はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(ヴァーリ編、そして)


life.93 ヴァーリ・ルシファー①

『……グレンデルめ、随分と派手に遊んでるな』

「よそ見をするとは余裕だな!!」

 

 激戦を繰り広げる魔王達と邪龍を横目で眺めつつ、飛んできた弾幕を軽々と防ぐヴァーリ。彼方と同様に、この戦場にもまた明確な力量差が間に横たわっている。

 何せ、代名詞たる″白い龍の鎧″を彼は纏っていない。純粋な上級悪魔としての力だけでロイガン率いる部隊を手玉に取っているのだ。

 交戦の中で既に部隊は壊滅、ロイガン自身も重傷こそ回避しているものの目に見えて傷が多く、息も荒い。明らかに疲弊が積み重なっている証拠だ。

 

「チッ」

 

 忌々しげに舌打ちするロイガン。彼女の視線の先では、無傷のヴァーリが余裕そうな笑みを浮かべている。

 予想外の展開だ。

 冥界を襲撃してきた彼らの実力を比較して、″白龍皇″を有しているとはいえ、彼がグレンデルよりも格段に劣るのは確実である。故に手早く片付けた後に苦戦は免れないであろうディハウザー達の応援に向かう算段だった。

 尚且つ、″白龍皇″が苦手とするだろう対多数の戦闘を強いる為に政府軍の部隊までも動員したのだ。優劣は明らかな筈だった。

 

 それが蓋を開けてみれば、魔力の束をぶつけられたことで部隊は早々に壊滅し、やむ無く一騎討ちを選んだロイガンも苦戦を強いられている。

 自分の予測が甘かったことに、彼女は内心で幾つも苦虫を噛み潰す。

 

『この程度か、″女帝″ロイガン・ベルフェゴール。案外にも期待外れだったな』

「調子に乗るなよ!」

 

 両手に魔力を纏わせての突撃、つまり早期決着を試みるロイガン。その胸には、自分の失態で部隊が壊滅してしまったことへの責任感と、テロリスト相手に負ける訳にはいかないというプライドがあった。

 或いは、無自覚にヴァーリを見下していたのかもしれない。偶然にも″白い龍″を宿しただけの少年に、″レーティング・ゲーム″トップランカーにして最上級悪魔たる自分が負ける筈がないのだ、と。

 

『……ムカつくんだよ、その眼』

 

 対して、目と鼻の先にロイガンが迫っているにも関わらず、ヴァーリは眉一つ動かさない。静かに苛立ちを溢し、黙って背から黒い翼を拡げる。

 

 十二の翼は最上級悪魔の証拠。

 両手に携えた黄金に煌めく魔力と翼から放たれる白銀の波動は、神学において堕天使の側面も有する″光をもたらす者(ルシファー)″だけに許された唯一無二の力。

 

 即ち、ルシファーとしての力を開放したヴァーリが、神のようにただ悠然と佇んでいた。

 

「……綺麗」

 

 降臨した彼の姿を一目見た瞬間に、ロイガンは動きと思考の全てを急停止させる。否、彼女だけではない。遠巻きに隙を伺っていた部隊の生き残り達も、ヴァーリの放つ輝きを見るや否や、即座に臨戦態勢を打ち切ったのだ。

 

 これこそがルシファーの名を冠する悪魔──その中でも特に才覚に溢れし者だけが発現する固有能力、″悪魔支配″である。

 ルシファーの姿を視界に入れた、或いはルシファーが視界に入れた悪魔は途端にあらゆる敵対行動を放棄し、あらゆる命令を嬉々として、それが例え自害であったとしても実行する駒に成り下がってしまう。

 ただし、悪魔以外の相手には効果を発揮しないし、元の種族が悪魔以外の転生悪魔や混血悪魔にも効果が薄い。

 総じて、純血悪魔との戦いに特化した凶悪な異能力である。

 

 そして、ロイガンは名門ベルフェゴール家に名を連ねる純血の最上級悪魔だ。

 

『──頭が高いぞ。俺を誰と心得ている?』

 

 故に、ヴァーリの支配からはどう足掻いても逃れられない。

 

 ──life.93 ヴァーリ・ルシファー①──

 

 跪くロイガンや政府軍の連中を尻目に、どうしたものか、とヴァーリは今後について思案する。自分を送り込んだリゼヴィムからは特に指示を得ていない。グレンデルを連れて適当に暴れてこい、と言われただけだ。

 

 果たして彼の本当の狙いは何だろうか?

 

 お膝元であるルーマニアを焼かせ、″神の子を見張る者″本部を強襲させ、冥界の奇襲を命じたところで、一見するとリゼヴィムに利があるとは思えない。一誠に挑むと豪語するのなら、グレンデルを筆頭に聖杯で甦らせた戦力をそのまま送れば済む話である。

 だが、今のところヴァーリに与えられた命令は各勢力への襲撃と、旧魔王派の残党をはじめとした手駒の確保のみに留まっている。

 

『いや、彼のことだ。どうせ暇潰しや遊びに過ぎないんだろうな』

 

 あれこれと考えてみたものの、やがてヴァーリは思考を諦めた。精神年齢が幼稚園児のリゼヴィムの考えを見抜こうとしたところで無駄骨だろうし、そもそも今のヴァーリは聖杯を介して彼に支配されている兵隊に過ぎない。

 このルシファーとしての能力──彼自身は″魔王化″と称している──とて、″幽世の聖杯″による強化の影響で覚醒したもので、結局は付け焼き刃だ。未だ能力に慣れておらず、行使可能な時間にも限界がある。

 

『挙げ句に、リリスはそのルーツを辿れば人間の女性……つまり()には効果が薄い。ああ、憂鬱だ』

「如何なさいましたか? ヴァーリ様」

『気にしないでくれ、ロイガン』

 

 そう言って、ヴァーリは側近のように振る舞うロイガンを見た。つい先程まで戦っていたというのに、今のロイガンは犬のように従順だ。

 新たな部下として持ち帰ろうか、と彼は思った。

 敵の扱いについては特に言われていないし、彼女の実力は折り紙付きだ。政府軍の部隊も練度こそ低いが手駒には丁度良いだろう。というよりも寧ろ、ロイガンの場合は置き去りにしようものなら恨まれかねない雰囲気である。

 尤も、本人が内に抱える性癖も多いに含まれているかもしれないが。

 

 彼女の扱いは兎も角として、グレンデルが満足した頃合いを見計らってヴァーリは撤退の合図を送るつもりでいた。

 

「よお、この俺を差し置いて勝手に祭りを始めてんじゃねぇよ」

 

 だが、″赤い龍″が戦場に降り立ったことにより、事態は混迷を極めることとなる。

 

「──俺も混ぜろよ、()()()()()

 


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