fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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主人公って最強なのか?

感想にて言われた一言・・・。作者の方針として主人公は人間を逸脱しません。HPが一桁になると核爆発したりすることはなく、骨格を総取っ替えしたりはしない。尚かつ、サイボーグにはしてない・・・。ですが、話の流れを追ってくとやっぱり最強の部類に入るのでしょうかwwww


※2013/9/01に加筆修正を加えました。物語の変更等などがあります。


十八話 リベットシティ

 

 

「腹ヘッタ、コイツ食イタイ」

 

私はそれを聞いて、喰われるのだろうと思い身体を震わせる。私は何で何時もの通商ルートを通らなかったのだろうと、今は亡き雇い主の商人を憎んだ。

 

距離を稼げると、川沿いを歩いてリベットシティーに近づいて行っていたのに、スーパーミュータントに攻撃を受けた。護衛だった他の傭兵や商人は殺され、私以外の人間は皆ゴアバッグに押し込まれていた。時々、ミュータントはそこから肉片を取り出して食い、私は何度も吐きそうになる。だが、吐けば、ゴアバックに押し込まれた戦友と同じようになる。手首は針金でグルグルにしてあって引き抜くことが出来ない。座っている体勢ももうそろそろ限界だった。

 

すると、喰おうと言った他のミュータントの他に冑を被ったスーパーミュータント・プルートは言った。

 

「ダメダ、ソイツハ俺タチニナルカラ食ベルナ」

 

聞き取りずらい英語が聞こえ、私は疑問に思った。スーパーミュータントは噂では北西に位置するミュータントの根倉へと連れていくらしい。そこで何かの薬物を打たれて同じようにミュータントになるらしく、背中から悪寒が走る。

 

このままではミュータントにされてしまう!死にたくない!!

 

私は痺れが取れない足を何とか動かそうと、動かし転ける。

 

「人間、ウゴクナ!」

 

野太い声が響き、ごつごつとした手が私の背中を掴む。ビリビリと言うTシャツの契れた音がして、宙に浮いていた私の体は地面に叩き付けられた。

 

「グッ!」

 

肺から息が排出され、息が止まる。

 

そして再度手が伸びる。私は本能的に死ぬことを予期した。目から大粒の涙が零れた。ここまで波乱万丈な人生だったが、もっとチャンとした人生を歩むべきだった。ふと、過去の事を考えていると、生暖かい液体が足に掛かる。首をねじり足を見ると、真っ赤な血がベットリと付着した。その血の主は大口径の狙撃銃で撃たれたように、頭に穴が空いていた。

 

「人間コロス!」

 

死んで後ろに倒れるミュータントの隣にいた、もう一体のミュータントは陣地から離れ、遠くにいるのであろう人間の元に向かう。だが、私の視界から離れた瞬間、二発の銃声と共に大きな物が倒れる音が聞こえた。

 

視界が過度の疲れでぼやけ、意識が遠退きそうになる。塞がりそうになる目から見えたのは黒いアーマーを着た男とvaultスーツを着た女だった。死神が迎えに着たのだろうと、疲れた身体を地面に横たえた私は意識を手放した。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「よっこいしょ!」

 

背負った女性を落とさないよう体勢を変える。もし、アーマーが無かったら、布越しに女性の象徴たる物が当たって心臓がばくばく言うのだろう。だが、アーマーを着ているのでダメである。何か助かったような、損したような気持ちになったももの、それ以上は考えなかった。

 

傭兵のような濃緑色のカーゴパンツにTシャツという服装だったが、ミュータントに剥ぎ取られたのか、背中の部分は契り取られていた。俺はvaultを出ていくときにブッチから貰った革ジャンを羽織って歩く。どうやら、顔立ちからしてヒスパニック系。通りで美人で・・・

 

「ゴホン!」

 

シャルはわざとらしく咳払いをする。

 

「ん?どうした、シャル?」

 

「今、この人の事美人だと思ったでしょ。」

 

「いやいや・・・・」

 

「ヒスパニック系で綺麗だし・・・!!!」

 

目には怒気がこめられ、対処を間違えれば爆発しそうな勢いである。まるで、起爆しそうな爆弾である。こう言うときは爆弾処理と同じように処理しないと!

 

「シャル、これは人助けだから」

 

「でも、絶対そう思ったでしょ!」

 

「いやいや、・・・じゃあ、リベットシティーで何か食べよう。確か、ゲイリーズ・ギャレーのミレルーク鍋って言うのが美味しいらしいぞ。」

 

「い、要らないもん!」

 

ほほぉ、何でいま言葉が詰まったんだろうねぇ~・・・。

 

「ミレルークの肉をさっと茹でたあのプリプリとしたお肉、そしてプンガフルーツの葉・・・・仕上げにキンキンに冷やしたヌカコーラを一杯・・・」

 

こんな事考えているだけでヨダレが出そうだ。正直言って、この前から戦前の保存食やバラモンの肉を乾燥させた、バラモン・ジャーキーしか食べていない。ヨダレが出ても仕方がない。

 

「ユウキの意地悪!」

 

