fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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ようやく投稿です。MOD武器についてですが、初登場と言うことなので自身で考えた(というより実在する)武器を登場させました。

最後の所では三人称になっていますが、仕様です。


十五話 テンペニー・タワー

「オススミクダサイ、オススミクダサイ」

 

「なあ、シャル。コイツも音声プログラム消しておいたら?」

 

「え、可愛いじゃない」

 

「何処が!感情の起伏すら感じないプロテクトロンの何処に!」

 

「シルエットとか、兎も角、軍曹は喋っちゃだめ!」

 

「・・・・」

 

軍曹御免よ。プロテクトロンよりも感情がありそうな君はシャルの機嫌を損ねるようだ。店に着くまで我慢してくれ。

 

なんとなく、軍曹の背景にブルーの斜線が入って落ち込んでいるように思えるのは気のせいだろう。まるでドラクエのように一列縦隊で歩く。野営するための食料や寝袋は軍曹に持たせているため問題ない。だが、彼の熱核ジェット噴射音が黙々と響くため、やっぱり可哀想に思えてくる。

 

「やっぱりさ・・・軍曹を」

 

「嫌!」

 

「そうですか・・・」

 

すまない!軍曹!やっぱり無理だ!

 

(老兵はただ無言で死すべきであります!)

 

そんな声が聞こえた気がする。涙声で。

 

 

荒野をメガトンに向けて歩き続けるが、次第に日はどんどん落ちつつあった。すると、荒野にポツンと佇むテンペニータワーが見えてきた。

 

「一杯人がいるね」

 

シャルが言った通り、テンペニータワーの周りにはテント村とおぼしきテント群が姿を現した。数は20近くあるのだろう。近くにはスカベンジャーのバラモンやテント村に住む入植者のバラモンもいるようであった。

 

中には露店や傭兵が立っていたり、雰囲気はメガトンと似ていた。このテント村はテンペニータワーに入りたい人が作った所謂スラム街である。ウェイストランドではスラムも街も殆んど似たようなものなのだが、テンペニータワー内と外では貧富の差がくっきり現れていた。

 

「なんか典型的なスラムだなぁ~・・・。シャル気を付けろよ」

 

「大丈夫よ。でも、ちょっとね・・・・」

 

どこの世界でも経済格差、貧富の差がある。巨万の富を築いた人もいれば、生涯極貧で過ごす者もいる。戦前のアメリカでもスラムなんて珍しくもないし、共産主義国家であっても貧富の差がある。人間の七つの大罪である欲望が差を広げるため、思想があろうとも差は無くなる事はない。

 

シャルは彼らに同情し、助けたいと思うのかもしれない。だが、それは無理だろう。彼らがここに居るのは、虐げられているからではない。彼らには現状を打開する力も知恵もないから。テンペニータワーに居るのは自力で勝ってきた者達。彼らを隔てるのは知識なのだ。力や運、そして知識。それがなければ中に入ることはおろか生きることも叶わない。彼等は負け組でテンペニータワーにいるのは勝ち組。俺達が武器を彼らに流してテンペニータワーを革命で奪ったとしよう。それは彼らの力によるものだが、そのあとテンペニータワーを維持できるのか、出来るわけがない。

 

出来ることといえば、その場にとどまり知恵を与えるだけである。明治政府を作った伊藤博文や桂太郎などは地方の郷士であり、勉学を頑張ったお陰で政府を作れた。福沢諭吉は極貧を脱するには学問が必要であると考えている一人で、学問を奨励し、義務教育をすることで現代日本の礎を築いた。

 

だが、義務教育なる物を作ってもやらない者もいるのも事実。できるのは、彼らに知識を与える場を与えて、釣り堀のように食いつくのを待つだけである。

 

「俺達が出来る事は何もない。・・・・あれは?」

 

 

シャルの肩に手を置いたその時だった。テント村の奥、テンペニータワーの門近くに人垣が出来、誰かの怒鳴り声が響き渡っていた。

 

「何だあれ?」

 

人垣の合間から見えたのは、インターフォンへ怒鳴り声を散らせるレザーアーマーを着たグールの声だ。散々、喚いた後にグールはテンペニータワーから離れていった。

 

「どうしたんだ?あの男は?」

 

俺は近くにいたスカベンジャーの男に聞いた。

 

「あれか?確か、戦前にここに来ていたらしいグールの一人だよ。中に入れて貰えないからって怒っているのさ。」

 

「へ~・・・・。」

 

そう、それはゲームの中でも最も後味の悪いクエスト“Tenpenny Tower”であった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

テンペニータワー周辺には宿もなかったため、近くのガソリンスタンドに一晩泊まることにした。付近に奴隷商人のキャラバンもいるが、こんな重武装の俺達に吹っ掛ければ只では済まない。軍曹のプラズマライフルと俺の持つ5.56mm撤甲弾をくらい、プロテクトロンのレーザーが命中する。更にスーパーミュータント・オーヴァーロードが使用するトライビーム・レーザーライフルを持つシャルが、至近距離でそれを撃つ。レーザー版のショットガンと呼ばれるそれは、至近距離で喰らえば只では済まない。

 

だから、俺達を見つけた奴隷商人は“触らぬ神に祟りなし”と言わんばかりな勢いで離れていく。軍曹を歩哨に任命し、ガソリンスタンドの中に入った。中には戦前のガムと肉缶、そしてポテトチップス。便所の紙やポケットティッシュの代用としても使える戦前の紙幣を3束程度。中にラッドローチが居たものの、シャルの悲鳴と三発のレーザーに寄って灰になり、箒と塵取りでお掃除しました。

 

プラズマだったら、ゼリー状なので面倒なのだから楽と言えば楽なのだろう。

 

「シャル、核分裂バッテリーとホットプレート、それと幾つかコード取って」

 

「うん」

 

pip-boyからそれらの物を出し、俺はそれを繋いで簡易型のコンロを作った。鍋を出して綺麗な水を注ぎ込み、中にカチンコチンに乾燥したソールズベリーステーキを一口大に切って入れる。ポークビーンズをコンバットナイフで開けて中に注ぎ込み、隠し味にビールを少し。残ったビールはシャルに隠れて飲みました。保存料が効きまくっていたが為に、あんまり美味しくありませんでした。

 

最後にミレルークケーキをパンの代わりにして食べた。味はその~、まあまあ美味しかった。ビールが少し余計だったみたいだけど。

 

「ユウキにしては上出来ね。ただ、隠し味が余計だったわね」

 

「う~、・・・・」

 

今日の食事担当の俺は項垂れる。食後にpip-boyから良く冷えたヌカ・コーラを取り出してシャルと山分けする。コップが無かったため、回し飲みだが、この世界で間接なんたらを気にしている余裕はない。

 

「おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

モイラから譲り受けた寝袋にシャルが入る。俺は一応、4時まで起きておこう。シャルはついつい布団を剥いでしまう癖が出てかけていた寝袋から出てきた。

 

「全く・・・」

 

どっちが年上だよ・・・。そんなことを思いつつ、寝袋をシャルの肩まで寄せておく。俺は被っていたトレーダーの帽子を近くのカウンターに置いておくと、黒のペイントを施したコンバットヘルメットを取り出しておく。それにはここらのコンバットヘルメットには見られない、暗視ゴーグルの取り付け金具が取り付けてある。

 

「これが使えるとは最高だね」

 

それは、戦前にアメリカ軍が使用していた暗視ゴーグルである。形は第二次大戦後試作されたタイプや現在使われている物とは違い、まるで甲殻機動隊に出てくるような感じである。目にメガネケースと取り付けるような形で、横に一本視界が出来ている。装着したときの視界は赤く、まるで特機隊のケルベロスアーマーの視界に近い。

