fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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ちょうど一日に投稿できました(^O^)

本当は十月にやるつもりだったんですがすっかり忘れてましたorz




第四章 The Waters of Life
二十一話 Tranquility Lane


日がコンクリートを照らし、道は水分すらない荒涼とした地面。文明が進んだ現在においてそれらは逆に人を住みにくくする欠点にしているだろう。車を走らせるためにコンクリートで舗装する代わり、黒い大地が日光を吸収して周囲を熱する。石油を使用する自動車は大気を汚して、地球温暖化を引き起こしていく。だが、石油を使用する自動車の役割はこの半世紀を見る限り、大きなものであると理解できよう。人類が作り出したものは大抵、人の繁栄の為に作られ、地球を破壊するのが殆んどだ。それは原子力も同様で、原子分裂が分かった人類はそれらを科学と未来の為に使用した。だが、それらは軍事に必ず利用され、大国は神の御技を駆使して大陸弾道弾を敵国に向けている。これがもたらすものは破滅のみ。どちらかが戦争以外で政権崩壊を起こすか、どちらも剣を交えて共倒れするかのどちらかだ。

 

「アキヤマ伍長、聞いているのか?」

 

 

そんな、世界が危機的状況を迎えている今日でさえ、俺は軍の公用車を使用して、上司を目的地まで案内する。アメリカ東海岸の中層階級の多い住宅街を通り、目的地であるブロックへと進んでいた。

 

「すみません、ロドリゴ少尉。少し考え事していたみたいで。どうしました?」

 

運転席の後ろに座る、一本棒の入った少尉の階級章を着けた女性士官は、やや不機嫌な顔をしていた。経歴は深く知らないが、目の前のヒスパニック系のセリア・ロドリゴ少尉は陸軍士官学校を卒業し、情報科に配属されたらしい。だが、そこで上司のセクハラに遇い、裁判沙汰を起こした。結局、裁判には勝ったが、左遷。士官学校に入る前に取得していた教員免許のお陰もあってか、陸軍幼年学校に配属された。ヒスパニック系の色気のある褐色の肌とモデルとも見間違えるプロポーションの良さはハリウッドにも負けはしないだろう。唯一の欠点は男勝りな所だが、まあ良しとしよう。

 

「君は第82空挺師団に所属していたそうだな。なぜ、幼年学校何かに?」

 

幼年学校。10歳から17歳の少年に軍事教練を施す陸軍学校である。一般的な教養の他に、歩兵の基礎知識や士官候補、下士官候補になるための教育を受ける所だ。数は少ないが、東海岸に幾つかある。最近は入隊者も少ないが、それはアンカレッジ前線も影響してだろう。

 

俺は元第82空挺師団だった。師団は第二次大戦から活躍する落下傘兵の精鋭部隊である。アンカレッジでは中国軍の山岳部隊やクリムゾンと呼ばれる特殊部隊とも戦った。だが、俺は途中で戦線を離脱した。

 

「そうですね、長い話と短く要約したのとどっちがいいですか?」

 

「短いので頼む」

 

こいつ、人の話を短くすませようとする気だな。だが、曲がりなりにも上官。

 

「自分は元々、軍曹だったんです。82空挺では軽歩兵連隊で分隊長の補佐をしていました。初めは上手くやっていたんですよ」

 

銀色の雪景色に硝煙。飛び散る仲間の血潮に中国兵の突撃。寝付きの悪い日には夢にも出てくるかつての戦場。それでも、訓練を共にした仲間がいた。全員で生き残り、故郷に戻って酒を飲むという約束までした。だが、中隊司令部が攻撃されて、人望の厚い一人の上司が戦死した。そこから何もかもおかしくなった。新しく入ってきた中隊長は作戦の功績を追い求めるクソ野郎だった。部下を使い捨ての駒としてしか見ていない指揮官。後先考えない指揮は部隊に危険を招いて負傷者を増やし、やがて死傷者を出した。また一人、また一人と戦友が傷つく事を俺たちは良しとしなかった。小隊長を中心とした十数名の士官と下士官達は上告書を大隊本部に提出した。しかし、如何に無能な指揮官であろうとも、指揮官下ろしは「反乱」にも等しい行いだった。約20名の士官と下士官が軍法会議に掛けられた。小隊長クラスの指揮官は銃殺刑、分隊長は懲罰大隊に転属。そして、俺は幼年学校の警備主任を任された。

 

「そうか、すまない」

 

「何を謝る必要あるんですか?兵隊なんてそんなもんです。本来なら、反乱罪で死刑ですよ。降格して左遷なんだから、軽蔑して然るべきですよ」

 

主犯格なら死刑だった。俺は下士官だったからよかったものの、あの中隊長のせいで犬死にするのは勘弁して欲しい。

 

