はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(先ずはVS邪龍編)


life.91 グレンデル③

 首都リリスの上空に、五人の影が佇んでいた。

 

「″大罪の暴龍″グレンデル、それに白龍皇ヴァーリ……何を求めてここに来た、と訊ねるのは愚問なんだろうね」

 

 二人の侵入者を睨みながら、ファルビウムは迎撃体勢を整える。しかし、長く前線を離れていたことによるブランクがあまりにも重たく、彼らに容易く殺害されてしまうだろう未来は容易に想像できた。

 共に出撃した政府軍を考慮に入れても結末は変わらない。先の連合戦争で経験豊富な将兵の多くを喪った軍は、その実態は軍とは名ばかりの烏合の衆に成り果てた。下手をすればファルビウムよりも先に全滅してしまうだろう。

 

「貴様らの目的は知らんが、私の前で好き勝手などさせんぞ」

「私達を嘗めないことだ」

 

 では、報を聞いて駆け付けてきた″皇帝″ディハウザーと、彼に並ぶ″女帝″として知られるロイガンはどうか?

 確かに戦力としては申し分ないが、少なくとも前者は兵藤一誠の内通者であり、腹の中で何を考えているのか分かったものではない。それこそ最悪の場合は背後から撃たれる可能性もある。

 それに、ロイガンとて完全な白とは限らない。ディハウザー同様に内通しているかもしれない。

 

「……これは、詰んだかな」

 

 前門に邪龍、後門に次期魔王を抱え、顔をしかめるファルビウム。そんな彼に、グレンデルが笑いながら言う。

 

『グハハハハッ!! どうしたどうしたぁ、悪魔の王様ともあろう奴が辛気臭い顔すんなよ!! お前らは戦いが大好きな種族だって聞いてるぜぇ!? だから昔も今も戦争ばっかりしてきたんだろ!』

「やれやれ、耳が痛いな」

『ま、細けぇことは気にすんなよ! これからお前らの大好きな祭りが始まるんだぜ? だからさぁ……』

 

 そこで、グレンデルは敢えて言葉を区切る。

 

『──本気で来いよ?』

 

 ドラゴンの笑みを狼煙に、蹂躙劇の幕が開けた。

 

 ──life.91 グレンデル③──

 

『グハハハハッ!! ″皇帝″の称号はお飾り、ってかぁ? そんな生温い魔力弾なんざ痛くも痒くもねぇなぁ! もっと全力で挑まなきゃ死んじまうぜぇ? 無敗のディハウザーなんたらさんよぉ!!』

 

 グレンデルの高笑いに呼応して、魔力弾の一斉掃射がディハウザーに襲い掛かった。以前に一誠が放った隕石に比べると流石に小粒だが、それでも其々の質量と速度は異常の一言に尽きる。彼の周囲から消えたと思えば、次の瞬間には視界全てを覆っているのだ。

 しかし、ディハウザーは魔力弾を上回る速度で空中を自在に飛翔し、雨霰と飛来するそれらを全て紙一重で回避していく。防御ではなく回避に専念したのは少しでもダメージを抑える為だ。

 

「無敗の″皇帝″を甘く見るなよ……ッ! 貴様のような戦闘狂には負けん!!」

『お前だって同類じゃねぇか! ″戦闘ごっこ(レーティング・ゲーム)″で成り上がった分際で一丁前にほざいてんじゃねぇ!!』

「どうでもいいけど、僕もいるってことを忘れられては困るね」

 

 ディハウザーに意識が向いたほんの一瞬の隙を突き、お返しとばかりに今度はファルビウムが魔力の弾幕を発射した。

 ブランクが長いとはいえ、仮にも戦争を生き残り続けた猛者である。流石に全盛期から実力を落としているものの、その威力と精度は未だ健在だった。

 だが、相手があまりにも悪すぎた。

 なんと視覚外からの一撃だったにも関わらず、グレンデルは咄嗟に反応したのである。それどころか顔に掠めそうになった弾の一つを片手で受け止め、そして悠々と握り潰して見せたのだ。

 

 グレンデルは何ら特殊な能力を持たない代わりに、身体能力と耐久力は邪龍の中でも群を抜いており、単純な近接戦闘だけなら邪龍の筆頭格たるクロウ・クルワッハにも匹敵するという。