 

「そう言えば、ケルベロスアーマーあったよな。」

 

ドイツV.S.日英同盟でドイツが原爆を使用した戦後日本。ドイツ資本で高度経済成長期に入った日本には共産主義に染まった過激派がテロ事件を頻発させた。そんな中で首都圏を中心に活動する特殊機動隊。通称、特機はドイツ軍の使用する装甲強化服であるケルベロスアーマーを身に付けてテロリストを一網打尽にする。パワーアーマーだからとケルベロスアーマーを作って、MG42も合わせて作ったんだっけ?それは確か、家の倉庫で保管されているはずである。

 

「まあ、それは置いておいて戦前の暗視ゴーグルはカッコいいね」

 

実はNVで登場する暗闇でも周囲が見える薬品“キャッツアイ”は東海岸では余り流通することがなかった。軍にも多少実験が行われたが、薬による効果も途切れ途切れになることが多く、核分裂バッテリーを使った物の方が長続きするため、軍ではキャッツアイは余り使われる事が無かった。

 

 

ゴーグルつきのコンバットヘルメットを被り、アサルトライフルを持ってガソリンスタンドの建物から出ていった。

 

「司令官殿、異常はありません!」

 

熱核ジェットを切り、地面に噴射口を下ろしている時でさえも軍曹の索敵能力は変わらない。三つの赤外線暗視カメラで数km先まで見渡せた。

 

暗視ゴーグルの実地テストも兼ねて、電源を着けて周囲を見渡した。星空の光源が増幅され、視界が開けていく。

 

「視界は良好だな。軍曹、接近する未確認生物はないな」

 

「問題ありません!・・・・接近中、北北西、距離800!コンバットアーマーに中国軍アサルトライフルを確認!規模からして一個分隊!」

 

「何!」

 

俺は暗視ゴーグルと併用してバックパックに入っていた双眼鏡を取り出すと、北北西にある旧国道の道を見る。そこにはアメリカ軍が採用していたコンバットアーマーに黒の塗装。社名のイニシャルである“T”をあしらい、手には中国軍アサルトライフルやレーザーライフルがある。

 

「タロンだ・・・!軍曹、M82を取ってくれ。」

 

「了解、どうぞ!」

 

アームが軍曹のバックからこの世界にある筈のない銃を取り出した。50口径の大口径で無骨なデザインのM82A1。ハーグ陸戦条約で人に対する使用を禁止された狙撃銃である。そのため、対物ライフルとして西側武器の代表的な物となりつつある。だが、実際人に使われることは多々あるが。

 

二脚を開き、pip-boyから50口径の弾が入った弾倉を入れてレバーを引く。機構に銃弾が装填されるのを確認すると、スコープを覗き込む。0.8kmも開いた距離に驚きながらスコープのクロスをタロンの身体に狙いをつける。銃と弾丸に載っていた距離と風、そして自転と湿度を計算する。文系なんで・・・・、などと言い訳をするわけにはいかない。

 

「やっぱ、ヒットマンだよな。クソッタレ!」

 

メガトンを爆破しなかったため、テンペニーが雇った暗殺部隊。本来なら3人編成なのだが、テンペニーお膝元と言うことか一個分隊。およそ10人前後である。その先頭にいるコンバットアーマーに色々と線が引かれている男にクロスを合わせた。

 

「すー、はー、すー・・・」

 

息を浅く吐いて、浅く吸う。そして・・・引き金を引いた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「おい、タバコを吸うんじゃねーぞ。光でバレちまうからな」

 

今回の分隊長であるジャクソンは中華アサルトライフルを肩に掛けて先頭を歩く。

 

他にも仲間の奴等はアサルトライフルにコンバットショットガン、スナイパーライフルなど、銃の見本市でもやっているかのようだ。

 

俺はレーザーライフルを持っているが、如何せん調子が悪い。昨日、ターゲットの男を殺したときに連れの女が掴みかかり、その時壊したんだろう。仲間と俺はその女でヤったが、男を殺した金はウィスキーに費やしたためない。

 

プリズムカットレンズにヒビでも入っているのかもしれん。あとで修理しねぇと。

 

分隊はバニスター基地から離れて、各集落を転々とした。時には恐喝し、時には根絶やしにする。メガトン周辺に行った後、金で雇った情報屋からターゲットがロブコ本社に行くと伝えられ、俺達はここにやって来た。

 

レーザーライフルを肩に掛けて、腰の10mmピストルを手に取る。夜は暗殺には絶好の狩場と化すのだが、自信の命も狩られかねない。これで相手が暗視ゴーグルを持っていれば厄介なことになる。

 

「いいか、この先にあるガソリンスタンドにターゲットがいる。目撃者によるとMr.ガッツィーとプロテクトロン、そして男一人に女一人だ。依頼主は男に最大限の死を与えろと言っている。女の方は好きに使えとな!」

 

ジャクソンが言うと、下品な笑い声が響く。

 

タロンの傭兵は残忍で卑怯と言うのは相場が決まっている。ヤクをやらないだけでレイダーと同じだと言う輩もいる。だが、舐めて貰っちゃ困る。レイダー以上に訓練も積み、そこらの傭兵とは格が違う。

 

今回の任務も軽くこなせるだろう。

 

「さて、そろそろコイツの出番なようだな」

 

隣にいたカルロフはミサイルランチャーを構えてニヤニヤと笑いを浮かべる。

 

「おいおい、そんなの撃っちまったら女が焼け焦げちまうよ!」

 

周りから罵声が掛かる。しぶしぶカルロフはミサイルランチャーを置いてホルスターから中国軍ピストルを抜く。以前、カルロフはBOSアウトキャストに攻撃を仕掛けて、パラディンの男からミサイルランチャーを奪った。その時から、ミサイルさえあればレイダーの一団やターゲットのキャラバンに撃ち込んで依頼を完了させてきた。だが、略奪するときの物が少なかったりする。出来ることなら、スーパーミュータントの一戦の時に使って欲しいものだ。

 

「今は一時過ぎだ。一気に畳み掛け・・・」

 

ジャクソンは戦前の士官の真似事でもするように命令を下す。タロンは命令系統がはっきりしないがこれだけは覚えていた。依頼書を持つ者がリーダーで、そいつの後に続けと。

 

だが、ジャクソンは命令を言おうとした瞬間ぱっくりと頭が割れた。

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった。ジャクソンの頭蓋骨の破片が周囲に散らばり、足元にピンク色の脳漿が転がった。そして、少しした後に銃声が聞こえた。

 

「スナイパー!伏せろ!」

 

俺はジョンソンの破片が散らばっているにも関わらず、そこに伏せる。血の匂いで気持ち悪くなったが、贅沢は言っていられない。伏せるのが遅かったのか、もう一人の仲間が胸を撃たれて倒れた。

 

「ジミーがやられた!fuck! 野郎、徹甲弾を持ってやがる!」

 

俺はジミーの胸を見ると、黒のコンバットアーマーの胸のプレートに穴が空いていた。戦前のコンバットアーマーは胸や肩をプロテクトする標準個人防護装備の一つだ。確か、資源がなく、兵士の生存性を高めつつも、極力プレートの数を押さえた物だ。経費削減に減らされた兵士は度々政府を罵倒するが、プレートには7.62mmライフル弾を200m先から撃っても貫通しないものが取り付けられていた。何人もの兵士を救ったはずだろう。だが、貫通に特化していた徹甲弾はプレートをものともせずにジミーの胸部を撃ち抜いた。

 

俺は血溜まりに這いつくばり、双眼鏡を覗く。

 