「いや、その中隊長は士官だったのだろう?出来損ないを君の部隊に配属させてしまったのは、我々上官の責任だ。すまなかった」

 

少尉は申し訳なさそうに謝る。だが、彼女の責任ではない。士官全員の連帯責任という訳ではないのだ。

 

「謝らないで下さい。兵士という手前、有能な指揮官の下で働けるのは本望ですが、基本的には上官を変えて欲しいなんて口が裂けても言えないのが原則です」

 

「・・・そうか・・・、ならいいんだ」

 

歯切れの悪い言い方をする少尉を見て、俺は怪訝そうな表情になりながらも住宅地の外れにある場所へとハンドルを握る。

 

「今回の子供はどう思う?」

 

「どう思うと言われましても・・・、ファイルは見てないので。それに、自分は判断する立場にないですよ」

 

「なら、ファイルを見せよう」

 

どうしてそ俺ではなくこまでして俺と話したがるのかなぁ。

 

内心、俺は後ろの少尉は一体何がしたいのかと首を傾げたくなる。さっきから聞いてきたり、生徒の個人ファイルを見せたり。警備主任であるところの俺は彼らに銃器の使用方法などを指導する立場にあり、個人ファイルを見ることは出来る。しかし、生徒を入学する上での審査は俺ではなく、士官の担当官に委ねられる。それは後ろの担任教師である少尉殿の管轄だ。

 

運転する手前、後ろ手で書類を貰い、膝の上に書類を乗せる。

 

「“ティミー・ネウスバウム、十歳。成績は中の中、性格は明るいが弱虫。家族を愛するが母親への依存が激しい。・・・・・会ってみないと分かりませんが、たぶん無理かと」

 

「どうしてだ?」

 

「文を見る限り、根性がありません。それに学校の雰囲気が彼に合うか微妙なラインです」

 

書類に書かれた事が本当なら、彼は学校に適していないだろう。学校での任務を一年もしていると、それぐらいは分かる。他の道でも上手く行ける子供に幼年軍事学校を進めるのは、可哀想に思うだろう。

 

「こればかりは両親と話さければな。それとティミー君に会わないと」

 

「幼年学校には不向きありますし、このご時世に“幼年学校中退”は不味いです」

 

住宅街を走り、看板が目に留まる。

 

『トランキルレーン』

 

その文字を見て何かを思い出しそうだったが、道に何かが動き、直ぐにブレーキを踏んだ。住宅地なら子供が飛び出してもおかしくない。急なブレーキだったため、体が前に飛びそうになり、車は揺れた。

 

十歳位だろうか、ダークブラウンのお下げに色白い肌。黄色のワンピースを着た女の子が車に驚いていた。その容姿に見覚えがあると思ったものの、直ぐにその女の子は住宅地のボロボロの家に駆けていく。その家がその子の家なのかと驚いたが、後ろに座っていた少尉が座席にいないことに気が付いた。

 

「あれ?少尉?」

 

体を後ろに向けてみると、座席下の足置きに転がる少尉の姿があった。

 

「あれじゃない!いきなりブレーキをかけるな!馬鹿者」

 

「すみません、女の子が飛び出してきて」

 

すると、少尉は俺の頬を指で摘まみ引っ張った。

 

「それを予期するのが伍長の役目!」

 

「痛いですって!痛い!」

 

「全く!」

 

少尉の怒りは収まらず、目的地であるネウスパウム家の玄関前に来た後も若干不機嫌だった。

 

「伍長、一緒に来て。学校の雰囲気については詳しいから」

 

「Yes,sir.」

 

運転席を降りて、基地から乗りっぱなしだった血行の良くない足や尻を少し揉んで軍服を直す。軍の公用車が盗まれるのは不味いので、鍵を閉めておく。

 

少尉は呼鈴を鳴らし、ドアが開くのを待った。すると、家の中で声がして中から白人の男性がドアを開けた。

 

「どうも、ジョージ・ネウスバウムです。」

 

「いえ、此方こそ。陸軍幼年学校のセリア・ロドリゴ少尉です。」

 

「ラミレス・アキヤマ伍長です」

 

俺も空気を読み、ネウスパウム氏と握手を交わす。彼は少尉と俺を家の中に案内する。後ろで男の子が大泣きしているが見てみぬ振りをして、家の中に入った。家はアメリカ中流家庭で見掛けるような内装の家で、近くにあったソファーに腰掛ける。ネウスパウム氏は台所から紅茶のセットをこちらに持ってきた。

 

「すみません、いつもは家内が入れてくれるのですが」

 

「お気になさらず。夫人はどちらに?」

 

