はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(前回に引き続いて纏め回兼今章の〆。リゼヴィムがただのヤバイ奴になっちゃった♪)


life.97 捕獲計画

 以前、悪魔上層部は一つの愚かしい計画を立案・実行したことがあった。

 上層部の末席を預かるファンキャット・アバドン主導の下で進められたその計画は、兵藤一誠を捕獲し、人質とすることでオーフィスを制御下に置くというものだった。

 

 その名を、″赤龍帝捕獲計画″と言う。

 

 結論から言うと、実行役の悪魔達の離反もあって捕獲計画は失敗した。首謀者のファンキャットは、両親の死を引き金に″覇龍″と化した一誠によって跡形もなく消し飛ばされ、計画は永久凍結処置を受けることとなった。

 

「しかし、結果的には失敗したとはいえ、一から百まで全てが失敗なのか? いいや、違う。兵藤一誠の両親を誘拐し、それをダシにして彼を捕獲する……計画のコンセプト自体は決して悪くない」

 

 誘拐の実行役に選んだディオドラ・アスタロトや自分の眷属達の離反さえ招いていなければ、或いは上層部が″無限の龍神″を飼い慣らしていたかもしれない。故にファンキャットの発想自体は悪いものではなかった。

 何せ、他ならぬリゼヴィム自身も計画に一枚噛んでいたのだから。

 ユーグリット経由で兵藤一誠の存在について教えられたリゼヴィムは久しく枯れ果てていた好奇心を大いに刺激された。そこでかつてのコネを駆使して上層部に秘密裏に接近し、″赤龍帝捕獲計画″の共犯者を買って出たのである。

 

 一誠とリゼヴィム、両者の浅からぬ関係はさておき、嬉々として裏方で動き回っていただけあり、彼は捕獲計画の詳細から顛末までその隅々を熟知している。

 故に、計画を自分なりに模倣するなど造作もないことである。

 

「その話をわざわざ俺達にしたということは、再び実行するのか。今度はオーフィスを標的に変えて」

「そうだ」

 

 コートの男の問いに、リゼヴィムは強く頷いた。

 

『正気ですか? 相手は世界最強の座に最も近い″無限の龍神″ですよ? とても戦力が足りない』

「その龍神様は妊娠中だ。大きく膨らんだ腹じゃまともに戦えないだろうし、腹が破れても良いのか、って脅せば片付く」

『グハハハハッ!! こいつぁ傑作だ! まさかオーフィスの野郎がこんな形で完封されるとは思わなかったぜ!! 何なら俺が水風船みたいに破裂させてやろうか!?』

「やめろ、グレンデル。赤ん坊(人質)は生かすことにこそ意味があるんだ」

 

 先の″赤龍帝捕獲計画″が失敗した理由の一つに、そもそも肝心要の人質をむざむざ死なせてしまった点が挙げられる。一誠の暴走を招いた上に脅迫材料を失ってしまったファンキャットはどうすることもできずに殺害された。人質を失った誘拐計画など無意味に等しい。

 

 ──そっかぁ、仮に死ねば全力の二人を見られるのかぁ。もういっそのことガキを率先してぶっ殺してやろうかなぁ。でも世界を破滅に導くスイッチだしなぁ……悩むぜ☆

 

 ただし、快楽主義者のリゼヴィムにとっては計画が成功しようが失敗しようがどちらでも構わないのだが。

 

 ──life.97 捕獲計画──

 

『グハハハハッ!! すこぶる面白そうじゃねぇか、その話に乗ったぜ!!』

『戦えるのなら私も喜んで参加しましょう。で、具体的なプランは? 私はどう動けば良い?』

 

 真っ先に参戦を表明したグレンデルとラードゥン。対して、その言葉を待ってましたとばかりにリゼヴィムが壁のディスプレイを指す。

 途端に映像に映されたのは、兵藤一誠を取り巻く人間関係を矢印で表した簡単な図だ。

 例えば、一誠とオーフィスの間に引かれた″↔″の上にはハートマークが、一誠とディハウザーを結ぶ矢印の上には内通者の文字が踊っている。

 

