はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(吸血鬼編閉幕)


life.88 悪意③

「次の一手は如何なさいますか? リゼヴィム様」

 

 ユーグリットの問いに、リゼヴィムは手の中の聖杯を弄びながら笑う。

 

「そうだなー、ヴァーリちゃんとそのお友達はぶち殺したし、これで赤龍帝がぶちギレて乗り込んでくれりゃ楽なんだけどなー☆」

「彼は中々の策士と聞きます。彼らにとって我々の正体が不明である以上、情報収集に留めるのでは?」

「そりゃー赤龍帝はクソザコの孫と違って賢いし、早々に仕掛けては来ないっしょ」

 

 リゼヴィムの中で、兵藤一誠の評価はすこぶる高く、決して侮ってはならない強敵と認識していた。単純な戦闘能力だけではない、知力と武力と統率力を兼ね備えた、″王″の道を進む男である、と。

 ″女王″グレイフィアを圧倒する実力は勿論のこと、三大勢力連合との戦争の裏でディハウザー達の政界進出を推し進める知謀、そして代表を失い瓦解寸前だった旧魔王派を戦力として吸収する統率力。

 ドライグや仲間の助言もあるだろうが、それを差し引いても三大勢力を翻弄して見せた手腕は、素晴らしいの一言に尽きる。

 

 だからこそ、リゼヴィム達も入念な準備を整えた上で彼に挑もうとしているのだ。

 

「ま、今回はヴァーリちゃん達の死体を手に入れたってんで満足するさ! うひゃひゃひゃひゃ♪」

 

 挑発文を送り付ける為に敢えて見逃したルフェイを除き、捕縛したその他のメンバーは全員始末した。言うまでもなく彼らは″禍の団″の構成員であり、兵藤一誠とも協力関係を結んでいる。

 

「そして俺らの手中には死者蘇生を可能とする″幽世の聖杯″があるってばよ。つまりヴァーリちゃん達がこれから何をやっても、どの勢力に喧嘩を売っても、世間は兵藤一誠の命令だと見なす……冤罪押し付けるの気持ち良すぎだろぉ!! あ、ユーグリット君やグレンデル君が猫姉妹をサンドバッグにして遊びたいって言うなら喜んで貸し出すけど?」

「必要ありませんね。私は姉さんが手に入れば満足なので」

『オレ様もいらねぇよ!! ちゅーかよぉ、何時になったら今代の赤龍帝と戦えるんだよ? 赤龍帝と戦争できるって言うからオレ様はお前と手を組んでるんだ!! その契約を忘れるなよ!?』

 

 リゼヴィムのおふざけを一蹴すると、今度はグレンデルが彼に詰め寄った。

 ″幽世の聖杯″によって現世に蘇生した邪龍グレンデルは、ヴァーリを叩き潰しただけでは消化不良であり、このままでは他神話に乗り込まんとする程に苛立ちを募らせていた。しかし、独断行動をされてはリゼヴィム側としても大いに困る。

 かくして思案の末に、リゼヴィムは蘇生させた本来の目的である兵藤一誠の存在について話し、そして興味を持った彼は一誠との戦闘を条件に協力を約束したのだった。

 

 そのような経緯で協力関係を結んだが故に、リゼヴィムもまた胸中に不安を抱えていた。

 一誠を倒すまでひたすらこの邪龍の機嫌を取らなければならない点もだが、最大の要因は目的を達成した後である。

 

 そのまま現世で好き勝手に暴れ回るならまだしも、最悪の場合は牙を剥く可能性も否定できない。そして、″神器無効化″以外に突出した能力を持たないリゼヴィムでは、グレンデルを到底抑えられないのだ。

 

 とはいえ、彼にとっては一抹の不安ではあるものの、さして脅威には感じなかった。

 寧ろ、その日を楽しみにすら思っている点に、リゼヴィムという男の狂気が垣間見えていた。

 

「まあまあ、落ち着いてよ。赤龍帝との戦争はド派手にいかなきゃつまらないだろ? 二人の戦いには最高の舞台と演出を用意しよう!! それまではラードゥン達と遊んでてよ!!」

『……赤トカゲは楽しめるんだよな? お前のクソ孫みてぇに期待外れだったら契約違反でお前からぶち殺すぞ』

「単騎で三大勢力連合の軍勢を壊滅させたって言えば納得するかね?」

『ほー、少しはやるじゃねぇか!! 仕方ねぇ、今は大人しく我慢してやらぁ!』

「うひゃひゃひゃひゃ♪ 話が早くて助かるぜ!」

 

 彼の怒りのオーラが霧散したことを確認してから、リゼヴィムは続ける。

 

「その代わりに余興がてら、幾つかのバイトも回すからさ! 準備運動も兼ねて楽しんできてよ!!」

 

 ──life.88 悪意③──

 

 襲撃部隊を連れて上機嫌で部屋を出ていくグレンデル。そんな彼の背を眺めつつ、ユーグリットは胸を撫で下ろす。

 

「どうやら上手く懐柔できましたね」

「あっぶねー、今から怪獣大決戦するところだったぜ! まあ、それならそれで楽しそうだけどな! うひゃひゃひゃひゃ♪」

「駄目だコイツ……ところで、グレンデルだけでも過剰戦力なのに()()までも預けるとは。やはり連中には三大勢力を襲わせるつもりですか?」

「んー? いや、なーんも指示してねぇ。ルーマニアの後は適当に暴れて来いってだけ☆」

 

 魔獣とヴァレリーのイチャコラをポップコーン片手に眺めながら、リゼヴィムは淡々と答えた。

 

「さっきも言ったけど、大事なのは別に襲う相手じゃねーんだわ。()()襲うか、ってのがミソなだけで、それさえクリアすれば相手が吸血鬼だろうが北欧だろうが地獄の盟主共だろーが興味ねーよ。そんなことより、監視術式の準備は万端か?」

「ええ、ご命令通りに」

「オーケー! エルメンヒルデに連絡して、吸血鬼勢力として国際的に緊急メッセージを発表するように指示しろ!!」

 

 悪意は、続く。

 

「──″禍の団″の襲撃を受けた、ってさぁ!! うひゃひゃひゃひゃ♪」

 


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