と不機嫌気味のシャル。歩きながら話しているうちにリベットシティーのエントランスにたどり着いた。そのとき、俺は目の前にある空母の集落に驚いた。

 

米海軍が誇る原子力空母で大戦前は第三艦隊の主力として活躍していた。しかし、great warの時に中国軍の潜水艦から攻撃を受け、空母を中心に展開していた護衛艦も中国海軍の餌食になり、河に逃げ込んで座礁。中国軍が上陸した事を真っ先に知らせたのが、この空母であった。中国軍が空母を制圧しようとしたが、奪い取れずに終わったこともあり、それほど内部の損傷は酷くないとも聞く。200年の月日が経って塗装は禿げ、艦載機は放置されていた。完全な状態の空母が見たいと思ったが、それは無理だろうと肩を落とした。

 

「凄い・・・・」

 

俺の落胆にも関わらず、シャルは空母の大きさに驚いた。俺は空母がボロボロであったために落胆したが、シャルは大きさや集落の大きさを見て大きいと思ったのだろう。シャルの怒りが収まったのだろうと、シャルを呼んでエントランスの階段を登った。

 

「み、水を・・・・少しで良いんだ・・・」

 

「ねえ、ユウキダメかな?」

 

「良いんじゃないか、水ぐらいなら」

 

俺は許可して、シャルはバックからボトルに入った綺麗な水を渡す。

「おぉ!ありがとう!あんたはマリアさんだ!」

 

水乞いのおっさんは喜びのあまり涙を流す。・・・涙流すなよ、水の無駄だろ。

 

俺は肩をすくませて近くにあったインターフォンのボタンを押す。

 

「橋を下ろしてくれ。これじゃ入れない」

 

(少し待ってくれ、今下ろす)

 

若い男の声が響き、すると空母に荷物を積み込むためのクレーンが動き、吊るされた橋が下ろされた。背負った女性を落とさないようにして橋を渡る。前を歩くシャルは何故か機嫌が良い。

 

渡りきると、黒のコンバットアーマーにセキュリティーヘルメットを着た男と中華アサルトライフルを持つ男がこちらに来た。

 

「私はハークネス。リベットシティーの警備主任だ。この街には何のようだ?」

 

「この街に行方不明の父を捜しているんです。知りませんか?」

 

「知らないな、それではリベットシティーに入らせるわけには行かない。そんな理由で入らせるならこの町はレイダーの巣窟だ」

 

ハークネスは正当な理由がないと入れさせて貰えない。俺はどうすれば入れて貰えるか考えた。

 

「(Barter75%)(Speech80%)武器売買でリベットシティーに立ち寄りたい。買い物が目的でもある。なんなら、身体検査でもすればいい。だが、それで俺が背負っているコイツが死んだら責任とれよ」

 

「(成功)わかった、わかった。そこを真っ直ぐ行けばハンガーマーケットだ。左に行けば階段がある。そこを登ってアッパーデッキだ。そこら辺のセキュリティーを捕まえて道を尋ねたらいい。」

 

ハークネスは溜め息混じりに言うと、道を退いてくれた。

 

シャルと俺は軽く会釈をして、そこを離れる。左側に位置する水密扉を開けてリベットシティーへと足を踏み入れた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

空母と言うのは一つの大きな街と例えられる。乗組員のインフラのために食堂や娯楽施設、弾薬工場、果ては散髪屋まで。一人一人が歯車となって空母と言う時計を回していると言っても良い。原子力空母であれば、自身で電力を発電でき、ある程度自給自足の生活が送れる。生前の世界の空母では、食料品や消耗品等の補給が必要であり、ワンマンアーミーは無理だった。大抵は、空母護衛群などの空母を中心とした艦隊編成を行う。

 

俺が今いる空母では、その自給自足の要の食まで生産しているのである。空母には野菜などの食料品を作る農園があり、ニンジンやジャガイモなどを生産している。また滑走路にも農場らしき所も存在する。ゲームでは見られなかったが、滑走路にもテント村のような物や、一部農場らしきものも見えた。ある意味人類最後の砦といっても過言ではない。メガトンもそうだが、彼処は消費のみで生産は行わない。できると言っても水ぐらいな物だろう。残りは狩りなどで仕入れたもの。自作農の食べ物が出てくることはまずない。その意味でリベットシティーは人間的な生活を送っていると言えるだろう。

 

「命には別状はない。でも、衰弱が激しいから今日は目が覚めないだろう。明日ぐらいに来なさい。」

 

眼鏡を掛けたウェイストランドでも医者らしい医者のDr.プレストンは庸兵服姿の俺たちが連れてきた女のカルテを見て言う。俺が見たところでも、衰弱はかなりの物だった。服は所々擦りきれていたし、彼女が持っているものと言っても、32口径ピストルのみ。よく生きていたと感心してしまうほどだ。Dr.プレストンの言葉を信じて、アッパーデッキから出て空母の奥にある研究所を目指す。Dr.リーを所長とする科学者集団。彼らはウェイストランドでも一二を争うインテリ達だ。彼らは日々、ウェイストランドの食の改善や環境の改善を行っている。今、リベットシティーが繁栄しているのも彼らのお陰であろう。

 

