fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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こんな早く投稿できるとは思ってなかったんだ。まあ、【小説情報】でお気に入り件数が増えると、やる気も出るし、感想もらえると励みになります(^O^)








二十二話 タワー再び

今から数百年前、人類は馬を使った乗り物や水蒸気機関をを利用した機関車、蒸気船しか使っていなかった。イギリスの産業革命を機に物を燃やし、そこから出るエネルギーを使うことによって人類は繁栄していった。木炭は単純な樹よりもより長く、より火力があった。しかし、それよりも利便性に長けるものを挙げるとするならば、石油を使用するエンジンだろう。西部開拓の終わりに出来た自動車はすぐに人類の新たな足となって、人や物が運ばれた。

 

2277年では稼働する自動車は殆んどない。強いて挙げるとするならば、NCRで作られた軍用車両や払い下げのトラックだろう。戦前はガソリンが不足し、核動力による自動車が戦争が始まる寸前に発売された。都市部にはその頃の名残である破壊された自動車がそこらかしこに転がっている。しかも、それらの幾つかは稼働状態にあるものもある。それらは一度組み立て直せば、自動車として使え得るかもしれないが、分解すれば高濃度の放射能が漏れ出すことだろう。

 

 

嘗て200年ほど前にあったであろう舗装された道路は、数百年もの歳月を経ているため風化していた。放棄された自動車は色褪せ、車内で死んだドライバーは骨と化して、ハンドルにもたれ掛かっていた。

 

すると、数百年お目にかからなかった鉄の箱車が嘗ての公道を走り去った。骨は風で形を崩し、土埃が舞う。

 

その走り去る自動車は原型を留めていない見事な武装トラックだった。ボンネットやエンジン部分には充分な鉄板が貼られ、破壊されまいと、防御されている。運転席のフロントガラスはないが、開閉式の防弾板があり、前方からの銃撃にはそれが機能する。後部の荷台は左右からの銃撃に耐えうる鉄板が溶接され、ミニガンを取りつけた銃座は周りの敵を蹴散らす。

 

「この砂埃はどうにかならないのか」

 

レザーアーマーに弾帯、そして砂埃を吸わないようにするためのバンダナが口と鼻に巻かれ、目に入らないようゴーグルをつけていたアリシアは弾倉を抜いたアサルトライフルを弄り、助手席に座っていた。俺はハンドルを握り、久々の運転に歓喜しながらもバラクラバを調節する。

 

「無理だ。200年前の核戦争の名残だ。いわゆる死の灰さ、これは。」

 

年月を経ているため、色は元あった土の色と混ざり、灰というイメージはつかない。火山灰ではないため、肺を傷付ける可能性は低いが、身体中砂埃がくっついている。

 

「えーっと、この車って名前なんだっけ?」

 

「インターセプターだ」

 

「邀撃機(インターセプター)?戦前の装甲車が敵だったら、この車はガラクタ同然だな」

 

インターセプターは邀撃機と言う意味合いだが、他の意味もある。ガソリンでは無いものの、稼働する車が少ないこの世界でこの名前をつけるのはあの映画のお陰だろう。まあ、この車はピックアップトラックなのだが・・・・。

 

「良いじゃないか。この名前が良いんだよ・・・。そういや、この道で合ってるか?」

 

「ああ。一度、テンペニータワーで休憩だ。運転も辛いし、何より振動がな」

 

路面は舗装されていないため、揺れに揺れている。振動を軽減するサスペンションはあるものの、振動はきついのだ。運転席と助手席はクッションがあるものの、荷台にはそれがないのだ。

 

「一応盗まれたら、エンジンにC4仕掛けたから綺麗なキノコ雲が上がるだろうな」

 

「用意周到過ぎるぞ」

 

アリシアが呆気に取られるが、レイダーにでも使われてしまえばマサカー(虐殺)が始まるだろう。それを防ぐには自爆と言う方法しかない。

 

「まあ、悪党の手に渡れば酷いことになるからな。テンペニータワーでもこれを奪おうとする輩がいるだろうから、完全武装で行くぞ」

 

座席の後ろにはMODで導入したM3ショットガンが掛けてある。ストックは伸縮ストックにしていて、弾は12ゲージを使用する。既にシェルは装填してあるので、緊急時にはすぐに使用可能だ。

 

「ユウキ君、10時方向にレイダーのキャンプだ。どうする?」

 

「向こうに見つからなければ撃たないで下さい。こちらを撃ってきたら、殲滅お願いします。」

 