ガソリンスタンドは目と鼻の先、そこには暗がりに伏せる人影と待機状態にあるMr.ガッツィーを確認できた。

 

「ガソリンスタンドにいるぞ、イアンとデイビスは制圧射撃だ。カルロフ!援護するからミサイルを撃ち込め!」

 

「おいおい、そんなことして・・・」

 

「略奪物資と命、どっちが大切なんだ!バカ野郎!」

 

俺は叫んでジミーの持っていたスナイパーライフルを構える。奴はタロンの傭兵には珍しい几帳面な奴だった。スナイパーライフルはしっかりと油が指されている。銃を構えて俺は叫んだ。

 

「制圧射撃!撃ち込め!」

 

アサルトライフルやレーザーがガソリンスタンドに着弾する。だが、それは敵を牽制する制圧射撃に過ぎない。敵は怯み、狙いを外す筈だと思った。

 

「カルロフ!今だ!」

 

廃車の影に身を隠していたカルロフはミサイルを装填したランチャーを構えて引き金を引こうとした。

 

その時俺はスコープを覗いていた。ガソリンスタンドの近くで発射炎がちらついたのを見た。風を斬るような音と共に誰かの呻き声が響き渡る。

 

それはミサイルランチャーを構えていたカルロフだった。喉を引き裂かれたカルロフは口から血潮を吹くと後ろに倒れた。だが、それで終わらない。奴はそのまま発射ボタンを勢いよく押していた。

 

ミサイルは廃車のエンジンに命中した。D.C近郊にある核搭載車輛の殆んどは機能しない原子炉がある。だが、稀に200年間稼働し続けている車両もたまにある。稼働中で冷却している燃料棒がいきなりミサイルの爆発で破損したら?冷却機能が停止して、核分裂反応を引き起こしたら?

 

俺達の近くにあった廃車は眩い閃光と共に爆発。迫る金属の破片が飛んでくるのを最後に意識を途絶えた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「走れ!走れ!」

 

暗視ゴーグルをpip-boyに乱暴に入れて持っていたアサルトライフルを引っ付かんで走る。ボディーアーマーが重く感じ必死に走る。俺の前にはvaultスーツをきたシャルとプロテクトロン。後ろに核ジェットを噴かす軍曹で走る。

 

途中俺と軍曹は止まり、後ろに銃を構えて敵の姿を見つけたら銃を撃った。息切れとアサルトライフルの精度故に敵を撃ち殺すことができず、牽制するだけにとどまっている。

 

タロンは俺達よりも経験を積んでいるし、もしも夜戦や先制攻撃を俺がしていなければ、俺達の誰かは死んでいる筈だ。途中途中で後ろから追撃してくるタロンの傭兵に5.56mm弾をばらまいていく。

 

「ユウキ、こっちこっち!」

 

シャルが指差してきたのは、戦前のメトロだった。戦争前は至るところに地下鉄や鉄道、バスなど交通機関があった。しかし、大戦によってすべては崩壊。地下鉄は200年経った現在でもその存在が確認できるがいつ崩落しても可笑しくない。それに、そこには戦前逃げ込んで、放射能によって喰人鬼であるフェラル・グールの住処となっている。

 

「畜生!」

地下鉄の入り口付近にスライディングすると、伏せ撃ちの体勢で引き金を絞る。放たれた弾丸は追撃するタロンの頭部に命中し、スイカ割りのスイカのように割れてしまった。シャルは手に持ったレーザーライフルを牽制するように引き金を引く。近くにいた軍曹やプロテクトロンもプラズマガンや自衛用レーザーを発射する。

 

「軍曹、下のシャッターを焼ききれ。プロテクトロンは軍曹に攻撃を加えようとする駅構内の敵性生物を殺れ!」

 

「了解!司令官殿!」

 

「カシコマリマシタ」

 

両者機械は返事をすると、駅に入るシャッターを開け始める。

 

 

腰のガンベルトに引っかけていた手榴弾を手に取ると、ピンを引いて敵のいるであろう場所に投げる。手榴弾はタロンの傭兵に転がるものの、急いでその場を離れて飛んでくる破片を避けてしまった。

 

敵の発射炎を頼りに引き金を引く。暗視ゴーグルをしなければ敵をよく見ることが出来ないが、視界の自由は解放された。それに敵も頼りにしているのは同じことだろう。

 

すると、球体がこちらに投げ込まれる。

 

「グレネードだ!」

 

それらしい物を拾い上げて敵に投げ返す。だが、それは不幸にもブリキ缶。暗闇で落ちたものなど判別なんて出来るわけがない。

 

投げたときには既に手遅れだった。敵もそこまで狙いをつけていなかったらしく、手榴弾は俺の少し離れた所に転がっていた。

 

一瞬の隙だった。手榴弾は爆発すると周囲に破片をばらまいた。破片はいくつも身体に突き刺さるものの、それはボディーアーマーのアーマー部分でたいした怪我ではない。だが、フェイスカバーをつけていなかったヘルメットしていたため、金属片が俺の左目の丁度下に刺さった。

 

「グハッ!・・クソ!目が!」

 

熱を帯びているように目が痛い。痛みで目を開けられず、持っていたアサルトライフルを落として両手で目を押さえた。目の近くはまるで心臓がそこにあるかのように脈動し、地面に血を垂らす。

 

「ユウキ!」

 

シャルは叫び、近くにいたタロンの傭兵にレーザーを叩き込むと俺の方に向かった。その時、俺は目が見えない。だが音で何をやっていたのか理解できた。バックパックから、白いガーゼを取り出すと、俺の目に当てて圧迫止血をする。眼球を潰さずに、優しく。すると、地下鉄の入り口のチェーンが地面に落ちた音と共に軍曹が報告を入れる。

 

「司令官、扉を開けました。」

 

「シャル、俺のバックパックから地雷を取って、起動してそこら辺に置いておいてくれ。軍曹は隠れられる場所を探せ。奴等もここには入りたくないだろうしな。」

 

「・・・ええ。」

 

シャルは俺のバックパックから地雷を取りだし、スイッチを入れて投げ捨てる。俺はシャルの肩を借りてメトロの中へ入った。

 

「生命反応を駅構内に発見。人型だと思われます」

 

「軍曹、先に行って隠れやすい場所を探せ。シャルは俺を置いて先に行け!」

 

「え、やだ!」

 

シャルは俺のことを見て叫ぶ。多分泣きそうな顔をしているんだろう。だが、盲目の人間など戦場では的にしかならない。俺はシャルの足手まといだ。

 

「おれがいても邪魔なだけだ。ここでタロンの奴等を引き付けるから・・・・」

 

「絶対置いてかない!何が何でもヤダ!」

 

シャルは俺を離さないとばかりに抱き締める。これが、家の中だったら嬉しいが、今はタロンの奴等に追われているときだった。こんなところで油を売っている場合じゃない。

 

「司令官、隠れる場所を発見しました!」

 

「・・・仕方ない。シャル、連れていってくれ」

 

「うん・・・」

 

鼻をすする音と布の擦れる音。シャルは俺の腕を肩に回させて俺をたたせる。周囲の情報は聴覚しか頼らざる終えないため、シャルと軍曹、プロテクトロンの視覚を信じて歩く。

 

扉を開けて部屋の中に入る。シャルは俺を壁際に座らせると物を引きずった。多分扉を塞いだのだろう。プロテクトロンが停止して、軍曹の核ジェットエンジンが停止した。シャルは塞ぎ終わるとすぐに俺の元に歩み寄った。

 

「ユウキ・・・」

 

今にも泣きそうな顔をしているのだろう。目の見えない俺を抱き締めて音を限りなくなくす。聞こえるのは俺とシャルの心臓の音のみだ。すると、爆発音が響き、ガチャガチャと金属の擦れる音が響く。