水密扉を開き中に入ると、途端に女性の金切り声と男の声が聞こえてきた。

 

「アンドロイドが来るまで私はここで待つよ、Dr.リー。私にも仕事があるんでね」

 

「私もよ!仕事の邪魔なの!出って行ってください!」

 

「そいつは無理な相談だ。私だって仕事の邪魔になることは重々承知だ。だが、科学的知識の集まるこの場所にいれば、私のアンドロイドはすぐ見つかる筈だ。」

 

後ろには庸兵服を着た男が、中華アサルトライフルを携えている。これを見れば、大概の者は雇い主らしき男には怒鳴らない。Dr.リーにもそれは分かったらしく、怒りが不完全なままDr.リーは研究に戻る。そして、初老の眼鏡を掛けた男と庸兵風の男は研究室の隅に行き、初老の男は腰をおろした。

 

見たところ、初老の男はMr.ジマー。“連邦”と呼ばれる所からアンドロイドを連れ戻そうとする男である。つまり、近くにいる傭兵風の男もそうなのだろう。傭兵の服装をしている男もジマーが連れてきたアンドロイドなのだ。

 

血色のある肌に本物のような髪の毛。見た目普通の人間である。たった一つ違うのは無表情。まるで、感情が無いような感じである。目は焦点が合っているが、何を考えているのか分からない。それは人間とは全く違う。生前に見た映画で寝ている間に宇宙人に体を乗っ取られ、世界中が侵略されるものがあった。怒りもなく、笑いも悲しみの感情すらない。そのときの俳優の演技はまさにそれだった。俺は不気味に思い、さっさと用事を済ませてしまおうと、Dr.リーの元に向かう。

 

すると、白衣の男に呼び止められた。

 

「そこの君、ここで何をしている。ここは立ち入り禁止だ」

 

「Dr.マジソン・リーに用があるんです。通してください。」

 

俺はそう言うが、壮年の科学者の男に止められる。

 

「何処の馬と分からない奴を通すわけにはいかん」

 

イラッと来たが、ここでこの男を殴るわけにはいかない。シャルに言ってもらおうと後ろを振り替えるがいなかった。

 

「あれ?」

 

「Dr.マジソン・リーですか?私の父を探しているんです・・・」

 

「お、おい!そこの君勝手にいくな」

 

「シャル、行動早っ!」

 

俺は驚きつつも、シャルの所に行く。

 

「今忙し・・・・あなたはまさかジェームズの・・・」

 

「君達ここはな・・・」

 

「ジミー、待って。彼女はジェームズの娘よ」

 

「おいおい、嘘だろ・・・」

 

ジミーと呼ばれた先程の科学者は驚いた様子で言う。シャルは「父をご存じなんですか」と聞いた。

 

「当たり前よ、彼は20年前に浄化プロジェクトを置いてVaultに行った。それなのに一ヶ月前に彼は帰ってきたわ。でも、貴方は危ないからVaultに残してきたっていう話を聞いたわ。何でここにいるの?」

 

「え、えっと・・・・・」

 

シャルはその問い返しに困るだろう。ジェームズは何も言わずにVaultを出ていったのだ。あの争乱の中でVaultに留まろうとする選択は出来ない。俺はシャルに助け船を出すべく、口を開く。

 

「ジェームズさんが出ていった直後にラッドローチの襲撃があり、ラッドローチを誘い出したのが、ジェームズさんってことになり、Vaultに居られなくなったんです」

 

「貴方は?」

 

「ユウキ・ゴメス。彼女の友人です。あの後、シャルは重要参考人として逮捕される事になってました。」

 

「ラッドローチに手こずっていたの?」

 

ウェイストランドではほぼ日常茶飯事で、目の前に出てくればそれは美味しいご馳走に見えるのかもしれない。だが、Vaultでは害虫以上に危険な存在だ。それに密閉空間であるため、逃げ場もない。死角の多いVaultには厄介な存在なのだ。

 

「Vaultは構造上、死角の多い設計になっています。それに、ウェイストランド慣れしているならともかく、ぬくぬくと戦前の基準で生活していたVault住民ですから、ラッドローチは危険な存在です。」

 

腹が減っていない状態ならそこまで危険ではない。だが、空腹時はレイダー以上に危険な存在なのだ。

 

説明を終えると、シャルはDr.リーに近づき訊き始める。

 

「父の居場所を教えてください。何処に居るんですか?」

 

「・・・彼は私達の仕事場だったジェファーソン記念館に行ったわ。彼は浄化プロジェクトに必要な物を見つけたと言ってた。でも、もうプロジェクトは放棄したし、彼処はミュータントの根城よ。」

 

「浄化プロジェクトというのは?」

 

シャルが訊くと、まるで懐かしい友人にあったような顔をして、Dr.リーの頬には微笑みが溢れた。

 

「生命の源は水。それが汚染されれば、それが何であろうと変異したり死ぬこともある。核戦争で汚染された川を浄化出来れば、数十年で土壌も改善されるというシュミレーション結果が出たわ。当時、私達のパトロンだったBrotherfoot of steelは資金や資材を提供した。だけど、私達は行き詰まってしまった」

 

「なぜ?」

 