銃座についているのはジェームズさんで、元あったミニガンをベルト給弾式に改造してある。一応、照準装置もつけておいたので、銃の苦手なジェームズでも簡単に扱えるはずだ。

 

すると、ピシィ!と銃弾が鉄板に弾かれる音が響く。ボルトアクションライフルの音だ。

 

「ジェームズさん!お願いします!」

 

「任せてくれ!」

 

ジェームズは丘の上にいる人影に狙いを付け、引き金を引いた。ミニガンの筒が回転し、毎秒40発以上の5mm弾がレイダーにばら蒔かれる。細部に置ける微妙な違いはあるものの、7.62mm弾を発射するM134は「遠距離ショットガン」と言う異名で遠距離の敵に散弾のように弾丸を浴びせる。しかし、散弾のような小さい球体が発射されるのではない。小口径ライフル弾が至るところに降り注ぐのだ。敵は防具を貫通し、肉を切り裂き、骨を砕いた。肉の塊と化した仲間を見たレイダーは恐怖におののくがジェームズの完膚なきまでの制圧射撃がレイダーを蹴散らした。

 

「望みが絶たれたぁ!」

 

「伏せろ伏せろ!!」

 

「糞ぉ!俺の腕が!」

 

丘の上では死体が散乱し、負傷者は足があるだけまだマシだ。中には両手両足無いレイダーまで居るようで、地獄絵図が広がっている。

 

「このままじゃ、終わりだぁ!刺し違えてもぶっ殺してやる!」

 

その男はレイダー達を取り仕切るボスらしいが、身体中傷だらけだった。もし、ここで車を逃がせば、男はボスの座から引きずり下ろされて新たなレイダーの血塗られたオブジェになる。その前に車を破壊しなければならなかった。

 

「こいつでトドメだ!」

 

男が取り出したのは、outcastで製造されている簡易型ミサイルランチャーだった。outcastの歯車に雷が描かれているエンブレムがoutcasutの兵器工廠で製造された事を表している。前後の蓋を開き、バックブラストが出るチューブを伸ばし、発射ボタンのカバーを開けた。照準を押し上げて、車に狙いを付ける。

 

「死にさらし・・・・?」

 

ボタンを押そうとしたが、上から音がして空を見上げた。

 

ヒュウウウウゥゥゥゥ・・・・

 

男はそれに聞き覚えがあり、B.O.S.のナイトが持っていた武器のそれと同じだった。小型核弾頭を発射する、ヌカ・ランチャーだ。

 

「うわわわわ!!!お前ら早く逃げろぉ!!」

 

男は走るが、ミニ・ニュークの爆発には逃れることはできない。廃屋を元に作られたレイダーキャンプはそこにいたレイダーもろともこっぱ微塵に吹き飛んだ。

 

ヌカランチャーを構えていたシャルはガッツポーズをした。一発で敵を殲滅することは稀で、レイダーを殲滅した俺達は再びテンペニータワーへと進路を向けた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「え~と、テンペニータワーってここで合ってるよな?」

 

「ああ、合ってるぞ。テンペニータワーへようこそ」

 

車から降りた俺は立っていた民兵に何処に車を止めれば良いのか訊いて見ようとした。しかし、この前来たときとは様子が異なっている。嘗てのテンペニータワーは周囲に戦後の日本の焼け野原に作られたバラックを思わせる掘っ立て小屋が幾つも建ち並び、無法者が多くいた。彼らはテンペニータワーに入れると言う儚い夢があったものの、彼らの懐には100も満たないキャップだ。テンペニータワーの四方八方はコンクリートブロックでガードされ、タワーセキュリティーが巡回する。

 

だが、今は掘っ立て小屋の大部分が撤去されて、テンペニータワーの門が開きっぱなしになっている。門の内側には監視塔と思わせる櫓が設置され、レザーアーマーを着た兵士がスナイパーライフル片手に警備に当たる。門の内側にはドラム缶の火を囲んで、バラモンの皮を鞣した服を着た男達がイグアナを焼いている。前のテンペニータワーとは偉い違いだ。

 

「アリステア・テンペニーが殺されたからか?」

 

「ああ、タワー崩壊とも呼ぶべきなのかもな」

 