 そして、これはファルビウム達は知る由もないことだが、彼は蘇生時に″幽世の聖杯″によって全能力が大幅に強化されている。現に魔王の全力の魔力弾を手で受け止めたというのに、痛がる様子を欠片も見せない。

 

 これが何を意味するのか。

 

『不意打ちたぁ、嘗めた真似してくれんじゃねぇかよ』

「お褒めに預かりありがとうと言っておくよ。何せ僕らは戦争ばかりしてきた悪魔なものでね」

『……言うじゃねぇか。ようやっと本気で挑むつもりになった、ってことだよな? じゃあオレ様もちぃとばかり本気を出すとするかなぁッ!!』

 

 グレンデルは、未だ実力の底を見せてはいない。

 

 瞬間、彼を中心に莫大な深緑色のオーラが放射され、その余波が凄まじい速さで首都上空を呑み込んでいく。

 

「不味い……っ!!」

「クソッ!!」

 

 撒き散らされる悪意の波動に、思わず二人の表情が歪んだ。とはいえ、それは暴力的なまでの波に屈した訳ではない。防御の魔力を持って産まれたファルビウムや、″皇帝″の名の下に無敗記録を積み上げてきたディハウザーにとって、この程度の挨拶はどうにでもなる。

 ただし、避難の完了していない民衆達は別だ。

 襲撃を感知した時点で避難誘導を命じてはいるが、時間的な余裕が足りなかった。特に避難に時間のかかる病院施設には、まだ避難中の悪魔達が残っている筈なのだ。

 

 と、彼らの焦燥の理由を悟ったのか、グレンデルは口角を吊り上げる。

 

『なんだよ、逃げ遅れたカス共を心配して本気が出せねぇのかよ!? グハハハハッ!! おいおい、それならそうと早く言いやがれ!! そいつらを今すぐぶっ殺して後腐れなく戦えるようにしてやっからよぉ!!』

 

 そう言って嘲笑うも、ふと二人の様子が変わったことに気付いた。

 

「……魔王ファルビウム。とある提案がございますが、お聞きになられますか?」

「どんな提案なのか、大体の予想がつくけど……裏のご主人様に確認しないで構わないのかな?」

「さて、何のことやら。しかし、仮に″皇帝″に仰ぐべき主君がいたとすれば、ディハウザー・ベリアルはお叱りを受ける覚悟で決意を貫くでしょうな」

 

 亡きクレーリアの復讐を目指すディハウザーだが、彼自身としてはその為に多くの民を巻き添えにするつもりなど無かった。正すべき悪魔上層部の腐敗と守るべき民衆は別なのだ。

 そして、仮に今回の独断行動を兵藤一誠に咎められるとしても、彼は目の前の邪龍を食い止める覚悟だった。

 尤も、一誠とグレンデル──その裏にいる黒幕、両者の関係性を考えるに咎めを受ける可能性は低いのだが。

 

「なんだ、気付いていたのかい」

「当然でしょう。赤龍帝があのような杜撰な計画を立てる筈もない。それよりも提案に対する返答を聞いておりませんな。どうなさるおつもりで?」

「……決まってるよ。冷静に考えて、そうしないと撤退に追い込めないからね。ああ、本当に面倒事ばかり襲ってくるなぁ」

 

 ディハウザーの問いに対して、ファルビウムは改めて彼の隣に並び立った。

 それが、答えである。

 

『グハハハハッ! まさか、お前らが共闘するたぁ思わなかったぜ! オーケーオーケー、二人揃ってオレ様が地獄に放り込んでやらぁ!!』

「来るぞ、ディハウザー!!」

「分かってる!」

 

 激戦は、尚も続く──。

 





「……赤龍帝、また乗り込む?」
「ああ。あれを潰されるのは不味いからな」
「……きちんと帰ってくる?」
「ああ。グレンデル程度に俺は負けない。オーフィスが俺を強くしてくれたからな」
「……我を一人にしない?」

 愛する少女の問いに、赤龍帝の少年は強く頷いた。
 
「ああ。俺はずっとオーフィスと一緒にいるよ。絶対に」

 愛する少年の表情は、無限の少女には見えなかった。

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