「今知られているような放射能除去技術は元の水から放射能を取り除く。その除いた放射能をどうするのか問題なの。他にも幾つかの難題が立ち塞がった。度重なるミュータントの襲撃に行き詰まった研究・・・、更にはあなたの母親のキャサリンの死。」

 

すると、シャルは伏せ目がちになる。まるで、浄化プロジェクト放棄の責任はシャルにあるかのように。

 

「貴方のせいではないわ。むしろ、その方が幸せよ。」

 

「どういうことですか?」

 

俺は何故幸せなのか聞いてしまう。

 

「プロジェクトの発案はジェームズだけど、表立っていたのは彼とキャサリン・・・そして私。一人が欠けてしまい、キャサリンの死を悲しんだジェームズに研究を進める気力はなかったと思う。だから、娘のためにVaultに行った。あの時、Vault101の探査隊の噂をリベットシティーでも聞いていたから、ジェームズは信頼していたB.O.S.のナイトとパラディンが護衛に付いて行った。まあ、ナイトの一人帰ってこなかったけど」

 

「ナイトってB.O.S.の中でも精鋭兵ですよね?」

とシャルは訊く。

 

「いえ、確かVaultに入植出来たっていう話よ。噂ではね」

 

うん、それ俺の母さんだ。

 

俺は何とも言えないような気持ちになるが、まあこれではっきりした。記憶もはっきりした。まずはジェファーソン記念館に行かなければならないだろう。

 

 

「Dr.リー、忙しいのにすみません」

 

「いいのよ、旧友の娘に会えたのだから。気にしなくていいわ」

 

俺は頭を下げると、Dr.リーはこの前のピリピリした雰囲気から一転して、雰囲気が和らいでいた。すると、シャルは思い出したかのようにショルダーバックの中身を探す。

 

「どうした、シャル?」

 

そう訊くと、バックからはクリップボードと鉛筆が取り出された。

 

「私、今メガトンのモイラからリベットシティーの歴史について調べているんです。教えていただけませんか?」

 

「ど、どっかの課外学習ですか!シャル!」

 

俺は驚いた。そう、モイラから依頼されたウェイストランドサバイバルガイドの内容はまだ終わっていない。真面目すぎるシャルに溜め息を吐き、忙しいのにも関わらず、シャルのインタビューは続いたのだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「美味しい!!」

 

そう満面の笑みを浮かべるシャルを見て、おれは鍋にあるミレルークの肉をフォークで刺すとそのまま口にほおりこむ。メガトンではあまり美味しくないミレルークの肉だったが、リベットシティーのミレルークは淡水ではなく海水のためか美味しいのだ。それか水質の違いもあるのだろう。味は戦前食べた蟹か海老のような味。それをプンガフルーツの葉っぱや人参、じゃがいもなどと一緒に煮込んだ物で、鰹節の汁や味ぽんなどはなく、海水から取った塩だけの味。とてつもなくシンプルだが素材の味がフルに伝わってくる。因みにメガトンで食べたミレルークは泥臭くてあまりにも食えたものではない。

 

「嬉しいわね、どんどん食べて!」

 

リベットシティーの食堂の中で一二を争う上手い店として評判の「ゲイリーズ・ギャレー」の看板娘のアンジェラはシャルの笑みを見て嬉しそうにする。料理人が食べて貰う客で美味しいと聞くときの喜びに近い。

 

俺はヌカコーラを一口飲むと、シャルの食べているところを見る。シャルがDr.リーにインタビューしていて少し時間を食ったが、約束通りゲイリーズ・ギャレーで鍋を食べている。土鍋とかではなく、ただのポットに材料を突っ込んで煮るだけなので、人気メニューには程遠い。ここはミレルークケーキが有名だ。

 

「シャル、ちょっと店回ってみるから食べてて」

 

「うん、」

 

俺は一度席を離れると、周囲を散策する。リベットシティーはゲームよりも活気があり、人も多い。更には開いている店舗も多いことからか、見るものも多い。見てみると、カンタベリーコモンズから来る行商やどっかのスカベンジャー。他にも、仕事を探す傭兵も見受けられる。バラモンなどをリベットシティーの甲板に連れていって、駐車して居るのだろうか。商人や近くの傭兵は安心して商売をしていた。だが、一番怖かったのが、タロンカンパニーの求人部隊である。

 

マーケットの隅には、スーツ姿の男とそれを囲む傭兵。そこには数名の男女が入隊受付をしている。タロンカンパニーはウェイストランドでも屈指の傭兵部隊で、レイダーよりもたちが悪いと言われる。それでも、求人募集をしているところを見ると、近づき難い。俺はそんなのを横目で見つつ、目当ての物を探しに行く。

 

「いらっしゃい、見ていくかい?」

 

傭兵服を来たリベットシティーの武器商人のフラックは机に両手をついて迎えた。机には様々な銃器が並べ置かれている。だが、その中にはModの武器はなく、元々ある武器のみが置いてあるだけだ。

 

「ああ、何か珍しい物ない?」

 

「珍しい物?・・・だったら、こんなのはどうだい?」

 

フラックが取り出したのは、鉛製と掛かれたとても重いアタッシュケースだ。彼が開けると、少しばかりの放射能が漏れだす。

 