民兵によると、アリステア・テンペニーの暗殺から始まった。俺達がタワーを去ったあと、テンペニータワーでは混乱が起きた。何しろ、タワーのオーナーが死んだのだから。これに喜んだのが、住居者だ。何せ、金を払う人物がいなくなったのだから。しかし、これに困ったのがタワーを警備するセキュリティーである。彼らの大部分はタロンカンパニーの中でもまともな部類に入る兵士達だ。彼らは雇い主が亡くなり、給与が払われないことに不安を感じた。何しろ、テンペニーはウェイストランドでも謎の多き人物だ。どこを収入源にしているのか分からず、本当にイギリス人なのかも不明だ。住居者がセキュリティの分を賄うと言っても、セキュリティに取って彼らの財布とテンペニーの財布、どちらが重いと聞けば後者である。セキュリティはタロンカンパニーとの契約は解除され、テンペニーの私兵だったことが幸いして、彼らの足枷はない。セキュリティは武装蜂起し、タワーを占拠。チーフ・グスタホを筆頭にテンペニーよりも多額の入居代金が掛けられた。これにより、半数近くがタワーを追い出された。

 

これでセキュリティによるタワーの管理となるのかと思ったのだが、民兵は続ける。セキュリティに怒りを抱いた元住居者は外にいた入植者と結託、そしてD.C.に行こうとしていたグールを説得。フェラルグールを地下から侵入させる計画が再び成された。一回、フェラルを集め直さなくてはならなかったが。これにより、セキュリティーは全滅。残っていた富裕層もフェラルグールの餌食となった。こうして、タワーは門を開いて入植者を迎え入れたのだった。

 

「なんか、結果的にこうなってしまう運命だったのか?」

 

「さあな。でも、タワーはこれまで通り機能しているぞ」

 

「え?浄水設備とかもか?」

 

確か、ロイ・フィリップがタワーを占拠すると、水道は汚れ放射能汚染水となる。俺はそれを聞くと民兵は面倒臭そうに頭を掻きむしる。

 

「ああ。追い出された人間の中には技術者もいたからな。今は医者が不足している。あんたらに医者がいたら、少し診察してもらいたい」

 

「医者か。丁度リベットシティーに行く道程にここに寄ったんだが、少し位ならあいつもやってくれるだろう。そういや、武器商人と取引したくない?」

 

「ん?なんだって?」

 

民兵は首を傾げる。

 

「だから、トレードだよ。俺は武器商人だから色んな高性能兵器を取り扱ってる。中で売り捌いてもいいかい?」

 

「ああ、いいぞ。武器弾薬、防具なんてあまりないからな。」

 

タワーの争乱によって武器弾薬が消耗している。セキュリティの残した武器弾薬は数が少ないし、フェラルグールを掃討する時に弾薬が消耗した。今補給するに越したことはない。

 

「それにしても稼働する車なんて初めて見たぞ」

 

「だろうな、停めるところあるか?」

 

「ああ、そこの空き地に停めてくれ」

 

俺は運転席に移っているアリシアに合図を送り、車は空き地に到着する。

 

「20分ほど休憩。アリシアとジェームズさんはここをお願いします」

 

「行ってらっしゃい」

 

「タバコ二つとウィスキーを買ってきて」

 

「飲酒運転はちょっと・・・」

 

「大丈夫よ。あんたに飲ませないから」

 

アリシアの自由奔放に呆気に取られるが、あの重装備なら何とかなる。ジェームズさんは44口径マグナムで武装し、アリシアはアサルトライフルを持って運転席に待っている。これを襲撃する奴は居ないだろう。

 

「シャル、あんまり診察は出来ないから。急いでやって」

 

「分かった。」

 

ドクターバックを抱えてタワーの扉を開き、弾薬箱を抱えた俺が中に入った。タワーは前と来たときと同じように曲が流れていて、セキュリティに代わってアサルトライフルを持った民兵が辺りを巡回する。シャルは前に医者が詰めていた診察室に入っていく。俺は警備主任だったチーフ・グスタホがいたカウンターに歩いていった。

 

「ここの警備主任は・・・ってマイケルか?」

 

「おお!ユウキじゃないか!久しぶりだな」

 

オートバイと粗末なバラモンの服を着ていた以前の彼とは違っていた。コンバットアーマーにコンバットショットガンを携行した姿だった。彼とはウィスキーを飲んで話した仲だ。早々忘れるわけはない。

 

「ラジオでお前の活躍聞いたぞ!いやぁ、英雄の凱旋か」

 

「大袈裟だって。それにしても、ここの警備主任?」

 

そう聞くと、歯痒そうにして話し出す。

 

「まあ建前上はな。おれは知識はあんまりないからな、もっぱら武器弾薬の管理さ。そういや、武器商人だったろ?幾らか売れたり修理できるか?」

 