「家内ですか、彼女ならレモネードを息子と作っている筈です」

 

「息子さんは外で泣いていましたよ」

 

俺は場違いなセリフを言って、セリアにジロリと睨まれる。しかし、ネウスパウム氏は又かと溜め息を吐いた。

 

「あの子は少々泣き虫なのです。つい最近も犬に噛まれて大泣きしていましたし」

 

「えぇ、それはそれは」

 

俺はそれを聞き、学校に入学して大丈夫だろうかと思う。もしかしたら、同じクラスで虐めに遭うだろう。ここで辞めさせとかないと、ティミー君が可哀想だ。

 

「泣き虫を克服するためにあの子を陸軍学校に入れようと?」

 

セリアは怪訝な表情を浮かべ、此方をちらりと見る。それは“よくやった”と言うよりも、“これを予期したのか?”という疑問の目を浮かべていた。

 

「ええ、家内は反対しましたが。ですが、息子のためにはそれがいいと」

 

ネウスパウム氏は立ち上がり、窓越しからレモネード売りをしている息子と夫人の方を見る。彼は彼なりに息子を心配しているが、弱虫だからと虎の穴に入れるのは如何なものだろうか。腐っても兵士、反乱紛いなことをしても、俺は彼の息子を軍に入れても余計悪化することを伝えなければならない。

 

「ご主人、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「ん?なんでしょ・・・・」

 

ネウスパウム氏が振り返ったその時だった。

 

急に外から銃声が鳴り響き、窓ガラスが割れて周囲に飛び散った。窓の近くにたっていた彼は背中に幾つもの銃弾を浴びて床に倒れる。持っていた紅茶が絨毯に溢れ、彼の血も染み込んでいった。

 

「伏せてっ!」

 

少尉を庇うようにソファーをひっくり返して床へ押し倒す。これが、夜中のロマンチックなシーンなら良かったものの、場所は硝煙の立ち上る銃撃戦だ。ホルスターから10mmピストルを引き抜き、銃撃が終わるのを待つ。スライドを引いて次弾を確認して、息を整える。久々の実戦に若干緊張しているが、俺の下敷きになっている少尉を守らないと行けなかった。

 

「少尉、俺の後について援護を頼みます。銃は持ってますよね?」

 

「ああ、ここにある」

 

9mmピストルを取り出し、少尉はスライドを引く。すると銃撃が終わり、俺は屈んでドアの隅に体を寄せた。すると、ドアが開き、中国軍のアサルトライフルの銃口が顔を出す。そして、迷彩服を着た中国兵が中に入る。咄嗟に10mmピストルを中国兵の顔面に向けて引き金を引く。眉間に銃弾が放たれて兵士は壁に脳奬をぶちまけた。兵士はそのまま、重力にそって倒れようとするが俺は首元を掴んで盾にするように後ろへ引きずる。ドアの外に2、3発撃ち、ソファーの方へ中国兵を投げた。

 

「わつ!ちょっと伍長!」

 

いきなり敵の死体を投げられて驚いた少尉だったが、俺はソファーまで行くと中国兵が持っていたアサルトライフルを掴んだ。チャンバーに次弾が装填されていることを確認して、換えの弾倉を軍服のポケットにねじ込んだ。

 

「少尉、これを渡しておきます」

 

中国兵の服をあさっていた時に出てきた中国製の手榴弾であった。少尉はそれを受け取ると、ポケットにしまう。俺はもう一つあった手榴弾のピンを引き抜くと、窓から道路へ投げ入れた。中国語の叫び声のあと爆発する手榴弾、俺はドアを開くと一気に外へと飛び出した。

 

引き金を引き絞り、5.56mm弾が発射されて軍の公用車に隠れていた中国兵の頭を吹き飛ばし、逃げようとしていた中国兵の背中に無数の穴があいた。公用車に隠れると、銃口を周囲に向けて警戒しようとした。

 

「中国の・・・・ってあれ?」

 

おれは周囲に銃口を向けるが、違和感があることに気づいた。誰ひとりとして、俺たちの事を見ておらず、中国兵は民家の方へクリアリングを行っていく。仲間を撃ったアメリカ人がいるにも関わらずである。

 

「伍長、これをみて」

 

少尉の驚いた表情で先ほど撃ち殺した中国兵の死体を指差す。それは背中に四発ほど小口径ライフル弾が命中した中国兵の死体だったが、まるで体中に電流が走るような激しい痙攣をしつつ、体が薄くなり消えてしまった。これは腰が抜けてその場に経たりこんでしまった。

 

「一体どうなっていやがる」

 

「どうにもってここはシュミレーションだって分からないのかしら?」

 

まだ、幼い女の子の声。銃声が幾度となく響き渡るこの住宅地で、平然と喋るピンク色のワンピースを着た女の子が中央の広場に立っていた。

 