「ヌカランチャーに搭載できる劣化ウラン弾だ。一応爆発するが、周囲に微粒子のウランを撒き散らす奴だ。性能は折り紙付き、値段は350キャップだ!」

 

「高っ!スーパーミュータントに効果あるのか?」

 

俺はそう聞くと、フラックは困ったような顔をした。

 

「いや・・・まあ爆発に巻き込みゃミュータントを一掃できるが、俺が作ったこれは対人用だ。ミュータントにだったらこんなのもある。・・・」

 

と、フラックは自作した武器を山ほど見せてくる。俺はその技術者魂に魅せられ、それを見続けた。

 

一時間後、意気投合した俺は持っていたアサルトライフルのアタッチメントを幾つか出して見せた。

 

「ほぉ、木製のハンドガードを変えたのか。これなら熱を籠らせることもない。」

 

「ここのレールにこう言うものを取り付けるんです。」

 

と、予め取り外していたACOGサイトを取りつけた。

 

「おお、低倍率のスコープか。これなら、元来あるセミオートの高精度を有効活用出来る。だが、こんなこと教えてもいいのか?俺がお前のアイデアを奪って自分で作るかもしれないぞ」

 

「逆にしてもらいたいですね」

 

「うん・・・・うん?」

 

と俺の発言にフラックは首を傾げた。

 

「そもそも俺が住んでるメガトンではこのアタッチメントが製造出来ないんです。技術を持つ人材もいない。ならリベットシティーならどうです?」

 

メガトンでは一次産業は発達しても二次産業である製造業を発展させることは難しい。設備もなければ人材も乏しいからだ。その点、リベットシティーはどうだろう?そもそも、空母には弾薬工場や各種修理、製造も行える設備を持つ。アサルトライフルをR.I.S.にするアタッチメントも簡単に出来る。そして、設備があればそれを操る人材も多い筈だ。リベットシティー栄えている理由はその二つであるだろう。もし、そういった物を売るのなら生産設備とそれに伴う人材は必要不可欠である。俺の目の前にいるフラックなら、手を組んで銃器製造が可能となる。生産基盤はリベットシティーにして、順々にメガトンにも工場を作ればいいだろう。もし、生産し、オプションパーツも売れ筋が伸びれば、確実にテンペニータワー並みの富豪になるにちがいない。俺はその趣旨を話すと、フラックはかなり乗り気だった。

 

「お前のその独創性と発明精神、そして俺の武器製造とコネ。それを合わせれば、凄いことになりそうだ。」

 

「一緒に仕事が出来る何て光栄だ」

 

俺はフラックと握手を結び、フラックアンドシュアプネルとの提携を結ぶことが出来た。初の提携を結んだことで気分がとてもいい俺は軽くスキップ状態でシャルのいる席に戻った。

 

「なあ、シャル・・・ってあれ?」

 

そこにはアンジェラがフキンでテーブルを拭いているところだった。

 

「ここにいた小柄でダークブラウンのVault少女は何処に行った?」

 

「え?・・・ああ、そう言えば、レールロードっていう組織の女性が彼女に声を掛けていたわよ」

 

「え!?」

 

俺は驚く。何故ならそのクエストはある物品を集めるか、直接連邦の諜報員に聞かなければならない。そのクエストは“The Replicated Man”。アンドロイドを見つけるクエストだ。本当なら、一定数のアンドロイドが残したホロテープを探すか、特定の人物に話をする。すると、レールロードというアンドロイド解放組織が接触してくる。組織に所属する女性のヴィクトリア・ワッツはアンドロイドをそっとするようお願いする。アンドロイドを殺されていたことにしておけばよいと。だが、このゲームがそれで終わるのは惜しい。複数ある選択肢の内、アンドロイドを見つけて自分をアンドロイドだと認識させると、アンドロイド自身がジマーを殺しにいく。その後、主人公にプラズマライフルをくれる。それは高性能なライフルで、ストーリーの後半から大活躍なのだ。因みにアンドロイドはリベットシティーの市議会メンバー、ハークネスである。彼は自身の顔を整形し、記憶を消した。ある暗号を彼に言えば、バックアップが働いて記憶が戻るらしいが、ヴィクトリアというあの女がシャルを扇動したようだ。

 

「不味いな、確かDr.ピンカートンは前甲板の所だぞ。」

 

ハークネスに整形手術を施したのは、Dr.ピンカートンと言う医者である。彼はDr.リーなどとリベットシティーを造り上げたが、意見の相違か、追放されてしまった人物である。そのため、彼はリベットシティーとは離れた空母の前甲板で整形外科医をしている。彼にリベットシティーの話を聞くと、クエストのオプションが達成されるわけだが、そこまで行くのに罠やミレルークの群れがあり、危険だった。

 

「もしかしたら・・・・・」

 

最悪の状況を想定し、俺は肩に掛けていたライフルを手に持ってマーケットの出口に走る。

 

「シャル!」

 

水密扉を開けたすぐ先には、キョトンとしたシャルの姿があり、シャルの目の前にいるハークネスは頭を抱えていた。

 

