイストランドの標準的な臭いである。簡単に言うのなら臭いのだ。タオルで身体を拭くのにも限界がある。それにリベットシティーではシャワーに入っていたのだし、彼らは水で身体を洗う快感を知ってしまっている。本当なら今すぐにでも入りたい。

 

「なら、作れば良いじゃないか?」

 

その時、俺はジェームズさんに記念館の防衛計画を話すために来ていた。作ろうと思えば作れるし、大して難しくはない。

 

「いやいやいや、無理だって」

 

「そもそも資源が」

 

「この前見つけたセメントと海岸沿いにある岩を削って地下に作れば良いんじゃないかな。適当に安い賃金でリベットシティーの労働者を募ればいける。」

 

「「「・・・・・」」」

 

俺の考えを言うと、明らかに呆気に取られたようで研究員達は言葉を失っていた。

 

「え、何だよ?」

 

「いや、流石武器商人・・・・。金の匂いに敏感だな」

 

「商人だけあるわね。他の物まで広げるとか、大物になるわ」

 

研究員は口々に感想を述べる。

 

「匂いなんて嗅いでないって」

 

「風呂なんて夢のまた夢だろ?それを具現化するのに、商売をしようと案を練る当たりそうかなって」

 

「いや、単に俺も風呂に入りたい」

 

「「「お前もかユウキ!」」」

 

その後、研究員からはよく分からない事を言われる。例えば、「やっぱ、大物になる」だの「もうよくわからない・・・」「ずれてる」とか言われた。流石にシャルは同意見だったことに嬉しかったらしいが、俺は風呂にこれだけ固執する理由はただ一つ。

 

メガトンの自宅の時と同じように風呂に入りたい、ただそれだけだった。

 

 

 

 

今に戻り、俺は湯船に使って張っているお湯を手で掬う。お湯はそれなりに透明度をほこっている。汚れも見当たらないし、手に着けたガイガーカウンターは反応しない。

 

浄化装置の機能は汚れと放射能を除去する。それは、フィルターなどを使えば取り除くことは可能だし、科学者でちゃんとした知識さえあれば取り除くことは容易なのだ。しかし、フィルターなどは何れ汚れがたまり交換しなくてはならない。フィルターを通しても若干の放射能と汚れは残る。200年の歳月で本来の能力よりも下回った能力しか出ない。そして絶対数が不足しているし、永続的には不可能だ。だが、ジェームズ達が考えている事は従来の物とは異なる。それは汚れと放射能を分解してしまうのだ。今のウェイストランドでそれをする事は不可能に近い。しかし、Vault-tecの開発したそれは天地創造を可能にしたG.E.C.K(Garden of Eden Creation Kit).は放射能を除去し、新たな肥えた大地を創造する。まさしくそれは神の力。それは西海岸でVaultのシェルターに保管され、核戦争後に使用された。それを使った場所は人々が入植し町を作った。それは次第に大きくなり、村から町を、町から街を。そして国を造り上げた。それが、新カリフォルニア共和国である。

 

ジェームズはG.E.C.Kを説明書通りに使わず、より大きな善のために使うつもりだった。G.E.C.Kは使用後、動力としている核融合装置は壊れてしまう。それは物質の分解と構築という神の所業を成し遂げたためだ。しかし、それは一地域だけに収まってしまう。ジェームズは考えた。もっと質量を減らしてしまう方が効率的だと。それは水だけに限定し、永遠に綺麗な水を再構築することがいい。水だけは分解せず、中に入った放射能と化学物質などを分解していく。全てを分解するよりも効率的であり、永続的に可能な機械。生命の糧である水をタイダルベイスンに流し込む。徐々に水は浄化され、やがては大気は浄化され、雨が降り注ぐ。荒廃した大地に水が流れ込み、肥えていき新たな生命が誕生する。地球の再生、それこそがジェームズ達が目指していた姿だ。

 

 

「今はフィルターで綺麗にしているが、綺麗な水でリフレッシュしてもバチはあたるまい」

 

施設には幾つもの施設がある。一部ではフィルターを使用して浄化できる設備もあったためにそれを今回はそれを使用した。しかし、フィルターでもすべてとることは困難だ。よって放射能はRad-xを入れて中和し、被爆する事はない。そして飲み水ではないので、ある程度の汚れは大丈夫だろう。

 

2週間の作業行程で本当に良くできたと思う。作業員を雇い、海岸の岩を砕いて運ぶの繰り返し。そして地下にそれを組み立てて配置する。そこにセメントを間に流し込み、乾燥させておく。水深一メートル以上のところもあり、座って肩まで浸かる低い位置も存在する。25mプールとは違うものの、それに準じた作りとなっている。