「シュミレーションだって?」

 

「君たちがこの世界に来てから、ちょっとしたプログラムを掛けさせてもらった。自分たちを本当のアメリカ軍人に信じさせるためのな」

さっきの女の子の声から一変して壮年の男の声に変わり、俺は持っていたアサルトライフルを女の子の姿をした何者かに向けた。

 

「おいおい、君がもし撃ったとして私が死ぬとでも思っているのかい?・・・全く、あの小娘のせいで私の楽しみが台無しだ!!」

 

その顔は先ほどの少女ととは違い、私欲と憎悪に塗れた醜い大人の顔であった。普通ならこの場で撃ち殺してしまうだろう。だが、あまりにも奇妙で何が起こるかわからないものに銃を撃つことは危険だった。目の前にいるものがなんであれ、普通ではないのは確かだ。

 

「信じさせる?」

 

「そうだ、ここの住民はここが仮想世界だと思わせるために暗示と記憶の改竄を行っている。まあ、それが出来ない例外もいるさ。だが、君たちは案外記憶の上塗りはよくできたと思うぞ。この世界から出れば、悪い夢としか映らんだろうがな」

 

すると、少女の姿をした人物は滑り台の近くに来ると、指を鳴らす。すると、白い扉が現れた。何かの手品か冗談の何か。それとも悪夢なのか。俺は銃を向けるのすらやめてしまった。

 

「さて、現実に帰るか。この世界より現実のほうがいいと思うのか?あんな世界を生きるよりはこの世界で生きていたほうがよっぽどいい。さらばだ、ウェイストランド人」

 

その言葉を最後に白い扉のドアノブを掴み、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「なんで命令違反して降格になった元落下傘兵なんだろ。正直、芸が細かすぎるわ!」

 

シュミレーションが終わった後、感じるのは胸の奥にある気持ち悪さと胃の中にある違和感だ。あのスタニラニウス博士があの空間を作ったとしたら、何処かの舞台作家になれるに違いない。新参者の俺にあんだけの情報を上書きしたのだ。天才の片鱗を垣間見た気がした。

 

「ごめん、シャル。ちょっとトイレ行ってくる」

 

心配するシャルをおいて千鳥足の一歩手前の足取りでトイレに目指す。シュミレーション酔いか、シュミレーション座席から降りた俺は胃の中のものを吐き出しそうになっていたが、俺は我慢してトイレに行って吐く。vaultの内部構造は殆んど似通っているから、直ぐにトイレに着いた。

 

「は~・・・、伍長大丈夫か?」

 

「少尉殿?・・・アリシア、それもういいよ」

 

彼女も酔ったのだろうか、若干青い顔をしてトイレの壁にもたれ掛かっている。あんな現実と認識させられるのは気持ちが悪いに決まっている。

 

「戦前はあんな風だったのか・・・」

 

「いつ核戦争が起こるか分からないあんな時代には戻りたくないな」

 

思い出せばおぞましい戦前の記憶。スタニラニウスが作った記憶は精密且つ、情緒溢れたものだ。元は死んだ兵士の記憶なのだとしても、自身の記憶だと認識させるのはかなりの技術力を要する。目を瞑れば、アンカレッジで戦った戦友達の顔が思い浮かべられる。しかし、それは偽物。これまで戦ってきた戦いの記憶は全て偽物なのだ。

 

口をゆすぎ、浄水チップで浄化された精製水を両手で掬って顔を洗う。それは記憶を洗うように。

 

俺はアンカレッジで戦った空挺隊員じゃない。Vaultで生まれて、生前の記憶があるオフィサー崩れのガンスミス、ユウキ・ゴメスだ。

 

そう何度も自分に言い聞かせ、項垂れるアリシアを置いてシャルのところへ戻った。見捨てたわけではない。アリシアは「先に行け」と力ない声で俺に言ったためだ。シャルの所に戻ると、抱き合う二人の影があった。一方は恋人で幼なじみのシャル、もう一方はその父親のジェームズだ。親子水入らずの再開に映画なら観客が涙を流すだろう。勿論、俺はモブキャラである。後ろに控えているのが得策だ。

 

「ああ、ユウキ君じゃないか。シャルと一緒に来たのか」

 

俺の事に気が付いたジェームズさんは俺の方へ体を向ける。その姿はVaultから出てきてから何も変わっていない。青い使い古したジャンプスーツに生えてきた無精髭、父からシャルへと遺伝したダークブラウンの髪型をオールバックにした壮年の凛々しい顔付きのおじさん。俺も体の向きを変えて話す。

 

「ええ」

 

「なぜ、Vaultに残らなかったんだ」

 