「まあ、色々出来るが5mm弾は切らしている。寧ろ、5mmは買い取りたい」

 

ミニガンを銃座にしたお陰か、かなり5mm弾が消耗している。まだ少しあるが、出来れば売らないで、買い取りたい。

 

「ああいいぜ。武器庫に案内してやる。こいよ」

 

マイケルは席から立ち上がり、嘗て服屋のあった場所に移動する。

 

「ここってオカマ野郎の店だったよな?」

 

「ああ、奴はグール嫌いだからな。今じゃフェラルの胃袋の中だ。」マイケルはそう言い、店一杯に置かれたガンケースと弾薬箱、作業台を見せる。そして経理のクリップボードを出して商談を始めた。

 

「修理して欲しいのが、アサルトライフル20挺にスナイパーライフル5挺。購入したいのがミサイルランチャー二基に、ショットガンが5挺と10mmピストルが3挺か。弾薬は5.56mmが2000発に308口径が1000発、10mmが500発だ」

 

「かなり多いな」

 

「全部出してほしいとは言わんさ」

 

修理するのは時間的に無理だろう。多分アサルトライフルが多いのはセキュリティの遺品があるからに他ならない。弾薬や購入する武器はどうにかなる。

 

「修理は時間がないから省かせて貰おう。だけど、時間がある時に出来たらまたよるよ。ミサイルランチャーは取り揃えてる。ショットガンは2挺がコンバットショットガンで残りの三挺はモスバーグ590になる。ピストルは用意できるし、弾薬は出せるな」

 

「ん?手持ちはその弾薬箱じゃないのか?」

 

マイケルは俺の手提げの弾薬箱を指差す。

 

「いや、これは5.56mm500発だけど?」

 

「じゃあ、他の武器は?」

 

マイケルは怪訝そうな表情を浮かべる。しかし、俺はpip-boyを開いて、ミサイルランチャーとショットガン、ピストルに弾薬箱を取り出した。取り出したと言うよりも勝手にpip-boyから出てきたと言える。

 

「床に無造作に出された商品を見て、マイケルは驚愕の表情で俺を見る。」

 

「どどどど、何処から?!」

 

「これから?」

 

「pip-boyからか!」

 

マイケルは更に驚く。俺はミサイルランチャー以外にもoutcast兵器工廠で作られた簡易型ミサイルランチャーも取り出す。アサルトライフルも幾つか出すが、全て買うとは思っていない。

 

「それにしても品質が良すぎやしないか?」

 

マイケルは俺の出した銃器を見ながら言ってくる。

 

「俺の店は品質良いのしか使わないから。これらを合計して4560キャップだね」

 

「うーむ、高いな」

 

「あんだけ高いの羅列したら高くなるさ。」

 

俺は腕を組むと、取り出したスナイパーライフルを構え、捨てていないマネキンに向けた。

 

「拠点はメガトンだから・・・。だけど、武器製造が出来ればなもっと安くなるんだけど」

 

「武器製造までやるのか。・・・警備兵から聞いたんだが、稼働する車で来たそうじゃねえか。あれを使って武器販売とかしないのか?」

 

「キャラバンみたいにか?」

 

ウェイストランドで名高いのが、ラッキーハリスの武器キャラバンだ。その他にもカンタベリーコモンズ系列の商人がバラモンを足に移動している。もしも、俺達が車によるキャラバン営業を始めれば、向こうの商売上がったりだろう。

 

「やってみて損はないと思うが?」

 

「商売敵を増やすし、俺にそんな余裕ないよ。言っておくけど、ミサイルランチャー撃たれたら終わりだぞ」

 

ミサイルランチャーは戦闘機や戦車など陸空オールグラウンドなミサイル兵器だ。今ではミサイルランチャーの大部分が誘導装置が壊れているものの、戦車を破壊する威力は秘めている。

 

「無敵だと思ったのに」

 

「物には何処か弱点はあるものさ。さて、どうする?」

 

「4400キャップ」

 

「いいや、4560」

 

「4450」

 

「だめだ、4500」

 

「4460!」

 

「わかった4470でけりをつけよう」

 

こうして、大口の取引が成立した。

 

 

反対側の雑貨店でウィスキー二つとタバコを一ケース、その他食糧を買い、シャルのところへ行った。

 

「では口を開いてください。あーん」

 

「あー・・・」

 

「粒状の泡腫が出来ていますね。これは免疫力の低下で起こるので、伝染病では無いですよ。バファウトと幾つか戦前の抗生物質を処方します。用法はしっかり守ってください。」