「シャル、死んだかと思ったぞ!何で一人でどっか行くんだ!」

 

俺は怒りの余り、拳を震わせていた。それを見たシャルは俺が怒っていたことがわかった。

 

「だって、ユウキばっかり頼っていたらダメだと思って!」

 

「俺はジェームズさんからシャルの事を頼まれているんだ!フェアファクスの時みたいになって欲しくない!だから・・・!」

 

俺が離れている間にフェアファクスに来て、レイダーにレイプされかけた。俺はその事をずっと考えていた。シャルから離れてはならない。離れたらもういなくなってしまうと。

 

大切な人を失いたくない。そんな思いがただあった。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「いいよ、無事だったんだから」

 

シャルは謝り、泣きそうになっているシャルの頭を撫でる。指にさらりと滑る髪の感覚を感じつつ、抱き寄せてシャルの息遣いが耳に掛かった。

 

「おい、リア充。ハークネス主任あのままでいいのか?」

 

「え?」

 

影で壁にもたれ掛かっていたリベットシティーのセキュリティーは腕組みを組みながら、場を壊すような発言をした。

 

「あれ、そう言えば!」

 

シャルも気付いたらしく、ぱっと俺の元から離れる。俺は惜しくも逃げられたシャルの背を見るものの、俺の気持ちは伝わらない。だが、俺が来たときハークネスは頭を抱えていた。と言うことは?

 

 

タタタタァンン!!

 

船内から中華アサルトライフルの銃声が響き渡り、俺とシャルは目を見開いた。

 

「まさかこれって?」

 

「行こう!」

 

俺はシャルと共にリベットシティーへと再び入っていった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こうなるなんて・・・・」

 

おれはその光景を見て驚いた。そこは昔、犯罪を犯した兵士が入れられる営倉であり、海軍ベットが各一個とトイレが付いていた。そんな独房が幾つもあり、数名の囚人が確認できた。

 

ウェイストランドは原則として、犯罪を行えば命はない。普通、被害を受けた人間が裁きを受けさせる形を取っている。メガトンでもそれが普通である。事件を起こすのが入植者なのでさっさと殺してしまう。しかし、メガトンに市民権を持っていると、簡易的な裁判が開かれたりするらしい。リベットシティーでは犯罪をした場合、命を持って犯罪を償わされるのだろうと俺は思っていた。しかしながら、それはウェイストランドの話であり、リベットシティーではそれはない。マガリなりにも戦争以前の刑法を採用しているが、裁量は市議会の警備主任に委ねられることが多い。市民なら市議会が判決を下すようなシステムらしく、物を盗んだからと言って殺すことはない。ただ、指を何本か切り落とされて海にダイブさせられることもあるようで、刑の種類は戦前と比べても明らかに過激だった。

 

その囚人の中にはリベットシティーの警備主任ハークネスがまるで、眼帯出っ歯のコーチと共にチャンピオンに登り詰めたボクサーが燃え尽きたときに見せるような雰囲気と同じだった。彼の服装は前と同じ黒塗りのコンバットアーマーだが、持っていた銃は全て没収されていた。

 

「幾らなんでも警備主任だからって銃撃戦をするなんて・・・」

 

「面目ない・・・・」

 

ハークネスはそう言う。ゲーム通りではアンドロイドであった記憶が戻ると、dr.ジマーと護衛のアンドロイドを始末する。だが、場所によっては研究所で銃撃戦をしたり、アッパーデッキですることもある。今回はその二つとは違い、マーケットでそれが行われた。突如として銃撃戦が始まり、Dr.ジマーと護衛のアンドロイドが死に、その他にも数名の客に流れ弾が当たり、損害は3000キャップに上るだろう。二人以外に死傷者が出なかったことは幸いだが、彼は警備主任。彼がやったことには何らかの償いがなければならないだろう。

 

「市議会の方の判決は?」

 

「わからない、明後日に裁判が行われる。その時に決まるが、追放が固いだろう。」

 

ウェイストランドで行われた罪は命を持って償われる。だが、規模や親しい者であれば酌量される。ハークネスの場合、これまで街に対して行った成果は大きい。人望も厚く、腕っぷしも良い。死刑ではなく、“追放”になりそうなのは、過去に残してきた成果だろう。

 

「ごめんなさい、私のせいで・・・・」

 

とシャルは責任を感じたようでうつむいた。しかし、ハークネスは怒る様子は感じられなかった。

 

「いや、君のせいではない。私も他のセキュリティと共に奴らを捕まえてからの方が都合がよかった筈だ。済まないな」

 

「いえ・・・そんな」

 

とシャルが言葉を紡ごうとしたその時、セキュリティーが中に入ってきた。

 

「もう面会は終了だ」

 

「でも・・・・」

 

「仕方ない。またくれば良いさ。ハークネスさん、シャルにくれたあの銃ありがとうございます。これで何とかなりそうです。」

 

「そうか、役立ってなりより。気をつけて」

 

「ありがとうございます」

 