 

「何処だ。あの野郎ふざけやがって」

 

「ジョンソンやカルロフも殺られたんだ。一度基地に・・・」

 

「馬鹿か!?司令官が失敗した野郎に何させるか知っているか?逃げ帰るなんてもっての他だ!」

 

タロンの傭兵は仲間を罵倒すると、俺達を探すべく駅構内を探索し始めた。すると、扉を開けようとする音が聞こえ、俺は10mmピストルをホルスターから抜いた。だが、目が見えないため音を頼りに銃を向ける。

 

「こっちは塞がってて開かねぇ!改札の向こうに行くぞ!」

 

傭兵の足音は遠ざかり、シャルの腕が弛緩する。おれも持っている10mmピストルを下ろし、ホルスターに納めた。

 

「ユウキ、此方向いて」

 

声のする方向を向く。するとシャルの方からはバックパックを開く音がする。多分、持っている医療キットで俺を治療しようとしているんだろう。

 

止血するために巻いていた白いガーゼを取ると、両目が光が差し込んできた。盲目にはなっていないが、目の下からの激痛は抜けきれない。

 

「破片が刺さってる。抜くから動かないで」

 

「失明しなくてよかったけど、モルパインとかは?」

 

「あるわ。ちょっと待って」

 

その後はすぐに終わった。バックから出したモルパインを傷口近くに打ち、破片を摘出する。物は手榴弾の破片らしく、大きさは2cm位の鉄の破片が目の下に食い込んでいた。摘出し終わった後はサージカルテープで傷口を開かないように押さえ込む。そして、スティムパックを傷口に打ち込んだ。すると、傷口が塞がり始めた。スティムパックは戦前に軍や医療機関、果てや救急セットの標準装備とされていた。赤血球より小さいナノマシンが血小板等の生成や結合を補助して傷口を塞ぐ。更に、ビタミンやミネラル等の栄養素も加えられており、戦後も引き続いて使われている。戦後200年あまりに製造されたり、とある植物から血小板の生成を促進させることが発見され、代用品も数多く見られた。俺に使ったのは濃緑色のラベルの貼られたスティムパックだった。つまり、米陸軍仕様のスティムパックだ。

 

一応、傷口が開く恐れもあるためガーゼで押さえて、サージカルテープで押さえておく。見た目は顔半分がガーゼで覆われているが、外気に晒されているよりもマシである。

 

処置が終わると、シャルは医療キットを片付けた。

 

「し、シャル・・・さっきは・・」

 

「もう、私を置いていかないで」

 

シャルはこちらを振り返り、涙の溜まる眼差しを俺に向ける。もし、あの時俺があの場に止まり死んでいたら、シャルはたった一人でジェームズを探さなければならなかった。

 

「ごめん」

 

「謝らなくていい。だから、居なくならないで」

 

涙を流すシャルは俺に近付き、俺の胸に顔を埋める。両手を背中に回して、まるで心臓の鼓動を聞くように頬を擦り付ける。

 

主人公がヒロインを泣かせるとろくなことがない。この場合、主人公泣かせの俺も録なことはないな。

 

シャルの背中に右腕を回して、左腕で頭を撫でる。手にダークブラウンのサラサラとした触感と女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。ずっとこうしていたい。

 

そう思ったその時だった。メトロの奥から叫び声と銃声が反響する。その原因はひとつだ。

 

「グールだ。シャル、ここから出るぞ」

 

「うん、あれ?ドアが開かない・・・」

 

「何?!」

 

シャルの元に歩き、扉の近くを見る。それはロッカーで塞がれて開かなくなっているが、ロッカーを退かしても何かに塞がれて開けることが出来なかった。

 

「ここって駅員の詰め所か?」

 

中に入ったとき、ガーゼで見ることはなかったが、ここは駅員の詰め所であった。壁にはメトロの路線図やダイヤ。軍の徴兵ポスターやヌカ・コーラの宣伝ポスターがあった。ふと、見るともう一つ扉があり、メトロの地図を見る限りホームへと通じていた。

 

「シャル、銃の残弾をチェックしろ。軍曹は爆発物に気をつけて発砲しろ。中には元米軍兵士もいるかもしれない。だが、彼らは人間じゃない。プロテクトロンは治安維持モードに移行。レーザーの出力を最大にしろ」

 

「了解しました!司令官!」

 

「カシコマリマシタ!」

 

俺はアサルトライフルの代わりにpip-boyから新しい銃を取り出した。それはこの世界にはない銃であった。

 

「モスバーグM700!ショットガンの醍醐味だね」

 

西部開拓時代からショットガンなどの火器を作っていたモスバーグ。モスバーグ社製のショットガンはアメリカなど各国の治安機構に採用されている。よく、アメリカ映画やドラマなどで紺色の制服を着た警官がサングラスを掛けて、ショットガンを手にしているのを見掛けるだろう。大概はこれである。銃床やハンドガードは木製でいかにも頑健そうなデザインだ。それを更に緑蛍光のサイトを使用し、ダクトテープでライトを取り付けている。12ゲージのショットシェルを装填してハンドガードを手前に引いて、シェルを機構に装填した。

 

他にもシェルをアーマーの胸のシェル用のポーチに入れて保管する。幾つかはポケットに入れて準備が整った。

 

「シャル、扉を開けてくれ。先行する」

 

「うん」

 

TBレーザーライフルを片手に構え、シャルは扉を開ける。俺はライトを点灯させ、銃口を扉の向こうにある通路に向けて進んだ。かつてその通路はメトロ職員が駅のホームへと行ける短縮通路であったが、今ではごみが散らばり、ホコリが舞っていた。持っていたバンダナで口を覆い、ゴーグルを装着する。

 

ゆっくり進むと、銃声が近くで響き渡る。

 

音からして小口径のアサルトライフルの銃声が連続して響く。そして、軍用のコンバットショットガンの銃声。そして、幾つもの呻き声と悲鳴。それは真っ直ぐ此方に向かってくるように聞こえた。

 

ホームまで階段まですぐと言うところ。階段を降りようとした瞬間、階段の下にある扉が突如開き、黒い服装の男が飛び出した。

 

それはタロンの傭兵の男らしかったが、服装がおかしかった。武器は10mmピストルのみで、コンバットアーマーは血塗れでいる。男の頬にも血がべっとり付いているところを見ると、激戦を戦い抜いた事が分かった。そして、男はこちらを見て目を見開く。

 

「ちょ!ちょっと待ってくれ。お前らとは戦いたく・・・」

 

言い終わる前に後ろからうめき声が聞こえてきた。すると、扉の向こうから突然手が飛び出し男の身体を掴んだのだ。その手はとてもやせ細り、人間とは思えないような手であった。爪は長く血まみれで、皮という皮が捲れあがっていた。

 

「た、助けてくれ!」男は足をつかまれ、扉の向こうへ引きずり込まれる。俺とシャルは何とか男の腕を掴むと、扉から上半身がでる格好となった。最初、手は一つだけだったのだが、次第に手は増え始めて男は苦痛の叫び声を上げた。

 

「痛い!痛い!痛い!・・助けてくれぇ!!」

口から血を吐いて、向こうから無数のうめき声とバリバリと何かを貪る音が聞こえた。すると、ぶちっと変な音がしておれとシャルは尻餅をついた。どこからそんな音が出たのか。それは手元を見るとすぐに分かった。タロンの傭兵の腕がちぎれて、上腕部分から引き千切ってしまったのだ。

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!・・・・」

 

悲痛の声が向こうの扉から響き渡り、俺は咄嗟に扉を足で押さえた。だが、向こうにいる奴らはドアにタックルを仕掛けてきていた。

 