 

最後の診察が終わったのか、ここに前からあった白衣を着たシャルは患者からの支払いを受け取って、大きく延びをした。

 

「終わった?」

 

「5分に二人よ。誤診するかもしれないと冷や冷やした。」

 

疲れた様子で椅子にもたれ掛かるシャル。俺は後ろから覆い被さり、顔を耳元に近づけた。

 

「え!ユウキ?」

 

「疲れたんだろうなと思って。」

 

後ろから覆い被さることが果たして疲れが取れるのだろうかと聞かれたら、Yesとは答えられない。だけど、シャルは俺の手を掴み、微笑んだ。

 

「ありがとう。疲れが取れた」

 

髪から漂う香りを堪能するが、ふと殺意の混じった視線を感じる。顔をその気配に向けると、今にも殺しそうな目をしている男達の姿だ。

 

「え・・・えっと・・・、ごめんなさい。イチャイチャするのは他でします」

 

彼らはフェラルグールを掃討するときに怪我をした傭兵である。彼らはそれなりに経験があるし、大人の階段だって登ってる。だけど、幸せそうなカップルにジト目を向けるのは当然だ。

 

「シャル、もう終わったのか?」

 

「うん、じゃあ私の言いつけ通りにしてくださいね」

 

「「「はーい!!!」」」

 

一刻も狂わない返事。彼らの目にはまるで可愛らしい動物を見るような感じ。そう、彼らはシャルを見て英気を養っていたようだ。

 

「じゃあ、ユウキ帰ろ!」

 

俺を置いてシャルは診察室を出ていく。すると、男達の目線は俺へと向かい、その目には怒気と憎悪が折り混ざっている。

 

「なんであんな奴がシャルロットちゃんと・・・」

 

「あの野郎・・・!」

 

「目の前であんなことを・・・許せん!」

 

男達は今にも動きだし、俺を殴ろうとする勢いである。だが、偶然にも俺は彼らの感情がわかった。偶然というか必然である。おれは彼らのことを見て考えた。

 

ハハハ、こいつら昔の俺じゃん・・・・。

 

 

エントランスを巡回していた民兵の数名は鬼のような形相で追いかける怪我人と必死に逃げ惑う東洋人の姿を目撃したと言う。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「はぁ~・・・まさか、ファンクラブまで出来てるとはね」

 

テンペニータワーの怪我人に殴られた頬を撫でながら、ハンドルを動かす。どうやら、テンペニータワーの外周部にいた男達は女の子成分が不足していたらしく、シャルが来たお陰でそれは補完された。しかも、彼らはシャルのような女の子を見たことがなかった。そんな子が親身になって診察してくれるのだ。見た目も幼く、彼らは彼女を守らなくちゃならないと思うようになる。そして、俺のような存在である。見た目からしてみれば、ひょろひょろなもやし君である。ごついウェイストランド人(個人差もある)と比べれば、頼りない。そんな男とシャルが一緒にいれば、変な虫がつかないように追い払うのである。つまりその虫は俺なのだ。

 

「シャルちゃんは可愛いから。」

 

隣に座っていたアリシアは俺が持ってきたコンバットヘルメットに暗視ゴーグルを着けている最中だ。まだ空は夕暮れ時でまだ視界は確保されている。しかし、良さそうな野宿場所を見つけないと、夜でも走らねばならないだろう。

 

「国立図書館からペンタゴンに回ってリベットシティーに行けると思ったのにな。道中のレイダーを相手にして殲滅するから遅くなっただろう。」

 

「仕方がないじゃん。こいつはレイダーにとって奪えば最強の武器になり得るんだ。俺達が何処へ行こうとも追ってくるよ」

 

実際、レイダーは何がなんでも手に入れるつもりなのか、撃っても撃ってもキリがない。逃げ切って一段着しても、他のレイダーが、それか追撃してきた執念深いレイダーまで現れる始末。どの道、出逢う敵を片っ端から凪ぎ払う武器は持っている。

 

「だが、弾薬ももうそろそろ尽きるぞ」

 

「リベットシティーまで行ければ良いんだ。ここら辺のレイダーのねぐらは余りないだろう。この前、リベットシティーの酒場で聞いてきて助かった」

 