ジェームズの声は冷たく重い。それはまるで獲物を殺すかのような怒りも少し出ている。そんな様子をオロオロと戸惑うシャルの様子は少し可愛かったが、目の前の体育会系の先生をどうにかしないとツボを押されて死んでしまう。

 

「あなたが出た後、ラッドローチが大発生してかなりの犠牲者が出たんだ。それをしたのがジョナサンだと濡れ衣を着せられて・・・」

 

「殺された」

 

最後に言ったのはシャルだ。シャルの目には怒りよりも哀れみを浮かべる。復讐しようとして、その愚かさを知ってしまった目だ。

 

「あの状態のVaultに残っていることは虎穴に迷い込んだ子羊と同じでいつ殺されるか分かったもんじゃない。死ぬことは目に見えてた。だから、警備長を殺して監督官を殴ってアクセスキーを手に入れた。それであの穴蔵から出てきてあんたを探そうとしたんだ」

 

怒りを俺に向けるべきではない。むしろ、感謝すべきだ。俺はジェームズを睨み付ける。

 

「ジェームズさん、Vaultから出なければこんなことになら無かったのでは?一人娘を危険に晒す価値があったんですか?」

 

俺はジェームズさんの目を見る。怒気は消えて真っ直ぐな信念を持った目。決意を持った目だ。

 

「ああ、あった。それは確かだ。この不毛な大地を変え、戦前の豊かな土地に変えることが出来る。そしてそれが分かった。シャルロット、ユウキ君。私に力を貸してくれないか」

 

ジェームズが目指していたのは無制限に放射能汚染されていない水が戦前のように出る世界だ。川の水を浄化して、綺麗な水へと変えていく。ウェイストランド人の生活水準は向上し、やがては綺麗な水は周囲を綺麗にしていく。水源を綺麗にし、全てを浄化していく。それこそが真の浄化プロジェクトだった。

 

シャルはそれに頷いて、ジェームズに微笑み掛ける。そしてジェームズは俺の返答を聞こうとして身体を向ける。

 

「いいですよ、人類復興の為なら人柱にもなりましょう」

 

それは次の冒険の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

帰り支度のため、手当たり次第物資を回収していく。医療室や警備用のロッカーに小型の浄化装置、無制限に綺麗な水が出るため、持てるだけ持っていくことにした。ジェームズは俺達二人がVaultに出た後位にはメガトンを出ていたらしく、殆んど行き違いだった。俺達がこのトランキルレーンに到達したときはまだ一週間しか経過していなかった。その為か、予想に反してそこまで衰弱していない。ウェイストランド人の体力は凄いものだ。

 

居心地の良いVaultには移住区画に必ずある筈のガスコンロがないし、飲食禁止であったためにvaultの上に作られた自動車修理店の中でも夕食を食べることになった。まず、ここに住み着いていたモールラット一匹を皆で捌き、腹回りの肉を削いで焼いておく。移し変えておいたワインのボトルから香りを良くするために足らす。ジュウジュウと良い音を発てて、美味しそうな臭いを周囲に充満させる。適当にカットして皆のコッフェル(金属製の食器)に移す。「モールラットステーキワイン仕立て」の完成だ。

 

「ユウキ、料理の腕上がってない?」

 

「え?これはゴブから教えてもらった料理法」

 

「今度教えて貰おう」

 

「?」

 

極秘なレシピでも無いので、ゴブから教えて貰ったレシピを話しつつ食事をした。

 

「ニューヨークか。彼処は戦時中に防衛指令部が設置された場所だ。そこで生まれたのか?」

 

「ああ、当時から生きてるグールのおっさんもいたし、それなりに生活環境は整ってたさ。その代わり、周囲との争いが耐えなかったけど」

 

アリシアは出身地の事を話す。ジェームズさんにとって彼女は新顔だし、警戒する面もあったろう。しかし、程なくして警戒も解き、俺が渡したウィスキーを煽っている。

 

「ユウキ君は武器商人を始めたのか。昔からそういうのが好きだったからな。天性の才能か」

 

「好きなものはのめり込んでしまうんです。そう言えば、ジェームズさんは母の事をご存じですよね?」

 

「ああ、知ってるとも。彼女はB.O.S.隊員のナイトだ。ゴメスには教えにくいだろう。何から説明すればいい?」

 

俺の父親も母から聞いた話だったし、父親はVaultの人間だ。ウェイストランド人にしか分からない部分もあるだろう。ジェームズさんが知っているのも人づてに聞いた話だし、あまり詳しい事は分からない。だが、B.O.S.の指揮官レベルなら何か知っている。この前、D.C.に行ったときに聞けば良かったのだが。

 