シャルはお辞儀をして営倉から離れた。シャルはハークネスから貰ったプラズマライフルを背中に掛けている。ハークネスの製造番号である“A3-23”と言う名前で、改良を加えられたプラズマライフルだ。彼は多くを語ってくれなかったが、所属していた“連邦”はウェイストランドやB.O.S.よりも高い科学力があることが分かる。アンドロイド製造が良い例であり、ハークネスから頂いたプラズマライフルにしてみても、武器の品質から見て、二百年前に製造されたものではなく、最近になって作られたものだ。ゲーム中ではDr.ジマーは「瓦礫に埋もれているが・・・」と前置きを入れたが、プラズマライフルを製造できる技術力を誇る。いずれ、アンドロイド兵団がキャピタル・ウェイストランドを闊歩するかもしれない。

 

「ユウキ、何を考えているの?」

 

「分かるだろ?」

 

「分からないわ」

 

「・・・・Level4の読心能力者じゃなかったのか?」

 

「何それ?」

 

生前見たことがある、科学の力で超能力者を作り出す学術都市に住む主人公が不幸を抱え込むアニメがあった。実際、旧ソ連では、超能力の開発が行われたが、現在においてソ連が無くなったことは開発が上手くいかなかったと言うことであろう。しかし、今後の科学技術などの進歩によって解ることもある。ならば、この世界では超能力は日に当てられたのだろうか?生前の世界と比べると、幾つか技術が進歩していないものもあるが、総合的に見てもこの世界が遥か上を行っている。ならば、超能力を金さえあれば授けてくれるクリニックがあるかもしれない。

 

「シャル、医学や科学の力で超能力を授けられるものなのか?」

 

「どうしたの、急に?」

 

シャルは困ったような顔をした。

 

「そうね・・・・、理論上は可能よ」

 

「ほう、なら・・・・」

 

「ただし、危険な薬物を数百種使う上、人格崩壊やミュータント化のリスクも伴う」

 

実生活においてもリスクはある。それはウェイストランドでも同じで、生前や戦前よりもリスクは常につきまとうものだ。

 

「ふむ、じゃあやっぱり無理か」

 

早々出来ない事は分かっている。だけど、人類が一度核戦争を経験しているのなら、超能力を備えた人間が出てきても可笑しくはない。まあ、その理屈なら、日本の長崎と広島には超能力者が沢山いる筈だ。

 

そんなたわいもない話をしている内にアッパーデッキの水密扉の前までくる。開けようとすると、勝手に扉が開いた。どうやら誰かが先に開けたらしい。開けたのはリベットシティに住む背の小さい少年だった。12歳ぐらいの子供らしく、俺の顔を見ると声を掛けてきた。

 

「vaultのおにいさんとおねえさんだよね。Dr.プレストンが呼んでるよ」

 

少年はそう言うと、マーケットの方へ駆けていく。彼の手には、キャップが握られていた。多分、伝言させるためにキャップを握らせたのだろう。メガトンならそのまま伝言すらならないかもしれないのに、リベットシティは平和と言う証拠だろう。

 

「多分、助けた人の目が覚めたんだろ?クリニックの方へ行こう」

 

俺は見舞いの品でも持ってくるべきだったと後悔しつつ、足を動かす。その時のシャルの何とも言えない顔を見ることはなかった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「バイタルも正常、点滴も動いているな」

 

私は患者の近くに置かれた軍用携帯型バイタルサインを見る。患者のカルテは極稀な例の一つだ。ただ、栄養失調と膝の内出血。それと精神疲労もあるだろう。ウェイストランドでは普通かもしれないが、これらの症状が出るのは貧困層の人間のみだ。裕福な暮らしをするものにとって栄養失調は無いも同然だ。リベットシティで医者を初めてから全く見なかったし、処置もしてこなかった。だが、vaultから来たと言う二人は出し惜しみもせずに請求した医療費を払った。患者の関係は赤の他人と聞いて驚いたものの、彼らがラジオで流れている活躍をしたと鵜呑みにすれば当たり前なのかもしれない。

 

身長は170と平均身長。鍛えているであろうその身体と女の証であろう整った乳房。浅黒いヒスパニック系の患者は、男がすれ違えば10人中十人が振り替えるような美人だ。ウェイストランドでは早々御目にかかれる者ではない。ふと、入り口に立つ人物を察して振り返ると、何時も大人の仕事を手伝うリベットシティでは多い12歳代の少年だった。

 

「先生、手伝うことありますか?」

 

「そうだな・・・。ここに来ているVault101の二人組を見たことあるかい?」

 

私はそう聞くと、少年は満面の笑みで頷いた。

 

「はい、この前マーケットでフラックと話していたのを見ました。ウェイストランドのヒーローです」

 

ヒーローか・・・。

 

私はポケットからキャップを幾つか取り出して、彼に渡して連れてくるよう言って聞かせた。彼の両親は顔見知りだし、もし“悪さ”をしても分かるだろう。そろそろ目が覚めるだろうと、私は近くにある椅子に腰かけた。

 

机に置かれたマグカップに注がれていたのは、戦前のインスタントコーヒーだ。酸化しきっていて、はっきり言えば苦い。苦すぎるほどだ。だが、目が覚めるし、医療に携わっている身から言って、これは助かっている。それを一口啜ると、背もたれに体重を掛けた。他の患者のカルテを見終わると、個人情報が流出しないように金庫に仕舞う。

 

ピー!ピー!