「軍曹、さっきの入り口まで引き返して拠点死守モードに切り替えろ。シャル、俺のバックパックからマイクロフュージョンセルとか取り出せ。いったん戻って奴らを蜂の巣にしないと」

 

ドアが激しく叩かれ、振動がもろに伝わった。まるで、前世のゾンビ映画そのままだった。シャルはバックパックからありったけのセルを取り出して、セルのパッケージをそのまま取り出した。軍曹達はメトロ職員詰め所の入り口に陣取っているから後は大丈夫だった。

 

「シャル、走れ!俺も行くから行け!」

 

シャルは振り返りつつも、さっき来た道を走る。俺は足で押さえていたのを手に変えてぱっと手を離しショットガンを構えた。

 

その時出てきたのはまるでゾンビだった。ウェイストランド人も真っ青で逃げ出す化け物。話によれば、放射能で変異した人間のなれの果てと聞いたことがある。だが、見た目は人間が着ていた衣服を巻き付けた化け物に他ならない。ピンク色になった爛れた肌に真っ赤に染まった歯茎と白く濁った目。そして食欲しかない野蛮な生物。それが二足歩行で何匹も押し寄せてきた。

 

俺は目と鼻の先にいたグールに照準を合わせて引き金を引いた。撃鉄に触れた信管によって炸薬が引火した。そして中に入っていた無数の鉄の球体が飛び出してグールの顔を直撃する。それはまるでミンチという言葉通りに頭部が拡散する。グールであろうと、相手がウェイストランドの死神と呼ばれるデスクローであろうと、頭部という急所が存在する。ハンドガードを引いて機構に新しいシェルを装填すると、立て続けにグールの頭目掛けて引き金を引いた。

 

そして後ろからはシャルの放つトライビームレーザーが飛び、グールの頭部を焼き尽くす。ショットガンに装填されていたシェルを撃ち尽くすとホルスターに収まった10mmピストルを引き抜いて、グールの頭目掛けて撃った。だが、その銃火をすり抜けて俺に噛み付こうとグールは大きな口を開けて噛みつこうとする。

 

「近づいてくんじゃねぇ!腐った生ゴミ共が!」

 

胸のコンバットナイフを引き抜くと、グールの顎目掛けて突き刺した。顎の筋肉を引き裂いて刃が脳内を貫通する。引き抜くと思いっきり通路側に蹴飛ばしてグールをまるでドミノのように倒した。

 

だが、グールの数も多くゆっくりと押し返された。

 

「司令官殿、援護します!合衆国陸軍に栄光あれぇ!」

 

「不穏分子ヲ発見シマシタ。御注意クダサイ」

 

一度、メトロ職員の詰め所に戻り、待機していた二体のロボットは思い思いの武器を使い、グールのを殲滅し始めた。軍曹のプラズマがグールに命中して液状になり、プロテクトロンの自衛レーザーがグールの頭部を吹き飛ばす。詰め所に至る通路は殺戮ゾーンとなった。

 

そして十分経つと、硝煙と肉の焦げる匂いが通路と詰め所に充満する。ショットガンの銃身は焼き付き、10mmピストルの銃身は触れば火傷するぐらいに暑くなっていた。

 

アーマーの下に着ていた下着はビッショリと濡れていて、マガジンポーチに入れていた12番シェルも底を付いていた。通路には動くものはなく、辺りに散乱するグールであった肉片が満遍なく広がっていた。あと二日か3日立てば、そこは悪臭や病原菌の温床になること間違いない。

 

「軍曹、プロテクトロン。無事か?」

 

「プラズマガンの換装が必要であります!システムオールグリーンであります」

 

「自衛用レーザーガ使用不可能デス。取リ替エ説明書二ソッテ換装シテクダサイ」

 

二体のロボの状態を確認すると、横に立っていたシャルを見た。周囲には空のマイクロフュージョンセルが転がり、10mm弾の空薬莢が放置されていた。vaultジャンプスーツは煤などで汚れているものの、俺のように格闘戦をやっていないため、そこまでひどくはない。

 

「シャル、大丈夫か?」

 

「うん、でもこの人達は?」

 

「人じゃない。化物だ。」

 

俺はそう断言すると、シャルは納得行かないように首を傾げる。

 

「戦前の医療書にはそんなこと書いてないよ。放射能に被爆するとゾンビ見たいになるなんて」

 

「だが、実際ある。原因は放射能じゃなくて細菌感染かもしれない。だけど、治療法なんてないだろう。もし、放射能でなかったらウェイストランドはグールで溢れ返っているだろうけど。」

 

例外としてグールは被爆しまくって人格を残したままの“人間”がいることだ。例えば、メガトンの酒場で働くゴブなんて代表格である。一般的に人を襲うのはフェラル・グールである。だが、彼らがどうやってグールと化すのか全くわからない。放射能でなるのか、それとも細菌なのか。

 

シャルの知識では放射能では化物になることはない。そうなれば、チェルノブイリやビキニ環礁なんて化物の巣窟になる。もし、虫や動物が巨大な怪獣になるのなら、ビキニ環礁は動物王国が出来上がる。東宝映画見たいに。もし、細菌であったとしても治療法なんて見つかることはない。下手に人に広めてもパニックを誘発するだけだろう。だから、知識人は知っていても言いはしないのだ。

 

「戦前のアメリカ市民の成れの果てとも言われているからな。本当にコイツらの生態系を調べたら何か分かるんじゃねぇの?」

 

グールだけが住むアンダーワールドでは、戦前から生きている人物も居るぐらいだ。フェラル・グールの中にもそういった奴等が居ても可笑しくない。

 

シャルはグールの肉片を踏んで通路を歩く。顔がひきつっていたのは仕方がない。ガタのきたモスバーグを軍曹に預けると、10mmサブマシンガンを取り出して構える。瞬間火力はショットガンに劣るが、それなりに連射が可能だ。片手にライト、片手にマシンガンで進んでいく。ホームへと歩いていくと無惨にも食い散らかされたタロンの死体を通り過ぎる。周囲に落ちていた使えそうな武器を見つけて軍曹のバックやpip-boyに収納する。コンバットアーマーは千切れていて使えず、無傷な防弾プレートのみ回収した。もしかしたら、防弾チョッチやアーマーで修理として活用できるだろう。

 

「シャル、この線路は塞がってるな。その3番線は使えるか?」

 

「此方なら・・・音がするわね」

 

「音?」

 

俺は落盤を免れた線路に目を向けて、足元にある線路に耳をつける。金属は水ほどではないが、音を伝える性質を持っている。すると、人の走る音が聞こえてきた。

 

「シャル、敵かもしれない。軍曹とプロテクトロンはエスカレーターから援護射撃だ。だが、命令あるまで発砲するな。いいな?!」

 

「了解です、司令官!」

 

「シャルはそこで伏せて待ってろ」

 

「うん」

 

俺はメトロ路線図の影に隠れ、足音がするのを聞き続ける。足音はどんどん大きくなっていく。

 

俺は10mmサブマシンガンの安全装置を外して覗き見る。

 

使い古したレザーアーマーに本土に上陸した中国軍が使用していた中華アサルトライフルを持ち、放射能の影響かゾンビのように肌が捲れ上がったグールだった。

 

「fuck!誰だ!こんなことしやがったのは!!」

 

銃を持って怒っている奴の近くにいれば、撃たれても仕方がない。撃たれたくなければ近づくなとオフィサーの訓練で教わっていた。だからこの場合、落ち着くまで待ってみようか。

 

だが・・・

 

カラン!

 

偶然にもシャルの足元にあった石が転がり落ちて、レールに命中して甲高い金属音を響かせた。

 

ヤばい!