母はカリフォルニアのB.O.S.バンカーで育ったとの事。誰から生まれたのかは分からないが、とにかく10歳までイニシエイトになるべく育った。2255年に当時17歳だった母はイニシエイトとして、エルダー・リオンズ率いる大部隊の一員としてカリフォルニアを離れた。道中でナイトに昇格し、キャピタル・ウェイストランドでは数々の戦果を挙げる。それは近接武器でミュータントをなます切りにしたり、100人切りに挑戦したという戦意高揚も含まれていた。幾つかの任務を経てジェームズ率いる浄化プロジェクトの警備任務を任された。プロジェクトをするジェファーソン・メモリアルは立地条件として最悪であり、度々スーパーミュータントの攻撃にさらされた。何時までも成果のでない浄化プロジェクトにB.O.S.は苛立ちを隠せなかったようだ。そしてプロジェクトを閉鎖に追い込む事件が起きる。シャルの母、キャサリンの死である。子供の出産と共に失った最愛の人の死。暗礁に乗り上げたプロジェクトを投げ出すには最適の理由であった。プロジェクトの中核であったキャサリンの死とジェームズの心の傷。プロジェクトは立ち行かなくなり解散。B.O.S.はプロジェクトの資金提供を凍結した。ジェームズは残された娘とエルダーが餞に守らせた二人の護衛。この二人はスターパラディン・クロスと母だ。父と子を守りつつ、四人はvault101の探索チームに会った。既に探索チームの人員は減り、運良く医療従事者が死亡していたため、ジェームズは運良く亡くなったメンバーの代わりをする事になった。母は今回の探査チームの危機対処能力や警備能力の向上の為に編入された。母に関しては父がてこ入れしたのだと言うのだから、当時からアツアツだったと分かる。普通なら、故人の話をするのなら悲しい顔をするけれど、当時の事を思い出してニヤニヤする父の顔はイライラした。それは再婚した義母にも感じることだ。

 

「詳しい話は聞いたこと無かったのでよかったです。それにしても、母は凄いですね」

 

「ミュータントをバッサバッサ斬り倒していた。あれは人間業じゃないよ」

 

パワーアーマーで俊敏な動きで敵を薙ぎ払い、一瞬のうちに死体の山を築き上げる。まるで、パワーアーマーが拘束具であるのではと言われるようにまでなった。あるものは“英雄”と呼び、あるものは“化物”と。G.N.R.ビルプラザのラジオ放送では英雄視されていた。

 

「その刀って何処にあるんですかね?」

 

「確か、ゴメスがユウキに20の誕生日に渡そうと・・・・。こうなると、もう無理か」

 

「vaultにはもう戻れませんよ。・・・あ~あ、母の形見が」

 

そう言って、ジェームズの持っていたウィスキーから自分の持っていたマグカップにウィスキーを注いでもらい、喉に流し込んだ。喉にヒリヒリするような刺激とウィスキーの香りが鼻を付く。シャルも飲もうとしていたが、飲まないようにと警告する。酒を飲んでいるシャルはちょっと危険なのだ。

 

「え~・・・。良いじゃん別に」

 

「お前、この前のようになっても良いのか?人前に見せられないよ」

 

「ああ、そう言えばこの前の報告まだだったよな。ここで聞かせろよ」

 

「報告?なんだい報告と言うのは?」

 

とジェームズは頭の上に?を浮かべて訊いてくる。アリシアはまるでスケベ親父のような厭らしい笑みを浮かべている。これはアリシアに嵌められたのだ。

 

「ん?ああ、試作したアサルトライフルのことですよ。ねー、シャル?」

 

「え?!・・・う、うん。そうだよ?」

 

何の事なのか分からないシャルは首を傾げる。

 

「シャルがお酒飲んだらどうなるのか私も知りたいな~。おじさん、この前の夜について聞かせてもらいたいな~」

 

「この前の夜?」

着実に核心に近づいていくジェームズ。俺は雛見沢の緑色の髪の毛の少女を思い出しつつ、つくづく俺の運が悪いことを思い知った。

 

 

 

 

夕食の後、俺は自動車修理店の放置された車両やエンジンを見る。あの後、奴隷商人と野良ロボブレインの銃撃戦の音によって会話は中断され、何とか一命はとりとめた。ジェームズさんが意外にも鈍いお方なだから助かったのだ。この期を逃さないよう、俺は店にあるものを見ていく。

 

「お、いいの見っけ」

 