 そして図を見た際に先ず特筆すべきは、同じく矢印が引かれていた″旧魔王派″や″英雄派″、更に四神話の名前の上にも大きく″×″が刻まれている点だろう。

 

「えー、これより順を追って説明していく。″オーフィス捕獲計画(仮)″は大きく幾つかの段階に分かれる」

 

 その第一段階が、二人の距離を引き離すことだ。

 その為にわざわざ一誠から戦力となる手駒を奪い、連続襲撃事件や冥界での無差別自爆テロ事件の冤罪を被せ、組織に属する諸派閥の離反・離脱を誘発させ、たった一人で孤独に戦うように仕向けたのだから。

 

 無論、″赤龍帝派″と呼ばれる直属の部下──フリード・セルゼンやレイヴェル・フェニックスは組織に残るかもしれない。しかし、彼らの実力など知れている。それに現状を省みれば、二人は身重のオーフィスの世話や護衛を任せられるだろう。

 一誠は常に単独出撃を強いられ、そうなればオーフィスと共にいる時間もますます削られていく。

 即ち、彼女を狙う隙が幾らでも生じるということだ。

 

 或いは、一誠が復讐を諦めて世界の片隅でオーフィスと静かに暮らす、という逃げの一手を打たれる可能性もある。

 

「だが、お前はそれを選ばない。哀れなピエロのままパフォーマンスを続けなければならない。パフォーマンスは続けることにこそ意味があるのだから」

 

 リゼヴィムは、強く断言した。

 

「何故だ? 兵藤一誠も自分の現状は理解しているだろう? いっそ復讐を捨てて家庭を持った方が幸せなのではないか?」

「家庭を持った後はどうする? どうやって金を稼ぐ? どうやって家族を食わしていく? 逃げたところで世界はいつまでも追い続けるぞ? 家族揃って逃亡生活を続けるのか? 暴力しか能のないテロリストが、どうやって妻子を幸せにできる?」

『色々と稼ぐ方法はあるだろ? あの実力だし、傭兵として充分に食っていけるぜ』

「転職先候補の各神話勢力とは敵対していますけどね」

 

 ユーグリットの言葉に、邪龍達は思わず押し黙った。

 そう、″オーフィス捕獲計画″の第一段階が成功し、一誠が世界との孤立を深めた時点で──突き詰めれば、世界に向けて復讐を宣言してしまったことにより、もう彼は妻子と共に暮らしていくことは不可能になったのだ。国際テロリスト組織″禍の団″の現首魁を名乗る男の実子など、常に世界中から身柄を狙われるに決まっているのだから。

 

 勿論、両親の実力を考慮すれば子供の安全は保証されたも同然だ。

 しかし、物事に絶対はない。追手の襲撃時に常に二人が揃っている保証がない。

 仮に一誠の留守中を狙って各神話勢力の連合軍が物量戦を挑めば、流石のオーフィスも我が子を守りながらの戦闘は苦しい筈だ。絶対に隙が生じてくる。

 

 それを防ぐには、そもそも追われる()()を消すしか方法がない。

 

 悪魔への復讐を果たし、愛する家族を狙う悪意(リゼヴィム)を滅ぼし、そして最後に″禍の団″首魁として世界からの憎悪を一身に受けた上で、

 

「兵藤一誠は死ぬつもりだ」

 

 そう言い切るリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの横顔は、歓喜に歪んでいる。

 

 自分こそが彼を殺したい。

 

 この退屈な世界に彩りを与えてくれた恩返しにその最期を看取ってやろう、と言いたげに。

 

 ″オーフィス捕獲計画″の次なる段階に想いを馳せながら、リゼヴィムは恍惚の笑みを浮かべた。

 




一誠↔リゼヴィム

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