はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(オーフィス鬼かわええ! このまま逆らうやつら全員虜にしていこうぜ!)


life.90 悪意④

「よーし、赤龍帝へのサプライズも成功したしぃ? 次はいよいよ三大勢力を襲っちゃおうか!! その役目はグレンデル君に任せるよ!! うひゃひゃひゃひゃ♪」

『グハハハハッ!! オレ様に任せとけ! 赤龍帝と戦う前の準備運動がてら軽く更地にしてやるからよぉ!!』

「ルーマニアのように、ですか?」

 

 深い深い霧に包まれた古城の最奥に、複数の心底楽しそうな声が響く。

 リゼヴィム、グレンデル、ユーグリット。世界の裏で暗躍を重ねる通称″第三勢力″の主要メンバー達だ。その誰もが古の大戦を生き残った、もしくは伝承に名を刻んだ猛者であり、そこらの弱小勢力ならこの三人だけで滅ぼせるだろう。

 その内の一人であるユーグリットが、わざとらしく溜め息をつきながら窓の外を見下ろす。

 

 窓の外の光景は、更地である。

 かつて鬱蒼と生い茂っていただろう家々の森も、そこで細々と暮らしていただろう吸血鬼達の死体すらもなく、彼の眼下には焼け野原だけが広がっていた。

 

『あん? 別にぶっ殺しても構わねぇカス連中だったんだろ? なぁ、リゼヴィムよぉ』

 

 グレンデルの問いに、リゼヴィムはワインを煽りながら上機嫌で答える。

 

「そりゃー勿論だとも! スラム街に暮らしていたのは混血や最下級ばかりの、使い捨ての戦力にもならねぇゴミ吸血鬼ばっかりでさぁ? 強化するのも面倒だから消毒してもらったぜ~!! 吸血鬼のお偉いさんも喜んでたから無問題っしょ? うひゃひゃひゃひゃ♪」

「ふふ、酷い方だ。ゴミは指定区域に集めた方が管理しやすい、と提案したのはリゼヴィム様でしょうに」

「出荷用に幾らか残してやっただけ温情だっちゅーの。さーて、雑談はこのぐらいにして……」

 

 リゼヴィムは、宙に浮かべた映像術式を片手で器用に切り替えていく。そして操作を終えた直後、三分割された画面に三人の男の顔が映し出された。

 

 熾天使ミカエル、堕天使総督アザゼル、魔王ファルビウム。

 

「──遠慮も捕虜も必要ない。存分に暴れろ」

 

 ──life.90 悪意④──

 

「ファルビウム様、緊急通信が届いております」

 

 そう言って息を切らして駆け込んできた部下の姿を一瞥するや、ファルビウムは書類作業を即座に打ち切り、真剣な表情で訊ねる。

 

「誰からだい?」

「″神の子を見張る者″総督のアザゼル様です」

「……また厄介事でも起きたか」

 

 溜め息を吐く彼の脳裏には、兵藤一誠の顔が鮮明に浮かんだ。

 兵藤一誠と三大勢力連合軍が激突した、通称″連合戦争″から一週間あまりが経過した。冥界には戦争の傷が今も痛々しく残されており、復興作業も遅々として進まない毎日だ。特に戦場となったシトリー領の美しい自然は見る影もなく、まるで大災害が通り過ぎたかのような荒れ地と化している。

 

 仮に一誠絡みの事件なら、今度こそ三大勢力は滅ぼされる。

 戦々恐々としながらも通信術式を開いたファルビウムの耳に飛び込んできたのは、怒号と悲鳴が混じり合った叫びだった。

 

『──ファルビウム、無事だったか!?』

「アザゼル……?」

 

 やや遅れる形で聞こえる総督の声音が、堕天使勢力の状況を鮮明に語っていた。故に、まどろっこしい質問はなしに、単刀直入に訊ねる。

 

「……兵藤一誠か?」

『分からねぇ! 分かりたくもねぇ!!』

「……なに? どういうことだ?」

 

 半ば確信を得ていたが為に、ファルビウムは思わず驚愕を漏らした。

 その間も術式の向こう側から響く叫び声の数々が、″神の子を見張る者″本部に襲撃があっただろうことを伝えている。ならば、兵藤一誠が仕掛けてきたと推測するのも当然だが、意外なことにアザゼルは肯定も否定もしなかったのだ。