 

バイタルサインの警告音が鳴り響き、私は振り返る。すると、患者が腕と胸に付けられたセンサーを取り、ベットから起き上がろうとしていた。

 

「目が覚めたか。私のこ・・・・」

 

そう言おうとしたその時、腹部に強い衝撃が走り、前屈みに倒れる。何が起こったのか分からず、患者の方へ顔を向けた。患者の拳を見る限り、私は事を理解した。目は真っ直ぐ、落ち着いた呼吸。錯乱しているのではなく、敵対しているから殴った。

 

患者は医務用のアルミプレートからメスを一本手に取り、水密扉から逃亡を図ろうとした。しかし、水密扉は勝手に開き、二人と遭遇した。その二人とは、Vaultから来たあの二人だった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、起きたんだっ・・・・!」

 

俺はそう言おうとした途端、助けた女の傭兵はメスを片手に突貫してきた。状況も分からぬまま、上から降り下ろそうとした腕を両腕でガードし、メスを持った手を壁に叩きつける。

 

「ちっ・・・!」

 

メスを奪われた彼女はがら空きになった脇に蹴りを入れる。俺はガードしきれずに壁にぶつかる。衝撃が内蔵に伝わり、口からうめき声を挙げた。徒手格闘の訓練を十分に受けていない俺に取ってこいつは不利だ。腰に何時も付けていた警棒を取り出し、勢いよく伸ばす。

 

「卑怯だけど、これないとあんたを倒せそうにない」

 

 

 

素人目から見ても、あれは軍隊式徒手格闘。ただのVaultセキュリティ崩れが戦っても勝ち目は無いに等しい。だが、慣れ親しんだ警棒なら勝てる勝率は僅かながらある。警棒を降り下ろし、それに当たらないように彼女は避ける。前世にあった警察の警棒と違ってリーチが短いため、決定打となるような一撃は入らない。縦横斜めと打撃を与えようとしても、するりするりとと避けてしまう。

 

「これで!」

 

足を一歩大きく踏み出し、横から打撃を加えようと降りおろす。しかし、それを予期していたのか、近すぎた距離は丁度彼女の手の届く距離にあり、俺の手を掴んでもう一方の拳をつき出した。

 

だけど、そんな簡単に負けてたまるか。

 

引き寄せられる力を利用して、足をつきだして拳ごと蹴り出す。引き寄せる力と蹴りが相まって彼女は医務室の壁に叩きつけられた。そして、畳み掛けるように俺はダメージを受けた彼女へ近づいた。

 

細くも鍛えられた筋肉を持つ腕は女性には似合わない荒々しい拳を出すが、俺はそこをすんでの所で避け、間合いを詰める。そして右手を相手の脇に左手を襟の部分を掴む。そして身体を反転させると勢いよく投げ飛ばす。

 

「!?」

 

彼女はなにをされたのか分からないだろう。ウェイストランドでは知っているものはいない。いるとしても、宇宙船に拉致された侍だけだ。柔道でいう“一本背負い”。実戦で使うとは俺も思ってみなかったが、さすがの相手も驚いたはずだ。

 

だが、途中まではよかった。しかし、約束稽古では綺麗に決まっても実戦で、試合では綺麗に決まることはまずない。しかも、初心者とあっては限りなくゼロに近い。投げ飛ばして、固め技に入ろうとした瞬間、掴んでいた手を逆に捕まれ、引き寄せられる。突然の動きにおれはついていけず、首を絞められ、頸動脈が圧迫された。

 

「ぐぅ!・・・・くっそ!・・・」

 

「まさかジュードーとは。久々に見たぞ」

 

その声は俺の首を圧迫する彼女。

 

身体をばたつかせようとも、思うように身体がついていかない。酸素が肺から入っていかず、酸欠状態に陥った。

 

「荒削りだが、良いセンスだ。」

 

貴様はどこの某ヘビ諜報員だよ!

 

頭の隅で突っ込みたくなる俺がいた。だが、目の前が白くなり、頭がぼぉーっとしてきた。ここで“死ぬ”というようなフレーズが浮かび、目の前にいる人物の顔が見えなくなる。

 

カチャッ!

 

不意に絞められた腕が緩み、酸素と血液が循環する。視界が晴れ、見えてきたのは銃を突きつけるシャルの姿だ。

 

「彼を離して!!」

 

Vaultで俺に向けていた10mmピストルは微かに震え、それは一歩間違えれば俺を射抜いていた。しかし、俺が見たのは微動だにしない10mmピストルと覚悟を決めたシャルの顔だった。

 

「ふん、良いだろう。どうせ撃とうが撃つまいが状況は変わらん」

 

彼女は俺の首から手を離すと、シャルの後ろから完全武装の警備兵が姿を表し、彼女を押さえ付けた。

 

「容疑者確保!」

 

「医療班を呼べ!」

 

所々叫ばれる声。

 

身の丈に合わない戦闘をしたため、身体はボロボロ。シャルの声を尻目に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 




改めて読んでみたけど、文の分け方が微妙だった件・・・・。なんか癖になってしまったようです。


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