 

俺は咄嗟に遮蔽物から身を乗り出すと、10mmサブマシンガンをグールへと向けた。

 

「動くな!」

 

言う前にグールは中華アサルトライフルを構えている形となり、撃つ瞬間を失った。さっきのフェラル・グールとは違い、人間っぽい動きで持っていた銃を俺に向けて、銃を突きつけ合う形となった。

 

「お前か!?フェラルを皆殺しにしやがったのは」

 

「いや、・・・・どういうことだ?」

 

一応否定はしておくが、何故この男は只の化物に固執するんだ?そう言えば、テンペニータワークエストでタワーを占拠しようとしていたな。そのためにフェラルグールをタワーに放とうとしていたんんだっけ。確かコイツはロイ・フィリップ。ゲームじゃあ善人プレイをする101のアイツをことごとく失望させた奴じゃないか。

 

「あ~!もういい!これで計画がオジャンだ。畜生め!」

 

「計画ってまさか、フェラルグールをタワーに入れる計画か?」

 

「何でそれを知っている!?」

 

いや、だってあんたの持つグールマスク欲しさに何回かあんたの計画に加担した男ですから。知らないわけがない。どのクエストよりも善人プレイが報われないことはよく知っていた。

 

「お前らタロンの連中か?!アリステアの糞野郎に雇われたんだろう!」

 

「いやいや、その逆だ。タロンの傭兵部隊が攻撃してきてね。逃げ込んだ先がこのメトロだったんだ。そこの駅員連絡通路に行けば、タロンの兵士が着ていたコンバットアーマーが落ちていると思うぞ。最も肉片になっていてどれだか分からんかもしれんけど。」

 

「何だと?」

 

「メガトンの核爆弾を解体したらこうなった。メガトンが邪魔だからって核爆弾を起爆させようとするなんて馬鹿げてるよ」

 

「お前がVault101の奴か!」

 

「・・・・結構知られてるんだね」

 

なし崩しか緊張状態は解かれた。俺はサブマシンガンを下ろし、目の前のグールも中華アサルトライフルを下ろした。

 

「俺はロイ・フィリップだ。災難だったな」

 

「ユウキ・ゴメス、そちらこそ。向こうにいるのが相棒のシャル。上にいるのが、Mr.ガッツィー型のRL-3軍曹とプロテクトロン」

 

ロイは手を伸ばし、俺は握手を交わす。メガトンのボブとは結構仲がいいし、そこまで抵抗はない。ただ、めくれ上がった皮の下から見える筋肉を見て俺は少し動揺した。

 

「グールと握手するのは初めてか?俺もスムーズスキンと握手するのは初めてだ。ガッハッハ!」

 

どうやら俺を試したんだろう。もし、握手を拒めばソイツはグールが嫌いなのだと。それにタロンにはグールと仲良くするような博愛主義者はいない。普通のウェイストランド人でも、グールを毛嫌いする傾向が強い。

 

「こいよ、俺達のねぐらに案内してやる」

 

ロイに手招きされ、シャルと俺は彼の後ろに着いていく。

 

もしかして、ゲームじゃあ出来なかったクエストの終わらせ方が出来るんじゃねぇか?

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「おらぁ、酒持ってこい!今日は友人との祝い酒だ!」

 

俺はマグカップにウィスキーを注がれ、焚き火にあるモールラットの丸焼きから切り出した肉をツマミとして食いつつ、ウィスキーを口に含む。未成年だからと言っても招かれたのだから、晩酌に付き合っても良いだろう。

 

実はロイ、アンカレッジに従軍した兵士の一人らしい。中国軍が侵攻した際も防衛に当たったらしいが、俺の顔を見て一瞬中国人と勘違いをしたらしい。

 

「ハッハッハ!こんな楽しい夕食は久しぶりだな」

 

オートバイヘルメットを被るマイケル・マスターズと呼ばれているグールは高濃度の放射性物質に汚染されたヌカ・コーラクアンタムの飲む。うっすら、喉から胃に掛けて薄青く光っているのは気のせいではない。

 

一方、シャルはロイの恋人であるベッシー・リンに髪をといで貰っている。

 

「綺麗な髪をしているわ。ちゃんと手入れをしないとダメよ」

 

「この頃忙しくて」

 

「女の子なんだからもっと美容に気を付けないと」

 

ベッシーは昔床屋をやっていたらしく、昔の道具が一式揃っている。流石に髪を切って貰おうとは思わないが、俺はロイにさっきの事を聞いてみた。

 

「ロイ、あんたフェラルで何をするのか知らんけどヤバイぞそりゃ」

 

「・・・あの建物は元々、D.Cの喧騒から離れるための場所だったんだ」

 

ロイは昔話を始めていた。話によるとテンペニータワーは戦前、ホテルとして営業していたらしい。ロイはアラスカから帰ってから部隊の仲の良いメンバーとでタワーに来た。

 

「昔は近くに色々あったんだが、跡形もねぇ。分隊の一人に“ティッキー”て呼ばれる奴が居てな。奴はバーにいたウェイターの一人を口説こうとしたな。」

 

声や背丈、そして容姿に反して老人が昔話を話しているようだった。それもその筈。彼は200年以上も生きる人だ。ゾンビのようだと毛嫌いするやつも居るかもしれないが、彼らは歴史の生き証人とも言えよう。

 

「奴には恨みがある。奴は俺達グールを目の敵にしている。グールの敵だ。それに便乗するタワーの連中もな!」

 

老人は話が長い。それはグールにも当てはまるのだろうか。ロイはタワーの入居を拒否され、グールという事を理由に差別を受けていた。その矛先がテンペニーに飛んでも仕方がない。

 

「何でここに固執する?D.Cのアンダーワールドは?あれなら大丈夫だと思うが?」

 

「アンダーワールドだと?!あんな埃臭い所によく行けるな!俺はごめんだ。歴史博物館なんかで生活していたら、ハイスクールの歴史の先生を思い出しそうで怖い」

 

その話を聞いてマイケルやベッシーは笑う。彼らもロイの意見に賛同しているのだろうか。

 

「そりゃね。私は戦後、グールになったけど、スムーズスキンが私たちに対して行っていることは最低よ。勿論、貴方達は違うけど」

 

「俺は・・・・そうだな、テンペニータワーにいる奴が全員悪いと言う訳じゃないけど。頂上にいる野郎がガロン並みの量の糞野郎だってことは分かるぜ」

 

「でも、あのタワーに冒険野郎“ダッシュウッド”がいるんでしょ!」

 

シャルはニコニコとまるで有名人の名前を言うようだったが悪い。分からないんだ。

 

「誰それ?」

 

「「「ええ!!??」」」

 

 

俺の発した疑問を聞いた三人は声を揃えて驚いた。まるで、俺が何か悪い事したと思うじゃないか。・・・・したのか?

 

 

「そりゃ、お前!冒険野郎のハーバート・ダッシュウッドだろ!?ウェイストランドで一番有名な男を知らないのか!」

 

「彼はグールのことを差別したりしないし、優しい博愛主義者なのよ」

 

「まさかな、知らないとは・・・・」

 

「何で知らないのよ!ユウキ!」

 

一人は驚き、一人は説明する。もう一人は驚いてそれしか言わず。そして親友の反応として、友の恥は自分の恥とでも言いたげな様子で怒る。いや、だって仕方ないじゃん。知らないんだもん。

 

「まあ、これを聞きゃ分かるだろう」

 

すると、近くにあったラジオの電源を付ける。すると、調節してあった周波数からキャピタル・ウェイストランドでお馴染みのあのDJだった。

 

(Threedogだぜ!驚いたかい!)