 

戦前のタオルを頭の上に畳んで置いておく。勿論、ババンっババンバンバン♪と歌も忘れない。

 

「はぁ~良い湯だな・・・・。日本人の魂だよ」

 

すでにヒスパニックの血も入っているため、純粋な日本人とも言えないし、この際どうでもいい。正直、魂は元日本人であるため言えると言っちゃ言えるけど、お風呂or温泉好きなら日本人と言っても悪くはない。(←無茶)

 

すると、後ろの扉が開き誰かが入ってくる。この時間帯は男性と決めているため女性は入ってこない。江戸時代の銭湯は混浴であったこともあったが、一応、二百年経っても貞操の価値観は同じである。湯船から立ち上る湯気が換気扇で外へと放出されるが、あまりに湯気が多いため室内は良く見えない。身体を洗っている音が聞こえているし、洗っている場所は良く見えない。誰だか分からないけど、一応決まりは守っているようだ。

 

シャワーから流れ出す音が聞こえ、体の石鹸を洗い流している。ジェームズさんならシャルの話し。そのほかの人なら陣地や研究、シャルの料理の話なんかでもいい。

 

すると、シャワーを浴びて隣に誰かが入ってきた。誰だろうかと首を向けると、俺は驚いた。

 

「ユウキ、どうしたそんな顔して」

 

時間外であるはずなのに、そこにはヒスパニック系によくある褐色肌、そして異性のアリシアが入ろうとしていたのだ。

 

「ちょっと!え!時間は!」

 

「ああ、一応入口には『進入禁止』の立札があるから大丈夫だ」

 

「いやいや、大丈夫じゃないって!」

 

褐色の肌とお湯が滴り、しっとりと濡れた髪は扇情的で頭がクラクラする。そして、長年傭兵をしていたためか、無駄のない体つきで、胸部には重力に負けずに双丘が女としての自己主張をしている。そんな色気に掛かって乗せられた男はどれほどいるだろうか。俺は最後の理性の力を振り絞り、風呂から出ようと淵に脚を掛ける。

 

「待たんか、ユウキ」

 

それは咄嗟の判断だったのだろう。アリシアは俺の腕を掴み、まるで人魚が漁師を海へ引きずり下ろそうとするように、深い風呂に落ちた。鼻にお湯が入り、何とも言えない不快感が鼻腔から喉までを刺激する。すぐにお湯から顔を出すと、鼻に入った水と喉の不快感を和らげる為に咳をした。

 

「ゴホッ!ゴホッ!・・・・・ってうわ!」

 

背後から抱きつかれ、柔肌が密着する。心臓はまるでミニがンの連射のように早く鼓動する。端から見ればそれは恋人同士のじゃれあいとも見えなくもない。しかし、俺には既にいるのである。ここで事を為せば、俺は後悔するだろう。

 

「アリシア、ちょっと落ち着いて・・・・」

 

「何だろうな、この気持ちは・・?お前を見る度に収まることがない」

 

「俺はその・・・・」

 

「何、とって食いはしないさ」

 

俺が食いそうなんですが・・・。とは口が裂けても言えはしない。豊かな双丘が俺の背中を撫で、理性を崩壊に導いていく。しまいには、アリシアの手は腹筋や胸筋を撫で始めた。

 

「案外筋肉あるんだな、驚いたな」

 

「俺も・・・驚いたと言えば驚いているんだけど」

 

確実に見誤っていた。俺の考えではアリシアは傭兵なので筋肉で硬いものとばかり思っていた。しかし、何も纏わぬ姿や密着する柔らかさを考えてもそれは艶やかな女性のそれだろう。筋肉質と思っていた太股や腕は筋肉はあるものの、女性らしさが残っている。そして腹筋は薄く縦に割れて括れてはいるが、女性らしい扇情的な様子である。さらに、胸は筋肉かと思いきや、背中に感じる柔らかさは堅いそれとは比べ物にならない。アリシアの暴挙と俺の推測との矛盾、二重の意味で驚いていた。

 

「お、俺にはシャルがいるんだ。ちょっとこれは・・・・」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

「ふぁ?」

 

アリシアは呆れたように俺の顔を覗き見る。俺は呆気に取られて彼女の瞳を覗き込んだ。その目は恋人に求めを乞うそれではなく、何時ものキリリとした顔付きである。え、ちょっと待て。俺の勘違い?身体を触れ合わせて何も無し?