 

「なら、相手は誰なんだ?」

『漆黒の鱗を持った巨大なドラゴンだ。俺の記憶が正しけりゃ、あれは″大罪の暴龍″グレンデルに間違いねぇ。この間の吸血鬼共の発表にもあっただろ?』

「あの胡散臭い動画かい?」

『俺も自国の反乱分子の粛清を隠す為のフェイクニュースだと思ってた。()の復讐対象はあくまでも三大勢力だ。縁も所縁もないルーマニアなんざ襲撃する筈がねぇ、ってな。それで連中の茶番を大笑いしてたらこの有り様だ』

 

 ″神の子を見張る者″は壊滅状態だ、とアザゼルは続ける。

 

『つい先程、グレンデル達のせいで本部施設が瓦礫の山、部下達は大半がミンチにされちまった。幹部も……迎撃したアルマロスとバラキエルが、死んだ。俺とシェムハザの二人がかりでようやっと撤退まで追い込んだが、今回はあまりにも被害が大きい。組織の再建にどれだけの年月が必要なんだろうな……』

「待ってくれ。あの映像が正しかったのなら、もしや襲撃犯は」

『……ヴァーリは、もう俺の息子じゃねぇ』

 

 暫くの沈黙の後に術式から溢れた呟きは、憎悪に満ち溢れていた。

 

『──戦友(バラキエル)を殺しやがった仇だ』

「……そうか」

 

 それ以上の言葉を紡げずに、ファルビウムは押し黙った。しかし、その間も高速で思考を巡らせているのは、彼がまだ辛うじて悪魔を率いる魔王の座にあるが故だ。

 

 今回の一件は奇妙な点が多すぎる。

 

 先ず、″神の子を見張る者″襲撃をグレンデル達に指示したのが兵藤一誠だと仮定した場合、その前にわざわざルーマニア(吸血鬼勢力)までも強襲した理由が分からない。

 吸血鬼達を襲う何かしらの目的があったとしても、敢えてグレンデルを復活させた理由も不明である。戦力補充を狙ったにしろ、一誠自身も相当な実力を持つことは今更疑いようもないし、そもそもオーフィスだけで過剰戦力だ。

 そして、恨みのある悪魔ではなく堕天使を標的に選んだ理由も見えてこない。折角、手間隙かけてグレンデルを甦らせたのだ。冥界に差し向ければ半日足らずで壊滅するというのに、実際に壊滅したのは堕天使だった。

 

 ──妙だ。奴にとって、あまりにもメリットが無さすぎる。

 

 瞑目し、これまでに掴んだ点と点を線で繋いでいくファルビウム。このような場合、物事を逆から考えると真実への糸口が見付けやすいことを、彼は充分に理解していた。

 

 ──兵藤一誠は、必ず自分の目的が達成されるように策略を練ってきた。逆説的にそれは、目的と無関係な作戦は行わない、とも言える。当然だね。

 

 ──次に今回の件を整理すると……吸血鬼も堕天使も邪龍も、別に彼らに拘らずとも復讐はできる。寧ろ、今回の一件は明らかな悪手だ。

 

 ──ありとあらゆる部分が復讐に繋がらない。そして、兵藤一誠は目的と無関係な作戦は行わない。

 

 ──兵藤一誠()、無関係?

 

『──おい、ファルビウム!? 返事しろ!!』

「……アザゼル、少しばかり僕の仮説を聞いてくれないか?」

『なんだよ、驚かせんな。ずっと黙りこくってたからお前も襲われたのかと思ったぜ。で、その仮説ってのは?』

「これは僕の予想なんだけど、今回の一件の首謀者は恐らく──」

 

 その先を、ファルビウムは続けることができなかった。

 何故か?

 

『オレ様のことは知ってるよな、クソッタレの悪魔共! ルーマニアの映像は全世界に流れたもんなぁ!? だったら、オレ様がこの場に現れた理由も悪魔の運命も分かるよなぁ!! グハハハハッ!!』

『……我が名はヴァーリ・ルシファー。赤龍帝の名の下に、お前達に裁きを与えよう』

 

 冥界の空に、悪意が姿を現したからだ。

 


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