 

うん、驚いたよ。やっぱりアンタか!!

 

(じゃあ、今日のドラマを!・・・・皆聞いているかい!冒険野郎ダッシュウッドだ。今日の話は・・・)

 

ああ、本当なのか分からないような話をラジオドラマで流すアレか!確か、グールの相棒がいて中国拳法で裏切者の女の心臓を抉り取ってしまうんだっけか?

 

「ね、凄いでしょ!!」

 

と大はしゃぎで俺に訴えるシャル。皆でダッシュウッドの冒険話を聞いたシャルはまるで子供のようである。だが、何でグールに対して温和な方がテンペニータワーにいるのか。そして、そう言う人間が居るのに何で攻撃を仕掛けようとするのか。

 

 

「ロイ、これじゃあおかしくないか?関係ない人を巻き込むのか?」

 

「戦争にはいつも犠牲が付き物だろ?俺はアンカレッジに行ってきたが、中国兵は民間人に何するか知っているか?男は殺して女は凌辱される。何もしていない民間人がだ。それと同じさ」

 

どういうことだろうか。彼の切り札であるフェラルグールを失い、次は何を企んでいるのか。

 

「少し危険だが、もう一つ手はあるんだ」

 

「ロイ、その計画は危険だ。タワー全体を死体で埋め尽くすつもりか?」

 

「何!?」

 

俺はマイケルの言った言葉に驚いた。フェラルグールをタワーに解き放つ作戦も人道的ではない酷いものだったが、考えれば他にもプランがあるのは明白だった。

 

俺の声に呼応して、シャルの髪をといでいるベッシーが口を開いた。

 

「タワーには2つ地下鉄に通じる通路があるのよ。一つはタワー内部からじゃないと開かないけど、もう一つはタワーの換気システムと下水道が集まった区画に通じているわ。だけどそこには、重装備のセキュリティーとオートタレットが待ち構えている。そこを制圧して核物質を置いたらどうなると思うかしら?」

 

「タワー全域が汚染されるな・・・」

 

よく24時間でテロ事件を解決するものや高校生の天才ハッカーがテロ組織と戦うものがあるだろう。細菌兵器や生物兵器、毒ガスは換気システムの中枢に置かれれば全ての施設が汚染される。もし、タワーが放射能で汚染されれば住人は死を免れない。阿鼻叫喚の地獄絵図と成ることは確実だ。

 

「おいおい、犠牲になるのは住人だけだぞ。テンペニーはタワーがやられてもさっさとバニスター砦に逃げるだけさ。」

 

「それはどうかな。タワーに設置されたファンは3分でタワー全体を換気している。気づく間もなく死ぬのが落ちさ。」

 

「(good karma)関係ない人々を死なせるの。それじゃあ、ロイさんが見た中国兵と同じじゃない!」

 

シャルは言い、ロイは顔をしかめる。

 

「(speech65%) あんたがやっていることはその残虐行為をした中国兵と同じだし、反グールの奴等と同じじゃないか?」

 

「何だと!」

 

「奴等はフェラルも貴殿方グールの区別は付かない。じゃあ、あんたらも善人と悪人の区別は付くのか?」

 

「・・・つ、つくとも」

 

「付くのなら分かる筈だ。あんたは虐殺をしようとしている。戦争に行っているのなら、民間人を無差別に殺傷することはいけないことぐらい分かっているはずだろう」

 

「・・・・」

 

戦争では民間人が虐殺されるのなんて珍しい事ではない。有史以降人類が度重ねて行ってきた戦争の最中に起こる戦争犯罪。テロリストによる無差別爆弾テロも無抵抗な一般市民に被害を出している。この2つの共通点は無実の一般市民に被害を出している点にあった。誰しも恨みによって目先のことしか考えられない。仲間や家族を殺されたり、迫害された怨み。根元から無くすのではなく、その周囲にいるというだけで無関係なのに攻撃に巻き込んでいく。その怨みは近くにいるという理由だけで、「避けられない犠牲」「大を救うために小を犠牲にする」の言葉で片付けてしまうのだ。

 

ロイは暫く考えた後、マグカップに注がれたウィスキーを飲み強めにマグカップを置いた。

 

「・・・いいだろう。それなら、タワーにいる奴等の一部には関係のない善人がいるとしよう。だが、タワーには悪人がいる。貴様ならどうする?」

 

「・・・そうだな。悪人なんて何処にでもいる。肝心なのはいかに悪の根元を絶つかだろう。それも周りに被害を出さないやり方で」

 

俺はそう言うと、いただいた酒をちびちびと飲む。マグカップになみなみと注がれたウィスキーを喉に入れると、焼けるような感触がしてヒリヒリとしてくる。

 

俺が言いたいのは善人の犠牲を出してはいけないと言った。だが、悪人を殺すなとは一言も言っていない。

 

ロイは俺の言いたいことが分かったのか、頬の筋肉を動かして笑っているような顔をすると、俺の肩を軽く叩いた。

 

「そうか・・・、そう言えばお前さんは武器屋だったな?」

 

「・・・・後で銃を売れるようにしておきます。高いですよ」

 

「やつを殺すのなら金なんて惜しくないさ」

 

こうして武器屋の最初の顧客が出来た。

 

「そうそう、でもちょっとやらなきゃならんことあるんです。それまで待ってください。」

 

「どうした?何かあるのか?」

 

「一つ計画があるんです・・・・」

 

俺は手の内を明かすと「貴様も相当の悪だ」とロイは笑い、ウィスキーを注ぎ込んだ。だって、好きな人が命の危険に晒されたらこうするだろう?

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

その老人はベランダに置かれていた椅子に座り、戦前に製造されたワインを飲んでいた。彼の目の前には沈みゆく夕陽が見えていた。それは戦前から変わらず、太陽は戦前と同じように核融合して光輝いている。

 

「やはり、あのゴミの山は邪魔だな・・・」

 

老人はそう呟いた。老人の目に映っていたものは遥か遠くに位置する飛行機の部品を使って作った街、メガトンだった。多くの人が一生懸命営むその集落でさえ、その老人には滑稽に見えた。

 

なぜゴミの街に住むのか。それは問題ではない。彼の関心は何故これが自分のタワーから見えているのか、どうすればそれを消し去れるかである。メガトンにどんな人間が住んでいようかそれは問題ではない。しかし、消し去ることは出来なかった。

 

その老人とMr.バーグとはかなりの付き合いがある。と言っても友人とは程遠い。顧客と請負人という関係である。老人が金を持て余している時にMr.バーグが現れ、老人をキャピタル・ウェイストランドに連れてきた。そして、戦前からあるホテルを使用可能なまでに修復した。それから金持ちの道楽と言うような事をし始めた。妙なアンティークを集めたり、戦前のワインを買い占めたり、付近の傭兵を金で組織して「タロンカンパニー」を設立させるなど、今やウェイストランドを牛耳っていると言っても過言ではない。だが、メガトンでの一件でMr.バーグの行方は分からなくなった。

 

いっそのことタロンの連中を使って核を爆発させてしまおうか。

 

老人はそう考えたが、現在のウェイストランドの市場を考えると、タロンの信用を失うばかりか、顧客まで失うことに成り得る。只でさえ冷酷無比の残忍集団と名が通っているのに、これ以上のイメージ低下は避けねばならなかった。老人は考えを辞めてタワーからの眺めを見やる。

 

ガチャリ!