ダッシュボードの中にある古い地図を指差す。そこにはリベットシティーの酒場や食堂で得た情報を書き記した地図が入れてある。どっかのスカベンジャーや傭兵、カンタベリーコモンズの商人達にも話を聞いた。最初はウィスキーをおごって情報を得ていたが、地図の情報量が半分に差し掛かると、情報を交換しながら地図を作成し始めた。地図には詳細なレイダーキャンプやスーパーミュータントの根城、賞金稼ぎのヒットマンに狙われるポイント、BOS前線基地、戦闘地域が書き加えられた。最後にフラックが地図の情報を全部見せろとせがまれたので、次来るときに画策している事に加えろと、C4を山ほど使って尻を火星まで吹き飛ばすと脅しを掛けて情報を見せた。どうなるか分からないが、フラックがよからぬ事を企んでいるのは明白だ。

 

「それにしても、この地図は売れば金になるな。私に売ってくれ」

 

「やだ」

 

「身体で支払うから♡」

 

「俺は良いかも知れんが、あとでジェームズの北斗百烈拳とシャルのメスでめった刺しになる。俺はまだ死にたくない。」

 

ふと、後ろの方からミニガンの回転音が聞こえたが、銃声もレイダーもいない。・・・・何でだろうね?

 

「よし!出来たっと。・・・どれどれ」

 

そんな俺の気苦労も知らず、アリシアはコンバットヘルメットの暗視ゴーグルを調整する。国立図書館を通りすぎようとしたその時、アリシアは暗視ゴーグルを図書館の反対側にある廃墟に向けた。

 

「ん!あれは・・・み、ミサイル!」

 

アリシアの叫びに俺はとっさにその方向を見る。廃墟からのバックブラスト炎。発射されたミサイルは真っ直ぐにこちらに接近していた。

 

「捕まれ!!」

 

アクセルを踏んで、ハンドルを切る。車体は傾き激しく揺れる。それが功を奏したのか、ミサイルは助手席側のタイヤ付近に命中する。爆発の衝撃で傾いていた車体は更に傾き、片方の車輪が宙を浮く。体勢の取れなくなった車はその場に横転した。スピードに乗った車は数m路面を側面にこすり、停車する。俺は衝撃で意識は一瞬飛ぶが、耳鳴りのする耳を押さえて自分の体を確認する。

 

「右足、左足よし。両手よし。首のしびれはない。」

 

自分の手足が繋がっている事を確認するが、レザーベルトのシートベルトをサバイバルナイフで切り取って、体の自由を確認した。

 

「アリシア?おい・・」

 

助手席には、レザーベルトのお陰で座席に座ったアリシアが傷だらけの状態で宙吊りになっていた。

 

「アリシア・・・死ぬなよ」

 

首に中指と人差し指で触ると脈があることが分かった。だが、脈拍は弱く、急いで処置をしないと死ぬかもしれない。意識を失ったアリシアを抱えながら、サバイバルナイフでレザーベルトを切り裂いた。身体に押し掛かる体重はそこまで重くはない。だが、鼻につく血の臭いに危機感を募らせる。

 

一度足元に横たえて、彼女が持っていたアサルトライフルを持って閉まっている防弾鉄板を開ける。

 

「クソ!・・・シャル!ジェームズさん!」

 

俺は後ろに叫び、アサルトライフルを構えながら荷台に走る。そこには足を怪我したジェームズさんとそれを見るシャルがいた。

 

「よかった、無事だったか」

 

「ユウキ、頬から血が!」

 

頬を触るとベットリと血が着いていた。だが、この血は俺の血ではなく、アリシアのだ。

 

「ジェームズさんの足は?」

 

「大丈夫、少しだけヒビが入っているけど。アリシアは?」

 

「俺達より数倍ヤバい。すぐに手当てしないと手遅れになる。すぐ来てくれ」

 

「私は中のBOSに助けを求めよう。二十年前の疫病神と嫌われるだろうが、人が死にそうなのに構ってられない」

 

ジェームズの近くの壁にはbrotherfoot of steelのエンブレムが描かれていた。最近、書かれた物らしい。俺はジェームズが図書館に入って行くことを見届けて、すぐに運転席近くに倒れているアリシアまでシャルを連れていく。アサルトライフルを周囲の廃墟に向け、レイダーがいないか確認する。さっき撃ってきたのは十中八九レイダーだ。なら、バットやナイフを持ったレイダーが来てもおかしくない。

 

「アリシア!・・・・数ヵ所に内出血と骨折。ここじゃ治療できないから、荷台の影に連れていこう!」

 

怪我の確認したシャルにアサルトライフルを渡し、アリシアを車内から引きずり出した。落ちていたM3ショットガンを拾い上げて肩に掛けると、運び出すために持ち上げて所謂お姫様抱っこをする。案外、軽く急いで車の影へ横たえた。