それはまだ稼働すると思われるトラックだった。誰かが弄くり回したのか、エンジンの周りには様々な改良が施されていた。石油資源の枯渇によってガソリンが高騰して2060年代には石油エンジンは使われなくなった。その代わりに核エネルギーによる核搭載自動車がゼネラル・モーターから発売された。元々軍用であったために、整備は容易であり、2070年にはマイクロ・フュージョンセルによる自動車が発売された。核搭載自動車は電気駆動にかわり、熱を電気に変換するモジュールが取り付けられた。モジュールは製造が出来ないが、モジュールさえ無事であれば、様々な事が利用可能だ。

 

「このコネクターかな?あとこの部分をモジュールに繋いで!」

 

幾人もの人間がこの車を弄り、改造した。あるものは装甲板を。そしてある者はミニガンを取り付けるために銃座を設置した。しかし、肝心のエンジンは駆動部分に組み込まれていなかった。多くの人間がここで試行錯誤を繰り返していた。だが、俺が来るまでそれが直っていないと言うことは、やってた人間は諦めたか死んだかのどちらかだ。

 

「おいおい、あんたの愛車か客のかも知んないけど。もう持ち主は死んだんだからそんな目で見るな」

 

カウンター入り口にはこちらを見て死んでいる骸骨があった。それはこの店の店主だろうか。こちらを見るように倒れている。ボロボロの衣服は辛うじて作業着の繋ぎだろうと見受けられる。

 

幾人ものウェイストランド人が挫折したエンジンと電気駆動部分の接続だが、「repair50」以上のスキルがあれば修理が可能だ。車の知識と電気工学の知識。あまり電気工学は好きじゃないけれど、前にシャルから教えて貰ったため、何とか出来た。シャルに感謝しつつ、ボンネットを閉めて運転席に乗り込んだ。

 

タイヤは劣化しつつも使えそうなタイヤが6つ程見つかり、トラックにもつけられていたので大丈夫だろう。駆動部分やサスペンションも壊れていなかった。車内は二人乗りで、バックミラーなどの物は壊れていた。ベルトはギリギリ縛り付ける程度には動き、座席も柔らかい。濡れた雑巾で埃の乗った計器を綺麗にしてハンドル周りを綺麗にした。カウンターの金庫に入っていた鍵を差し込み回すと、ガソリンエンジンでは出ないような音が整備室内に響き渡った。

 

「ヨォォォシ!!!動いたぁ!」

 

あえて言うなら、それはレーザーライフルのセルチャージに似ている。ギュイィィィィン・・・という、あまり高音でもないが、SFっぽい音が響く。運転したいが、外はもう暗い。試運転は明日に回してしまおう。

 

すると、Vaultの方からハッチの解放するけたたましい音が聞こえてきた。多分、俺が叫んだのが響いたのだろう。夕食を食べた後、皆は下のVaultで身体を洗って、寝ていることだろう。時計を見れば既に11時を回っている。基本的に電気供給がないウェイストランドは夜には寝入る。多分、Vaultでは皆寝ているだろう。

 

エンジンを止めて、運転席のドアを開ける。すると、階段からはシャワーを入ったばかりのシャルが出てきた。昔のような、Vaultジャンプスーツでシャワーを浴びたのか、濡れた髪が妙に艶かしい。そして、腕には毛布があった。

 

「おう、シャル。皆寝た?」

 

「アリシアさんはまだ起きてるけど。父さんは寝ちゃったよ。・・・車、動いたの?」

 

「勿論、あんな宝物を置いて行くなんて出来ないよ」

 

俺はボンネットを軽く叩く。足元にはペンキがあり、車の名前を決めるつもりだ。

 

「どうしたんだ?毛布なんか持って」

 

「・・・えっと、修理しているときに寝てるんじゃないかと思って」

 

一回だけ。まだ、店が本調子じゃないときにロブコ社に行った後、山程の武器の修理に追われた。俺が店をオープンするまで武器専門店を開業しなかったのも修理が多くなった原因だろう。その修理をしていて、身体が追い付かずに作業台で寝てしまった。その時、毛布を掛けてくれたのがシャルだった。

 

「大丈夫だよ。下に下りてシャワーを浴びるか。」

 

「ダメだよ、もう皆下で寝てるんだから」

 

ここのVaultはハッチが開く音が全体に響く。シャワーを浴びに行けば寝ているかもしれないジェームズやアリシアを起こすだろう。

 

「仕方ない。この格好で寝るか」

 

着ていた作業着の繋ぎを脱ぎ、Tシャツとカーゴパンツの姿になる。油でベトベトになった手を整備場の端にある水道で洗う。放射能が混じっているが、油でベトベトな手で寝たくない。

 

一通り洗ったあと、シャルはカウンター近くに何故かあったマットレスにバラモンの毛布を引いて、もう一枚の毛布にくるまっていた。

 

「寒いから一緒に寝よ」

 

「お、おう」

 

下に親父さんいるのにな。

 

俺は妙な背徳感を覚えつつ、シャルの誘いに答えて一緒の毛布にくるまる。必然的に面積がさほど大きくない毛布なので、身体は自然と触れてしまう。これが初めてではないため、緊張はしない・・・と思う。

 

「ユウキの匂いがする」

 

「ごめん、汗臭いだろ」

 

「ううん、良い匂いだよ」

 

何だろ、ここに天使がいます。ここで「すきにしてもいい」なんて聞いちゃったら、暴走するだろう。落ち着け俺よ!