 

自室の扉が開き、招き入れる予定のない老人は驚く。だが、何時ものことだろうと思い、座ったままワインのグラスを傾けた。チーフ・グスタボがグールを片付けたのだろう。

 

だが、老人の勘は外れた。出てきたのは黒の重装備のSWATアーマーのような装備に身を包んだ男だった。ウェイストランドには流通していない特殊な装備で、見た感じはメタルアーマーに似せたコンバットアーマーとも見えなくもない。顔は東洋人だが、凛々しくも荒々しい感じを醸し出し、髪は短くしてある。左目の下に大きな傷痕があり、歴戦の戦士をイメージさせる。アーマーも所々傷ついているため、かなりの激戦を耐えたのだろう。

 

「招き入れる予定はないね。君は?」

 

「自分はメガトンで武器屋を営むユウキ・ゴメスです。覚えておいでですか?メガトンの爆弾解体した者です」

 

東洋人の男は深々と頭を下げる。まるで、戦前のセールスマンのように礼儀正しい。だが、身なりからすれば荒々しい感じの傭兵を思い起こさせてしまう。

 

「君が私の計画を失敗に追い込んだ男かね。まあ、君の技術は素晴らしいの一言に尽きる」

 

「お褒めの言葉ありがとうございます」

 

皮肉の言葉を東洋人は真に受けて、老人は頬をひきつらせる。自分の計画、実際はMr.バーグが考え付いたものなのだが、ウェイストランドでは長生き出来そうにない部類の人間だと老人は思う。

 

「しかし、それなりの代償はかなり受けましたが・・」

 

「ふん!・・・・」

 

老人は憤ったように鼻で笑うようにグラスのワインを飲む。老人は計画が破綻してMr.バーグが行方知れずになったあと、タロンカンパニーに抹殺依頼を依頼した。だが、報酬を貰おうとする傭兵の姿は見当たらない。そして、目の前に立っていると言うことは傭兵は殺されたと言うことだろう。

 

「抹殺依頼を取り消してもらえませんか?」

 

「残念だが断る。君が有能なのはよくわかった。だが、君の存在は私のビジネスに邪魔なのだよ」

 

老人は私情をビジネスに挟む男ではない。どんなに憎い男でも利用するのが彼と言う人物だ。一時は抹殺依頼を出したものの、すぐに撤回した。だが、問題の二人が武器屋をやるとなってから状況が変わった。武器だけを扱う武器屋や品質のよい物を売っている所はこの世界に多くない。だが、情報筋で彼らは品質のよい武器を売るとの事。さらにメガトンには傭兵が多数いる。その傭兵の装備が充実してしまえば、タロンカンパニーの需要は低下する。その為には、武器屋を排除しなければならないのだ。

 

「では、交渉は不成立ですか」

 

「うん、そうだね~・・・・。君を生かすメリットがあるかい?私にはデメリットばかり多い気がするが」

 

「なら、地下鉄でタワーの破壊工作をしているグールはどうします?彼らを片付ければよろしいので?」

 

 

「・・・・ほほう、続けたまえ」

 

老人は驚いたような顔をした。

 

「彼らを片付け、あなたのビジネスに干渉しないようにしましょう。」

 

「どのように?」

 

「(speech79%)品質が高ければ値段も高い。自分達の武器は高品質な物ばかり。果たして、メガトンの二流傭兵がそれを買えますか?」

 

「(成功)そこまで高い物だとはな。良いだろう。依頼は撤回しよう」

 

メガトンの傭兵は三流と言えないまでも、装備は貧弱である。それに比べてタロンは装備などが優れている。どれも戦前の軍事基地から略奪したものだが、武器の流通によってタロンの需要が落ちるのは避けねばならない。しかし、高品質過ぎる武器は売れようにも売れないのが現実である。

 

 

「(batter55%)契約書として書面にしてください。それと、ここのセキュリティーはタロンの精鋭兵でしょうから、司令に伝令を出してもらえませんか?」

 

「(失敗)伝令は無理だが、書面にしよう。司令には命令を撤回するよう連絡する」

 

伝令を出すのは無理だったが、戦前のコピー用紙を取り出して契約書を書いてサインを書く。それを書き、本人控えも作成して東洋人はバックから軍用の樹脂製のケースを取り出した。

 

「それは?」

 

老人はケースを指差して聞く。東洋人はテーブルの上にケースを置くと、鍵を開けて中から新品同様の拳銃を取り出した。それは、10mmピストルであったが状態が違っていた。スライドはシルバーに輝き、サイトも見やすい物に置き換えられている。傷も付いていないことから、かなりの値がつくことだろう。

 

「カスタマイズされた10mmピストルです。完全な状態の10mmピストルの三丁分の値がつきます。」

 

「・・・上物だ。君はやはり有能だよ」

 

「それは差し上げます。では、そろそろメガトンに戻らなければならないので失礼します」

 

東洋人は深々と礼をすると、ベランダから出ていく。

 

 

老人はさよならと言わずに東洋人が出るのを見届けた。

 

「今度の出資先は彼でもいいだろう」

 

老人は口を歪めて悪意に満ちた笑みを浮かべてワインを飲む。老人が金持ちの理由は稼げそうな人間を見つけて出資することが得意だった。タワーやタロンカンパニーもそれに当てはまり、最近では奴隷商の聖地であるパラダイズフォールズにも手を広げつつある。東洋人をも抱き込めば、キャピタル・ウェイストランドを手中に治めることが出来るだろう。B.O.S.は有限ある部隊をDC都市部と言う名の底無し沼に際限なく展開させている。弱体化した彼らに残されたのは崩壊と言う二文字だけだ。

 

笑みを浮かべつつ、バニスター基地と連絡できる衛星電話を手に取った。世界が荒廃していても、地球軌道上にある衛星は戦前と同じように回り続けている。軌道補正用の補助推進剤も自立型のプラットフォームとロボットによって今後も使用できる。

 

「ああ、君か?メガトンの一件だが、殺さなくていいことになった。部隊も送らなくていい。・・・・もう一人だって?ああそう言うことか。いや、殺さなくていい。言っておくが、殺すんじゃないぞ」

 

老人は通話を切ると、ケースに収まった10mmピストルを手に取った。

 

「やはり、彼は殺さないべきだな」

 

老人は銃を一通り撫でると、ケースにしまう。だが、老人はケースに二度と触れることはなかった。生暖かい血が10mmピストルに跳ねて周囲が赤い血に広まっていた。

 

遥か彼方から飛来したキャピタルウェイストランドには珍しい50口径弾が老人の頭に命中した。まるで、水風船が爆発するように大量の血が飛び散り、脳奬が辺りにばらまかれた。貫通した弾はコンクリートを直撃し、大きな弾痕を残す。

 

老人の名前はアリステア・テンペニー。悪名高き富豪の人生はあっけなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

私はジョン・ヘンリー・・・・ハハハ!Threedogだよ!驚いたかい!

 

ニュースをお届けしよう。今日の午前中、テンペニータワーを所有するアリステア・テンペニーが殺された。情報筋とタワーを警備しているチーフ・グスタボの話によると遠距離からの狙撃によって暗殺されたようだ。しかも、頭が爆発してベランダ一面に血が撒き散らされたらしい。同情するよ。誰にだって?掃除夫のことさ。

 

もう一つニュースだ。

 

明日、メガトンに新しい武器店がオープンする。そう、vault101の二人が作ったらしい。噂によると、ウェイストランドには流通しない武器を数多く取り揃えているらしい。確か、店の名前は・・・「Strange Weapon Shop」。他にも武器の修理もしてくれるようだ。これでメガトン周辺の治安は向上するだろうな。

 

さて、皆が大好きな曲を掛けよう。

 

 

 

 




最高記録更新二万字超えました。まあ、書きためていた物を放出しているだけなんですけどね。

※戦争犯罪を取り上げる部分を一部修正しました。自分の思う事と真逆な事が伝わってしまうのは辛いですねw


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