 

「ユウキ、もしお前を求めたらどうなると思う?確かにそれは良いのだろうが、シャルロットは怒ると言う次元じゃ済まないな」

 

「確かに・・・・」

 

アリシアと俺の共通の認識である。『シャルは本気になると怖い』例を出せば、ジェームズを見つけるために安全なvaultから出た。これは並みの行動力と決意がなければ為し遂げられないだろう。そして、父親と協力してここまでの事を為し遂げる辺り、シャルの本気は世界を変えかねない。もし、彼女が怒ればトンでもない事になるかもしれない。もし、アリシアと俺が事を為せば、プラズマ粘液か灰になるだろう。その前に、ジェームズの北斗百烈拳でミンチにされかねない。

 

「安心しろ、お前を誘惑しているわけではない」

 

「なら、抱き着かないで下さいよ!」

 

「案外、初心なのだな。可愛いな」

 

と彼女は耳に息を吹き掛ける。この人は何処まで男を弄り続けるのだろうか。誘惑していないと言いつつ、誘惑して俺の悶える姿を見て楽しんでいるのだろう。

 

すると、アリシアは首筋に顔を埋める。それは何かちょっかいを出すのではなく、まるで何かの保護が欲しい子供のような様子だった。

 

「ユウキ、ちょっと聞いて言いか?」

 

先程とは声色が変わり、まるでグールを掃討したあの泣きそうな声に変わっていた。俺は何の迷いもなく「聞きますよ」と返した。

 

「もし、・・・・もし私が思想や宗教、信ずるモノが違ったらどう思う?」

 

「何ですか、いきなり・・・」

 

思想や宗教、信念の違いは人類に度々亀裂を、戦争を起こさせてきた。それは宗教戦争や政治紛争、そして思想戦争まで至る。それは人類が歴史として認識する以前、ホモサピエンスが生まれてすぐからそういったモノが戦争の人殺しの発端となった。

 

歴史とは繰り返すことで知られるが、世界はその都度、相手が消え逝くまで続けた。しかし、どちらかが滅びるまで続けられることは年を経てなくなっていく。人には喜びなどの感情がある。人は和解することも可能である。それは今までの歴史が示している。世界は戦争を無くすことが出来ないと考える物もいるだろう。だが、思想や信念が違うとしても、互いに認め合えば争いは無くなることが出来る。

 

「もし、アリシアが俺と宗教も思想も信念も違っていて、それが悪いことですかね?」

 

「え・・・」

 

「違っていて当然だ。全員が同じ考えな訳がない。違っていたとしても互いに分かり合えればいい。俺の事分かったでしょ?」

 

「そりゃ、分かっているさ・・・」

 

「じゃあ、俺の事嫌いになりました?」

 

「・・・そんなわけない。どうやれば嫌いになれる」

 

「なら俺もアリシアの事を嫌いにはならないさ。もしここで共産党の党員でしたと言ったら・・・・大きな声で議長万歳って叫んであげますよ」

 

「なんだそれは・・・・ククク!そうだな、もしユウキが“ハイル・フューラー”なんて言えばその場で頭を撃ち抜こう」

 

「ちょ、俺は屈伏したのに俺を撃つ気?」

 

「良いじゃないか、伍長殿に会いに行けるぞ」

 

「俺はナチじゃないから!」

 

そう言うとアリシアは笑い始め、俺から身体を離す。深いエリアな為、アリシアの艶かしい身体は湯に浸かっているため見えない。彼女の顔はさっきと違っていて晴れやかだった。

 

「そっか、ありがとう。お陰で楽になった」

 

それは傭兵のアリシアではなく、可憐で少女のようなアリシアの声だった。その後、俺とアリシアは風呂場で少し話した後に風呂から出ることにした。一緒に風呂場から出でしまうとばれる可能性が高いのである程度時間差で出ることにした。

 

「じゃあ、先出て待ってるよ」

 

時計を見ればもうすぐ夕食時、シャルが美味しい料理を振る舞ってくれる。出てくる料理を想像しながら服を着て、カーゴパンツとTシャツを着る。

 

「ああ、それにしても・・・以外と初心なんだな」

 

と小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

アリシアは風呂上がりなため体全体が火照っている。水分を吸った髪はしっとりとした艶かしい雰囲気を醸し出す。そんな色気を出していると、他の男に襲われるんじゃないか?

 

「悪かったな・・・・あんまり誘惑しないでくれよ。俺はシャルが居るし・・・アリシアの事は好きだけど・・・」

 

「なら良いじゃないか。私も好きだぞ」

 

「いや、そうだろうけど・・・・。」

 

「襲ってくれないかと待ち構えていたのに・・・腰抜け」

 

え、あれってマジで誘っていたんですか!アリシア先生!