 

「脈が弱い・・・。急いで処置しないと!ユウキは外を・・・キャッ!」

 

言い終える前に車に数発の銃弾が命中する。銃が弾ける音が響き、俺は持ち変えたアサルトライフルの弾倉を装填し、ボルトを引いて機構内に次弾を送る。

 

「シャルはここでアリシアを治療しろ!俺は向こうで二人を守る。」

 

丁度10mも満たない場所に同じような構図で事故を起こした車が放置されていた。その車はトラックにいるシャル達を守るのに丁度いい。シャルにM3ショットガンを渡し、散弾を幾つか手渡した。

 

「え、でも」

 

「今聞こえたのはアサルトライフルだ。敵は中距離に位置している。接近されたら、全員あの世行きだ!」

 

腰のポーチから破片手榴弾を取り出して、ピンを抜く。適当に離れたところに投げ、爆発する。

 

アサルトライフルを走りながら撃ち、トラックと同じように横転した自動車の横に隠れる。少しだけ体を出して、アサルトライフルの引き金を引いた。フルオートで発射された5.56mm弾はレイダーのいる遮蔽物に命中する。薄い板であったため、壁に隠れていたレイダーは貫通した弾に命中し、絶命した。

 

「殺人タイムだ!」

 

「今日の晩飯だ!やれぇ!!」

 

手には血みどろのバットや古びた中国軍将校の剣、スレッジハンマーで突撃してきた。

 

「来いよ!相手してやる!」

 

弾倉を交換し、接近してくるレイダーの胸に二三発の銃弾を浴びせて沈黙させる。振りかざしてきた中国軍将校の剣を避けて、銃口に着けていた銃剣を腹にぶっ刺した。

 

「痛い!痛いぃ!」

 

「じゃあ楽にしてやるよ!」

 

引き金を引いて銃の反動によって、レイダーは吹き飛び、血が俺のアーマーに飛び散る。

 

「野郎っ!」

 

仲間を無惨に殺された怒りか、バットを持っていたレイダーはバットを振り上げて俺の頭目掛けて降りおろした。咄嗟にアサルトライフルで防御するが、予想していたのかレイダーは蹴りを俺の腹に食らわせた。

 

「死ねぇ!」

 

止めの一撃を仕掛けようとするレイダー。地面に倒れた俺はホルスターから10mmピストルを抜いて引き金を引いた。数発の銃弾がレイダーの胸に命中し、絶命する。急いで立ち上がり、アサルトライフルを構えようとするが、排出口が折れ曲がって弾詰まりを起こしそうになっていた。

 

「畜生!」

 

pip-boyからMOD武器であるSCAR-Hを取り出し、308口径弾の詰まった弾倉を装填する。周囲にはまだレイダーが居て、こちらに銃撃を加えているが、銃の精度かレイダーが下手くそなのか全く当たらない。セレクターをフルオートにし、引き金を軽く引いて三発の銃弾が発射される。5.56mmのような小口径ライフルではなく、308口径の大型ライフル弾であったために、肩にこれまで以上の衝撃が伝わった。そして大口径だからか、レイダーの後頭部は銃弾と共に吹き飛んでいった。

 

「威力めっちゃあるじゃん」

 

mod武器の高性能に歓喜しながら、銃のサイトにあるホロサイトの倍率を挙げるマグニファイアを下ろして、近くの廃墟を覗き見る。

 

数人のレイダーが何かしているのを発見し、腰を落として銃を車のボンネットに乗せて狙いを付けた。セレクターをセミオートにして引き金を引くと、レイダーの一人は腰に命中し、視界から消えた。

 

「窓から見えるようにするからだ。アホが」

 

空になった弾倉を交換し、レイダーを目撃した場所を再度見やる。人影はなく、そこにいたレイダーは姿を現さない。仲間が殺されたのを見て急いで逃げたのだろう。これでレイダーを全て掃討したに違いなかった。

 

「シャル、大丈夫か?」

 

「うん・・・・・屋上にっ!」

 

シャルは屋上を指差し、そこにはミサイルランチャーを構えるレイダーの姿を捉えた。

 

「ちっ!」

 

軽く舌打ち、ホロサイトの点をレイダーに合わせて引き金を引いた。高速で撃ち出された弾丸はレイダーの肺や脊髄を撃ち抜く。だが、レイダーはそこで終わらなかった。一秒も満たないが、レイダーは最後の力を振り絞り、ミサイルランチャーをユウキに向けたまま引き金を引いた。引き金と共に電気信号が流れ、ミサイルの燃料が点火する。200年保管されたにも関わらず、燃料は燃えてミサイル後部からブラスト炎が飛び出し、射出口からミサイルが撃ち出された。