 

しかし、シャワーは無理か。・・・待てよ、ジェームズさんとアリシアがいるのにハッチを開けたのか?それに俺を下で寝させないために・・・ああ、そう言うことか。

 

「シャル」

 

「ん!な、なに?」

 

こいつ、なに緊張しているんだよ。頬を赤くした顔はもう食べ頃である。だが、ここは少しイチャイチャしようじゃないか。

 

「謀っただろ」

 

「え?!」

 

「嘘がバレバレ、ジェームズさんとアリシアにバレないようにしたかったんだろ」

 

普通ならシャワー位浴びらせる。それをさせないのは腑におちない。俺が寝てて毛布を掛けると言って、何で毛布が二枚必要なんだよ。

 

「違うよ、そんなこと考えたかもしれないけど・・・」

 

「やっぱ考えたんだ」

 

「!~」

 

顔を真っ赤にして、恥ずかしいのか俺の胸に顔を擦り付ける。それはまるでなついた子犬であった。

 

「ばか」

 

顔を擦り付け、俺を見上げるシャル。シャルは顔を近づけ目を閉じる。そして、俺も顔を近づけ唇を重ねた。

 

「んっ・・・・ちゅっ・・・」

 

啄むように唇を重ね、やがては互いの唇を食おうとするような勢いで唇を合わせる。いや、貪ると言った方が正しい。俺はここぞとばかりに舌を絡める。シャルは肩を震わせ悶える。細かく足を震わせ、逃げないように脇から手を入れて背中を支えて逃げないようにした。

 

「くちゅっ・・・・んん・・・はぁ・・・ん!」

 

互いの唾液は混ざりあい、口から漏れた唾液はシャルの喉元を垂れていく。互いの体液を求めるように舌を絡め、自然と抱き合っていた。只でさえ、シャワーで火照っていた身体はさらに暑くなる。

 

「ん・・・はぁ・・はぁ・・・ユウキぃ・・・」

 

その顔は恍惚とし、息は荒れ、俺は我慢していたものを吐き出したかった。

 

「シャル、お前の事が好きだ」

 

昔なら恥ずかしがっていた言葉。だが、今ならその程度の言葉ならすぐに言える。

 

「知ってる♪・・・ユウキ・・・来て」

 

下で目の前の女の子の父親が寝ている。そんな背徳感が二人の間のスパイスとなって、俺は再びシャルの唇を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、Vaultでは・・・・・

 

 

 

 

 

「娘さんやりますね」

 

「はっはっは、やっぱりね・・・」

 

「ここまで来る時の野営で何かすると思ってたけど、遠慮してたのか」

 

「話には聞いていたが、娘が他の男と愛していると少しやりきれんな」

 

「なら、私とします?」

 

「すまんな、私は熟女好きなんだ」

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は・・・ジョン・ヘンリー・・・・ガハッハッハッハ!驚いたかい!Threedogだよ!元気かい?

 

ニュースの時間だ!このラジオ局はbrotherfoot of steelの支援の元に放送を続けているが、別れた彼女がどうもこれを教えて欲しいそうだ。現在brotherfoot of steel outcastはウェイストランド人が使用可能な武器を販売中との事だ。その性能は折り紙付き。値段は良心的価格だな。武器商人は早めに契約を取りつけた方が良いかもしれない。ちなみに既にその一部はメガトンの武器屋で販売中だ。早く買わないと売り切れるぜ。

 

次のニュースだ。聞いてくれ。リベットシティーで事件が発生した。華麗な美女には裏がある。ウェイストランドの男に忠告だ。間違っても、甘い誘いには裏があることを忘れるな。きっと後悔することになる。さて、曲を掛けるとしよう。これは一人の男が自分の人生について語る曲だ。Bon Jovi 「it's my life」

 




さて、ジェームズの性癖が顕になる。ここは意外にもゲームの設定に忠実。なにせ、ジェームズの妻のキャサリンとは年の差結婚。しかも、かなりの高齢だとか。ゲームでは描かれなかったけど、主人公を産んですぐに亡くなったのは高齢出産なのかもしれない。

若干、微エロが入りましたが、R15なので問題なし!もっと見たい?R18でもFO3を書くつもりなのでご心配なく(^O^)

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