 

「そうに決まってるだろ。好きじゃない奴の風呂場に入る女が何処に居る!もしかして、私が股の緩い女と思っていたか?」

 

一瞬だが、怒気の籠った目線が向けられる。それは、シャルが出す怒りよりも弱いものの、鋭利な怒りと行った雰囲気だった。俺は首を振り、弁解した。

 

「いや、俺みたいな男が良いのかな・・・何て」

 

アリシアの身長は俺より高く、そして強い。命を救ったと言えど、俺の事なんて体のいい金蔓としか思っていないんじゃないかとすら一時期思っていた。

 

「言っておくが、ユウキは自分を過小評価し過ぎだ。お前はこの世界を変えられる。多分、強大な敵が立ち塞がってもお前なら何とかなる筈だ。」

 

「格闘戦は弱いぞ、俺」

 

「そんなの勘定に入れるな、バカ。・・・・まあ、過大評価するよりましなのかもしれんがな」

 

すると、アリシアの細い指が俺の胸を触り、やがて鎖骨から首、頬へと流れていく。両手で俺の頬を触り、アリシアの唇が俺の唇に触れる。鼻腔に甘い香りが広がり、本能を刺激する。本当ならここで押し倒したい。だが、シャルの笑顔がふと頭に過り、力を込めようとした手を同じように頬へと伸ばす。すると、彼女は唇を離した。

 

「全く臆病者め、ここなら大丈夫だろ?」

 

「事を終えてからシャルに此を報告して許可を得るのは無理だろ。そこは自重するさ」

 

「なんだ、お前を奪おうとするつもりだったのに」

 

「なんか、どっかの愛憎ドラマになるから辞めてください」

 

三角関係は嫌だ。それなら、はー・・・・いや、二人を愛することが出来れば良いと思う。でも、それはシャルに許可を取れば良いだろう。彼女が嫌と言えば其までだが、何とかなるんじゃないか?

 

「でも、なんで今になって?」

 

俺はふと疑問が生まれた。もし、彼女が俺の事を前から好きでいたならシャルと俺をくっつけようとは思わない。何か変と思ったため、彼女に質問をぶつけた。

 

「なんでって、こんな世の中だからさ」

 

そう言うと彼女は俺に背を向ける。

 

「今まで私は色々な戦場を歩いて来た。今まで硝煙にまみれて、泥や血にも染まってきた。それで気が付いたんだ。もし、いつか死ぬなら後悔がないように自分の好きな事をしようと。あの時はシャルとお前をくっつけようとしたさ。シャルはお前を愛していたし、お前だって彼女を愛していた。そんなの、誰でも分かるさ。私もお前に抱かれたかったしキスもされたかった。でも、やっぱり心には凝りみたいなのが残ってな。・・・・図書館前で攻撃を受けたときに感じたんだ。」

 

彼女は胸元まで隠していた戦前のタオルを取り、何も纏わぬ状態で俺に見せた。そこには風呂場でよく見えなかったが、無数の傷が身体中にあった。その中でも一番大きいのが、まだ傷口の色が濃い胸から腹にかけての手術跡。スティムパックで傷を塞いだが、あれは傷口までは消せない。上手く使えば消せるに消せるが、凄腕の整形外科医でない限り無理だった。

 

「いつか死ぬかも知れない。なら、惚れた男に尽くすのが女だろ?」

 

そして、彼女はもう一度背を向ける。

 

「傷だらけの身体だろう。・・・もし、嫌なら良いんだ。私は二度とお前の前には現れない。だから・・・」

 

俺は次の言葉を紡ぐまえに彼女を後ろから抱き締めた。

 

「そんなこと言うなよ・・・・。嫌なわけないじゃないか」

 

頭を彼女の肩に当てて、彼女の火照った身体を感じながら身体を密着させた。

 

「・・・・ありがとう、ユウキ。これでもう後悔はない。」

 

「そんな、これでもう終わりかよ」

 

「そうだとも、シャルに怒られるぞ」

 

「さっきは誘惑していたじゃないか」

 

「そうだな。やっても良いんだが、やらなくても誘惑しておちょくるのが面白くてつい♪」

 

「酷すぎるよ、アリシア」

 

散々、アリシアに弄られた俺はかなりのHPを削られて外へ出た。水密扉が閉められて俺はそのまま食堂に移動する。しかし、更衣室には一人アリシアが時間差で出るために一人でいた。

 

換気扇が天井で回転し、ロッカーからアリシアは自身が着ていた服の袖を通す。その作業はロボットのように淡々と無表情で行われる。するとアリシアは近くの椅子に崩れるようにして座り、目の部分をタオルで押さえた。

 

「・・・チクショウ・・・・・・」

 

アリシアの目から流れていく涙は止まることはない。一人残されたアリシアは時間が来るまで泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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