 

「シャル、伏せろぉ!!」

 

シャルの元へ走り、意識不明になっているアリシアやシャルに覆い被さる。ミサイルは俺が元いた横転した車に命中し、爆発を引き起こす。車の破片が周囲に飛散し、爆風と共に破片が背中に突き刺さった。刺されるような痛みではなく、バットで背中を殴られたような衝撃だ。

 

「くっ!!」

 

着ていたセキュリティーアーマーの背の部分には無数の破片が突き刺さっているものの、防弾プレートが防ぎきっていた。

 

「行くぞぉ!野郎共!」

 

「皆殺しだ!」

 

かなりの戦力を有しているのか、鈍器を片手にこちらに奇声を上げて接近してくるのは紛れもないレイダーだ。

 

「これで最後か?」

 

シャルの手元にあったM3ショットガンを拾い上げ、安全装置を外して引き金を引いた。12ゲージスラッグに収まっていた無数の1mm程度の球体が接近していたレイダーの顔面に命中した。肉を引き裂き、骨を絶つ。レイダーは声を挙げることもなく、絶命する。更に、来るレイダーに引き金を引き、胴体を蜂の巣にした。最後の弾を撃ちきり、10mmピストルに持ち変える。

 

「ハッハ!死にやがれ!」

 

車の影に隠れていたのか、コンバットナイフを持っていたレイダーは飛びかかるように俺に突貫してきた。ピストルは衝撃で弾かれ、レイダーは俺に馬乗りになった。

 

「今日は貴様の腸でウィンナーを作ってやるぜ」

 

レイダーはナイフを降り下ろそうとするが、頭を狙っていた為に一撃は避ける。代わりに胸元にあったナイフをレイダーの喉に向けた。

 

「ハッハ!貴様の手が届くのか?それで精一杯だろ?」

 

レイダーは俺の腕までも押さえているためナイフを奴の喉元にぶちこむことは出来ない。

 

「そんなことは必要ない」

 

「何だと?」

 

持っていたナイフに仕組まれたボタンを押す。強いバネは金属製の留め具で押さえられていた。だがボタンを押され、留め具は解放される。バネは強力な瞬発力によってナイフの刃を発射する。銃弾よりは幾分か遅いが、人を殺すには十分な威力だ。レイダーの喉元に突き刺さり、口から赤い泡を吹いて倒れていく。

 

10mmピストルの弾倉も残り少なく、図書館の壁にもたれ掛かった。腕に熱を帯びるような感触がし、上腕には人差し指大の穴が空いていた。

 

「痛いじゃないか・・・」

 

いつ撃たれたか記憶にない。それを気にせずポーチから残りの弾倉を手元に置き、腰にある手榴弾を触る。手榴弾の残りはたったの一発。こいつは最後の最後にとっておこう。レイダーになんて食われたくないし、シャルに指を触れさせやしない。だが、いざとなったら・・・・。

 

強い視線を感じて、その方向を見る。怒っているのか泣いているのか、目に涙を浮かべるシャルの姿だった。右手にはスティムパックと左手には10mmピストル。

 

「・・・・女の子に良いところを見せなきゃな!」

 

諦める?そんなことは許されない。手榴弾で最後は皆でなんて虫が良すぎる。何で諦めようとする?まだ、生き残れないとは限らない。

 

10mmピストルを構え、迫り来るレイダーに銃口を向ける。数はさっきよりも多く、一人では守りきれない。だが、ここで諦めて何が男だってんだ!

 

「絶対、諦めるもんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

「良く言った、兄弟!」

 

隣からぼやけた人の声がし、俺は視線を横にふる。そこにはT45dパワーアーマーを着た兵士達が重火器を持っていた。それらは突撃するレイダーを捉え、いくつかのミニガンは回転し始めていた。

 

「兄弟達よ、奴等に我らの鉄槌を!」

 

「「「「URAAAAA!!!」」」」

 

訓練された精鋭兵の咆哮が上がり、レイダーは恐怖する。

 

鋼鉄の兄弟、Brotherfoot of steelの鉄槌がここに落とされた。

 

 

 




SCAR-Hは某newvegasMODで愛用しているものから参考に登場させました。多分NVやっている方多いはず。PCMODでは高品質テクスチャなのでよかったら是非探してみるといいです。


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